連載小説
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堕落の園
堕落園



何かがおかしい。

何が?と聞かれたらどう答えていいかわからないが、根拠はいろいろ……一言で言えば雰囲気だ。

俺、オリバー・ハルミトンは原因不明の違和感に苛まれている。

そして、決定的なのは3日ほど前の夕方に礼拝堂に急ぐ麗しのフロイライン……3つ学年下のテオドール・ヴァン・シュタインを目撃してから記憶がすっぽりと抜け落ちていること。

ここ3日、決まって毎晩おかしな夢を見ること。

それから……

いや、まだ確信が持てない。そんな事はありえない。あるはずがない。何かの間違いだ……

とにかく、この件……少なくとも俺の記憶のブランクに麗しのフロイラインが関わっている事は否定出来ない。でも、肝心のフロイラインは何時もと同じだ。

素直で、頭が良くて、ちょと臆病で、笑顔が素敵な可愛い後輩だ。眼鏡で、頭が良くて、いつも本を抱えて俺や学年1つ上のブルーノの後ろをちょこちょこ付いてくる。

そんなフロイラインは俺の疑惑を知ってか知らずか、現在『コーヒーの会』にて俺の目の前の席に座って眼鏡を曇らせながら砂糖とミルクを目一杯入れたブルーノ特製のスペシャルブレンドをすすっている。

『オリバー?どうしたの?』

『いや、なんでもない。』

『ふふ、へんなオリバー。』

そんなたわいも無い会話が飛び交う『コーヒーの会』だが、なんというか数日前から空気がねっとりとしているような。ピンク色のモヤがかかっているような、そのせいか何時もは苦いブラックコーヒーも甘ったるく感じる。



気のせいであってほしい。




そんな俺の願いを他所に、異変は徐々に増えていった。

寮制の男子高等中学校だ。女の子がいないと言う事も手伝ってか"そういうこと"は稀に見かけるし "そうそう関係" の生徒が一定数いるが、ここ数日で7件も目撃してしまった。けっこうな数だ。

まったくけしからん……ゲフンゲフン……

その中には先生と生徒もいた。……あー、シュピーゲル先生と教会保健室のシスター・マドレーヌは何時もの様子だった。あの2人の密会は一部で有名だ。まぁ若い男女だし……

それから、聖歌隊のパート編成だ。今まで各パートがバランスよく配置されていたが、ここ数日でパート変えの申請が急増している。普通、変声期前の中等科の子が歌うソプラノとアルトのパートを明らかに変声期を迎えた子が歌ってた。まぁ……カウンター・テナー(ソプラノ・アルトを歌う男性歌手)になった可能性もあるが……それにしてもおかしい。

気づけば、バスとバリトンはブルーノと他10人くらいになっていた。


日に日に……



日に日に…………



日を追うごとに………………



俺が感じる違和感は自分自信に言い訳が出来ない程に大きくなった。

『オリバー……オリバー?どうしたの?』

『いや、なんでもないよテオ。』

休みの日に学校を抜け出して街をテオと歩いてもその事ばかりを考えてしまう。

『ふーん?』

『まぁ、強いて言うならなら相変わらずだなぁと思って。フロイラインと一緒にいると落ち着くなぁって……ね?』

『ふふふ、変なオリバー♪』

それから、その日はテオとそのまま遊んで例の魔法の抜け道を使って寮に戻ることにした。……のだが…………


"ねぇ?僕の事どう思ってるの?"

"…………"

"言ってよ!……ここなら誰も……"

"……好きだよ!!でも男同士だ……変じゃないか?"

"そんな事ない!……嬉しい……嬉しいよ……ちっとも変じゃない!……あぁ、マティウス!!"

ちゅ……ちゅ……くちゃ……

"はぁ……好きだ!……ちゅ……ギブリー!!"

"ねぇ……お願い……2人の時は、ガブリエラってよんで……"

"ガブリエラ!……ガブリエラ!!"


❤❤❤❤❤❤………………


うわぁー…………ここ禁書庫ですよー?立ち入り禁止区域ですよー?おーい…………

同じ聖歌隊の高等科3年生のマティウス・ルルーと中等科1年のガブリエル・フォン・バイデンガーだ。まさかこんな事になってるとは……

ダメだ……こりゃ完全に2人の世界だ。

あーあ、フロイラインは耳まで真っ赤にしている。やっぱ可愛いなぁ、コイツ。去年のダンスパーティの時、妹のドレスを着させたけど性別間違えて産まれて来た?……って思ったよ、ホント。唇奪っておけば良かった……

ゲフンゲフン……って今俺は何を考えた!?

しっかりしよう。……そうだ、オリバー・ハルミトン。冷静になれ。

はぁ……とまぁ、その程度には俺の精神も切羽詰まっているらしい。

教会の地下禁書庫は"そういうところ" で "そうそうこと"をする場所になっていた。俺は赤面している不安そうなフロイラインと静かに可能な限り素早く見つからないように移動した。

涙ぐむフロイラインが

『オリバー……』

と袖を引っ張ってきた。

あぁ、もう!可愛いな!コンチクショー!!

その後はなんとか誰にも見つからずに脱出出来た。





それからまた1週間が過ぎ去った。そうした得体の知れない異変の中でも時間は進んでいく。

増えていく不純交際……

パート比率のおかしい聖歌隊……

休む奴やサボりの増加……

毎日見るおかしな夢……

全体的に甘ったるい空気……

くそ!所構わずイチャコライチャコラしやがって!

はぁ…………一番の問題は俺を含むこの学校全体がその事にだんだんと違和感を感じなくなって来ている事実。慣れとは恐ろしい。

この前の一件以降、『コーヒーの会』や聖歌隊の練習でマティウスとガブリエルの顔を証明から見れないでいる。恥ずかしくて。

何時ものようにコーヒーを飲みながらふと、中庭を見ると辞書や本を抱えてほとんど小走りで歩いているテオを見かけた。伸びたセーターの袖で手の甲が隠れている。無理も無い、あんなに抱えて……袖の先が本に挟まれて引っ張られてしまってる。……あ、コケた。気を付けろー

ははは……相変わらずだなぁ……

アイツだけは何時もと変わら…………

ガタン!!

変わらない……変わってない!!

『わっと!!お前さん、いきなりどうしたんだ?』

『悪いブルーノ……ちょっと急用思い出した。』

俺は飲みかけのコーヒーを啜り上げ、慌ててラウンジを飛び出した。

これだけ違和感バリバリの不自然な状況が日常を侵食していく中で、フロイラインだけが自然だ……

何時ものようにミサで歌って

サボりもせずに授業を受けて

相変わらずガリ勉で

聖歌隊の練習にもキッチリ出て

俺やブルーノとつるんでコーヒーすすって

フロイライン……テオドール・ヴァン・シュタインだけが"不自然"に"自然"だ。

この異変に何か関わっている、若しくは何か知っている可能性が大きい。

しかし、もし……もし仮にこの異変にテオが関係しているとして、何をしたんだ?

止める方法はあるのか?

変化はあの夜の翌日から……

記憶のブランク……空白の夜にいったい全体何があった?

毎晩見る夢……

そして……俺自身の

ガチャ……

『ねぇ、オリバー!……ん?オリバー?』

冷たい汗が背中を伝う。タイミングを見計らったかのようにフロイラインから俺に会いに来た。何時もは天使のような綺麗な笑顔も、今は悪魔の笑顔に見える。

『い、いや……なんでもないよ。』

『ふーん?変なオリバー?』

すると、フロイラインは俺の手を取った。

『そうだ、オリバー!今度の聖歌隊のデュエットの歌さ、素敵だよね?』

『あぁ。いい曲だと思うよ。ダニエル・グレイ作曲だっけ?』

『そう!"トランペットよ鳴り響け"……いい曲だから、絶対歌いたいんだ!……出来ればオリバーと一緒に!』

『えー?俺はいいよ。ブルーノはどうだ?』

『彼、声低すぎだよ……。……ねぇ、オリバー?お願い!』

クソッタレ……弱いんだよなぁ。コイツのお願い攻撃……

『しょーがねーなぁ。礼拝堂いくぞ!』

『ありがとう!オリバー!!』

なんだ……俺の思い過ごしだ。そうだよな……フロイラインはフロイラインさ……。

礼拝堂に着いて、オルガン前の譜面台に楽譜を広げて譜面を読む。

F dur の曲…… ♩= Moderato か。

♪〜〜……♪〜♪〜〜……

んー……成る程、テオが好きそうな明るい曲だ。しかしコイツ、一向に声変わりしないなぁ……

チッ、チッ、チッ、

指を鳴らしてテンポを取る。

『テンポこれくらいだな。譜読み大丈夫か?』

『うん。』

『じゃあ、テオが上のリードパート。俺が下のハーモニーパートで。』

『オーケー……僕は大丈夫だけど、これ歌詞がブリトニア語だよ?オリバー読める?発音大丈夫?』

『コイツ、言うようになったな?見てろよ?』

スゥ……
スゥ……

""
Sound the trumpet♪
Sound the trumpet♪

Sound the trumpet♪
Sound the trumpet♪

Sound♪ Sound♪
Sound♪ Sound♪

Sound the trumpet to the till around♪
Sound the trumpet to the till around♪

You make the list'ning shores rebound♪
You make the list'ning shores rebound♪

the list'ning shores rebound♪
the list'ning shores rebound♪

On the sprightly hautboy♪
On the sprightly hautboy♪

the sprightly hautboy play♪
the sprightly hautboy play♪

All the instruments of joy♪
All the instruments of joy♪

All All All All the instruments of joy♪of joy♪
All All All All the instruments of joy♪of joy♪

That skillful numbers can employ♪
That skillful numbers can employ♪

To celebrate♪To celebrate the glories of this day♪
To celebrate♪To celebrate the glories of this day♪

The Glories♪
The Glories♪

The Glories of this day!!
The Glories of this day!!

""

体の内側から喜びが溢れてくるようだ。

……この曲気持ちが良いなぁ。

しかし、コイツの声はまるで天使のようだ……。このまま順調に行けば、フロイラインはきっと素晴らしいカウンター・テナーになれる。

ん?

フロイライン?どうした?そんなに嬉しそうにして?

『ふふふ……。オリバー♪』

『おい、どうしたんだ?フロイライン?』

忘れかけていた得体の知れない不安と自ら蓋をした疑念が鎌首をもたげている。

『オリバー……僕のパート覚えてる?』

なんだ?その瞳の奥の暗い穴は……

『あ、あぁ……ソプラノだろ?まだ変声期前で綺麗な声だよな。羨ましいよ……それがどうかしたか?』

『じゃあさ、オリバーのパートって?』

なんなんだ?

『……俺はさ、テノールとバリトンを行ったり来たりだ。テオも知ってるだろ?』

『うん♪もちろん知ってるよ?』

この言いようの無い違和感は!?

『でもね?このダニエル・グレイ作曲の"トランペットよ鳴り響け" は……』



















『ソプラノとアルトのデュエットなんだよ?』













『え?』


『うん、うん。オリバーの声……張りのある艶やかなアルトだよ?とても綺麗だよ♪』


やっぱり……気のせいじゃない。

俺が女になったのは、気のせいじゃない!

紛れも無い現実だ……!!

少し前から身体がおかしかった。

まさか声まで女に……

フロイラインは聞いて来た……

歌でそれを確かめてきた!?

フロイラインは間違いなく何か知っている!

パニックになっている自分を冷静な自分が無理やり押さえつけ、なんとか紙一枚の平静を保ち、テオに質問を返す。

『……ギナジウムで何が起こっているんだ?何を知ってるんだ?俺の……俺の身体の事にも関係あるんだろ?』

テオは心底嬉しそうで、今まで見たどんな笑顔よりも可憐で邪悪な笑顔を俺に向けた。

『全部、ぜーーんぶ知ってるよ?だって僕が望んだ事だから♪』

『なっ!!?』

予想をしていた最悪の答えだ……

『不純交友が増えたのも……聖歌隊のパート比率がおかしくなったのも……授業のサボりやズル休みが増えたのも、それからオリバーが毎晩おかしな夢を見ているのも全部僕のせい。』

おかしな夢……それは夢の中で俺は女の子でフロイラインにキスされたり、抱かれる夢だ……

思い過ごしであってほしい、悪い夢であってほしい、青春の不安定さがもたらした何かの間違いであってほしい、大人になった時に酒を飲みながら笑い合える思い出であってほしい……そんな願いがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。

『ねぇ、オリバー?気になっている事はなぁい?』

『……もしかして、あの夜のことか?』

『そう。正解!……オリバーには、全部知って欲しいんだ。……ヘルガさん!出て来ていいよ。』

テオは誰もいないはずの空中に向かって呼び声をかけると空気が歪んで中から 悪魔 が出てきた。

『……こんばんは。私は2回目だけど、貴方……いえ、貴女にとってははじめましてよね?デーモンのヘルガよ……よろしくね?』

青い肌と大きな蝙蝠の翼を持つ現実味の無い女が艶かしく喋る。俺はというとただ唖然とするのが精一杯だった。

『オリバー……2人で街へ行った日を覚えてる?その時、抜け道の禁書庫で偶然見つけた不思議な楽譜の曲を歌ったら、ヘルガさんを召喚する特別な歌だったんだ。それで、僕は僕の願いの為にヘルガさんと契約を結んだ。公平なビジネスさ!』

『えぇ。坊やは誠実なビジネスパートナーよ?ただ、途中で貴女に見られてしまったから、記憶を消させてもらったわ。』

『テオの願い?……事故で死んだ両親を生き返させる事?』

ちょうど1年前、テオに興味を持った俺はテオの過去を調べて、彼の両親が死んだこと、財産を狙う叔父夫婦に引き取られたこと、そして半ば厄介払いの様にギナジウムに転入してきたことを知った。

だから、テオの願いはどうにかして両親を生き返させたいと思った。

だかしかし、テオは少し悲しそうに顔を横に振った。

『正直、それも考えたよ……。オリバーと出会う前ならそうしていたと思う。両親を生き返させる願ってもないチャンスだったけど、それはしなかった。』

『じゃあ……フロイラインは何を……』

『鈍いなぁ……オリバー』

ちゅ……

!!??

『こういうことだよ……』

いきなりテオに唇を奪われた……

口の中にテオの舌が入り混んで、俺の舌に絡みつく。

『ぷは……キスって甘いんだね♪でもちょっと苦い。タバコとコーヒーかなぁ?不良の味がする♪』

『う……はぁ…………』

なんでだ?

逆らう事が出来ない

頭が多幸感に包まれてポワポワする

体の内側……お腹の奥がキュンと締め付けられるように切なくなる

なんだ?なんなんだ??

『……うまくいったわね……これで契約完了よ。しかしまぁ……いい顔で蕩けてるわぁ❤』

うまくいった?いったい何のこと?

『ふふふ♪うまくいったね♪』

どういうことだ?

『……ヘルガさんは旦那様が欲しい。ヘルガさんのもともとの計画は、召喚した人間の願いを叶えて、その対価にその人間と結婚して幸せになるっていうものだったらしい。でも僕の願いは……オリバーを僕のものにする事なんだぁ♪』

『なんで……そんな……!!』

『オリバー……君を愛してるからだよ。誰よりも……なによりも……。そこで僕は契約を迫るヘルガさんに"聖域"を求めて公平な取り引きを持ちかけた。』

悪魔ヘルガはオーケストラの指揮者のように宙に指をなぞると羊皮紙と銀のペンが出てきた。たぶん神の言語だ。契約文が書かれている。

『ふふふ……テオ坊やが持ちかけたビジネスはオリバー、貴女を坊やのものにする引き換えに、聖トマス・ギムナジウムの未婚の男性を全て魔物娘に差し出すこと。私は結婚出来ればそれで良いから、快諾したわ♪私の部下も喜んでるし♪……まぁ、後は好きにしてちょうだい。これで坊やとの契約は終了したから、私は男を物色してくるわぁ♪頑張ってね☆』

そういうとヘルガは消えてしまった。

聖トマス・ギムナジウムは寮制の男子高等中学校だ。生徒と先生の約800人の中に、教会のシスター達を除いて女の子はいない……。ってことは……ほぼ全員じゃないか……

テオは俺の為に……俺1人を手に入れる為だけにギムナジウムの全員を悪魔に売ったんだ……

『さすがに、一度にやると目立ち過ぎるから『コーヒーの会』常連の下級生数人にお節介を焼いたんだ♪ヘルガさんの悪魔魔法や魔界のお薬を使えば恋する男の娘を本物の女の子に出来るんだ。人間ではなくなっちゃうけど。正直、まさかあんなに早く男の娘たちが堕ちるとは思ってなかった。ふふふ♪今や下級生の3人に1人くらいは女の子なんじゃないかなぁ?』

閉じられた社交会である『コーヒーの会』は秘密裏に制圧するのには持って来いだ。……もし仮に俺がフロイラインでもそうする。

『!?マティウスとガブリエルも………』

『うん!あのカップルもそう。……僕は下級生相手に恋のキューピットをやるその傍らにヘルガさんの仲間を呼び寄せる召喚魔方陣を寮や教会や学舎のあちこちにこっそり仕掛けてたんだ。彼女との具体的な契約内容は僕が彼女達のお婿さん探しとツェーリ自由中立国内においての魔物娘の勢力圏を広げる……ひいては聖トマス・ギムナジウムを堕とす手伝いをすること。見返りに僕がオリバーを手に入れる事を彼女と彼女の部下が全面的に手伝う事。契約は僕が君にキスをするまでだ。で、ここからが問題なんだけど……』

『問題?』

『そう……それは、生物的にも精神的にも僕とオリバーが結ばれるにはどちらかが女の子に……魔物娘アルプになる必要があるんだ。いろいろ考えたよ。僕はオリバーを愛してる。この気持ちを青春の淡い思い出にしたくない。僕の身も心もオリバーのものだ。オリバー無しでは生きていけない。君への愛はフィロス(友愛)でありエロス(聖愛)であり、アガーパス(聖愛)だ。信仰と行っても良い……でも、オリバーはどうだろう?オリバーは僕のことをどう思ってるんだろう?……って考えたんだ。たとえば、僕が魔物娘に……女の子になったら、簡単に事が運ぶだろ?サキュバスの秘薬で女の子に……アルプっていう魔物娘になって君を襲って……幸せになってハッピーエンド。』

なんだこれ……背中がぞわぞわする。

狂気の様な愛情を向けられてる。

『でもそれじゃあダメなんだ…………オリバーの気持ちを無視してしまうから……それに、オリバーも僕無しでは……テオドール・ヴァン・シュタイン無しでは生きていけなくなって欲しい。身体だけじゃなく、心の底から僕を求めて欲しい。簡単にしたくない。そう思ったんだ。だから、オリバー・ハルミトンを魔物娘アルプにしようと思いついた。どうやったと思う?君はたしかコーヒーはブラック派だったよね?『コーヒーの会』で飲んでたコーヒーさ……いやに甘ったるくなかった?ふふふ♪あれにはサキュバスの秘薬が入っているんだぁ。ふふふ……♪オリバーは僕の期待通り女の子になってくれた♪……あぁ、もしサキュバスの秘薬でオリバーがアルプにならなくて男性のまま魔物に……インキュバスになっても大丈夫。僕がアルプになってオリバーを愛せばいい。失敗してもそういう予定だった。僕は君を手に入れられれば性別もどっちでも構わない。君以外は何も要らない。何と引き換えにしても、たとえ世界と引き換えにしても…………』

テオは両手を自身の頬に当ててうっとりと微笑んだ。奈落へと続く沼のような瞳が俺を捉えて離さない。

『だから……一緒に堕ちよう?』

大切なものへの執着……狂気と凶気を孕んだ真っ直ぐで歪でドロドロとした愛情……一途で……純粋で……恥ずかしくて……どこまでも深い愛。

そんな歪なのは嫌な筈だ……だけど、嬉しいと思っている自分がいる。

『俺は……俺は、こんなこと望んでない!元にに戻せよ!……なあ!』

あぁ、テオ……テオ……もう止まらないのはわかってる。もう引き返せないのもわかってる。だけど……どうか……立ち直ってくれ……

『望んでなぁい?……あれ?おかしいなぁ?じゃあ、なんでオリバーは女の子になってるんだろう?』

『……え?なんでって、テオにサキュバスの何とかって怪しい薬を盛られたからだろ……?』

『ん〜〜、半分正解!そうそう、たしかにサキュバスの秘薬のせい。だけど……オリバーが女の子に、魔物娘アルプになってるのはね?』

なんだよ!?その見透かすような嬉しそうな目は……

『オリバーが女の子になりたいと心の何処かで強く願ったからなんだよ?』

『な……っ……!!??』

『サキュバスの秘薬を普通の男の子に使ってもインキュバスになるだけで男の子のままなんだ。……でも、女の子になりたいと願っていれば秘薬はアルプって言う魔物娘に変えてしまうんだよ。つまり、秘薬は君の心の奥底にある本質的な願いの後押しをするだけ……。ヘルガさんに君の夢を覗かせてもらったよ……嬉しくて涙が止まらなかった。オリバーも僕を望んでくれたって……』

『そん……な……』

『もう……戻れないんだ。……オリバーのせいじゃない。全部、全部、僕のせいだ……でも、結果的にオリバーもそれを望んでくれた。』

そう……なの……か……?

『テオ……』

テオは俺の頭をくしゃくしゃっと優しく撫でた。それだけで幸せな気持ちになる……でも渇く……渇く……

『ほら……角が生えかけてる。……辛いでしょ?身を焼かれるようでしょ?』

そうしてまた強引に唇を奪われた。舌を入れられて、抵抗虚しく口内を蹂躙される。

くちゅくちゅといやらしい音が脳を犯していく……

『僕だけがオリバーを助けてあげられる。僕だけがオリバーを理解できる……かわいそうなオリバー……でも、僕がいる……』

テオ……

ゾル……ゾルゾルゾルゾル

あれ?

メキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキ

身体が……熱い……

なんだ?

何が起きて……?

ゾルゾルゾルゾルゾルゾル

『あ、あが……ぁぁっ!』

身体の内側から……何かが……頭が……割れ……

ミジミジミジミジミジミジミジミジ

『ーーーーーーっ!!?』

『わぁ……綺麗な角♪羊さんみたいにグルグルだ♪』

角?

メキメキ……

『うっ……ぁ……いぎ!!』

ブチッ!!

バサァア!!

『大きなな翼……』

ズルズル……

『ひぃ……うぐっ……やぁ……やっ……』

ブチブチブチブチ

ズロロロロロロロロ……

『素敵な尻尾……これで、オリバーも立派なアルプだね♪』

自分の頭や腰回りを触るとそれらしき器官が存在していた。

耳の上からグルグルに渦巻く様に生えた硬い角

腰からは蝙蝠の様な翼が、尾骶骨から尻尾が。服を突き破って生えたそれらは、まるで手か足が一気に3つ増えた様な不思議な感じがする。

『はぁ……はぁ……。っ!?テオ……俺は……どうなって……?』

ストン……

立ち上がろうとするとバランスを崩してへたりこんでしまった。

『オリバー凄く綺麗だよ?……でもまだ魔物の身体に慣れないみたい。……それ以前に力が足りないんじゃなぁい?』

テオの手が俺のネクタイをスルリとほどき、シャツのボタンをプチプチと外していく。

ちゅ……ちゅ……

『ん……はぁ……いや……やめ……ぁあ……』

テオの柔らかい唇が露出した胸に触れる。その度に耐え難い快楽が身を犯した。

『綺麗だよ……とっても綺麗だよ……それにかわいい❤』

そう言うとまたテオは俺の唇を奪う。

カチャ……カチャ、カチャ…………ジーーーーーーーッ……

『……ん、ん……!?そ、そこは!?』

ズボンのベルトとジッパーを取り払われ、テオの柔らかい白魚のような手がスルリとパンツの中に入ってきた。

そして……

『ひうっ!!?』

本来男性にあるはずのモノが消えた後に出来たスリットに……女性器にテオが触れた瞬間、電気が走ったような、今まで感じた事の無い未知の感覚に襲われた。

『うわぁ♪……オリバー……凄く濡れてるよ?ふふふ……淫乱さんだねー♪』

『そんな……やめっ……ーーーーっ!!』

くちゃくちゃ……レロレロ……くちゃくちゃ……レロレロ……

ビクン!ビクン!

キスをしながら優しく揉み解すように触れてくる……溶けそうで……溶け……

……………………

……………………

……………………

どれくらい時間が経ったろう?ズボンを履いてる感覚は無い。いつのまにか脱がされてたみたいだ……

あれからテオに触られ続けて意識も股間も快楽でぐちゃぐちゃに……

『オリバー……僕、もう……』

そうするとテオは俺に覆い被さるようにのし掛かってきた。硬いものが当たっている……

カチャカチャ……とベルトの音が聞こえてくる。

何をしようしてるのか……本能で理解している。逆らうことが出来ない……それどころか喜んで受け入れようとしている。

怖い……自分が自分でなくなるような、大切なものを失くしてしまうような

でも嬉しい……本能がフロイラインと1つになることを望んでいる

いやだ……きて……いやだ……きて……いやだ……きて……

相反する2つの感情がせめぎ合うように浮かんでくる。

俺はどうしたら……

テオ……テオ…………




『オリバー……オリバー!!』




テオの必死そうな求めるような顔を、その今にも泣きそうな瞳を見た瞬間、プツンと何かが切れる音がした。

あっ……も……う……いいや…………


きて……


『『ーーーーーーっっ』』


テオの分身が入ってきた……

中で何かが引き裂かれるような……

痛み……

でも

なにこれ……

呼吸が……でき、ない……

テオの体温

テオのカタチ

テオの呼吸

テオ……テオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオテオ……

圧倒的多幸感

彼の全て……私の全て……

『オリバー!オリバー!気持ちいい……キモチイイヨ……』

『テオ!テオ!ぁあ!』

気づいたらテオの名前を叫んでいた。

嬉しい……嬉しい……

テオと……私が1つに……ほら、鍵と鍵穴のようにぴったりだ

ん?私?俺?……もうどっちでもいいや……

ほしい……もっとほしい……もっと近く……もっと深く……

ぱちゅん❤

『『ぁあ!』』

ぱちゅん❤

たんたんたんたんたんたんたんたん……

『『あ❤あ❤あ❤あ❤あ❤あ❤』』

水遊びをするような卑猥な音が礼拝堂に木霊する。響いた音はまるで小悪魔の笑い声のようだ。

『オリバー……』

私の中でテオが膨らんだ

いったいどうしたのか……私の直感がそれを告げている

『テオ!やめろ!……今出されたら私……テオのモノになっちゃうだろ!!』

あれ?私……やっちゃった?

たん❤たん❤たん❤たん❤

『ひぐっ❤あっ❤あっ❤』

『オリバー!オリバー!出すよ!出す!』

尻尾が勝手にテオに巻きついて……

羽根が勝手にテオを包んで……

お腹の奥……たぶん、子宮ってやつがパクパクしながら下に降りて……

自分に嘘がつけないほど身体がテオを求めてる。

『オリバー……オリバー……ごめんね。ごめんね。……すき。すき。すき。』

なんて、顔してんだよ……

お前が望んだことだろ?

だったら……もっと幸せそうな顔しろよ!!!!

グイッ!

私はテオの腰に足を絡ませて、思いっきり抱きしめた。

『!!?』

その瞬間……

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク……



『ーーーーーーっ!!!!!!』
『か……はっ ❤❤❤❤❤❤❤❤❤』


キ モ チ イ イ………

いいよ……全部吐き出しちまえ……テオ……お前の全部受け止めてやるよ……

爆発するような……月まで吹っ飛びそうな快楽の爆発が意識を真っ白に染め上げ、精神を遠くへと押しやっていった。




緑の木漏れ日の中、後ろから声が聞こえる。

『オリバー、オリバー待って!』

相変わらずフロイラインは本の虫で、辞書や論文や小説を沢山抱えて、歩くのがやっとの状態で後ろをチョコチョコついてきてる。

『おい、大丈夫か?まったく……調子に乗るから……ちょっとかせよ。』

テオが抱えていた本を半分持ってやった。

『オリバー……ありがとう!』

『ああ……ったく、世話がやけるな。』

その時のテオ笑顔が視界いっぱいに広がって……

霞むように消えていった。


あれ?

なんだ……夢か……

思えば、たぶんあの時、私はフロイラインの事を……

あー……こいつの言ってた事、間違いじゃなさそうだ。私も望んでたよ……だってこいつ可愛いもん。

意識が戻ってきた。……まだチカチカする……

『ひっく……ひっく……ぐす……』

おいおい……なんで泣いてんだよ……

抱きしめたまま、テオの頭を撫でる。やっぱ、かわいいなぁ……

『ごめんね……ぐす……オリバー……ごめんね……』

『……どうしたんだ?』

『僕……怖いんだ。オリバーや、ブルーノが遠くへ行っちゃうのが……。ブルーノは2ヶ月もしないうちに、オリバーだってあと1年もしたら此処を去っていく……。みんな僕を置いて行ってしまう……。もう1人は嫌だ……だから……』

ああ、そうか……

『うん……』

フロイラインは……テオは……

『……大好きなオリバーを縛り付けたかったんだ。』

寂しかったんだ……1人になるのが怖かったんだ……

『うん……』

『だけど……君を傷つけてでも……』

ギュっ……

『バカ……。テオの大バカ……なんの相談もなしに1人でやらかして……』

『ごめん……』

『ゆるさない……。こんな身体にして……もうテオがいないとダメになってる。たぶん心まで女の子になってる。だから、責任取れよ。責任取って私を幸せにしろ。』

『うん……うん……』

たぶん、私がテオだったら同じ事をしたんだろうなぁ……

『……あのね?オリバー』

『ん?』

『責任……とるから……』

あれ?

なに?この寒気は?

『!?……はひぃ❤』

力が抜け?あれ?

『……オリバーの魔力をもらったよ。それでまた注いであげる♪』

まずい……テオのこの笑顔はヤバイやつだ……

『お、お手柔らかに……あーーー❤』


テオは自分の魔力と私から出る魔力を使って私を貪り続けました。

何回中に出されたかわからないくらい頭が快楽漬けのぐちゃぐちゃにされて……

快楽を……メスイキを丁寧に丁寧に教えてくれました。弱点を徹底的に責められました。もうテオのモノを見るだけでイキます。

ずーっと延々とせっくすしてました。身体中の穴という穴に出されました。

お尻の穴も使われました。キモチ良かったです。出された精子が登ってきて口からゲロしました。上のお口にも沢山出されました。もう酷いありさまです。胃袋も精子でパンパンです。耳の穴と鼻の穴にも、おへそにもかけられてます。

もちろん出来上がったばかりのアルプ子宮は精子漬けにされました。

私はオリバーを辞めました。今はオリビアが私の名前です。

天使の顔した悪魔のようなテオに堕とされてしまいました。



でも、とってもとっても幸せです♪



それから暫く経った。

テオにあれこれナニをされてる間に、テオが仕掛けた召喚魔法陣でヘルガさんの部下さんたちがギムナジウムを占領したんだ。

悪ガキ3人組のリーダーのベッジはアルプになったスタンとデイヴとイチャコラしている。

肝心のヘルガさんは未だ独身を貫いて働いていた老校長先生を堕として幸せそうにしている。つい先日、1週間ほど姿を見せなかった校長先生を目撃した。古い写真でしか見たことない若き日の校長先生の姿に戻っていた。魔物って凄い。

シュピーゲル先生はダークプリーストに変化したシスター・マドレーヌに絞られていた。この人たちは……最初から無しの方向で。

『パァパー♪』

と、ブルーノの背中に思いっきりダイブしてきたのはヘルガさんの部下のデビルだ。

『ぅおっと!?どうしたメアリー?』

『だって〜。かまってくれないんだもん!』

『昨日だって……ゲフン。なぁ、なんで俺だけ嫁さんからパパって呼ばれてんだ?みんな旦那様とかだろ?』

『ん〜……なんかブルーノってさー、パパって感じなんだよねー♪』

『えーー……』

その時、テオと二人で顔を見合わせて笑いあった。

そんなブルーノは数週間後に卒業する。法律の勉強をするためにメアリーと一緒に魔物の国、カルミナ国に行くそうだ。敬虔な西方主神教信者の両親をお嫁さんと一緒にいったいぜんたいどうやって説得したのかは想像に難くない。

この学校は魔物娘(悪魔)たちの手に堕ちた。でもそれは表向きには秘密で、男子寮学校はそのままだ。ここに入学する生徒はみんなアルプかその子たちのお婿さんになるだろう。

男の子を堕とす堕落の園に変わった。

そんなこんなですぐに新学期が始まった。

私は最上級生に、テオは中等科3年生に、ブルーノは卒業して大学に。

皆んなしれっとしてるけど、アルプや変身魔法を使ってる魔物娘もいる。少し騒がしい空気の中、若返った校長先生が夫人(ヘルガさん)と一緒に舞台に立つ。

ピー……ガーー……ブッ……

ツェーリ自由中立国が誇る伝統の男子高等中学校である聖(性)トマス・ギムナジウムへようこそ。ゆかしき歴史は騎士の時代から続くこの学び舎で勉学に励まんとする新入生諸君らを歓迎しよう。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


ようこそ、アルプの学校へ……


歓迎するよぉ♪





おわり……。



あら、こんにちは。まぁ、ゆっくりしてちょうだい。

私はデーモンのヘルガ。みんなからは歌声の悪魔って呼ばれてるわ?

テオくん……ステキだったわねぇ。あのねっとりとした愛情……ゾクゾクしちゃう❤

でも、もし……テオくんがアルプになったら?はてさて、どうなるのかしら??

ふふふ♪気になるでしょ?

もう一つの物語の結末を知りたいなら

『悪魔の取引』〜『悦楽の園』

を読んでみて?

大丈夫……時間は私が巻き戻してあげるわ?運命のあの日に……

ふふふ♪ アウフ ウィーダシェーン……(さようなら。また会いましょう?

パチン!!



19/06/25 08:32更新 / francois
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■作者メッセージ
お読み頂きありがとうございます。

という訳でアルプたん2作目終了です。当初はテオくんをアルプにする予定でしたが、こうなりました。オリバーくん即落ちです。まぁ、どちらにせよテオくんはヤンデレますが……

『時忘れの歌』ジェレミーが出てきたり、『エミリアの夢』の人形店が登場したり、歌の作曲者が『愛の影』のダニエル・グレイだったり過去作てんこ盛りになりました。ちなみにオリバーは『愛しのソフィー』のアラン・ハルミトンの従兄弟です。過去作も如何でしょうか?(露骨な宣伝)

次回はテオくんがアルプになった場合のエピソードか、『黒衣の聖者 外伝』を進める予定です。

ではでは皆様、また今度〜U・x・Uつ

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