連載小説
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後編
「だいて、ください」

彼女の申し出からどれだけの時間を浪費していたのだろう。
酷く、ひどく長い間、思い悩んでいたような、
それとも、未だためらいが捨てきれないふりをしてみせていただけだったのか。
ずーっと、ずーっと、浅ましく張りつめたモノをさらけ出したまま立ち竦んでいた私が、
どうにか搾り出したのは、音量も声音も文字通り蚊の鳴くような懇願だった。
我が事ながら、立場も見た目も台詞も行動もブザマとしか言いようがない、それなのに。
眼前のサキュバスは、私が道ならぬ想いを抱いていたあの人の、
私が思い描いていた都合のいい写し身であるかのように。
まるであの人のようにいたずらっぽく、瑞々しい色香を垂れた目元からしたたらせて。
あの人がしてくれていたように、親しみとからかいを込めたのか必要以上にかしこまって。

「求めるのなら、与えましょう。それが私達の務めですもの、ね」

おいで。

一転、子供をあやすようにささやいた魔性のシスターは、
桜色の唇でやわらかく弧を描いて、両手をひろげて見せてくれたのだった。
左の口許のほくろと、唇の狭間から覗いた長い犬歯の先端が、酷くまぶしく、蠱惑的だった。

――やっぱり違うんだな。でも、同じくらい、素敵だ。

その呟きは、気づけば私のそれらを貪る唇と舌に絡め取られ。
目の前の彼女に重ねていた、いとしい姉の虚像を巻き込んで。
濡れた粘膜から伝わり、私の頭と胸を煮立てて溢れた熱に浮かされて、
跡形も無く揮発したかのように見せかけて、
下腹で息づくちっぽけな獣欲の権化を、ますますいきり立たせるのだった。




熱く、やわらかく、甘い。
五感のすべてが、粘膜から身体の芯までを焼き尽くすような快楽と充足を伴って、
そう叫んでいました。
腕の中の彼がいだく、ぬくもりと若い精の香りのせい?
不安そうに揺らぎながら、ちゃんと欲情に濁りきった灰色の瞳のせい?
修道服越しにコリコリとお腹にめり込んでくる、かわいらしい肉のすもものせい?
それとも、拙いながらも必死な舌使いの合間に漏れる、鼻にかかったあえぎ声のせいかしら?

――まあ、それら全部、ですよねえ……

唇から唾液のカクテルを舐めとって、私は慈母の笑顔を浮かべてみせました。
いや、だらしなーくユルんだ顔も、獲物にかじりつく寸前の飢えたケダモノの顔も、
見せたらどっぴかれちゃいそうですからねぇ……。
頑張れ私の表情筋、せめてこの子の赤ちゃんのモトが、お腹に根を張るまでは。
……さて、下拵えついでのつまみ食い……じゃなくて、
仔羊への奉仕(ほしょく)の準備を続けましょう。 性職者として、メスオオカミとして。

女の子めいた悲鳴が快く耳朶をくすぐるが早いか、
私の手の中にすっぽり納まった熱い肉の蛇口が、
今すぐにでも爆ぜたそうにひくひくして……あ、やべ。 もうダメっぽい。

せつなそうな謝罪の言葉と同時に、右手から飛び散ったオスの体液が描いたのは、
私の胸の谷間の底からおヘソの辺りをつなぐ、途切れ途切れの白いラインでした。
堕落神を信仰する女として、これは悦ばしく誇らしいことであり、
そういう気持ちがないこともないのですが、その……もったいないなあ……。
と、最後の部分は口にしてしまっていたのでしょう、
リピートされた謝罪の言葉は、今にも泣き出しそうに萎れてしまっていました。
まるでしょげてしまった仔犬のような様子に、胸の先と下腹部の奥で疼きが強まります。
ただ、その疼きで笑顔を歪ませないように気をつけないと……ダークエルフじゃあるまいし……

「気にしないでくださいね? 堕落神の信徒(わたしたち)はお互いの欲情の証、
 体液にまみれながら求め合うことこそ望ましいんですから」

濡れた右手を口に運べば、えっぐい苦味と塩辛さに引き立てられた、
魔物のみが愉しめる精の妙味が口の中いっぱいに広がりました。
思わず表情が綻ぶのは、きっと初めて味わう活きた精が、
早くも身体に馴染んできた証なのでしょう。
目の前の小柄でかわいらしい男の子から、今しがた手ずから搾り出したという事実も、
魔物の捕食者としての本能を満たして、満足感を増幅させているようです。

――義姉さんの言うとおり、あのおクスリは味気ないどころじゃありませんね……。

瞬きひとつで、六年間お世話になった、精を摂取する為の秘薬にお別れして、
空いていた左手でぷりぷりしたタマタマを撫で上げつつ、
私は、ほのかに唾液臭くなってしまった右の手のひらで口元を隠しました。
そうでもしなければ、綻ぶどころか歪み崩れてしまった笑顔で、
この子を怖がらせてしまいそうですもの。 まーた鼻血出ちゃいそうですしね……。

あー、それにしても、この子のタマちゃんはいいなあ……。
見た目がカワイイ・二回目の射精でも味も濃さも量も変わらない仕事熱心っぷり・
指先から脳にまで癒しを伝えてくれるぷにっぷにのさわり心地・
何より触ってることで発せられる嬌声がえっち・
そしてせつなさにほんのり混ざった恐怖の表情がたまりませんわ、うへへへへへへ……

……怖がってる顔がたまらないとは言いましたが、潰しちゃうなんてひっどいことをしたいわけじゃありませんよ? かわいそうじゃないですか。


おちんち◯もお尻の穴もいっしょくたにいじくり回して「あひぃ」とか「んほぉ」って言わせるのはともかくとして。



……それはさておき、やっぱり、こっちの子も、かわいがってあげなきゃいけませんよね。

「はー、むっ
「ひあッ……」

二度の射精を経てからは直接に愛撫してあげていなかったというのに、
未だにおヘソにへばりつきそうなほどいきり立っていたこの子のおち◯ちん。
もう一回しゃがみこむが早いか、それを一気に根元まで頬張ってみせると、
明らかに甘やかさを増した嬌声が届きました。 実に耳に快いです。
そのまま唇と口蓋と舌で、射精の残滓と新たに溢れていた塩っ辛い腺液を
一滴残らずこそぎ落として嚥下。
フラつかないようにまんまるのお尻に手を添えて支えてあげながら、
まるで仔牛が母牛の乳を飲む時のように強引にしゃぶっていたら、
ほどなくして三度目の射精の気配が伝わってきました。

――早漏さんですけど、エラい連射っぷりですねえ……

喉を灼(や)く白いほとばしりが口内に満ち、たっぷり十(とお)は数えられる位の間、
キレイにお◯んぽをお掃除してあげてから、はしたなく大口を御開帳。
私の舌の上に泳ぐ、ぷるぷるした塊を見て、トロンと脱力していたあどけない顔が、
こぼれんばかりに灰色の目を見開いてから、羞恥のバラ色に染まっていくのがかわいいです。
喉に手を当てて口の中のものを飲み下して、再び口を大きく開いて見せると、
彼の顔はさながら熟れきったリンゴのよう。思わず笑みも深くなるというものです

「ごちそうさまでした、もう三度目なのに素敵に濃いですね
「……お粗末さまでした、それはどうも」

――ところで、お尻の穴をくすぐるのは止めてください。
――え。 気持ち良くないですか? 指の腹とか尻尾でスリスリって……。
――キモチワルいです。 といいますか、痛いです。 指の腹とか関係なしに。
――……ごめんなさい。

「やはりちゃんと舐めてあげてからの方が良かったかな……」
「汚いですよぅ、それに、その……。 う、ゔううううううう……」

頬どころか耳まで真っ赤になりながら、「キスしてもらう方が、いいです」とのリクエスト。
正直ないい子へのご褒美ということで、ほっぺたをむにむに揉みながら希望に応えてあげました。
ふぇ? ちょっぴり青臭い? それがいいんじゃないですか

「それにしても、暑くなってきちゃいましたね?」
「? あっ……うわぁ……」

白い襟巻(カラー)の下、うなじが露わになるように手を突っ込んで、
そこに拡がった空間に、ハート型に膨らんだ青い尻尾の先端を滑り込ませます。
腕を上げた際におっぱいが「だぷん」と弾むのがすこーし邪魔臭いですが、
この子がばっちり軌道を目で追ってるのが微笑ましいので良しとしましょう。
ただ、一瞬とはいえ、笑顔にヨコシマな気配を交えてしまったのは失敗でした。
対面の童顔が、まるで歴史書に出てくるガーゴイルを模したかのように
厳めしくこわばってしまいましたから。

じぃいいいいい……。

ハート型の底にある尖った部分が、修道服の背中についた金具をひっかけると、
私の尾は、巻きついたロザリオの鎖とファスナーにデュエットをさせながら、
ゆっくりとそれを引き下ろしました。
背中が露出するにつれ、お互いの顔からそれぞれ毒気とこわばりが潮の退くように
消えていくのには、半分は我がことながらどうにも可笑しいです。

「ごめんなさい、じろじろと、見てしまって」
「いえいえ。 目でも、顔でも、お口でも……」

――お手々でも、お◯んぽでも。
――私のおっぱい、味わい尽くしてくださいな

袖から抜いた腕で、薄い下着に包まれたそれらを持ち上げるように支えてみせると
しなびかけていたお◯んちんがまたぞろ鎌首をもたげてきているみたいでした。
ちなみに持ち主の方は、まるで苦虫を噛み潰した瞬間に、メドゥーサに睨まれてしまったかのよう。
ただ、釘づけになった灰色の瞳からして、照れ隠し以外の何物でもなさそうです。
……もう我慢できないわ、色々と。

「うりゃ
「わぷっ!? ……んぐぅ!?」

糸切り歯を見せびらかすように吊り上がった口角と、
細いアーチ形に歪められた目つきを見られたくなくて、
私は彼の頭を抱え込んで、胸元に顔を押しつけてあげました。
おまけに腰にはカラスめいた翼から生えた鉤爪を巻きつけての二段締め、
いや、右脚を開かせるために巻きつけた尻尾も込みで三段締めでしょうか。
そのまま半回転しながらベッドにダイブしてみれば、
布団が二人分の体重を受け止めた愉快な音と、
床とベッドの脚が洩らした盛大な悲鳴が狭い部屋の中に響き渡ります。 耳いったーい……。

「私、痩せなきゃダメですかねー?」
「……その必要はないと思います」

うむ、よろしい。 いい子にはご褒美をあげましょう

念のため、先程のダイナミックベッドイン――冷静に考えてみれば、
彼の頭や手をぶつけたり、首を痛めたり、私の背中で腕を潰したりしかねない、
危険行為以外の何物でもありませんでした。 二度とやりますまい――で、
痛めた場所がないかの確認を取ってから、頭を撫でながら訊ねてみました。

「下着、とっていいですか? 脱がしてみたいですか…あッ

返答は、焼けた鋼もかくやと思わせる、私の股間にめり込む感触でした。
スカートも下着もお構いなしに、肉の呼び鈴ととば口を抉る若い情熱に、
一瞬頭の中が白く染まったスキに、腕の中の彼は顔をこちらに向けてくれたみたいです。
正直なところ、牝(メス)の呼び鈴を押したまま脈打つ牡(オス)の鉾先が、
まともに判断する力をだいぶ削ってしまっているようでした。
だって、この子の顔が、まるで音に聞こえたジパングの猟犬のような、
愛らしさと凛々しさを兼ね備えた表情で……

「やり方、教えてください」

前言撤回、この子はやっぱり素直でかわいいワンちゃんです。
そして、私が襲って食べちゃうべき獲物です。 がうがう。

「……下着の留め金、背中なんですよ。 ちょっとどいてくださいな?」

ついばむようなキスの後、苦笑しながらのお願いに応えてくれたようで、
そそくさと身体の上から心地よい重みとぬくもりが離れていきました。
脚の間にめり込んでいた熱く硬い牙が、透明な涙をひいて遠ざかっていくのに、
ちょっぴり罪悪感と寂しさを覚えます。

――すぐに慰めてあげますからね。

シミが増えた修道服の下で、牝の華が蜜をしたたらせているのが分かりました。
ああ、はやくあのおしべとひとつになりたい。 貪りたい。 実らせてあげたい。

――でも、その前に有言実行!しましょうか。

狭いベッドの上では、パートナーに背を向けるのも一苦労。
わずらわしい軋みに耐えて、どうにかあひる座りをしてみせれば、
しわの寄った薄い掛け布団の上に、黒い羽毛が数枚散っていました。
バランスをとるために、無意識のうちに翼を羽ばたかせた時にでも抜け落ちたものでしょうか。

「ごめんなさいね、羽、ちらかしちゃって」
「い、いいえ……」

あは、「それより早くおっぱい見せてよ!」って幻聴が聞こえてきそう……
なのに、背中に流していた髪を胸の前に持ってきても、
さらに荒くなった呼吸が聞こえてくるばかり。

しょうがないにゃあ……

「遠慮なく、触ってみてくださいな。
 背中の太い横帯、両手で内側に交差させるようにズラし……ッ

てください、と続けようとしたところで、敏感な素肌をかすめる、あたたかくやわらかい手の感触。
一瞬強くなった締めつけが瞬く間に消え去って、胸元にちょっとした解放感が訪れました。
ですが、そんなかすかな変化を楽しむ余裕は私にはありません。
何故なら。

「……くすぐったいんですか? 背中と肩」

無言でうなずきを返すくらいしかできませんよ、よよよよ……。
壊れ物を扱うかのように、繊細な指先は、鎖骨付近のラインをなぞって
ブラジャーの肩ひもをするりと肩口から落としてくれました。
おまけに痙攣する私の頭から、つば無し帽子もすってんころり。
……こういう形で痙攣したくないです、
オチるならこの子のちんち◯で子宮を堕とされる方がいいです。
え? もうオチてんだろですって? ……だいたいあってます

「気持ちいいが二割、くすぐったいが八割くらいですかねー……」

こっちなら、気持ちいい十割なんですけどね。

そうぼやきながら振り返って見せると、熟したリンゴのようなお顔と再度ご対面。
ひくりと上下するつつましい喉仏の動きに、思わず苦笑が零れてしまいました。

『…………』

重なる視線と沈黙、前者が向かう先はお互いの、本来は秘すべき充血部位。
すなわち、私のおっぱいのつつましやかな先端と、かわいらしい彼のおち◯ぽです。
多少の濃淡の差はあれど、どちらも桜色を帯びて硬く勃ちあがるその姿は、
きっと愛撫した者には至高の美味を、持ち主には甘くせつない快楽を味あわせてくれるのでしょう。
健康な異性の体臭に引き立てられた精の香りに燻されたためでしょうか、
それとも顔色以上に甘く熱いやわはだの息づかいが聞こえてしまったから?
私は頭のどこかで、見えない大切な何かが断裂するのを認識しました。
ああ、もうダメだわ、グリシーナもう限界です。
性職者の時間はもうおしまい、完全なメスオオカミにならせてもらいます。

「――――ひひ」

そう内心でホザき捨てた途端、私の目と口は三日月に歪んで。
まるで肉食獣が餌食の喉元に食らいつくかのように、彼の肩を抱き寄せて。
くぐもったうめきが胸元から聞こえるや否や、翼爪と尾を彼の腰に回してホールドし。
癖の強い金髪を愛でる手つきは、捕らえた獲物に対する味見とばかりに舐め回すかのよう。

「まずは吸ってみてくださいな……歯は、立てないでくださいね?」

取り繕う色が抜けたささやきは、慇懃かつ高圧的な命令になり下がっていました。

だというのに。

腕の中の男の子は、鼻にかかった甘え声で応えてくれながら、
唇で私の乳首をついばむように吸い始めました。
左胸の先端から背筋を伝って、頭の中に多幸感が膨らんでいきます。
目元からわずかにこわばりが薄れ、それとともに間の抜けた短い笑い声が
大きく開かれた口からぽんぽん飛び出してきました。
それは断じて、本来出てくるであろうハイエナの嘲笑ではありえません。

自分で慰めていた時とは比べ物にならないほどの甘美な痺れをともなった、
まるで赦しを請うかのような、ソプラノの嬌声でした。

やがて、嬌声にあどけないおねだりの喃語が紛れ込みます。
言葉にならない「右の乳首も吸わせてよ」というリクエストに、
ほんの少し翼と尾の戒めが緩みました。
発情期のネコのような悲鳴が漏れたのは、腰に回っていた彼の手が、
唾液で濡れた左乳をやわらかく揉みしだいたが故です。
ありがたいことに、こうして私の乳房は両方とも彼の虜にされてしまいました。

彼の満足げなうなりが、吸われている先端伝いに届きます。
糸切り歯を見せつけるように歪んだ笑みを浮かべる口許の形を例外に、
明らかに私は恍惚の表情を浮かべられているようでした。
ケダモノになり下がるはずだったのに、これでは私の方が食べられてしまっているみたい。
そんな感想が浮かぶにつれ、快感でほつれた意思がまたぞろ形をなして、自省しました。
……これじゃあダメよ、私のするべきことは何? 捕食(ほうし)でしょう?
とりあえず、彼のつむじをおとがいでこづいて、今度は私がおねだりです。

「ねえ、おちんぽ、おっぱいで、たべさせて?」
「――――ん」

私が「ごろん」とつぶやくのにあわせて、お腹を見せてくれた男の子は、
鼻から抜ける甘え声もあいまって、まるっきり仔犬の化身かと思われました。
とりあえず右手を伸ばして、のの字のの字、のの字のの字。
……ワンちゃんを撫でる時は、これが一番ヨロコぶんですよね?

「……それ、お通じが来ない時のおまじないじゃないですか。 ジパングの」
「あら、知ってました?」

「母に教わりました」「同じく義姉に」
苦笑いを交わしつつ、私はアギトを開きます。
だいじょうぶ、まだ私は自分で動ける。 この子を、食べてあげられる。

「がぶぅ

実際の擬音は、「むにゅう」でしょうか。
胸骨をへだてたふたつの脈動が、むず痒い面映ゆさとともに同調を始めました。

岩のはざまで蛇行する小魚を逃がさないように。
根元から笠のてっぺんまで、天を衝くつくしをまんべんなく噛み潰すように。
天からしずくを垂らして、つぼみに滲んだ蜜と混ぜ、谷間に芽吹く花を枯らさぬように。
噛み砕いて髄を味わうべく、捕食者が獲物の大腿骨をねぶり歯を立てるように。

「あは

せつなげな呻きが、四度掲げられた白旗とともに溢れて、彼と私の顔と胸を汚しました。
シャークサンドウィッチに挟まれた具材のソースを搾り抜いて、
はみ出た分はお行儀悪く舐め取らせてもらうとしましょう。
……早くもインキュバス化が進んでいるとしか思えない量と勢いと濃さで、たまりませんね
と、うっとりしていたところに届くのは、愛らしくもなさけないベソ掻き声。

「くさいです、にがいです、しょっぱいです……」

みなまで言わせず、この子の口にまで飛んだスペルマを唾液ごと堪能させてもらいました。
まずいでしょう、こんなののませてごめんなさい、もうやめて。
そんなとんちんかんな謝罪と拒絶の言葉は、体液カクテルの香辛料として、
一緒くたに飲み込ませてもらいます。
それでも、つつましくひしゃげたへの字口からは、
まだ自分の情欲の発露に対する、負の色に染まった言葉が湧き出て来そうです。
……どうせなら、もっと愉しくえっちな喘ぎを聞かせてくださいな。

――謝る必要なんてないですよ……じゃあ、私のも、舐めてもらえますか?

ほんのり意地悪さが混じった笑顔でいたずらっぽく、私は二回目のおねだりを口にします。
返答は一瞬の逡巡と、無言での首肯でありました。

「ごめんなさいね、顔、跨いじゃいます」

ゆっくりと修道服の前垂れをズラしながら、ヘッドボードに手を添えると、
重心が偏ったせいで、またベッドの脚が無粋な悲鳴をあげました。 ヘコみます。
……まあいいでしょう、そんな些細な事を気にする必要なんてないんです。
だってほら、濡れほぐれて敏感になった牝の花に、
全力で走り終えた直後のイヌかウマのような、この子の熱ーい吐息が、
まるで下からピストンされているかのように吹きつけられるのが分かりますから。
さて! 喘ぎで犯されている錯覚を楽しみながら、
下半身に食い込んだ邪魔な布きれを剥ぎ取ってしまいましょう。
私の瞳の色と揃えた薄手のローライズショーツが、
ふくらみとヒダを透けさせて灰色の瞳に写り込み、
くりくりしたどんぐりまなこが零れ落ちんばかりに見開かれているのがはっきりと感じとれました。
悪いひとり遊びで多少だらしなく伸びてしまった陰唇が、物欲しそうにほぐれて花開いているのが、
愛液でへばりついたクロッチ越しに、はっきりと浮かび上がっているようです。
何はともあれ、お尻とふとももに食い込むショーツは、摺り下ろすのもひと苦労。
見栄を張って小さめのものを選んだのが間違いだったかもしれません。
彼の顔や肩を踏まないように注意しながら、膝立ちから肩幅開きの直立へ、
直立から脚を抜き取るための片足立ちを交互に。 その後再び膝立ちへ。
引っ張れば引っ張るだけ伸びて、その癖手を緩めればたちまち二等辺三角形に元通り。
そんなアラクネの糸の伸縮性の高さと強靭さに感謝です。
義姉さんみたいにサイドひものものを穿いていれば脱ぎ着も楽だったのでしょうが、
修道服だと腰の辺りが不自然に浮き上がるか、スリットから見えるかどちらかでしょうしねえ……。
まあ、この子に痛い思いをさせずに脱げましたし、気にしないでおきましょう。

「ん……

口元が緩んだのは濡れそぼった粘膜が解放されて外気に触れたからでしょうか?
それもありますが、きっと尻尾で絡めとったモノが、
未だに元気いっぱいに熱を帯びてビクビク跳ねているからかと思われます。
あとは、まあ……。

「……気になりますか? コレ」

彼の返事も待たず、先程まで脚を通していた穴に伸ばした両手の指を引っかけて、
ジパングに伝わるアヤトリなるてじな…じゃなくて遊びのように、クロッチ部が変色した――
白い裏地の黄色いシミがハズかしいなあもう……――紫レースの下着を広げて見せてあげました。
すると灰色の瞳が私の脚の間と両手の先をせわしなく行ったり来たり。
尻尾から伝わる脈動もまた、今にも欲望を吐き出したいかのような気配をほのめかせています。
実に雄弁な回答です。

「かぶりたいですか? しゃぶりたいですか? ちんち◯くるんでシゴいてほしいですか?」

ちなみに兄はこの問いに「ぜんぶ!」と即答したそうで義姉さんに苦笑いされていました。
そして時折義姉さんの脱ぎたてぱんつでお茶を淹れておいしそうに飲むようになりやがりました……。
その後義姉さんにガンガン搾られるのまで込みでクセになってしまっているようです。
やっぱりお茶っ葉代わりに使うのはヤり過ぎだよおにぃ……じゃなくて、話を戻しましょう。
とりあえず、尻尾からの反応が一番よかったのは、と……

「あっ……」

スモモのような亀頭をクロッチでつつんであげると、ショーツ越しの右手と尻尾に、
充血したかわいらしい海綿体が、ひときわおおきく痙攣するのがはっきりと分かります。
さっきまでコレが当たってたんですけど、どうですか?
そううそぶいて左手でヒクヒクしている肉襞をゆっくり開いて見せれば、
待ってましたと言わんばかりにトロリと透明な雫が彼の口の辺りにしたたり落ちていきました。

着弾。 そしてゆっくり持ち上がる小さな右手、私の左手とは違う水っぽい濡れた肉の音。

「ふふ……まるでハチミツを舐める小熊みたいですよ?」

おいしいですか?と苦笑交じりに聞いてみたら、
「味は分かりませんけどいい匂いがします」との事。
じゃあ今度は、じかに口づけたらどんな味がするか、聞かせてもらえますか。
下から上に、左右に押し広げるように、やさしく舐めあげてくださいな。

お尻で彼の胸を押し潰さないよう、慎重に膝を外側に滑らせながら腰を落とすと、
程無くして剥き出しになった肌に、薄い胸板のぬくもりを感じ取る事ができました。
そして、肉の芽をくすぐる鼻の頭の感触と、
さっきまでさんざん貪らせてもらったぷりぷりした唇が、やや間延びした秘唇と――――。

「あは……

二回目のファーストキス、でしょうか?
ぎこちない舌使いに打ち震える上体を支える為に、両手ともにヘッドボードに配置。
バランスを取るためにはたはたと翼を上下させながら、私は尻尾で愛撫を返します。
緋裂がおずおずと蛇行する逆風に捲り割られる快楽は、もどかしくも酷く甘く。
昇り切った舌先が口内に戻されると、終点にあった肉の芽が食まれて、
私の背筋から頭を焼き、目を眩ませて抜けていく桃色の火花を散らしました。

いつの間にか、自分の指以外のものを受け入れたことの無い牝の門は、
肉のうねりにこじ開けられ。
ぐりぐりぐりぐり蠢く舌に、聞いた事も無いようなダレカのむせび泣く声と、
自他のよだれにまみれて、
ナカのヒダのひとつひとつが、侵入してきたものの動きを模すように波打っています。
波打つといえば、青い蛭のような尾に巻かれた小さな肉塊は、
私が火花に焼かれて悶えるのに合わせて、
欲望のままに白い溶岩を吐き出す噴火口になってしまっているようでした。
そうでなければ、シゴけばシゴくほどに、布切れ一枚を隔てて熱い脈動をすべる
私の尾の動きから抵抗がなくなっていくはずはないのですから。




――そろそろ、かな。

狭い一室に、生殺しにしあった、ひとつがいの獣のあえぎが満ちきった辺りで、
私は尾の中に捕らえていた灼熱を解放しました。
肉の若木に未練がましく張りついていた紫の包装が剥ぎ取られ、
甘酸っぱい牝香が、青い牡臭に蹂躙されて鼻腔と肺を犯します。
もう慣れきってしまった木製の悲鳴を伴奏に、お尻の下のぬくもりを愉しみ、
いつくしみながらあとずされば、白く濡れた赤い牙に、
図らずも不浄の門と雌のアギトがぬるりと触れてしまいました。
そして、海綿体同士に続いて重なる、すっかり聞き慣れたダレカの声と、
どんどんいとしさとおいしそうな魅力を増していく獲物(この子)の声。
それを皮切りに、上下の口で水気に溢れたデュエットをしてみせれば、
後には磨き上げられたかわいい角を振り上げる仔羊を抑えつけて、
メスオオカミが自他の欲望のカクテルの後味に酔いしれておりました。
さて、食前酒はたーっぷりいただいた事ですし、もぐもぐさせてもらいましょうか
とは言ったものの、はしたない雌のアギトが次に噛みしめる事になったのは、
仔羊のあどけないあったかくってかったぁーい角ではなくて。
おあずけをされたワンちゃんのせつなさやるせなさ悲しさと、
初対面の人間同士ならしなければならない、あるものの交換を忘れてしまっていた羞恥でした。
すなわち。

「そういえば、聞き忘れてました」

あなたのお名前、教えてください。 ぼ…私はピエードロ=ブランコです。
そう名乗った、いとけない――おそらくは私生児な――修道士の質問に、
冠婚葬祭で主役を演じる時くらいにしか使わなさそうなフルネームを答えます。

「グリシーナ=モンタニャルタ=カリドです」
「高い山……家名まで羨ましいです、私はこの背丈ですから」
「おっぱいだけでいいんですけどねー大きいのは」

ひとしきり苦笑を交わすと、

「さあ! 愛と劣情と羞恥を込めて『グリシーナおねえちゃん』って呼んでくださいペドロくん!!」
「……しすたあ・ぐりしいな」

おちついて、くだ、さい。
初々しい興奮が頬と耳から退いて、彼の姓と同じ色に染め返されれば、
ブラザーの口許に残ったのは、呆れ一色に固まった“苦笑の残骸”(ひきつり)ばかり。
ダメ押しと言わんばかりに灰色の半眼がジトーっとへばりついてきました。
ああでも、それらが下に、さらに下に泳ぐと、オモチなるジパングのパンもかくやという
ほっぺたに火が燈るのは、その、ムラムラきちゃいますね、うへへへへ……
と、いうわけで! パン生地ならぬダダをこねさせてもらいましょうか!!
……おあずけをされた意趣返し、というわけではないですとも、ええ。

「『おねえちゃん、ぼくのどーてい、たべてよぉ』って言ってくれなきゃえっちしません!」
「えっ」

天使が通りました。 きっと、私や母の痴態を眺めて悦に入る義姉のような、駄天使が。
もとい、ぬるくもどこか気まずく弛緩した、しばしの沈黙が訪れました。

「『求めるのなら、与えましょう。それが私達の務めですもの、ね』
 ……っておっしゃったのはシスターじゃないですか!」
「えー? 『だいて、ください』ってブラザーのお願いに応えてだっこしてあげたじゃないですかー。
 かわいいかわいいヘンタイお◯んぽへの捕食活動はまあサービスっていう事で」
「捕食、捕食ってなんですか」
「勃ってるち◯こは親のでも喰らえ! もったいないから! の精神です!!」
「……幻滅しました、シスターが父親とそんな関係にあったなんて」
「あー! 勝手に人をファザコン扱いしないでください!
 私は純潔です! バージンです! 自分の指とあなたの舌と口しか知りません!」
「それでも少なくとも自慰狂いの色情狂ってことでは……」
「はい!!」
「なんでそこで胸を張るんですか!」
「色に狂っていないダークプリーストなんて……いいえ、魔物娘なんていません!
 ……それに、お好きでしょう? さっきから目がピストン運動してますよね?
 やだー視線で犯されるー
「……ごめんなさい」
「やーですねえ、謝らないでくださいな、むっつりさん
 謝るくらいなら、おねえちゃん、えっちしよ?っておねだりしてくださいな?」

――どうしても、おねえちゃんって呼ばなければだめですか?
――Exactamente(その通りにございます)

再びの沈黙、たっぷり六十は数えたところで、喉仏の裏で鳴ったしわぶきが聞こえます。

「おねえちゃん、やさしく、して、ください」

私の返答は、真赤な瀑布でした。
そして、瞬きよりもなお短い間で流された、ひとすじの真紅の涙でした。




ゴリゴリと一気に拡げられたお腹の中身。
引き裂かれた脆い肉の蓋、その奥で悦びさざめく肉の花畑。

「ほ、ら……」

牝蜜に混ざって内股からしたたるねばっこい雫は、何故か甘い痺れをともなっていました。

「はじ、めて」

右手で鼻の下と口を乱雑に拭って、つい出来心で味見してみれば、舌を焼くのは鉄臭さ。
それと、ブラザーの仔犬めいた舌使いの甘さには遠く及ばない、味気ない感触。
よって私はうつぶせになり、リンゴの頬を両手で包んで口直しです。
薄い胸板にすり潰されたおっぱいが、むにゅりむにゅりと変形するのにあわせて、
私のナカで熱い肉牙がひくりひくりと悶えました。
尻尾の先で双子の卵をまさぐってみましたが、発射寸前!と言わんばかりに縮み上がって、
早くも若い体臭を、精の芳香が甘く青く塗り替えようとしています。

「だった、でしょ?」

黒い冠のような角が生えた白い髪の女が、
灰色の瞳の向こうでだらしなく笑み蕩けているのを認めたところで。
最奥で爆ぜた溶岩が下腹を、駆け昇った紫電が背筋を、昇りつめた先で閃いた光が頭の中を。
そして、それらがもたらした快楽の炎が、私の五体の隅々を白く熱く甘く焼き払って往きました。
まるでサカリのついた猫を思わせる悲鳴が、私の喉と耳を、おそらくは彼の耳をも貫いて
まぐわうメスとオスのニオイに満たされた昏い闇に溶けていきます。

せつなく潤んだ瞳が重なり、交じり合う喘ぎに煽られて、白い残り火は掻き立てます。
もっと欲しい、もっと見たい、もっと溺れたい、もっと味わいたいという愛と欲望を。

「────」

『しすたあ』と『おねえちゃん』があわさったような呼び掛けが、
快楽に焼き払われた四肢と性器を目覚めさせたように感じました。
目覚めたものは欲望の残り火が残らず活力に変換されたかのように力強く、
更なる快楽を貪り、また組み敷いた彼に与えようと駆動します。
腰を使うごとに潤いを増して収縮する雌のアギトと、重なる喘ぎとともに荒ぶる雄のキバの饗宴は
狭い部屋の窓から差す光が、白くあたたかなものになって室内を満たしてなお延々と続きました。
16/01/23 15:56更新 / ふたばや
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