連載小説
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おまけ編
「うん、うまいうまい!」
 若いがよく鍛え上げられ、日焼けしている青年は、深い皿に入っている茶色のスープをごくごくと飲む。本来ならスプーンを使って飲むべきだろうが、そんなことをしている余裕がないくらいに、ジパング人に教えられたミソを使ったスープは美味しかった。だが、ただミソを使うだけではダメだ。それにはブイヨン(出汁)が必要だ。そのブイヨンは小魚などでも使えるのだが、それではこの味にならない。これほどおいしくするには……
「喜んでもらえて嬉しいわ……」
 スープを飲む彼の横にいる女が応える。ツリ目だけど垂れている眉……これだけだと読みにくい表情であるが、口角がつり上がっていて笑みを浮かべているのが、彼女の気持ちを物語っていた。彼女の髪はしっとりと濡れている……だがそれは実際は髪ではなく、海藻であり、彼女の身体の一部だ。海藻の魔物娘なのである。
 そしてその海藻は先端が少し切れていた。切れた端の行き先は彼が飲んでいるスープの中だ。フロウケルプの身体から生えている海藻は良きブイヨンとなり、彼が飲んでいるミソのスープに絶妙に合う具材となるのだ。
「おかわりもらえるか?」
「ん……♪」


 あれから数年経った。少年が元いた漁村は、嵐にあった複数の漁師が魔物娘に助けられたことから親魔物寄りとなった。村にいた司祭も懐柔された。そしてフロウケルプとつがいになった少年も村に戻った。
 すっかり男として成長した彼は男たちとともに漁に出ている。あの時捕まったフロウケルプと、彼女との間に生まれた娘のために。
 あの時少年だった青年は、美味しそうにおかわりのミソ・スープを飲んでいる。そんな彼を微笑ましそうに見つめるフロウケルプの姿は、あの日最後に交わった時と変わっていない。初めて出会った時は幼い少女の姿であったが、それは乾燥していたため。彼女らの娘のように、本当に幼体だったわけではない。

「それじゃ、行ってくるぜ」
 朝食を食べ終えた青年は、漁に行くべく立ち上がった。部屋の隅においてあった網を担ぎ上げ、玄関の扉を開ける。
「網、なくさないのよ」
「大丈夫だって。なくしたのはあの一回だけなんだから。じゃあな!」
 苦笑いを一つ浮かべ、青年は手を振ってドアを閉めた。後には、彼の妻となったフロウケルプと、まだ寝ている娘が残された。その中で……
「……本当はあなたは一度もなくすような"ヘマ"はしていないわ……」
 ぽつんとフロウケルプは誰に言うとも無くつぶやく。その顔には、さきほど夫に見せたのとは違う、魅力的でありながら狡猾そうな笑みが浮かんでいた。
「さすがに私が網にからまっちゃって打ち上げられて干されちゃったのは計算外だったけど……」
 にいいっと、彼女の笑みがさらに広がる。おかしくてそれをこらえるのが大変で仕方がないと言うかのように。
「あの網は……」



 あなたを一人だけおびき出すために私がこっそりと盗んだんだから……
16/01/27 01:51更新 / 沈黙の天使
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■作者メッセージ
本編を書き終えてから思いついてしまったおまけ。

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