連載小説
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我、この世界へ降り立たん!
 ふと見渡すとそこは森の中であった。芳醇な土の香りと心地よい木々のさざめき、時折聞こえる小鳥のさえずりがここが人が暮らせる世界と証明してくれた。

「ふむ、何とか成功したようだの」

 誰となく呟く。初めて行使した魔法、失敗すれば次元の狭間に永遠に取り残される可能性も、人が生きることのできない世界に飛ばされる可能性もあったが、どうやら五体満足で新たな世界にたどり着けたらしい。

「さて、あとは人が居ることを祈るだけだが……」

 感覚を尖らせて耳を澄ませる。ほんの僅かにだが聞こえたそれは、幾度となく聞いた音。

 恐怖に駆られた人々の悲鳴

 無意識に口が歪む。どうやらこの世界には我の居場所があるらしい。


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 声が聞こえた方に駆けて行くと逃げてきたであろう人達と出くわした。大半が女と子供であり、その眼は恐怖と不安で埋め尽くされていた。

「一体どうしたのだ!」

「魔物が……オークの群れが村に攻めてきて……」

「村の男たちが戦って私たちを逃がしてくれたけど……だけどこのままだと……夫がッ」

 オーク、かつて戦ったことのあるソレを思い出す。腫れ上がったイボイノシシのような顔、毒々しいどぶ色の肌、例外なくでっぷりと太った巨体、何より人族の女を犯し喰らうという胸糞の悪い連中。対して強くはないが数だけは多く何匹この剣で切り裂いたか覚えていない。

 「それは災難な……しかし安心するがいい!我は勇者!諸君らを救う光となろう!」

 剣を掲げ、高々に宣言する。今この人々に必要なのは心の拠り所。『勇者』という希望を前に彼女らの目に希望と安堵が宿り始める。

「勇者……さま」「勇者様だ!」「勇者様!やった!私たちは助かったのよ!」

「勇者様ッ……」

一人の少女が目に涙を浮かべ我の膝にすがる。そして絞り出すように声を出した。

「どうかお兄ちゃんを助けてくださいっ」

「うむ、任せておけ」

 歓声を背に受けながら駆ける。久々に受ける人の希望に我自身が歓喜しながら。



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「誰か居らぬか!我は勇者!助けにきたぞ!」

村を回りながら声を上げる。幸いなことに死体や血痕などは見つかっていないので被害は思ったより少ないのかもしれない。

「誰か生きてる者は!居ないの……ん?」

ふと、前から5人の女が現れた。やたら露出が多い革鎧、粗末な棍棒、そして特徴的なのは頭から生える豚の耳。その格好に疑問を抱くが、それを飲み込み声をかける

「何をしている!オークだ!いくら獣人といえどかなう相手では無い、今すぐ逃げろ!」

 そう、勇者にとって大した相手では無くとも人類にとってはオークは強大な脅威である。たとえ筋力的に人より優れた獣人であろうと、その厚く硬い革と蓄えられた脂肪の鎧を貫くのは難しいのだ。ましてや獣人の中では非力な野豚族の女性となれば勝ち目は万が一にも無い。
 しかし彼女らはあっけにとられたようにぽかんとしてた。そして唐突に円陣を組みごにょごにょと会議を始める。ふざけてるのかと

「何をしている!そんな悠長な時間は無いぞ、ここは被害が少ないようだがいつオークどもが来るか分からぬ。そんな武装では野豚族では奴らに歯が立たぬ、早くここから離れるのだ!」

 帰ってきたのは無言。そして会議が終わったのか一斉に彼女らの目が我に向けられる。

そこに宿すは大きな歓喜、そしてそれすら霞むほど膨大な色欲

「何言ってるのお兄さん」

ぽつりと一人が呟いた

「私たちがオークだよ?」

「…………………はい?」


そう呟いた彼女らは我の知っているオークとはかけ離れたもので


「お兄さんかっこいいねぇ、わたしすごい好みかも」「うふふうふふふ、まさか村のはずれでこんな引くなんて私たちすごく運がいいのね」「観念して私たちに捕まってくれない?一緒にイイコトしましょうよぉ」

「えーと……ちょっと待ってくれ」

予想外の出来事につい頭を抱えて悩んでしまった我に対して

「だーめっ待ってあげない」

彼女らは一切の殺気も感じさせずに殴りかかってきた。

14/11/12 00:04更新 / kiri
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