連載小説
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ヤッホーー!!と叫ぶのは常識です(前半)
 手にした水筒をバックにしまい込むと、紐を引き締める。キュッと音を立てて縛り上げるとバックを背負い、隣にいるアンテに話しかける。
「よし!行くぞ、アンテ」
「了解ですベルツ」
 オレに返事をするアンテも同じバックを背負う。
「ところで質問したいのですが」
 ルタの好意で貸してもらっている部屋から外に出ると一階へ向かう廊下を歩いてゆく。途中ルタとミュー、ルタの両親に挨拶をすると外に出て、暗くなり始めているラウンドの街中を歩き出す。
「何か聞きたいことでもあるのか」
 アンテは頷くと、背負ったバックを揺らしながら訊ねる。
「私たちはこれから山登りをするのですよね」
「ああ、そうだけど」
「では、街の中心部へ向かうのは如何してですか?まさか街中で迷子ですか」
 その指摘通り、オレたちは今この街の中心部へと向かっている。因みにオレの側には『ラウンド職人通り』の立札が自己主張している。言い訳は通用しませんよと睨みつけてくる。
 そんなアンテにオレは、真顔で答える。
「もちろん知っているよ。ルタに案内してもらったんだから」
 うんうんと頷くオレにアンテは更に詰め寄る。
「このバック、水筒以外入れていけないのは何故ですか?しかもカラですよ」
「それについては秘密だ」
 言い切るオレにアンテは渋々従う。
「突然送り付けられたモノなんですから、慎重に対応するべきです。全くベルツときたら・・・」
 二人で街中を歩き、何度か道を曲がると目の前にある店が姿を現す。その店を見たアンテは驚き、次に蔑むような顔をする。
「ここはサバトではないですか。まさか、入信されるのですか!遂にベルツも社会的落第者に・・・私が至らぬばかりに。マスターを守れないなんて、ゴーレムとしては失格ですね」
 両膝を着いて力なく項垂れるアンテに何を言ってるとばかりにチョップをくれてやる。
「いきなり何をするのですか!」
 額を押さえて抗議するアンテに、オレは指先で額をツンツンと突きながら顔を顰める。
「早とちりし過ぎだよ。ほら、取り合えず立って中に入るぞ」
「わ、解りました。だからそんなことしないでください」
 両手で額を庇いながら立ち上がったアンテは、言われるままにオレの後に着いてサバトに入った。

 受付をしている魔女に背中のバックを見せると、魔女は付いて来てくださいと歩き出す。
「お二人で最後になります。他の当選者の方たちはすでに集まっていますよ」
「時間までまだあるはずだけどな。如何やら待ちきれないみたいだね」
「はい。みなさん、早く時間にならないかとソワソワしています」
 オレと魔女が仲良く話していると、強烈な視線が背中に突き刺さってくる。恐る恐る振り返るとじーっとオレを見詰めるアンテの視線がそこにあった。
「えーと、如何したんだアンテ?」
「いえ、何でもありません」
「そうやって見られてると怖いんだけど」
「ただ見ているだけですから、問題ありません」
「・・・ひょっとしてヤキモチ?」
「?!き、気のせいです!ベルツは自意識過剰すぎです」
「あの〜〜」
「・・・顔を赤くして言っても説得力無いけど」
「勘違いです!気のせいです!目の錯覚です!」
「その〜〜お二人様?」
「本当かな〜?案外寂しかったんだろ」
「ですから」
「何故私が寂しがらなければいけないのですか!」
「だから」
「解っているくせに」
「・・・・・」
「解りません。何故私が」
「そんな風に拗ねてると」
「・・・グシュ、グスッ・・・ウエ〜〜〜ン」
「「ん?」」
「ヒック、ヒック・・・グスッ、グスッ」
 突然聞こえてきた泣声に二人が声のした方向を見ると、道案内をしてきた魔女が廊下に座り込んで泣きじゃくっていた。側を通り過ぎる人や魔物娘たちがヒソヒソと話している。その話し声に慌ててオレとアンテの二人で慰めだす。
「ど、如何したのかな?ほら落ち着いて」
「さあ、良い子ですから泣き止んでください」
「ヒック、グジュ、ヒック・・・う、うん」
 差し出されたアンテの手を掴むと立ち上がり、上目使いにオレたちを見つめてくる。その視線に二人してたじろぐ。
「グスッ、もう喧嘩しません?」
「ああ、もちろんだよ!な、アンテ!」
「え、ええ!そうですよ。もうしませんから」
 じーっと涙を浮かべながら見つめてくるので肩を抱き合い仲直りしたことを懸命にアピールすると、「良かったです」と頷き
   ポ ロ リ   ゴ ト ン
 ・・・・・・・・首が落ちた・・・・・
「「・・・・え??」」
 声も出せず二人で固まっていると首の部分がもぞもぞと動きだし笑い声と共に魔女の顔が現れる。
「あははは!ひっかかりましたね!大成功です!」
 やったやった!とその場で飛び跳ねている魔女にアンテはポカンとしている。オレは落ちている首を拾い上げるとそれを眺めてから、魔女に渡しながら感想を伝える。
「まさか、こんな仕掛けをするとはね」
 オレの感想に魔女がえっへん!と胸を張り
「魔法を使うと思い込んでいるところがミソなのです」
「・・・騙されました、正に盲点ですね。・・・・それにしても良くできていますね」
「そこはサバトの魔術とドワーフさんの技術によるモノです」
 作り物の首を肩に置いて微笑むと同じ様に微笑む。並べて見ると見分けがつかない出来栄えだ。
「これは売り物ですか?」
「まだ実研段階です。ゆくゆくは商品化しますので、そのときはぜひ」
 扉の前に立つとドアを押し開きながら魔女が話す。
「それではどうぞ楽しんでください」


 中に入るとそこは魔法陣が床に描かれているだけのシンプルな部屋だった。そのまま魔法陣に踏み込むと光が周りに浮かび、二人とも目を瞑ってしまう。やがて、光が弱まってきたのでゆっくりと目を開けると岩肌が目に飛び込んでくる。隣りにいるアンテも驚いていたが、すぐに落ち着くと周りを見回し状況分析を開始する。
「音波スキャンスタート・・・洞窟ですね。前方20m先に出口があります。衛星探査が出来ませんのでここがどこかは解りません・・・出口付近に多数の人影を確認しました。何者かが居るようです、気を付けてくださいってベルツ!そんな不用心に歩かないでください!」
 先にたって歩き出したオレに忠告してくるが、手招きをして逆に呼びかける。
「そんなに用心しなくて大丈夫だよ。それより早く来いよ」
「どんな危険があるか判らないのですよ!用心するのは当たり前です!」
「サバトの転送魔法陣を使った先だ、心配無いって」
 そんなことを言い合いながら洞窟をでると、広い場所が現れる。頭上には青空が広がっており、左側は数十m先で地面が切れている。その先は遥か彼方まで空と違った青、海が広がっている。右側には黒い岩肌が斜面を形成しており、ここに山がありますと雄弁に語っている。
「・・・ここは・・・島ですか?」
「どこかの島だと聞いたことがあるが、それ以上は判らないんだ。サバトが秘密にしてるからな」
 広場の一角にある受付と幟が立っているテントに向かいながら話す。
「これるのは当選者だけ、そのうえ」
 受付の青年から渡された腕輪を嵌めてみせる。
「これで魔力を封印するからな」
「!!そんな事をして、もし教団に襲撃されたら」
「なに心配はいらないぞ!」
 オレが二人分のバックを受付に渡すと唐突に声を掛けられる。
 アンテの側にいたアマゾネスが振り向きざま豪快に笑い飛ばす。
「この島全体を結堺で包んでいるからな。砲弾を撃ち込んでもビクともしないシロモノさ。そのうえ、300mの垂直の崖を登ってこないといけないし、空はハーピーですら渡れない乱気流が入り乱れているからな。もし仮に来れたとしても」
 背中の大剣を指さしながら言い放つ。
「その時はアタシのオモチャになるだけさ!」
「そうみたいですね」
 愉快そうに話すアマゾネスにアンテは納得する。
「非常時にはこの腕輪はすぐに外れるから安心すると良いよ」
 オレの言葉に頷くアンテだが突然、はっとした顔をする。
「あそこにいるハーピーは腕輪をしていませんよ」
「履いているブーツがそうだよ。足の爪を保護するのも兼ねているからな」
 そうしていると、受付の青年から準備が出来ましたと膨らんだバックを二つ渡される。片方を背負うともう片方をアンテに背負わせ、集まり始めた彼らと共に歩き出す。そのまま受付した順に並び点呼をとると、簡単な自己紹介を始める。アマゾネスとその夫の少年みたいな青年(メロウの血を飲んだため)、ハーピーとその相棒、ミミックとその恋人、そしてオレとアンテの8人が挨拶を終えるとオレたちの前にあるお立ち台にバフォメットと受付をしていた青年が姿を現す。如何やらバフォメットの夫、兄様らしい。かなり高くしてあるため居並んだ全員を見下ろした形になり、バフォメットの顔に満面の笑みが浮かぶ。
 それを見たオレは素早くアンテの口を塞ぎ黙っている様に注意する。頷くアンテの前でお立ち台に立ったバフォメットが入山に当たる注意点を説明し始める。要約するとゴミは持ち帰る、動植物を取ってはならない、無闇に魔法を使ってはならない、お互いに助け合うといったことを話し、山を守るため入山中の性行為は禁止といったことを付け加える。
「この注意事項を守らぬときは、罰として快楽封印一年の刑じゃからな。心しておくようにの」
 途端に全員の顔がサッと青ざめる。それを見たバフォメットはにんまりと笑みを浮かべると持っていた杖を高々と翳して宣言した。
「それでは出発じゃ!これよりここにいる者たちはパーティーじゃ!皆の者、パーティーリーダーの我に付いてまいれ!」
 こうして総数十人による登山が開始されたのだった。

          −−−−登り始めて30分後ーーーー

「兄様〜〜、疲れたのじゃ〜〜〜・・・・オンブして欲しいのじゃ〜〜〜」

        ーーーー更に15分後ーーーー

「疲れたのじゃ〜〜〜!歩きたくないのじゃ〜〜〜!もう帰るのじゃ!!」

         −−−−更に5分後ーーーー

「ZZZ−−−−。やったぞ、頂上なのじゃ〜〜〜!ZZZ−−−」

        ーーーー登り始めて三時間ーーーー
 
 足下に転がっている石に気を付けて山道を歩いていると、アンテが声を掛けてくる。
「ベルツ、そちらの石に注意してください。その石は浮き上がっているので足を置くと危険です。その手前の石なら安全です。次はその斜め前の」
「アンテ・・・指示は出さなくても大丈夫だよ」
「ですがベルツ、登山に危険は付き物です。落石や落雷、雪崩等色々な」
「・・・確かにそうだけどさ。この辺りはそこまで注意する必要は無いだろ」
 ぐるりと周りを見わたして指摘する。
「山道はまだ土でしっかりしている、空は快晴、雪は何処にもない。この状況で何所に注意するんだい?」
 オレの指摘にアンテは尚も言い募ろうとすると、広場で声を掛けてきたアマゾネスが笑い飛ばす。
「んなに気にすること無いって!細かすぎるぜ!」
「ですが、マスターの安全を守るのが私の務めです」
 断言するアンテにアマゾネスは、やれやれと頭を掻く。オレも困ったなと眺めていると、その光景が眼につく。一人の青年が大きな宝箱を背負って歩いている。確か彼の恋人でミミックだと言っていた。フウフウと荒い息遣いをしており、かなり疲れているみたいだ。全行程の三分の一を彼女を背負っているのだから体力は相当あるのだろうが、これから先のことを考えてみると不安に思える。そんなことを考えていると、先頭にいるバフォメットを背負った青年、兄様が休憩を伝える。その合図にパーティーのメンバーたちは岩の上や山肌に腰を降ろして座り出す。オレはアンテに近づくと声を掛ける。
「アンテ、ちょっとついてきてくれ」
「了解しました、ベルツ」
 オレがアンテと一緒に近づくと、青年は丁度降ろした宝箱から現れたミミックに汗を拭いて貰っているところだった。気軽に挨拶すると二人とも挨拶してくる。
「やあ。調子はどうだい?」
「ええ、ちょっと疲れたけどこれくらい平気だよ」
 そうかと頷くとオレは二人に提案する。
「ところで、これから先なんだけど。見れば解るはずでかなりの急勾配だ。君一人だとかなり辛いと思うんだ」
 聳え立つ山は悠然と待ち構えており、二人の顔に不安が浮かぶ。
「そこでだ。君の彼女をアンテに運んでもらい、代わりにアンテのバックを君に運んでもらう。どうかな、この提案?」
「何故そんなことを言うのですか?」
 逆に聞き返してくる青年にオレは、はっきりと言い切る。
「このままだと登頂出来ないからだ」
「ベ、ベルツ!何てことを言うのですか!」
 驚いたアンテが間に入ろうとするのを、制止させて理由を伝える。
「体力は相当あるんだろうけど、これから先だと無理だろ。それに出発時に言われた様に、ここにいる皆はパーティーだ。パーティーなら協力し合うのは当然だろ」
「・・・・・・」
 オレの話に青年は黙っている。そんな青年に、オレは諭す様に語る。
「自分の力で連れて行きたいのは分かるけど、無理をして倒れたら意味は無いだろ。見栄を張りたいのなら別にチャンスはあるはずだ」
「・・・・・・」
「・・・・ねえ」
 暫くして沈黙していた青年が軽く肩をすくめると、隣りのミミックに振り向き苦笑いする。
「ごめん、この人の言う通り僕だと無理だと思うから・・・情けないよね」
「ううん、そんなこと無いよ!」
 青年の手を握ると首を横に振ってミミックは笑う。
「ダンジョンの中にいるだけの毎日、見上げても石の天井だけ、埃臭いあの場所から連れ出してくれたのは貴男だもの。貴男は私の勇者様だよ」
「よし、決まりだな」
 二人に告げると、オレはアンテに指示する。
「ミミックの彼女を背負って登頂する、いいなアンテ」
「しかし私の能力でしたら彼女だけでなく」
「いや、背負わせてもらうよ」
 アンテのバックを掴むと「これ位の見栄は張らせてくれ」と背負って歩き出してしまう。その行動にアンテが驚いていると、何時の間にか横にいたアマゾネスがミミックを指さして
「おら、行くぞ!そいつを連れて行くんだろ。とっとと背負えよ!」
「あの、宜しくお願いします」
 申し訳なさそうなミミックにアンテは微笑んで胸を張る。
「任せてください。貴女を無事山頂まで連れて行きますので、大船に乗った心算でいてください」

          −−−−登り始めて六時間ーーーー

 山の中腹より更に上のところにある広場。そこにパーティーが到着すると臨時リーダーの兄様がバフォメットを背負ったまま、ここに泊まることを伝える。因みにバフォメットは未だ夢の中で、だらしなく涎を垂らしていた。そんなバフォメットを優しく降ろした兄様はメンバーにこのまま寝かせておいて下さいと伝えた。
 背負っていたバックを降ろすと中身を確認してからテントの入っている袋を取り出し、テントを組み立て始める。骨組みを組み立てると、中に吊るすための袋を広げているところでアンテがオレの傍にやってくる。
「アンテ、向こうの端を持って押さえるんだ」
「了解です。ところでベルツ、何をしていらっしゃるのですか?」
「テントを建ててるんだ。これをしないと、今夜は寝れないぞ・・・それをそこに・・・そう、その輪にこの骨を通して・・・次はそこに引っ掛けて」
「こんな事をしなくても魔法で・・・魔法は使えないんでしたね。これはここですか?」
「そうそう・・・あとはこれをこうして・・・よし、出来たぞ!」
 パンパンと手を叩きながら立ち上がるとバックをテントの中に仕舞い込んで重し替わりにする。それからアンテに振り向くとバックの中身を確認させる。
「調理器具に食糧、寝袋ですね。ですが器具は大きな鍋だけ、食糧も肉の塊だけですが・・・こんな大きな塊で如何しろと」
 不思議がるアンテにそれを持って広場の一角に向かう様に言うと、オレも固形燃料を持ってその隣に向かう。周りを視まわそうとして立ち止まると、そこに屈んで作業をしていたアマゾネスが手を上げて呼び掛けてきた。
「おう、こっちこっち!竃、作っといたぜ!」
 アマゾネスの言葉通り、石で組んだ竃が出来上がっている。急拵えにしては中々の出来栄えだ。
「随分と丈夫そうだな。慣れてるのか?」
「狩りをしていれば嫌でも慣れるさ」
 その代り、料理はダメなんだと苦笑いするアマゾネスにそんなもんさと答えながら燃料を置いて火を点ける。火が点いたのを確認すると、彼女に火の番を任せてそのまま残り二つの竃にも火を入れる。側にいたハーピーに竃を一つ任せると、オレも目の前の竃に向き直る。
 風を時々送り込んだり、身体で塞いだりして燃え過ぎず消えない様に調節していると「こちらの竃を使わせてください」と水を入れた大きな鍋を持ったアンテがやってくる。
 竃の上に鍋を置く様に指示すると、風を送りみ火力を強くして沸騰する様に務める。その行動をアンテは興味深げに見つめていると、大声で呼ばれている声に気が付く。ミミックが手招きをして催促していた。其方では、少年が野菜や肉にパンをを切り分けている。
「早く行ったほうがいいぞ」
 オレの指摘にアンテが大急ぎで向かうのを見たアマゾネスが首を捻る。
「竃の火がそんなに珍しいのかい?」
「こんな風にしているのを見たことが無いからな」
 オレの話にアマゾネスはそうかいと呟くと隣に目を向け
「コイツのが面白いと思うがね」
と断言する。
「わ〜〜ん、煙いです。ゴホッゴホッ!ひ〜〜ん、目に染みます〜。熱ッ!羽が燃えちゃう〜〜。このままここにいると焼き鳥になっちゃいます〜〜。でもでもお仕事、頼まれたのですからやり遂げませんと・・・でも怖いです〜。」
 竃の火と必死に格闘するハーピーを見ながらアマゾネスが訊ねる。
「アンタさ。これ、狙ってたのかい?」
「タマタマダヨ」
 惚けて答えるオレにアマゾネスは肩をすくめると自分の竃に向き直る。ハーピーの悲鳴が辺りに流れた。
「焼き鳥はヤです〜〜」
 その後、視回りから帰ってきた相棒に竃係を変わってもらったハーピーは大急ぎで羽を冷やすためにその場を離れる。

 ・・・メニューはみんな大好き、パーティー料理の定番カレーでした・・・
 
 夕方、日が沈み始めるころ明日の工程が伝えられる。
「明日は日の出とともににここを出発しますので、見張りの順番を決めたら当番以外の方たちは寝ることにしてください」
 伝達が終わり見張りの順番を決めると、直ぐに振り分けられたテントに入り込んでしまう。因みに振り分けは4:4:2で当然2はバフォメットと兄様だ。
 夫の少年と一緒に早々と寝袋に入り込んでしまうアマゾネスを見たアンテは労わるように眺める。
「大分疲れていたのですね」
「明日は早いからな」
 オレも寝袋に入り込むとおやすみと言って横になる。疲れていたのかオレも早々と眠りにつけた。
 
「ベルツ、起きてください。時間です」
 身体を揺すられながら、声を掛けられたオレは身体を起こすと両手を伸ばそうとして動かせないことを不思議に思いアンテに訊ねる。
「なあアンテ。オレの両手が動かないんだが、如何してなんだ?寂しいのならこんなに力一杯抱きつか・・・ヒャイテテテ」
 痛みに目を見開くとアンテが澄ました顔でオレの頬を抓っていた。
「目が覚めましたか」
「ヒャメマヒヒャ!(覚めました!)」
 それは何よりですと微笑むと漸く手を離す。
「見張りの交代です。さあ、外にでましょう」
 寝袋から這い出すと目を擦りながら一緒にテントの外に出る。両手を伸ばして身体を解していると、空を見上げているアンテがいた。見張りをしていたハーピーたちに交代を告げると隣に歩いてゆき、空を見上げる。沢山の星が輝いている光景に佇んでいると、隣りで立っていたアンテがオレに振り向く。
「ベルツ、喜んでください。もうすぐ位置がおおまかですが確認出来ます」
「・・・確認?」
「はい。衛星が使用不可能のため時間が掛かりますが、見張りの時間を使えば大凡の見当が出来ます」
「あ、それはしなくていいよ」
 案の定、怒り顔で詰め寄ってくるアンテに見張りを優先する様にと話す。それから再度空を見上げる。
 キラキラと輝きを放つ星々がいたるところに散りばめられている。見つめ続けていると、降り注いできそうに想える。満天の星空と云う言葉に想いを馳せながら見上げている。そんなオレをアンテは訝しげな顔で見つめていた。
 
「ヨロシイノデスカ?」
「はい、お願いします。やってください」
 可笑しなことをしますねと呟くと、アンテは再度全員を見まわす。全員が両耳を塞いでいることを確認すると、左手にお玉右手に小鍋を掲げ宣言する。
「いきます!秘技『狂戦士(バーサーカー)の雄叫びーーー!!!』」
 そして響き渡る大音量!!!
 確りと塞いでいても聞こえてくる音に全員が顔を顰めていると、寝袋ごとバフォメットが起き上がり
「ZZZZ〜〜〜〜〜」
 割れないどころか大きく膨らむ鼻提灯を見たアンテは再び両手を掲げると再度宣言した。
「・・・再び『狂戦士の雄叫びーーー!!!』」

 差し込み始めた朝日を背にしながら、オレは夕食の残りを温める作業を始める。その向こうではテントを畳む者、朝食の皿を用意する者と順序良く行われている。そんな光景にアンテは頷く。
「これこそ私の理想の光景です」
「うむ、正にその通りじゃ。そこでじゃ、この光景を広めるためにも我がサバトに」
「いえ、それは断ります」
 つれないの〜と膨れるバフォメットを置いて、皿を持ってきたので温めたカレーを盛り付けるとアンテは手近の岩に腰を降ろす。
「サバト云々は兎も角として、この光景を広めるのは賛成ですね」
「そのうち当たり前になるさ」
 そんな事を話し合いながら朝食を食べ終えると、後片付けを始める。
 身体を解すために軽く体操をすると、アンテは宝箱を、他のメンバーはバックを背負い隊列を組む。
 「出発じゃ!」
 バフォメットの号令のもと、日が登り始めた山道をパーティーは歩き出した。
12/01/26 23:46更新 / 名無しの旅人
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■作者メッセージ
初めて二つに分けてみました。気楽に見てください。
『狂戦士の雄叫びーーー!!!』は作者の体験をヒントにしました。
ベルツはオアシスに滞在していた間に応募して当選しました。

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