連載小説
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出会い〜その1ですっ!〜
 




「うっ…、うっ…。」

暗がりの路地。片側は住宅が並んでおり、反対は公園がある。

電灯がつかなければ危険だと見なされる暗い中で男、泰華は捜し物をしていた。道端に這いつくばりもう一時間半、二着しかないスーツのうちの一着はもう様々なところが汚れている。

会社ではダメだと言われつつも今日は少し早く帰れたのに。

泣いてはいない、今泣いてしまったら全て壊れてしまうような気がする。

焦燥。自分の事ながらどうなるか分からない心情にただただ焦るのみで、捜し物があっても見落としているかもしれない。
混乱。もし見つからなかったら、家の鍵が見つからなかったらどうすればいいんだっけ?大家さんに連絡して怒られはしないだろうけど高くつくだろうな…。
諦念。もう何もかも放り出して逃げたい。怒られるだけの仕事も今の家も自分の人生も。別にもう良いんじゃないか、十分人生は楽しかったから。

「ないよぉ。」

ダメだ、そんな親不幸なことできない。
一人息子だから心配もかけられないし、頑張って生きなきゃ。生きなきゃ。生きなきゃ。

「おい。」

「そろそろ電話しないと…。大家さんかな、管理会社かな。会社だろうな…。もう閉まってるかな。ネカフェ…今いくらあったっけ。早くしないと寝ないで出社になっちゃう…。」

「おーい!!」

後ろで爆発みたいな声がした。
もしかして自分を呼んでいるのかと思い恐る恐る後ろを振り返る。
因縁をつけられていたらどうしよう。
怖い人、危ない人、警察、どれが来てももう自分の今の容量では対応できない為一種の覚悟をもって振り返ったのだ。

そこにいたのは。

「綺麗…ですね。」

とっさに出てしまった言葉だ。現在の時刻からなる暗がりなどでは決して薄れない漆黒、頭の上には耳が生え、二つの丸い深紅の目。
顔はもちろん、体つきは増して女性という形で出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。

「…はぁ?」

鮮血より少し濁った色の目が闇夜でこちらをのぞいているとぞっとし動けなくなるも目が離せない妖艶さがあった。
しかし、レスポンスがなければ進まないのもまた確か。
見上げる形で泰華はとりあえず謝罪から入った。

「す、すみません。気に障ったのなら謝罪します…。」

「お前、なんか探してるのか?」

「えっ」

いや、そうだ、この様な姿であれば容易に想像がつくであろう。
ましてや、目の前の美人が自分をどのくらい見ていたのかも分からないのだから。

「コンタクトか?」

「い、いえ違います。」

突然の質問だがどぎまぎしつつも答えられた。

「うーん、アクセサリーか?」

フルフルと首を振るがドンドン質問が投げかけられる。

「なら財布か携帯か、うーんとそうだな。…鍵か?」

「か…ぎです。もしかしてここら辺で拾われましたか!?」

「あっ、いや」

ばつが悪そうに頭をかき少し恥ずかしそうに話し始める。

「ごめんな。そのなりで泣き目だから転んでコンタクト落とした、でなければ泣きたいほど困るものは思い出の何かで代表をアクセサリー、そっから本当に困るもので適当に言っただけなんだ。」

「そう、ですか。」

少し考えれば分かることだろうか?
いきなり様々なことを察した目の前の女性とは違っている泰華には驚きが押さえられない。

「少し希望を持たせちゃったか…」

「そ、そんなことは!凄いなぁと思いまして。」

また現実に、鍵を無くしたままの現実に引き戻される。
途端に涙がこみ上げてきた。
人と話して、現状を理解して、情けなくて。

「お、おいおい泣くなって。…あぁ、もう仕方ねぇな。」

泰華の方に歩み寄りしゃがむ。
大きな胸が目の前で上下に軽く揺れるが今は全く意味をなさない。

「どこで落とした?絶対この路地なのか?」

「そ、そうです。」

改札では電子カードで払うためにポケットを弄った、その際にはあった。

「転んだのか?」

「こ、転んではないです。」

大きな爪の生えた手で涙を拭ってくれる。女性の動きは非常に器用で涙だけ綺麗に拭われた。

「す、すみません。」

「良いって、それでこの路地では止まったのか?」

「は、はい。空き缶が三本くらい転がっていたのでそれを拾ったときに…。」

「そうかい。」

女が視線を左右に流すと公園のごみ箱が見つかる。
泰華の頭をポンポンと軽く叩き下を向きながら軽く歩き回り、探して始める。
もちろん、泰華が死ぬほど探した為に見つかりはしない。

「ここら辺ってどんな人が住んでるかわかる?」

「…は、はい?」

「良いから良いから。」

「お年寄りは多いと思いますがほかは普通です。」

「ふーん…。」


塀に囲まれている住宅が多い中、ゆっくりと歩き女性は塀の上を触る。
塀の高さはそれほどでもなく175はあるだろう人物は手を添えると言ったかんじになろうか。

しかし、それは8〜10メートル歩いたところで。

「…あった。」

「えっ!!?」

すぐに立ち上がり、漆黒の女性に駆け寄る。
するとその手には、手と比較すると非常に小さな、鍵が握られていた。

「それですっ!」

「良かったなぁ。」

女性はそれをほいと渡して少し微笑む。

「でも、なんでですか。」

「いや、まぁ下にないとしたら誰かが拾ったんだろう?作りからして自転車等の鍵でないとすると家の鍵。」

そして泰華の前に指が三本たった大きな手が差し出される。

「拾ったのがもし、人間ならとる行動は3択。拾ってすぐ、ないしは明日には警察へいく。拾って処理に困り落としたままにしておく。そして、塀の上に上げておく。ほら、冬になると手袋とか塀の上に置いてるの見たことないか?拾ったは良いが責任を追いたくない、けれども良心が痛むなんてところではないかな。」

まぁ、年寄りが多いならあるいはと。
いとも簡単に見つけられ唖然とするが確かに下しか見ていなかった泰華には絶対に見つけられないものだった。

「まぁ、まず持ってったのが人間でないならお手上げ。可能性の一つ目で言った明日の警察もお手上げ。お前の日頃の行いが良かったんだな。」

「そんなことは…」

「まぁ、自分を誇れよ。ちゃんと自分の行動思い出せたこと、見つかった運にな。」

何回目かの唖然を経験している泰華を後目に女性はうんうんと自己完結したと思えば時計を見ると慌てる。

「あっ!やばっ、見つかってよかったな!あたしは行くぞ。」

待って下さい、喉から出ようとする言葉はもちろんこれだったが走り出した女性は早かった。

「待ってく…。」

既に20メートルは離れていたため声は届かなかったようだ。

「行っちゃった…。」

手のひらの鍵を見て、彼女のことを思い出す。
大きな手は暖かく非常に安心できた。

「…お礼しなきゃ。」

彼女はスーツを着ていたため恐らくここが自宅への帰り道であろう、なんてことは一切考えず泰華の思考は染まっていた。

“感謝してもしきれないこの言葉を絶対に伝えたい”


ーーーーー☆ーーーーー


「今日は帰ってこないのかな…」

実は名前も、当然連絡先なんて知る由もないため出会った所に立ちあえることを信じるしかなかった。

仕事は辛いが、休むことはできないため終わった後しか立つこともできない。
つまり、それより早く帰っていれば無駄になる行為だ。

だが泰華は信じていた。どう考えても彼女のお陰なのに運が良かったと流してしまえるあのカッコいい女性。
あの人が運が良いと言ってくれたのだから信じなければ。



そうして1日1日は過ぎていった。



五日目。
今日も来ないだろうとは思いつつ立ち始めた。
といっても彼女が来るかどうかなのでぼーっとしているだけなのだが。

「会いたいなぁ。」

もちろん、お礼のためであって決してお近づきになろうとはないけど。いや、なれるなら越したことはないよ。越したことはないけどまずはお礼だよ。
でも綺麗だったよな。彼女ってヘルハウンドって種族かな?
なら僕みたいな弱い人間は相手にされないか。
いや、お礼を言えればそれで良い。少しだけお金もあるし。そもそも自分より背の低い男の人なんてイヤだろうな。
い、いやあくまでもお礼だから。


などと前四日と同じように自分で思いを巡らせていると遂にその瞬間がきた。

気づいたのはもちろん、泰華。遠目でも分かるあの深紅の目を見つけた瞬間に声を上げた。

「いたっ!あのー!」

「えっ!?なんだ!?」

こちらに気づいたかと思えば驚いている。
それはそうだと思い一刻も早く感謝を伝えるべく走った泰華だが。
彼女の手前3メートルの所まできた、刹那、全く気づかないうちに彼女は泰華の懐付近まで潜り込み腕をとって捻り上げていた。

「いててててててっっ!」

「いきなりなんだお前っ!」

泰華を見た瞬間、目を丸くする女性。

「お前は…」

力が解かれると同時に爪先立ちになっていた泰華はしりもちをついた。

「いてっ!…あっ、先日は本当にありがとうございました!」

立つ前から頭を下げつつ思いを爆発させる。

「本当に助かりました!どうしても一言お礼をとおもいまして!」

「待て待て待て、腕大丈夫か?」

驚き半分、心配半分で話しかけてくる女性。普通のことだろうがもう泰華には優しさがじんわりと染みていた。

「はい?あぁ、僕が悪かったので気にしないで下さいっ!」

「そ、そうかい」

少し引かれているのか女性は困ったような顔をしている。
とりあえずお礼をしなければ、なにかに取り付かれように泰華は話す。

「お礼を、なにかしらで。」

「良いって、あんなん誰でも見つけられるんだから。」

「でも、見つけて下さったのはあなたです!」

「そりゃ、お前の運が良かったからだと。」

「運があなたを導いてくれました!」

「…じゃ、もしオーケーしたらどーする気だよ。」

「えっと…ご飯をおごらせて下さい!何でも良いです、フルコース料理でも!満干全席でも!」

もうナンパしている勢いで、半分口説いているとしか考えられない切り返しでなんと泰華が押し切っていた。
少し睨んだり、嫌そうな顔をしてみる女性だが泰華には全く効果が無い。泰華には悠久ともとれる時間が過ぎるがそれはほんの数十秒。
そしある種諦めたように答えが返ってきた。

「…はぁ、分かったよ。」

一拍、泰華は飛び上がるバネをつけていた。

「〜っ!やったぁ!!」

端から見れば宝くじにでも当たったかのごとき喜び方で飛び跳ねる泰華。
そこまで喜ばれると女性も苦笑してしまうが、重大なことに気づく。
今聞いて良いものなのだろうかと思うが、もし知られていたのなら逆に気持ちが悪いので今しかないだろう。

「てか、あたしの名前知ってるのか?」

「わぁー…すみません。」

平謝りというモードが着いているのだろうか。謝るターンにはいると本当に申し訳無さそうに謝ってくる男。
泰華は必死に頭を下げるが女性はもちろん気にしていない様子だ。

なぜなら彼女がおおらか故に立ち止まって少し狂っているような立ち居振る舞いの男とはなしているのだから。

「僕は幸谷泰華といいますっ!」

緊張で震える手を前に差しだし握手を求める。
少し考えて、小さな手を握り答えるは女。

「あたしは茜華、名里籐茜華だ。」

17/12/12 20:27更新 / J DER
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■作者メッセージ
まんま出会いですね

全体を通してですが別にヘルハウンドさんでやる意味がないと言われるとそれまでです
私が好きなのでやってるだけです!本当にすみません

パートは3まで行くのかなぁと言った感じですね
それでは。

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