連載小説
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幼女の街の守護者達
あれから数日後。私達三人は仲良く手を繋いで、大勢の幼女達とそのお兄ちゃんが行き交う、夕方のキュレポップの大通りを歩いていました。

「あー、やっぱりお昼に食べたあのお店のハンバーグ美味しかったねー♪」
「ええ、本当にっ♪」

その服装は、あの怪人ロリコーンの正体がハーメル様だと知った日と同じ。そう。今日の私達は、あの日中断されてしまったデートを、もう一度最初からやり直していたのです。
あれだけ気合を入れたデートが途中で中断してしまったのは、ずっと心残りでしたし……何より、あの時はハンバーグを最後まで食べ終わる前に出動がかかってしまいましたから。

「それにしても、ミリア君もあのお店を知っていたとはね……」
「私達に気が付かないくらいお兄ちゃんにデレデレしてたねー♪」
「あはは、ミリア様のお兄様はちょっとハーレムの人数が多めですしね……」

恐らくは大きな一仕事を終えた後の、二人きりの時間を堪能していたのでしょう。その表情は、どんな甘いお菓子を食べている時よりも幸せそうに蕩けていて……えへへ。勿論幸せっぷりなら、私とウィルも負ける気はさらさらありませんが♥
今日はその他にも、一緒に洋服屋さんや、魔法具屋さんを一緒に回って。……本当に、素敵な一日でした。
そして、そんな一日素敵な一日を過ごしたのは……きっと私達や、ミリア様だけではなくて。『幼女の街』キュレポップがある限り、この街は、幼女達とそのお兄様の笑顔で溢れる場所であり続けるのでしょう。

「ハーメル様。やっぱり私、この街が大好きです」
「……うん、僕もだよ」

大好きな人たちがいて。美味しい食べ物屋さんも、可愛いお店も沢山あって。皆が幸せそうに笑っていて。そんな街を守っている事は……私達の、何よりの誇りです。

「でもアレだよねー。怪人ロリコーンが居なくなってから、出動しても手ごたえが無い相手ばっかりで、最近つまんないよねー」
「もうウィル、滅多な事をいう物じゃありませんっ。私達が暇な時は、それだけ街が平和という事なんですから」

もちろん、本心から大きなトラブルを望んでの言葉ではないのでしょう。冗談めかして笑いながら言うウィルを、私も笑いながら嗜めます。
そんな私達を見たハーメル様が、ポツリと呟きました。

「……今思えば、アレも楽しかったな……」

私達はきょとん、とハーメル様の顔を見上げます。

「アレって……怪人ロリコーンのこと?」
「ああ。僕からしたら、リュガ君やウィル君と一緒に居られる時間だったという事もあるけど……ほら。僕の仕事って、基本的には裏方の仕事になるだろう?」
「……はい」

私とウィルは、その言葉に頷きながら返事を返します。
もちろん商会の皆様の前に姿を見せる機会などもありますが……基本的にハーメル様が行うお仕事の多くは、交渉と根回し。表立って働く人達に、その環境を整える事がお仕事です。

「だから……ひょっとしたら、あんな風に大勢の前で何かする事に、憧れみたいなものがあったのかもしれないね」

苦笑しながらそう言うハーメル様に、私とウィルは顔を見合わせて……そしてどうやら、自分達が同じ事を考えているらしいという事を察しました。
だから私達は再び、ハーメル様の顔を見上げて。


「……あの、ハーメル様。宜しければなのですが――」





――――――――――――――――――――





(……何なんだろう、この状況)

場所は魔界国家フラヴァリエのとある街道。一人の青年が、何とも言えない表情でじっと地図を覗き込みながら歩いていた。
皮と金属が組み合わされた軽量な鎧を身につけ、腰には一本のロングソードを帯びている。どちらも、一目見ればその装備がかなりの上物であるという事が分かるだろう。青年は、とある使命を受けてこのフラヴァリエに遣わされた『勇者』と呼ばれる人間のうちの一人だった。

以下は、そんな彼がこの国に立ち入ってから起きた出来事のダイジェストである。



彼がこの国にたどり着いたのは、日がちょうど頭の真上に来るような時間帯の事だった。

『フフ……単身乗り込んで来るとは、随分と威勢のいい勇者様だ』
『気に入ったわ。私たちがたっぷり可愛がってア・ゲ・ル……♪』

そんな時間に正面から堂々と、敵愾心を隠す事もなく乗り込んできたものだから、当然のように周囲を魔物に包囲されていた。

『……ふん、お前達を倒す前に聞いておく!この国には『キュレポップ』という巨大なサバトがある筈だ。その場所を教えて貰おう!』
『えっ』

だが、青年もこのような強行手段に出たのは、彼なりに時間の猶予がない理由があっての事。
この程度の包囲は覚悟していた。むしろ情報を引き出す相手が増えて好都合だと、青年は勢いよく剣を抜き放ち、臆する事なく言い放つ。
その言葉を聞いた瞬間、青年に襲い掛かろうとしていた魔物達の動きが、一斉にピタリと止まった。

『どうした?今更勇者と戦うのが怖くーー』
『あー、ごめんごめん、キュレポップ目当ての人だったんだ』
『そっかー、教団だとそういう人に対して風当たり強いっていうもんね……でも大丈夫!ここでは自分を偽る必要なんてないんだから!』

一体何が起こっているというのか。魔物達は武器を収め、詠唱をしていた者はそれを中止し。あまつさえ同情や親しみが込められている言葉をこちらに投げかけて来るのだ。

『えっ、あの』
『はい。これ、キュレポップまでの地図だから。道に迷ったら、遠慮せずにその辺を歩いている魔物かその旦那様に聞きなさい?』
『えっ、えっ』
『頑張ってね。素敵な娘に出会える事を、心から祈ってるわ♪』

そうして、彼を囲んでいた魔物達は謎の激励の言葉をと共に一人、また一人とその数を減らして行き――

『……ええ……?』

最後には、全く今の状況を飲み込めていない青年一人が、地図を片手にその場に立ち尽くしていたのだった。



「あの、キュレポップへの道はこっちでいいのか……?」
「はいー、合ってますよー」

何かが。何かが決定的に間違っている気がしてならなかったが、青年は道を教えてくれた幼い魔物に礼を言って、再び歩を進め始めた。魔物達からは値踏みされるような目で見られる事はあれど、特に敵意を向けられてる訳でも無さそうなので、本当にどう接していいかが分からない。
とにかく……自分に与えられた使命は、キュレポップという名のサバトの支部を支配している、邪悪なバフォメットを打ち倒すこと。今はそれだけを考えるのだと自分に言い聞かせて、前に進んでゆく。

(そうすれば……そうすれば、妹は)

昔から体が弱く、今まで幾度も生死の境を彷徨った唯一の肉親。今まで様々な治療を頼っても改善の兆しが見えなかったが……この使命を達成すれば、教団から、どんな症状も癒すと言われている伝説の秘薬を授けられることになっているのだ。その秘薬によって妹が元気になるという確証がある訳ではない。だが、青年からすれば妹を救う可能性が少しでもあるのならばと、藁をも掴むような思いだった。

「えいえんのわかさにきょうみはありませんかー?」
「サバトはあなたのことをお待ちしていますー」

そう、ちょうど旅行者や観光客らしき魔物と男達にビラを配っている、彼女達くらいの年齢の――

「っ!?」

――サバト!?
青年は慌てて周囲を見回し、そして気がつく。
この街には、異常なまでに……幼い女の子が多いという事に!!
そして、そんな彼女達がサバトの勧誘をしているという事は。

「…………っ」

――こんな幼い女の子達が、既に邪教の道に……っ!
少女達に妹の面影を重ねた直後に思い至ったその答えに、それまでの戸惑いにもにた感情は消え失せた。それと入れ替わるように、彼女達に道を誤らせたであろう存在への怒りが溢れ出す。

「バフォメットォォォォォッッ!!」
「ひぃっ!?」

往来の真ん中で突然剣を抜き、怒気を孕んだ雄叫びをあげる青年に周囲は慌てて後ずさり……人混みの中に、青年を中心とした空洞が出現した。

「ここがお前の支配する地だというのならば、聞こえているだろう!?よくも、よくもこんないたいけで可憐な少女達を、邪教の道に……っ!!」

周囲を見回しながら放たれたその台詞に、『お兄ちゃんは後ろに下がってて!』『えへへ、可憐って言われちゃったー』『うふふ、そりゃあお前は可愛いからな』などの声があちこちであがり、ざわめきが広がる。

「どうした、出てこないのならば――」
「フハハハハハ!これはこれは、なかなかに幼女を愛する心を持った勇者様がいらっしゃったようだ……!」

青年の台詞は、突如街に響き渡った哄笑にかき消された。自然とその場にいる全員の視線がそちらへ向く。
並ぶ店並みの屋根の上、そこには二つの影。背にマントをなびかせ目元を隠した正装の男と、全身をフリルで彩られた衣装に身を包んだ少女の姿。その手にはそれぞれ別のデザインのステッキを構え、お揃いの金髪を風に靡かせている。

「やぁやぁ幼女達よ、私達が来たからにはもう安心だ。安全な場所に離れているがいい……!」
「勇者さんっ。残念ですが、あなたが探しているバフォメット――ミリア様は今、この街にはいらっしゃいませんっ!」

並んで声を上げる二人に、幼女達から大きな歓声があがった。
以前ならば、それは決して見る事など無かった筈の光景。街を騒がせる者と、守る者。この二人の立場は、決して相容れぬものであった筈だからだ。
だというのに、この街の幼女達は、この怪人がある日を境に自分達の味方になったという事実を、あまりにもあっさりと受け入れていた。

その理由は、言うまでもない。
ある日から、彼の身に纏う衣装の全てが、白一色になっていたからだ。

幼女達は知っている。正義の味方である魔法幼女に敗れ、改心した怪人の衣装は黒から白になるという事を。
キュレポップで幼女達に大人気のアクション演劇『キューティー☆キュア』(通称『キュティキュア』)でもやっていたから、多分間違いないと思う。

『にしし、ごめんねー?ミリア様は今、とーっても可愛くてお兄ちゃん想いなんだけど、ちょっと体の弱い女の子を遠くの街までお迎えに行っててさー♪』
「……っ!?」

少女の肩に腰掛けている、人形のような大きさの魔物が発したその台詞に青年の全身から冷たい汗が吹き出した。まさか。まさか妹を……!?
いや待て。落ち着け。まだそうと決まった訳ではない。本当はバフォメットはこの街に居て、ただ自分を動揺させようとしているだけかもしれないのだ。
そして先程の口ぶり。この二人が、バフォメットの現在地を知っている事は間違いない。

ならば――先程までの言葉の真偽がどうであれ。
この場で取るべき行動は、ただ一つ。青年は剣の切っ先を、屋根の上に並ぶ影へと突きつけた。

「……お前達は、何者だ」
「よくぞ聞いてくれましたっ!」

諦める事を知らない、溌剌とした声。
ふりふりのフリルに彩られた、衣装と杖。
ダメージヘアという単語とは無縁であろう腰まで伸びたサラサラの金髪と、ルビーのようなその瞳。

背中合わせのそんな幼女と白い正装の怪人は、手にしたステッキをびしっ!と突きつけてポーズを取る。
そう。彼女達こそは、この街に住む幼女の最後の希望。

「愛と魔法で悪を討つーー魔法幼女ラブリー☆ウイッチ、ただいま参上っ!!」

幼女の街に危機が迫る時。
彼女は、必ず現れる。




     『魔法幼女ラブリー☆ウィッチ』 終わり
                        
17/09/24 23:42更新 / オレンジ
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■作者メッセージ
大変お待たせしました、何とか無事完結させる事が出来ました。

いつかエロシーンだけのエピローグとかも追加したいです。

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