連載小説
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はじめて尽くしの一日
刀を頂いた後、僕達はレギンス一家に朝食をご馳走になった

その朝食の場での、言葉だった

「お兄さんとお姉さん、昨日とおんなじ服きてる〜」

ふと、レンカちゃんが言ったのだ

「そーいや、そうだな。…二人とも、服どうしてるんだい?」

「あ、同じものを二、三着持ってるんですよ」

ヴァンさんの質問に、ゲヘナが応える

「僕の服は職場の制服ですし、問題ないと思ってますが」

「…でも、今みたいに旅行してるなら、オシャレとかしてみても良いと思うよ」

僕の返答に、ウィナさんは言う

確かに、僕は兎も角、ゲヘナはもう少し着飾っても良いと思う

ドッペルゲンガーになってから、ゲヘナは妙に自分は可愛くないから良い、と、オシャレとかしなくなっている

正直、黒で白ブチのヒラヒラしたドレスとか絶対似合うと、僕は確信している

「確かに…ゲヘナはもっとオシャレすべきだ」

「な、ナナイ?」

「ヴァンさん、ウィナさん。この辺の服屋を教えて下さい」

僕は、ゲヘナがより綺麗に見える服屋をヴァンさん達に聞いた

「うん、教えるから落ち着け。後、自分の分も考えろよ?」

「それよりゲヘナのオシャレです!」

なぜか、レンカちゃん以外のみんなが軽く溜息をついた

・・・

「ナナイ、本当に行く?」

「僕は、色々な服を着たゲヘナがみたいから行きたい」

レギンス一家と別れて、教えてもらった服屋に僕らは向かう
が、ゲヘナは乗り気ではないようだ

ーーーまぁ、また自分には似合わないとか考えてるんだろう

以前サエナさんに可愛らしい服を勧められた時にも、そんな感じで断っていた
正直、ホント勿体無い…

ゲヘナは可愛いし綺麗なんだからもっと着飾ってほしいとも思う

と、歩いていたら目の前に目的地の店が見えてきた

シルバーファーデン

そう、店名が書いてあった

・・・

「いらっしゃいませ〜」

中に入ると、アラクネが僕らを迎えてくれた

ーーーなるほど

僕は一人納得する
アラクネが作る服はどれも一級品だ

これならゲヘナがより魅力的になる服がある筈だ

さて、と…

「ゲヘナ、どんな服が良いかな?」

「でも…私…」

ある意味予想通りの反応
が、僕は見逃さない

ゲヘナが一瞬みた服の位置を

黒をベースにしてある簡単なワンピースみたいだが、それでいて所々フリフリが付いている

まさに僕が着てほしい服だった

「…あの」

と、店員のアラクネが僕らに声を掛けて来た

「お困りのようでしたら、私が見繕いましょうか?」

その顔は本当にゲヘナや僕を心配してくれているのだろう
ここは好意に甘える事にした

「…彼女に似合う服を」

「…彼に似合う服を」

それは、ほぼ同時だった

「…僕の服は良いよ。それよりゲヘナの服を…」

「でも…私には…」

ーーー似合わないよ

それは蚊が泣く様な小さな声だった
多分、僕にしか聞こえなかったかもしれない

「…失礼ながら」

と、アラクネが告げる

「お客様は、とても可愛らしい方だと思いますよ?」

その言葉を聞いて、軽く眼を見開くゲヘナ

「少なくとも、私にはそう思えますし…よろしかったら、こちらを着てみて頂けないでしょうか?」

と、持って来たのは黒地に白が軽く入った感じの、綺麗なドレス数点だった
ーーーその中に、ゲヘナがみた服も含まれている

ゲヘナは、まだ多少戸惑っている

「…僕は、ゲヘナが着る所を見たいな」

後押しする様に、僕は告げる
それを聞いてなのか、ゲヘナは試着しに行ってくれた

・・・

「ど、どうかな…」

顔を赤くして、試着した服を着ているゲヘナが僕に聞く

ーーー正直、言葉を失った

目の前にいるゲヘナは、あまりにも可愛らしくなっていたのだから

普段から可愛らしいが、ベクトルが異なると、ここまで変わると、僕も想像していなかった

普段のゲヘナは、シスターであろうとする為か、雰囲気も柔らかく、そして厳格なイメージだ

だが、目の前にいるゲヘナは、とても高貴な貴族の雰囲気を出している

少し世間慣れしてないが、聡明で、それでいて品があると言うか…

とにかく、僕は心を奪われていた

「ナナイ?」

不意に、ゲヘナの心配そうな声が聞こえてきた

「…やっぱり、似合わないよね?」

「え…?」

ーーーしまった

僕が何も言わないのを、そっちに捉えさせてしまった

「ち、違う!似合わない訳ないよ!!」

僕は慌てて言う

「なんて言うか、見惚れてたんだ!ゲヘナがあまりにも可愛らしくて綺麗で!あ、あと!えっと…!」

とにかく勘違いさせた事をどうにか挽回しようと、何を言ってるかわからない状態になっていた

「…あの、お客様?」

不意に、アラクネさんから声を掛けられた

「とりあえず、落ち着いて下さい」

と、少し落ち着くと、ゲヘナが顔を真っ赤にして俯いている

「えぇっと…ゲヘナさん?」

「はい…」

アラクネさんがゲヘナに言う

「試着中に、私が言った通りでしょ?」

なんの事かわからないが、ゲヘナにはわかるらしい

「さて、と…次は貴方ですよ」

と、アラクネさんが僕の方を向く
が、なんの事か僕にはわからなかった

「次はゲヘナさんの要望にお答えしないと、ねぇ?」

ニンマリとした、少し嫌な笑顔で僕に告げる

「あの…あそこの白の長袖とか良いかな、と…」

ゲヘナもアラクネさんの味方のようだ

・・・

僕が試着から戻ってくると、ゲヘナは目を丸くして、僕を見ていた

ゲヘナの選んだ白の長袖と、普段は履かないタイプの靴

簡単な物だけだが、僕に似合うだろうか?

「ほあぁ…」

ゲヘナの目が、なぜかキラキラ光っている

「流石彼女がコーディネートしただけあって似合いますね…」

なんか満足気なアラクネさん
そんなに似合ってるのだろうか?

「ゲヘナ、どう?」

「すっごい似合ってる!」

凄くハキハキと言ってくれて、嬉しい反面恥ずかしい反面だ

「ナナイ、やっぱり白の上着似合ってるなぁ〜」

「…ゲヘナも、きっと似合うよ」

普段はしない服装に、僕達は少なからず軽い興奮を覚えていた

・・・

「「ありがとうございました」」

僕らは、アラクネさんにお礼を言う
服を色々教えてくれただけでなく、少しおまけしてくれたのだ

「良いんですよ。…こっちも、色々着せ替えとかさせちゃったし」

そう、あの後僕らは、色々な服を着させてもらえたが、かなり着せ替えさせられた

その中で気に入った物を、安くしてもらったのだから、結果として問題ないだろうが

「でも、ありがとうございます」

ゲヘナはそう言うと頭を下げ、お礼を言う

ーーー僕個人として、一番の収穫は、ゲヘナの可愛らしい、そして美しい姿だ

それを思うと、このアラクネさんには頭が上がらない

と、そんな時だった

ぐぅ〜…

僕の腹が、新しい食料を要求しているようだ

「あらあら…。近くに、美味しいパンのお店がありますよ?」

「…ありがとうございます」

なんて言うか、凄く、恥ずかしかった

・・・

アラクネさんに言われた方に行くと、そこから美味しそうな匂いが漂ってきていた

ーーーあれ?

以前似た匂いを嗅いだ気がする
そう思いながら、ゲヘナに話をふる

「ゲヘナ、前に来た時にここら辺には来てないよね?」

「うん。その筈だよ」

どうやら、ゲヘナも何か感じてるようだ

と、目の前にアラクネさんに勧められたパン屋が見えて来た

ファミリエ、と言うらしい

僕らは中に入っていく事にした

「「いらっしゃいませ」」

中に入ると、2人の人物がいた

一人は普通の男性で、そこまで特別特徴はないかもしれない

が、もう一人は驚いた

そこには、エルフがいたのだから

・・・

「なにか、私の顔についているか?」

不意に、エルフの方から声をかけられる

「いえ、街中でエルフを見かけるのが珍しかったので…」

そう、街中にエルフがいるのは正直中々珍しい
元々彼女達エルフは、森の中からあまり出たがらないと聞いている

「ナナイ、だとしてもじっと相手を見たりするのは失礼だよ?」

と横からゲヘナに叱られる

「いや、彼が言いたい事も分からなくはないから構わないよ」

「でも、申し訳ありませんでいた」

エルフが僕をかばってくれる発言をした後、ゲヘナが代わりに謝ってしまった
おかげで、僕も謝るタイミングがなくなってしまった

「さて…なにか希望のパンはあるかな?」

男性店員の方が声を掛けてくれたおかげで、品物に意識を向けられる

「ん?これは…」

と、その時だった
この、不思議なパンを見つけたのは

コッペパンらしき物に、なにか麺類のようなものが挟まっており、とても香ばしい香りを放っている

なにより…懐かしいような、そんな風味の香りがするのだ

「それは焼きぞばパン。この間出来たばかりの新作なんだ」

男性店員が僕に説明をしてくれたそれを、僕はまた改めて見る

「焼きそば…パン…」

「ナナイ、それにする?」

ゲヘナの言葉に、僕は頷く

「なら、私は…」

ゲヘナも品物を選んでいる中、僕はこのパンに興味を覚えていた

いや、正確にはその香りにだ

孤児院に居た時にもこんな香り嗅いだことはないのに、なぜか懐かしく感じるこの香り
まるで、幼い時に似た香りを嗅いでいたような…

「ナナイ、選び終わったよ」

「…え?あぁ、なら食べようか」

「…そのパン、どうしたの?」

おそらく僕が意識を集中させるこのパンについて、ゲヘナも疑問に思ったのだろう

「僕にもわからないけど、なんか…懐かしい気がして」

「なんか、珍しいね。ナナイがそんな風になるなんて」

ゲヘナの答えに、僕も同意の意を込めて頷く
一体、このパンはなんなんだろう…

・・・

正直に言おう

僕は、このパンになぜか懐かしさと感動を覚えている

「ナ、ナナイ?」

「…ゲヘナ、なんだろう、この懐かしさ」

焼きぞばパンを食べた時、とてつもない感動を覚えた

まず、その絶妙なソース
この、独特な風味は、今まで食べたことのない風味だった

次に、挟んであるこの麺
このもっちりしつつもパンにあう柔らかさ

最後に、何度も感じているこの風味だ

「なんで、こんなに懐かしいのかな?」

僕は食べながら
懐かしさから、なぜか涙が出ている

「このパン、ジパングの特産なのかな?」

ゲヘナが疑問をもち、僕に言う

「それ、この街にいる人間の故郷の食べ物らしいんだよ」

と、男性店員が教えてくれる

「そうなんですか?」

「彼のおかげで、これも完成したし、ね」

ゲヘナが質問し、男性店員が答える

「でも、美味しく食べてくれて何よりだよ」

「…とても、美味しい、です」

僕は、途切れ途切れにしか答えられなかった

・・・

目の前でナナイが泣きながら、でも、おいしそうに食べているのをみて、私は嬉しくなった

基本的にナナイが感情を表に出す事はなく、それはとても珍しい事なのだし―――
なにより、ここまで物事に感動する事も殆どなかったのだ

「ナナイ、美味しい?」

「ゲヘナも食べてみて」

そう言いながら、そのパンを半分にして、私に差し出した

―――食べてみると、不思議な味だった

独特の風味、独特の感触、独特の味―――
どれをとっても、とても美味しいものだった

「美味しい…」

「そこまで褒めてもらえると、作った甲斐があるよ」

「確かにそうだな」

二人の店員の方が嬉しそうに微笑みながら言ってくれる

「ナナイ、他のパンも美味しいよ」

私達は、この楽しい昼食を楽しむ事にした

・・・
昼食を食べ終えた僕達は、ファミリエを経営しているチャタル夫妻―――ロレンスさんとミロさん―――と話をした

このパンを作った経緯や、僕らが旅行に来ている事について簡単に話を聞いてもらったりした

「このパン、星村さんと美核さんが携わってたんですね」

「あぁ、感謝しているよ」

ゲヘナとミロさんが、お茶をしながら話をしている

「所で…旅行に来たんだよね、君達は?」

ロレンスさんの言葉に僕達は頷く

「お土産とか、考えてるの?」

「「あ…」」

僕達は失念していた事を思い出す

―――騎士団や、教会に人へのお土産だ

普段からお世話になっているのだし、買わない理由は無い筈だ

「その様子だと、忘れてたみたいだな」

そういって苦笑するのはミロさんだった

「なら、ちょうど良い店がある」

そう言って、そのお店の事を教えてくれた
・・・

「いらっしゃいませ〜」

チャタル夫妻に言われてきた場所は、ある雑貨屋であった

この雑貨屋、様々な品物が揃っているという事から、お土産を買うのにも丁度良いのではないかと進められた


と、言うか…

「服屋さんの隣だったんだね」

「みたい、だねゲヘナ」


そう、先ほど買い物をした服屋の隣が、ここなのであった

「ん?ルーフェのとこで買い物したお客さんなの?」

店主の人が聞いてきたので、僕達は頷く

「そっか、良い服置いてあったでしょ?」

「えぇ、とても…」

迷わず僕は答える
横で、少しゲヘナが恥ずかしそうにしてるが気にしない

「ま、ここにも色んな物が置いてあるからみてってよ」

そう言われ、僕らは店内を見させてもらった

・・・

さて、店内を見渡して改めて思う

―――ホント、沢山のものがあるなぁ

それこそ、置いてない物がないのではないかと思うほどだ
ここでなら、色んな物をみて時間を潰したりも出来るだろう

「ナナイ、これみて」

不意にゲヘナに呼ばれたので、その方へ行ってみる

「これは…」

「どうみても、アレ、よね…」

そこにおいてあったのは、一見、普通の十字架のアクセサリーだが、教団にいた僕達には見覚えがある

―――そう、父さんと同じ枢機卿クラスの人間がつける、由緒正しいロザリオだった

「ん〜?それがどうかしたのかい?」

店主の人がこちらに来て、僕らに聞く

「あの、これ…」

「あぁ〜それかぁ…なんか最近整理し直したら出てきたんだよね」

聞いていて、色々頭痛がする発言が聞こえた

―――僕らの地方の枢機卿がつける様なロザリオが整理して出てくるって、一体…

まぁ、確かに、父さんのロザリオも、元は一般品だったのが、作られなくなっただけとも聞いたことがあるので、おかしくは無いのだろうが…

ゲヘナも同じ事を考えてるのだろうか、唖然としている

「まぁ、品物は良いものだからお勧めするよ。他に探し物あるなら、聞くけど」

「あ、ならお土産に良い物ってありませんか」

店主が店の中を案内するような言動をしたので、それに甘えてゲヘナと店内を見て回るこちにした

―――途中、なんか良くわからない物が置いてあったりしたが

・・・

「色々ありがとうございます」

ゲヘナが店主に礼を言うと、店主も返す

「こちらこそ、お買い上げありがとうございます。…っと、お二人はご兄弟?」

「…いえ、恋人です」

ついムキになって返してしまった

「あぁ、すまないね!…なんか、恋人同士にしては近しい感じがして、ね」

「私達、同じ孤児院の出身なんですよ」

「幼馴染って奴かな?」

「そんな感じですね」

ゲヘナが嬉しそうに答えている

と、店の備え付けの時計に目を向ける

「ゲヘナ、そろそろ教会に頼みに行かないと」

「あ、そうだね」

そう言って、僕らは出ようとした

「また来てくれよ」

後ろからの、陽気な店主の声に後ろ髪を引かれながら、僕らは後にした
11/08/25 20:30更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

先ず皆様に…

遅くなり、申し訳ありませんでした!orz
中々纏まらなくて…

待たせてしまい、申し訳ありません…


さて、本格的な休暇をようやく取れた二人です

色んな思い出が作れましたね

さてさて、次回はどこで何をするのやら

それでは、今回もここまで読んで頂きありがとうございました!
次回もお楽しみに!?

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