連載小説
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愛、伝わってますか?
「えっ、それ先輩が作ったお弁当ですか?」

「そ、そうだが。」

「?」

男が3人で話しているのは車の中。男達は市役所勤めで、今は外回りの休憩時間であった。

「譯先輩って結婚されてましたよね?」

「しかし昼飯くらいは作るぞ。」

若干ゴツい譯(やく)と呼ばれる男に話しかけている幸谷 泰華(さちたに たいか)は感心していた。
自分は、同棲している彼女に作ってもらったものだ。

「幸谷先輩は料理しないんすか?」

「そういう訳じゃないけど…。」

泰華を先輩と呼ぶ来瞳(くるめ)はコンビニのパンとジュースだ。

「そりゃ、朝は忙しいな。妻の仕事が忙しい時期は俺が夕飯も朝飯も、こうして弁当も作る。」

「俺なんか彼女に色んなことを甘えっぱなしですよ。 譯先輩流石っす。 」

「そんなことはないと思うんだがな。」

泰華はホッと胸をなで下ろす。自分だけではなかったと思っていたが次の来瞳の言葉で打ち砕かれる。

「まぁ、その分自分はマッサージ、背中流すとかとかして上げてますが。」

「そうだな。俺も妻は肩こりが酷くてよく揉んでやるぞ。」

「…」

玉子焼が旨いと感じる。泰華の恋人が作った玉子焼が。

「このご時世、家のことは女がとか無理ですよ。男もしっかりしないと!」

「押しつけるわけではないが、関白などは確かに古いな。というか幸谷の家はそうなのか?見かけに寄らないな。」

「いえ、そう言うわけでは…。」

頼んでいないだけの何でもして貰っているのが関白でなければの話だ。
よくよく考えると自分は駄目なのではないか?
同棲までしているのに既に甘えっぱなしではないか。

「幸谷先輩もやった方が良いですよ。マジ愛想尽かされたら終わりです。」

「やめんか来瞳。人様の家庭に口を出すな。」

「ですがぁ。」

そんなこんなで昼休みは終わり仕事に戻らなければならなかった。
だが、泰華の頭の中には来瞳の言葉が渦巻いていた。



自分もしっかりしなければ愛想を尽かされてしまう…?



ーーーーー☆ーーーーー


その夜、トボトボと家路を歩いていた泰華に後ろから声がかかった。
呼ばれた方、つまり後ろを向くと女性がいた。

「泰華!おかえり。」

「あっ、茜華さん。お疲れさまです。」

「おう!泰華もな。」

名里籐 茜華(なりとう せんか)は泰華の恋人。
勤め先からの帰りで泰華と同じくスーツ姿だ。
ジャケットは肩からかけ、白のワイシャツ姿で袖を捲っている。だが非常に盛り上がった胸がアンバランス感を演出していた。
下はパンツスーツで長めの足が余計綺麗に見える。

「どうした?トボトボ歩いて。」

頭の上の耳はピコピコと動き、赤い二つの目がのぞき込んできた。
泰華の頭が大きな爪の生えた手に撫でられる。
地肌は黒く、真紅の目が輝き出るところは出ている。

茜華は人間ではなく、ヘルハウンドという魔物娘であり人間に犬科を足したような見た目であった。 

「…何でも無いです。」

「何でもないこたぁないだろう?あたしにも言えない事なのか?」

ん?と顎を撫でられ優しげな目を向けられる。

「実は…」

しかし、思考が立ち止まる。
ここで打ち明けるとまた優しく包まれ結局甘えてしまうのではないか?
そう考えると口に出すのがはばかられた。

「何でもないです!」

笑顔を作り恋人を見上げた。泰華は身長が、本人談で、少しだけ小さいのに対し茜華は高めの男性くらいある。
つまり、見上げる形となってしまうのだ。

「そうか?んじゃ、帰ろう!」

腹減ったなぁ、と話題を作りつつ二人は歩き出す。
しかし、泰華が時折見せる違和感に茜華が気づかないわけなかった。


ーーーーー☆ーーーーー


家に到着し、泰華は一足先に着替えた。
キッチンへ行くとスーツの上から黄色いエプロンをした茜華が少し忙しそうに料理をしていた。

「おっ、泰華お疲れ。今日は昨日作っておいたハンバーグにシチューだからな。先に風呂入るか、暇ならテレビでもみときな。」

手元ではカチャカチャと慌ただしい音がたっているが自分へは労いの言葉しかかかってこない。
言われれば手伝いはするが殆ど頼まれない。
泰華は一つ決心して申し出た。

「茜華さん、僕なにか手伝うことありますか?」

いきなりの事に一瞬間が空くがすぐに返事は返ってきた。しかし、それは断りの内容で。

「んーと、大丈夫だな。ハンバーグは焼くだけだしシチューなんて切って入れて煮込めば終わりだからな。」

「そうですか…。」

「そんなに腹減ってたんだな。今すぐ作るからもう少し待っててなぁ。」

若干のあやし声が入りまた作業に戻る茜華。
その後ろ姿をじっと泰華は目で追う。

「泰華、どうした?具合でも悪いのか?」

「そんなことはないです。」

恋人の言わんとしてることが分からず、取り敢えず目の前のことを片づけていくがどうも視線が気になってしまう。

「じゃあ、泰華。話し相手になってくれるか?」

「…はい、もちろんです。」

雑把な提案だが断る理由がない。引き受けると茜華は話し始めた。

「今日泰華は仕事どうだった?」

「特に問題ないです。ただ、誘致してる企業が中々結論を出してくれなくて。」

「そっか。難しいよなぁ、自分がいいと思うことを相手に伝えるのって。」

「そうなんです!企業サイドは色々な事を考慮しなきゃいけないのは分かるんですが、デメリットばかりを見過ぎだと思うんです!」

「ははっ、なら泰華がしっかりそれを伝えないとな。」

いつも職場の人間とは愚痴、文句になりつつあったこともしっかり解決に向けての話にしてくれる。
そんな茜華との話から少しではあるが進展した仕事も少なくない。

「茜華さんはお仕事どうなんですか?」

「あたしはなぁ。今度は…まぁまたかなりの価値のモノを守る仕事だ。」

茜華の仕事は魔物娘のみで形成されるボディガードや国宝を始めとする価値のあるものを運搬する時の護衛派遣だ。

派遣といっても精鋭が揃っている小さな会社であり、業界でも事故率は限りなくゼロに近い。

「守秘義務ですね。」

「すまんな、こればかりは。」

どこで何が届けられる、あるいは人を守護するかはたとえ家族でも言えないのだ。

泰華もよく分かっているため何の支障もない。

「一回でいいから茜華さんの仕事姿を見てみたいです!」

「そ、そうか?」
 
絶対カッコいいです、と目がキラキラし始めた泰華を見て茜華も嬉しそうだ。
が、次の言葉がまた泰華のテンションを下げることになる。

「あたしが食べてる弁当と泰華のはもちろん同じだから。昼飯の時にはあたしを思いだしてくれな。」

「…そ、そうですね!」

ピシッと今日の昼の会話が頭を過ぎった。
泰華はどもりながら返事をするが繕えていない。

「泰華?やっぱり、なんかおかしいぞ?」

「い、いえ、何でもないんです!」

どうにか話を逸らそうとシチューの味を見ている茜華に後ろから軽くハグをする。

「本当に大丈夫か?」

「んん〜。」

精一杯甘えた声を出す。いや、自然に出てしまう。
1日働いた二人であるが茜華は汗の匂いもなく、しかして若干のフェロモンのようなモノが出ているのだろうか。
泰華が息を吸うとなんだが幸せになる香りがした。

「甘えたが出てるなぁ。」

茜華もイヤなわけでもないため、器用に後ろで泰華を擽る。

「茜華さぁん。」

「こら、これから食事だ。準備は手伝ってくれるな?」

「了解です!」

そう言ってすぐに皿やスプーンを運ぶのであった。


ーーーーー☆ーーーーー


「ご馳走様でした!美味しかったです。」

「そうか?なら、良かった♪」

茜華は着替えるから先に食べ始めて良いと言ったが泰華は譲らなかった。よって、茜華の格好はスエットという簡単なものであるが健康美の化身のようなボディラインであるため下手な服よりセクシャルである。

食事を終え自身の食器を運び終えソファーへと移動する泰華。
同時に茜華もキッチンへ向かい皿洗いを始めた。

満腹中枢が満たされウトウトし始めた泰華だが先ほどの自身の行動がふっと頭を過ぎると目が覚めた。

あれ?また甘えてなかったか?甘えてしまっていたのでは?

流れで茜華に包み込まれてしまった。深く反省し、今からでも遅くはないと恋人の手伝いに挙手しようとするが。

「ほれ、泰華。コーヒー。」

「あっ…りがとうこざいます。」

「疲れたなぁ。」

もう皿洗いも終わっていた。
入れてもらったコーヒーを啜りつつ落ち込む泰華の横に茜華も座る。

「お、お疲れ様です。」

「おう!お互いにな。」

労いの言葉も言ってしまえば単なる声、音、空気の振動でしかない。
詰まるところ何の癒しにもならなければ極論意味のないことで、ならば意味のあることをしなければなるまいと提案する。

「茜華さん!肩揉みましょうか?」

「肩?大丈夫だよ。そんなに凝ってないしな。」

「じゃ、腰を!」

「大丈夫かな。」

「足を!」

「…泰華、エロいこと考えてるのか?」

一切そんな事はないのだが疑われて仕様がないであろう。
普段、しないことをこれだけ迫れば何か勘ぐられるに違いない。

「というかさ。」

グッと肩を寄せられ茜華の体温を感じる近さまで距離が縮まる。
そして、耳元で優しく囁かれた。

「さっきから態度が変だよなぁ?あたしが怒るようなことしちまったのか?ククッ、別に怒らないから言ってみな。」

なまじっか泰華のことを理解しており後ろめたいことがあると言うことまでは完璧に見抜いている。

しかし、茜華自身からすれば何か悪さをしてビクビクしている愛しの小さい人間が可愛くて仕方がないだけの様子だ。

「い、いえそんな事してません。」

「なんか高いモノ買っちゃったか?それともどこか行きたいのか?」

「い、いやその…。」

完全に甘い声であり、聞き出す態勢に入っている。
こうなれば泰華もあまり持たない。
だが、茜華は話しながらも様々な可能性を考えており、その一つにたどり着いたとき雰囲気が変化した。

「まさか…また苛められてるのか?」

睨んだものが切れてしまうのではないかと言えるくらい眼光が鋭い。
実は二人が出会った当時泰華は勤め先で人間関係がうまく言ってなく、茜華の介入により今の仕事に変わっていた。

「ち、違います!今は皆さん良い人ですよ!」

「そうか?あたしの泰華をまたいわれのない、下らないことで責める奴がいたら。」

オーラが完全に狩人のそれだ。
ヘルハウンドという種族は見込んだ男性、つまり番になる相手を全力で守る性質がある。
それは現代社会においても発揮され、特に茜華は頭が回るため暴力以外での解決で、場合によっては攻撃対象に地獄を見せることは容易なのだ。

「先輩も良い人ですし、後輩も慕ってくれてますから!それだけは違います!!」

「…まぁ、泰華が言うなら信じよう。」

殺気が徐々に薄れていくが泰華でも少し怖いと感じるのだ。

「なら、なんだよぉ。あたしにも言えないことなのかぁ…。寂しいなぁ。」

スッと泰華から離れソファーにおいてあったクッションを抱き弱々しい声を出す。
当然、泰華をからかっているだけなのだが。

「寂しい…。こんなに近くにいるのに心があたしから離れているのが切に伝わってくる…。はぁ…あたしはそんなに頼りないかなぁ。」

クッションに顔を埋める振りをして泰華を見ると予想を遙かに越えあたふたしている。

「茜華さん!そんな事ないですよぉ。僕は茜華さんがいないともうダメですし、ずっと助けて…。」

うるうると目が水で滲み始める。泣き目になるのはいつものことなのだが泣き始める寸前となると話は別だ。
茜華も少し慌てる。

「そ、そうか!なら嬉しいなぁ。」

軽くハグをして、背中をさする。プルプルと肩が震えているの真面目に困ったことがあるのだろうと察し、慰めに入る。

「泰華、あたしが傍にいる以上何かを自分一人で抱え込んで泣くのは許さないぞ。言ってみなって、絶対力になるしある程度のことなら解決してやるから。」

若干ではあるが年下である恋人に、今度はしっかりフォローを入れ話を聞くということを伝える。
すると泰華は大きな胸に埋まっていた顔を上げ茜華を見つめる。

「茜華さん引かないで下さないね…。」

重々しく口を開く恋人の真剣な悩みをしっかり聞いてやろうとする茜華であった。


ーーーーー☆ーーーーー


「ククッ…。泰華は心配性だなぁ。」

自身は普段の生活から茜華に頼りっぱなし、だから今日当然手伝いを申し出たという旨を聞いてヘルハウンドはずっとにやけていた。

「笑わないで下さいよぉ!真剣に悩んでたんですから!」

「そうだな…プッ、ククッ。」

ダメだ、と笑いを堪えなくなった茜華に恥ずかしさを誤魔化すのをかねた怒りをぶつける。 

「すまんすまん、いや現代日本においての関白は…泰華が関白…」 

結果盛大に笑う茜華。さっきとは別の意味でプルプル震えているの泰華にはもう我慢ならなかった。

「茜華さんなんてもう知りません…」

「悪かったって。というか、その泰華の上司が悪いんだよ!阿呆みたいなことを言ってるのが!」

よりにもよって、少し世間と違って家の手伝いをしないというだけで追い詰められ、そのあげく全ての申し出が失敗したため料理中の恋人に後ろから甘えてくる関白。

それだけで茜華としてはもうツボだった。

「それだけで愛想尽かされるってのがな。いや、良いんだけどさ。あたしが泰華の手伝いがないといっていじけて別れるような女に見えてたってのが少し心外だな。」

「…茜華さん、優しいんですもん。」

いつの間にか背を向けて体育座りをしている小さい男に茜華は抱きつく。
抵抗がないため問題ないとして話し始めた。

「全く本当に甘えただなぁ。」

「…そうです、だから心配なんですよ。いつ愛想を尽かされても可笑しくないんじゃないかって。」

後ろから頭をなでられても今は少し微妙の気分だ。
慰められているのがイヤなわけではない。あやされている感じがイヤなわけでもない。

単純に自分が小さくて情けないから、だからいっそのこと駄目な奴だと罵られれば楽なのだ。

案の定そんな事は起こりえないのだが。

「そうだなぁ、言い方が悪いかもしれないが…もし家事が負荷で手伝って欲しいなら最初から手伝ってくれる奴とくっついてたさ。」

つまり、最初から宛てにしてないということだろうか?
自分が悪いのは百も承知だがその上で悲しくなり、倍増した情けなさの波が押し寄せてくる。

「いや、違うぞ。恐らく泰華には一瞬イヤミに聞こえてるかもしれないが、それは違う。泰華だからなんだよ。」

よく分からなくなってきた。
自分だから?

「そうだな、別に泰華が手伝いをしてくれるなら嬉しいし、マッサージなんて最高だよな。でもさ、そんな事してなくても泰華の愛は伝わってくるから。」

なんらかの形で愛を示す。
料理をする、マッサージをする、背中を流す、セックスをする、一緒に寝る。
どれも愛情表現で相手のことを想いそれを行動にした結果であろう。

どれだけ相手を想い愛していてもそれが伝わらなければ意味がない。
すれ違いはそこから起こり、ちょっとしたことで溝は深まり結果で破局なんてことになるのだ。

「あたしは泰華の寝顔が見れて、いや、見せてくれて。おはよう、お休みって言ってくれてさ。こうして、もう何も心配する事はないのに未だにあたしとの関係で悩むくらいあたしが好きなんだろう?」

「…違います。大好き、なんです。」

「だな!ならさ、別にもう良いんだって。もちろん、あたしも困ったら泰華を頼るが別に無理して何かをするなんていらない。もう十分に伝わってきてるからあたしも泰華のこと、胸を張って好きだと言えるんだ。」

日ごろの感謝かなければそもそも、何かをしようなんて考えないだろう。
何かをしてもらって、与えてもらって嬉しいと感じているからこそ感謝をその先の愛を伝えなければと思ったのだ。

「茜華さん、毎日ありがとうございます。ご飯にお風呂に、寝る時も。僕ずっと幸せです。」

「そうだろ?良いんだよ、それで。」

抱きかかえられ泰華が上になるようにソファーに寝転んだ。
もぞもぞと茜華の上を動き顔を合わせる形になる。

「改めて、茜華さん、僕にできることありませんか?」

それは焦りからではない。
相手のために何かしたいと真剣に感じた結果の言葉。
で、あるならば茜華も答えないわけには行かないだろう。

「少し矛盾するかもしれないが…。目一杯愛して欲しいな!」

そういうと泰華を抱きすくめ唇を塞ぐ。
もちろん、断る理由もなければ正直自分ができる最大限の愛情表現がソレしかないと本人も感じていた。

顔を離し、快諾の旨を伝える。

「ベットに行きましょうか。」


ーーーーー☆ーーーーー


我慢ができないと壁に寄りかかりキスをする。少し移動してまた唇を貪りあう二人。

ようやく寝室に行くと布団に勢いよくダイブして見つめ合った。
ベットサイドのスタンドしかついてないため薄暗いのが余計に盛りたてる。
今度は茜華が上になっており、泰華の頭には微塵もないが、逃げられない状態になっている。

「やっぱりエッチが一番だよ。泰華も気持ちよくなるし一石二鳥だ。」

「僕は茜華さんが気持ちいいならそれで良いですよぉ。」

泰華はディープな口づけによって既に頭が半分とろけており、目がトロンとしていた。
だが、泰華がどんな状態であろうと茜華には聞き捨てならない言葉である。

「泰華さ、二人で気持ちいいから良いんだよ。泰華も気持ちよくなくちゃダメだってまだ分からないのかぁ?」

茜華は完全に嗜虐モード。
普段、二人には異常性癖と言われるものはないが裏返せば無限の可能性にもなる。
欲望の可能性に。

「それじゃ、泰華恥ずかしい格好になろうなぁ。」

泰華の衣類、そのズボンと下着を気いおいよく脱がせる。
上は着たままで、別になんら恥ずかしい格好ではない。

茜華はニヤリと笑う。
それだけで終わるはずもなかったからだ。
瞬間、泰華は力を入れていないのに自身の腰が浮く感覚を覚える。
途中で止まったが、それは茜華が意図したから。今は仰向けで足腰だけが天井に向いている、所謂、ちんぐり返しの姿となっていた。

「ちょっと!茜華さん、恥ずかしいです!止めて下さいよぉ!」

少しパタパタと抵抗するが一つたりとも意味をなさない。
泰華の両足を広げ茜華は嬉しそうに言葉を放つ。

「ん〜?可笑しいな。まっこと可笑しいぞ。恥ずかしいなら泰華はなぁんで立っちゃってるのかなぁ。」

先の説明の通りの状態なので、つまるところスタンディングの意味する立つではない。
泰華の下半身、男性の象徴が勃起していたということだ。

「もしかしなくても、無理やり恥ずかしい格好にされて気持ちいいのかぁ?うわぁ、それって変態じゃないか?」

「そ、そんなことはぁ。」

自身は普通、正常、ノーマル。
断言できると信じているが、事実だけを見ると変態というレッテルを張られても相手を起訴できなさそうだ。

「じゃ、変態だって疑いを払拭するためにいっぱい扱いて気持ちよくなってないってのをしっかり証明しないとなぁ!」

泰華は若干辛いポーズのままシゴキ始める茜華。
自分の目の前で、イヤでも目に入る状況で肉棒を弄ばれる。

「せ、茜華さん!やめて下さい!」

「ほらほら、気持ち良いなぁ。あたしの手は気持ち良いよなぁ?泰華のここ気持ちよさそうにピクピクしてるしな。」

肉棒をシゴキ続けるだけでなくこうして言葉責めを行う。
薄暗い中での痴態晒しに非常に恥辱を感じつつも、なぜか男根へ流れる血流が加速し泰華も困惑しているのだ。

「もう嫌です…。」

性別の攻守というのは取り払われ、立場も尊厳も奪われたポーズでの性交に両手で視界を遮ることしか出来ない哀れな男。
しかし、まだ女からの責めが続く。

「泰華はわかってるのか?あたしにはここも丸見えなんだからな♪」

茜華が息を吹きかけたところは普通のセックスでは全く関係のない部分であるが泰華にはゾクゾクしてしまうのがもう止められない。
裏筋から睾丸そして菊門まで丸見えであることを言葉で自覚させられる。

それでもペニスは頑なにたったままで。

「可愛いなぁ。あたしの夫になる男はこうでなくちゃ駄目なんだ。料理もマッサージも、背中を流すなんてもってのほかだ!こうしてあたしを満足させられるのは泰華しかいないんだよ。」

声が低めでもう加虐のそれを止められていない。
だが、それでも自身を受け入れている恋人の言葉に心のより所は出来てしまうのが単純な泰華の良いところであり、茜華への責めを止められない理由でもあった。

「あっ、と。もう出そうなのが分かるな。ドクドクと裏側の太い部分が筋張ってきたぞ。」

射精に向け一気にシゴク早さをあげると泰華からもギブアップが入る。

「茜華さん!出ちゃいます!!」

「良いよ♪いや、あたしがそうしてるんだから出さなきゃ駄目だよなぁ♪」

ほらっ!

ビュクビュクドプッ!
その掛け声で泰華の股間は破裂せんばかりに膨らみ放出する。
そのままでは泰華の体が汚れてしまうがそれは防がんと茜華が空いている片方の手で受け止めた。

「ん〜!!」

まあパタパタと動く泰華だがそれは心が受けている快感が大きすぎるが故に動きに出てしまっているようだ。

「熱いな♪んっ、っとまだ出るのか。」

泰華が出し終えた所で嬉しそうに自身の手に溜まる精液を覗く。
既に通常の仰向けで寝かされている泰華を後目に茜華は手のソレをえいと口へ運んだ。

「ジュル、チュパ、んっ…。泰華、ほら飲んじゃった。スッゴく濃くてうまかった♪」

「茜華さん恥ずかしいですよぉ。意地悪すぎます…。」

「でも、恥ずかしいの気持ちよかったんだよな。」

頬に手を添え親指で泰華の顔を少し弄くると恥ずかしがって顔を伏せる。
けれども、まだ一つ重要な事を話していない。
茜華は優しい顔で声を甘くして声をかける。

「あぁ、流石にイってはないがエクスタシーが凄いな。男を思いのままに、自分の好きなようにイかせるってのは最高だな。」

耳元まて近づき、でもさ、と話し続ける。
吐息がかかり泰華は軽く震えているがしっかりと茜華の声に耳を傾ける。

「好きな男じゃなきゃ、泰華をこうしてイかせられなきゃダメなんだよ。だから、愛想がつくなんて事はない。逆に愛しくて愛しくて食べたいくらいだ。」

はむはむとまた唇を、今度は甘噛みするようにキスをする。

「んっ、あっ、ごめんらはい。ぼくは、しぇんかさんといっしょにきもちよくらりたいれすぅ。」

口をこれでもかと愛されつつ先ほどの自分の言葉を取り消す。
どれだけ変態的、恥辱的でも茜華が受け入れてくれるなら気持ちよくなれると感じ、それは二人でなければあり得ないことだと理解したからだ。

「当然。てか、あたしがそれ以外許さないっての。」

よしよしと頭を撫で泰華を包み込むように抱く。興奮した茜華はしっとりと汗ばみ、その高めの体温を感じると泰華のモノもまた起きあがってくる。

「ならぁ、やるしかないよな?」

誘惑しながら身に着けているものを順に脱ぎ全裸になる。泰華の上も脱がせ体に大きな手をはわせるが、茜華は寝ころぶ様子はない。それどころか、泰華の足を持ち上げ股を開かせる。

その姿はまるで挿入を前にして女性器に自身の分身を添えている男性、性別が逆転していることを除くだけだ。

「今日はとことん泰華を犯すって決めたんだよ。」

分かるよなぁとニタニタと邪悪な笑みを浮かべ泰華を見下ろす。
騎乗位ではない。
つまりは、挿入の責めと受けは変わらないが構図としては茜華が男性のように腰を振り泰華を快楽へと導く、そういうことだ。

「お、お願いし」

「聞こえんなぁ。全然、全くあたしの耳におねだりが届いてないなあ。」

自身の小陰唇で男の棒を弄び焦らす。泰華も数えるほどしか経験してない茜華の極責めに素直に応じるしかない。

「茜華さんのオマ×コでいっぱい気持ちよくしてください!!」

「りょうか〜い♪」

ズブッと茜華の中に埋もれていくその感覚はまるで蚯蚓が千匹這い搾ってくるようなただの締めつけではない、最高の快感。
薄暗い中でも茜華の目は深紅に光り文字通り犯されている泰華を見て興奮が高まっている。

「ほ、本当は僕が、んっ!男が腰を振るのに…。」

「なんか、今の泰華レイプされてるみたいだなぁ♪ほれ!気持ちいいって言いな!」

「茜華さんのレイプ気持ちいいですぅ!」

普段から単純な泰華はシチュエーションにとことん飲まれ、快楽を貪るということを分かっている茜華だからできる責めである。
もう頭の中には霞がかかり思考能力はゼロに近い。
そんな中で女性からの逆レイププレイに、もちろん和姦、溺れて行ってるのだ。

「変態!変態!でもそれで良いんだよ、泰華が泰華である限りあたしは絶対に好きだから!もう絶対に変なこと考えるなよ?」


「はい、はい!だから…もっと激しくお願いします!いっぱいい苛めてください!」

理解はしている、理解はしているがもう理性がついていかない。出したいという欲望で頭が満たされており茜華もそれに答える。
二人分の荒い息使いが部屋は充満し、まるで外の世界とは隔絶されているようだ。

「ほら!ほら!出せ!射精しな!」

「っ!またいっぱい出ちゃいます!な、中で良いんですか!?」

「そうだ!あたしの中に、犯されて出すんだ!」

ひと際大きく腰を落とす動きを繰り返し泰華のモノを追い込んでいく。

「イきますっ!!!」

ビュッビュッビュクドピュッ!

「んっっ〜!!!」


最後の最後、二人の腰がピッタリとくっつき泰華の肉棒が奥の奥で暴発した。
茜華もビクビクと震え絶頂を迎えている。

「せ、茜華さぁん、キスして。キス下さい。」

両手を必死に伸ばし恋人との愛を泰華め合おうとする仕草に茜華が答えないわけがなく、しばらく二人は意識ももうろうとした中で抱き合うのであった。


ーーーーー☆ーーーーー


その後腰が抜けた泰華を過保護に扱いながら風呂に入りまた口で一発、その後ドギーで一発。
計4回を“愛”を受け茜華も満足であった。

今は布団に入りいたってノーマルないちゃつきタイムである。

「泰華分かったな?あたしはあんなに変態な泰華でも嫌いにならない、寧ろ大好きだから。変なことで不安になるんじゃないぞ。」

ぐしぐしと強めに頭を撫で言い聞かせる。

「気持ちよかったですが茜華さんだって変態さんでしたよ…。」

精一杯の反論だが受け入れた自分の方が分が悪いというのは理解しているため尻すぼみになる。

「そうだ♪泰華とあたし、二人で気持ちよくなれるなら何でもやっちゃうぞ!」

「犯罪はだめですよぉ。」

「分かってるって♪」

布団にくるまりまたギュッと抱きしめ会う二人。
かなりハードな形では合ったがどんな自分でも受け入れてくれる恋人を肌で感じ泰華は自分が小さな事で悩んでたと改めて思う。

「僕、安心しました。」

「不安になるなっていっても、あたしの泰華は繊細だからな。またもしも不安になったら言えばいくらでも愛してやるさ。」

人間誰しも不安になることはあろう。
恋人とは血が繋がってない、すなわち他人であり時にはなにを考えてるか分からないこともある。
しかし、それを乗り越えるたびにまた深く深く繋がっていけるのだということを確信し二人は眠りに落ちるのであった。



18/05/10 10:32更新 / J DER
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■作者メッセージ
ということで1本目です。

まぁそろそろ個別に出しても目障りになってきたのと、なんとか続けられそうかなと思ったので連載化しました。
今まで読んでくださっていた方、これからもなにとぞお願いします。
これから読んでくださる方、どうぞお気軽に!

また、なにかリクエストではないですが、気になること・改善点などがあればコメントにてお願いします。


それでは次も頑張ります。

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