宵闇の恋

雪の降る音が聞こえる
さらさら ざぁざぁ
風の舞う音が聞こえる
するする ひゅひゅ
雪の積る音が聞こえる
こんこん ぎゅぎゅ

私の身体縮んでく
爪が指を噛み締める様
瞼が目玉を踏み潰す様
私の身体軋んでく

雪の融ける音が聞こえる
ぽたぽた さぁさぁ
風の已む音が聞こえる
しんしん しぃしぃ
私の知らない歌が聞こえた
somnsomn bebe

私の身体拡がってく
指先から水に浸かる様
瞼を羽で撫でられる様
私の身体目覚めてく



おはよう 可愛い我が子



目を覚ますとそこには見慣れた暗闇が広がっていた。
荒い息を吐いて、汗をぬぐう。
パサパサとガラスを叩く雪の音。
私はベッドを出ると、部屋の隅に置かれた蓋を開けた。
私はその中に入り蓋を閉じた。
消して明ける事の無い闇の中で、私は眠る。





宵闇の恋





微かな雪の音で僕は目を覚ました。
昼の主が空を降り、夜の主が顔を窺わせる夕暮れ時。
僕は服を全て脱ぎ、部屋を出る。
そのまま廊下を歩き使用人用のシャワールームに入った。
暖かい流水に汗を流し腰まで伸びた髪を手櫛で伸ばし、整えていく。
水を止め、髪を根元から絞っていく。
髪から流れた水は腕を伝い肘からぽたぽたと垂れて行く。
ふと思い出す記憶、快楽。
首筋に触れ、そこをそっと撫でる。
柔らかい皮膚に浮き上がった2つの痣。
僕とご主人様の繋がり。
僕はくすくすと笑い、シャワールームを出る。
昨日のシーツが詰まれたその横でタオルケットを使って身体を乾かしていく。
細く小さい僕の身体。
十数年変わらない僕の身体。
執事服に着替え、髪を後ろでまとめる。
戸棚から小瓶を取り出し、1粒を飲み込む。
僕が屋敷にやって来た日の事を思い出す。
僕よりも背丈の低い女の子が自分より大きいような茶色い鞄を持ってやってきて、その中から取り出した小瓶。
ご主人様は女の子から説明を聞きながら頷き、分厚い札束を渡し、女の子から小瓶を受け取った。
僕はまだ慣れない執事服を着て、覚えたてのモップを使い、掃除をしていた。
その晩、ご主人様が脅える僕にその小瓶を渡した。
それから毎日、その薬を飲み続けている。
初めてその瓶を手に取ったときから変わらぬ僕の細い指。
初めて手に取った瓶と少しデザインの違う瓶に入った薬。
僕は軽くため息を吐いて瓶を戸棚に戻した。
1階に降り、厨房に入り朝食の支度を始める。
先週仕込をしたパン種がいい具合に醗酵している。
朝食はごく軽いものを好むご主人様はパンと果実、そして1杯のチョコレート、または濃いコーヒーを摂る。
僕は窯を閉じ、時計を見る。
窓の外が闇に包まれている。
僕は2階のご主人様の寝室へと上がった。
4度ドアを叩く。
返事はない。
僕はドアを開けて中を窺う。
空のベッド、乱れたシーツ。
部屋の隅を見れば大きな棺とその蓋からはみ出したドレスの裾。

「今日はそちらでお眠りでしたか…」

僕は棺をトントントントンと叩き、蓋を開けた。
金色のふさふさとした髪に包まれた人形のように美しい寝顔。
僕は1度目を強く閉じ、呼吸をする。

「ご主人様。おはようございます」

ぴくぴくと動く瞼。
宝珠のような唇が2度3度動き、紅玉の様な瞳に光が燈る。

「ベリル…」
「昨夜は些か寝苦しかったですか?」
「…いや、少し悪い夢を」
「朝食にいたしますか?それともお先にお風呂を?」
「…血が欲しい」
「すぐにお持ちいたします」

僕は急ぎ地下の貯蔵庫に向かう。
ワインセラーを通り過ぎ、地下のさらに奥へと歩む。
その部屋に入ったとたん、身を裂くような真冬の寒さが霧のように流れ込んでくる。
部屋の中央には特殊な魔石がくるくると回転している。
その部屋の壁面に並んだ棚から水差しのようなガラスの容器を取り出す。
中には汚れを知らぬ処女より抽出した美しい血が入っている。
しかし、いくらこの部屋に保存してあるとはいえ、血はすぐに劣化してしまう。
故に新しい娘から新たに血を得る必要がある。
不思議なことに、血というのはその血を流した人間が生きている間は劣化の進行が遅いが、死んだとたんにダメになってしまう。
だからここでは娘を生かして飼い、ご主人様がその味に飽きれば新しい娘を買って、古い者をまた売り払う。
面倒ではあるが、そうしなければ吸血鬼であるご主人様に吸血されたものは、吸血鬼となってしまう恐れがある。
個人差はあるが、人間の女の中には微量であろうとも体内に入った魔力を元に自然の中から魔力を蓄え、自ら魔物へと変貌する者もいるのだ。
他の魔物であるならばそれはかまわない。
しかしながら、吸血鬼、ヴァンパイアは貴族であり、その力は絶対不可侵なのだ。
貴族たる資格のない女から貴族が出たとなればそれは血統全体に泥を塗ることとなる。
故に金も手間もかかるこのような方法でご主人様にお召しいただく純潔の血を入手しているのだ。

「だせぇ〜!ここからだしやがれぇ〜!」

僕が貯蔵庫に鍵をかけていると、地下の上の階層から声が響いてきた。
そういえば、この血の持ち主を売った代わりに、新しい娘を買ったのだった。

「目が覚めたようですね。よく眠れましたか?」

新しい娘は少々活きがいいようだ。
なんということだ。
眠らされていた昨日の段階ではなかなかに顔立ちの整ったご主人様にお召し頂くのに相応しい娘だと思ったのに…。
まぁ…拷問の跡もない上に処女であるというのにあれほどの安値であったからには何かあると思っていたが、まさかこれほどのじゃじゃ馬だったとは…。

「少し静かにしていただけますか?お食事などは後でお持ちしますので。あと、その部屋の中の物はご自由にお使いいただいてかまいません」
「…あんたが吸血鬼?なによ私よりちっちゃいじゃない。背もおっぱいも」
「違いますよ。僕はご主人様にお仕えする執事です。それに僕は男です」
「え!?男!?その顔で男!?あひゃひゃひゃひゃ!!こりゃ傑作だわ。あんた、あたしより美人よ。あたしなんか買わないで、自分でご主人様を慰めてあげなさいよ!あははは!!」

かちん。僕の心に何かがぶつかった気がした。

「雌猿に何を言っても無駄ですね。後でまた来ますので大人しくしていてください」

僕はそう言って地下を後にした。
僕の背中に娘の喚き声がぶつかったが、聞かぬふりをした。
そのまま2階に上がり、ご主人様の部屋の扉をノックする。

「入れ」
「血をお持ちいたしました」

ご主人様はどうやら未だ眠気から覚めないのか、ベッドに腰掛け、ぐったりとしておられた。

「新しい血が間に合いませんでしたので間に合わせですが…」
「よい」

そう言ってご主人様は御自分でグラスに血を注ぐと勢い良く一飲みにした。

「…不味い」
「申し訳ありません」
「よい。これでも無いよりはましだ」
「では、残りはこちらに置いておきます」

僕はそう言ってガラスの容器をサイドテーブルに置いた。
ご主人様はもう一度グラスに注がれると、今度はゆっくりとお召しになった。

「朝食の用意が出来ております。お持ちしますか?」
「ああ、頼む」
「畏まりました」

僕はお辞儀をして部屋を出るとすぐさまキッチンに向かった。
窯を開けると、ちょうどいい具合にパンが焼きあがっている。
それをバスケットに盛ると、沸かしておいて湯でカップを温め、コーヒーをドリップした。
後は柑橘類と林檎を食べやすく切り、皿に盛り付けた。
それらを盆に乗せ、二階の給湯室へ運ぶ。
その後、それらをワゴンに移し変え、ご主人様の部屋へ運んだ。
ご主人様の部屋に入り、テーブルに並べると、ちょうど着替え終えたご主人様が椅子にお着きになった。
ちょうどその時、

リンゴーン

ドアベルの音が聞こえた。

「失礼します」

そう言って玄関へと向かう。

「時間通りですね。夜分ご苦労様です」

客は町の長だった。

「ほっほ。別にかまわんよ。領主様には良くして貰っておるでのぉ」

老人は蓄えられたあごひげを撫でながら目を細めて笑った。

「それが今回の書類ですか?」
「ああそうじゃ。祭りも近いでのぉ。その案件の書類の分、いつもより多くなっておるが」
「承りました」
「あとのぉ、先日の下水溝に大量発生したラージマウスの件じゃがの…」
「はぁ…。あの件は魔王庁の方から来月討伐対を出すということで…」
「ああ、そうだったのじゃが、先日町に訪れた旅の剣士が型をつけたのじゃ」
「ほぉ…それはそれは。その剣士様はどうなさいました?」
「それがのぉ…そのラージマウス共が剣士を偉く気に入り、剣士の方も半ば強引に説得される形で夫婦になってしもうた…」
「はは。それはいい。ラージマウスは子孫繁栄の象徴です。では、祭りの際にその剣士殿への表彰式も行うという形でご主人様に話を通しておきましょう」
「ふむ。何から何まですまんのぉ」
「いえいえ。あ、しかしそうなると町の少女へのラージマウス化の恐れがありますね。まだ実験段階ですが、予防接種により感染を防げると聞きました」
「おお、それならばわしが町の集に話をして基金を集めよう」
「助かります。では、こちらもその方向で…」
「うむ。本当、なにからなにまですまんのぉ」
「いえいえ。貴族として当然の事で御座います。ご主人様も町に安心が訪れてお喜びになられることでしょう」

にこやかな内に話は終わり、町長は馬車に乗って岐路に着いた。
僕は預かった書類の束を抱えてご主人様の元へ戻った。



「ふむ…勝手に話を進めてくれたものだな…まったく」
「申し訳御座いません! しかし、ご主人様が民衆からより愛されるならばと思い…」
「まぁよい。なかなかの良案だ。あまりサバトの連中にばかり頼るのは関心せんが、バフォの方には私から後日連絡をしておく。お前はその件を書類にまとめておいてくれ」
「ありがとう御座います!」
「……私がより愛されれば…か…」
「え?何か?」
「気にするな。独り言だ」

ご主人様はそう言って書類に目を通された。


ご主人様がお仕事をなさっている間に、僕は朝食の残りを皿に盛り、地下牢へ向かった。

「食事をお持ちしま…何をしてるんですか?」

牢に行くと牢の壁にもたれ掛かって逆立ちしている少女を見つけた。

「見れば分かるでしょ!」
「いや…分かりません」
「こうやって逆立ちすれば頭に血が回っていい脱出法が思いつくかもと思ったのよ!」
「………………」
「うおぉぉぉぉぉ!!うなれ!あたしの脳みそ!!!うぅぅぅぅぅううっぅぅぅぅぅぅ」
「あなたがうなってますよ…」
「いいから邪魔しないで!」
「はぁ…食事置いときますね。あ、あと、この牢から抜けるには僕が持っている鍵を使うしかないですよ」
「ふんっ!別にいいわよ。あたしにかかればこんな牢屋から抜け出すなんて“お茶の子白菜”なんだから!」
「ふ〜ん。ずいぶんと水っぽいんだね」


僕は地下を出て自分の書斎に向かった。
召使いとはいえこの屋敷にはご主人様と僕しか居ないので、今日のようにご主人様の仕事が多い日は僕も家事よりも優先して秘書の仕事をこなす。


時計を見て仕事に一段落をつけると僕はご主人様の部屋へ向かった。
そろそろ昼食の時間だ。

「失礼します。昼食はどうなさいますか?」
「…………ああ、今日はよい。腹は減っておらぬ」
「畏まりました。では、夕食は昼食の分の思いをこめて作らせていただきます」
「うむ………」

今日も昼食は抜きか。
元々吸血鬼であるご主人様は血液さえ定期的に摂取すれば人間とは違い十分なエネルギーを得ることが出来る。
また、血液は他の魔物が摂取する人間の男の精液と比べビタミンやアミノ酸を多く含むため、精とは別に食事を摂取する必要も少なくてすむのだ。
まぁ、これはサバトの魔女であるマイン様が仰っていたことだけど。
しかし、いくらご主人様が吸血鬼で人間と比べそういったものが少なくてもすむとはいえ、僕はご主人様のただ一人の執事だ。
ご主人様の体調を完璧にするためにもきちんと食事をご用意しなくては。
ということで、僕はキッチンに向かって仕事をしながらでも軽くつまめるものを作ってご主人様のところへ持っていった。
そして、その残りの材料を使って僕とあの娘の昼食にサンドイッチを作った。


「昼食を持ってきましたよ…って、朝食を食べてないじゃないですか。具合でも悪いのですか? って…なにしてるんですか?」
「見て分からないの?波動拳よ。波動拳でこの檻ぶっ壊してやるのよ」
「訳の分からないことしてないで、ちゃんと食事を食べてください」
「いやよ!あたしはあんたなんかの施しは受けないわ!」
「しかたないですね…。昼食を置いていきます。今度こそちゃんと食べてくださいね」
「絶対に嫌よ!」

僕はまた背中に飛んでくる罵声を無視して地下を出た。









その後夕食をご主人様が食べ終えると僕はその後片付けをしていた。

「例の話。お前の案の通りに行きそうだ」
「本当ですか!?それはよかった」

僕はその言葉で嬉しい気持ちになった。

「ふふ。よかったな」
「はい!ありがとうございます」
「では、私は残りの仕事を済ませたら寝る」
「畏まりました」











屋敷の中の仕事を全て終える頃には外が明るくなっていた。
ご主人様の様子を覗きに行く。
やはり…。
ご主人様は机に臥したまま寝息を立てておられた。

「失礼します」

僕は小声でそう言うと部屋に入った。
すごい。
あれだけの量の仕事をたった1日で…。
さすがはご主人様だ。

「風邪を召されますよ?」

答えは無い。
よく眠っているようだ。
僕はそっとご主人様を抱きかかえ、ベッドにお連れする。
はぁ…なんて美しい寝顔だろう…。
この女性(ひと)が僕のご主人様…。
僕はなんて幸せなんだろう。

「ん…あぁ……」

気が付くと僕はズボンの中に手を入れて自分のモノをしごいていた。
薄い寝巻きが重力で抑えられご主人様の美しい身体にぴったりと張り付いている。

「ぁあ…ダメ……」

声が出る。
でもダメだ。ご主人様にもし聞かれたら軽蔑される。
僕は執事服のタイの端を噛んで声を押し殺す。

「ん……ん…」

ご主人様。ご主人様。
長いまつげの生えた瞼。
潤った果実のような唇。
ゆっくりと呼吸に合わせ上下する胸。
その頂点で服を微かに押し上げる突起。
触れたい。
ご主人様の身体に触れたい。
少しだけ、少しだけ…。

つん

「んん…」

僕はその瞬間、果てた。
ズボンの中がヌルつく。
だめだ。
早く逃げないと。
ご主人様に臭いを嗅がれてしまう。

僕は音を立てないように急いで部屋を出た。
僕はシャワーを浴びた。

「ご主人様!ご主人様!お慕いしております。愛しています!」

僕の声はシャワーの音にかき消された。




届かない思いだとは知っている。
届いてはいけない願いだとは知っている。
でも、僕は…。
あの日、ご主人様が僕を拾ってくださったあの日から……。
僕は痛い胸を押さえるように目を閉じた。




太陽が沈む。
この屋敷が目覚める時間だ。
僕はいつものようにシャワールームに行く。
身体を拭いて、薬の入った小瓶を手に取る。
“成長因子抑制薬”それが僕が毎日服用している薬の名だ。
ご主人様は大人の男性を好まれない。
だから、僕はこれを毎日飲む。
僕が男だから。
昨夜のことを思い出し、少し胸が痛くなった。

コンコンコンコン

「ご主人様おはよう御座います」

またベッドが空になっている。
そして昨日と同じように棺から見える裾。
ご主人様は時折このように棺の中で眠る。
別に吸血鬼だからといって棺で眠るわけではない。
吸血鬼といえど、普通にベッドで眠る。
日差しが避けられれば何所でも眠れるはずだ。
そしてご主人様の部屋は常に分厚い遮光カーテンが掛けられている。
だから、本来ならばご主人様はベッドで眠られる。
しかし、ご主人様は「悪い夢を見た」と仰る日は決まって棺の中で眠られる。
理由は聞いていない。
聞いてはいけない気がするから。

「ご主人様。おはよう御座います」
「……ベリルか…おはよう」
「朝食はどうなさいますか?」
「血がほしい…」
「でしたら先日買って参りました娘が地下に…」

しかし僕が言い終えるよりも早くご主人様の手が僕の腕を掴んだ。
僕は気が付くとご主人様に棺に引き込まれていた。

「お前のが欲しい」

つぷっ。と膜の裂ける様な感触と共にじんとした痛みと張り裂けるような快感が脳に張り付く。

「…ご主人様……」

僕はご主人様の腰に腕を回し、しがみついた。
細く柔らかな感触とシルクのドレスの触感を指先に感じつつ、僕はご主人様の少し汗ばんだ首筋に頭を預け、瞼を下ろした。
しばらくすると痛みが治まり、快感だけが疼きの様に後を引いた。
僕は離そうとしない自分の腕をかろうじて解き、身体を起こした。

「…ご主人様。おはようございます」
「おはよう」

唇に着いた血をその舌で舐めると、ご主人様は身体を起こした。

「お食事はいかがなさいますか?」
「今朝はいい。風呂の支度を」
「はい」

僕はご主人様の風呂の支度を始めた。
隣のご主人様の部屋ではご主人様がドレスを脱ぐ衣擦れの音が聞こえた。
先程の快感を思い出し、頭がくらくらする。
僕は小瓶を棚から取り、その1滴を湯に入れる。

「支度ができました」
「ありがとう。お前は朝食の後片付けを。後は自分でする」
「はい。かしこまりました」

僕はそういってご主人様の部屋を出た。
廊下に出て、息を吐く。
股の間にヌルついた感触を感じ、僕は着替えに向かった。

ちょうどいい具合に焼きあがったパンを釜から出し、それをどうしようかと思案する。
僕はそのうち2つを自分の朝食として残し、残りをバスケットに入れた。
それを持って地下へと向かう。
少し湿り気のある空気。
地下室に下りるとカンカンと金属を叩くような音が響いていた。

「何をしているのですか?」
「決まってるでしょ!こんな檻ぶっ壊して逃げ出してやるのよ!」

人間の商人から買ったその少女は牢に備え付けてあった椅子で思いっきり牢の扉を強打していた。

「やめてください。高かったんですから」
「へぇ〜。あたしにはたいそうな高値がついたのね」
「いいえ、その椅子が、です」
「…むっか〜!何よ!あたしよりも椅子の心配をするの!?」
「はい。地下牢とはいえ、そのベッドも椅子も本来あなたの様な娘が触れられる様なものではないのですから」
「へぇ〜。確かに寝心地のいいベッドだったわ」
「わかったらおやめください」
「じゃあ、あたしをここから出しなさい!」
「そうは行きません。あなたにはしばらくここに居ていただいてその血をご主人様のお食事とさせていただきます。 ああ、そうだ。食事といえば、僕の焼いたパンが余ったので持って来ました。今日こそは食べてください」
「大きなお世話よ!あたしは施しは受けないわ! それに、血なら私が売られた時に嫌と言うほど抜かれたじゃない!」
「あれは検査のためです。ご主人様に病で穢れた血などお出しするわけには参りませんから」
「へぇ〜。そう。それで?あたしはそのご主人様とやらに血を吸われて汚らわしい魔物にされちゃうの?」
「いいえ。ご主人様があなたの様な汚らわしい娘に直接触れることはありません。あなたの血液だけを抜いてお召しいただきます」
「ふん!汚らわしい娘の血なんか差し出されてあんたの主人とやらも大層不快でしょうねっ!」
「いいえ。あなたはまだ処女。穢れを知らぬ少女の血は大層美味であると聞きます。恐らくはご主人様もお喜びいただけるでしょう。つまり、あなたの美しい血液のみをいただくのです」
「……………」

僕が言うと、少女はうつむいてプルプルと拳を振るわせた。

「ぺっ!」

僕は少女が僕に向かって吐いた唾をかわした。

「そうしてあたしの血をあたしが死ぬまで絞り取って、後は使い捨てって訳ね」
「理解が早くて助かります」

僕は牢の扉を開けようとポケットから牢の鍵を取り出した。

「だせぇ!!だせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ここからだしやがれぇぇ!!!」

その途端、少女が地下中に響くほどの声で喚き始めた。

「あまり大声で騒がないでください。耳が痛いです」
「黙れ!あんたのそのしゃべり方、腹立つのよ!あたしよりちびの癖に!!」

かちん。僕の頭の中で何かがぶつかる音がした。

「だ、誰がチビですか?」
「あんたよ!このチビ!ちびっ子!ガキの癖にお高いしゃべり方してんじゃねぇよ!このくそチビ!」

ぷちん。僕の頭の中で何かが切れる音がした。

「だまれぇ!だれがちびだとぉ!?ぼくだって好きでチビなんじゃねぇんだよ!ご主人さまがおとなの男がダメなたいしつだからしかたなくチビやってんだよ!ぼくだってほんとはおとなになってご主人さまに男としてみてもらいたいんだよ!おまえみたいな小娘といっしょにすんな。このばーか!バーカバーカバーカ!!!」
「…………え?」
「…………はっ!」
「…………え、えぇ〜っと…その、あ、あたしも言い過ぎたわ。ごめんなさい…」
「……………(ぷるぷる)」

僕はいたたまれない気持ちになってパンの入ったバスケットを牢の前において逃げ出してしまった。












逃げ出す男の子の背中をあたしはしばらくあっけに取られて見つめていた。
しばらくして、あたしは腹を抱えて転げまわって笑った。
へぇ〜。あの子、あんな顔するんだ。
あたしが売られてきた時からずっと仮面着けてるみたいに表情一つ変えずに偉そうな言葉遣いばかりしてたから、てっきり吸血鬼に心まで吸われた抜け殻だと思ってた。

「ぐぅぅぅぅ」

なんだか気が抜けたらおなかすいちゃった。
ふと牢の前に置かれたバスケットが目に入った。
中にはたくさんのパンが入っていた。

「へぇ〜。口喧嘩の賞品って訳ね。ありがたく貰っておくわ」

あたしは無人の牢で言った。
あたしは施しは受けない。
実際ここに来てから出された食事は手をつけずにそのまま返してやった。

『人間に大事なものはプライドとお金。プライドが負けなければ勝てなくても負けないわ』

母さんの言ってた言葉だ。
母さんが死んだ後もあたしは物乞いなんかせずに堂々と他人から盗んで生きてきた。
人買いに売られた時も服をひん剥かれ、どんなにいやらしい目で見られても処女は守り通した。

「だから、これはあたしが堂々と勝ち取ったんだから、堂々といただくわ」

あたしは誰に言うわけでもなくそういって牢から手を伸ばしてそのパンをひとつかじった。

「へぇ〜。魔物とは言え、さすがは貴族様のお屋敷ね。このパン、かなりイケるわ」

そうして気が付いたらバスケットの中のパンをほとんど食べていた。
残りは3つ程。

「げふ。はぁ〜食った食った。丸1日何も食べてないとさすがにおいしいわねぇ~」

と、その時、バスケットの影に鍵が落ちているのが見えた。

「おお〜。口喧嘩の賞品にしちゃあずいぶんと気前がいいじゃない」



あたしは暗い地下牢の廊下を進む。
しばらくすると地下の石造りの壁には似合わないきれいな木目の扉があった。

「ここが出口ね」

あたしはその扉をゆっくりと開く。

「………………す、すご〜い…」

あたしは言葉を失った。
あたしは目が覚めたら地下に入れられていたから知らなかったけど、このお屋敷、こんなにすごかったんだ…。
素足の裏をくすぐるような毛足の長い絨毯の敷かれた廊下。
燭台の小さな明かりに輝く高そうな調度品。
暗がりのせいでどこまでも続くように見える長い廊下。
地下の石造りの壁とは大違い。
その時、あたしの頭の中にひとつの閃きが生まれた。

「あたしを家畜のように売り買いして扱った仕返しをしなくちゃね。ふふふ。この屋敷で一番高いものを盗み出して売りさばいてやるわ!」

あたしは廊下を音を立てないように走っていった。

「う〜ん。1階は大したものがなさそうね」

あたしはエントランスから2階に上がる。
どうやらこの屋敷はあの男の子以外召し使いはいないみたいで、夜ということもあって、屋敷の中はまるで誰も居ないかのように静まり返っていた。
もしかすると吸血鬼といっても夜はずっと起きているわけじゃないのかもしれない。
そうなるとあの男の子も居ないみたいだし、この屋敷の人間はみんな寝静まっているのかもしれない。

「ふふふ。これはきっとあたしに神様がくれたチャンスなんだわ。ここで金になりそうなものを見つけて即効で売っ払って食うか食われるかの貧乏生活ともおさらばだわ!」

そうして2階の廊下をしばらく行くと明らかに他の部屋とは違う大きな扉があった。
これは間違いない。
とあたしの経験と勘が言っていた。

「とはいっても、スリと万引きしかやったことはないけど…」

ゆっくりと扉を開く。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

あたしは思わず悲鳴を上げてしまった。
あたしの目の前にはあの男の子が血まみれになって倒れていた。
そしてそれを見下ろす裸の女が返り血を浴びていた。
そしてあの台詞、

『少し虐めすぎたか?』

間違いない。
あの男の子が女主人に殺されたんだ。
しかも女主人は吸血鬼だと聞いている。
吸血鬼は人の血を吸って殺してしまう恐ろしい魔物だとうわさで聞いたことがある。
あたしはこの屋敷に来てあたしの中で考えていた最悪の光景を目の当たりにしてしまったんだ。
ああ、きっとあたしがあの男の子をいじめちゃったから罰だとか言って殺されちゃったんだわ。
どうしよう。
そうよ。逃げなくちゃ。
もう盗むとか言ってられる場合じゃないわ。
あの女主人があたしを捕まえる前にすぐに逃げなきゃ!!

「貴様は誰だ?」
「ひぃぃ!!!」

耳元で聞こえた声に心臓が止まるかと思った。
見ればさっきまでは部屋の中に居た女主人があたしのすぐ横にまで来ていた。

「ば、ばけもの!!」
「ほぉ。私に向かって化け物とは。なかなかに洒落のうまいやつだ」
「う、うるさい!あ、あんたなんかにあたしは殺せないんだから! そうよ!あたしは死なないの!ここでお宝を盗み出してあたしは自分の人生を切り開くのよ!あんたなんかに、あんたなんかに人生終わらされてたまるもんかっ!!!」

あたしは言い放って立ち上がろうとした。

「あれ?」

でも、足が動かない。
腰が抜けちゃってるんだ。

「くそ!くそぉ!動け!動け!!」
「ふふふ。腰が抜けている割にずいぶんと吐くじゃないか、小娘」

負けちゃダメだ。
ここで少しでも弱音を出したら心が折れてしまう。
怖い怖い怖い。
あたしは震える喉をごまかすように無理やりお腹から声を出す。

「うるさいうるさいうるさい!!足が動けばあんたなんかすぐに倒せるんだから!!あたしはあんたなんかに殺されない!!あたしはあんたなんかに負けない!あたしは絶対に負けない!!」
「へぇ。いい威勢だ。でも、私がその気になればお前の身体をへし折るくらいパンを裂くぐらい簡単なことだぞ?」

それを聞いてあたしの中でさっき食べたパンの味を思い出した。

「こんなことなら…さっきのパン、全部食べとけばよかった…」
「パン?」
「そうよ!そこで死んでる子がさっきあたしに持ってきてくれたの!  そうよ…殺すことないじゃない!たかが口喧嘩で負けたくらいで…」

あたしは部屋の中で血まみれになってる男の子を見て思った。
なぜだか涙があふれてくる。

「そいつはチビだし、むかつくし、チビだけど、びっくりするくらいおいしいパンを焼けるのよ!それにあんたのこと、たぶんすっごく好きだったのよ!なのにチビなこと気にして大きくなりたいって言ってて…」
「へぇ…ずいぶんとその坊やの肩を持つのだな」
「当たり前じゃない! だって、そいつはなんにも悪いことしてないもん!ただ、あたしに口喧嘩で負けて取り乱して逃げ出しただけよ!なのに…なのに、…殺すことないじゃない…」

涙が止まらない。
どうして?
自分が殺されそうだから?
殺されたあの子がかわいそうだから?
どうして?
なんで?
吸血鬼はあたしを見下ろしたまま、じっとあたしの目を見ている。

「ははははははっ!」

突然、吸血鬼が大笑いし始めた。

「そうか。そうか、それでベリルが。くくく、あははは!」
「なによ!笑い事じゃないんだから!! あんたは何も悪いことしてないその子を殺したのよ!笑うなんて許さない!」
「………ほぉ…。それはすまないことをしたな」

吸血鬼は1度男の子を見てからあたしに視線を戻して言った。

「だがな、小娘。それの何が悪い?私の従者を私が殺して何が悪い?」

吸血鬼は血のような赤黒い瞳であたしを見つめ、さも当然のように言ってきた。
あたしはその表情を見て、その言葉を聴いて頭の中で何かがはじけた。

「悪いに決まってるでしょ!!あの子は何も悪いことしてない!悪いことしてないのに罰せられるなんて間違ってる!」
「弱者は強者によって理不尽に虐げられる。それがこの世界の理だ。そして私はあの小僧よりも強い。それだけだ」
「間違ってる!間違ってるっ!! そんなの絶対に許さない!!世界の神様が許したってあたしは絶対に許さない!!」

あたしは近づいてきた吸血鬼に殴りかかった。

ばぎぃっ!

身体の中に嫌な音が響いた。
気が付いたら吸血鬼はとても遠くに居た。
違う。あたしが殴り飛ばされたんだ。
起き上がろうとする。
ずきん。と痛みが身体中を突き抜けて肘がカクンと折れて倒れてしまう。
腕に力が入らない。

「お前は私よりも弱い。だからお前は何も出来ず私に殺される。他人の心配よりも自分の心配をしたらどうだ?」

部屋から漏れた明かりで吸血鬼の影が近寄ってくるのがはっきりと見える。
なのに吸血鬼の目だけが異様に赤く光って見える。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
身体が震える。
起き上がることも出来ない。
でも、でもでもでもでもでも!

「絶対にあたしはあんたなんかに負けない!!あたしは間違ったことは許さない!」
「いいのか?死ぬぞ?」

吸血鬼が右腕で拳を構える。
殺される!
嫌だ!死にたくない!
でもこんなやつに負けるのなんか絶対嫌だ!!
負けたくない負けたくない負けたくない!!!

「あたしは負けない!!!」

言い切った瞬間、吸血鬼の拳が振り下ろされた。
あたしは無意識に目を瞑った。

ぽん。

あたしの頭にやさしく手が乗せられた。

「お前は優しく、そして強い娘だな…」
「……………え?」

目を開けると吸血鬼は嘘みたいな優しい顔であたしの頭を撫でていた。

「お前はあいつに買われた後、私の食料になると聞いてなかったのか?」
「…き、聞いてたわ。でも、それが何よ」
「あいつはお前を地下牢に閉じ込めていたのだろう?」
「そうよ! でも、あいつはあたしに酷い事は何もしなかったわ。それどころかびっくりするぐらいおいしいパンを持ってきてくれたわ」
「ふふ。気に入った!」
「え?」

そういうと吸血鬼はあたしの身体を優しく抱きかかえ、先程の部屋に歩き出した。
そのまま部屋の中に入り、びっくりするほど広いその部屋を抜けて、子供なら10人は眠れそうな大きなベッドのある部屋に入って、あたしをベッドの上に降ろした。

「な、何をするつもりよ!?」
「気に入った と言っただろう? お前は人間にしておくのは惜しい」

そのまま吸血鬼はあたしの上に覆いかぶさると、あたしの頬に手を当てて、そのまま…

「え?ええ?…え?」

キスをされたとわかったのは吸血鬼の顔が離れた後だった。

「ふふ。さっきまでの威勢はどうした?」
「ば…」
「ば?」
「ばっかじゃないの!?ななななな、なに女同士なのに!?」
「私は男は抱けぬ。女の方が好きだ」
「だ、だ、だからって!?」
「お前のような将来性のある娘が好きだ」
「すすすすす好きぃ!?ふふふざけるんじゃないわよ! こんなことする暇があるならあの子を生き返らせなさいよ!」
「あの子? ああ、ベリルの事か。くっくく。あはははははは!」
「笑うな!ふざけるな!あの子に謝れ!あの子を生き返らせろ!!」
「ふふ。安心しろ。あやつは生きておる」
「え!? だって、ピクリともしないし、それにあの血…」
「それはな…」













僕は地下から出て扉を閉めると深呼吸を2,3度してご主人様の部屋に向かった。
まったく。なんて女だ。
あんな女、すぐに売り飛ばしてやる。
ご主人様から許しを得ればすぐにでもあんな女売り飛ばせるんだ…。
ご主人様の部屋の前まで来てノックし、ドアを開ける。
「ご主人様、失礼しま……」



時間が止まったのを感じた。
僕の目は無意識に上から下、下から上へとご主人様の肢体を観察してしまう。
僕の目とご主人様の宝石のような瞳が合う。

「ひゃわわわわわわっ!し、しつれいしましま!」

僕はあわてて部屋から出ようとした。
どんっ!と音がして僕はドアに頭をぶつけた。

「あははははははっ! いったい何をしとる?」

ご主人様の1,2度しか聞いたことのない笑い声が部屋に響いた。

「す、すぐに出ます!申し訳ありませんでした!」

僕は思いっきりドアを押した。
しかしドアは開かなかった。
当たり前だ。
内側からだとドアは引かなければ開かない。

「はははははははは!はぁ〜はぁ〜。くくく。ふふふ」
「わ、笑わないでください!」
「ははは。いや、すまぬ。いや、しかし…。くく。お前のそのような姿、久しぶりに見たものだからな」
「僕もこんな姿見せたく…」
「ほぉ…。それはすまぬことをしたな。私はベリルの見られたくない姿を見てしまった。侘びに私の見せたくない姿を見せてやろう…。どうだ?私の身体は?」
「すすすすすすす、素敵です」
「ほぉ…それだけか?」
「あ、あの。手足が細くて長くて、肌も真っ白で、顔もすっごくきれいで、おっぱいも…その、大きくて素敵です」
「そうかそうか。ならばもっと近くで見せてやろう」
「ひゅひょ…そんなっ!」

ご主人さまがタオルケットを置いてこちらに歩いてくる。腰を床に付いている僕の目の前にご主人様のアソコが、ががが…

「ぶっ!」

その瞬間、僕の意識は真っ白になって散った。
散り際に多量の鼻血が宙に舞うのが見えた。













「…と、言うわけだ。あやつが勝手に鼻血を噴いて倒れただけだ」
「………………(/ ― \)」
「……何をしている?」
「穴があったら入りたいのポーズ…」
「ふふふ。では穴を埋めるのは私の仕事だな」
「っ!? ちょっと、何す っつ!」

吸血鬼の手を振り払おうと身をよじった途端に身体の芯から痛みが走った。

「ふふ。無理はしない方がいい。手加減したとはいえ、肋骨にヒビくらいは入ってるだろうからな」
「っ! 誰のせいだと思ってるのよ!」
「誰のせいだ?お前を殴った私か?ふざけてお前をからかった私か?それとも、お前を試そうとカマをかけた私か?」
「どれを執ってもあんたのせいじゃない!」
「ああ、そうだったな。ならばしかたない。私が責任を持ってお前の身体を治してやろう」
「え!?そんなことが出来るの?」
「ああ。ちゃんと私がお前の身体を人間なんて脆弱なものから脱した強き吸血鬼のものへと治してやるぞ」
「それは治すって言わないわ!」
「そうか。それは失礼した。なら言い直そう。私がお前を改造(なお)してやろう」
「それナオすって読まないわよ!」
「そんな堅い事言うものじゃない。ちょっとしたお遊びではないか」
「『ちょっとしたお遊び』で人間やめたくはないわ!」
「ふふ。さっきも言っただろ。弱者は強者に虐げられるものだ。お前はお前よりも強い私に虐げられるんだ。これは自然の摂理だ」
「やだ、やだぁぁぁぁ!!!絶対にイヤだぁぁぁぁぁ!!!」
「諦める事だ……」

ずぶぶ…

お腹から嫌な感触がした。
吸血鬼が引き抜いた手が真っ赤に染まっていて。
突然声が出なくなった。
その代わりに喉の奥から熱いものがこみ上げてきて。

おえ゛ぇ゛…

真っ白なシーツが真っ赤に染まった。

「…………ぇ…?」
「最期に選ばせてやろう。吸血鬼として生きるか。人間として死ぬか」

吸血鬼の瞳が影の中で赤く光る。
怖い。
でも、もうだめだ。
頭がぼぉ~っとしてきて。
頭が締め付けられるみたいにわぁんとなって。

「どうした?『ちょっとしたお遊び』だ。 でも、選ばないとお前は死ぬ」

あたし、やっぱり死ぬの?
死ぬ。
嫌だ。
怖い。
怖い怖い怖い…

「…死に…たく…ない」
「ふふ。いい決断だ」
「…吸血鬼になるの……痛いの?」
「……ふむ。死ぬほど痛いな」
「っ ………どれくらい痛いの?」
「そうだな。全身を太い杭で打ち抜かれるくらい痛いな」
「………た、大したことないのね」
「…………」

吸血鬼はしばらく私を見つめ、そして…。

「すまん。冗談だ。痛くはない。だから、泣くな (ぺろ)」
「へ?」

吸血鬼に目尻を舐められた。
そして気づいた。あたしは涙を流していた。

「お前。親がいるのか?」
「…いない」
「好きの人でもいたのか?」
「…いない。男はみんな…ケダモノだから」
「そうか……」

ぷつっ…

首筋に気づかないほどの痛みを感じた。

「いい味だ。素直で、噛み締めたくなるような酸味と苦味がある」
「…血の味なんか。褒められたって……」

じゅくじゅくと。どくどくと。
あたしの身体から抜け出ていく私の人間。あたしの血。
その代わりに、身体を手放してしまいそうな脱力感と開放感が広がっていく。

「どうだ?自分が人間でなくなっていくのは?」
「…はぁ…はぁ。わか……ない…」
「ふふ。いい顔だ。とても愛らしい」
「…ああん……。別に…顔なんか褒められても……」

じゅくじゅくと熱が広がっていく。
触れられてもいない場所が脈打って。
ひくひくとひとりでに震える。
気持ちいい…。
でも、ダメ。
これに負けたら、あたしは人間じゃなくなる…。
怖い。
怖いのに…なんで?
気持ちいい。
気持ちいいよぉ。
死ぬのは怖い。
吸血鬼になるのも怖い。
あたし、どうしたらいいの?

ぐにゅにゅ…

あ、お腹の穴。ひとりでに塞がって…。
ああ、やっぱり私はもう人間じゃないの?
もう戻れないの?

「くひぃっ!」

途端、爆発したみたいに頭ががぁんって。
きもちいいっ!?
なに?
なんで??

「ふふ。傷も治って、痛みが飛んだ途端快楽に打ちのめされたか?焦点のあわない目をしているぞ?」

唇から赤い雫をこぼしながら吸血鬼があたしを覗き込んでる。
なのに、ずっと遠くにいるみたいにぼやけて。

「もしかしてイったのは初めてか?」
「イク?」
「オルガスムだ。気持ちよかったか?」
「…きもち…よかった」
「ふふ。いいのか?イクということは、気持ちよくなるということはそれだけ自分が人間から遠ざかっていくのだぞ?」
「…やだぁ……」

はっきりと否定したいのに、考えが、言葉がまとまらずに漏れていく。

「では、我慢するんだな。耐え抜けば私の魔力を退けて人間のまま生き残れるかも知れんぞ?」
「…んひゃぁ!」

そう言ってまた吸血鬼が血を吸い始める。
途端にまた気持ちいいのが襲い掛かってくる。
しかも今度はさっきまでと違う。
ぼんやりした心地よさではなく、さっきイった時みたいな実体のある快感。

「いひぃぃ! だめぇ〜。きもちいいよぉ〜」

あたしはたまらず喘ぐ。
それでも吸血鬼はあたしの首筋から刃を離すことなく私を攻め続ける。

「あひぃぃ。だめ、だめぇぇぇっ!」

アソコからはじけるように広がる快感。
どんどんその間隔が短くなって。
波が壁になって昇って来る。
イク。
でも、耐えなきゃ。
イっちゃだめ。
耐えないと吸血鬼になっちゃう。
人間じゃなくなっちゃう。
なのに、なのにぃぃ。

「イクぅぅぅぅぅぅ!!」

ビクンビクン

身体が2度跳ねて。
何も考えられない開放感。
でも、まだ終わりじゃなかった。

「ひきゅん! うそぉ…まだイったばっかりなのにぃぃ!?」

ビクビクビク!

「止まらない。止まらないよぉぉ!?イクのとまらないいいい」

気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい!!
身体が爆発し続けて。
心と身体が切り離されるみたいに。

「いひぃぃ!ひもひいい〜…らめなのにぃ!イったららめにゃのにぃぃぃ!!!」
「受け入れろ。お前の身体は吸血鬼になろうとしているのだ」
「やだやだあぁぁぁ!!」
「ふふ。もうすぐおしまいだ」

どくん!!

大きく心臓が脈打って…

「ふぇ?」

一瞬、自分の身体が宙に舞い上がった気がした。
イキ続けてるのに…。
イっちゃった?

「あぁぁぁぁああぁぁぁああああぁああああ!!」

きもちいい。
もう…。いいや。











少女の血の最期の1滴を飲み干す。
最後の一滴とは言っても、少女の身体はむしろ一層にその張り艶を増したようだ。
私は何の罪もない人間の少女をこの手で殺したのだ。

じゅくじゅく…

たまらない。
私の身体は芯から疼きを挙げる。
高揚感が支配する。
それは人間の少女を殺したことに対するものなのか。
この手で同属として少女に新たな生を吹き込んだ事へなのか。
しかし、そんな身体とは裏腹に、私の理性は氷のように冷たかった。
強者と言えどこの程度のことでこれほどまでに猛など、獣とさして変わらぬ。
覚えてもいない人間の頃の私が私を貶している様な気がした。
弱肉強食。
その言葉を恨み。
私を食した我が母への恨み。
確かにそれを持っていた頃の私が私を罵るのだ。

「いいじゃないか。私はこいつを好いているのだ」
「すまない…」














『すまない…』

確かに、そう聞こえたような気がした。
あたしは重いまぶたを開く。
先程まで薄明かりに浮く程度だった寝室の光景が昼間のようにはっきりと見えた。
ああ、そうか…。

「あたし、負けちゃったのか……」

呟いた。

「お前は負けてなんかないさ。私が勝っただけだ」
「…それ、イヤミ?」
「ああ。そうだ」
「あたし、もう吸血鬼になっちゃったの?」
「ああ。もう終わった。そして、もうすぐ本番だ」
「本番?……なに?その今にも襲い掛かりそうな目は」
「吸血で快楽を得るのは吸血される人間だけではないのだ。お前は何度もイった様だからいいが。私は正直焦らされ続けた気分だ」
「……吸血鬼は。お高い貴族様は卑猥なことなんて好まないのだと思ってたわ」
「ふふ。私は好色な吸血鬼だからな」
「あら、淫乱ね」
「そうだ。でも、いいだろう?私は強い。だから弱者が何を言おうとまかり通るのだ」
「その理論。吐き気がするわ」
「ふふ。吸血鬼になっても相変わらずだ。    …人間の自分に、別れは済ませたか?」
「え? …いや、まだだけど……」

そう言われて初めて、あたしは悲しみでいっぱいになった。

「…あれ?あれ? おかしいな…どうして?」

涙が止まらない。
あたしはこうして確かに生きている。
なのに、おかしいな?
なんだかとてもとても大切なものを失ったような気がして。

「すまない…」
「……なら…。返してよ!…あたしを」
「嫌だ。お前は私の物だ。私は我侭なのだ」
「馬鹿、ばかぁぁぁ!!」

吸血鬼が優しくあたしを抱きしめる。
柔らかい胸の中であたしはしばらく泣いた。

「落ち着いたか?」
「…ううん」
「そうか。なら、ひとつおまじないをしてやろう」
「?」

ちゅ…

吸血鬼の唇があたしの唇を啄ばむ。
じょじょにキスは深くなってきて。
でも、なんだかあたしはそれが嫌じゃなくて。
気が付いたら自分から舌を絡めてキスをしていた。

ちゅぷ…。

「はぁ…。どうだ?落ち着いたか?」
「……なんだか、逆にドキドキしてる…」
「ふふ。そうだろう。なんせ私の魔力を大量に流し込んでやったからな」
「…卑怯者」
「もう放っておいてもお前は完全な吸血鬼になる」
「まだ…吸血鬼じゃないの?」
「いや。瞳はもう変わっている。だがまだ羽が生えていない。骨格の変化には時間がかかるからな」
「どの道もう戻れないってわけね」
「ああ。そして、完全に変わったなら、お前を貴族にしてやる」
「貴族…」
「私の誇りだ。そしてお前を私の誇りにしたい」
「あんたの…」
「そうだ。お前は私の誇りになるのだ。安心して受け入れろ」

そう言ってもう一度キスをされる。
目を覚ましてから落ち着いていた性的な快感と欲求が膨らんでいた。
でも、今度は意識もはっきりしている。
そして、自分をこんな目に合わせたはずの吸血鬼のことが、何故かとてもきれいで魅力的に見える。
これはあたしが吸血鬼になってしまったせい?

「なんだか、とってもエッチがしたい」
「ふふ。ここは貴族として『はしたない』とでも言った方がいいのか?」
「あなたが言うとそれはギャグにしかならないわ」

そして今度はあたしからキスをする。
きもちいい。

「不思議。さっきまであなたが怖かったのに。今はあなたを欲しいと思う。殺されてもいいとすら」
「じゃあ試してみるか?」

彼女があたしの胸に爪を立てる。

「あたしはもう吸血鬼なんでしょ?そんなことをしてもすぐに治っちゃうわ。それに、あなたはもうそんなことしない」
「ふふ。その通りだ」

彼女の爪はそのままあたしの皮膚を裂きながらあたしの身体に傷をつける。
あたしはその行為のあまりの気持ち良さに身震いした。
その傷も、見る見る間に消えていく。

「…あたし、もうほんとに人間じゃなくなっちゃったのね」
「すまないとは思っている。だが私は謝らない」
「私の心はボロボロよ。でも、諦めなら付くわ。形はどうあれ、生きるか死ぬかの生活からは抜けさせてくれるんでしょ?だって、私はもう貴族なんだもの」
「ふふ。まだまだ貴族になるには礼儀も言葉遣いもいろいろと覚えなくてはならなそうだがな」
「いいわよ。もともとあたしのガラじゃないもの…」
「そうでもないさ。 私の目に狂いがなければな」
「なら目医者を呼んだ方がいいかもね」

あたしは彼女に押し倒されるがまま、身体を開いた。














僕が目を覚ましたのは自分のベッドの上だった。
見れば外ははちきれんばかりに明るく、太陽は空の高いところに見えた。
早く起きすぎただろうか。
もう一度寝よう。
………。

「…………もうたべられないよぉ……」

そうそう。もう食べられ…ん?

「……何をしてるんですか?」
「……zzz私はやってません。こいつが全部一人でやりました……むにゃむにゃ」
「こいつって、誰ですか?…」
「…うるせぇなぁ、やってねぇつってんだ、ろっ!」
「へぶっ!」

ななななな。何だこの女!?
寝言が怪しい上に、眠ったまま的確に僕を殴ってきた!?
ってか、なんでこいつが僕のベッドに!?
さっさと地下牢に戻してこなくては…。
どうやって出たんだ?
しかし、いくらご主人様のお食事とはいえ、女性は女性。
寝ているのを無理やり起こして地下牢に連れて行くのも気が引ける。
僕はため息を吐きながらも身体を起こした。
少し早いが今日はもう起きることにしよう。
うう、なんだろう?
頭がくらくらする。
昨日のことが良く思い出せない。
確か昨日は朝に久しぶりにご主人様に血を召して戴けて。
そのまま気分良く地下牢に行って。
この女のせいで嫌な気分になって…。
だめだ、そこから先が思い出せない…。
僕は心もとない足取りでシャワールームに向かった。
シャワーの湯に当たっていると幾分か心が落ち着いてくる。
僕は長い髪を梳いて寝癖を整えていく。
黒く長い髪が好きだとご主人さまが仰ってから、僕は髪を切らずに伸ばしていた。
その時ふと昨日の自分の言葉を思い出す。
あの少女に思わず言ってしまったあの言葉だ。

『ぼくだってほんとはおとなになってご主人さまに男としてみてもらいたいんだよ!』

今思えばなんて気恥ずかしいことを口に出してしまったんだろう…。
僕はただ召使としてご主人様に買われただけの人間だ。
それを男として見てもらいたいだなんて。
僕なんかの血を飲んで頂けるだけでもこの上ない誉れだと言うのに。

「僕なんかの血を…」

ご主人様が僕の首に唇をあてがい血液を飲む光景を思い出す。
僕は首筋に触れ、そこに出来た傷跡の柔らかな凹凸に触れ、気づかずに笑みを浮かべていた。

「何一人で笑ってるの?」
「ふもっ!? ななな、何であなたがここに!?」

ああ、心臓止まるかと思った。
って、僕、裸!
なんでこいつが!?
ってか、こいつも裸!?

「シャワー借りようと思って。昨日はあんたのご主人様とやらにエラい目に遭わされたしね」
「ぼぼぼ僕が先に入ってます!外で待っててくださいよ!」
「あら?女の子を裸で外に待たせるって言うの?存外に酷いのね」
「そんな事言ったって僕は男ですよ!?」
「別に気にしないわ。昨日あんなことがあったばかりだし、もう何?『裸の何が悪い?別にいいじゃない楽だし』ぐらいのテンションなのよ、こっちは」
「僕が良くないです!」
「わぁ…主従揃ってあたしを犯す気?」
「そそそ、そんなことしませんよ!」

ん?主従揃って?

「いいからそこどいて」

僕が彼女の言葉に疑問を感じていると、突然突き飛ばされた。

きゅ…ザァァ

「ひきゃあぁぁぁああ!!?」

お湯を浴びた瞬間、突然少女が悶絶し始めた。

「ど、どうしたんですか!?熱湯でも出ましたか!?」

僕はあわてて駆け寄る。

「だ、だめ。今あたしに触っちゃ…あぁぁああああああん!!!」

僕が肩に触れた瞬間、彼女は大きく身体を跳ねさせ、その後もしばらくシャワーに当たったままビクビクと痙攣していた。
ただ事ではないと感じて僕はすぐさま彼女をシャワールームから引きずり出してその身体を大きなタオルで包んだ。

「はぁ…はぁ…もうらめぇ…」

彼女はその後しばらくぐったりと横たわったまま動かなかった。

「な、何があったんですか?」
「きもひ、よかったぁ〜……(悦)」

それが、彼女の最期の言葉だった。











「って、死んでないわよ!!誰が死ぬか!ちょっと短時間でイキまくっただけよ」

彼女は突然息を吹き返したようにツッコミを入れた。

「はぁ、元気そうですね。っていうか、何があったんですか?」
「…わからないわ。 ただ、死にそうなぐらい気持ちよかった…」

彼女のそう言う顔は何だかとても色っぽい。

「気持ちよかった?お湯を浴びただけですよ?」
「…でも、なんか散々焦らされた挙句、突然豪快にクリ攻めを食らったかのような…」
「お湯を浴びて性的快感を? …それに瞳の色も…っ!?」

その瞬間、僕の頭の中で嫌な回答が思い浮かんだ。

「あなた、まさか吸血鬼なのですか!?」
「え? あ、そうか。もうあたし吸血鬼なのか。吸血鬼は流水に弱いって言うもんね」
「どどどどど、どういうことですか!?この屋敷に来たときはあなたは間違いなく人間だったはずじゃ!?」
「そうよ。あんたのご主人様に血を吸われて無理やり吸血鬼にされたのよ!」
「………なんだ…って?」

僕はあまりの衝撃に膝から崩れ落ちた。
ご主人様がこんな娘を?
そんな馬鹿な…。
この娘はとても貴族になんて向いてない。
それに何より数百年も人間から直接血を吸うことのなかったご主人様が…。
ご主人様が僕以外から直接血を吸うなんて…。

「嘘だ!!」
「嘘じゃないわ。骨を砕かれて、お腹に穴を開けた挙句『人間として死ぬか吸血鬼として生きるか選ばせてやる』だって。ほんっと、あんたの主人って勝手よね」
「嘘だ…。そんな…ご主人様が僕以外の人間から直接血を吸うだなんて…」
「…もしかして、ショック受けてる?」
「認めない!僕は認めないぞ!!お前なんかがご主人様の娘になんて!!僕は認めないぞ!!」
「…はぁ、古姑かい、あんたは。 わかったわ。じゃあ、ご主人様に直接聞きに行けばいいじゃない」
「そうだ!話を!絶対にに何かのまま間違いだ!!」

僕は居ても立ってもいられず走り出した。













男の子がすごい勢いで走り出していく。
裸で。
見れば開いたクローゼットには男の子の執事服と、その奥には様々なサイズのメイド服や執事服がきれいに並んでかけてあった。
あたしはその中から自分の着れるメイド服を選んで着ると、男の子のいつも着てる執事服を持って後を追いかけた。











「ご主人様!!」

僕はご主人様の部屋のドアを開け中に飛び込んだ。
珍しくご主人様は目を覚まされていた様で、鏡の前で髪を結っておられた。

「どうした?騒々しい。ノックもなしに何用だ?」
「どういうことですか!?」
「何がだ?」

返事を返しながらもご主人様は淡々と御自分で支度をなさる。

「あの娘です!」
「どの娘だ?」
「ご主人様が直接吸血を行い吸血鬼にしたというのは真ですか!?」
「ああ、ローラのことであったか。うむ。正式に私の娘にしようと思う。どうだ?なかなかに芯の強い良い娘だとは思わないか?」
「そんな!僕に何も言わず…」
「ほぉ…」

ご主人様はそれを聞くとゆっくりと立ち上がり僕の前まで悠々と歩いてこられた。

「貴様も偉くなったな?ベリル」
「へ? あ、いや、そういうつもりでは…」
「私はお前の許し無しでは娘を創ってはいけないのか?」

ご主人様が僕のあごを掴み顔を寄せる。
宝玉のような瞳で僕を見つめる。
縦に割れた吸血鬼特有の縦に割れた瞳孔が僕の心臓を刺し貫くように見つめる。
膝が震え、指先が戦慄く。
恐ろしい。
美しい。
僕は口も開くことが出来ずに魅入られてしまう。

「ほぉ…。叱られながらにそれを勃たせるか」
「へ? え? あああぅ!?」

そう言われてはじめて気が付いた。
僕は裸だった。

「何だ?粗末なものを勃たせて。虐めてもらいたくてわざわざ乗り込んできたのか?」

ご主人様が僕のモノを掴み、爪を立てる。
僕はそれだけで果てそうになる。

「なんだ?まだ大きくするのか?はしたない」
「…はい。僕ははしたないです」
「………はぁ。 止めだ。つまらぬ」

そう言ってご主人様は僕のモノから手を離した。

「ダメだ。ベリル。ぜんぜんダメだ。お前は私を喜ばせる気が全くない。そんなんじゃいつまで経ってもお前を抱くことは出来ん」
「え!?……」

僕は膝からへたり込んだ。

「ちょっと!何所行ったのよ!?」

ちょうどその時、少女が部屋に入ってきた。

「いた!何してるのよ!服も着ないで」

少女が僕に服を着せてくれる。
僕は動くことが出来なかった。

「ほぉ。なかなかに似合っているではないか」
「そう?スカートなんて動きにくいわ」
「ふふ。たしかに、お前のほうが余程そいつよりも執事服が似合いそうだ」
「そう?あたしはこいつより執事服が似合うやつを見たことがないわ」

ご主人様があんなに嬉しそうにしゃべる光景を見たのは初めてだった。
そうか、やっぱりご主人様は僕よりもこの女を…。













あたしが服を着せ終えても彼はその場から動こうとしなかった。
どう見ても深く落ち込んでいるように見える。

「ちょっと?この子に何言ったのよ?」
「何も言っておらん。勝手にそいつが落ち込んでおるのだ」
「はぁ…。いくら召使だからってあんまり酷い事しちゃだめよ」
「いいんですよ。ご主人様が言うことは正しいですから…」

そう言って男の子はのっそりと立ち上がり、ふらふらと入り口の方へ歩き出した。

「ちょっと、何所行くのよ!?」
「…ちょっと別次元への扉を探しに行って来ます」
「ちょ!だめよ!そんな扉無いから!何所探したって見つからないから!!」
「…モロッコ行ってちょっと女の子になってきます…」
「モロッコないから!!ここモロッコ無いから!!ってか、そう言う発言はやめてぇ!」

あたしはこのままではふらふらと冥府まで行ってしまいそうな少年をどうにか取り押さえた。

「ほんと、何言ったのよ…」
「さぁな。忘れてしまった」

どうにか落ち着いた(?)少年をベッドに座らせ、あたしは吸血鬼と話していた。

「もう…いくら吸血鬼で彼の主人だからって、いじるのも程ほどにしないと…」
「ふふ。そういうお前ももう吸血鬼ではないか」
「誰のせいよ!」
「さぁな。無理やりお前を吸血鬼にした私か?それとも、お前に惚れ込みお前の人間を殺した私か?」
「どっちにしてもあんたじゃない! はぁ。もういいわよ。っていうか、私をどうする気なのよ?」
「ふむ。私はお前を貴族に迎え入れようと思う」
「へぇ。それ、本当だったの。 昨日も言ったけど、あたしは貴族なんて向いてないと思うわよ。まぁ、お金に困らなくなるならそれは嬉しいけど」
「ふふ。まぁ、私の目を信じろ。 っと、もうこんな時間か」
「ん?どうしたの?」
「ふむ。実はこれから客が来るのだ。その為にわざわざ眠い中昼間に目を覚ましたのだ」
「へぇ〜。やっぱり吸血鬼は昼間は寝てるのね」
「おい。ベリル。客が来るといったであろう。支度をせい」

吸血鬼が少年に呼びかける。

「え〜?僕なんかがご主人様のお世話なんてさせていただいてもよろしいのですか?」
「誰がダメだといった?それともお前は私に客の茶を入れさせるつもりか?」
「…喜んで準備させていただきます!」

突然少年は元気を取り戻しいつもの態度に戻って部屋を出て行った。
その瞳はとても輝いていた。
これは相当この吸血鬼のことが好きなのね。












僕は意気揚々と部屋を出た。
すぐに客間に向かい、客間の隅々まで掃除をこなす。
普段から掃除をしているのでそれほど時間はかからず掃除は終わる。
その後すぐにキッチンへ向かい、ポットに湯を沸かしておく。
ちょうどその時、玄関でドアベルが鳴る。

「ぅお〜い!儂が来てやったぞぉ~。バフォさまのご到着じゃ〜」

幼く可愛らしい声がドアベル以上の大音量でエントランスに響く。
僕は急いでドアを開けると、そこには山羊のような角を生やし、露出の高い服を着た幼い魔獣型の魔物が(ない)胸を張って腰に手を当てて立っていた。
魔王に使えるという魔界の重鎮、バフォメット様だ。

「お待ち申しておりました。どうぞ中へ」

僕は少女を中へお通しする。
するとその後ろから三角の帽子を被った同じ年くらいの少女が1人入ってくる。
少女というより幼女といった方がいいであろう年恰好の少女だが、彼女はご主人様によく秘薬や魔薬を売りに来る魔女だ。
数多くいる魔女の中でも彼女は特に薬学に秀でた才を持つと初めてバフォメット様がお出でになられた時に自慢げに言っておられたのを覚えている。
彼女は中に入ると僕に軽く会釈をした。

「お荷物、お持ちいたします」
「あ〜。い〜ですよぉ。重いですしぃ」
「いいえ、仕事ですので」

僕がそう言って微笑み返すと少し俯いて、「なら、お願いします」と自分が中に入れてしまいそうな大きな皮の鞄を差し出した。
うおっ!
確かに重い…。
しかし僕はそれを顔に出さないように気をつけ、お2人を客間へお通しする。
と、その時。

「おお、ロリコン幼女!無事に着いたようだな。ちゃんとおしっこタイムは途中で済ませてきたか?よもや泣く泣く道の隅で済ませたのではないだろうなぁ?」

エントランスの二階からドレスに着替えたご主人様が顔を出した。

「むぅ。きさまこそ儂が来ることを恐れてベッドの中で縮こまっておったのではないか?レズ年増」
「ふふふ。長旅、すまなかったな」
「よい。竜車で半日ほどの道のりじゃ。 ん?その娘が件の者か?」

バフォメット様がそう言って初めてご主人様の後ろにあの子がいることに気がついた。
そして、僕はその姿を見て声の出し方を忘れた。

「ほほぅ。なかなかによい娘であるなぁ。ぜひともサバトに入れて若返らせたいぞ」
「ふふ…  私の娘をロリのカテゴリに入れようとすんじゃねぇよ、ロリコン!」
「むすめぇっ!?なにそれ?聞いてないわよ!?」

変わらぬ素振り、立ち振る舞い。
しかし、おそらくはご主人様に着せて戴いたのであろうそのドレスは誂えた様に似合っていて、その姿だけ見ればどこの貴族かと見間違うほどだった。
手入れなど一切していなかったのであろう赤い髪は、香油でなめされ、花のように結いあげられ、吸血鬼となって生まれた赤い瞳はまさにご主人様の娘であるかのように美しく光り輝いて見えた。
それらは持ち前の白い肌とコントラストを成してあやしくも美しい貴族の姫をそこに作り出していた。
ああ、やっぱりご主人様は正しかったんだ。

「ちょっと!何下品な目で見てるのよ!このチビでビビリな男、略してチビ男!」

前言撤回。
やっぱりあれはただの町娘だ。
馬子にも衣装とはよく言ったものだ。

「ううむ。その威勢もよいのぉ」
「そうであろう?まぁ、長い話になる。部屋の中で話そう」

そう言ってご主人様が女の子を連れて階段を下りてきた。
僕もお客様を客間に案内する。
4人が席に着くとバフォメット様とご主人様が懐かしそうに悪口交じりの雑談を始めた。
僕はそれを見ると、すぐにキッチンに行ってお茶の支度をする。
ワゴンを押して客間に入ると未だバフォメット様とご主人様の雑談が続いていた。

「セーラム原産茶葉にローズミントフレーバーを加えたフレーヴァーティーです。バフォメット様にはカーデナ高原産のハニービー蜜をふんだんに使用したホットチョコレートでございます」

4人にそれぞれのお茶を出す。
バフォメット様だけ違うのは閣下は特別扱いされることを大層喜ばれるのと、苦いものは一切飲まないからだ。

「うむっ!うまいぞ!よくぞ10年足らずでここまでになったな。小僧」
「恐悦至極でございます」

そうだ。僕はこの十数年でご主人様のためにあらゆることをしてきたんだ。
今ではお茶の淹れ方もどんな屋敷の執事にも負けないつもりだ。

「ふふ。余り甘やかすな、バフォ」
「何を言うか。儂は甘やかしてなどおらぬぞ。こやつの働きをたんじゅんにひょうかしてやったのじゃ、ヴラド」
「まぁいい。とりあえずベリルも揃ったことだ、本題に入ろう」
「『吸血鬼初心者セット』一式であったな。マイン、例の物を」
「はい」

そう言って魔女のマイン様は大きなカバンの中から複数の小瓶と大きな瓶に入った赤い液体を取り出した。

「えぇ〜っと、わたしから説明させていただきますねぇ。これがヴァンパイア用の入浴剤、真水も聖水も怖くない!バス○マンMk-Uですぅ。ヴラド・ツェペッシュ侯のご使用になっている物よりも10倍ほど高い濃度になっておりますぅ。そしてこちらが日中に外出する際にご使用いただくと力の減少を三分の一程度に抑えることができるすぐれもの、あのアニキも毎日使用するという、ガチムチ日除けくんクリームですぅ。あと、こちらがニンニク料理の食前に服用いただくことでニンニクの成分を強力分解してその効果を打ち消すことができるその名もウ○ンの力SK+ですぅ。そして、こちらの大きな瓶の液体が、かのセレブ吸血鬼、ヒルズ姉妹もその昔ご使用になられたという吸血鬼初心者でもゴクゴク飲めるガブのみ血液ですぅ。最後に、こちらの一番小さい瓶の中に入っている丸薬が銀に対する抵抗力を高め、10年服用すれば銀の杭だろうが、銀の弾丸だろうがへっちゃらになれる優れもの、Agノー○ですぅ」
「ふむ。確かに」

ご主人様はそれを確認すると紫色の水晶を差し出した。
マイン様がその水晶玉を専用の台座に乗せると水晶が何度か輝き、

ぴろり〜ん♪

支払いが完了した。
ここ数年でサバト技術開発局が制作導入したという量子マネーというやつだ。
これのおかげでいちいち鞄一杯の札束で支払いして、枚数を魔法でいちいち計算していたのがうそのように楽になった。

「うむ。あと、これが頼まれておったものじゃ。ちゃんと魔王庁公認じゃ」
「何から何まですまないな」
「よい。こちらも商売じゃ」

そう言ってご主人様がバフォメット様から1封の書類を受け取る。

「ノーラ。これでお前は正式に私の娘となった」
「ちょ!だから娘になるだなんて聞いてないわよ!?」

その言葉を聞いて、僕は腹の底から何かがわきあがるのを感じた。
嫌だというのか?
この女、あまつさえご主人様に吸血鬼にしていただいたというのにそのうえ正式に娘としてくださるというご主人様のこの上ないご厚意を無下にするつもりなのか!?

「…私の娘になるのが嫌なのか?」
「あたしに何の相談もなしに勝手に話を進めないでって言ってるの!!  …まぁ、お母さんができるのは悪くないけどさぁ(ボソ)」
「おおぅ、デレたぞデレ臭がしておるぞ。くさいくさい」
「なにおぅ!?チビっ子のくせに!!」
「ふぉふぉふぉ。おぬし、儂がかわいいから嫉妬しておるのじゃな?ふぉふぉふぉ」
「むっかぁ〜〜!!!」
「ふふふ。ノーラ。落ち着け。お前の負けだ」
「私は負けてないわ!!」


4人が楽しそうに話をしている。
そんな中、僕は1人寂しい気持ちになっていた。
召使いである僕はどんなに頑張ってもご主人様の家族にはなれない。
男である僕はどれほど望んでもご主人様に吸血鬼にしていただくことなど出来はしない。
男嫌いのご主人様はどんなに望んでも僕を抱いてはくれない。
でも、召使いとしてでもご主人様の傍にいられるなら。
ご主人様の傍にお仕えする事が出来るならこれほど幸せなことはない。
そう思っていた。
なのに、彼女は僕の淡い夢を絶った1晩で現実にしてしまった。
許せない。
なんでそんなすごいことをしておいてご主人様にあんな言葉遣いができるんだ?。
許せない。
僕があの日からずっと脅えながらも敬い続けたご主人様をたった一晩で奪い去った。
許せない。
そしてご主人様は僕を抱かずにあの女と…。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないユルせない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないユルセナイ許さないゆるせない許せない許せない許せない許せないゆるせない許さないゆるさないゆるさない!!
ぼくはごしゅじんさまのことをあいしてるんだなのにごしゅじんさまはどうして かあさんととおさんをきりころしてかあさんのうごかなくなったからだにきたないぺにすをおしつけて おとこぎらいでもかんけいないぼくがおとこでもごしゅじんさまにあいしてもらいたい いもうとをかかえてにげるぼくをきたなくにごっためでみつめてくちびるをなめてみにくくわらい ああやってあたまをなでてもらいたいああやってやさしくわらいかけてほしい にげまどうぼくらをおいかけてきたあいつらを ごしゅじんさまがちょくせつちをのむのはぼくだけなんだ いもうとがめのまえでひんむかれてやめろそんなのはいるわけがないやめろお ごしゅじんさまのやさしさをだれよりもしってるのはぼくだ くらやみからおりてきたあかいつきいっしゅんでやつらをきりさいて ごしゅじんさまのおそろしさをだれよりもしってるのはぼくだなのになのになのに ちにぬれたてをさしだしてあかいひとみでほほえみかけていった ごしゅじんさまはぼくをすくってくれたぼくをぼくでいいといってくれた わたしのところにこいってそのあかいてでめでぼくをやさしくつつみこんでくれて ぼくはごしゅじんさまをだれよりもあいしてるんだ





「僕がご主人様を愛してるんだ!!」





僕が叫んだ瞬間、しんと部屋が静まり返った。

「何を言っておるのだ?ベリル。客の前だぞ?」
「ちょっと、いきなりどうしたのよ?」
「ご主人様を一番愛してるのは僕だ!何でお前はそうやって笑ってられるんだ!僕がどんなに望んでも吸血鬼になれない。家族になれない!なのに何でお前はそんな簡単にご主人さまから愛されるんだよ!なんでなんでなんでなんでなんでえぇぇ!!!!!」


              ぱぁん


僕はお着物の置かれたアンティークのショーケースに頭から突っ込んだ。
ガラスの破片であちこちを切った。
でも、頬の痛みだけが異常に熱くて。
しばらくして分かった。
ご主人様に頬を打たれた。

「客の前だぞ!弁えろ!ど阿呆!」
「嫌だ!僕は納得できない!なんでそいつなんですか!?何で僕じゃないんですか!?僕が男だからですか?僕が召使いだからですか?」
「貴様…言わせておけば!!」
「ヴラド卿!!?」
「まてっ!マイン。止めてはならぬ」
「しかしバフォ様!?」
「よい。黙ってみておれ」

ご主人様がこちらに歩いてくる。
瞳が赤く燃えている。
怒っているんだ。
でも、僕だって怒ってる。

 がぁんっ!

一瞬頭が真っ白になった。
気がつくと僕の上半身が壁にめり込んで。
でも僕は立ち上がる。
ここで負けちゃだめだ。

「あんな゛…むずめ゛の…どこがいいんでずが!!?ぼぐを!ぼぐをみてくだざい!!!」
「だまれぇ!」

ドンっ!

「あ゛あ゛あ゛ああぁ!!」

右腕がご主人様の拳で砕けた。

「ぼ……ぼぐはごじゅじんざまが…すきだっ! せかいでだれよりもあいしてるっ!!」
「まだ言うのか!?」

ご主人様が右腕を振り上げる。
殺される。
でも、でも伝えるんだ。
たとえ届かなくても。
たとえ聞いてくれなくても。
ご主人様の腕が消える。
振り下ろされたんだ。
避けることなんてできない。
死ぬ。
でも、そんなこと全然怖くない。
その時見えた。
ご主人様の目から涙が。

「ああ…ぼくが…ふいてあげないと……」

真っ暗になった。















「やめてっ!!」

あたしは思わず飛び出した。
吸血鬼のあたしの体は自分でも驚くほどの速度で女主人の拳を止めていた。
みれば男の子は立ったまま気を失っていた。

「邪魔をするな!!」
「邪魔をするわっ!何でわかってあげないのよ!!この子はこんなにあなたを想ってる!!」
「わかって…ないわけがあるかぁぁ!…」

吸血鬼は泣きながら崩れ落ちた。
私はほっとした。

「私も辛かった!!こいつの思いは何年も何年も分かってた!!でも、だからこそこんな軟弱なままで受け入れてはいけないのだ!!」
「それは何?貴族様の誇り?」
「分からない…分からない……」
「…そう。あなたの、願いなのね」
「うぅ…どうして…どうしてこいつはわかってくれないんだ……」

昨日は恐ろしく見えた。
明け方には愛おしく思えた。
今は、とても幼く見える。
ほんと、素直じゃない。

「ご…じゅじんざま゛が…ない…てる…。ぼぐが…ぼぐがなみだを…ごしゅじん…さまを………なぐさめて……」

驚いた。
あの子、ほとんど意識も残ってないはずなのに…。
それを見た吸血鬼は男の子に駆け寄った。

「すまない!すまない。ベリル。許してくれ。ゆるしてくれぇぇ…私も、お前が好きだ…」
「ごしゅじんさま…ないては…けません…」
「うう…うあぁぁ…どうしたら、どうしたらいいんだ私は!…」

私はそこに、私なんかじゃ入りこむこともできないほどの強い絆を見た。
自分ではどうしようもできないほどに主人を愛してしまった従者と。
その思いを知り、貴族と女、二つの自分の間で苦悩する主。

「ふん。やはりお前はまだガキじゃな、ヴラド」
「ああ…そうだ。私は自分の気持ちひとつもどうすることもできない…。どうすれば…」
「簡単なことじゃ。その小僧が男になればいいのじゃろう?もうそやつは立派な男じゃ。何もせんでも近いうちにお前の望む形に収まるであろう」
「ふっ…ずいぶんと身勝手だな」
「なんじゃ?儂に助けてほしいのか?」
「いらん。これはうちの問題だ」
「その通りじゃな。じゃましたのう」
「…もう帰るのか?」
「ああ。仕事は済んだし、楽しいものも見れたしの。これから帰って魔女たちにこの面白い土産話をしてやらねばならぬ」
「ふん。相変わらず性格が悪いな」
「お互いさまじゃ。あと、もう一つの件は上手く行った。来週には間に合うじゃろう」
「…すまん」
「ふぉふぉ。ガキのお守は仕事前じゃ。あと、薬を一つ置いてゆく。その小僧に飲ませてやれ。数日で身体の方は良くなるじゃろう」

そういってバフォメットと魔女は屋敷を出て行った。



あれから2日して、男の子の意識は回復した。
でも、バフォメットの言葉とは裏腹に、吸血鬼は自室に閉じこもったまま出てこないし、目覚めた男の子もベッドから出ようとせず、ずっと窓の外を見たまま動こうとしない。
あたしは無力だった。
原因の一端はたぶんあたしだ。
あの子があれほどあの吸血鬼のことを想っているなんて知らずにあんな言い方をして。
本当は嬉しかった。
父親は顔も名前も知らない。
母は娼婦で、あたしはその娘。
子付きの娼婦を雇ってくれる娼館はなく。
母は仕方なく夜の街に出て男に身を売っていた。
あたしは働けるようになってからはどうにか稼ぎを得ようと頑張ったけれど、幼いあたしにできる仕事など限られている。
母はそれでもあたしを捨てることはなかった。
朝方になって帰ってくると、決まってあたしの頭を撫でて微笑みかけてくれた。

『愛してるよ、ローラ。あんたはあたしの誇りだ。どんなに辛くても、あんたを想えば乗り越えられる』

そう言ってくれた。
何度も何度も。
そして、いつも仕事に行く前は決まってあの言葉を言う。

『人間に大事なのはプライドとお金よ。プライドが負けなければ勝てなくても負けない』

あたしが10歳になるころ、母は体中に赤い痣ができる病気にかかった。
定期的に高い熱が出て、日に日に衰弱していった。
それでも少しでも症状が治まると母は街に出た。
一目で病と分かる女を買う男などいはしない。
母は家にフラフラになって帰ってきて、こう言った。

『人間に大事なのは心とプライドよ。心がある限り負けるはずはないのよ』

次の日、母は目を覚まさなかった。
お金のないあたしは協会に頼んで母を共同葬にしてもらった。
どれが母の物かわからないくらいたくさんの人と一緒に母は埋められた。
そのあと、最初はまともに働いたけれど、幼くそして女であるあたしを雇ってくれる人などどこにもいなかった。
だから、あたしは盗んだ。
盗みに身を落とすのは嫌だったけど、心を見失わなければあたしはあたしでいられた。
なるべく悪そうな人間を見つけては金品を掠め取った。
そして、あの日運悪く奴隷商人に捕まってしまい、ここへ売られてきた。
主が吸血鬼だと言って、お前は間違いなく殺されるぜ。と男たちは脅してきた。
怖くなかったと言えば嘘になる。
でも、あたしは負ける気はなかった。
たとえ殺されても心だけは殺させない。
どんなひどいことをされてもプライドだけは守って見せる。

そして、数日前のあの日、あたしは人間の身体を失った。
心も折れてしまいそうだった。

『あたし、負けちゃったのか…』

そうしたら、あの吸血鬼は言ってくれた。

『お前は負けてなんかないさ。私が勝っただけだ』
『すまない』

最後にあたしの心とプライドを守ってくれたのはそれを壊そうとしていた吸血鬼自身だった。
そして…。

『お前を私の誇りにしたい』

母さんと同じことを言ってくれた。
内心、人間を奪われたことを差し引いてもそんなの許せるくらいに嬉しかった。
そして、本当にあたしを娘にしてくれて、あたしは心の中で舞い上がっていた。
だから、見えてなかった。
あの子がどれほど吸血鬼のことを好いていたか。
あんな激情を胸に秘めていたなんて。
あの作り上げた鉄面皮の下にははじけて飛びそうなほどの人間らしい感情を抑え込んでいたんだ。
気づいてあげるべきだった。
「チビ」って言われてあれほど取りみだした彼を。
「僕が男だから」って泣きそうに叫んでいた彼を。



「ご飯、持ってきたわよ。料理なんてしたことないから上手く出来なかったけど。

ベッドサイドのテーブルに見栄えの悪い料理を並べた。
あたしにはこれくらいしかできないから。
彼は何の反応もしなかった。



それから2日が過ぎた日だった。
あたしが彼の包帯を解くと、綺麗さっぱりと傷は治っていた。
本当だったら二度と動かないほどだった腕もちゃんと動かせるようになっているみたいだ。
バフォメットの薬のおかげだと思った。

「どうやらこれで身体は治ったみたいね。よかったじゃない」

返事はない。
そしてあたしはテーブルに残されているはずの手のつけられていない料理をかたずけようと立ち上がった。

「あれ?お皿が…」

毎日手つかずで残されていた料理がきれいに平らげてあった。

「お前の料理は投げ捨てたくなるほど不味いな」

男の子がしゃべった。
それも、仮面越しの敬語ではなく、時折見せたありのままの言葉で。

「わ、悪かったわね」
「やっぱりお前にご主人様は任せられない」

男の子がこっちを睨みながら言った。
あたしはやっとの思いでにらみ返す。
本当はほっとして笑いだしそうだった。

「勝負をしよう!ご主人様をかけて!」
「う…受けて立つわ!」

そう言い放った。
声が震えるのは流石に抑えられなかった。











「ご主人様、失礼します」

懐かしい声が聞こえた気がした。
私は酒と血で揺らぐ頭を動かし、ドアの方を向いた。

「うわっ!なにこれ!?酒臭っ!」
「これは……ご主人様。これではお身体に障ります」

子供が2人入ってきた。

「何用らぁ?わらしはいま酒をのんでるんら。はいってくるらぁ!」

舌が麻痺してまともな言葉にならなかった。

「ご主人様。お話があります」
「わらひはない!でていけ。お前のはなひなろ聞きはくない!」
「ご主人様。まずは先日のご無礼をお許しください」
「いやら!ゆるさぬ!あらしは許はぬ!」
「許せと言って許していただけるとは思っておりません」
「ならとっととでてへぇっ!」
「嫌です!僕は臆病ものでした。しかし、もう決めたのです!」
「おふびょうものはいらぬ!わらひの名に泥をぬるふもひかぁ!?」
「そんな姿を見せておいて泥も何もないと思うけどね」
「だまれぇ!わらひはいいんらぁ!わらひはつよいからなんれもゆるされふぅっ!!」

私は頭に血が上って言い放った。
しかし次の瞬間。

がん!

衝撃を受けてから瓶の山の中に転がり込んだ。

「酔いすぎて僕の拳も避けられなくなりましたか?」
「っっ!!きっさまぁぁ!!」
「今のあなたは僕の主じゃない!!」
「なっ!」

冷や水を浴びせられたようだった。

「僕が使えるご主人様は誰よりも強く気高くそしてこの世の何よりも美しい!」
「きさま、血迷ったか!?」
「僕は正常です。あなたがおかしくなってるんですよ!ヴラド様!」
「なんだと、もういっぺんいってみろぉ!!」

私は全力で殴りかかった。
しかし足がもつれて体制がぐらついた。
そして拳をかわされ、あろうことかこけそうになった身体をベリルに受け止められてしまった。

「ほら。あなたは弱い。人間の僕を殴ることすらできない」

私はその言葉に噛みつこうとした。
しかし、

ちゅ…

その唇を塞がれてしまった。

「んんっ…ん………」

口の中に広がる味。
それを感じた途端、私の身体が燃えるように熱くなった。

くちゅ

「…どうですか?僕のキスの味は」
「…これは…血?」
「舌を噛んで血を吹かせました」
「おい…しい」

懐かしいベリルの血の味。
でも、先日飲んだ時とは明らかに違う風味。

「もう僕は待ちくたびれました。待つのはやめました。 だから、あなたを力ずくで奪って見せます」

もう一度キスが降ってくる。
血の味が口の中に広がる。
その瞬間、抗えなくなる。

「ん…んぁ………んん」

舌が差し込まれて。
舌を舐められる。
口の中の至る所に血を塗りつけられる。
気持ちいい。
体から力が抜ける。

「ぷはぁ…んん…」
「はぁ…はぁ…気持ち…よかったですか?」
「そんらぁ…こと…ないぃ」

酒との相乗効果で私は眠気にも似た心地よさに溺れそうだった。

「ふふ。眠そうですね。でも、寝てもらっては困ります」

そういってベリルがにこやかにわらった。
私はなぜかその顔に身震いがした。

「ひきゅんっ!!??」

突然秘部から雷のような快楽を感じ、眠気が吹き飛ぶ。

「あはは。ご主人様でもそんなに可愛らしい声を出されるのですね」
「な、なにぃ??」
「ふふ。真水ですよ。屋敷の外のお側から汲んできた綺麗な流水です。吸血鬼のご主人様には少し刺激が強いですか?」
「そ、そんなものぉ…ひっ! ひゃぁぁぁ!!」
「ほら、まんべんなくかけてあげますね」
「ひゃぁぁぁ!!やめて…らめぇぇぇ!」

ベリルが水差しに入った水を私の身体にかけていく。
そのしずくが、流れが触れるたびにい狂いそうな快感が走る。

「あはは。すごいですご主人様。水でドレスが透けてとってもいやらしいですよ。下着を着けてないせいでおっぱいもオマンコもすけすけです」
「やぁ…やぁぁぁ…しみる…しみるのぉ…」

真水でぬれた服がべったりと張り付いて私の体のあらゆる所を性感帯のように疼かせる。

「ろ〜らぁ〜…たしゅけてぇ……」

私は耐え切れず傍観を続けていたローラに助けを求める。

「すごぉい。うふふ。流石は『好色な吸血鬼』様ね。とってもいやらしいわ。」
「そんなぁ…」

ローラは私を見降ろして笑うと私を汚い者でも見るかのように視線で私の身体を舐めまわす。

「ふふ。ローラさん。『勝負』ですから僕ばかり責めても不公平ですね。交代しましょうか」
「うふふ。そうね。どっちが吸血鬼…ううん。お母様を気持ちよくさせられるかの勝負ですものね」

そしてあろうことか私を責めていたベリルがどいて、代わりにローラが私の身体にまたがった。

「お母様。今のあんたの顔、とってもいやらしいわよ。かわいすぎて食べちゃたいくらい」
「ろ〜らぁ…やめて…いまは…」
「ふふ。安心して『ちょっとしたお遊び』よ。みんなで楽しみましょう」

そう言ってローラが私の身体をまさぐる。
真水のせいで全身性感帯になっている私は耐え切れず声をあげてあえぐ。

「ふひゃぁぁぁん!らめぇ…おへそぉ、らめぇ〜」
「っく!湿った服のせいであたしまで…もう、脱がしちゃえ!」

びりり!

服が強引に破かれる。
水でぬれた肌が突然外気にさらされる。

「いひゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!??」

びゅくん!

全身が外気に触れた瞬間、頭が真っ白になる。

「ああ…。お母様。すっごくかわいいわ。イったのね。服を破かれただけでそんなかわいくイっちゃったのね」

ローラがあたしの顔を見ながらローラとは思えないほど妖艶な顔で笑う。
でも、これで真水は乾いてくれる…。

「おっと、手が滑ってしまいました」
「「きゃぁぁぁぁあああぁぁ!!」」

頭から残りの真水をかけられた。
一瞬にして何度も絶頂を迎える。
そしてそれはローラも同じようでお腹の上に乗ったローラの秘部から熱い液体が何度かお腹の上に放たれた。

「べ、べりるぅ…あんたぁ…ひひょうよぉ…」
「すみません。ほんとに手が滑ったんですよ。 いけませんね。このままでは二人とも風邪をひいてしまいます。でも、幸い今は昼間ですし、陽の光を入れればすぐ乾くでしょう」
「ら、らめぇ!」

ベリルがカーテンに手をかけた瞬間、私は叫んだ。
しかしベリルは躊躇することなくカーテンを引いた。

「「ああああぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁ!!!!」??」

私とローラが同時に屋敷中に響きそうな悲鳴を上げた。
ヴァンパイアは陽の光の下では体力が普通の人間と同じか、それ以下にまで落ちてしまう。
だが、人間と違い魔王のせいでサキュバスとなった私たちの身体は人間と違い恐ろしい性的感度を持っている。
それを普段は強靭な抵抗力で抑えているのにその抵抗力も人間並みになってしまう。
そうなれば人間の何倍もの感度を持つ身体に、吸血鬼にとっては媚薬以上の効果を持つ真水がかかっているのだ。
私たちはとてもじゃないが耐えられるわけもなかった。
私は一瞬の間に数十回もの絶頂を迎えたかのような快感で魂と身体が引き剝がされそうな感覚を覚えた。
絶頂の波が引くのにそう時間はかからなかったはずだが、私にはそれが数十分にも感じられた。
気がつけばまだ快楽に耐性の弱いローラは私の身体の上でぐったりと倒れ、気絶していた。

「あはは。すごいや。ご主人様とローラの歌、まるで町中に響き渡りそうなくらいでしたよ」

ベリルが笑顔で歩いてくる。
幼く、まるで少女のように可愛らしい顔は、悪魔のように恐ろしく見える。
背筋が凍るような感覚が走り、指先が震える。
私が恐れている。
相手は人間だぞ?
しかし、陽の光の中にいる今の私ではとても太刀打ちできない。
そして身体は真水と日光のせいで空気が触れるだけでも秘部を撫でられているかのような快感を伝え続ける。

「ふふ。お姫様は眠っちゃいましたね。仕方ないので静かに日向ぼっこでもしていてもらいましょう」

そう言ってローラを抱き抱えるとローラを窓のすぐ近くの日当たりのいい床の上に下ろした。

「ひはぁぁぁぁあ!!」

意識のないはずのローラの身体が何度か痙攣し、とうとう秘部から雫を漏らした。

「あらあら、はしたない。この年でおもらしだなんて」

そしてベリルがゆっくりとこちらに歩いてくる。
私は思わず腰を引きずって後ずさった。

「ふふ。どうしたんですかご主人様?僕はあなたの召使いのベリルですよ?」
「や、やめろ。来るな」
「あ、もしかして自分が裸なのを気にしてらっしゃるんですか?それはしかたない。『ご主人様の見られたくない姿を見てしまったので、僕も見られたくない姿を見せてあげますよ』」

ベリルがいつかの私のセリフをまねて微笑み、服を脱いだ。
ベリルの猛ったものが露わになる。

どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん…

その瞬間、覚えてもいないはずの過去の光景が稲妻のように頭にちらつく。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
私はわけも分からずその身を震えさせた。

「くるなぁ!こないでぇ!わたし、なにもしません!なにももってません!やめてください!やめてくださいっ!!」


××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
ゆがんだわらい・・・・・・・・おまえにつよさをやろう・・・・・・・・・・・ころす
・・・・・・・・・きたないぺにす・・・・・・・・・・・しにたくなければ・・・・・
・・・おねえさまのちまみれのあたまを・・・・・・・・・・・おねえさまとふたり・・
きれいなくろいおんなのひと・・・・・・・・・・びりびりとふくをやぶいて・・・・・
・・・・・・・・・・わたしのうでにやいばがめりこむ・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・まえもうしろもがばがばだぜ・・・・・・・・・くびすじのきんぞくのつめたさ
ふとももをたれるきたない・・・・・・・・・いきるかちのないみにくいにんげんども・
・・・・・・・・・・・・・もうはいらな・・・・・・・・・・・・・・・・ちがたれて
・そっちはちが・・・・・・・・・う゛ら ど・・・・・・・・まっくらななか・・・・
・・・・・・・・だれもたすけにこな・・・・・・・・・もうころして・・・・・・・・
ゆるして・・・・・・や、やめてくださいおやかたさま・・・・・くちのなかがくさくて・・
・・・・・・・・しばられたてくびはとっくにおれ・・・・・・・・どれいとしてうられ
・いきたい・・・・・・・・きれいなほしがみえ・・・・・・・・つめがはがされ・・・
・・・・いきするのがいたい・・・・・・・・・・・・・あかいひとみ・・・・・・・・
・・・・・しまいそろっていんらんだな・・・・・・・・こいつはもうごみだ・・・・・
まっくろいそら・・・・・・・・・・・・・わたしのなをやろう・・・・・・・・・・・
・・・・・・・てめぇらはにんげんじゃねぇ・・・・・・・・・あねのほうはもうすてた
よわいからしぬんだ・・・・・・・・・・・・・・にんげんじゃなくても・・・・・・・
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××


…あ………じん………んさま…………ご主人様!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!………許してください命だけは。ちがう、おねえさまは私のせいじゃ…」
「ご主人様!!ご主人様!!!!しっかりしてくださいご主人様!!!」
「え?…………べ、ベリル…」
「よかった。申し訳ありません。悪ふざけが過ぎm」
「ベリル!ベリル!!よかった。ベリルベリル! 怖かったこわかったよぉ…」
「ど、どうしたんですか?」
「こわかった、私…私…」

頭がおかしくなりそうだった。
必死でベリルにしがみついて

「……僕がいます」
「ベリル、べりるぅ……」

子供みたいにベリルの胸で泣いた。













信じられないくらい気持ちよかった。
まぶしくて目を覚ますとまだ吸血鬼の部屋の中だった。

「ひゃう!」

濡れた服が肌に張り付いて。
あたしは思わず服を脱ぎ捨てた。
日光で身体が乾いていく。
全身から立ち上る心地よさの中であたしは思わず自分のそこに手を伸ばしていた。
触れた瞬間予想以上の快楽で我に返った。
そして、見てしまった。
あの吸血鬼が、子供みたいに泣きわめいてベリルにしがみついていた。
しばらくしたら吸血鬼が落ち着いた。

「何があったの?」

私は話しかけた。

「わ、わからない…。僕が服を脱いだら突然ご主人様が…」
「いったい何したのよ」
「いや、本当にただ服を脱いだだけだよ」
「でもどう見ても尋常じゃない反応よ?」
「わからない。もしかしたら、ご主人様は僕が思っていた以上に重い男性恐怖症なのかも」
「ふ〜ん。トラウマってやつか…」

主従揃って心に爆弾抱えてるのね…。

「…はぁ…はぁ。も、もう大丈夫だ…」

しばらくしたら吸血鬼が落ち着きを取り戻した。

「大丈夫ですか?ご主人様」
「もう大丈夫だと言っている! くっ!頭が痛い…」
「ほんとにごめんなさい…。こんなつもりじゃ…」
「…はぁ。分かっている。ちょっと運が悪かっただけだ…。ベリル。落ち着かん。カーテンを閉めろ」
「は、はい!」

部屋がまた暗くなった。
闇の中、吸血鬼の目が揺らぎながら輝く。

「はぁ、『もうそやつは立派な男』か、言ってくれるよ。くそババア。ベリル。あとはもういい。お前は部屋に戻れ」
「し、しかし…」
「いいから戻れ!」
「は、はい!」

そう言ってベリルは部屋を出て行った。
その後も吸血鬼はしばらく頭に手をあてたまま動かなかった。

「はぁ、恥ずかしいところを見られた」
「でしょうね。もう大丈夫なの?」
「ああ。頭痛も治まった。しかしまさか、お前たちがあんな行動に出るとは…」
「はは。ちょっとやりすぎたかしら?」
「ああ。まったくだ。お前らをこれほど憎いと思ったことはないぞ。 ……私は責め専門で守りは弱いんだぞ…まったく」
「どうやらいつものあんたに戻ったみたいね」
「ああ。オカゲサマデ。 …なんだ?もう『お母様』とは言ってくれぬのか?」
「言ってほしいの?」
「言ってほしい」
「ふふ。お母様、あたしのことをローラと呼んでくれないの?」
「ローラ。愛しているぞ」
「あら、憎んでるんじゃないの?お母様」
「うう。なんかくすぐったいな」
「あたしもよ」
「でも、なんか嬉しいな」
「…あたしも」
「まさか私が母になるとは…」
「あら?あんたに母親はいないの?」
「いや…そうじゃない。…お前らのせいで思い出したくないことを思い出した」
「へぇ…」
「私の母親は私と私の姉を買った貴族だった」
「ふ〜ん。あたしと同じじゃない」
「ああ…。だが、時代が悪かった。まだあの頃は先代の魔王が就任した直後だ」
「え゛……それってどれくらい昔の話よ…」
「さぁな、思い出せん。あ、ちなみに先日のバフォメット。あれは私よりもずっと年上だぞ」
「うわぁ〜…」
「お前の今思ったことを当ててやろう。『その年であの格好と振る舞いかよ』」
「おお、だいたいあってる」
「他人の趣味にとやかくいっても仕方ないさ。だが、それを押しつけられる方はたまったもんじゃないが…」
「バフォメットに何かされたの?」
「いや、私の母親だ。 私がお前を吸血鬼にしたときに言った言葉を覚えているか?」
「『ちょっとしたお遊び』?」
「いや、そっちじゃない。『弱者は強者によって理不尽に虐げられる。それがこの世界の理だ』だ」
「ああ、言ってたわね。あたしはその言葉、大っきらいだけど」
「私もだ」
「へぇ、自分が嫌いな理論をあたしに押し付けたの」
「ああ。お前は私に似ていたからつい、な」
「そうかしら?ならあたしもあんたみたいにおっぱい大きくなる?」
「それはわからんな。ただ、私を吸血鬼にした私の“母”はそう言って私と姉を様々な拷問にかけた。それはもういまの世界では考えられないほど酷いものだった」
「へぇ…」
「そして私は目の前で姉を殺された」
「うわぁ…」
「両手両足を切断されていた私は何もできずそれを見せられ、挙句、奴はその私を見て恍惚として笑っていた」
「………グロい表現はできるだけソフトにお願いします」
「そうは言うな。私も少しは憐れんでほしいのだ」
「……前から思ってたけど、あんたの甘え方って少し歪んでるわよね」
「そうか?無自覚だ。まぁ、そして姉が死んだ日から3日たったある日、母は私を嬲っていた男たちを唐突にくびり殺し、血を浴びた真っ赤な手で私の頬に触れて言った。『弱者は強者によって虐げられるが理だ。そしてお前は弱い。だから姉を殺され、その身を痛めつけられる。だが、私はお前を気に入った。お前に強さをやろう』」
「あんたの高圧的な物言いは母親譲りなのね」
「ふふ。私は強いからな」
「反吐が出そう」
「外で吐け。 まぁ、そうして私は吸血鬼になり、その数百年後、母をこの手で殺した」
「わぁ…」
「ふふ。笑い話だろう?あいつは自分が言っていた通り自分より強い者によって殺された。自分より弱いと思っていた私に」
「そりゃ、あんたも性格歪むわ…」
「そうか?私は私なりにまっすぐ生きていると思うが」
「きっとあなたの物差しがえらく歪なのね」
「それはお前もだろうが」
「あたしはまっすぐだもん。間違ったことは何もしないわ」
「そうか?間違ったことは嫌いと言う割にここに来る前は盗みをしていたらしいじゃないか」
「あれはいいのよ。正々堂々実力で奪い取ってたんだから」
「ぷっ…。じゃあ、今回のことはどうだ?なぜこんなことになった?」
「あれは…ベリルがそう提案したから、あたしもあんたに吸血鬼にされた時の仕返しにって…」
「ほぉ…。仕返しか…」
「そうよ。やられっぱなしって癪じゃない」
「確かにそうだな…。じゃあ、やり返しに行かなくてはな…」
「お…じゃああたしも手伝うよ」
「お前は何もされてないであろう」
「水ぶっかけられたわ」
「そういえばそうだったな。ついでに言うと窓際でおもらしまで…」
「Σ!!!ななななななななななんですってぇ!?」
「本当だぞ。気絶したまま…」
「み、見たの?」
「見た」
「あいつ…絶対に許さない!!」
「ふふ。じゃあ、そうと決まればさっそく奴の部屋に攻め入ろう」
「がってんだぜお母様」
「ふふ。頼もしい娘だ」
「でも…いいの?あいつ、男だよ?」
「ああ。だから、こっちも手を考えた」
「ん?」
「バフォの奴に礼を言わなくてはな…」











僕はなんてことをしてしまったんだ…。
僕は部屋の壁を思いっきり殴りつけた。
それでも頑丈な壁は音すらも響かない。
ご主人様の脅えた瞳が。
ご主人様の流した涙が。
ご主人様の手の震えが。
まだ目に焼き付いて離れない。
身体に残って消えない。
僕は従者失格だ。
主にあんなことを…。
何が待つのはやめただ。
何が自分で奪い取るだ。
そうした結果があの姿だ!
僕は最もやってはいけないことをやってしまった。
もうご主人様に抱かれなくてもいい。
召使いのままでいい。
あんなご主人様を見るくらいなら…

「ベリル…落ち込んでるの?」

唐突にローラが部屋に入ってきた。
いや、違う。
彼女はもうご主人様の娘だ。

「いえ、そんなことありませんよ。お嬢様」

そうだ、この距離感が正しいんだ。
僕は召使いで、ご主人様は主。ローラはお嬢様。

「うわっ!なにこれ、気持ち悪い…」
「はは…。気持ち悪いだなんてひどいじゃないですか。僕、やっとわかったんです。僕は召使いのままが正しいんです。だったら、ローラお嬢様はご主人様の娘様ですから、お嬢様、ですよ」

自分に言い聞かせるようにゆっくりと言う。
すると、突然お嬢様の掌が額に充てられた。

「………何をしておられるのですか?」
「熱…ないわね…」
「ありませんよ。それよりお嬢様。いけませんよ、お嬢様はご主人様の正式なご令嬢なのですから。今後は貴族らしい言葉遣いをしていただかないと」
「ふ〜ん。そう言うこと…」

僕から手を離すと、お嬢様はじっと僕を見つめていた。

「そうか、あたしは“お嬢様”か」
「はい。お嬢様」
「あんたはそれでいいの?」
「それで、とは?」
「あんたはあたしたちの召使いでいいの?」
「ははは。当然じゃないですか。僕はご主人様とお嬢様に使えることが至高の幸せです」
「そうやってあんたはまた仮面をかぶって逃げる気なんだ…」
「逃げるも何も、これが正しい姿ですよ。ただ、少し夢を見てしまっただけです。その悪夢も無事に覚めたので、現実に戻ることにします」

出来るだけの笑顔で答える。
しかし、その言葉を聞いたとたん、お嬢様の眉間がプルプルと動き、ついには左口角を釣り上げた。

「ばっかじゃないの!?あんた、ほんとにそれでいいと思ってるの!?」
「あ、当り前じゃないですか」
「当り前じゃない!!いい?あんたは間違ってるの!!あんたは召使いなんかじゃない!ベリルなのよ!?」
「な、何を言って…」
「あんたはベリルであんたはあいつのことが大好きなの!そしてあいつもあんたを愛してる!なのにごっちゃごっちゃごっちゃごっちゃ。主が何の、召使いがなんのって。いい加減腹が立ったわ!!」
「な、何かの勘違いですよ。ご主人様が僕を好きなわけないじゃないですか…。だって、あんなに脅えて、泣いて…」
「泣いてるのはあんたでしょ!!」
「え?」

気づかないうちに、涙が雨のように流れ落ちていた。

「え?あれ?おかしいな…」
「おかしくなんかないわ!それでいいのよ…」
「そんな…。だって、僕は召使いで、男で、ご主人様は主で、男がだめで…」
「じゃあなんであんたは泣いてるの?納得できないからじゃないの?あいつをあきらめるのが嫌だからじゃないの!?」
「そんなの…」

そんなの…。

「そんなの決まってるじゃないか!!!僕はご主人様が好きだ!!誰よりも愛してる自信がある!!なのにご主人様は男を生理的に寄せ付けなくて、僕は男で…。あんな…、あんなご主人様を見たら諦めるしかないじゃないか!!だって、あんなに脅えて、あんなに泣いて。子供みたいに…」
「その子供みたいなご主人様がどうしてあんたにあんなに必死にしがみついてたのよ!?あいつは昔ひどいことされてトラウマを持ってる。でも、そんな中で結局頼ったのはあんただった!すぐ近くにいた娘のあたしじゃなくてあんただったじゃない!もしほんとにあいつがあんたに脅えてたんなら真っ先にあんたから逃げてあたしに抱きついてたはずでしょ!」
「え…え?…え?」
「自信持ちなさいよ!あんたは男なのにあいつにとって一番頼りになる相手なの。あれほど男嫌いなのにあんただけにはあれほどすがれるのよ?」
「ぼ…ぼく……。でも…」
「もう、『でも』禁止!!」
「でも…そんなこと言ったって…」
「あ゛ぁ〜!もう!まどろっこしい!そんなに男が嫌なら女にしてやるわよ!!」

そう言ってうろたえる僕の口にローラは無理やり瓶の口を押しつけて中の液体を飲ませた。

「うっ!げふっ!がはぁつ!に、にがぁぁぁ!!!」

その液体は酷い味がした。
ローラの作ったスープよりも危ない味がした。

「ははははは!言い気味よ!なんならもっとゲボまずな薬飲ませてやりましょうか!?」
「も、もういいです…」
「うふふふ。飲んだわね」
「ろ、ローラが無理やり飲ませたんだろ…」
「そうそう。やっぱあんた、その言葉遣いの方がずっといいわ」
「うぅ…きもちわるい…なんだか頭が…」

頭がくらくらする。
なのに逆に身体は一層輪郭を増したように感覚が鋭くなって…。

「どんな感じ?」
「気分が悪い」
「そりゃあそうでしょうね。一時的とはいえ女の子の身体に変わってるんだから」
「え!?女!?」
「そうよ。バフォメットの新薬だそうよ。開発中だから効き目は1時間ほどしか持たないらしいけど、飲むと性別が反転するの」
「な、なんて恐ろしい物を…」
「はっ!感謝こそされど憎まれるような事はしてないわよ。あんたがネチネチネチネチ女の腐ったのみたいなことしてるから、本当に女にしてやったのよ。ありがたく思いなさい」
「恨んでやる…」
「は、逆恨みね。どうぞご勝手に。でも、こっちはこれで条件がクリアされたわ。お母様!準備できたわよ!」
「なっ!?まさかご主人様まで!?」
「ふふ。私がいては何か都合が悪いか?“ベリルちゃん”」

そう言って“いつもの”ご主人様が部屋に入ってきた。
いや、別に普段からこんな意地の悪い顔をしているわけではないけど…。

「どうら、まずは服を脱がせんと始まらないよなぁ?」
「そうね。あたしも手伝うわ」
「ちょ、二人とも何でそんなに!」
「さっきのこと」
「忘れたとは」
「「言わせないぞ?」」
「ひぃぃ!!」
「ふふ、どうやら薬が効いているみたいだな?」
「あ、ほんとだ。おちんちんがどんどん小さく…」
「か、観察するなぁ!!」
「別にいいじゃない“女同士”なんだから」
「そうだぞ。女児の戯れではないか」
「ご主人様、あんたいくつだ!!」
「ほぉ…主に向かってずいぶんな口をきくようになったなぁ」
「い、いや、そんな…」
「ふふ。相手が女なら強気なのね、お母様」
「そうだ。私はレズだからな」
「自信満々に言うな!!」
「だから誰に口をきいている!?」

そう言ってご主人様が僕の小指の先くらいに縮んでしまったペニスをつねった。

「いひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「まぁ、かわいい声。声はほとんど変わってないのにほんっと短い時間でちゃんと女の子になったわね」

僕の両手を押さえつけているローラが赤い瞳を輝かせて言う。
だめだ、ただでさえ人間と吸血鬼じゃ力の差がある過ぎるのに、女の子にされて筋力が落ちたのか上手く力が入らない。

「もう面倒だし縛っちゃおっと」

そう言ってローラがどこに隠し持っていたのかロープを取り出して僕の腕を縛る。

「どうだ?身動きが取れず自分が変わっていく気分は?」
「あ、もう下は完全に女の子になっちゃったわ」
「い、いやぁぁぁ!言うな!見るなぁ!!」
「ふふ。さっき私を責めていた時とはえらい違いだな」
「だってベリルちゃんはもう女の子だもんねぇ~」
「っくぅ…」
「ああ、たまらないぞ、その悔しがり羞恥に歪む顔…。変化を待たずに今すぐにでも食べてしまいたい…」
「だめよお母様。ちゃんと身体が変わるまで待たなきゃ」
「しかし…」
「う〜ん。でも、確かにベリルちゃん、かわいいわ。ほんっとあたしなんかよりもずっとかわいい…」
「ふふ。そんなことはないぞ。ローラは私の娘だ。私の誇りだ。そこらの娘など足元にも及ばぬほどかわいいぞ」

僕を尻目にベッドの上で2人が服を脱いで身体を絡ませ始める。
熱く口づけをかわし、ご主人様がローラの身体にキスの雨を降らせていく。
そのたびにローラの身体がピクンピクンと跳ねて、ローラが可愛らしい声を上げる。

「ふふ。どうしたベリル?お前も攻めてほしいのか?」
「お母様ぁ…やだ…やめないでぇ…」
「ふふ、だそうだ。すまんな。私はしばしローラをかわいがらなくてはならん」
「あぁん!お母様…つよい…」
「ふふ。初めての時はあれだけ嫌がっていたのに…」
「だって…あたしはお母様にエッチな吸血鬼にされちゃったから…」
「ああ。お前はエロい吸血鬼だ。私の娘だ」

ああ、ローラ、あんなに気持ちよさそうな顔して…。
ご主人様もなんて妖艶な…。

くちゅ…くちゅ……

もどかしくて太股をすり合わせる。
でも、女の子にされた僕にはおちんちんもその下の袋もない。
もどかしい…。
あそこを触りたい…。
あそこが、胸が…むずむずする…。
あれ?胸のむずむずが…。

「ひぁ!ふぇ?えぇ?えええ???」

ぼくの、僕のおっぱいがどんどん大きくなっていく。

「ふひゃぁぁぁああん!!」

ぴゅぴゅっ!

「ふえぇぇ??ぼくのおっぱいから、みるくが…」
「ほほぉ〜ロリで巨乳とは…」
「…………………(じ〜〜〜〜…するする…じ〜〜〜ぺたぺた……orz)」
「ご、ごしゅじんさまぁ!?ぼ、僕の身体…なんか変です!!」
「ふふ。あわてるな。お前は日ごろ成長因子制御薬を服用しておるであろう。あれは一種の魔薬だ。おそらくは性転換薬の作用で部分的に抑制されていたはずの成長因子が制御されず作用してしまったのであろう」
「そ、そんなぁ…これ、だいじょうぶなんですかぁ?おっぱい出ちゃってますよぉ?」
「大丈夫…だったらいいのになぁ〜」
「そ〜おだったらいいのになぁ〜♪」
「そんなぁ〜〜!」
「まぁ、あと数分もすれば薬の効果も完全に出るであろう。そうなれば変化も安定するであろう…たぶん」
「たぶんはいやぁぁ!!」
「おそらく、きっと、メイビー」
「いやぁぁ!!」
「ああ、もう、騒がしい。手を自由にしてやるからそこで指でも加えて大人しくしていろ」

そう言って僕は縄を解かれるとベッドから放り出されてしまった。

「邪魔が入ってしまったな。ほぉら、ローラ続きだ」
「やぁ…お母様…」
「あうぅぅ…」
「ふふ…ベリルの胸が大きいので嫉妬していたな?」
「だってぇ…お母様も大きいのに…」
「安心しろ、私がお前の胸を大きくしてやる」
「ひゃぁ!そんなに強く…うぅん!」

ご、拷問だ…。
こんな、目の前で…。
だめだ…こんなの。

「我慢できないよぉ〜!」

僕はむずむずが限界に達しそうな胸とおまんこを両手でいじり始めた。

「ひゃぁぁ!!だめぇ〜。こんなの…」

僕のぬるぬるになったおまんこ…。
自分の汁で指が滑ってヌルヌルと割れ目を滑らせる。
おっぱいもさっきからミルクが垂れ流しで身体まで垂れてきて…。
こんなに大きいのにヌルヌルと滑らせると自分のおちんちん触っている時みたいに感じる。

「ふえぇ〜…きもちいい〜きもちいいよぉ〜〜」

変だよ、自分の身体なのにどんどん気持ち良くなって。
男の子の時ならもうとっくに射精してるのに、まだまだ気持ちいいのが上っていく。
女の子の身体、こんなに気持ち良くなれちゃうの?

「ひきゅん!!」

おまんこでとつぜん花火がはじけた。

「あぁぁ〜〜…ここ、ここきもちいいよぉ〜〜」

ここ、クリトリス?
僕のおちんちん、こんなにちっちゃくされちゃったの?
でも、ちっちゃいのに…こんなに縮んだのに…
前よりもずっとずっと気持ちいい。
もっと…もっと…

「らめぇ〜〜きもちよすぎるぅ〜〜」

あれ?なんか目がちかちかして…何か来る?

「いっキュンっ…ふえぇぇぇぇ!!???」

なに?今の?
全身の気持ちいいのが1つに集まったみたいになって、はじけて、真っ白で…。

「きもひよかっらぁ・・・」

もっと、もっと気持ちいのほしい。
さっきの、もう一回。

「はひゅっ!?」

ぴゅ〜

え?
なんれぇ?
乳首つまんだだけなのに…。
身体びくびくして、おっぱいピュッピュッて飛んで…。
僕、またイっちゃったの?

「もっと、もっとぉ〜」
「…おい」
「ふぇ?」
「何を一人で楽しんでおる?」
「おなにぃれふぅ」
「『おなにぃれふぅ』じゃない!ふん。従者のくせに生意気な」
「らってぇ、女の子気持ち良くって…」
「ふん。貴様を女にしたのはそんなためではないのだ。いいからこっちに来い!」

そう言って無理やり立ち上がらされた。

ふにゃん

あれ?

「おい、ふざけておるのか?」
「いや、そうじゃなくて…気持ち良すぎて腰が抜けちゃったみたいで…」
「……はぁ、今からこんなでは先が思いやられるぞ…」

ぱぁん!

「はひぃぃぃぃっ!!」

突然お尻を叩かれた!
痛みの余り立ち上がってしまう。

「ふん。立てるではないか。さっさとこっちに来い」
「はい…あ」
「どうした?」
「ローラ…縮んだ?」
「ん?」
「え?」

僕より少しだけ背の高いローラ。
それがなぜか頭半分分くらい僕より小さくなっている。
見ればいつも頭二つ分くらい身長の違うご主人様が頭一つ分ちょっとくらいの身長差に…。

「成長期?」
「いや、たぶんさっき言っていた成長因子制御薬の影響だろう」
「な、何であたしより背もおっぱいもお尻も大きいのよ!ベリルのくせに!!」
「まぁ、まぁ、落ち着け。でも下の毛は生えておらんではないか」
「…それって…まだ毛も生えてないのにあたしよりもおっきいってこと!?」

あ、ローラが拗ねた…。

「まてローラ。世界にはパイパンというものがある。大きくなっても一生生えない人間がいるのだ」
「ベリルがそれなの?」
「いや、わからん…」

あ、また落ち込んだ。

「いいから行くぞ!」

ご主人様がひょいっとローラを抱きあげ、僕の腕を引っ張ってベッドに無理やり押し込んだ。

「ふふ。ここからは母娘の共同作業だ。ローラ、落ち込むくらいならその恨みの憎しみとその他もろもろを全部ベリルの身体にぶつけてやればよいのだ!」
「…そうか…。そうよね!お母様!」

う、うわぁ…同じ顔だ。
この2人、間違いなく親子だよ…。

「「いざ、本日のメインマッチ!!」」
「いやぁぁぁ!!!」

ローラが飛びかかってきて僕の両腕を後ろから羽交い絞めにする。

「よくやったローラ!前は任せろ!」
「ひゃぁぁぁぁん!!」

ご主人様が僕のおまんこに吸い付く。

「じゅじゅ…ほぉ。これがベリルの蜜の味か…。血とは違う味がするのだな…」
「ひゃぁぁ!や、やめてくださいぃ!」
「おっと、動いちゃだめよ」
「はわぁぁぁ!!」

ローラが僕のうなじから耳までキスを降らせる。

「はむ」
「あうぅ〜」

嘘だ、女の子って耳でも感じちゃうの?

「ほぉ〜ら、こちらがお留守だぞ?はむ」
「きゅん!」

ビクンと腰が跳ねる。
クリトリスに吸い付かれた。

「ひゃぁぁぁん!!らめぇぇ〜〜!」

そのままクリトリスをペロペロと舐められる。
舌のざらつきが皮からはみ出た部分をこすり上げて…。

「じゃあこっちも…れろ〜」
「ふひゃはぁ〜!?」

うなじを舐められてぞくぞくとする快感が背筋を登る。
だめだ、集中できない。
2人同時なんて…。

「ほら、飛べ」
「ひ、きゃんっ!?!?」

頭が真っ白…。
唇で皮をむかれてむき出しのクリが…。
意識が飛ぶ…。

「はぁ…はぁ…」
「ふふ。どうだ?自分でするよりもいいであろう?」
「ふへぇ…は、はいぃ…」
「ふふ。じゃあ次は選手交代だ」
「ふえ?」
「ふふふ。おもらしの恨み…」
「ふへぇ!?」

ローラが僕の片足を掴むとそのまま大きく足を開かせ、自分の脚で僕の身体を挟むような姿勢になる。

「はら。目を丸くしている暇はないぞ」

そう言ってご主人様の唇が…。
濃厚なキス。
すごい。キスだけでこんなに気持ちいいの?

「こっちもいくわよっ!」
「んんぅっ!」

ローラが自分のおまんこを僕のおまんこにこすりつける。
お互いのおまんこがぶつかって、襞がめくれて。

「んんっ!…ん…ん〜」

気持ちいい。

「ふむぅ!!」

ご主人様がキスしながら乳首を責める。
だめだよ、こんなの…こんなのぉ…。

くっちゅくっちゅ
ちゅばちゅば
くにくにもみもみ

こんなに同時にいろんなところ責められたら…。

「んんんんんんんんっ!!」

僕はいとも簡単にイってしまった。

「おいおい、まださっきイったばかりだろう?早すぎるぞ…」
「ま、まだこっちは…あぁん…いってぇ…ないのにぃ」
「ふむ、仕方がない」

そう言ってご主人様はローラを抱き締める。
そして背後からローラの秘部に指を這わせると。

「ほら、今楽にしてやるぞ」

かぷっ

「!?ひへぁぁぁぁぁああっ!??」

バサァッ!バサバサ

首筋に噛みつき、クリトリスをつまんだ。
ただそれだけだったのに、何度も何度もローラの身体が痙攣して、ローラはそのままぐったりとして動かなくなってしまった。
見れば何もなかったはずのローラの背中にはご主人様と同じ吸血鬼の翼が。
ご主人様、いったい何を…。

「ふふ。今にお前もこうしてやる。安心しろ」
「えぇ?」
「ふふ。呆けた顔をしておるぞ。そんなによいか?女の身体は」
「はぃい…とってもきもちいいれふぅ」
「ふふ。ならば、お前に吸血鬼の気持ちよさも教えてやろう…」
「え?」
「知っておるか?」
「なにおれふか?」
「男は吸血されても一度や二度では吸血鬼にはならんのに、なぜ女は一度で吸血鬼となり果てるのか」
「ふぇ?」
「男は性を絞りつくされても自分で魔力から精を精製できるが、女はそうはいかん。女が精を回復するには男に比べ長い時間を要する。だから女はすぐに魔物化してしまうが、男はちょっとやそっとでは魔物化せんのだ。では、本来男であるお前が女になった今、魔物化してしまった場合、男に戻るとどうなるであろうな?」
「え…?」
「お前を私の誇りにしたい」

つぷっ

懐かしい、嬉しい感触がした。

「ふえぇぁぁああ!??!?」

ビクンビクン!

「どうだ?一瞬の間に大量の精を吸われ、逆に大量の魔力を注がれた気分は?」
「?????」
「ふふ。何が起こったかわからんといった顔だな。普段お前から血を吸うときは加減してお前の中に注ぐ魔力を減らしておった。…お前には、ちゃんとお前から私を口説いてほしかったからな」
「……え?」
「吸血によって吸血鬼となり、仕方なくお前と結ばれるなど、私は絶対に嫌なのだ」
「……ごひゅひんはまぁ…」
「私は本気でお前を好いている。ローラの場合は出会った瞬間の一目ぼれであったが…お前の場合、何時頃か気づかぬうちにお前のことを好いていた。お前の気持ちに気づいていたからかもしれん」
「ごひゅしんはま…」

僕はご主人様の告白を聞いて嬉しくてうれしくて涙が出た。
そのまま強く抱きしめる。
ああ、大きな胸がご主人様のとぶつかって。
女の身体って、抱き締めてるのに隙間が出来ちゃうんだ…。
もっと近づきたいのに…。

「お前は、知らん間に男になっておったのだな。今日、それを痛いほど知ったよ」
「ごしゅしんさま…」
「だから、私もお前を受け入れようと思う。お前を男として認める。私の、夫として…。だから、今は一度私の娘になってくれ」
「はい。はいっ!よろこんれっ!ぼくを…ごしゅじんさまのむふめに…」
「愛している。ベリル」

つ…

引き抜かれた傷口に、再びご主人様の刃が刺さる。
流れる血は僕の喜びの涙と一緒に流れ落ちて。

ぴちゃん

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!!」

激しい快楽の渦の中、僕は幸せを噛みしめた。

「はぁ…はぁ…」

自分の呼吸の音で目を覚ます。
見開かれた眼には昼間のように明るく映る真っ暗な部屋の景色が映し出される。

「ああ…」

自然と涙が出た。

「起きてすぐに涙か?器用な奴だ」

身体を起こす。
暗闇の中でもはっきりと見えるご主人様の美しい姿。

「僕…僕…」
「ああ。無事に産まれ変わった」
「ああああ!ご主人様ぁぁ!!」
「ふふ。間違えるな。『お母様』だ。男に戻ったら二度と呼べぬのだ。その意を込めて呼ぶがよい」
「お母様!!お母様!!!」
「ふふ。いい子だ。ベリル」
「愛しています!ずっとずっと。ずっとずっと好きでした」
「ああ。分かっておる」
「これからも、ずっとずっとずっとずっとずっと愛し続けます!」
「ああ、私もだ」
「男に戻っても…」
「変わらずお前を愛そう」
「うう…ありがとぉ…ございます…」
「ふふ。女になって涙もろくなったか?ずっと泣きっぱなしではないか」
「嬉しくて、嬉しくて…」
「私もだ」

一度身体を離し、
そして、キスをする。
幸せだ。
幸せだ。
こんな、こんなに…。

「あ、しかし、一つ条件がある」
「え?」

突然ご主人様が身体を離してまじめに向き直っていった。

「昼間のようにケダモノになって私を襲うことは今後未来永劫禁止とする!」
「…………も、もちろんですよ」
「なんだその間は?知らんぞ。流石にまたあんなことされたら私はお前を嫌うかも知れんぞ」
「……その時は…また娘に戻ってもいいですか?」
「ふん。もう薬はないぞ。頼むんならバフォの奴に頼むんだな」
「そんな…」
「それに、もう必要ないだろう…」
「え?」
「気づかぬか?自分の身体」
「え?」
「ああ…。(ぐい)これで見えるか?」
「あ…」

そこには、また大きくなったおちんちんがあった。

「どうやら薬の効果が切れたようだな」
「なぜここから変化するんですか?」
「知らん。仕様だろう。まぁ、いい。それより、それで、私をお前の妻にしてくれ」
「え?」
「説明が必要か?」
「い、いえ…その…。喜んで!」
「ふん。鼻息が荒いぞ」
「あう…」

僕はご主人様の身体をそっとベッドに寝かせる。

「あの…初めてなので上手くできないかも…」
「構わん。私も生まれ変わってからここに男を招くのは初めてだ」
「え?」
「おそらくは処女膜も再生しておる」
「え、ええ!?」
「私にとって破瓜は生涯最悪の経験だった。だから…お前がこれから生涯最高の経験に換えてくれ…」
「は、はい!がんばります!」
「お、おい、力むな。そっとだぞ」
「は、はい…」

僕はゆっくりとご主人様の其処に生えたて(?)の僕の息子をあてがう。

くちゅり

あ、ご主人様のここ、もうこんなに濡れて…。
そっか、吸血でご主人様も感じてくださってたんだ…嬉しいな。

「い、行きますね」
「ああ」
「あれ?上手く…」
「おい…早くしろ、こっちは恥ずかしいんだ」
「そ、そんなこと言ったって…」
「んっ!…ああ、先が入ったな」
「よかった、あってた」
「おいおい…」
「い、行きますね」
「ああ、思い切ってこい」
「はい!」
「 っつ! こ、こらぁ!思い切ってって、一気に入れろってことじゃない!」
「え?あ…ご、ごめんなさい!!」
「はぁ…まぁいい。不思議と…悪い気はせん…」
「あ…ご主人様が脈打ってるのが…」
「ああ。お前を感じる。ちゃんと奥まで入ったようだな…」
「ぼく、幸せです」
「…私もだ」
「動きますね」
「ああ、まだ痛いかもしれん。初めはゆっくりと頼む」
「はい」
「んっ…」
「い、痛いですか?」
「いや…嬉しい…」

ご主人様をいたわるようにゆっくりと。
僕、ご主人様と結ばれてるんだ…。

「慣れてきた…。もう少し早くしてもいいぞ」
「はい」
「ん…あ…」

あ、ご主人様が声を…。
嬉しい。
僕で感じてくれてる。

「お…お前、胸っが、…ん……縮んで…いくぞ」
「あ…。お、お母様!」
「ふふ。どうした?ベリル」
「僕、不安です」
「あの…娘じゃなくなっても…」
「ああ。お前は。私のものだ」
「ご主人様…」
「どうした?ベリル」
「…ブラドって、呼んでもいいですか?」
「………ミナ…。そう呼んでくれるか?」
「ミナ?」
「ああ。私の。本当の名前だ。お前だけが、持っていてほしい」
「ミナ…。愛しています」
「私もだ…」

僕は、ご主人様の中に精を放った。














「ご主人様。ご支度は出来ましたか?」
「ああ。待て、ローラのがまだだ」
「ちょ、痛い!痛いって母様!」

部屋に入るとご主人様がローラのコルセットのひもを引っ張っていた。

「我慢しろ。お前のくびれのない身体を少しでも良く見せようとしておるのだ」
「っ!!………」
「ご主人様…ローラ、落ち込んでますよ?」
「良いのだ。静かになってちょうどいい」
「うう…あたしだって…あたしだって……」
「よし、出来た。後はドレスを着せれば…」
「…おお…」
「これ、苦しいわ…」
「我慢しろ。私の娘だろ!」
「ローラ…すごい…見違えたよ…」
「そう?」
「ふふ。流石は私の娘だ」
「流石は僕の娘です」
「まだベリルはあたしの父さんじゃないでしょ!」
「うう…」
「まぁ、そのうち書類もできるさ」
「どうして…ローラの時はあんなに早くにできたのに…」
「仕方ないだろ。例のラージマウス化防止用の予防接種の実用化でバフォも忙しいのだ」
「うう…」
「ま、落ち込まないで。今日は祭りじゃない!」
「その通りだぞ、ベリル」
「…うう」

その後、結局突然には何も変わらなかった。
ご主人様の名前は僕以外は知らないし、僕も2人きりの時しか呼ぶことを許してもらえない。
それに、僕がいなくなるとこの屋敷で雑用や庶務をこなせる者がいないので僕のやってることも変わらない。
あ、でも、例の薬の効果が切れた時、身長が少し伸びた。
とはいっても、娘になっていた時よりも縮み、結局ローラよりわずかに高いか低いかだ。
しかし、これは僕にとって大きな一歩だった。
だって、娘よりも小さいなんて流石に恥ずかしいし…。








「ヴィクター・オズ・ワース。貴君の働きによってこの町の住民は再び安心して外を出歩けるようになった。貴君の行いは感謝してもしきれないものがある。そこで、ここにその感謝の印として名誉住民賞を与える」

ご主人様の声が町の広場に響く。
ああ、やっぱりご主人様は陽の下でも輝いて見える。
そして、ご主人様から賞を授かっているのは例の旅の剣士だ。
そして、その横でマントの裾をちょこんとつまみ、人ごみをキョロキョロと見ているのが彼の妹だろう。
しかし、その頭にはラージマウス特有のまるい耳、そしてそのお尻からは細長い尻尾が…。
話によると今回のラージマウス騒動で唯一の被害者だそうだ。
まぁ、物品をラージマウスに持って行かれた等の被害は数え切れないほどあったが…。
そして、その剣士の周囲を取り囲むようにしてわらわらと集まっているのがその犯人。
そして剣士の妻となったラージマウスたち。

「おい、こら!ちょこまかするな!じっとしてろ…」

剣士も落ち着きのない妻たちを諫めるので四苦八苦している。

「…ん〜…おほんっ!話を続けてもよいか?」
「あ、すんません!」

ああ、あの剣士さん、お気の毒に…。

「あと、賞とは別に、二九着のウェディングドレスと、一着のタキシードを贈呈する。これは私からの気持ちだ。受け取ってくれ」
「え?いいの…いいんですか?」
「ああ。めでたい話ではないか。少々にぎやかな新婚生活になりそうだが、私を始め、町のものたちも温かく見守りたい」
「あ、ありがとうございます!」

その瞬間、高い声で二九人の花嫁と剣士の妹が一斉に剣士に抱きつき剣士は押しつぶされた。
と、少々のハプニングはあったが無事式典は終了した。

「あと、私から一つ報告がある」

え?報告?
突然ご主人様が民衆に向かって声をかけた。
僕も驚いてご主人様を見る。
するとご主人様は突然僕の腕をつかみ、僕を引っ張って行った。

「え?ちょっと、どうしたんですか?」
「え〜、おほん。実は、長きにわたり独り身だった私だが、夫を娶ることにした!」
『おぉぉ!!』

会場が一気にざわめく。

「そして、その相手がこいつだ!私の自慢の夫だ!皆もよろしく頼む!」
「え?え?ええええ???」
「私からの報告は以上だ。皆、祭りを楽しんでくれ!」

歓声が上がり、静粛だった式典の会場は一気に祭りの会場に早変わりした。

「ち。やはり皆祭りの方が大事か」

報告よりも祭りの開始の言葉の方が盛り上がったことにご主人様はぼやいた。

「あ、ちょっと、まだ拡声器のスイッチ入ってますよ!?」
「ん?あ、しまった(棒)」

あ、ワザとだ。
この人ワザと聞こえる声でぼやいたんだ。

「はは!あんたらがくっつくのはもうみんな知ってたぜ、領主さんよぉ!」
「何を今さらってんだ!」
「いいじゃねぇか。みんなで祝おうぜ!!」

そこかしこから返事が返ってきた。

「ふん」

ご主人様が満足そうに笑った。

「僕、嬉しかったです。ご主人様が、皆に、言ってくれて…」
「………」

ご主人様は少し意外そうな顔をして。

「なんだ、もっと恥ずかしがってくれると思っていたのに…つまらんな」

笑った。

「さぁ、ローラ、ベリル。私たちも楽しもう。今日は祭りだ」
「がってんだぜ母様!!」
「あ、ちょっと。待ってくださいよ!後片付けが!」
「そんなのは後でいいんだ。祭りは楽しむ時は躊躇なく楽しむものだぞ」
「そ〜だよ。ベリルだけ置いてっちゃうよ?」
「ああ〜、待ってくださいよ!僕も行きます!」

結局、何も変わらない。
でも、一つだけ変わったことがある。
ご主人様が僕の手を引っ張ってくれる。
だから、僕も絶対に離さないようにその手を握る。
でもこれは、僕にとって大きな一歩。
朝日の下に繋がる大きな一歩。






                          宵闇の恋 fin







おk、過去最長。
そしてリハビリ不足のせいで前半の分が意味とろろに…。
まぁ、後半で挽回…できたかなぁ?不安だ…。
バフォ様、僕のお話では初登場です。男前バフォ様!
没案でバフォ様企画でベリルVSローラのタイトルマッチで友情が芽生え、ミナ様がベリルの男気に気づくというのも書いてました。
意味不明なので没です。

今回は一人称の割に各キャラの心境を最初は出し惜しみして、後半に行くにつれてバンバン出していく感じにしました。
後半への加速度的な感じを感じていただければ幸いです。
エロシーンの途中途中で流れが切れるのは仕様です。むしろひつじなりの照れです。チャットでエロい人にそのことで駄目だしされたけど無理です。
文章力がないので絵も描いてみましたが、萌える絵なんて描けないのを描き終えてから気づきました。駄目です。
思いのほかいろいろと春休み忙しくてたぶんもう文はしばらく書けないかもしれないメイビーおそらくアバウト。

このお話の最大の心残りは「仮面」の敬語のせいでベリルきゅんのショタっ気を出せなかったことです。
仕方ないので最後のほうで女の子にして無理やり可愛くしました。
にしても、この館…ローラが来なければひたすら病んだ住人しかいないところだぜ…。

10/03/12 05:57 ひつじ

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