連載小説
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(118)イエティ
風はなく、さんさんと日が照っている。
しかし衣服の隙間から入り込む冷気は体温をゆっくりと奪い、むき出しの顔には突き刺さるような痛みを生じさせていた。
一年を通して雪が溶けることのない霊峰を、私はゆっくりと上っていた。
足跡の残る雪を踏みしめながら、一歩一歩足を進めていく。
足跡をたどると、数歩とたたぬ内に、二本の足をはやした巨大な荷物に私の視線がぶつかる。
「タイチョさん、付いてきてるか?」
私の数歩先を進んでいた荷物が、そう尋ねた。
「ああ、大丈夫だ」
「・・・休憩にするね」
私の返答にも関わらず、荷物は足を止めて振り返った。
テントや食料、燃料や寝具などをまとめた荷物を背負っていたのは、浅黒い肌の少女だった。今回の登山に際し、私が雇ったガイド兼荷運びだ。防寒着の袖口やフードの縁から、ふわふわとした毛がはみ出ており、なかなか暖かそうだ。
一瞬彼女の姿に見とれ、意識を奪われかけたが、私はどうにか彼女の言葉を反芻した。
「待て待て待て、私は大丈夫と言ったんだ」
「大丈夫じゃない人、大丈夫言うね。タイチョさん大丈夫じゃないね」
彼女は側の雪を払って岩を露出させると、荷物をその傍らに下ろした。
「ほら、ここに座って休憩するね」
「だから、私は元気だし大丈夫だ。それに、前に休憩してから一時間も・・・」
「タイチョさん、寒いのも暑いのも同じ、知ってるね?」
小さいヤカンに雪をすくい、熱を発する魔術式の描かれた加熱器具の上に置きながら、彼女はそう問いかけた。
「暑い砂漠で汗流すのも、寒い雪の中でふるえてるのも、同じぐらい危険ね。砂漠では水飲まないと死ぬ。雪山では体温めないと死ぬ。だから、休憩して体温めるね」
「そう、なのか・・・?」
実際のところ、これほど険しく寒い山など登ったことがないため、私には反論の使用もなかった。
「分かったら座るね」
彼女に言われるがまま、私はむき出しになった岩の側まで歩み寄り、腰を下ろした。
瞬間、体を支えるという労働から解放された両足から、心地よさが上ってきた。どうやら、思っていたより疲れがたまっていたようだ。
「はい、お待ちね」
ヤカンからカップにホカホカと湯気の立つ茶を注ぐと、彼女はそれを私に差し出した。
「チョモ特製の元気茶ね。ゆっくり飲んで、暖まるね」
「ああ、ありがとう・・・」
私はガイドの少女、チョモからカップを受け取ると、数度息を吹きかけてから唇をつけた。
甘い、砂糖をこれでもかと入れた茶は、その温もりとともに私の全身に染み渡っていくようだった。
「はぁ・・・」
「やっぱりタイチョさん、疲れてたね」
私の思わずもらしたため息に、彼女はニッコリと微笑んだ。



それから、休憩を何度も挟みながら私たちは雪山を登っていった。
そして夕方よりずっと前頃、チョモは大きな岩壁の側にテントを張ると言った。
もう少し進みたかったのだが、彼女が言うにはもうすぐ吹雪がくるらしい。
彼女の予測に疑いを感じながらも、私は彼女とともにテントを張り、その中に入った。
テントが風を遮ってくれるため、中は少しだけ暖かく感じられた。
「タイチョさん、上脱ぐね」
チョモが防寒着のフードをおろしながら言った。
「なんでだ?」
「ワタシたちこれだけしか服持ってないね。テントの中のカッコのまま外出ると、寒いね」
防寒着を着た状態で、テントの中に慣れてしまったら、翌朝寒く感じてしまうという理屈か。
「分かった」
私は頷くと、防寒着を脱いだ。厚手の生地が身体から離れ、ほんの少しの肌寒さを感じる。だが、耐えられないほどではない。
「それでいいね」
チョモもまた、防寒着を脱ぎながら微笑んだ。フードの縁からのぞいていたふわふわの毛は、どうやら彼女の頭髪のようだった。そして防寒着の袖口から溢れるようにしていた毛も、彼女の袖口からまだ覗いている。
「チョモのそれは暖かそうだな」
「タイチョさんの方が暖かそうね」
手首を守るふわふわとした毛への感想に、彼女は微笑みながら応じた。
「今からご飯作るね。タイチョさんちょっと待ってて」
「ああ」
荷物を探りながらのチョモの言葉に、私は頷いた。
やがて三人が寝転がれるほどのテントの中で、私が日誌をしたため、チョモが晩飯の準備をしていると、悲鳴のような音が聞こえた。
「白竜が叫んでるね」
鍋をかき回しながら、ふとチョモが言った。
「白竜?」
「強い風が山肌をなでると、こんな音がするね。白竜が叫んでいるときに外にでると、白竜にさらわれてしまうね」
「強い風で吹き飛ばされてしまうわけか・・・」
こんな雪の中、風によってあたりを転げ回されて遭難してしまえば、何かにさらわれたように見えるだろう。
「ここで野営して正解だったな・・・ありがとう、チョモ」
「お礼はいいね」
彼女は鍋の中身をカップにつぎ分けると、スプーンを添えて私に差し出した。
「ご飯できたね」
「ありがとう」
カップを受け取り、中に目を落とす。そこには、どろどろの粥が入っていた。
「ヅォね。簡単に作れるし、どんな味もあう、山料理ね」
「へえ・・・」
私は粥をスプーンですくうと、口に運んだ。煮込まれた麦は口の中で柔らかく崩れ、口内にほのかな塩味を残した。
「うまい・・・」
「まだお代わりたくさんある。遠慮しないでどんどん食べるね」
俺の感想に、彼女はにっこりとほほえみながら、自分もカップをとった。
そして私たちはカップ数杯分の粥を数度に分けて平らげ、最後に鍋に雪を入れて、鍋の洗浄ついでに湯を沸かした。
粥の残りが混ざった白湯は、ほのかな塩味が効いていた。
「それにしても、いくらでも飲み食いできるようだ・・・」
白湯をすすりながら、私はふと漏らした。
「その通りね。雪山ではたくさん食べてないと、体が凍えるね。だからいくらでも食べられるようになるね」
白湯をわかしてすすいだ鍋を片づけながら、彼女はそう私のつぶやきに応じた。
「そうなのか・・・」
登山の経験はあるが、いずれも夏場に、もっと低い山を登ったにすぎない。やはり万年雪の積もる山は、季節の変わる平地などとは別世界なのだ。
「ところでタイチョさん、何でこの山にきた?」
ふと、チョモが思い出したように私に尋ねた。
「ああ・・・二人きりだから話すが、実は捜し物をしにきたんだ」
「捜し物?オタカラね?」
「いや、生き物だ。人と猿の中間で、この雪山にすんでいるという」
「あーそれ多分クマね」
「いや、クマではない。クマはもっと麓の、食料の豊富な場所にすんでいるだろう」
「クマもこっちまで登ってくるね」
「たまたまやってくる生き物じゃなくて、この雪山に住んでるんだ」
「だったらワタシのことね」
「ああ…質問を変えよう。山に登っている間、正体の分からないモノを見たことは?」
チョモは腕を組むと、うーんと考えてから続けた。
「昔、一度見たこととあるね…」
「本当か!?どこで見た」
「でも、山に登るのは人かクマかワタシぐらいだから、そのどれかね」
「重要なのは、どこで見たかだ。正体は何でもいいんだ」
チョモはそう言うが、私は地図を引っ張り出しながら言った。
「さあ、どこだ?」
「ええとね…ここね」
チョモが地図の一角を軽く指で示した。
「詳しい場所は覚えてないけど、このあたりで見たね」
「このあたりか…」
私はチョモの示した範囲をメモしながら、過去の目撃例と脳裏で照らしあわせた。
確かに、ほかの目撃者もこの範囲で人影を見たなどと言っている。
チョモの情報は、十分価値のあるものだった。
「よーし、じゃあ予定通りの場所を巡って、この範囲もチェックしよう」
「だったら、明日からもっとがんばるね」
「そうだな」
私は頷いた。
「それじゃタイチョさん。今日はもう寝るね」
「もう?」
「明日から急ぐね。だったら今日から休んでないと、明日へとへとになるね」
チョモの言うことももっともだ。
「ならば、今日は休むとしよう」
「それがいいね」
チョモは荷物に手をかけると、毛布のようなものを引っ張り出し始めた。どうやらあれで眠るつもりらしい。私も寝袋を出さないと。
私も自分の荷物に手をかける。きつく丸めて圧縮された寝袋を広げる。
「タイチョさん?」
寝袋に足を入れようとしたところで、チョモが私に声をかけた。
「何…だ…」
振り返りながら応じようとするが、私は言葉を失ってしまった。
私の視線の先、彼女は腰から下を広げた毛布の下に納めて、私の方を向いていたのだ。わずかばかりの布で胸元を覆っただけの姿でだ。
「タイチョさん、その袋小さすぎるね。一緒に入れないからこの上に乗せるね」
チョモは毛布の上に重ねられた、彼女が昼間着ていた衣服を指しながら言った。
確かに寝袋一枚で寒さをしのぐより、防寒着や衣服を積み重ねた方が暖かそうだ。
「いや、いやいやいや待て…」
思わず納得しそうになっていたが、私は顔を左右に揺すって硬直しかけていた意識を取り戻した。
「チョモ…一つ聞きたい」
「何?」
「そんな格好で眠るのか?」
「寒いからね」
「じゃあなぜ脱ぐ」
「タイチョさん何も知らないねー。寒いところで一人眠ると、ゆっくり冷えていくね。でも、二人で一緒に眠ると、一緒に温まりあって冷えないね」
一人で眠ると凍死しかねない。そう言うことか。
「だが、いいのか?君は女で私は男だぞ?」
「大丈夫ね。ワタシの家族もみんな一緒に寝るね。お父さんも一緒ね」
「いや、そう言うことじゃなくて…」
私は彼女の言葉に反論しようとして、止めた。
ニコニコしながら微笑む彼女には、何の裏も感じられない。単に私が寒いだろうからという親切心だけがあった。
私の方が勝手に、彼女の浅黒い肌に後ろぐらい感情を抱いただけなのだ。チョモにとって一緒に寝るというのは、家族と日常的に行われていることなのだろう。
「ほら、タイチョさん。ワタシ寒いよ」
肘から先をふわふわの毛で覆った腕で自信を軽く抱きながら、彼女は私をせかす。
「分かった。寝よう」
郷に入れば郷に従え。私は彼女の言葉に頷くと、観念して衣服に手をかけた。
重ね着していたセーターを脱ぎ去り、チョモと同じ肌着姿になる。
「うぅぅ、寒い…」
私は肌に突き刺さるような冷気に呻いた。テントが風を遮っているとはいえ、布一枚向こうは万年雪が降り積もっている。
「タイチョさん、早く早く!」
毛布の下に肩まで潜り込んだチョモが、私が入れるように毛布を持ち上げつつ言った。
一瞬私の目が、毛布の下で横になった彼女の乳房をとらえるが、痛みに近い冷気が脳裏に浮かんだ後ろ暗い感情を打ち消した。
「寒寒寒…」
チョモの作ってくれたスペースに潜り込むと、彼女が毛布をおろした。
ふわりとした布が私を包み込み、肌に突き刺さるようだった冷気が遮られる。だが、それでも衣服を脱ぐ間に冷えた体がすぐに温まるわけではなく、痛みが弱まることでいっそう寒さが感じられた。
「タイチョさん、こんなに冷たい…」
毛布の下で、私が体を震わせていると、チョモがそっと肌を触れさせてきた。
私より先に肌着だけになっていたというのに、彼女の体は暖かかった。
「温かくなればすぐに眠くなるね…」
仰向けになった私の胸に腕を回して抱きつきながら、彼女は二の腕に乳房を押しつける。
温かさが私の二の腕から全身に伝わり、遅れて布越しの彼女の温もりが感じられる。冷えきった体が、少しずつ温まっていく。
「…ちょ、ちょっと待て!」
私は抱きついてくる彼女を受け入れそうになっていたことに気がつき、声を上げて毛布から飛び出そうとした。だが、肌を苛んでいた冷気を思い出し、私は踏みとどまった。
「何?タイチョさん」
硬直する私に問いかけながら、チョモが小さく首を傾げる。
「い、一緒に寝ると温かいは確かだが…何で抱きつく」
「こっちの方がもっと温かいね」
腕に力を込めながら、彼女がいっそう強く私を抱きしめた。二の腕に乳房が触れる程度だったのが、彼女の胸の谷間に腕が挟み込まれ、手のひらが彼女の太腿の間に挟み込まれた。
「タイチョさん、指先までこんなにヒンヤリ…寒かったね」
太腿で私の手や指を挟み込んで暖めながら、彼女は私をいたわるように言った。
これは温かい。
「いやいやいやいやいや」
私は彼女の太腿を手のひらに感じながら首を振った。温かいのは確かだが、私は今どこに触れている。
「チョモ、とりあえず聞いてほしい」
「何?」
太腿を軽く動かし、すべすべの内腿で手のひらを摩擦しながら彼女が応じる。
「私の国では、一つの寝具に男女が薄着で入るのは…その、夫婦か恋人ぐらいしかしないんだ」
「ワタシの村ではみんなこうしてるね。お父さんもお母さんも一緒になって、こうやって寝てるね」
なるほど、郷に入れば郷に従えということか。
「気持ちはうれしいが、少し困る」
「何で?この方が温かいね。ほら」
彼女がぎゅっと四肢に力を込め、いっそう強く私を抱きしめる。太腿の付け根に私の手が触れ、彼女の乳房が二の腕に触れて形を変える。
「お、おぉぉ…」
チョモの浅黒い肌が私に触れている。毛布の下の様子を脳裏に重い描きながら、私は絞り出されるように声を漏らした。
既に彼女に対して劣情を抱いてしまっているが、このままではそれが表に出てしまう。
私は脳裏から彼女の柔らかさを追い出して、どうにか平静を保とうとした。
「あれ?タイチョさん固くなったね」
私が全身に力を込めたことを、チョモはすぐに察した。
「タイチョさん、ワタシのこと好きなのか?」
「へ?」
唐突な彼女の問いかけに声を漏らすと、チョモはいくらか恥ずかしそうにしながら、もじもじと続けた。
「お母さん言ってたね。男の人は好きな女の人と一緒に寝ると固くなるって」
確かに間違っていないが、ちょっと間違っている。
「あーチョモ、それは…」
「ワタシが抱きついてもお父さん固くならないのに、お母さんが抱きつくと固くなってたね。触って確かめたね」
「何やってんだ両親」
私は思わず言ってしまった。
「お父さんはお母さんのこと大好きね。大好きだから固くなるね。でも、タイチョさん体全部カチカチね。チョモのことそんなに好きか?」
照れながら問いかける彼女は非常にかわいらしかった。
「いや、そのチョモ。これはそう言う訳じゃなくて…」
「何で?ほら、こんなにカチカチね」
彼女はそう言いながら、私を抱きしめていた腕をゆるめ、体をなでた。
緊張した筋肉を彼女が撫で、何のためらいもなく下腹に触れる。
そこは言い訳のしようもないほどに固く屹立していた。
「カチカチで、温かいね…」
「いや、それはその…」
「お父さん言ってたね。『好きな人を温めたいから、そうなるんだ』って」
私が言い訳する前に、チョモはそう解釈した。
「チョモでこんなにカチカチで温かくしてくれて、ワタシ嬉しいね」
間違ってはいないが少しだけずれたチョモの解釈に、私は何とも返せなかった。
下手に彼女を拒絶すれば、チョモが悲しむであろうことは容易に想像できるからだ。
「タイチョさん、上にのっかるね…」
チョモは私の屹立から手を離すと、私の上に乗ってきた。
彼女の両足が私の腰をまたぎ、胸の上に彼女が身を伏せる。二枚の薄いシャツ越しに、彼女の乳房が私の胸を圧迫した。
「チョ、チョモ…」
「こっちの方がもっと温かいね…お父さんとお母さんもこうしてたね」
太腿の間に屹立を挟み込みながら、彼女はそう言った。
おそらく、両親の情事をのぞき見てしまい、後で言いくるめられたのだろう。
しかし彼女の無邪気な好意は、私の劣情を煽り立てていた。
「チョモ…よく聞いてくれ」
太腿に挟み込まれた屹立の感触に身悶えしながらも、私は呻くように弁解した。
「温めあうためにこうやって抱き合うのは…君の村では当たり前かもしれないが、その…私には辛いんだ」
「どうして?タイチョさん、ワタシのこと嫌い?」
「ち、違う…だがこうやって抱き合うのは…夫婦にしか許されてないことで…」
「ワタシ、タイチョさんと夫婦なりたいね」
必死に絞り出した私の言葉に、チョモはそう応じる。
「タイチョさんと夫婦なって、タイチョさんの子供たちと一緒に温まりたいね」
「チョモ…」
彼女の紡ぎだした好意に、私の心はなびきそうになった。
「っ!いやだめだだめだ…」
毛布の下、彼女の体を抱きしめようとしていた腕を押さえ込みながら、私は首を振る。
「チョモ、君の好意は嬉しいけど、私と君はほぼ行きずりだ。そうやって簡単に好きだとか男にいっては…」
「だったら、タイチョさんが私のこと好きになるようがんばるね」
そう言うと、彼女はひょいと私に顔を近づけ、唇を重ね合わせていた。
余りに自然な動きだったため、私には顔を背ける隙もなかった。
「っ!」
驚きに呼吸が一瞬詰まるが、彼女は唇を離した。
「タイチョさんの国では、好き同士でチュウするって聞いたね。これでタイチョさんとチョモ、好き同士ね」
私は悟った。彼女は本気で私のことが好きなのだ。
一目惚れなのかもしれないが、彼女は自分を捧げてもいいほどに私に対して好意を抱いている。
私の心の奥底に、小さな火がついた。
「チョモ…!」
私は彼女の名を小さく呼ぶと、その背中に腕を回し、抱き寄せながら彼女と唇を重ねた。
「んっ…!」
チョモは驚きに小さく声を漏らしながらも私のキスに応じてくれた。
彼女の唇が私の唇を軽く挟み、舌先同士がふれあう。
彼女の唇は温かく、柔らかかった。
「ぷは…」
唇が十分に熱を帯びたところで、私は彼女から顔をはなし、あえぐように空気を求めた。
「タイチョさん、もっと温かくなったね…」
キスだけで高まった興奮により、熱を帯びた私の体を撫でながら、チョモが言う。
「私のこと、もっと温めてほしいね…」
我慢する必要はない。私は彼女の言葉をありがたく受け入れ、その体を抱き寄せた。
「ん…!」
彼女の背中と腰を両腕で抱きしめると、その柔らかな胴が私の胸や腹に押しつけられ、乳房の圧迫感が増した。
無論、彼女の太腿に挟まれていた屹立も、彼女の両足の付け根にいっそう押しつけられることとなる。すると私は、彼女のそこが熱を帯びているのを感じた。
彼女の言葉を借りるなら、チョモがそれだけ私のことを好いているということだ。
「チョモ…」
「あっ…タイチョさん、熱いね…!」
彼女の名を呼びながら小さく腰を動かすと、チョモは声を漏らした。
両足の付け根を下着越しに肉棒がこすられる感触が、彼女の体温を高める。
「タイチョさん…!」
「ん…」
チョモが私を呼び、再び彼女と唇を重ねた。今度のキスは唇だけでなく、頬や鼻先などを交互に吸い、顔の熱を確かめあった。
一方毛布の下では、彼女の背中や二の腕の温もりを味わおうと、私の両手が動き回っていた。
最初の内は肌着越しに撫でていた手のひらも、布一枚の隔たりがもどかしく感じられ、いつしか肌着をめくりあげて直接その背中に触れていた。
彼女の肌は滑らかで、指を埋めてようやく骨の感触が感じられる程に柔らかかった。
そして彼女自身が帯びた熱のためか、その柔らかな肌にうっすらと湿り気が生じた。汗ばみは私の指の滑りをよくし、彼女の背中の感触をより強く感じさせた。
「タイチョさん…もっと、強く…!」
唇を離してチョモが求める。私はそれに応じ、背中への愛撫を止めて腕で抱きしめた。
「ん…!」
チョモが小さく声を漏らし、腰を揺すった。
すると、太腿に挟み込まれた肉棒が腰の動きにあわせて揺れ、内ももの軟らかな肉と、下着越しの女陰が屹立を擦った。
心地よい。
汗以外の何かで湿り気を帯びた女陰との摩擦は、私の肉棒をいっそう屹立させ、力強く脈打たせた。
「タイチョさん…」
チョモが呼吸を乱れさせながら、私を見る。
「タイチョさん、温かいね…私も温かいね…でも、私まだ冷たいところあるね」
「どこだ?温めてやる…!」
「おなかの中、温めてほしいね…!」
毛布の下の彼女の腕が動き、股間を覆う下着をずらした。
私とチョモ、二人を隔てていた二枚の布が取り払われ、彼女の熱が直接感じられる。
「タイチョさんの熱くてカチカチで、チョモの中温めて…!」
彼女の求めに、私は腰を持ち上げて応じた。
濡れそぼつチョモの女陰に、私の屹立がぬるりと入り込んだ。
「あ…!」
原の中に入り込んだ屹立に、彼女が声を漏らす。
だが、私の方も声を上げそうになっていた。冷たい冷たいと言いながら、チョモの胎内はこちらが熱く感じるほどに熱を帯びていたからだ。
これではどちらが温められているのかわからない。
「タイチョさん…!」
彼女は私の背中に手を回し、ぎゅっと私と抱き合った。
そして私もまた、彼女を抱きしめ返していた。
「チョモ…!」
互いに互いを押さえ込んでいるため、体を動かす余裕は全くなかった。
だが、それでも屹立の脈動と女陰の締め付け、そして接する肌同士で交わされる熱が、私とチョモを高めていった。
ただ温もりを分かちあい、互いに注ぎあい、高まっていく。体温を共有するだけで、私たちは互いの興奮を高めていった。
「チョモ…!も、もう…!」
やがて私に限界が訪れ、彼女の胎内で屹立が脈打ち始めた。
「タイチョさん、出して…!チョモの一番奥まで、温めて…!」
チョモが私にしがみつき、肉棒を締め付けながら声を上げる。
そして私は、彼女の求め通り肉棒から精液をほとばしらせた。
興奮により、煮えたぎるような熱を帯びたそれが、彼女の膣の奥底をたたく。
「んぁ…!」
屹立をただ挿入して抱き合うだけでは触れきれなかった膣底への刺激に、チョモが声を漏らした。
やがて、彼女の胎内で屹立の動きが弱まり、射精の勢いが小さくなる。
そして、私は全身を弛緩させていた。
「はぁはぁはぁ…」
長く続いた射精の疲労感に、私は呼吸を乱れさせた。
「タイチョさん…」
絶頂の余韻に浸っていたチョモが、小さく声を紡ぐ。
「とっても、温かかったね…ワタシ、おなかの中まで温かいね…」
言葉に幸福感を滲ませながら、彼女はそう言った。
「でも、タイチョさんワタシのこと少し嫌いになった?」
「はぁはぁ…そんなわけ、ない…」
「でも、少しタイチョさん柔らかくなったね」
射精して少しだけ萎えた屹立に、彼女は悲しげな表情を作って見せた。
「これは…ん…!」
私は少しだけ気合いを入れると、萎えた肉棒に意識を集中させて勃起した。
とはいっても、まだ熱くぬめるチョモの胎内にあるおかげで、たやすく屹立する事ができた。
「また固くなったね…これでもっと温めてもらえるね」
チョモは目を細めると、嬉しそうに続けた。
「タイチョさん、好きね」



それから数日後、私とチョモは雪山を歩いていた。
奥地を目指す道ではなく、山を下りるルートをたどっていた。
あれから毎晩、夜はテントでチョモと温めあっていたため、ほとんど昼間の調査が進まなかった。だが、調査失敗にも関わらず、私の心は晴れやかだった。
「それで、タイチョさんどうするね?」
荷物を背負ったチョモが、私に問いかける。
「ワタシと一緒に村に住むね?それともワタシがタイチョさんの家に行くね?」
「とりあえず、私の家を片づけよう。それからチョモの村に住むんだ」
そう、捜し物などどうでもいい。雪山の未発見生物など、いずれ誰かが見つけてくれるだろう。
それよりも大事なものが、私にはできていた。
「タイチョさん、本当にそれでいいね?」
いくらか言葉に不安を滲ませながら、チョモが問いかける。
「ワタシのことを考えてくれるのは嬉しいけど、ワタシのために夢をあきらめてほしくはないね」
「大丈夫だ、チョモ」
ワタシは彼女に向けて続けた。
「君と一緒にいれば、いつかイエティなんて見られるさ」
そう、夢はいつか叶う。だから、彼女と一緒にそのいつかを待とう。
それが私の結論だった。
「イエティ?」
不意に、チョモが私の紡いだ単語を繰り返した。
「ワタシたち、ほかの町の人からそう呼ばれてるね」
「イエティって?」
「そうね」
どうやら、その時は以外と近くにあったらしい。
13/05/27 23:02更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
イヌイットの集落では、夜間裸で抱き合って温めあいながら眠るそうです。互いに温めあうことで夜間凍死の危険を減らす為だとか。
イエティさんも体温高そうだから抱き枕すると温かそうですね。
そしてイエティさんは若干汗かき気味泣きがしますから、マフラーとか相当なフレグランスなんでしょうね。
こう、後ろから口と鼻をマフラーで押さえ込まれたら、イエティスメルで仰け反りながら勃起しそうです。

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