連載小説
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ジャバウォックの項
・・・・うむ。
彼女が確認されてから相当遅れてしまったわけだが。
というか、自分自身、彼女の特性が分からなくて手間取ったわけだが。
今回はその彼女を紹介しよう。
え?前回最後だ、って言ってた?・・忘れてくれ。


さて、その彼女とはずばり、ジャバウォックだ。
格好良く言えば淫欲に染まりし地上の絶対王者、
ざっくり言えば、
ハートの女王曰く「ちょっと悪戯しちゃった、てへぺろっ!」。
先程も伝えたが、私はかなり手こずった。
見た目に置いては竜族らしいゴツゴツとした手など、
そういう共通の点も見受けられるのだが・・。

その見た目にしても他とは大きく異なる。
まず目に付くのは、その色であろう。
桃色、とだけ表現するにはやや暗く重厚なそれは、
同じ桃色であるにも関わらず、厳かさや淫猥さを感じさせる。
色だけではない。
ワームはともかく、他の多くの竜族が隠すその膨らみ・・すなわち胸。
そこを彼女はあけっぴらげにしてあるのだ。
他にも、ハートマークがついていたり、
口のようなものを有する触手など目立つものは多々ある。
だが、不思議の国に居るという事自体が、
他の魔物との差異を生み出す要因となっているため、
ここでそれに触れると長々と語ることとなり、
肝心の彼女自身に言及できなくなるため割愛させていただく。


ここでは、原種と呼べるドラゴンとの差異を一つあげさせてもらう。


見た目において、並べば目立つ彼女だが、
私がここで注目したのはその表情だ。
絶対なるものとしての視線を向けてくる点は二人とも共通だろう。
しかし、ドラゴンの方は
睨みつける、もしくは平伏させるというような感じであるのに対し、
ジャバウォックの視線は・・私の感じたことをそのままに言うならば、
品定めをする、というような感じだろうか。
自らの様相を全面に押し出しておきながらも、そこに棘はあまりない。
来るのならば来ればいい、自分に近づくだけの度胸があるのだろう?と、
試すような風に感じた。


・・・・さ、て。
ついにというか、ようやくというか。
内面を語るときが来てしまった。
正直言って、他の竜族と第一印象がまるで違い、
説明をもらって、まずもって思ったことがこれだ。

「・・ただの、ド変態メスエロトカゲじゃん・・」

いや、しょうがないだろう、これは。
事実その通りなのだし。
というか、自分が竜族に対して持っていた共通の認識を乱された。
格好良くて強くて、まずそれが大前提としてあるもの。
そういう思い込み、を乱されたのだ。
一時期・・彼女をドラゴンとして認めたくない、そう思い、
何日間かは彼女が登場したことそのものから目を背けていた事もある。
・・しかし・・しかし、である。
その様相は、どこをどう見ても、ドラゴン族のそれだ。
時間をおくと不思議なもので、それを受け入れられるようになった。
そして同時に、彼女との付き合い方も分かってきて、
段々と愛おしくも思えてきたのだ。
では・・ぶっちゃけよう。
ジャバウォックと親密になりたいなら、これだ。


犯れ。
肉を叩きつけ、愛欲を高めて、劣情のままに。
以上。


・・酷い。
説明になっていない。
いや、事実その通りといえばそうなのだが・・。
と、そんな風に思ってしまった方や、
もしくは私と同じように、プラトニックな関係から始めたいという方。
安心してほしい。
かの魔物娘図鑑には、こういうようなことも書いてある。
彼女に通用するとすれば、それは「好意そのもの」であると。
え?「行為そのもの」?
違う、「好意そのもの」だ・・間違いとはいえないが。
ともかく、彼女にはこの好意が良く効くという。
何も肉欲をぶつけるだけではなく、
ただただ一緒にいたい、それだけでもいいということだろう。
ここは、私も誤解していたところだ。
正直、交わりだけが目的の魔物娘と思ってしまっていた。
愛のある交尾以外に目的がないと。
すぐセックスばかりで、イチャイチャ出来ないのでは、と。
・・このことに関してはこの場を借りて、お詫びさせてもらおう。


本当に、すまなかったと思っている。


さて。
先程も言ったが、彼女は何も肉欲だけで動いているわけではない。
無論、欲の大半を占めてはいよう。
しかしながら、彼女も魔物娘。
男に好意を示される、この事が最も重要で、
交わりはその手段の一つというわけである。
とか何とかここまでは、
図鑑を読んだ人なら誰でも知ってることを引き延ばして語った訳だが。
正直に思っていることを言おう。

「エロいジャバウォックだからこそ、
落ち着いた健全な付き合いをしたい。」

え・・?ぐっちょぐちょに乱れていればそれで良いだろ?
・・うん・・あの・・うん。
ここからはそういう感じの人向けの説明じゃない、かな。
そういうのが欲しい人は・・うん・・ごめん。


と、ともかく。
私がこう言ったのには訳がある。
百聞は一件に如かず・・ということで、まずはこれを見てもらいたい。


「・・・・・・」
「ん・・?どうした、○○(男の名前)。
少々浮かない顔をしておるようだが。」
「あ、□□(ジャバウォックの名前)・・
いや、ちょっと、な・・」
「ふむ・・?」
「その・・俺、ちゃんとお前に素直になれてるかな、と・・」
「ん、どうしてそう思ったのだ?」
「や、だってさ・・。
この前見たホルスタウロスのカップル。
腕組んだり、微笑み合ったりしてて・・それに比べると、その・・」
「むぅ・・?」
「だって、ほら・・お前って、素直なのがってさ?」
「・・あぁ、そんな事か。」
「っ・・そんな事って。」
「別に、儂は構わんよ。
○○が儂の近くにいようとしてくれる。
それが十分な好意の証になっているであろう?」
「ぇ・・だけど。」
「まぁ、儂ももうちょっと日常的にスキンシップをして欲しい等、
望むところがないではないがな・・」
「ぅ。」
「だが」(頭に手をポン)
「・・□□?」
「元よりおぬしは頭が回り気が利くくせに口は不器用。
しかし・・茶をさっと持ってきてくれたりするのは、
何も単なる気遣いだけではなかろう?」
「・・それは、そうだけど・・」
「ならば良い。
少なくともそれは、儂だけに向けられる想い。
おぬしが儂を大切に思ってくれている証拠。
最初は確かに物足りなかったがな・・」
「・・□□・・」
「だが、それでもしっかりと想いは分かっている。
例え他の者達を見ていても、心の中には儂を置いてくれているだろう?」
「・・ああ。」
「なら、それでいい。
まぁ・・他の者になびきそうになったら、そのときはそのとき。
儂の全てを使って、おぬしを儂のものにしてみせるよ。」


如何だったろうか・・え?彼女のしゃべり方?
・・趣味だよ、趣味・・そうあって欲しいっていうね。
まぁ、ともあれ・・これを通じて伝えたかったことの最たる事。
それは、ジャバウォックというのは案外、
竜族の中では落ち着いている部類なのではなかろうかという私の推測だ。
もし、他の竜族が同じシーンになれば。
ドラゴンであったなら、不器用ながらも強く支える。
ワイバーンであったなら、不安そうに体を寄せ、確かめた後笑う。
ワームであったなら、ぎゅっと抱きしめ、笑う。
龍であったなら、寄り添い共にあると伝える。
・・そう。
対応としては、龍に近いのではないかと思うのだ。

無論・・
「ん・・不安か?では、そうさなぁ・・儂の吐息に中てられてみるか?
その後交わればいい・・気持ちを伝え合うには一番ストレートだぞ?」
・・と、言う個体もいるだろう。
それはそれで良いけども。

さて、そろそろまとめといこう。
ジャバウォックは、エロい。
頭の中は体に負けず劣らず桃色だろう。
しかし、その思考の裏には自らが気に入った男の気を引けぬ筈がない、
そういう誇りがあるのだ。
だから、落ち着いていられる。
男が自分への気持ちに不安になっている時も、
自分ならばその不安を更なる好意に変えられると、
そう信じられるからこそ、彼女なりの誇り高さを保てるのだ。
そして、その誇り高さは男を引きつける。
無意識にそうなるのが分かっているかは個体差があるだろうが・・
誇り高さは絶対なる自信から来る、これは必ずだ。
自分が自分であるからこそ、男は自分を好いてくれる。
また、男が自分を好いてくれるからこそ、自分が自分でいられる。
そういう、ドラゴンとはまた違った誇り。
その誇りが彼女を彼女たらしめ、
そうして作られた彼女が、男を引きつける。
そして、その男に自らの全てを注ぎ、捧ぐ。
交わりの時だけではない。
悩めるときも、ただただ隣にいるときも。
自分をさらけ出し甘える。
自らの好意をあらわした甘えた行動や言葉を、
男が好意的に受け取ってくれると信じているから。
・・そう。

「ジャバウォックは、
ただ単にエロいだけの変態メストカゲというだけでは決してない!」

今回、私が彼女について考えてみて思ったのは、そういうことだった。
無論エロいし、変態かもしれない。
しかしそれだけでは、ないのだ。
その裏にある愛で作られた誇り。
それに触れてやることで、彼女への好意を伝えられる。
方法は簡単だ。
ふとしたとき、言いたいときやりたいときに。

近くに寄ったり体をそっと彼女に寄せたり、抱きしめたりする。
       または
「一緒にいてくれてありがとうな」等の言葉を言う。

それだけでいい。
それだけできれば、彼女には伝わる。
無論、物足りなければ続きをすればいい。
素直に表に出せなくても、これをしていれば
「ふ・・可愛らしい奴め。」等と思ってくれるだろう。
むしろ、素直でないからこそ、この行動は一層効果があるかもしれない。
形はどうあれ・・好意を、示される。
それは、不思議の国だろうが、ジパングだろうが、魔界だろうが。
魔物娘達にとって、一番嬉しくて幸せなことなのだから。

15/04/27 21:25更新 / GARU
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■作者メッセージ
受け入れられないことでも、時間をおいて向き合えば分かり合える。
ジャバウォックはそれを教えてくれた気がする。

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