連載小説
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初めまして、新しい出会い(下)
「で、話ってなんだい、ナナイ君?」

僕らは今、外に居る

外に出た後、頃合をみてヴァンさんに声を掛け、外に来てもらったのだ

「なんか、相談事かい?」

「まぁ…」

「…察するに、おれっち以外には聞かれたくない、と」

僕は頷く

―――そう、これから言う事は、正直ゲヘナにも、レンカちゃんにも聞かせたくない事だ

「…僕は、以前教団騎士でした」

僕は語る、己の過去を

「教団騎士だった僕は、当時教団のシスターだったゲヘナと居たいが為に、騎士としての任についてました」

思い出す、あの頃の―――忌まわしい記憶

「僕はここに…ゲヘナの横に、貴方達の居る所に居ても、良いのでしょうか?」

ヴァンさんはなにか驚いた顔をするが、僕は続ける

「僕が教団騎士だったとさっき言いましたよね?」

ヴァンさんは頷いてくれる

「その時、僕は貴方達みたいな家族を、何百も、何千も虐殺してきました」

父さんが出来るだけさせないようにしても、現場ではやりたい放題がされていた

ある者は神の名の下に略奪を
ある者は同じく強姦を
ある者は、一方的な蹂躙を

勿論、普通ならそんな事は許される筈がない
が、その者たちはこう言い放ったのだ

『魔物は駆逐されなければならない存在だから、構わないだろ?』

相手が魔物だから―――

そんなふざけた理由で、そんな大罪が横行していたのだ

だけど、僕はそれを責められない
なぜなら、僕は―――

「その行いに、なにも感じていない僕も、いました…」

見てみぬ振りをしていた、最低な人間だから

「レンカちゃんをみてて、ヴァンさんやウィナさんをみてて…僕は暖かいなにかを感じました」

ヴァンさんに向かって言う

「それと同時に、僕はヴァンさんやウィナさん、レンカちゃんと同じ生き物ではないとも感じました」

僕は続けて言う

「そんな薄汚い化け物が…ゲヘナの横に、貴方達と同じ場所に居ても、良いのでしょうか…」

「んなこと聞かれてもおれっちにはわかんねーよ」

ヴァンさんは答える

「そういうのはさ、悩んで悩んで、悩みまくって、ゲヘナちゃんに相談してみる事じゃねーかな?…俺が言ったって、気休めにしかなんねーよ」

そう言いながら、星空を眺めている

「ま、気休めにしかなんねーけど、さ…俺はいいと思うぜ?」

「え?」

「俺たちと同じ場所にいても、ゲヘナちゃんの横に居ても良いと、俺は思うって事さ」

続けて、ヴァンさんは言う

「過去にお前がどんなことしたかなんて、俺にはわからない。けどさ、今のお前は、過去のお前じゃないんだ。」

だから、と続けて言う

「過去になんか縛られんなよ。罪があるなら、償えば良い、だろ?」

「…」

僕は、正直圧倒されている
この人の言ってることは、簡単に済ませようとしている事だ

今までそう言っていた人間は、何人も居ただろう
でも、なんでだろう

なんで、この人の言葉は、こんなにも…

心に染み渡るんだろう

まるで、ヴェルグさんと話しているみたいだ

「ん?どうした?」

「…いえ、なんていうか、羨ましくて」

僕は半分正直に答える

「はっはっは!なんだ〜?羨ましいってか〜?」

笑いながら、そう答えてくれる
まぁ、と不意に真面目な顔でヴァンさんは僕に言う

「ま、今は急いで答えを出さなくていいんじゃないか?そういう感情は、時間をかけて理解していくモノだかんな」

「…はい」

僕の心にあった曇りが、晴れていくような感覚だった

「あ、ただよ…」

「?なんですか?」

「ゲヘナちゃんが好きならこれだけ言っとく。…絶対に不幸になんかするなよ」

今まで見せた表情とは違い、真剣で、僕を心配してくれている表情だった

「…はい」

恐らく、今日一番良く出来た返事だった、と、思う

・・・

「ただいま、ゲヘナ」

「おかえり、ナナイ」

ヴァンさんと話をしていたナナイが戻ってきた
その顔には、今まであった憑き物が取れているような、そんな感じの顔つきになっていた

「…ゲヘナ」

「なに?」

「僕は…君の隣に居ても、良いのかな?」

突然聞いてくるナナイ

―――やっぱり、教団にいた時のこととか思い出していたんだ

私はそう思うが、口や表情に出さないよう努力し、ナナイに伝える

「ナナイの隣以外、私の居場所はないよ」

続け様に、私は伝える

「私は、貴方にもう一度会いたいから戻ってきたんだよ?…ナナイ以外の人が横にいたり、ナナイがいないなんて、考えたくもないよ」

「…ありがとう」

そう言いながら、彼は私を抱き締めてくれる

そう、この温もりだ

私にとって、この温もりこそ、信仰に勝るとも劣らぬ、私が私で居られる確固たる物なのだ

・・・

翌朝、私達は日の出と共に目を覚ます

目を覚まして早々、私はナナイに言わなければならない

「おはよう、ナナイ。トレーニングなんて…しないよね?」

と、ナナイの動きが一瞬止まる

「お、おはようゲヘナ…」

「ナナイ、しないよね?」

「いや、あのね、ゲヘ「しない、よね?」

「…はい」

と、布団からでたナナイは服を着替え始める

「…全く、一応けが人なんだからね」

「…鍛錬しないと、弱くなるから…」

「 ナ ナ イ ?」

「…ごめんなさい」

全く、本当にこまったやんちゃさんだ

「…今、大丈夫かしら?」

と、ドアをノックして、ウィナさんが私達に声を掛ける

「はい、大丈夫ですよ」

「…刀が出来たから、来て」

そう聞くと、ナナイは早速行こうとする
私もそれについていく

とにかく、早く見たかった

・・・

「これが…」

「ナナイの、新しい刀…」

目の前にあるのは、真新しい、綺麗な刀だった

「…前の刀に銘が打ってなかったから、送らせてもらうわね」

と、刀を鞘にしまい、ウィナさんがナナイに渡す

「『一閃・黒傍守影(いっせん・こくぼうもりかげ)』…この刀の新しい、名前だよ」

「一閃…黒傍守影…」

受け取るナナイも、とても嬉しそうに受け取る

「…早速だけど、構えてみて」

ウィナさんのその言葉に、ナナイは無言で答える

―――それは、一部の隙も無い、綺麗な構えだった

「…うん、その子も喜んでるよ」

「…ウィナさん」

と、ナナイがまた床に座り込む

「このご恩、生涯忘れません!」

「本当に、ありがとうございます!」

私達は、ほぼ同時にいう

「…気にしないで。逆に、その…」

「ウィナはそこまでやられると恥ずかしがるんだよ」

と、後ろからヴァンさんが声を掛ける

「っと、これ。刀の領収書ね」

と、その領収書を受け取る

「これ…」

「ウィナもこれで良いって言ってるから、さ」

と、ウィナさんの方を見ると、頷いていた

「でも、こんな安くなんて!」

「ゲヘナみせて。…これは」

そう、あまりにも安すぎるのだ

私たちがしっている相場の五分の一にも満たないのだ

「これだけの業物を、こんなに安くなんて…良いんですか?」

ナナイが言うのも最もだ
それ位この刀の値段は安いのだ

「…別に、構わない」

「そうそう。それに、手伝いとかもしてくれたしさ。サービスだよ」

「でも…」

ナナイは納得してないようだ

「ナナイ君さ…昨日の答え、いつか聞かせてくれよ」

「え?」

「それが御代って事で、さ!」

そう言いながら、ヴァンさんは言う

「…私も、良い子を久しぶりに触れたから」

ウィナさんもそう言ってくれている

「…お二人とも」

ナナイが言おうとする言葉に、私も合わせて言う

「感謝いたします」

本当に、心のそこから感謝させてもらいたいと思った

11/07/30 01:07更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

さて、今回は「ギルドの少年と山奥の鍛冶屋」、「喫茶店『アーネンエルベの日常』」より、ヴァン=レギンスさんと奥さんのウィナ=レギンスさん、娘のレンカ=レギンスちゃんの三人に登場してもらいました

鍛冶といったらサイクロプス、ドワーフの出番ですしね


そして、かつての自分の行いを悔い、不安定になりそうになったナナイ

今後、彼なりに答えを見つけてくれるでしょう!

その答えが出るまで、黒は傍らにて守ってくれるでしょう

さてさて、次回はどこで何をするのやら

それでは、今回もここまで読んで頂きありがとうございました!
次回もお楽しみに!?


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