連載小説
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第十二話 「故郷が懐かしいかしら?」
 膝枕というのは良いものだ。
 それも朝っぱらから恋女房の膝でグータラするというのはこの上ない贅沢だ。まあまだ式は挙げていないが、こいつもまさか今更嫌とは言わないだろう。親父殿も俺に悪い印象はないようだし、事が片付いたら挙式しよう。

 それにしても宿の浴衣を借りたが、ナナカの浴衣姿はなかなか似合っている。一番素晴らしいのはうっかりすると胸がポロッとこぼれそうになっていることだ。下から掌で軽く叩いてやると、鞠のように大きく跳ね上がる。ナナカは慌ててそれを手で押さえ、俺に向けて口を尖らせた。

 一時とはいえ、平和な時間だ。空襲警報なんて鳴らない。だがもしここに戦がやってきたら?

「よっ……」

 腹筋に力を入れて起き上がる。するとナナカが後ろから抱きついてきた。大きな膨らみが背中に押し付けられる。続いて頬を摺り寄せられた。懐いた犬猫のように。

「どうした?」
「……くっつきたいの」

 ナナカは楽しげだ。やはりこいつは可愛い。昨日一線を越えたため、もう互いに気兼ねなく乳繰りあえるというわけだ。それはつまり、俺に死ねない理由ができたということでもある。単なる意地ではない、明確な理由が。
 拳銃はあるし、海軍でも銃剣術などは教わった。もし教団が攻めてきても、ここの侍たちの手助けくらいはできるだろう。最低限、ナナカを守らねばならない。そして俺も死んではならない。今となってはもう帝国海軍の軍人ではないが、戦うべきときは戦ってやる。

 だが今は、ナナカとのんびり過ごしてもいいだろう。
 乳へ手を伸ばそうとしたそのとき、障子がさっと開け放たれた。ナナカが驚いて離れる。

 現れたのは意外な男だった。顔の左半面を青あざが覆い、鋭い眼光が異様な風貌を作っている。彼……ルージュ・シティの仕立屋は俺に向けて、手にした白い服を突き出した。

「届けに来た」







 ……この世界の洋服を着ることに不満はない。だがフィッケル中尉がドイツ空軍のコートを着ているのを見ると、やはり祖国の軍服が懐かしくなった。張り合うわけではないが、やはり帝国海軍の白い軍服を着て、肩で風を切って歩いてみたかった。しかし飛行服と千人針、フンドシと拳銃以外は祖国へ置き去りだ。
 そこでコルバが紹介してくれた仕立屋に、第二種軍装の姿形を伝えて模造品を注文したのだ。オーギュ・リベルテというその男は、言葉の節々に職人としてのプライドが感じられた。できる限り正確にイメージを伝え、採寸をしてもらい、出来上がりを楽しみにしていたのだ。こんな非常事態になってしまっても、転送魔法とやらでわざわざ届けに来るとは義理堅い男だ。

 そしてその出来は見事なものだった。細部は微妙に異なっている気もするが、パッと見て日本海軍だと分かる。しっかりと寸法を取って作っただけに動きやすい。
 軍帽も作ってもらった。俺はあまり絵が上手くないので正確に伝わらず、さすがに前章の絵柄は少し違う。まあこの世界の仕様だと思うことにしよう。

「ナナカ、似合うか?」
「うん。カッコイイ……」

 嫁も優しく微笑みながら、そう評価してくれた。後は何所かで短剣をあつらえるか。腰の飾りにすぎないから、ナナカも作ってくれるかもしれないが。

「……あんたらの世界の軍服は良いデザインだ」

 オーギュは服の出来を眺め、呟く。無愛想な男だが、仕事をやり終えて満足げだ。フィッケル中尉の軍服や俺の飛行服にも興味を持っていたし、何か琴線に触れるものがあったのだろう。俺の拳銃がデカすぎるだの無骨だの、コーディネイトに合わないだのと文句を言ってはいたが。
 ルージュ・シティの職人たちの中でもこいつは最古参で、周囲から尊敬を集めている。ナナカも彼のことは褒めていた。ただ仕事に熱中しすぎる癖があり、よく女房を困らせているようだ。

「では失礼する。妻を生地屋で待たせているからな」
「おう、ありがとうよ」

 用を済ませた途端、仕立屋はとっとと退室した。忙しい奴だ。だがあの野武士のような雰囲気が、どことなく信頼できる。
 足音が遠ざかっていく中、あることに気づいた。昨日俺たちを案内してくれた角井という侍は、今日領主に会わせると言っていた。あの後宿の女将を通じて、今夜料亭で会おうと伝えられた。

 俺は幸いにして第二種軍装が間に合ったから、この格好で行けばいい。だがナナカが問題だ。相変わらず、皮を胸に巻きつけて半ズボンを穿いただけの格好をしている。そりゃ胸の谷間やらへそやらが見えて結構だが、偉い人にお目通りするような姿ではない。ルージュ・シティの領主は顔見知りのようだったから良いが、今度は違う国だ。

 これは何とかせねば。幸いカレー屋で結構儲かったので、金はそれなりにある。

「ナナカ、服を買いにいくぞ!」





 ……こうして俺たちは万怪昼行の町へ繰り出した。
 この国は江戸時代の日本と同様、服は生地を買って仕立屋か家族に作らせるのが普通で、新品の既製服はかなり高価らしい。今夜までにはとても間に合わない。宿の女将に尋ねたところ、女郎蜘蛛がいる古着屋を勧められた。元は上等な着古しをバラして仕立てなおし、それなりの一品にして売っているとのことだ。

 ナナカは服へのこだわりはないようで、俺に恥をかかせたくないという気持ちの方が強いらしい。だが和服姿のナナカもなかなかオツなもんだと予想する。

 店はすぐに見つかった。通りに蜘蛛型の看板が出ているので分かりやすい。
 入ってみるとなるほど、良さそうな古着が並んでいる。使い込まれた感はあるが破れなどは見当たらず、堂々と着て歩けるものが揃っていた。

 俺たちが暖簾をくぐったすぐ後、奥座敷から件の女郎蜘蛛が姿を現した。ルージュ・シティでも同じような蜘蛛の魔物は見た。こちらは蜘蛛の下半身が黄色と黒の外骨格で覆われており、ヒトの上半身には紫の和服をしっかりと纏っている。

「いらっしゃいませ。どのような物をお探しでしょうか」

 柔和な笑みを浮かべて訪ねてくる、蜘蛛の女将。ちらりとナナカに視線を向けたあたり、こちらの望みはもう察しているようだが。

「こいつに似合う着物が欲しいんだ。手ごろなところで、襦袢と帯も見繕ってくれ」
「まぁ、やっぱり。では丁度良いのがございますよ」

 くすりと笑い、女郎蜘蛛は箪笥の引き出しを開けた。色とりどりの着物が入っている中から、赤い生地の物を取り出し、手際よく広げてみせる。古着なので色は鮮やかとは言えないが、状態は良さそうだ。柄は小さな白と金の鈴。

 ナナカは物珍しげに、そして怪訝そうにその着物を見ている。大きな一つ目が俺にもチラチラと視線を送ってくる。自分がこのような服を着ることが想像できないのか。

「青い肌のお方には赤や桃色が似合うかと。これなら裄丈も合うはずです」
「うん、よさそうだな。これがいい」

 ナナカに選ばせると遠慮ばかりして話が進まないだろうから、さっさと着せてしまおう。
 帯、襦袢を含めた値段を尋ねると、女郎蜘蛛は思案しながら算盤を弾いた。女だてらに慣れた手つきで玉を弾いている辺り、ここも大分女性の社会進出が進んでいるようだ。反魔物側はどうだか知らないが。

 出た見積もりはカレー屋の儲けで十分払える額だった。了承すると、彼女はナナカを奥の試着室へと連れて行った。
 入っていくときは少し不安そうに振り返っていたナナカだったが、しばらくして出てきたときにはしっかりと着物姿になっていた。

 よく似合っている。
 女郎蜘蛛の言う通り、サイクロプスの青い肌に赤い生地がよく映えていた。首元から見える襦袢は桃色、帯は白地に菱の模様が入った袋帯だ。着物が割と派手な分、付属物は控えめな色合いにしたのだろう。着物の赤色が若干燻んでいるのが、逆に落ち着きを出している。

 ここの亭主は元々履物屋だったらしく、店には雪駄も置いてあった。これも手頃な物を選び、服と一緒に代金を支払った。足袋はオマケしてくれた。

 全て身につけさせ、見事な和服美人が出来上がる。女郎蜘蛛曰く、彼女たちにしか分からない技術があるとかで、巨乳でも不恰好にならない和服を作れるらしい。普通なら乳が帯に乗る形になり、その重みで帯がずり落ちたりするため、胴回りに綿を詰めたり、胸をサラシで押さえたりするそうだ。
 だがこの着物はナナカの立派な胸を損なうことなく、体の輪郭も崩さず、それでいてバランスを取れている。俺も服のことには素人だが、凄い技術なのだろう。

「綺麗だぞ、ナナカ」
「……ん」

 もじもじと気恥ずかしそうなナナカだが、褒められると満更でもないようだ。肩を叩いてやると嬉しそうに腕に抱きついてくる。祝言前にファーストナイトやってから急に甘え上手になった。丁度腕が胸の谷間に挟まれて良い具合だ。

「似合うかな?」
「おう、似合ってる似合ってる」
「……ジュンが言うなら、そうなんだね」

 自分の中で何か納得したらしい。そんな俺たちを見て、女郎蜘蛛が愉快そうに笑っていた。

「お二人こそ、お似合いですわね」




 ……さて。

 服は調達できたので、後は夜まで適当に時間を潰すとしよう。ここもルージュ・シティと同じく、様々な魔物と人間が入り乱れて暮らしている。他に日本と違うところと言えば、女の身分くらいか。どう見ても女なのに二本差して歩いている奴や、十手を差している奴もいるくらいだ。女の力が強い世界だからこそ、魔王もそれを利用しようと考えたのかもしれない。
 とにかく町は賑わっている。馬に乗って歩く者もいれば、武士の身なりをしたケンタウロスもいた。顔立ちは東洋系なので、この国の血統なのか。同じ魔物でも個体差は大きいようだ。

 と、すると。ナナカの母親はどんなサイクロプスなのだろうか。
 そんなことを考えたとき、彼女が袖を引っ張ってきた。指差す先には食べ物の屋台。職人の手の動きで寿司だと分かったが、ナナカが示したのはそれではない。その屋台の側で見慣れた二人組が立ち食いしていたのだ。

「フィッケル中尉! 姫様!」

 声をかけつつ走り寄ると、二人も振り向いた。フィッケル中尉は相変わらずドイツ空軍のコートに制帽、騎士鉄十字章という出で立ちだが、レミィナ姫の方はナリが変わっていた。和服を着ていたのだ。黒地に蓮華の模様の入った浴衣で、丈がやたらと短い。膝まである靴下と裾の間にふとももが見えている。だが似たような服装の魔物を何人も見たので、この国では珍しくないのだろう。魔物は動きやすい服装を好むようだ。

「やあ、飛曹長。軍装が出来上がったか」
「ええ。これで大手を振って歩けます」
「出来上がったのは服だけじゃなさそうね」

 ナナカをちらりと見て笑う姫様。さっきからずっと俺にぴったりくっついたままだ。照れ隠しなのか余計に強く抱きついてきて参ってしまう。特に乳が当たってひしゃげている感触が。

「いやはや、お陰様で。お二人もこちらにいらしたとは。……ナナカ、俺たちも食おう」

 屋台の前に行き、四角い容器に並んだ寿司を物色する。ナナカは初めて見るであろう料理を物珍しげに見つめていた。中尉はアナゴ、姫様はヅケらしき物を食べている。シャリの大きさは握り飯くらいの立派なものだ。日本人としては米飯がたっぷり食えるのが嬉しい。
 日本と違うのは女が握っていることだ。昨日の籠屋と同じ青鬼である。目が二つあることを除き、見た目はナナカとあまり変わらない。手際よく寿司を握って並べているあたり、大分修行したらしい。

 並んでいるのは5種類ほどだが、変わった寿司もある。橙色というか桃色というか、あまり見慣れない色気の魚が乗っていた。

「これはなんの寿司だい?」
「酒……じゃない、鮭」

 青鬼はぶっきらぼうに答えた。なるほど、確かにサケの色だ。しかし所変われば品変わるとは言うが、サケを寿司にするとは。普通は生で食べると腹を壊すが。
 俺の考えていることが分かったのか、青鬼はちらりとこちらを見た。

「うちのは妖力で虫を殺してるから大丈夫。……食ってくれとは言わない。嫌なら止しな」

 無愛想な女だ。面白い、食ってやろう。
 一貫引っつかんで食いつく。酢飯の香りが懐かしい。鮭の身の方はなかなか脂が乗っていて、まろやかな味だ。江戸っ子はトロのような脂っこいネタを嫌ったというが、ここでは違うようだ。

「うん、美味いな」
「だろ」

 淡々と寿司を握り続ける青鬼だが、満更でもなさそうだ。
 ナナカが選んだのはエビ。なかなか大きなエビで食いごたえがありそうだ。代金を払ったとき、フィッケル中尉たちはすでに食い終わっていた。

「我々は今朝こちらへ来てね。前にも姫と二人で来たが、なかなか良い所だ」
「ええ。江戸時代の日本とよく似ています」
「そうらしいな。サムライというのも初めて見た」

 邪魔にならないよう屋台から少し離れつつ、立ち食いする。西洋人がどの程度日本を理解しているかは甚だ怪しい。捕虜の話を又聞きしたが、アメリカ軍のパイロットは開戦前、日本人は全員近視でパイロットには不向きだと思い込んでいたという。
 ただフィッケル中尉には潜水艦乗りのお兄さんがいて、太平洋で戦っていたそうで、その手紙などから日本海軍のことをある程度知っていた。また日独の同盟を宣伝する映画も見たと言っていた。俺も話には聞いたことがある。

 中尉が正直に語ったところによると、ナチ党はアジア人を差別しており、日本人も例外ではなかったそうだ。ところが日本と同盟を組むことになったので、日本人の印象を良くする映画を作り、同盟について国民の理解を得ようとしたらしい。
 中尉は軍人の誇りと騎士道精神を持ってはいるものの、どうも反政府主義者らしい。彼はその映画製作を「掌返しの国策」と一蹴していたが、映画自体の内容は評価していた。ただ話を聞くに、金閣寺の背景に富士山が映っていたり、東京に厳島神社があったり、かなりいい加減だったようだ。

「故郷が懐かしいかしら?」

 姫様が尋ねてきた。ナナカに不安そうな眼差しを向けられ、思わず苦笑する。

「懐かしいけど、帰っても絞首刑にされるだけですから」

 焦土と化した祖国でも、当然懐かしさはある。今後どうなるか心配でもある。若手の士官たちが無茶をやらずに生き続けてくれればいいが。
 どちらにせよ、俺は帰れないし、帰らない。
 
「国が降伏した後に敵と戦ってしまいまして」
「私も似たようなものだ。アプヴェーアの仕事を手伝ったとき、国際法違反もしたからな」

 敵国のマークを書いた飛行機でスパイを輸送するなど日常茶飯事だった……中尉は平然とそう語る。この人は任務中にこの世界へ迷い込んだと言っていたが、その『任務』とはどのようなものだったのか。ただ自国の政府を貶す割に、そのアプヴェーアなる諜報機関には好意的なようでもあった。

「結局、ここで生きるしかない。死ねない理由もできた」
「ええ、その通りです」

 中尉が姫様を抱き寄せたので、俺もナナカに同じようにした。姫様は微笑んでキスをしていたが、ナナカはポーッとした様子で眼を細めている。大きな単眼がとろんとしているのが何とも可愛い。

 だが恋女房を愛でてばかりもいられない。諜報組織の名が出たので思い出したが、レミィナ姫やルージュ公は教団にスパイを潜り込ませているという。その活躍如何で、俺たちの今後の動きも変わってくるのだ。姫様から直接状況を聞きたいが、真昼間の街中で話せることではない。どうしたものか。

 思案していたとき、辺りがざわめき始めた。そして整然とした足音も。
 弾かれるように振り向くが、やってきたのは軍隊ではなかった。女の集団だ。ただし竹刀やタンポ槍で武装し、白鉢巻をした女たちだ。狐や狸、河童、鬼など、様々な魔物がおり、人間らしい者も含まれている。総勢二十人程か。

 先頭に立つのは白蛇の妖怪だ。透き通るような白肌の美人だが、赤い眼を見るとぞっとした。その眼差しにあからさまな怒りが見えたのだ。今まで見た魔物とは違う。先ほどの寿司屋みたく無愛想なのはいても、あそこまで憤怒を露わにしている奴を見たことがない。道行く人々も怖い者見たさで行列を見物しながら、「本当にやるのか」「もう一生見られないだろうな」などと小声で話し合っている。

「うわなり打ち、うわなり打ち……」

 掛け声が響き、ピンと来た。

「へぇ、うわなり打ちなんてやるのか」
「……知ってるの?」

 ナナカがきょとんとした顔で尋ねてくる。こいつが知っているわけはない。日本でも徳川の世に廃れた習慣だ。野次馬たちの反応を見るに、この国でも相当珍しいようだ。

「日本でも二百年以上前にはやってたらしいんだがな。離縁した亭主が再婚したとき、遺恨があれば先妻が後妻を懲らしめることが許されていたんだ」

 説明してやると、隣で聞いていた中尉が眉を顰めた。

「あの人数で後妻を袋叩きにするのか?」
「いえ、日本の作法と同じなら、使者を送って宣戦布告してるはずです。後妻が受けて立つつもりなら、味方を集めて待ち構えてるはずですよ」
「どっちにしろ、魔物がやることじゃないわ」

 そもそも離婚しないから、と姫様は言う。確かに俺もそう聞いていたが、中には例外もあるということだろうか。

「うわなり打ちでも何でもないよ、あれは」

 口を挟んできたのは寿司屋の青鬼だった。呆れたような表情でネタを切っている。寿司を買おうとしていた客の意識が行列の方に逸れてしまい、大分不機嫌なようだ。だがそれとは別に事情を知っているらしい。

「自分の双子の姉貴を打ちに行くんだからね」
「そりゃまた、どういう?」

 尋ねつつ、銭を置いてヅケの寿司を取る。食べてみると新鮮な赤身で、出汁醤油がよく染みている。酢飯も上等な米を使っているし、握り方も硬すぎない。すぐに一貫食い終わってしまい、ナナカから小声で「またお腹壊さないでね」と釘を刺された。
 青鬼は少し気を良くしたのか、ふくよかな胸の前で腕を組み、息をついた。

「亭主が悪いんだよ。姉貴の方と結婚することに決まってたんだけど、前の日に酔っ払って間違えて、妹の方と寝ちまった。祝言は予定通りにやったんだけど、妹の方は『自分が先に寝たんだ』って……」
「ああ……」

 姫様は納得したようだ。要するに男を巡っての姉妹ゲンカということか。元々姉の結婚相手に想いを寄せていたのかもしれない。基本的に魔物は他の女の相手には手出ししないというが、ときには魔物同士妥協して一夫多妻となることもあるらしい。だが今回は嫉妬深いという蛇の魔物……一筋縄ではいかないだろう。間違いごとがなければ諦めて新しい出会いを探しに行ったかもしれないが、一夜を共にした相手は魔物にとって特別な存在になる。ナナカを見れば分かることだ。

「様子を見に行きましょう。放っておけないから!」

 姫様は歩き出した。お節介焼きなことを言いながらも、楽しげに。

 フィッケル中尉が頭を抱えていた。



20/01/02 01:58更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
寿司について
元々は「すし」と言えば「なれ鮨」だったが、江戸時代初期に「握り寿司」が生まれた。
当時は今より遥かにサイズが大きく、大正・昭和期には少し小さくなったようだが、それでも現在の寿司よりは大分大きい。
戦前までは屋台で立ち食いが主流で、江戸時代の代表的なファーストフードだった。
なお鮭は生だと寄生虫の危険があり、現実の日本で鮭の寿司が生まれたのは1980年代、ノルウェー人が衛生管理の行き届いた養殖方法を確立し、日本に売り込んでからのこと。
去年になってノルウェーの鮭がヤク漬けでダイオキシン汚染されてて危険だとかいうガセネタを流した馬鹿がいたけど、そういう輩はノルウェー国王の前で土下座するか、天然モノの鮭食って中ってしまえばいいのに(昔から危険がなかったとは言わないが)。
ちなみに今では定番の『軍艦巻き』は1941年に初めて作られた(同年12月に太平洋戦争勃発)ので、1945年8月から来た順之介が知っているかは微妙(休暇のときに食べられていれば或いは……)。


……さて。
長々とお待たせしてしまいました。
いや、待っていてくれる人いないか?
まあ言い訳はせず、それならそれで再出発を図ります。
幸い終わりまでの見通しはついたし、短編を織り交ぜながら更新していきます。
ペースはゆっくりになると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

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