読切小説
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ストーカー? 愛があればいいんです!
 のどかな海辺の町。潮風が頬をなで、常夏の気候。眩しい日差しが目に入る。そんな時間がゆっくりと過ぎるような場所。そこでは魔物と人が暮らせる楽園のようだ。
 小さい島なので住む人や魔物も多くない。住人はみんな家族のようなものだ。
「あぁー、腰が痛え!」
 中腰になって洗濯物を洗っていた青年は独りごちた。この島に住んでいる者では珍しく独身で、小さな小屋に住んでいる。
 彼の名前はギル。イケメン……ではなく、不細工……でもない、良くも悪くも普通の人間だ。彼は魔物にもてない。

 何故なら……

「………………………………」
「(うわぁー、めっちゃ見とる)」
 幽鬼のように佇んでいる一人のサハギン。彼女のせいだった。彼に近づく魔物は彼女が処理していた。(どのように処理されているかは知らない)
「………っぽ」
「(何で赤くなってるんだよ、意味わかんねえよ)」
「ンフフフ」
 顔を赤くし、頬に手を当ててクネクネと悶えている。気が付かれていないと思っているのか、姿勢を低くし、裏手に回っていく。
 自分の視界から彼女がいなくなったので、少しだけ安心した。
「ふう……って、俺の家でなんか漁るつもりか?」
 ギルはあわてて立ち上がり、自分の家へと急ぐ。この前もなぜか椅子を持っていかれたばかりだ。椅子に頬擦りしている姿に鳥肌を立たせたものだ。
 今回は何をしているんだか。
「…スゥー、クンカクンカ」
 裸でギルのパンツ(洗濯していない)を嗅いでいた。
「う、うわー。変態だーーーーー!」
「ッハ!?」
 サハギンは逃げ出した。パンツ持ったまま。
「ま、待て! コラ! パンツ返せー! そして何で裸なんだよー!」
 ギルの叫びも虚しく、海の魔物とは思えないほどの速さで走っていくサハギン(裸)。さっき覗いていた時は水着を着ていた。ということはここで脱いだということだ。
 ギルのパンツが置いてあった場所に、脱ぎたてと思わしき水着が置いてあった。
「どうしろってんだよ、コレ」
 とりあえずギルはその水着を丸める。
 あのサハギンはリュミという名前で、ギルが小さいころからストーキングをしている筋金入りのストーカーだ。こんな風に衣服を持っていくのはしょっちゅうで、よくわからない行動を繰り返しているのだ。
 こうして逃げたと思っても、視線をさりげなく横に動かせば、そこにリュミがいる。思いっきり振りかぶり、脱ぎ捨てられた水着を投げつける。
「………!」
「パンツ返しやがれ!」
「見て見て、ピンクの乳首」
「うっせえ、馬鹿!」
「まだだれにも触られたことの無い体」
「触りたくねえよ!」
 草の茂みから出てきたリュミ。装備品はギルのパンツ。(頭に装備されている)
「ピッタリ」
「うわー! 変態だ!」
 俺は迷うことなく魔物に攻撃することのできる呪符を使う。
   ピシャーン!
 雷が飛び出る。大枚はたいて買った物を、こんなにも早く使うことになるとは。恐る恐るリュミをみると、黒こげになってぶっ倒れていた。
「やりすぎたか、っていうか、取り返そうとしたパンツまで焦げちまった。まあ、変態に持っていかれるよりかはいいか」

 俺は動かないリュミを放っておいて、仕事をしに行った。仕事、といっても、その日に食べるだけの魚を釣りに行くだけだ。欲しい物があったら多めに魚を釣り、時々島の外からやってくる人たちと物々交換すればいい。
「釣りはいい、心洗われる」
 太陽の下、こうしてのんびりとした時間を過ごすのはいい。ただし、リュミがいなければ。
 さすがにさっきのことを怒っているのか、見ている眼が……
「………ッポ」
 なんか、恍惚としていた。
「キ、キモ!」
 さっきまで黒コゲだったのに、無駄に頑丈だ。
「……激しいのが好きなんだね。ウフ」
 すごいキモい。果てしなくキモい。もう、言葉にできないほどにキモい。
「ウォラ!」
 釣竿を振りかぶり、思いっきり振りおろす。釣り竿には錘が付いているので、勢いよく当てればとてつもなく痛い。それをプンポイントで頭に当ててやった。
「あぁん」
 スコーン! といい音がした。きっと、頭に何も入ってないからいい音がしたのだろう。プクプクと沈んでいくリュミ。
 彼はため息をついて釣りを再開した。

 この日も大漁だったので、籠に魚を入れて近所の人達へ配りに行く。こうして日用品などの小物と交換してもらったり、少々の小銭を稼ぐのだ。
 こうしてその日の物々交換が終わると、彼は家に帰っていく。
「ふー、疲れた」
 家からはいい匂いがする。
「お帰りなさいアナタ。先にご飯にします? お風呂? それともワ・タ・シ?
「不法侵入だー!!!」
 飛び蹴りをかまし、外に蹴りだしてやった。
 テーブルにはパン、スープ、ムニエルなどおいしそうな物が並んでいる。さすがにこれだけ用意してもらったのに、追い出すのは失礼な気がした。
「………ジー」
 窓から覗き込むリュミ。どうしようか30秒ほど悩んだが。
「入ってこいよ」
「!!!?!?!?!?」
「ドアから入れ! 窓から入ってくるな!」
 やはりどうしようもない魔物だった。
「……ん?」
「なんだよ」
 リュミは料理と彼の顔を交互に見ている。何を聞きたいのかはわかっていたが、あえて気が付かないふりをすることにした。
「……」
「……」
「……」
「……」
 会話もなくひたすら黙々と食べる。それに、何か言いたげな上目遣いの攻撃。
「ねえ」「あの」
 同じタイミング。またもや言いにくい雰囲気になってしまう。
「さ、先に言えよ」
「ん…………おい、しい?」
「あ、まあまあだな」
 見るからに消沈している。
「……」
「いや、その……うまかったよ」
「!!」
 リュミは立ち上がり、彼の目の前に来た。
「なんだ? 本当にうまかったぞ」
「い」
「い?」
「いただきます!!!!」
 襲いかかるリュミ。
「ちょ、待て! そっちの意味のいたただきますかよ!」
「クンカクンカ……いい匂い…ジュルリ」
「やめてー!!!」



 こうして2人はなし崩し的に一緒に暮らしたとさ、めでたしめでたし。
11/02/26 19:02更新 / Action

■作者メッセージ
思い勃ったが吉日。勢いだけで作ったもの。

ちょっと後悔している…

なんか、海の魔物は大っぴらなイメージがあってこうなった。

「メロメロなメロウ」もこんな感じで終わってるしワンパ乙って感じ。

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