連載小説
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第1章 暇そうなドラゴンさんと、滅茶苦茶忙しくなったアメリカ海兵隊員
「……暇です。暇過ぎます…」

私はそう言いながら溜息をついた。
と言っても、私を倒そうとして挑んでくる挑戦者はかなりいて、しょっちゅう戦ったりしているのだが…。
では何故暇なのかと言うと、今まで私の財宝を目当てに挑戦してきた勇者と名乗る連中共は皆、大した事ないのだ。
たった数回威嚇したり、ダメージを与えるだけで皆脱兎の如く逃げ出す。
…どいつもこいつも口ばかりだ。
つい最近私に挑んできた挑戦者も、例外ではなかった。
確か…、1週間くらい前だったかな…?



「うぉぉぉおおおおおりゃぁぁぁあああああ!!!!」


甲冑をまとった男が私に向かって剣を振り下ろす。

「……遅いですよ、こんな攻撃。…避けるまでもないですね」

そう言って私は、彼が振り下ろした剣を左手で受け止める。
そしてそのまま剣を握り締め…


バキィィィン!!


その掴んだ剣を折ってみせる。
…人間の使っている武器を破壊する事等、私にとっては他愛もない。


「なっ、バカなっ!?鋼鉄製の剣が片手だけで折られただとっ!?」


どうやら彼は私が剣を片手で折った事に動揺しているらしい…。


「だがまだだっ!!まだチャンスはあるっ!!」


彼は若干動揺したものの、すぐに腰のポケットから短剣を取り出し、再び私に襲いかかってきた。
剣を失ってもまだドラゴンの私に挑みかかってくる精神は褒めてやろう。
しかしそのような不屈の精神を持っていたとしても、所詮は人間。
結局は私…、我々ドラゴンの敵ではないのだ。
彼には申し訳ないが、ここら辺で諦めてもらおう…。
そう思った私は彼が短剣で何度もしてくる攻撃を全部かわし、攻撃の度に若干できる隙を狙って彼の首を右手で思いっきり掴み上げた。


「ぐぁぁぁ…」


彼は苦しそうに呻く。
当然だろう、呼吸ができないのだからな。
私は苦しがっている彼に告げる。

「貴方の不屈な精神は褒めますが、しかしあまりにも実力差があり過ぎます。正直言って弱すぎるんですよ。だからいい加減消えて下さい」

私は彼にそう告げると、遠くに見える森へ目掛けて思いっきりブン投げた。


「うっ、うわぁぁぁあああああ!!!!」


思いっきり投げられた彼は断末魔の叫びをあげながら空高く消えていった…。
…まぁ、あの森の木々は葉が柔らかい木が多い。
命に別状はないと思うが…、しかしただでは済まないはずだ。相当なダメージを負う事になるだろう…。
しかしそんなのは私の知った事ではない。
そして彼はこれに懲りて二度と私…、ドラゴンに挑みかかる等と言う無謀な挑戦をしなくなるだろう…。
そう思った私は不満気味な表情を浮かばせながら住処へと引き返した……。




まぁ、こんな風に人間と闘っている日もあれば、暇な時にドラゴンらしく財宝を集めていたりする事もある。
だが…、財宝集めはそろそろ飽きた…。
確かに財宝は綺麗で価値もある。
しかし大抵の物を集めてしまった私にとっては皆似たような物ばかりで、斬新さを感じない。
所詮、金や宝石等で装飾されたただの物なのだ。
誰か私のこの飢えを癒す事のできる者はいないだろうか……。
なんて答えが出るかどうかもわからない事を住処の前で考えていた時、突然、空…、雲の中から


キィィィィィイイイイインンン!!!!………ズザァァァアアアガガガガガガガ!!!!


と言うとんでもない轟音と共に謎の白い巨体が一部を発火させながら落ちてきて、私の住処の先に見える小さな丘に墜落した。
……ふぅ、どうやら私はしばらく暇で悩む事がなさそうだな。
そう思った私は翼を羽ばたかせ、その白い巨体が墜落した場所に向かって飛んでいった…。


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「機長、マスターアラート!!SAMです!!レーダーロックされています!!」


副操縦士が俺に向かって叫ぶ。

「クソッタレッ!!キューバの連中はたかが輸送機1機すら通過させてもくれないのかっ!!こんな物資を限界まで搭載した輸送機なんてただのカモだっ!!回避なんかできるかっ!!」

チクショウッ!!
どうしてこんな事に…!!




遡ること5日、ワシントンD.C.空軍基地にて…




俺の名は「サトシ・マクラーレン」

アメリカ生まれのアメリカ育ちだ。
今現在はアメリカ合衆国軍海兵隊所属のパイロットをやっており、階級は大佐である。
扱う飛行機は戦闘機から爆撃機、もちろんその他の航空機も操縦できる。
そう、俺は最近流行のエースパイロットなのだ。
そして今は、これからの行われる予定の作戦について上官から説明されるところである。

「諸君にはフォークランド島で敵軍と戦闘しているNATO友軍にムリーヤにて救援物資を空中投下してもらう」

作戦室で上官が俺達に命令する。

「諸君も知っている通り、NATO軍はフォークランド島を敵武装勢力から奪取できない状態が続いている。
そして本国の調べによると、敵武装勢力はその膠着状態になったNATO軍に対し物量作戦を行うつもりだ。
その第1段階として早速艦船にて海上封鎖を行っている。
このままではフォークランド島のNATO軍が物量で敵軍に劣り、降伏してしまうだろう。
そのような事態は加盟国であるアメリカにとっては避けなければならない事である。
そこで我々は先程も伝えた通り、輸送機にて救援物資を空中投下する作戦を行う事になった。
本作戦で輸送する物は武器弾薬や装甲車両、そして食料品や衣類等の生活必需品もだ。
作戦開始時刻は5日後のヒトサンサンマル時、本作戦で使用する機体は一度で大量輸送する事のできるムリーヤ"An-225(ムリーヤ)"だ。
このムリーヤはロシアのアントノフ社が開発した世界最大の超大型輸送機で、場合によってはスペースシャトル発射母機としても使用される事がある。
今回は本作戦の為に本国がロシア政府から特別に借りてきた。
本作戦は危険な状況下にある友軍の為に時間重視、つまりは最短距離で実行する。
故にバミューダトライアングル、キューバ領空内を飛行する事になるが、本国が事前にキューバ政府と話をつける手筈になっている。
よって諸君は安全に目的地まで飛行、到着、そして本国に帰還できるはずだ。
そして最後に、我々作戦司令部のコードネームは『オーバーロード』で、諸君のコードネームは『ハンター2-1』だ。
……作戦内容は以上だ。何か質問は?」

大体の事は説明された為、俺は挙手しなかった。
副操縦士の方も特に疑問に思った事はなく、俺と同じく挙手しなかった。

「…それでは諸君、幸運を祈る。無事に帰ってきてくれ」

こうして作戦会議は終わった。


「機長!!」


作戦室から退出した瞬間に副操縦士が話しかけてきた。
彼の名は「チュウ・ホウテン」
中華系アメリカ人の副操縦士で、階級は少尉だ。
彼は機長に対するサポートがとても優秀で、他にも色々と功績を残しているらしい。
それで今回の作戦に抜擢されたのだろう。


「あなたの活躍は色々と耳にしています。今回の作戦では是非宜しくお願いします」

「あぁ、了解だチュウ少尉。今回の作戦の航路は若干危険を伴うが、お互い無事に帰還しよう」

そう言って俺達は5日後に実行される作戦について話し合う事になり、基地内の食堂へ向かった…。



そして5日が経ち、俺達は作戦通りムリーヤで基地を離陸、キューバ領空のバミューダトライアングル内を飛行している。
すると突然、司令部から通信が入った。


「オーバーロードよりハンター2-1へ、キューバとの交渉は決裂した。至急航路を変更し帰投せよ。オーバー」


何だと!?
こっちはもう、とうの昔にキューバ領空内に入いってるぞ!!
俺と同じ事を思ったのか、副操縦士のチュウ少尉も驚いた顔でこちらを見ている。

「こちらハンター2-1よりオーバーロード、当機は既にキューバ領空内のバミューダトライアングル内を飛行中だ。よって今すぐの帰投は不可能とみる。それよりも、帰投するよりもこのまま目的地に向かう事を提案する。そして帰投航路だけ変更すれば……」



これが5分くらい前の話で、今はと言うと………




「機長、ミサイルが発射されました!!方位120より接近!!恐らくSA-11です!!」


“SA-11(クープ)”はロシア製の対空ミサイル車両だ。
有効射程は3,000〜32,000mで最大速度はマッハ2.5。
驚異的な飛行速度と追尾性能を誇る。
こんなムリーヤならいとも簡単に撃墜できるだろう。

「きたかっ!!えぇい、まだだ!!まだ終わらんよ!!チャフとフレアをリリース!!」

俺はとっさに副機長へ回避策を命じた。


「駄目ですっ!!回避できません!!30秒後に被弾しますっ!!」


そして…


ドゴォォォン!!


もの凄い爆発音と共に、機体に衝撃が走る。


ブーッ!!ブーッ!!ブーッ!!ブーッ!!ブーッ!!


コックピット内に各部異常警報が鳴り響く。


「機長!!ミサイル被弾!!推力低下!!高度が下がってます!!」

「クソォォォ!!ここまでかぁぁぁ!!」

駄目だ、エンジンがやられたらしく、推力不足と揚力不足で確かに高度が上がらない。
そして物資を満載している為、高度がもの凄い勢いで低下する。
操縦桿も効かない。
油圧系統もやられたのだろう。
これはもう駄目だ……。
そんな事を考えていた時、急に視界が遮られた。
…雲の中に入ったか?
さっきまで晴れていたのに?
……そう言えばバミューダトライアングルでは、よく謎の失踪事故が報じられている。
その理由の1つとして挙げられるのは、ワームホール説だ。
ワームホール説と言うのは、電子霧と言う電子を帯びた霧の中にワームホールと呼ばれる時空を超える通り道ができ、そしてそのワームホール内に進入してしまうと、時空の狭間をさ迷う羽目になるのだとか…。
…運が良ければ抜け出せるらしいが……。
まぁ、そんな事はどうでも良いか…。
どのみちこのまま急降下しながら海面に墜落するだけだ…。
そして俺は覚悟を決めて操縦桿から手を離して目を瞑り、落下していく機体に身を委ねた…。




…眩しい………。
……眩しい?
………不思議だ、意識がはっきりとしている…。
…確か俺が乗っていたムリーヤはキューバ領空のバミューダトライアングルを飛行中に対空ミサイルによって撃墜され、バミューダ海に墜落したはずだ……。
と言う事はここは俗に言う天国か?
…そうか、それなら納得がいく。
……そう言えばチュウ少尉は…?
彼はどうなったのだろうか…。
あのような状況だ、彼も死なないはずがない。
……彼の状態を確認してみるか。
俺はそう思い、早速体を起こそうとした。

「イデデッ!!」

体を起こそうとした瞬間、全身に激痛が走った。
………?
天国では痛みを感じるのだろうか?
…愚問だな、俺は実際に痛みを感じている。
と言う事は……?

「……生きている…?」

思わずそう呟いてしまった。
…試しに腕を動かして顔の前に持って行き、手を握ったり開いたりしてみた。
……できる。
そして感触もある。
もう一度体を起こそうとしてみる。

ズキッ!!

やはり痛みが走る。
しかし最初程の痛みではなかった…。
そう思った俺は気合いで体を起こした。

「……体は起こせた…、そうだ!!チュウ少尉はっ!?」

とっさに副操縦席にいる彼の方を見た。
……彼は操縦桿に頭を突っ伏していた。
どうやら墜落時に機外に飛ばされなかったようだ。
しかし、その突っ伏している操縦桿に大量の血が見える。
意識が朦朧としていたが、それがどう言う意味かをとっさに理解し、叫んでいた。

「チュウ少尉!!大丈夫かっ!!」

…彼からは返事がない……。
脳裏に最悪の事態が浮かぶ。

「チュウ少尉!!目を覚ますんだっ!!しっかりしろ!!」

最悪の事態なんて考えたくない!!
そう思った俺は、今度は彼の肩を強く揺さぶりながら呼びかけた。
しかし何度揺さぶったり呼びかけたりしても彼からの応答はない。
……そんなのは嫌だ、せっかく死なずに済んだんだ。
俺だけ生き残るなんてザマはごめんだ。
諦めきれなかった俺は、思い切って彼の体を起こした。
…彼は額から血を流しており、顔面は血だらけだった……。
俺は感覚が若干戻ってきた右手の平を彼の首筋にあて、恐る恐る脈を測ってみた。
……。
………。
…………。
…脈がない……。

「チュウ少尉……」

俺は込み上げてくる悲しみを我慢して彼を機外に連れ出し、ついでに現状を把握する事にした。




「……ふぅ…」

俺は彼を機外に連れ出して周りを見渡した。
周りは一面草原。
遠い向こうには山が見えるくらいで、他に目立ったものはない。
……おかしい、確か俺は海上で撃墜されたはずだ。
少なくとも海上に墜落していなければならない…。
しかし墜落地点周辺は草原だ。
どの方角の地平線を見渡しても海らしき景色は見えてこない。
潮の香りすらしない。
かと言って内陸部に墜落する可能性は絶対にないはずだ。
何故なら、このムリーヤの重さを考えれば一目瞭然だ。
この巨体が気流等にそう簡単に流される訳がない。
物理的に…、いや、常識的に考えて無理がある。
……そうだ、ムリーヤにはGPS機能がある…。
それを使えば位置座標が簡単に解るじゃないか!!
それで救援を呼ぼう!!
そう考えた俺はまだ痛みの残る自身の体を使って再びムリーヤのコックピットに戻り、機体の電子機器を確認した。
…よしっ、電子機器は生きているようだ。
それが解った瞬間に早速GPS等の画面を確かめた。

「……ハァ?」

俺はGPSの画面を見て思わず声に出してしまった。
何故ならGPSの画面にエラーが表示されているからだ。
…ちょっと待て、ここは明らか電波が届かない場所ではないはずだ。
俺は地下にいる訳でもなければ磁気の強い所にいる訳でもない。
だって周りは広大な草原だぜ?
つまりGPSが正常に動作しないはずがないのだ。
しかし確かにGPSの画面にはエラーと表示されており、現在位置が把握できないときている。
恐らく墜落した衝撃でGPSが壊れたのだろう…。
だとしたら次は無線機だ。
これなら一応救援は要請できる。
そう思った俺はすぐに無線機を手に取り、本部への回線を開いた。

「……繋がらない…」

無線機も繋がらない……。
おかしい、おかしすぎる。
GPSは使えないし、無線機も作戦司令部に繋がらない…。
俺はとある考えが脳裏によぎった。

「…まさかっ!?…そんな馬鹿なっ!?そんな事がある訳ない!!」

俺は思わず叫んでしまった。
俺の予想が正しければこの世の常識を覆し、そしてもの凄く大変な事になっている事になるからだ。
しかしそう思った反面、納得もしてしまった…。
俺が撃墜される前に飛行していた場所は、かの有名なバミューダトライアングルだ。
バミューダトライアングルの伝説が正しければ何故、俺がこのような事になっているのかが一時的に説明がつく。
つまり俺は撃墜され墜落していく最中にバミューダトライアングルに発生した電子霧、ワームホールに進入してしまい、別の次元にきてしまった事になる…。
…ハハハ。
もしそれが本当ならば、コリャ相当ヤバイぞ…。

「とりあえず搭載した物資でも確認して、その後に周囲を偵察してみるか……」

そんなどうしようもできない事を延々と考えるよりかはそっちの方が利口だろうと思い、俺は機体後部の貨物室に向かった。




どうやら草原に墜落したのが幸いしたらしく、機体後部はさほど損傷していなかった。
その為、全ての物資が無事で使用できる事がわかり、俺はその中からとりあえず必要な物を取り出して使用する事にした。
まずは食料品。
これは生きていく上で絶対に必要な必需品だ。
…次に武器弾薬。
なんて言ったってここは、一時的な判断だが異世界である。
何が起こるかは解らない。
自分の身を守れる程度の物は装備しておきたい。

「…何を装備するか……」

俺は悩む…。




若干考えた挙げ句、俺はひとまず陸戦用に”FN_SCAR-H(スカー)”を装備し、アタッチメントはレッドドットサイト、グレネードランチャー、拡張デュアルマガジンを装備した。
更に一応"FIM-92F(スティンガー)"を装備する事にした。
その他にはフラググレネード、フラッシュバン、催涙効果付きスモークグレネード、重装甲ギアを装着した。
スカーはベルギーのFN社が開発した市街地戦闘用アサルトライフルで、口径は7.62oだ。
高威力、高命中精度、長射程、低反動、汎用性等、全体的に申し分ない性能の銃である。
スティンガーはアメリカのジェネラル・ダイナミクス社等が歩兵携行型対空ミサイルランチャーで、ヘリ等の空中目標に対してマッハ2.2で飛翔し、多大なダメージを与える事のできる誘導ミサイルだ。
こいつの重量で俺の機動性が低下するが、まぁ、装備していて損はないだろう。
用心するに越した事はないからな…。
フラググレネードは通常型手榴弾、フラッシュバンは閃光手榴弾、催涙効果付きスモークグレネードは特殊な煙幕発生手榴弾、重装甲ギアは俗に言う防弾チョッキだ。
重装甲ギアも重量的な意味で俺の機動力を下げるが、まぁ、用心する事に越した事はない。
俺が死んでしまったら意味がないからな。
そして早い事偵察を終わらせて、チュウ少尉の遺体の事も考えなければならない。
このまま放置するのは彼にも衛生上にも悪いからな…。

「さてと…、軽くムリーヤの周辺を散策して状況を把握するかな…」

俺はそう呟くと、とりあえずムリーヤの周辺を歩く事にした……。


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「……ふぅ…」

私は白い巨体が墜落した丘に着いた。
そして一番最初に感じた事は…。

「何、この臭いは…?」

私は思わず呟いてしまった…。
私が今まで生きていた中で嗅いだ事のない種類の臭いだ。
油が燃えている臭い…か…?
なんだかそんな感じの臭いに似ている…。
そして次に思ったのはこの白い巨体の形状だ。
これも今まで見た事のない形状だ…。
例えて言うなら鳥…、白いハーピィが思いっきり大の字になって寝そべっている感じに見える。
しかしそれはありえない。
何故なら白い巨体が大きすぎるからだ。
鳥やハーピィの連中はこんなに大きくないし、そもそも生き物の臭いや気配がしない。

「本当に謎めいた存在ですね、あなたは…」

私は色々と未知の白い巨体にそう言うと、周辺を調べ始めた。




一通り巨体の周囲を調べてみたが、特にこれと言った特徴はなかった。
強いて言えば、ハーピィの翼のようなものの下に丸い筒がいくつかぶら下がっている…、くっついているところだ。
あの謎めいた臭いはそこから一番臭ってくる。
まぁ、決して拒絶したくなるような臭いではないから、特に問題はないのだが…。
そして私は巨体の後ろに行く。
……穴が開いている…。
白い巨体の後部にポッカリと穴が開いているのだ。
そしてその中に荷物らしき物がたくさん見える。
しかしそのほとんどは墜落した際の衝撃でなのか、崩れてしまっている。
そんな感じで巨体の中の物を観察していると、手前の方に開封済みの箱が2つあるのを発見した。
1つ目はカラフルな小さい包み等がたくさん詰めてある。
もう1つの箱の中には……。
…何だろう、黒光りする鉄の塊のような物が規則正しく並んで入っている。
その鉄の塊は日光を鈍く反射している。
…金や宝石とはまた違った反射の仕方だ。
…恐らくこの世にこれと似たものは存在しないだろう。
少なくとも私は今まで生きてきた中で見た事がないのは確かだ。

「……なんて綺麗な色をしてるんでしょう…」

私はそう言いながらその鉄の塊にしばらく見入ってしまった…。
…欲しい、もの凄く欲しい…。
そして私はその鉄の塊の1つに手を差しのばし、手にとってみた…。
……ひんやりしてて、若干の重みがある。
やはり何かの金属である事は確かだ。
手に取った瞬間、尚更欲しくなってきてしまった…。
…私はドラゴンだ。
仮にこれ等の持ち主がいたとしても、私が一声掛ければすぐに差し出すだろう。
これ等は是非とも私のコレクションに追加したい。
…私は他の荷物の中も見たくなり、そのまま奥へ進もうとした。


ダァァァーーーーーン!!


なんて思っていた瞬間、もの凄く周囲に響く爆発音と共に、私の右頬を灼熱の何かが目に見えない速度で掠めた。
そしてその何かはこの白い巨体の際奥の壁に当たり…


チュンッ!!


と言う音と共に火花を散らした。

「……ッ!?」

私は一瞬何が起きたかを理解できなかったが、何かが背後から飛んできのだと悟り、急いで後ろへ振り向いたのだった…。


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「よしっ、ここいらの地形は大体こんなものか…」

うん、見事に何もない。
周囲は本当に草原だけで、ムリーヤから見て正面方向の奥の方に山がちょっと見えるだけ。
そしてその手前に森がそこそこ広がっている。
俺はこれ以上の散策は無用だと思い、一旦ムリーヤへ戻る事にした…。





10分くらい掛けてムリーヤの方へと戻り、後部のハッチが徐々に見えてきた瞬間、そこに何かがいる事に気がついた。
……人だろうか?
ここからではぼやけてしまってうまく視認する事ができないが、2本の足で立って何かをやっている事は確かだ。
しかしムリーヤとの距離が縮まるにつれて、そこで何かをやっているものの姿が徐々に見えてはっきりしてきたのは良いのだが、何かがおかしい。
そう、姿だ。
姿がおかしいのだ。
確かにそれは2本の足で立っていて一見人に見えるが、背中には翼、腰には巨大な尾があり、そしてそれ等は明らかに作り物には見えない…。
どう考えても普通の人間ではない事は確かだ。

「……アレは一体何なんだ?」

俺は思わず口に出してしまった…。
だってそうだろ、明らかに謎だろ。
ただでさえこの現状について把握できていないのに、更に人間と爬虫類を掛け合わせたような…、そう、例えて言うなら人の姿をしたキメラのようなものがいるのだから…。
まぁ、人だったらある程度話し掛けられると思うが、流石にアレに人としてのコミュニケーションができるかどうかは解らない…。
下手したら話しかけた瞬間に襲われるかもしれない…。
…そして奴はあそこで何をしているんだ?
あそこには物資が大量に……。
……ッ!!
そうだっ!!
物資だ!!
武器弾薬や食料の箱を開けっぱなしにしたままだった!!
マズイ、マズイぞっ!!
そして更に追い打ちを掛けるように、新たな光景が目に入った…。
…奴が武器…、銃火器を手にしているのだ……。
流石にこれは真面目にヤバイぞ…。
奴が武器を雑に扱って暴発でもさせたら、他の物資に引火する恐れがある。
仮にその可能性がなかったとしても相手を簡単に殺傷する事のできる武器なのだ。
俺に対して使用されたらひとたまりもない。
それだけは阻止しなければ。
そう思った俺はとっさにスカーを構え、レッドドットサイトの中心点を奴の頭部に合わせて狙った。
……いや、流石に頭部を射撃するのはマズイか…。
いきなり殺してしまうってのもなぁ…。
できれば無駄な殺しはしたくない…。
かと言って威嚇射撃で退いてくれる相手なのだろうか……。
しばし思考中……。
………よし、それなら奴の頬を掠めさせるか。
それなら奴もビビって逃げていくだろう。
…と言う事で再度スカーを構え、奴の右頬付近を狙って射撃した…。


ダァァァーーーーーン!!


スカー独特の発砲音が草原に響く。
……っよし!!弾は確かに奴の右頬を掠めたらしい!!
その証拠に奴は驚いた後に後ろを振り向いた!!
手応えありだなっ!!
………あれっ?
…おかしいぞ?
奴の顔面は人の顔をしている…。
…と言う事は奴は人なのか…?
しかし翼と長い尾の説明がつかない…。
……まさかとは思うが、コスプレか…?
んな馬鹿な…。
…一体どう言う事だ…?
そして奴はかなり動揺したものの、全然逃げ出す素振りがない…。
むしろこちらをずっと睨みつけている…。
…更にもの凄い殺気を感じるぞ……。
かなりヤバイ予感がしてきた…。


「そこの人間!!貴方は今私に何をしたのですかっ!?」


奴が俺に向かって唐突に叫んだ。
……言葉が通じる…?
俺は今奴が叫んだ内容が理解できたぞ?
確か『そこの人間!!貴方は今私に何をしたのですかっ!?』って言っていたな…。
と言う事はやはり奴は人だったのか…。
そして声からして女性のようだ。
翼や尾等が気になるが、今はそんな事を気にしている暇はないな。
ちょうど良い、奴から色々と情報を聞き出すか。
その為にはまず奴の問いかけに応答しなければ…。

「そうだ!!今あんたに発砲したのは俺だ!!お前はそこで何をしている!!今すぐ手にしている物を地面に置き、その場から離れろ!!」

俺は奴に向かってそう叫ぶと再び奴に向けて銃を構え、そのまま姿勢でムリーヤに向かって前進する。


「私に向かって何を飛ばしたのかは知りませんが、不意打ちをしたり命令したりするとは良い度胸ですね。貴方は自身が人間だと言う事を自覚した上での行動ですか?」


奴への距離が縮まってきているせいか、声がはっきりと聞こえるようになってきた。

「…???人間と言うのはお前もだろうが。そして俺はお前が勝手に物資を物色し、更にその中の物を手にしているから威嚇攻撃をした。正当性はこちらにあるぞ!!」

「人間?私を人間だと思っているのですか?…やはり貴方は所詮、愚かな人間ですね。貴方には私のこの翼と尾が見えないのですか?」


……奴は何を言っているんだ?
自分は人間ではないと自ら否定し始めたぞ…。
それどころか俺の事を愚かな人間と馬鹿にし始めた…。
奴の気は確かか?
ムリーヤの破片が頭に当たったのではないのだろうか…。
…仮に奴が人間でないのなら、何故言葉が通じている?
言葉が通じている時点で人間と言う事が確定している気がするのだが…。
人間ではなかったら普通、言葉は通じないはずだ…。
俺はそう思いながら奴との距離を更に縮めていく。
…奴との距離が15mくらいになった時に、俺はとある事に気づいた。
……奴の顔や体だ。
顔はとても美しく、俺が今まで見てきた女性の中では一番だと思う。
そして体。
すらっと伸びた体はとてもプロポーションが良く、スタイルも良い。
……ついでに胸も…////
奴の胸は緑色の鱗みたいなへんてこな衣装に収まりきれていない。
…恐らく相当大きいのだろう……。
髪の毛は真紅のストレートで、腰の所まで伸びている。
とてもサラサラしてそうだ…。
…ッハ!!
今はそんな事を考えている暇じゃないぞ!!
全く、何て事を考えていたんだ俺は…。
ここが仮に戦場だったら、今ので俺は確実に死んでいたな…。
そんな事を考えながらも俺は更に奴との距離を詰めていき、ついに3mくらいの所まで近づいた。
俺は更にとある事に気づく。
奴の眼だ。
眼は金色で、瞳孔は縦に細長い。
…今まで見た事もない眼をしている……。
そう言う人種なのだろうか…。


「…?さっきから貴方は何をブツブツと言っているのですか?」


奴が言った。


「まぁ、そんな事はどうでもいいです。それより貴方、名は何と言うのですか?」


奴は俺の名前を尋ねてきた。
……俺は別世界に来てしまったかもしれないと言う仮説があるだけで、決して帰れなくなったと言う訳ではない。
しかも奴と出会った事で別世界と言う仮説が再度否定され始めているのだ。
奴は普通に人語を喋っているのだからな。
そう考えると別に名乗る必要性は無いか…。

「馬鹿な事を言うんじゃない。お前が先に名乗れ。相手にものを尋ねる時はまず自分からって言うだろ?」

「……癪に障る人間ですね…。まぁ良いでしょう。それでは私から名乗らせてもらいます」


奴は俺が偉そうな事を言った為か、若干不快感を露わにしながら名乗り始めた。


「私の名前は『シーウス・ラム・イージス』です。他のドラゴンとは違って由緒あるお家柄の出身です。…貴方の名は?」


俺は…どうしようか……。
わざわざ本名を語らなくても問題は無いよな。
…そうだ、作戦時のコードネームを使おう。

「…俺の名前は『ハンター・ツーワン』だ」

「ハンター・ツーワン……と言うのですか…。変わった名ですね。似たような名前は今まで聞いた事ない名前です」


…まぁ、そうだろうな。
今さっきとっさに思いついた名前だからな。
まっ、このば限りだからどうとでも言えば良い。


「ところでハンターさん、貴方はこれについて何かご存じなのですか?この白い巨体を見ても、あまり驚いてはいないようですが…」


あぁ、そうか、こいつは俺がムリーヤから出てきた事を知らないのか…。

「これは俺乗っていた輸送機だ。訳あって墜落しちまったんだ」

「そうですか。と言う事はこのユソーキ……とか言うのは何かを輸送する物なのですか?…まぁ、とにかくこれは貴方の物だったのですね。…そんな事はどうでも良いのです。いきなりですが、ハンターさん…」


そう言うと彼女は下に置いてあった銃を手に取り…


「これを全部私に寄越しなさい。そうしたら私に対する先程の無礼を許します。…勿論、宜しいですよね?」


……!?
こいつは唐突に何て事を言いやがるっ!!
銃火器を全部寄越せだと!?
俺がそんな要求を素直に飲むとでも思っているのか?
奴も手にしてる物がどんな物くらい知っているはずだ!!
それを承知の上で言っているのか!?
銃がどんなものくらい知ってんだろっ!!
それをいきなり全部寄越せとか!!

「馬鹿言ってんじゃない!!お前はこいつらがどんな物かくらいわかってんだろっ!!こいつらは絶対にお前に渡せない!!そんな事はいいから手に持ってる物を今すぐ地面に置け!!今すぐにだっ!!さもないと発砲するぞ!!」

俺はスカーをシーウスとか言う奴に向けて再び構える。


「……?これがどんな物かと言われても解りませんね。こんな物、私が今まで生きてきた中で一度も見た事がないのですから。…それよりさっきから貴方のその態度は何なんですか?人間如きが偉そうに。命令しないでくれます?…」


俺が譲渡を拒否したからか、奴は不機嫌な顔をしながら俺に言う。


「その様子だと、何が何でも譲ってくれなさそうですね…。分かりました…」


…良かった…。諦めてくれたか…。
一時はどうなる事かと思ったが、何とかなりそうだ。
俺は胸をなで下ろし、銃を下げた。
そしたら…。


「それなら貴方からこれを力ずくで奪わせてもらいます。私としてもこのようなやり方はあまり好みではないのですが、貴方が人間の分際で私に刃向かったのがいけないのですよ?」


…奴は更にとんでもない事を言い始めた。
力ずくで奪うだぁ?
……俺が構えている銃が奴には見えないのか?
だとしたら奴は相当な馬鹿だ。
まるで俺に撃って下さいと言ってるようなものじゃないか。
奴は更に言う。


「もう一度言います。これを全て私に寄越しなさい。素直に従えば痛い目には合わせません」


どんな理由があるのかは知らないが、奴は俺と戦闘になっても勝てると思っているらしい…。
……舐められたものだな…。
とりあえず穏便には済まなさそうだ…。
奴が何かを隠し持っていて、それが切り札なのは確かだ。
…どうやら一戦交える事になりそうだな……。

「何度言われてもそれはできない。例えあんたが襲いかかってきたとしても俺は決して渡さない」

俺はそう言うと、またまた奴に向かって銃を構える。


「…ふぅ、やはり貴方は愚かな人間ですね。良いでしょう、その手に持っている物が何だかは知りませんが、貴方からこれを奪い取ってみせます」


奴はそう言った瞬間自分の右手を振り上げ、俺に向けて思いっきり振り下ろしてきた……。
11/05/26 00:25更新 / GT_SIGNUM
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■作者メッセージ
※CoD4:MW2ネタへ合わせる為に登場人物の名前を若干修正、加筆するハメになりました!!
読んで下さった方々や感想を下さった方々、本当に申し訳ありません!!
(><;)

次回はお待ちかねのバトルシーンです。
(ネタバレ)が登場しますw

とりあえず今までに登場してきた兵器等の詳細情報です。
どんな物か解らない方はこちらを参照して下さい。↓

An-225(ムリーヤ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/An-225
SA-11(クープ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/SA-11
SCAR-H(スカー)
http://ja.wikipedia.org/wiki/FN_SCAR
FIM-92F(スティンガー)
http://ja.wikipedia.org/wiki/繧ケ繝・ぅ繝ウ繧ャ繝シ繝溘し繧、繝ォ
フラググレネード、フラッシュバン、スモークグレネード
http://ja.wikipedia.org/wiki/繝輔Λ繝・す繝・繝舌Φ

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