連載小説
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TAKE17.1 激闘! カードで大バトル!
『さぁさぁさぁ! 盛り上がって参りましたAブロック第一試合最終局面、「スケイル・ウォリアーズ」対「青藍爪牙隊」の大将戦っ! お互い二勝二敗の膠着状態、一体どんな展開を見せてくれるのか〜っっ!?』

 カードショップ『デュエルラボ』店内のイベント用デュエルスペース『ココナッツツリー・コロセウム』。
 宛ら格闘技かeスポーツの競技場が如き様相を呈するその場所では今まさに、優勝賞金最大3000万円のカードゲーム大会、その第一回戦が行われている最中であった。

 ココナッツツリー・コロセウムには、ボクシングのリングに於ける赤・青コーナーに相当する二つの盤面(ボード)が設けられている。それぞれ"Leaf"及び"Root"と名付けられており、大会に出場するプレイヤーはチーム全体の評価に応じて双方のどちらかに配置され対局を行う。

 "Leaf"は実況席から見て左側の盤面であり、全体を通して"葉"を思わせる装飾がなされている。葉が樹木の上に位置するだけに、総じて運営側から高く評価されたプレイヤーが配置され、試合中に於いても高評価を獲やすく、今大会に於いては優勝賞金の額も上げやすい。
 ただ高く評価されているだけに運営側からの対応も厳しく、対局中にラフプレーやルールミスを一定回数繰り返すと失格になる、更には故意の反則行為に関してはただ一度の未遂でも失格になる等、ルールやマナーを遵守した慎重かつ丁寧なプレイングが求められる。

 対する"Root"は実況席から見て右側の盤面であり、こちらは"根"を思わせる装飾がなされている。根は葉の対、樹木の下に位置するだけにLeaf側より評価の低いプレイヤーが配置され、試合中の評価や優勝賞金の額もLeaf側より低くなりがちである。
 ただ評価が低い分ハンデとして運営はRoot側のプレイヤーに対し寛容で失格にされにくく、逆転制度を利用しての勝利が狙いやすい利点がある。ただそもそも弱いプレイヤーに対する救済措置としての側面が強い為、Rootに配置されたプレイヤーの勝率はそこまで高くない。



「フぅン……何時如何なる時もドラゴンは最強にして無敵である。例え卓上であってもそれは変わらぬっ!
 初回Aブロック最終戦。Leaf側に立つは武闘派の爬虫類系魔物五人組『スケイル・ウォリアーズ』が筆頭、ドラゴンの女子高生ジークリント・メリュジーヌ。複数の武道に習熟し数多の大会を制覇した彼女は強さと勝利に対し貪欲であり、仲間たち――リザードマンのスクアーマ、サラマンダーのハラシーフ、ワイバーンのレピ、ワームのエスカマ――共々文武両道の秀才で、過去開催された遊侠王の大会でも高い成績を残す実力派の集団であった。

「……二敗して後がねえ癖にイキんじゃねえぞ、雌トカゲ! 立ちはだかる敵は、どんなヤツであれぶっ潰すッッ!
 対するRoot側に立つは荒々しい人間の男子学生五人組『青藍爪牙隊』を率いる男子高生の岡田諌(おかだ いさむ)。基本荒っぽい上ガラも目付きも口も悪く、更には彼以外のメンバーが全員何かしら重い過去を持っているため誤解されがちだが彼の過去はさして暗くも重くもなく中二の秋口まではごく普通の一般家庭で人並みの幸福を謳歌していた。Root側とは言ってもあくまでスケイル・ウォリアーズに僅差で劣るというだけで、彼ら青藍爪牙隊もかなりの強豪チームであった。


『現在第13ターンが終了! 戦況はスケイル・ウォリアーズのメリュジーヌ選手が圧倒的に優勢!
 フィールドには攻撃力4000を超える切り札級ユニットが四体!
 対する青藍爪牙隊の岡田選手はメリュジーヌ選手の猛攻を《不敗一等兵》の破壊耐性とダメージ無効化・半減効果で耐え凌いだものの残りライフは僅かに500ッ! このままでは敗北も時間の問題だぁーっ! 
 ドラゴンはやはり卓上でも最強無敵なのかーっ!? 続く岡田選手の第14ターン! この勝負、一体どうなるーっ!?』

「……け。一々喧しい実況がよ。劣勢のヤツ煽んのが楽しいとかロクでもねぇな」
「フッ、煽られて当然の惨状だから煽られるのであろうが! やはり人間など貧弱脆弱ゥ!」
「言ってろ……」
「フゥん! 悔しかったら私を打ち倒してみるがいい、人間! ……いや、或いは」
「……なんだよ?」
「もしここで己の無力さを認め、我がモノとなるならば投了してやってもいいぞぉ? お前は私より遥かに弱い……だが鍛え甲斐はありそうだからなぁ!」
「……死んでも願い下げだ、阿婆擦れクソトカゲ」
「なにぃ?」
「わざわざ投了して下さいって頼まなきゃ勝てねえ雑魚なら勝ち残ったって意味ねえだろ。そんならいっそ負ける方がマシってもんよ。オレはオレの、青藍爪牙隊の……人間としての生き様を貫徹するっ!
「高々八十年前後しか生きられぬ下等生物風情が生意気な口を……」 
「寿命は関係ねぇだろ。……行くぜ、オレのターンッ! ドローッ!」
 諌はターン開始を宣言し、デッキよりカードを加える。
「手札の《ニュートラル・ゴースト》の第一効果発動! 自分の場のカードが相手より少ない時、このカードを手札から場に出す! 更に第二効果で墓地からユニットを任意の数除外して、それと等しい数のレベルを持つユニット一体を復活させる! オレはこの効果で《氷像白熊》《爆炎猛虎》《猛毒天蠍》《飛翔紅隼》の四体を除外し、レベル4の《孤高のガンナーウルフ》を復活させる!」
 岡田のフィールドに、それまで立っていた兵士に続いて、男とも女ともつかないフードを被った幽霊と、銃器で武装した軍人風の青い人狼が姿を現す。
「更にここで除外された四体の効果発動! まずは《氷像白熊》の効果でこのターン、てめーの場のバックゾーンにあるカードの効果を無効にし、発動を封じる!」
「なんだと!? ならばその効果に対しチェーン発動を――」
「無駄だ! オレのライフがてめーより2000以上少ない場合、てめーはこの効果に対して如何なるカードの効果も発動できねぇっ! 更に《爆炎猛虎》の効果でこのターンに限り未使用の相手バックゾーンを使用不能にできる! 対象は相手とのライフ差2000につき一か所! てめーのライフは散々回復しまくって15000! そしてオレのライフは500! ライフ差14500だから邪魔はできねえし、バックゾーンも完封だ!」
「な、何いぃぃ〜っ!?」
 宣言と同時に岡田の背後から氷で象られた熊が現れ、口から吐く氷のブレスでメリュジーヌのバックゾーン――戦闘を行う"ユニット"が存在する"フロントゾーン"の背後に設けられた、ユニット以外の"スキル"や"ギミック"といったカードの発動に用いる区画――に存在するカードが凍り付き、開いていた箇所は続けて現れた燃え盛る虎の火炎ブレスによって焼き払われてしまう。
「続けて《飛翔紅隼》と《猛毒天蠍》の効果だ! 《飛翔紅隼》は相手の手札全てを捨てさせ新たにデッキから五枚ドローさせる!」
「ほう、そうか……ならばこの三枚を捨てて五枚――」
だがドローはさせねぇ! なぜなら《猛毒天蠍》の効果! 発動コストとしてオレは自分の墓地のカードを三種類まで除外する! オレは《独断での突撃》と《野蛮な力業》、そして《駆狩猟豹》を除外! そしてコストとして除外したカードと同じタイプのカードを相手が手札に加えた場合、そのカードの除外される! この場合のカードタイプはユニット、スキル、ギミックの三種類!そしてオレは効果ユニットの《駆狩猟豹》、通常スキルの《独断での突撃》、持続ギミックの《野蛮な力業》を除外したっ! よってお前のドローした五枚は例外なく除外だ!」
 岡田の叫びに呼び覚まされるが如く、紅色のハヤブサと毒々しい色のサソリが姿を現す。手始めにハヤブサがメリュジーヌの手札三枚を掻っ攫い墓地に放り捨て、新たに手札を五枚補充させる……が、それを逃さずサソリが尻尾から放った毒液により彼女の手札は全て溶かされてしまった。
「ぬぅぅうううおおおおおお!?」
「その様子だと墓地発動や除外されたタイミングで発動可能な効果を持つカードはねえようだな……好都合だ。
 オレは手札のスキルカード《血と贄の犠牲》を発動! オレのライフを半分払い、墓地から《電撃雀蜂》を除外することで墓地の《暴食大鮫》、《要塞古象》、《智巨猩猩》を効果無効・攻撃不可で復活させる!」
 岡田のフィールドへ新たに三体のユニット――傷だらけのサメ、山のように巨大なマンモス、スーツ姿で眼鏡をかけたゴリラ――が現れる。
「さあ、こっからが本番よ! オレはフィールドの《不敗一等兵》、《ニュートラル・ゴースト》、《孤高のガンナーウルフ》、《暴食大鮫》、《要塞古象》、《智巨猩猩》の六体でコネクト召喚を行う! 素材条件はビースト一体とサイバネット一体以上を含むユニット三体以上!」
 六体のユニットは光球となり集結・融合し、やがて一体の怪物の姿を形作る。

「荒れ狂え!CONNECT-6! 《暴虐獣 ランペイジ・ウェアウルフ》ッッ!」

 岡田のフィールドに現れたのは、角や翼など様々な動物の特徴を併せ持ち、短刀と見紛うほどのサバイバルナイフを手にした軍人風の狼男……丁度《孤高のガンナーウルフ》の強化形態かのような姿をした異形の合成獣人であった。

『ヴア゛ォォォォオオオオオッ!』

 合成獣人、もとい《暴虐獣 ランペイジ・ウェアウルフ》の遠吠えが、コロセウム全体を揺さぶる程に響き渡る。

「……ふんっ、防御の要である《不敗一等兵》を捨ててまで出したのが高々攻撃力3000のコネクトユニットとはな! どんな効果を持つのかは知らんが何れにせよ我が布陣を突破することなど不可能!」
「……確かにこいつの攻撃力は3000だ。最低でも攻撃力4000を下回らねえてめーのドラゴンどもを殴って倒すなんてことはできねーだろうよ。もっと言や、色々と効果は持ってるが、てめーのドラゴンどもの攻撃力を下げることも、てめーのドラゴンどもを除去することもできねえ」
「滑稽だな! 苦労して出した癖に我が最強無敵の布陣に太刀打ちする術を全く持たんとは! それで? その程度の粗末な代物でどうやって私に勝つというのだ?」
「そう言ってられんのも今の内だぞクソトカゲ。

 バトルだぁ! 《暴虐獣 ランペイジ・ウェアウルフ》! クソトカゲの《超古覇竜 ドラゴニア・プライム》に攻撃しろ! ランペイジ・ソニックブレード!
『ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!』
 岡田の指示を受けた《暴虐獣 ランペイジ・ウェアウルフ》は手にしたサバイバルナイフでメリュジーヌのフィールドに鎮座する巨竜《超古覇竜 ドラゴニア・プライム》に切りかかる。
「馬鹿め、我が《ドラゴニア・プライム》は攻防共に圧巻の5000! 攻撃力3000の《ランペイジ・ウェアウルフ》では返り討ちが関の山よ! 血迷った挙句自ら負けに行くとはっ、やはり人間はおろ――……か?」

 メリュジーヌは己の目を疑った。本来なら《ドラゴニア・プライム》の攻撃力によって返り討ちに遭っている筈の《ランペイジ・ウェアウルフ》は何故か破壊されておらず、更に戦闘ダメージを受け倒れている筈の岡田もどういうわけか無傷だったからである。

「……残念だったな、クソトカゲ。オレの《ランペイジ・ウェアウルフ》はそうそう止まんねえよ。まずこいつには本来、攻撃中相手のスペルとギミックを封じる効果と、相手に与えた戦闘ダメージを倍にするって効果が備わってる。まあこの辺は現状役に立たねえが……次からが本題だ」
「なんだと?」
「《ランペイジ・ウェアウルフ》のコネクト召喚は最低3体のユニットが必要だが、その数が増える毎に追加で効果を獲得できる! 四体以上ならこいつは如何なる場合にも破壊されず、五体以上なら相手からの効果を一切受けねえ! そして六体ならこのターン、オレのライフは一切減らなくなる! よってオレもこいつも無事ってわけだ!」
「くっ、弱者らしい姑息な真似を……! だがどうするつもりだ? 仮にこのターンを凌ぎきれたとしてお前に勝ち筋など――
「あるんだよッ」
「何ィ?」
「……クソトカゲ、てめーよ。何故オレが戦闘破壊もライフ削りもできねえのにわざわざ破壊耐性とダメージ無効までつけててめーの《ドラゴニア・プライム》を殴ったか、その意図を理解できてねーようだな? 弱くて愚かな人間より圧倒的に優れてる、卓上でも無敵のドラゴン様の癖によぉ〜?」
「き、きっさまぁ〜! ラフプレーの容認されるRoot側だからと調子付きおってぇぇぇ!」
「へっ、お互い様だろうがよ。てめーこそオレを愚かだの弱いだの散々言ってくれてんじゃねぇか。てめー、仮に人間なら今頃失格だぜ? しかも『自分のモノになるなら投了してやる』だぁ〜? 大物ぶってカッコつけてんのかもしれねーが、ハタから見りゃ彼氏いなくて焦ってる、性欲持て余した行き遅れの雌トカゲが無理してカッコつけてるようにしか見えねぇからな? ドラゴンの本能だか風習だかなんだか知らねーが、自分より強い男が欲しいとか贅沢言わねぇで、真面目に恋愛していい感じに相性いい男探した方がいいんじゃねぇのか? お前くらい美人ならどうせモテるんだし選び放題だろ〜?」
「ぬっぐぐぐぐぐ……き、気様ぁ〜言わせておけば――
「で、なんでオレが一見無駄に見えるようなプレイングをしたかについてだが」
「おい! まだ話は終わっておらんぞ!」
「うるせぇなぁ。試合中にあんま関係ねぇ話すんじゃねぇよ、ただでさえ現代遊侠王は効果長くて試合長引くんだから。Leaf側が話逸らして遅延しようとしたってなると流石に魔物でもペナルティつくぞ?」
『メリュジーヌ選手〜、納得いかないかもしれませんが凡そ岡田選手の言う通りなので以後気を付けて下さいね〜? あと魔物でもLeaf側の誹謗中傷は場合によってはペナルティの対象となりますのでその辺も宜しくお願いします〜』
「……くっ!」
「話を続けても良さそうだな。オレがてめーんとこのマッチョトカゲを殴った理由についてだが……当然それが勝ち筋に繋がるからに他ならねえ!
 オレはフィールドの《暴虐獣 ランペイジ・ウェアウルフ》をゲームから除外!

 出てきやがれ、CONNECT-0! 《幻双獄機獣 ロスト・オルトロス》!」

 除外されフィールドから消え去った《ランペイジ・ウェアウルフ》に代わって現れたのは、左半身が機械化され白銀の装甲に覆われた《孤高のガンナーウルフ》とでも言うべきサイボーグめいた狼男。右手にはM134風の機銃を持ち、左手では細身の軍用ナイフを握り締めている。
「ば、バトル中にコネクト召喚だと!? しかもCONNECT-0ぉ!? あ、有り得んっ!」
「そりゃ《ロスト・オルトロス》はこいつ自身のテキストに書かれた方法でしかフィールドに出せねぇ特殊なユニットだからな。
 その方法ってのが、自分フィールドのバトルを行ったビースト系コネクトユニットを除外するっつーヤツでよ。だから《ランペイジ・ウェアウルフ》をお前のドラゴンとバトルさせつつ生き残らす必要があった。そして出て来たこの《ロスト・オルトロス》……こいつでお前に引導を渡せるってわけだ」
「ふん、たかが攻撃力2500の雑魚ユニットに何ができる! 貴様が如何な効果を持とうと、そんな貧弱ユニット如きにこの布陣が崩せるものか!」
「……そうだな。確かにこいつには、てめーの布陣を崩せるような効果は持ち合わせちゃいねえ。自己強化も除去もねえ……」
「ならばどうやって――
「だから、こうしてやるのさッ! この《幻双獄機獣 ロスト・オルトロス》が出たのはバトルパートの最中! よってオレはまだバトルを行える……攻撃だ《ロスト・オルトロス》! 暗夜飛翔刃!」
 岡田の攻撃宣言に合わせ、《ロスト・オルトロス》はメリュジーヌ側へナイフを投げる。
「血迷ったか! そんな攻撃で我がドラゴンたちは――
「攻撃時、《ロスト・オルトロス》の効果発動! 攻撃力を500にすることでこいつは相手プレイヤーに直接攻撃が可能になる! すり抜けろ、暗夜飛翔刃ーッ!
 効果発動により投げナイフはドラゴンらの隙間を通り抜け、メリュジーヌにダメージを与える。
「ぐっ!? こ、この私に傷を負わせるとは……やるではないか、人間! 然しそれがどうした!? バトルでダメージを与えたとは言えその数値は僅か500! 私の残りライフはまだ14500もあるぞ!? この圧倒的ライフ差を覆すことなど、貴様には到底――
できるんだな、これがッ。
 オレは続けて《幻双獄機獣 ロスト・オルトロス》の効果を発動! 自分のライフが1000以下の場合、こいつがバトルで相手にダメージを与えた直後、こいつ自身がフィールドに出た時点での自分と相手のライフの差に等しい効果ダメージを与える! 《ロスト・オルトロス》が出た時点でのてめーのライフは15000! そして俺のライフは250! 」
「な、なんっ、だとぉ〜!? つまり《ロスト・オルトロス》の効果ダメージはっ……!」
「理解できたか? これがオレの切り札……てめーが散々見下して来た、人間の力だ!
 てめーは確かに強い。俺よりも格段に上だろう。だがそんなてめーがオレに負ける……自分の絶対的な強さを過信して、相手を理解しようとしなかったが為にな……」
「ぬっ、うおおおお……何も言い返せんっ……!」
「じゃあ何も言うんじゃねえよ。何も言わずただ、地獄の戦火に焼き尽くされろ。
 丸焼きにしてやれ、《ロスト・オルトロス》!

 ゲヘナズジャッジメント・ギガフレイムゥッ!」

『グオルゥッ!』
 岡田の指示を受けた《ロスト・オルトロス》は、右手に持った機銃を構え、メリュジーヌ目掛けて弾丸を放つ。

「ぐぉああああああああああああ!?」

 回転する銃口より放たれた無数の焼夷弾はメリュジーヌのみならず彼女のフィールドまでも焼き尽くし、瞬く間にライフをゼロにした。


『……』
   「「「――」」」
      「――……」
  「「……――」」
 「「「「――……――」」」」


 会場が、静まり返る。

 たかがカードゲームとは言え、眼前で繰り広げられた壮絶な死闘。
 
 立体映像による演出とは言え、派手に炎の舞い上がった凄まじい決着。

 それらの迫力に、誰もが圧倒され、絶句していた。

 それほどまでに両者は全力で……


……果てしなく、輝いていた。



『……け、決着ゥゥゥゥゥゥ!』


 「「「「うおおおおおおおおおおああああああ!」」」」
   「「「「「イエエエエエエエエエエエエエエエッ!」」」」」
「「フォオオオオオオオオオオオオオオッ!」」
     「「「んなああああああああああああああっ!」」」
    「「「「フオォォォォォォォォォォォォォォン!」」」」
       「「「「ほわあああああああああああああああ!」」」」
  「イエェェェェェイ!」「イェーア!」「イェイイェーイ!」
      「ィヤッベーイ!」「ハッ!? ィエーイ」「ツエェーイ!」
     「「ヴルゥゥゥゥゥアアアアッ!」」「オォォォォォラァァァァァッ!」
  「ファイアーッ!」「パーフェクト!」
    「「フッハッハハハハハハハァッ!」」
 「スゲェェェエエエエエエエイ!」「モノスッゲェェェエエエエエエイ!」
   「パネェェェエエエエエエエエイ!」「マジパネェェェエエエエエエエエイ!」



 実況が声を張り上げると同時に、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。一部明らかに歓声じゃない奴もあるけど。


『なんという! なんということかっ!
 まさに死闘! まさに奇跡! ゲームシステムとカードプール上可能とは言え、ここまでの熱い戦いが今まであっただろうかッッ!
 当店遊侠王担当として大会実況を務めて早五年! 数多くの試合を見てきたが! これほどの熱い試合はそうそう拝めるものではないっ!
 Aブロックからこれほどの名勝負が拝めるとはなんたる幸福か!
 ありがとう青藍爪牙隊! そしてありがとうスケイル・ウォリアーズ! 君たちは最高だ!
 勝ち残った青藍爪牙隊の諸君! 戦いは尚も続くがどうかその不屈の精神と誇り高き戦いぶりを末永く我々に見せ付けてくれっ!
 そして負けてしまったスケイル・ウォリアーズの諸君! 君らの活躍も素晴らしいものだった! この敗北から多くを学んだであろう、君らのさらなる躍進に期待させてくれっ!

 さあ然してまだ試合はAブロックの第一試合が終わったばかり! まだまだ大会は続く!
 これより先、如何なる死闘・激闘が見られるのであろうか! 期待は高まる一方であるが――一旦休憩で〜す





「……序盤からエラいもん見せられちゃったわね」
「ええ全くです。演出の派手さもあるんでしょうが、それこそまるでアニメを見ているかのようだった……」
 未だ興奮冷めやらぬ観客席で、雄喜と克己は頭を抱えていた。確かに先程の試合は名勝負で感動したが、後続の選手たちにしてみれば重圧に苛まれるのだからたまったものではない。
「これじゃ後に控える選手たちが不憫でなりませんよ……僕ら含めて」
「ほんとにね。あれを超えるか、最低でも同じくらい興奮するような対局なんてそうそうできるもんじゃないってのに……ハードル上げないで欲しいわ」
「貴女のみならず全員がそう思ってると思いますよ。実際僕ら、そんな派手な戦術が簡単にできるようなデッキばっかり持ってきてないですし」
「今からでもレシピ調整して再登録すれば間に合うかしら? 私結構出るの遅いし」
「止めはしませんが、やめておいた方がよくありませんか? それで事故を起こしたら本末転倒ですよ」
「あー、それもそうね……お客さんには悪いけど、多少地味な試合でも我慢して貰いましょうか」
「ええ、そうすべきでしょう。文句言われたら言われたで『勝手に期待してたお前らが悪い』って言い返してやればいいんです。最悪店員か警察呼べばなんとかなる」
「そうよねー。それが面倒だったら私の毒で黙らせればいいもんねー」
「……そういうのは本当にやむを得ない場合の最終手段にしといて貰ってよかですか」



 かくしてカードゲーム大会は尚も続いていく。
21/07/29 21:33更新 / 蠱毒成長中
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