連載小説
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我、この世界の一片を垣間見る!
「一体なんだったのだ奴らは……」

 鈍く痛む頭を摩りながら誰となく呟く。自らをオークと名乗った彼女らはたいして強くは無かった。いや、我がこれまで戦ってきた「オーク」に比べればあまりにも弱かった。極限まで威力を弱めた操雷魔法の一発で意識を奪えるほどに。そんな彼女らに我が不覚にも一撃をもらった理由は一つ。

彼女らの攻撃には一切の殺気が含まれていなかった。

 いや、殺気どころか微塵の敵意も無かった。我が居た世界の魔物の中で一切の殺気を漏らさずに攻撃を仕掛けてきた者など居なかった。『姿無き暗殺者』と呼ばれた、己を影の一片も残さず消すことができる魔族も、喰らった人そっくりに化けることの出来るオーグルの一族も、知能を持たぬブロブの類でさえ、攻撃を仕掛けるその瞬間には殺意が漏れていた。
 それなのに、彼女らの攻撃から感じられたのは歓喜、色欲そして……

「愛情を抱きながら殴りかかるとか……なんでだ?」

 そう、彼女らは愛情を抱いていたのだ。それも醜く歪んだ物ではなく、まるで人が人に抱くような純粋な愛情。

正直、訳が分からない。

 彼女らが言うとおりのオークで在ったとしよう。つまりは彼女らは魔物であるはず。もし、彼女らが魔物であるならば、なぜ魔物が人に愛情を抱くのか?歓喜と色欲はまだ理解できる、我の世界にも人族の女を見つけると歓喜し、色欲を抱きながら犯す魔物は居た。そしてそれが歪んだ愛情ならば、まだ納得できよう。魔物の中にも稀に人族に愛情を抱く者はいた。しかしそれらはどれも醜く歪み、捻曲がり、人が人に抱けるような感情ではなかった。

「とりあえず、村の男衆を探すかの……」

 おそらくは、村の中心であるだろう場所に向かって足を進める。相手が何であれどうであれ、我は助けてくれと頼まれたのだ。先ほどのオークは、この世界の中でも飛びぬけて異常で特別だったのだ。きっと他のオークは我の知るように、醜く残虐で、一切の躊躇もなく殺せるような相手なのだ。そう信じよう。


 そんな我の不謹慎な願いなんぞ当然受け入れられるわけもなく、村の中心にたどり着いた時、我は思わず頭を抱えてうずくまった。


 そこで見かけた光景は我が想像していたものとは遙かにかけ離れていた

 絡み合う身体、体、肉 そこら彼処でニチャニチャと粘りある水をかき混ぜる音が聞こえ、それをかき消すような嬌声で溢れかえっていた。村の男衆と思われる者たちと、先ほど出会ったオークと名乗る彼女らと同じ特徴を持つ女たちが互いにまぐわい、犯しあう。まさに「酒池肉林」が目の前に広がっていた。

「ええー……」

 思わずそんな声が口から洩れる。いや、ほんと一体我にどうしろと。
もし、この男衆が女たちを無理やり犯しているなら我は彼らを止めただろう。それには大した労力も時間もかからない、指向性を持たせた操雷魔法を一発打ち込めばそれで終わる。しかし、積極的に犯しているのは女たちである。無理矢理ではあるが、そこに悪意は含まれてない。それどころか一部は深い愛情を持って犯しているし、男もそれに応えるように己の一物を女に打ち込んでいた。
 そこには悪意も敵意も殺意も無く、血も臓物も死も見えず、恐怖も憎悪も絶望の悲鳴も聞こえない。
 あるのは色欲と快楽と愛のあるまぐわい。よーするに平和なのだ。

「我に一体何を救えと言うのだ……」

 そこに殺戮があるならその元を殺せば済んだ、圧倒的な脅威があってもそれを殺せば済む。今までは元凶さえ殺せば人は救えたのだ。そして我は殺す以外の救い方を知らなかった。
 正直な話、もうこれをほっぽって違う街にでも向かいたい。しかし我は約束してしまったのだ。村を救うと、少女の兄を助けると。
 しかし、しかしだ。その方法が全く持って思いつかない。まず助ける必要性が感じない。
 しばし頭を抱え、悩み、いろいろとめんどくさくなったので、もうこれでいいやと行動を起こした。

『操気 創雲 拡大 放射 鎮静 安堵 睡眠 行使 夢導雲』

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「皆の者待たせたな……」

「勇者様!村は、みんなはどうなりましたか!」

「あー、無事救えた……ぞ」

「夫は、私の夫は無事ですか!」

「あー、疲れたのであろう。今は村でぐっすりと眠っている」

「お兄ちゃんは!お兄ちゃんも助けてくれたよね!」

「おう、ぐっすりと眠ってるぞ、きっと疲れてたのだな!」

「本当!ありがとう勇者様!」

「お、おう……すまないが我にも使命がある。名残惜しいが急がなければいけないのでな。さらばだ!」

「ありがとう!」「ありがとう勇者様!」「ありがとうございますっ」


 嘘は言っていない、あとは彼らが如何にかしてくれるだろう。願わくば次こそは我の力が振るえることを。

14/11/14 16:47更新 / kiri
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