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第2話「神の名の元に」
魔物は変わった。



新たな魔王となったサキュバスの魔力の影響により、魔物が人の命を奪う時代は終わりを告げた。


魔物は魔物娘となり、美しく、そして魅力的な姿へと変貌した。




だが、人間はどうだろうか。魔物の様に、変わったのだろうか。





変わりはしない。いつの時代も、人のやることは同じだ。







人間は、変わらない。












「コレール!」


ケット・シーの少女の呼ぶ声によって、リザードマンのコレールは現実へと意識を引き戻された。

「そんなにボーっとしてると、また変な輩に絡まれちゃうわよ!」

「ん……そうだな」


彼女達が今いるのは、中央大陸からあらゆる物資や人が運び込まれるウィルザードの玄関口、ルフォンである。ほんの数十年前までは荒れ果てた集落だったこの地域も、魔物娘の移民によって活気溢れる港町へと姿を変えていた。


「しかし、人間と魔物が真っ昼間から堂々と交流しているなんて、信じられない光景ですネ! 貴方達が言っていた、魔王の魔力によって全ての魔物が女性に変わったという話は真実だったというわけですカ!」

「信じてなかったのか?」

コレールが言った。

「信じられるわけないでしょウ! 私の生きていた時代じゃ魔物は人間を食料にしていましタ! そんな生き物と積極的に関わろうとする人間は、悪人か狂人のどちらかしかいませんでしたからネ!」



コレールは、クリスが自分の腕をぐいぐいと引っ張っていることに気が付いた。彼女の指差す先に目を向けると、ジパング式の技法と建材で建てられた小さな屋台があった。

「天ぷら屋台よ、コレール! ちょっと覗いていきましょうよ!」

「天ぷら? 何だそれは?」

「魚や野菜を、卵と溶き汁を小麦粉と合わせた衣で揚げたジパング料理よ! 私前から食べてみたかったの!」


魔物娘の時代が訪れると、明日の飯の種にも困る様な層が減少したこともあってか、料理文化が加速度的に発展した。ウィルザードも例外ではなく、中央大陸から海を渡ってきた魔物娘達によって、多種多様な食文化が持ち込まれたのである。



「コレール、種は何がいい?」

「何でもいいよ。お前が選んでくれ」

「それじゃあ、穴子と海老の天ぷらを一本ずつちょうだい!」

「おう、毎度!」

アカオニの屋台主はそう言うと、揚げたての天ぷらを二串、塩をまぶしてクリスに手渡した。

「どれ、お味を拝見……」

コレールは代金を払うクリスの背中を見ながら、何気無しに彼女から渡された海老の天ぷらを一口かじった。

「う……うまい! 何だこれは! 揚げ物なのにさっぱりしていて食べやすい! 衣もサクサクで、海老の柔らかさとの組み合わせが堪らない!」

「穴子の方も凄いわよ! ふんわりとした食感が病み付きになりそう! 香りの良い魚の油が口一杯に広がるわ!」

「よしクリス、お互いに交換しよう!」

「ええ、そうしましょう!」

テンションの上がった二人は互いの天ぷらを交換して、味見をした。

「「んまーーーい!!」」



自分の特製天ぷらの味を心行くまで楽しむ二人を眺めていたアカオニの屋台主は、ふと道の奥の方に人だかりが出来ていることに気が付いた。

「なぁ、お前さん達。悪いけど向こうの方が少し騒がしいから見てきてくれるか? 私が行ってもいいんだが、屋台からあまり離れたくないし、自分の場合余計に騒ぎを大きくしちまいそうだからな」

「ああ、いいぜ。美味しい天ぷらをありがとう」

コレールは快くアカオニの頼みを受け入れた。





「おい、どいてくれどいてくれ……何があったんだ? 喧嘩か?」

コレールが人だかりの最前線まで野次馬を押し退けていくと、地元人らしき男性が話しかけてきた。

「よせ。衛兵が来るまで関わらない方
がいい。ブルーエイジ派の連中がグラン派のシスターと揉めている」

「ぐ……グラタンが何だって?」

騒ぎの中心に目を向けるクリス。

三人の武装した人間が、曲線美のシスターに詰め寄っており、その間には彼女を庇う形で、薄汚れた作業服にゴーグルとバックパックを携えた、珍妙な格好をしたエルフの少女が立っていた。



「シスター。明日にでもここの教会をたたんで、我々と共に来てもらおうか」

「シスターに構わないでよ! 貴方達とは関係ないでしょ!」

三対一であるにも関わらず、果敢に啖呵を着るエルフの少女だったが、男の1人に突き飛ばされて尻餅をついてしまった。

「これ以上人々に間違った教えを広めさせるわけにはいかん。それに、『関係ない』はこっちの台詞だ。教団の身内同士の問題に首を突っ込むな、エルフ!」

「……賄賂も受け取る気がないっていうなら、仕方ないわね……」

エルフの少女は小さな声で呟くと、腰に取り付けてあるホルダーから小型のクロスボウを取り出そうとする。男達は思わず身構えたが、少女が完全にクロスボウを抜き出す前に、その白い腕を鋭い鱗に覆われた手が握り締めた。

「わっ! だ、誰!?」

「街中でそんなものぶっ放そうとするんじゃねえよ……ここは私に任せろ」

コレールはそう言うと、薄汚れたコートの襟を整えて、三人の男達と対峙した。

「おいアホ共……お前らの目的なんざ聞かなくても分かるぜ。全くどうしようもないやつらだ」

「何だと……?」

男の1人が怒気をはらんだ声を放つ。



「お前ら……このシスターに適当な因縁付けて、三人がかりでエロいことしようとしてるんだろ! 凌辱系のエロ漫画みたいに!」

クリスは急いでコレールの元へ駆け寄ると、魔杖で彼女の尻を思い切りひっぱたいた(ベントが『ほげぇ!』と叫んだ)。

「何アホなこと言ってんのよ! 事態が余計ややこしくなるじゃない!」

「いーや! 男が複数人がかりで若い女に絡む理由なんざ他に無いね! 大体あんたもだぜシスター! いくら地道な修道服だからって、そんなボディライン出してたら、そりゃエロいことの一つや二つ、したくもなるだろ!」


「ご、ごめんなさい……」

シスターは訳も分からず、取り敢えず頭を下げた。

男達は、自分らを見つめる野次馬の視線が恐怖から軽蔑の意思を込めたものになっていることに気が付いた。

「貴様……余所者の分際で我々をコケにするとはオベゴッ!」

憤慨して鞘から剣を引き抜こうとする男の顔面を、コレールの拳が容赦なくぶち抜く。

「私の小粋なエロジョークでこの場を丸く納めようとしたのに……わざわざ暴力沙汰に持ち込もうとするなんて、馬鹿な奴だ」

膝から崩れ落ちる同胞を目の当たりにしたもう1人の男が、怒号を挙げて斬りかかろうとしたが、その足を踏み出す前に、氷で出来た砲弾が3つ程彼に襲いかかった。

「おいクリス! 今のお前がやったのか!? すげえなおい!」

氷の爆発の衝撃で失神した男を見ながら叫ぶコレール。

「た、確かに私が得意なのは氷属性の魔法だけど……ここまで威力が増すなんて思ってなかったわ……」

「イェーイ! 今の見ましたカ? これがマスターウィザードである私ベントの底力ですヨ!」

「くそっ!」

まともに戦ったら勝ち目が無いことに気が付いたのか、最後の1人となった男はシスターの服をつかんで無理矢理自分の方に引き寄せると、懐から銃を取り出した。

「危ない、シスター!」

「動くな! 動いたらこの女をころーーぐああぁっ!」

クリスは慌てて魔杖を振り上げたが、男がシスターのこめかみに銃を突きつける前に、風を切って飛来した弓矢が男の腕を貫いた。その隙をついて、コレールがシスターの手首を取って自分の方に抱き寄せる。

「く……そっ……!」

「そこまでだ! この無法者め!」

ようやく騒動の現場に到着した衛兵達が、男らから武器を奪い、その身柄を拘束する。

周りの安全を確認したエルフの少女は、ズボンの埃を払うと矢の飛んできた方角に向かって大きく手を振った。


「ありがとう、! 衛兵が来てくれたから大丈夫よ。降りておいで!」

エルフの少女は手を下ろすとコレールの方に振り返り、にっこりと笑って手を差し出した。

「助けてくれてありがと。貴方、勇気が有るわね」

「ただの気紛れさ」

コレールは差し出された手を握りしめながら答えた。

「私の名前はペリコ。この子は弟のパルムよ。こう見えて弓矢の名手なのよ」

ペリコの元に駆け寄ってきたのは、背丈がコレールの腰の辺りまでしか無いエルフの少年だった。髪は眩い朝日の
様な金色で、顔の大部分は赤いスカーフで隠されている。コレールが顔をよく見ようとすると、顔を赤らめて姉の陰に引っ込んでしまった。

「コレール=イーラだ。今こっちに歩いてきてるのはクリス。旅の連れだ」

コレールが自己紹介していると、ペリコは、クリスと一緒に衛兵も近寄って来ていることに気が付いた。

「衛兵には私が事情を話しておくわ。貴方はシスターを教会の中で休ませてあげて」

ペリコはそう言ってコレールの肩をポンと叩くと、険しい顔つきの衛兵に向かって話しかけ始めた。



ーーーーーーーーーーーー


夜になって、ようやく落ち着いた若いシスター(名前はフリアと言うらしい)は、質の悪い連中を追い払ってくれたお礼として、二人を教会に泊めてくれることを約束した。

「先程は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました」

「気にしないで。困った時はお互い様よ」

クリスは得意気に言った。

「ところでお二人は、なぜ中央大陸からこのウィルザードへ?」

「あぁ、それがですネ、お二人は魔王の指示でウィルザードの近くから発せられた異質な魔力の根源の調査をーーブギッ!」

コレールはベントの魂の器である宝玉をクリスの杖から取り外して、そのまま長椅子に叩きつけた。

「まぁ、ちょっとした物見遊山だよ」


「ちなみにその魔力の根源ていうのは、他でもない私が発していた魔力でしてーーアアアァァアッ!!」

コレールは宝玉を長椅子に削り取るように擦り付けた。

「らめぇっ! 体積減っちゃウ!」

「それで、そもそも連中はどんな理由であんたにちょっかいを出してきたんだ?」

フリアにそう言うと、コレールは出された紅茶を勢いよく飲み干した。

「はい……説明しようとすると、少し長い話になってしまうのですが……」


シスターの話を簡単にまとめるとこうだ。

十数年前から、魔物娘の勢力拡大によって中央大陸での影響力を失いつつある主神教団は、再起を賭けてウィルザードへの入植を進めていった。

教団の手によってウィルザードへ送り出された入植者達は、フロンティアの開拓を進めていき、やがて開拓地に(ウィルザード王の承認無しで)「神聖ステンド国」という国を設立した。

だが、国の上層部が奴隷ビジネスを積極的に利用したり、旧態依然の政策を強引に実行しようとするなどの問題が噴出し、内部での意見の食い違いによる離反や抗争が頻発する自体となる。

最終的に外部の魔王軍からの干渉も手伝って革命が勃発し、その後ステンド国の中からそれぞれ異なる主張をする3つの勢力が生まれることとなった。

1つが聖書に書かれた「隣人愛」の定義に魔物娘を加えることで、信仰を捨てることなく、魔物娘とも友好的な関係を築いていこうとする「グラン派」、2つ目が主神教の教えに敬意を示すことを約束する魔物娘のみを受け入れ、魔物娘の排除活動を禁じることで、あくまで中立の方針を貫こうとする「中立派」(今現在国を動かしているのがこの派閥である)、そして3つ目が、先程フリアと揉めていた、魔物娘の人としての権利を認めず、昔ながらの主神教の教えに倣って魔族を積極的に排除していこうとする「ブルーエッジ派」である。


「私はルフォンに訪れる旅人達に、グラン派の教えを説いておりまして……以前からブルーエイジ派の方々からは手紙などで脅迫を受けていたのですが……あのように直接脅しにくるのは初めてのことでした」

フリアが重いため息をつくと、ベントが甲高い声で話し始めた。

「まったク! 主神教団の連中ときたら、まだ私の肉体が存在しタころから何一つ進歩していませんネ!」

「確かにそうかもしれません。ですが、少なくとも彼らは信念の名の下に戦っています。そのような信念すら持たず、己の欲望のみに従って、他人を傷つける様な者も、この地では決して少なくないのです」

背後から突然響いた他人の声に、コレールは素早く反応した。

「何なんだアンタ……『アオオニ』みたいだが、私たちの話を盗み聞きしてたのか?」

「はい。突然申し訳ありません。私はイージス家の執事を務めさせていただいている、シオンと言う者です」

コレールはフリアにちらりと目配せをした。

「大丈夫です。家長のアルフレッド=イージス様は、この教会の建設費を寄付して下さった方で、シオン様とも既に知った仲です。何が事情があってここをお訪ねになられたことでしょう」

コレールはため息をつくと、ゆっくりと長椅子に腰かけた。

「それで? その執事様が私たちみたいな余所者に何の用事があるっていうんだ?」

「はい。実をいうと先程、貴方達がブルーエイジ派の兵士らを無傷で叩きのめした所を、アルフレッド様と見させていただきました。つきましては、その武勇を誘拐事件の解決に使わせて頂きたいと考えております」

「誘拐事件?」

コレールは眉間をピクリと動かした。



ーー続く。
16/08/07 22:24更新 / SHARP
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■作者メッセージ
\やめて! シスターに乱暴するつもりでしょう! エロ同人みたいに!/



ペリコは自分のお気に入りのキャラだったので、このSSでも殆ど設定を変えずに出演させています(メインキャラにするつもりはありませんが)。同様な形でリネスもその内復活させたいなと思っています。

そしてやっぱり、旅の醍醐味と言えば、地元のグルメですよね。今後もコレール達には様々なグルメを味あわせていきたいと思っています。


次回の更新では、コカトリスのSSを書くつもりです。fvoさんがあんなえっちぃSS書くからいけないんや(誉め言葉)。

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