連載小説
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旅19 ジパングでも気ままな旅!
ブォォォォ……


「遠くに見えるあれがもしかして…」
「そう、ジパングだよ!」
「わあ〜!アメリワクワクしてきた!!」

現在10時。
私達はジパングまで船旅をしている…旅費をけちr…節約するために船のお手伝いをしながらだが。
しかしジパングか……いったいどんな人や魔物達がいるんだろうか…
リンゴから聞いた魔物もほとんど聞いた事無いのばっかりだからな〜…本当に楽しみだ。

「おーいサマリー!時間まだいいのか……ってあれはまさか!?」
「そのまさか、あれがジパングだってさ!」
「うおー!!マジかー!!やっとジパングに行けるのかー!!テンション上がってきた!!」
「……ユウロお兄ちゃん元気だね」
「そうだね。それだけ楽しみなんだよ」

ユウロが遠くに見えるジパングを見つけた瞬間、やたら元気にはしゃぎ始めた。
まあ無理もないだろう。ジパングに行きたいと言い出したのはユウロなのだ。
どうやらユウロの故郷に似ている部分があるらしく、勇者をやっていた頃から一度行ってみたかったらしい。

…そういえばユウロの故郷ってどこなんだろうか?一度そこにも行ってみたいな…

「…ってそうだ。サマリ、そろそろ昼飯の準備しなきゃいけない時間じゃね?」
「え?あ、そうだね。じゃあ行ってくるよ。教えてくれてありがとうね!」
「おう!いいってことよ!」

お昼ご飯の準備をするために私は船の厨房に向かった。



「…なんか最近サマリのやつぼーっとしてるってか寝ていること多くないか?まさに羊のように丸まってアホみたいな顔してグースカとさあ」
「あーたしかに。アホみたいな顔かはともかくわたし昨日もこの甲板でサマリが丸まって寝てたの見たよ」
「あれじゃない?サマリの毛が伸びてきたんだよきっと。それで船に乗ってる間は歩いて旅してないからすぐ眠くなっちゃうんだと思うよ?」
「そうだね。サマリお姉ちゃんの毛、そろそろ切らないと歩きながらねちゃうかも…」
「ははっ!そりゃあり得るな〜!つーかもう厨房で立ちながら寝るんじゃねーか?あり得るだろうなあはははは!!」



…………



「ユウロ、まだ聞こえてるんだけど…何笑ってるのかな?」
「うげっ!?まだ居たのかよ!!」
「くらえ!もこもこアタックアーンドもこもこインパクト!!」
「ちょまっ!?ごめんって……ぅぁ………ぐぅ…………」
「このままお昼まで夢の世界を旅してな!」

よし、決まった事だし厨房に向かうか…


「……まあユウロはこのままにしておこうか」
「……そうだね………ねえアメリちゃん、サマリってあんな性格だったっけ?」
「サマリお姉ちゃんってリンゴお姉ちゃんみたいに時々こわいんだよね……」
「うっ……それは言わないでアメリちゃん…」
「はははは……」


…なんかまだ言ってるけど気にせずお昼ご飯の準備の手伝いをしに行くことにした。

「ぐぅ…………すぴー…………」




…………



………



……








「つ」
「い」
「たー!!」
「おおげさだなぁ〜」
「って何してるの?」

現在13時。
そこそこあった船旅も終わり…とうとう…ジパングに到着した!

周りを見ても…着物だっけ?とにかくジパングっぽい恰好をしている人が多いのだ!!
…ってジパングだから当たり前か。しかし黒髪黒目の人がホント多いな…
それにこの町『双母』の向こう側は…見渡す限り山があるのだ。
山が多いとは聞いていたが…まさしく山ばかりだ。

「じゃ、早速祇臣に向かおうか。それともどこかに買いものでもしに行く?」
「うーん……そうだね……」

お昼ご飯も船内で食べたし、これから二人の故郷に行くわけだからそんなに何かを買う必要はない。
というかこの双母は船の到着場所であって町そのものには用が無いのだ。
ツバキとリンゴが言うには、この双母は時期によってはお祭りが行われて屋台が並びとても賑やかになったりするらしいのだが、残念ながらそのお祭りの時期は過ぎてしまったらしい。
しかも今はそのお祭りの反動なのか一番活気のない時期との事だ。なのでこの町ではなにか珍しいものを見掛けたら聞いてみる程度にしようと思っている。
だから早速祇臣に向かおうとは思うが……ちょっと確認しておこう。

「そうだ…ここから二人の故郷の…『祇臣』だっけ?どれくらい掛かるの?」
「そうだね…1時間後にこの町を出発するとして、何もなければここから山道に沿って歩けば夜…だいたい18時から19時にはたどり着くね」


何もなければか…こういう時って何かありそうで怖いな…
でも早く祇臣に行ってみたいしな…でも夜出歩くのはちょっと怖いな…


そう思いつつも、早くツバキとリンゴの故郷を見てみたいという想いのほうが強いので、結局今日の14時には出発することにしたのだけど…
18〜19時って事は…たぶん途中でお腹空くよね……何かあったら夜ご飯までかなり遅くなってアメリちゃん始め皆のお腹が壮大なオーケストラを奏で始めてしまうかもしれないので……

「念のため軽食かおやつを買っていった方がいいかもね。そういえばわたしおいしいお饅頭が売ってるとこ知ってるからそこでお饅頭を買いに行こうよ!」
「あ〜あそこの饅頭屋の事?いいね!」
「ん?おまんじゅう?それっておいしいの?」
「もちろん!本当は熱い緑茶もあるといいんだけど…まあ祇臣に向かいながら食べるだろうからそれはまたの機会にね!」

私達は足の形だけ人間のものにしたリンゴの案内でお饅頭なるものを買いに行った…



これからどんな体験をするのだろうか?

大陸とはどう違うのだろうか?

いったいどんな事が起きるのだろうか?

そうやってこれからの旅の事を考えると、自然と元気になるから不思議だ。


それと…ジパングにもアメリちゃんのお姉さんっているのかなぁ……
ありとあらゆる場所に居そうだし、ジパングにも居る気はするけれど…はたして……


====================



「こんにちはー!!」
「こんにちは…あら?異国の方?ジパングの人もいるようね…観光ですか?」
「そうだよ!正しく言うとアメリたちは旅してるの!!『ジョロウグモ』のお姉ちゃんは何してるの?」
「私はですね…旦那様が山菜を好きなので、今日のお夕飯の材料に山菜を採りに行ってたのですよ。沢山ありますし、よければ少しお分けしますよ?」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」

現在16時。
私達はお饅頭やその他見た事のないお菓子や食べ物を買って、双母を出発した。
山道に沿って歩いているけど…まだちょっと歩いただけなのに手の様な感じをしている「紅葉」など、見た事のない木が多く見られる。
この紅葉は秋になると紅葉って言って綺麗な色になるらしい…機会があったらその時期にも行ってみようかな…

で、今もそうだけど、見た事も聞いたこともない魔物…いや、ジパング風に言えば妖怪が双母にもこの道にも結構いる。
町には妖孤とは違う狐の妖怪『稲荷』が稲荷寿司なるものを売っていた(購入してみたので後で食べようと思う)し、着物を着ているように見える(って言っても濡れている)スライム種の妖怪『ぬれおなご』が旦那さんだと思われる人と仲睦まじく歩いていた。
今目の前には『アラクネ』のジパングバージョンとも言える『ジョロウグモ』さんが居る…結構優しそうで、聞いた感じ強気で凶暴な性格のものが多いアラクネとは違う…のかな?
リンゴが言うには、ジパングの妖怪はどこか御淑やかな人が多いらしい。たしかに、目の前のジョロウグモさんもさっきの稲荷さんもそんな感じだった。

「いやぁ…おいしそうなものばかり…本当にありがとうございます!」
「いいのよ!ジパングをおもいっきり堪能していって下さいね!」
「はい!」

アメリちゃんに聞いたところ、ジョロウグモという種族は昼と夜で性格が変わるらしい。
どう変わるのか聞いたら、ユウロが「昼は撫子夜はアラクネ、昼は優しく夜はサディスティック」とか言っていたが…本当なのだろうか?

それはまあともかく……

「たくさんもらっちゃったね!」
「そうだね!でもこれってどうやって調理すればいいのかな?」

ジパングの食材…見た事無いものばかりだ…どうやって調理すればいいのだろうか?

「うーん…わたしは料理得意じゃないからな……そうだ、祇臣に着いたらわたしのお母さんに聞いてみたら?」
「え?リンゴのお母さん?」
「うん。やっぱお母さんなだけあって料理は上手だからね!わたしからも頼んでみるからさ!」

たしかに…地元の人ならわかるかな…

「じゃあお願いね!」
「うん!じゃあ早く行きますか!」

私達は、山道を更に進んでいった。




…………



………



……








「もぐもぐ……ん〜♪おいし〜!!」
「アメリちゃん、お饅頭気にいってくれた?」
「うん!!」

さらに1時間歩いて現在17時。
私達は今双母で買ったお饅頭を歩きながら…はさすがに行儀が悪いので木の根元に座って食べていた。
ここまでは特に何も起きていない。でも今までの経験上まだ油断はできない。
そうそう、経験と言えば…

「あ、そういえば前にアレスさん達とまた会ったって言ってたけど結局それ本当なのか?」
「うん。どうやらアメリちゃんが寝ている時に無意識に世界を越えるほどの転移魔法を発動させたみたいでね…アレスの奥さん達やあっちの魔王様とも会ってきた」
「アメリがライムちゃんたちに会いたいっておもったからてんい魔法がはつどうしたんだって…でもアメリまたやろうとしても上手くできない…」

ヘプタリアに向かう途中で私とアメリちゃんの二人が経験した不思議な旅…というか異世界旅行の話をしながら食べている。
ちょうどあの時はまだ一緒に旅をしていなかったリンゴもいることだし改めてその話になったのだ。

「そうか…でもまた会えるよきっと。だって実際に会えたわけだからな。それにしても…俺もアレスさん達に会いたかったな〜…でも俺がアメリちゃんと一緒に寝るのは良くないからな〜…」
「いやまあ会えたのは良かったし変な方法を使わずに帰ることができたから良かったけどさ…目が覚めたら知らない場所に居た挙句一時は帰れないかもって言われてたんだからね。ホントどうなる事かと思ったよ…自分で言うのもなんだけど私珍しくパニックになって叫んだ程だし…」

いやまあ貴重な経験が出来たのだから結果的には良かったんだけど…ホント最初は焦ったよ…
帰るときもさ……最初に言われたアレは無かったわ…なんであんな方法を進めてきたのだろうか…

「ねぇ…ちょっと気になったんだけど…今の話の内容からするとサマリとアメリちゃんは別の世界に行ったって事?」
「うんそうだよ!サマリお姉ちゃんといっしょに別の世界に行ってライムちゃんやアレスお兄ちゃん、そのおくさんたちに会ってきたの!それでこのコマはかえるときにライムちゃんにもらったの!!」
「へぇ〜。ところで、そのライムちゃんって友達?」
「うん…しんゆうだよ!!

そう言いながらライムちゃんにもらった独楽をリンゴに見せるアメリちゃん。
笑顔の中に寂しさが少し混じっているように見えるのはやっぱりライムちゃんと会うのが難しいと思っているからかな…
でも、ライムちゃんに会いに行けたのも、こっちの世界に帰れたのも全部アメリちゃんの魔力で出来たんだからきっとまた、それこそもう少しアメリちゃんが成長したら自由に会いに行けるんじゃないかと私は思う。

「ちなみにアレスってのはライムちゃんのお父さんの事ね。訳あっていろんな魔物を奥さんにしているのよ。皆愛されているようだったけどね!」
「ふーん…わたしはわたし一人を愛してもらいたいかな…」
「はははは……」

さすがに排除しようとまでは思わないけど、私もリンゴの意見には賛成かな。
まあ、アレスさんの奥さん達を見ていたら同じ人を好きだって言うならいいかって思えるようにもなったといえばなったけどね…




…………



………



……








「しかし……いやぁ…久々の饅頭はうまいな!」
「そういえばユウロは食べた事あるんだね」
「まあな。俺の生まれたところにもジパングのものあったし…そうそう緑茶もあったぞ」
「へぇ……本当にジパングじゃないの?」
「まあな」


しっかしまあこのお饅頭という食べ物…この茶色くて食感の良い生地の中に詰まっている甘くそれでいて甘すぎない餡が美味しいのなんの……誰だお饅頭を考えた人…天才でしょ!
熱々の緑茶なる飲みものがあるともっと良いらしいが…今は道中なので水で我慢しよう。


「そうそう……ねえユウロ…」
「ん?なんだサマリ?」
「私、ユウロの故郷も行ってみたいかも」
「あ、アメリも!!」

ちょうどユウロの故郷の話が出ていたから何気なしにそう言ってみたのだが…


「それは無理だ」


…即無理だって言われてしまった。

「えー?なんでムリなの?」
「なんでって…まあそうだな…」

ユウロの故郷に行けない理由、それは……




「物理的にも精神的にも無理だからな…」




…意味がわからなかった。
精神的ってのは何か嫌な事でもあって故郷でも飛び出したとか何とかだろうけど、物理的って何だ?


……あ、そういえばユウロは元勇者だったな…ってことはもしかして…


「ユウロの故郷って反魔物領?」
「あ〜……まぁ……魔物はいないな…」


…言い方が少し気になるけど……まあそういう事なのだろう。
それじゃあ今は諦めるしかないか…でもいつかは行ってみたいな…



「そんじゃあ饅頭も食べ終わったし、早速祇臣への旅を再開しますか」

全員お饅頭を食べ終わったので、早速出発しようと思ったんだけど…




バサッ……



「そこの旅人達、少し待ちなさい!」
「ん?なんだ?」


突然羽ばたく音と供に空から女性の声が聞こえてきた。
なので空を見上げてみると、そこには…

「今、この先の町で大変な事態が起きている。なので悪いがお前達の事を怪しい奴じゃないか調査させてもらうぞ」

黒い翼で、見た事のない緑色の服を着た…高圧的な態度の黒いハーピー…どこかで同じ種族だと思う人を見たことあるような…がいた。
だがその黒いハーピーが言った事が気になる…この先の町で大変な事態が起きているって…



「え!?この先の町って…祇臣の事ですよね…って事は祇臣で何かあったんですか!?教えて下さい『カラステング』さん!!」

あ、この黒いハーピーはカラステングって言うのか。ってそれはまあいいや。
それよりもだ、今から向かうツバキとリンゴの故郷の祇臣でいったい何が起きたというのか…
何か知っているカラステングさんに聞いてみたいのだが…

「それは、お前達が怪しい奴ではないと確認できたら教えてやる」
「えっ!?そんな……どうしたらいいですか?」

そう簡単には教えてくれないとは…よっぽどの事が起きているのだろうか?

「ではまずお前達それぞれの名を言ってもらおう。そうすれば我が神通力で怪しい奴かの判断は出来るのでな」

とりあえず名前を言えばいいらしい。
そうと決まれば…早速名乗りますか。

「ではまず私から。私はワーシープのサマリです」
「サマリ……元人間か………よし、お前は良いだろう」

よし、お前は良いだろうって…それだけで本当に良いのだろうか?
ていうか今言ってないことまで言わなかったか?これが神通力とやらの能力なのか?

「では次にわたしが。わたしはネレイスの林檎です」
「林檎……なるほど…夫と決めた男の事になると人が変わるのか……よし、お前も良いだろう」
「そ、そうですけど……はっきり言わないでくださいよ…」

うん、神通力って凄いね。それともこのカラステングさんが特別とか?

「じゃあ次は僕が。僕は椿、たぶんまだ人間です」
「たぶん?どういう事だ?」
「えっと…最近ほぼ毎日林檎に搾られているので…」
「そうか……椿……お前はまだ人間のようだ……よし、お前も良いだろう」
「ありがとうございます」

あ、毎日シてたんだね…そういえば船では二人別室だったもんな…なら当たり前か。

「じゃあ次はアメリが…」
「あ、あなたは大丈夫です。リリム殿でさらに子供ですので」
「むぅ……別にいいけど……」

一人だけ仲間外れにされたと思っているのか、さっきまで良かったアメリちゃんの機嫌が一気に悪くなり、頬を膨らませてムスッとし始めた。
うん、その顔もカワイイね。

「では最後にお前だ」
「俺か…俺の名前はユウロ。人間で元勇者だ」
「ユウロ………むっ?」

最後にユウロが名乗ったのだが……カラステングさんの様子が変だ。
ユウロをじっと見つめていたかと思ったら急に怖い顔になり始めた。どうしたというのだろうか?

「お前…我に嘘をつくとはいい度胸をしているな…」
「は?今のどこが嘘なんだよ。もしかしてまだ勇者やってるとか言わないよな?そりゃあ疑われるようなもんは持ってるけどs…」
「違う、それ以前の事だ」

ユウロが嘘をついた?人間で元勇者…どこが嘘だというのだろうか?
少なくとも勇者をやめていなければ一緒にはいないだろうし、人間をやめるには魔物とシなければだめだ。私やアメリちゃんと一緒に居るだけじゃインキュバスにはなれないだろうし、なれるとしても一月程じゃ無理だろう。

ではいったい何が嘘なのだろうか?と思っていたら…




「お前…名を偽るとは…怪しい奴め!」
「「「「へっ!?」」」」



名を偽る?ユウロが?どういうこと?



「お前…本当の名はよしz「今はユウロだ!いつの情報だよ馬鹿」なっ!?馬鹿だと…!!」



『よし』…ってなんだ?しかも『今はユウロ』って…

「え、つまりユウロは改名でもしたの?」
「まあな…今の俺はユウロだ。よしなんたらさんではない」

どうやら改名したらしい。
自分の名前を変えるとは…いったいどういう事だろうか?
そこのところを詳しく聞きたいが…ユウロの過去に関わっていそうだし、たぶん教えてくれないんだろうな…

「しかし…まあいい……だがお前は他にも怪しい部分があるのだ」

名前のところは一応納得してもらえたようだが、まだ何かあるらしい。



「お前…どこから来たのだ?なぜ3年前よりも前の情報が一切存在しないのだ?」
「……さあな」
「さあなだと?お前はふざけているのか?」



カラステングさんがだんだん苛立ちを隠せなくなってきているが…今そんなものはどうでもいい。
ユウロの情報が3年前より前のものが無い?どういうこと?
もしカラステングさんが私達を見て過去みたいなものを神通力の力で見ているとしたら…なぜユウロに過去が存在しないのかがわからない。
いったいユウロって…何者なんだ?

と、思っていたら…

「別にふざけてはいないけど…お前の情報収集不足だろ?」
「なにっ!?」
「だってお前たしか俺達が乗っている船を見に来てたよな?俺見たぜ?」
「なっ!?我は見られていたのか…不覚だ……」
「そもそも神通力にそんな能力あるのか?どうせ嘘発見の為に使ってたんだろ?」
「そ、そうだが……ぐぬぬ……」

どうやら事前に私達の事を確認して調べていたらしい。どおりで言っていないことまでわかるわけだ。
という事は…ユウロの過去は無いのではなく調べきれていないという事だろう。
まったく…無駄に驚いて損したよ。

「それで、祇臣で何が起きているんだ?調べてあるならツバキとリンゴの二人が祇臣出身ってわかってるだろ?故郷の事なんだからこんな茶番に付き合わせずにはっきりと言えよ」

ホントそうだ。私達の事もわかっていたようだし、二人の故郷で大変な事態が起きているのならこんなまどろっこしい事をせずに早く言ってくれれば良いものを…

「ぬぐぐ…お前が怪しい奴だから簡単には言えなかったんだ…お前が大陸の教団の者で、もしかしたらそこの二人が内通者とかの可能性もあったからな…」
「は?なんでそんな事考えて…………まさか…!?」

カラステングさんが言うには、今祇臣で…




「そうだ、大陸の教団と名乗る者達が町を侵攻しているのだ」




教団の人達が、侵攻を起こしているらしい。


「そ、そんな……」
「だったら早く行って皆を助けなくちゃ!!」
「まて!お前達は近付くな!!」
「なんだよ!?まだ疑っているのか?」
「違う!」


さらには…


「祇臣で水神として信仰されている龍とその旦那がやられた…相手は相当強いんだ!!」


祇臣に居る龍が倒されてしまったらしい。
龍と言えばドラゴンの亜種、かなり強い魔物のはず…それがやられるなんて…

「マジかよ…だったらなおさら急がなきゃいけないじゃないか!!このままじゃ皆殺されちまうかもしれないんだぞ!!」
「お前達が行って何になるというのだ!返り討ちにあうだけだ!」
「「それでも!」」

ユウロとカラステングさんが口論しているところにツバキとリンゴが割り込み…




「「自分達の故郷を…自分達の大切な人達を、自分たちで助けたいんだ!!」」
「……」



真剣な表情で、力強い目つきで、二人息を合わせてカラステングさんにそう訴えた。


「……わかった。そこまで言うなら行くが良い…」
「「ありがとうございます!!」」

そして、その想いが伝わったのか、カラステングさんは「やれやれ…」と首を振りながらも私達が祇臣に行くことを許してくれた。


「じゃあさっさと行くぞ!!」
「うん!」


なので私達は、祇臣まで急ぎ足で向かう事にした……


====================



「……ギリギリセーフか?」
「どうだろう…皆町の中央広場に集められているようだけど…」
「それにしても酷い…妖怪の皆を眠らせ縛り上げて地面に転がらせておくなんて…」
「ホントに酷い…まだ生きている分マシだけど…」
「……」

現在18時。
急いだおかげで早めに祇臣の手前までたどり着くことができた。
教団の人達が侵攻に来ているということで、正面から行かずに山の高いところから町の様子を見たのだが…

「何をする気なんだ?魔物を無視して男ばかり集めてさ…」
「でも全員じゃなさそうだね…何人か向こうの小屋に連れてかれてる…」
「一応そこまで暴行とかはされて無さそうだね…ってあれ僕の父さんと母さんじゃないか!」
「あ、ホントだ!…ってわたしのお父さんとお母さんまで!!」
「……」

町の様子は…一言でいえば酷かった。
あちこちで教団の兵士と思われる人達が、この町の住民を無理矢理歩かせてどこかに連れていっている。
見た感じ人間の女性と一部の男性、それに人間の子供達は村の奥にある大きな小屋に連れていかれている。どうやらツバキやリンゴの両親もそこに運び込まれているようだ。
また、魔物は何故か全員眠っており、広場の片隅に縛られた状態でまとめて放置されている。でも見た目的に龍だと思う人だけボロボロで気絶させられているようだ…
そして、何故か数人、男性のみが広場の中央に集められている。しかもそこに集められている人達の中にはかなりボロボロに傷付けられている人もいる…先程の小屋に連れられている人との違いは何だ?

「くっそー、人数が多くて俺達だけだと辛いな…」
「そうだね…それじゃあ一応あの小屋からどうにかしよう…幸い見張りは一人しかいなさそうだし、誰かが囮になって注目を集めている隙にあの小屋までこの山道を北に突っ切って行って、町の皆を解放できればあるいはなんとかなるかも…」
「でも…町の力自慢の人達、結構広場に集められてるよ…一番強い椿の師匠もそこにボロボロになってるじゃん…」
「それでも、人数が多ければ何とかできるかもしれない…強いのは僕達が、そうでもないのは広場に集められていない人達で何とかしてもらえばいけるかも…」
「じゃあとりあえずあの小屋を目指せばいいのね……で、囮は誰がやるの?」
「……」

町の事を知っているツバキやリンゴが居るから、ある程度上手くいきそうな作戦を即興で考え付いた私達。
この作戦で行くならば、囮を誰にするか…

まず私は無しだ。囮を出来るほどの力も俊敏性もない。
次にアメリちゃん。飛べるから機動力は一番だし魔法も強い…が子供にそんな事をやらせる気は無い。
そしてリンゴ。ネレイスだから海に行けば十分囮として活躍できるが、海はここから遠い。海に辿り着くまでに兵士に捕まったらアウトだ。

そもそも、魔物は全員眠らされている。それがどうしてかわからない分私達にまで及ぶ可能性も考えられる。

そうなるとツバキかユウロが囮をする必要性がでてくる…しかし二人は主力だし…どうしようか?


こういった感じで、ある程度作戦を立てていたその時…


「エルビ様!魔物を伴侶にしている者はこれで全員のようです!」
「ん、わかったよチモン。それじゃあ始めますか…」

広場の中央で動きがあった。

チモンと呼ばれた赤茶色の髪の青年が叫ぶと、エルビと呼ばれた金髪の眼鏡を掛けた少年が集められた男性の前まで歩いてきた。
見た感じ少年は勇者で、青年は少年の部下のようだ…って少年が勇者!?


「キミ達が魔物なんかと結婚して子供まで作ったり作ろうとしているどうしようもないクソ達かい?」
「な!?テメェ…魔物なんかt「うるさいよ。クソが喋って良いと思ってるの?」ぐあっ!!」

酷い…なんなのあの少年勇者…
自分の奥さんの事を魔物『なんか』と言われてムカついたのだろう、一人の男性が抗議をしようとしたのだが…エルビはその男性の腕を何の躊躇もなく剣で突き刺した。

「大体なんで魔物と結婚なんかしようとする考えが出てくるのさ。馬鹿じゃない?」
「うるせえ!おr「だからクソは喋るなよ!」がっ!!ぐぅ…」

今度は別の人が声を出した…瞬間、間髪いれずに顔面を思いっきり殴った。

「だからさ、ボクがキミ達クソを直々に処分してあげるよ。一番嫌な形でね」
「な…どういうことだ!?」
「今からキミ達一人一人に急所を外しながらボクの聖剣で身体を抉ってあげるよ。痛み、苦しみながら失血死してね」
「なっ……!?」

聖剣と言った事からエルビは勇者なんだろうけど…本当に勇者なのか?やっている事が酷過ぎる。どうしてここまで酷いことができるのだろうか…
それに…魔物を放置してまで何故その旦那さんばかりを傷付け、殺そうとするんだ?


「あ、そうだ。安心してよ。キミ達の死ぬ間際にはキミ達の愛しの魔物を起こしてあげるし、魔物達は殺さないでいてあげるからさ。よかったねボクが優しくて」
「くっ……」

そうか…それはよk………いや、全然良くないじゃないか!
一瞬意味が理解できなくて良かったと思った自分が腹立つよ…

それって、魔物達には自分の旦那さんが死ぬところを見せるって言ってるようなものじゃんか…最悪だ……
さらに殺さないでいてあげるって…絶対に嘘だろうな…そう言っている目が殺す気だもの。





「どうして…」
「ん?」

今までずっと何も言わなかったアメリちゃんが、突然口を開いた。
何も言わなかったといっても、アメリちゃんにはこの町の様子を見せないように一歩後ろになるようにしていたから何も言えなかったのだが…どうやらエルビの声が聞こえてしまったのだろう…


「どうしてそんなヒドいことができるの……?」
「アメリちゃん…」


アメリちゃんはちょうど真後ろに居るので表情は見えないが、声が震えていたのでおそらく怯えているのだろう…


「なんで…エルビさんは平気でそんなことを言えるの?」
「……ん?」


いや…ちょっと待て。アメリちゃんは本当に怯えているのか?
段々とアメリちゃんの声が鋭くなってきたぞ?


「みんなわるいことしてないのに……なんで!?ふざけないでよ!!


更に声を荒げ始めたアメリちゃん……ってまさか!?





「アメリもうおこった!!エルビさんなんかだいっきらい!!」


バサッ!!


「アメr……アメリちゃん!?待って!」





振り向くと…思ったとおり怒り顔のアメリちゃんが一瞬だけそこにいた。
だけど私が振り向いてすぐに、アメリちゃんは私の頭上を飛び越えて、広場のほうに一人向かっていった。
私の制止も全く聞かずに…余程怒っているのだろう。
だが…アメリちゃんが一人で飛びだしたこの状況はあまりよろしくない。

「くそっアメリちゃんのバカ…あの眼鏡きっと強いぞ…まあ仕方が無い!行くぞツバキ!!」
「うん!林檎とサマリは小屋のほうをお願い!!僕達で広場のほうは何とかする!」
「わかった…頑張るよ!!」
「うん!アメリちゃんも見ていてよ!!」
「わかってる!!」

なので私達は二手に別れて行動することにした。

広場をどうにかするのはツバキとユウロとアメリちゃん。
小屋の人達を助けるのがリンゴと私。

それぞれが自分の持つ力を最大限に使って、祇臣の町から教団を追いだす作戦を…戦いを開始した。
12/05/11 23:06更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
という事で今回からジパング編開始。あまりそれっぽくないですけどね。

ちなみに、今回の話の途中で出てきた異世界旅行の件はひげ親父さんが書いて下さったコラボ作品『幼き王女の気ままな異世界旅行』での事です。
アメリちゃんとライムちゃんのほのぼの再び&サマリあたふたなのでまだお読みになっていない方はぜひ読んでみて下さい。
面白くて僕はずっとニヤニヤしながら読みました。

という事で次回は、エルビとの決戦!無事に皆を助ける事は出来るのか!?…の予定。
進行具合によっては前回最後に出てきた関西弁もどきの人も名乗るかも。

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