場所:『入り口』 BACK NEXT

正門から、魔法の札によって転移させられた十名――いや、九名。それは各々別々な場所に飛ばされたようだ。
「……っつ!何が……」
「一体ここは何処……」
大凡このようなリアクションをして目が覚める兵士達は、次の瞬間には気が付くだろう。
目の前に扉があり、そこにデカデカと書かれたアルファベットの文字が。それらは全て、札が作り出した転移方陣に書かれた文字と一緒であった。
それぞれのアルファベットと対応する人数は以下の通り。
『A』:1人
『B』:1人
『C』:3人
『D』:2人
『E』:2人
「くっ!分散させられたか!」
「良かった、地図は無事だ……役に立つかは分からないが……」
領主に対して怒りを募らせるもの、現状の打開策を練るもの、覚醒後の反応は様々であったが、斯くして、部屋は振り分けられ、全員が意識を取り戻した。
それを見計らったかのように、突如として各部屋のドアの上にある、ジョイレイン家の家紋――ハリボテを着た狐――の瞳がピコンピコンと輝き、そこから……この灰色の石の壁で囲われた、ドアが一つだけの円形の部屋の中に、場違いな程に甲高く……苛立たしい声が響きわたった。

『――にゃっははははははははははははははははははヴえほっ!えほっ!えほっ!……ぁぁ長い高笑いはダークエルフの特権かな。メガ無理ギガ無理テラ無理。メガ無理ってメガマリに似てね?
と言うことでようこそウェルカム2あわもてなす準備?何それ美味しいのハウス俗称『クラウン・ピエロット』♪アンウェルカムな皆さんには此くらいが上等?下等?コーヒーは無糖。最大珈琲は超加糖♪皆さん糖尿にお気をつけィ♪』

……何だこの阿呆は。恐らく誰しも思うだろう。いきなり出し抜けに声だけ聴かせやがって。しかもその言葉は何なんだオイ。そんな心が彼らの中に渦巻く中で、声の主はさらに煽るようにはやし立てる。

『くすすっ♪ゑ々この度は当ラストアトラクションにバカ正直に正面突っ切っていただき感謝感激御礼増刷インフレーションっ!流星に跨がれ青春!けららららっ♪
マイマスターはひねくれ者でルールも普通に厳守(まも)るような人じゃないんda☆だけど、ゲームをノーカウントにはしないから覚悟だけはお願いな☆にゃっははは♪』

巻き起こる罵声。それは一部の報酬目当ての人物達から起こっていた。寧ろ大半は、この得体の知れない、奇妙な声の持ち主をどうしてやろうかと今後の指針を定めていた。まずはこの部屋をどう出るべきか、それを考える彼ら。真正面から出るのは相手の思う壺。ならば……!

「……っらああああああa」

ある武闘派の戦士が、そのまま壁に殴りかかった。武器はパイルバンカー。他に出口を作って出れば、少なくとも相手の裏を掻けるだろう。そう振りかぶって、石の壁に杭状の武器を打ち込もうとする。
「――っな!おい!抑え――!」
仲間が収めようとするが、もう遅い。彼の武器は、既に石の壁を抉り――その場に巨大な魔法陣を描き出させていた!
「――aなっ!」
反応する間もない。打ち出した勢いをそのまま加速度に変えたように、パイルバンカーの男は壁に描かれた魔法陣の中に飲み込まれて……消えた。
「……っつっ!」
同じ部屋――『C』にいた男二人は、消えていく男に何も出来ず無力に眺め――憎々しげにジョイレインの家紋を眺める。ピコピコとあざ笑うように明滅する光にどうしようもないほどの苛立ちを感じ、一撃を加えてやろうと動きたかった彼らだが、先の例があるので動くに動けなかった。
『にゃっはははははは♪ハイ没シュート♪ダメダメぇルールブックすら持ってないのに勝手に動いちゃあ……ね♪そもそも私、I、俺、ウチ、おいどん、まぁどれでも良いけどにゃんにも説明してないじゃない♪くすすっ……もぅ、知識がなきゃ動けないアトラクションの中だよ?』
「アトラクション……だと……ふざけるなっ!俺達を何だと思ってやがるんだ!」
目の前で消えていった仲間。それをあざ笑うような腹立たしい声に、Cにいた男は怒りの声をあげる。当然、その声は他の部屋に届くわけではない。だが他の部屋に対して、家紋からの声は届く。何が起こったか、既に全員は理解していた。
怒りの声に対し、明るい――だがどこか興味がなさそうな声でその声は答えた。

『ハイ、CのMr.トンファーキックさんからの質問が来ましたよぉ「俺達を何だと思ってやがる!」。ん〜ドリル君っていえば良かったかな?けららっ♪
……逆質問は失礼だから割愛するとして、キミらは領の支配層をボク含めて全員でぃ〜すとろ〜するつもりなんでしょう?あ〜ダメダメ改宗する気なんて1Åも無いからその言い訳はvainだよ?だよ?それに最初からさせる気無いでしょ?じゃなきゃ表も裏も祭り以外火遊び厳禁な場所でスターマイン盛大に打ち上げないじゃん♪
にゃっははははははは♪と〜ぜんU understand???この世の契約は対価アリってね♪ミィらをぶっころ♪をご所望ならテメェのタマぁ賭けて来いってんだ♪まさか相手に無抵抗でいろなんて思ってないよねぇ?ねぇ♪くすすっ♪まぁなんて都合の宜しい頭ザンス♪けららっ♪

……阿呆が。神に言われたって御免だね。
つーわけで、何者かじゃない……敵だ。派手にドンパチぶちかました以上、テメェ等に容赦する義理もねぇよ――分かったかな?Cの頑張れドリル君二号♪』

軽薄かつ発狂したような口調から一転、ドスを利かせた重々しい声で明らかに敵と宣言された男達。しかも神すらも扱き下ろして。つまり、本気でこの得体の知れない輩は殺しにかかるだろう――。
憤然とするもの、愕然とするもの、リアクションは様々だが、声は、それらの顔や態度を確認する気もなく、そのまま声色を変えてルール説明を始めた。
『ハイッ、ツー事でルール説明いっくよ〜♪
まず皆さんには、扉を開いて扉の先のアトラクションに挑戦してもらいまっす♪その先にこの部屋の出口がありますのヨ♪そうしたらあちきらを自由に探して下さいな♪にゃっはははははは♪
ただし一つ♪この'クラウン・ピエロット'の備品はぁ……壁含めて壊したららめぇよ♪ボクチン泣いちゃうし♪勿論泣かしたかったらどんどん壊しちゃって良いけど、あとはしーらないっ♪』
無論、あの様を見てしまったら、誰も進んで壁を壊そうなどと思う奴は居ないだろう。それを分かった上で、この声は嫌らしく説明しているのだ。根性悪く。
兵士達の心情は、誰もが切れかけているのは間違いないだろう。だが、既にこの場所にいる以上、道は限られていた。
『お代はボクらか、それともキミらか……くすすっ……けららっ……にゃっっはははははははははははははははヴぇほぇほっ……♪』
……微妙に締まらない言葉と共に、狐の目の光が消える。同時に、ドアがかちり、と音をたてて開いていった。どうやら、既に賽は投げられたらしい。
一人部屋以外の男達は顔を見合わせ――全員扉の外に身を潜らせていった……。



「……ヴえほっ、えほっ……やっぱり高笑いは慣れないよ姐さん……。
くすすっ♪さぁて、最高にバカウケな時間を過ごすのは、一体誰?Who?溜め息にはまだ早いねぇ早いねぇ♪けららっ♪

……さぁて楽しい愉しい寿命……じゃなくてショウの始まりだよっ♪御覧在れ♪歓楽だ♪愉快な至楽キネマ……にゃっはははははははははははははははヴぇほっ、えほっ、えほっ……」


ENEMY:13(-1)
10/03/03 18:58 up
狂った表現というのも、中々に大変だったりして。

さて、次はAです。
初ヶ瀬マキナ
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