連載小説
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TAKE15.5 不良ハイオークの末路
(ァああ〜、なんッてことだっ……)

 絶望とも呆れともつかない感情に、雄喜は思わず頭を抱える。
 まさか威圧して黙らせるつもりで小細工を仕組んだ筈だったのに、相手を泣かせたばかりか失禁までさせてしまうなど悪手と言う他にない。

(加減だよ……加減ができてないんだよ僕のバカ……!
 というかあんなことになるなんて……失禁、夜尿、脱糞……排泄が絡む粗相は心に深い傷を負わせる。その傷はどんな薬でも癒えざる一生ものの深手、特に今にも思春期を迎えようかって多感な時期の子供にとっては自殺もんだってのになあ……)

 雄喜は後悔していた。相手が反社会的勢力の関係者で、誰がどう見ても害悪としか言えないような相手だからといって、だとしてもここまでえげつない目に遭わせる必要はなかった筈だ。少し震え上がらせる程度で良かったのに、どうしてこんなことになってしまったのかと。

(公人たるものが私情のまま暴力団関係者とトラブルを起こすってだけでも言語道断……まして故意ではないとはいえ致命的な大恥をかかすなど……)

 柳沼夫妻に知れれば大目玉を喰らうだろう。何かしら罰せられることは覚悟せねばなるまい。古坂社長からの信用もがた落ちに違いない。あと子供相手に大人げない真似をしたとあっては真希奈からも白眼視されてしまうだろうか。
 雄喜の脳内をあれやこれやと不安が駆け巡る。向こうではなんだか大騒ぎになっており、足に小便をぶちまけられたトンナは妹を怒鳴り、姉に怒鳴られたトンミンは混乱の余り大声で泣き喚き、取り巻きのオークたちはタオルや替えの下着がどうにと慌てふためく。更にはその様を見てそれまで怯えていた観衆たちも調子付き、口々に土田姉妹やオークたちを嘲ったり、中には警察に通報したり土田姉妹の親が所属する組織への悪口を言い始める者まで現れ始める始末。

(ああ、どんどんと面倒なことに……)

 如何にしてこの状況を切り抜けたものか。雄喜は考えを巡らせ、ダメ元でそっとその場を立ち去ろうとするが……

「おう、てめえっ!」
「どこへ行きやがる!?」
「逃げようったって!」
「そうはいかねぇぞ!」
「ブッヒィ!」

 当然逃げ切れる筈もなく、オークたちに呼び止められてしまう。

「ああ、悪いね。なんだかお取込み中のようだから、部外者は去るのが筋かと思ったんだが」
「何が筋だゴラァ!」
「テメーの何が部外者だオイ!」
「おもくそ関係者じゃねーか!」
「そうだそうだ!」
「てめーが妹君泣かしたんだろうが!」
「しっかりワビ入れろこの野郎ォ!」
「ブッヒィーン!」
「……詫び、かあ。わかった、確かにそうだな。じゃあ汚した衣類の弁償代にあんたら個人への迷惑料も含めて……八千万もあれば足りるか――
「そうじゃねぇだろオラァン!?」
 柳沼夫妻から渡された金から幾らか慰謝料を支払って適当にやり過ごそうと考えていた雄喜だったが、そうは問屋が卸さぬとばかりなトンナの怒号に遮られる。
「オメェ〜よぉ〜? わかってねぇなぁ〜? こちとら邪区又組大幹部の跡取りだぜぇ〜? 金なんぞ元々腐る程あるっつーんだからよぉ〜! 詫びにカネ積まれたって嬉しかねぇんだよなぁぁぁぁ?」
「ああ、そうか。ならどうする?」
「『ならどうする』だぁぁぁ〜!? オイオイオイオイ勘弁してくれよぉ〜! 常識で考えりゃわかるだろうがよぉ〜!」
 鬱陶しい程にわざとらしく芝居がかった、というか実際鬱陶しいだけの態度で雄喜に迫りながら、トンナは叫ぶ。
「男がぁっ! 魔物にぃっ! ワビ入れるつったらやり方ァただ一つッ――

 精ッ! 身体ァ!
 てめーのポコチンオッ立てて一生腰振って支払う以外! 選択肢などッ! ある、わきゃあ、ねえだろうがあああっ!」
「大当たりーっ!」
「いよっ、流石姉御っ!」
「まさに仰る通りですぜぇ!」
「そうだそうだ!」
「チンポコぶん回して支払いやがれってんだこの野郎!」
「キンタマスッカラカンになるまでザーメン注げコラー!」
「スッカラカンになってもマンコ突けボケー!」
「ウチらの性奴隷になるんだよぉっ!」
「そうだぁ! 性奴隷だぁ!」
「性奴隷ッ! ハイ、性奴隷ッ! 」
「性・奴・隷! 性・奴・隷! さっさと性・奴・隷! しばくぞぉーっ!」
「D・V・D! D・V・D!」
「ブッヒッヒーン! ブッヒヒヒーン!」

(なんだこいつら……)
 白昼堂々公序良俗や倫理の観点から言って問題しかない発言で騒ぐ猪と豚どもの惨状に、雄喜は呆れて絶句する。奴ら騒いでいるし今度こそ隙を突いて逃げられるか――そう思い立ち去ろうとした雄喜だったが、如何せん相手はブタの形質を持つ魔物である。例えバカ騒ぎに熱中していようとその鼻は男の匂いを逃さず、雄喜はオークらに取り囲まれてしまった。

「オゥゴラ逃げんなつってんだろーが!」
「オークの鼻から逃れられるわけねーだろ!」
「大人しくアタシらの性奴隷になるんだ――
「嫌に決まってんだろッ!」
 強要を全力で拒みつつ、雄喜はにじり寄るギャル畜生の群れを阻むように両手を翳す。
「へっ! そんなもんで怯むわけねぇだろバカかてめえぶごぼげ!?」
「ごへっふ!?」
「っぱが!?」
「あ゛、あ゛ん゛ら゛こ゛れ゛っ゛!?」
「ぐ、ぐげ、ぐぜええええっ!」
「はがが、はががま゛っがぐうううう!」
「ぶぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!?」
「おいっ! どうしたテメーら!? オレの手下ともあろうもんが何やって――っぶ!? なんら゛ごれ!? くっせぇええええええ!」
「ね゛え゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「じゃあな屑肉ども。もう二度と僕の前に姿を見せるなよ」
 悪臭に苦しみ悶える土田姉妹やオークたちの頭上を軽々跳び越えつつさらりと吐き捨て、雄喜は真希奈の元へと駆けていく。

「マキさんっ」
「ユウさん! 大丈夫ですか!?」
「ええ、何とか無傷です。……すみませんマキさん、こんなことになってしまって」
「全くですよ! 今回は作者が作者だから無事で済みましたけど、普通のオーク種もののクロビネガSSだったらあのまま捕まってそのまま豚の餌ぁぁぁぁぁっ! ルート直行でしたよ!?
 ほんともう、正義感が強いのはいいですけどもっと自分を大切にしてくださいよぉっ……」
 怒鳴る真希奈は涙声で、今にも泣き出しそうであった。どうやら相当心配させてしまったらしい。
 何とか慰めねば。然しどうやって?
 雄喜の脳内に作者から提示された選択肢が浮かぶ。

 a.優しく抱きしめる
 b.明るい言葉で元気づける
 c.冗談を言って笑いを誘う
 d.今まで気付かなったけど、小田井さんの口元ってなんか色っぽくていいなあ……

(よし、これだな……)

 四つの選択肢から最適の一つを選び取った雄喜は、真希奈を慰めようと近寄って――


「んっ」
「んむっ!?」


――彼女と唇を重ねた。
 真希奈は瞬く間に混乱し赤面。一方の雄喜はあくまで冷静そのものである。

「っふあ……」
「ぷあっ! ちょ、ちょっとユウさん!? 何してるんですかいきなりっ!」
「いやぁすみません、マキさんの唇がなんとも色っぽかったものでつい。あと慰めになればと思って……お嫌でしたかね」
「嫌……とか、そういうことはなくてっ! 寧ろ嬉しかったりもしますけどもそんないきなりは、ねぇ!? っていうか何ですかその理由? 普通逆でしょ! あとキスするならもうちょっとムーディでロマンチックなシチュエーションが良かったかなって個人的には思いますが!?」
「そうですか……確かに仰る通り。では次からはムード等諸々考慮して最適のタイミングで行かせて頂きましょうか」
「……っ! ……はい。お、お願いします……」
 不意打ちの接吻は悪手と思わせて、その実真希奈を慰められたという意味では最適解であった。
「……さて、まあ向こうは今度こそ係員や警察に任せるとしまして……デート再開と洒落込――
「待てやああああああああああああああああああああ!!!!」
「……もうと思っていたのにっ」
「ダメでしたね……」
 悪臭で足止めしたつもりの土田軍団に再度襲撃されたことで、二人のデート再開プランは呆気なく瓦解した。


「ち、クソがぁ!」
「てめぇ、ロリコンの変態野郎と思わせてッ!」
「まともに彼女持ちかンの野郎ッ!」
「しかもそいつ姉御よりチチがでけぇ!」
「人間風情が生意気ったらねーぜ!」
「だがそうとなりゃ好都合だぁ!」
「性癖がコッチ寄りなら落とすのも楽!」
「序でにそこの女もあたしらの同族に変えてやらぁ!」
「ブヒブヒブヒブヒーッ!」
「そういうわけだ……潔くオレらのモンになれやオラァッ!」
「……その申し出、断るという選択肢は――
「あるわきゃねぇだろっ、そんなものっ! おーしお前ら遠慮はいらねぇ! この場でこいつら頂いちまうとしようぜぇ!」
 トンナのよびかけに、オークたちは身構える。何れも魔界銀製の武器やそれに類するものを手にしていた。
(この数相手は骨が折れるな……)
 雄喜は長期戦を覚悟した。真希奈を守りながらこの数のオークを撃退するとなればかなりの重労働だろう。デートどころではない。
 然しそれでもやるしかないと、雄喜が腹をくくった……その時である。


「待ちなァ!」
「通さん……」

 突如虚空より現れる、二人の男。
 容姿から察するに年齢は揃って二十代程度か。
 片や短髪の美形、片や目付きが鋭く坊主頭とまるで印象は違ったが、立ち振る舞いからして只者でないことは確かであった。

「なんだぁ、てめぇ!」
「どっから現れたぁ!?」
「あたいらの邪魔すんじゃねーよ!」

 唐突に往く手を阻まれたオークらは立ち止まり、口々に二人組を糾弾する。
 対する男たちはそれらをまるで意に介さず、あくまで自分たちのペースを維持し続ける。

「自己紹介を、せねばならんか……。
 お初にお目にかかる……キラメキングダム株式会社傘下・岩田製作所所属NC旋盤班班長、ジュ・フェンウェイという……」
「そして俺がその弟ッ、同じく岩田製作所のガス溶接班班長、ジュ・レイウェイだ!」
「なんだってめぇらぁ〜!?」
「いきなり出て来たと思ったら勝手に自己紹介始めやがってぇ!」
「なんだその変な名前よぉ!?」
「てめーら何人だコラァ!?」
「え、俺ら? 中国だよ、中国のクソド田舎。まあ物心つくかつかねーかの時期でこっちに来たから中国人って実感は薄いんだけどな」
「……他に質問がないなら本題に移らせて貰おうか」
 ジュ兄弟の片割れ、フェンウェイはオークたちの抗議を無視して強引に話を進めていく。
「まずMr.ユウ、並びにMs.マキ……」
「は、はいっ!?」
「何です、フェンウェイさん?」
「こちらをどうぞ……」
 そう言ってフェンウェイは二人に車のキーを手渡す。
「施設の東側出入口に当社製の大型二輪車をご用意しました……それに乗ってお逃げ下さい」
「し、然しそうするとあなた方はっ……?」
「あそこの頭ソーセージパーティどもを食い止めるっス。ま、あの規模相手なんで全員は無理そうスけど」
「そ、そんなっ! 無茶ですよ! あの数のオーク相手に二人だけなんて!」
「ご心配なく……磐田製作所の役職持ちたるもの、この程度の戦は慣れております故に」
「……その言葉、信じますよ?」
「死なないで下さいね……」
「大丈夫っスよ、クロビネガだし
 かくして鍵を受け取った雄喜と真希奈は足早にその場を後にした。

「ああっ、逃げられちまった!」
「このガキぃ、姉御の獲物をよくも!」
「追うぞオメーら! こんな奴ら無視して東口に急ぐんだ! ねえ姉御、そうでしょう!?」
「おうともよ! 奴らオレら姉妹に大恥かかせやがったクズどもだ! 思い知らせてやらねえと――
「おぉ〜っと、いいのかなぁ!?」
「な、なんだぁ!?」
「テメーらに構ってる暇なんてねーんだよ!」
「すっこんでろクソ童貞ども!」
「……いいのか? 我々を無視して彼らを追って、本当にいいのか?」
「この場で俺ら兄弟シカトすんのは悪手つーか? お前らにとってもウマい話があるんだがなぁ?」
「う、ウマい話だと!?」
「なんだなんだ!?」
「一体なんだよウマい話って!?」
「……全員強制参加とは言わない。彼らを追いたくば追ってくれて構わない……」
「だがもし俺ら兄弟とこの場でやり合って、お前らが勝てたとしたら……褒美に俺らをくれてやってもいいんだぜ?」
「否、我々兄弟だけではない……我が岩田製作所の童貞男性社員を好きなだけくれてやろう……」
「どうだぁ、悪い話じゃねぇだろう?」
「へっ! 何が『悪い話じゃねぇだろう?』だボケどもが! ナメ腐ってんじゃねーぞ! この土田トンナ率いる土田組のモットーは『性欲より誇りの為に戦え』だぜ!? そんな安っぽい罠に引っ掛かるわけねーだろっ!」

 白昼堂々往来でポコチンとか性奴隷とかと騒いでいた奴らが何を言うかと突っ込みたくなる発言である。
 あとその台詞は主にドラゴンやヴァンパイアの典型的なチン負け純愛ENDフラグだぞとかそんな突っ込みが入るかもしれない。
 ましてオーク種ともなればフラグどころの話ではないだろうし。

「そうだそうだ! 姉御の言う通りだ!」
「土田組をナメんじゃねーよ!」
「姉御! こんな野郎ども姉御程のお方がお手を煩わす程のこともありませんぜ!」
「おう、そりゃそうだな!」
「つーわけでここはあたしらにお任せ下せぇ!」
「おう、そうだな! 任せたぞ! ……ん?」
「おうおう、オメーだけに苦しい思いはさせねーぜ?」
「おい?」
「ウチらも助太刀すっからよぉ!」
「待て!」
「土田組の誇りにかけてあいつらぶっちめてやろうぜ!」
「待てってオイ!」
「よし、アタイらは坊主をヤる!」
「ならあたしらは短髪だ!」

「待てよぉ……」
「さあ姉御、行って下せぇ!」
「見ての通りここはジブンらが引き受けます!」
「ブッヒンヒー!」

「……お、おう」
「姉ちゃん、元気出しなよ……」
「あ、あたし等はついていきますよ!?」

 かくして華やかなテーマパークの大通りは技師の兄弟対ギャル風のオーク十数名による激闘の開始点と化す。他方、土田姉妹と残る数名のオークは逃げる雄喜と真希奈を追うべく園内を去り、道中奪ったトラックに乗り込んで追跡を開始した。

 そして物語は、前回冒頭のハイウェイへ場面を移すことになる。

(もう何分経った? 二十分か四十分……一時間って程じゃないだろうが)

 大型車から逃げつつ、雄喜は思案する。道交法にギリギリ違反しない程度の運転で土田一味を攪乱し続けて暫く経つが、どれだけ足止めを試みようとも奴らはしぶとく追ってくる。

(信号や渋滞へ引っ掛けようにも見透かしたように回避されるし、車が走らなくなったら次のを盗みやがる……)

 三分に七回程度のペースで自ら事故を起こし、盗んだ車はあれで十一台目だった筈である。これ以上被害が拡大する前に何とかしなければ。

(然しどうすれば……ん?)

 悩む雄喜の懐から、何やらメロディが鳴り響く。その正体はどうやらスマートフォンの着信音。
 ハンドルを握っており操作ができない雄喜に代わって真希奈が背後から手を伸ばして操作し、スピーカーフォンの状態にする。

『志賀くん、聞こえるかい?』
「古坂社長!」
 かけてきたのはキラメキングダム株式会社社長、古坂彦太郎であった。
『運転中だろうに申し訳ないが……今大丈夫かい?』
「僕は問題ありませんが……此方こそ申し訳ございません、折角のPV撮影だったというのに……」
『構わないさ。寧ろ派手な画が撮れたし、撮影ドローンやバイクもウチの製品だから宣伝になってよっしゃラッキーって感じだし?』
「……ということは、あのご兄弟は」
『ああ、僕が向かうように頼んだんだ。岩田製作所の説明会で使おうと思ってね』
「参加者は混乱すると思いますが……」
『だがインパクトはあるだろう? で、そっちは……ドローンからの中継映像を見るに苦戦を強いられてるようだね?』
「ええ、全くです。幾ら捲こうともしぶとく追いかけてくる……一体どうしたものかと悩んでた所ですよ」
『そうだろうと思って、とっておきの秘策を用意したよ』
「秘策、ですか?」
『ああ。少し手間はかかるが、PVの締め括りにお誂え向きの秘策さ。……というわけで、まずはこれから指定する場所へ向かってくれ』
「わかりました」

 雄喜は古坂の指示に従い、土田一味とつかず離れずのペースで指定された場所を目指すのだった。




「ぬぁっはぁぁぁああああ!」
「んおっ♥ ぉほっ♥」
「んっほおおおおおおおっ♥」
「はっ、あぅっ♥ あううっ♥」
「らめ♥ やっ♥ らめええええええええ♥」
「ぉぁっはあああああああああ♥」
「わっひぃぃぃぃん♥」
「ぶっひぃぃぃいいいいいっ♥」


 どこにあるかもわからない空間に、複数人分の淫靡な喘ぎ声が響く。
 その主、何れも魔物。彼女らの内二名はハイオーク、残りはオークであった……と書けば、その素性は察しがつくであろう。
 邪区又組幹部土田鉄柱の娘、土田トンミンと妹トンナ。並びに彼女らの取り巻きであるオークら数名……通称"土田組"の内、盗んだ車で走り出した面々である。

 あれから雄喜と真希奈を追い続けた彼女らは現在、紆余曲折を経て得体の知れない広大な部屋で屈強な男たちに犯され続けていた。
 その有様たるや最早どちらが魔物でどちらが人間なのかわからなくなりそうな程。入念かつ徹底的に犯され続けた事により彼女らは自らの完全敗北を理解し、男たちに心底屈服させられていた……


……ただ一人、土田トンナを除いては、だが。

(まだだ……まだオレは負けてねえ……この程度の人間野郎に負けるわけがねえんだ……! そうだ、絶対ェここから抜け出して、あのふざけた野郎を今度こそ……!)


 力強い巨根の突きが齎す快楽に抗いながら、トンナは回想する。
 そう、あれはあのふざけた二人を追っていた時のことだ。十一台目の車も壊れて来たのでそろそろ次の車を盗もうかと相談していた所、奴らは急にスピードを落とし始めたのでそのまま追いかけることにした。
 そうして十数分。二輪車を追って辿り着いたのは雑木林の中へ不自然に佇む武骨で無機質な建造物。入り口付近には二人の乗っていた大型二輪車が留めてあり、ぽっかりと開いた入口へ続くように二人分の足音が続いている。更にあの二人の匂いまで漂っているのだから奴らはこの中に隠れたに違いないと考え、土田組の面々は車を乗り捨てて施設に突入し程なくして昏睡……

 次に目が覚めた時には全員若干サイズが小さめな体操服かつブルマの状態で件の部屋に閉じ込められており、混乱していた所へ現れた謎の男たちに勝負を挑まれる。
 持ち掛けられた勝負は『レスリングで勝てばこちらを好きにしていい。負ければこちらのモノになって貰う』という実にシンプルなもの。男たちがかなりの上玉であったこともあり、土田組の面々は本来の目的も忘れて男たちからの挑戦を受け……何とも見事に惨敗し、今に至るというわけである。

(認めたくねーが、トンミンを含むオレ以外の全員はもうこいつらに負けちまってる……何者だろうと自分に勝った相手にゃ従順たるべしっつーオークの本能に従わざるを得ねえってワケだ……。
 だがオレは違う……オレはオークの本能を超える女だッ! そもそも劣勢に立たされこそすれ、絶対に負けたりしねえ! なんとしてでもこいつらに打ち勝ち、あのふざけた野郎をっ……!)

 土田組の中で唯一男に犯されて尚敗北を認めず快楽に抗い続けるトンナ。
 勝負の最中本来の目的を思い出した彼女は、あくまでも勝利に執着し続ける。ここで負けを認めてしまうなどヤクザの娘として在り得てはいけないのだと、喘ぎながらも自分に言い聞かせる。
 その在り様は宛ら何よりも強く在ろうとするドラゴンか、上位者としての誇りを重んじる気高きヴァンパイアのよう……であったが、そこは悲しいかなやはりハイオーク
 例え当人がどれほど負けを認めずとも犯された時点で勝敗は決まっており、極上の精を注がれる快楽にプライドは完全崩壊。結局は妹や取り巻き達と同じ末路を辿るのにそう時間はかからないのであった。




 キラメキングダム株式会社運営のテーマパーク『ワンダーパラダイス』での出来事に端を発した一連の騒動は、暫くの間世間を大いに騒がせた。

 テーマパークの大通りで起きた騒動は数多くの目撃者がいたこともあり人々の間で瞬く間に噂となり、これを好機と見たマスメディアによって連日各種媒体で報道された。
 また話題性を求めたネットユーザ、取り分け広告収入や売名を目的とする動画配信者たちも本件をネタにしないわけがなく、上は億単位の貯蓄を誇る大物から下は成り上がりを目指す新参に至るまで大勢が土田姉妹一味の暴挙を非難・糾弾するとともに、
 それに立ち向かった雄喜――魔術で変装していた為皆一般人の青年と認識――を『魔物を恐れず正義に生きた勇敢な人物』『これからの人魔共存社会には種や性を問わず彼のような者が必要』『子供相手に大人げないと批判する者もいるが、自分より幼い相手を不当に痛めつけた土田トンミンこそ大人げなく幼稚である』と擁護・賞賛する姿勢を見せた。

 そもそも土田姉妹一味こと通称土田組は各地で騒動を起こす迷惑集団として悪名高く、しかもその上反社会勢力の関係者かつ魔物であることから公的機関も安易に手が出せず人々が煮え湯を飲まされていたのは事実であり、雄喜の行動やそれに便乗したマスメディア及びネットユーザの活性化は民衆の留飲を下げる結果となった。

 また一連の騒動を大々的に報道され、トンミンの醜態や土田組による悪行三昧(二輪車を追うべく起こした暴行や窃盗、危険運転とそれに伴う交通事故等々)を収めた映像や目撃者・被害者らの証言があちこちに流出したことは、土田組のみならず姉妹の父・鉄柱の元より昨今ただでさえ低かった信用と威厳を地に落とす結果を招き、
 組織として死にかけなのもあり二次被害を恐れた邪区又組はトカゲの尻尾切りとばかりに鉄柱を破門とすることで組織の維持を図った……

……が、図鑑界隈に身を置く博識な諸兄姉ならばご存知の方も多かろう、そもトカゲの尻尾の再生は身体構造の関係上ほぼ生涯一度きり、かつ消耗の激しさから最悪衰弱死も在り得る諸刃の剣である。
 もしこれがリザード種の魔物であったなら――そもそも勇敢な戦士たる彼女らが尻尾の自切など行う筈はないと言われればそれまでだが――療養や夫からの精供給等により余裕で再生したであろう。
 然し悲しいかな、邪区又組はただの弱ったトカゲであった。ともすれば尻尾を自切し再生を試みればどうなるか?

 答えは簡単、衰弱死である。


 無論邪区又組の現組長・在間玄呑はなんとかこの崩壊を食い止めようと奔走したが上手く行く筈もなく、結果自暴自棄から日本全土を巻き込む程の大規模なテロ事件を起こそうと暗躍。
 然しこれをいち早く察知した刑事の大鳳圭介率いる人魔混成の精鋭部隊・大鳳隊の活躍により計画は阻止され、玄道を含む全構成員も逮捕される。更には構成員の一人が逮捕直後に解散届を提出したことで邪区又組は完全に消滅した。


 さてそれはそうとして、謎の施設に迷い込んだ挙句男たちに犯され敗北した土田組の面々は果たしてその後どうなったのであろうか。


 そもそも土田組の面々はあの日、古坂の仕掛けた秘策によって罠に嵌められてしまっていた。
 彼女らが迷い込んだあの建物は、嘗て存在したカルト教団の拠点を同教団壊滅後に古坂が『何かに使えるかも』との理由から自腹で買い取り内装を整え『汎用雑務所』と名付けていたもので、主に新製品の性能テストや極秘情報の取扱い等に用いていた。

 雄喜からの連絡を受けた古坂は彼の現在地がちょうど汎用雑務所の近所であることに目を付け、雄喜に土田組の面々を上手く同施設へ誘導するよう指示すると同時に諸々の準備を整え、更に自社傘下の組織から選び抜いた魔物を打倒し得る身体能力と精神を併せ持ち、肉付きがよくパワフルなオーク種の妻を欲する男たち――その大多数は独身か童貞であり、唯一の妻帯者さえバイコーンの夫であった――と、彼らのサポートを務める人員を汎用雑務所に招集した。

 集められた者達は古坂の指示で準備を進め、ある者は立体映像や地面への細工であたかも雄喜と真希奈が汎用雑務所へ逃げ込んだかのように見せかけ、またある者は汎用雑務所に侵入した土田組の面々を魔術で昏睡させ、更にまたある者は昏睡した彼女らの身包みを剥いで体操服に着替えさせ広大な部屋に移し……犯罪同然の行為を平然と遂行し、土田組の面々に飢えた男たちを嗾けた。

 その後の展開は前述した通り。鍛え抜かれた男たちに惨敗した土田組の面々は、辛うじて長時間の抵抗を試みたトンナを含む全員が激しく濃厚な本格的セックスを体感したことで心底彼らに屈服し、社会に仇為す害獣は従順なマゾヒストの家畜へ姿を変えた。
 そうして完全に無害化された土田組の面々を、古坂はどのように扱うか迷ったがとりあえず犯罪者なので当人ら合意のもと警察に引き渡すことにした……が、肝心の警察側は未だ法的に扱いの難しい魔物の中でも特に慎重な扱いが求められる既婚魔物の面倒を見るなど御免だと言わんばかりに古坂の申し出を突っ返した挙句、世間の関心が彼女らから離れているのをいいことに彼女らに関する事件や事故を揉み消してしまう

 警察側のまさかの対応に困惑する古坂だったが、何と彼は土田組の面々を雇い自社傘下の工場や農場で働かせるという中々に素っ頓狂な判断を下した。幸いにも男に敗北したオークは従順な性格であり、かなりの怪力とスタミナを誇ることもあって労働力には打って付けであった。

 ところでワンダーパラダイスの大通りでフェンウェイ・レイウェイ兄弟と戦い、手本のように惨敗を喫した方のオーク達もその後何だかんだと色々あったが兄弟への敗北を機に改心し、今や真っ当な魔物として充実した社会生活を送っているという。




 以上が一連の騒動の顛末であり、道を違え土田組を名乗って暴れ回っていた不良魔物集団の辿った結末である。
 この騒動に正義は無いが、また悪もない……ということにしておいて頂きたい
 あるのは多種多様な欲望と願望だけである。
 各々の下した判断の是非をこの期に及んでわざわざ問おうとする者など……
21/08/10 13:17更新 / 蠱毒成長中
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