連載小説
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本当にあるんですね
「う〜〜ん。ああ、山はいいな〜」
「・・・ええ、そうですね」
「ほら、見ろよ!麓なんて緑色だぞ。あれがオレたちが通り抜ける予定だった草原なんだな」
「・・・はい、そうですね」
「アンテ、如何したんだ?そんな苦虫を噛み潰した様な顔をして」
「・・・ベルツ、貴男はこの状況が解っているんですか?」
「山の頂上にいるんだけど」
「・・・では、私たちはどの様にしてここに来たのですか?」
「それなら簡単だよ。ドラゴンに馬車ごと連れてこられたんだろ」
「よくそれで呑気にしていられますね!!!!」
 怒り顔で詰め寄るゴーレムのアンテにオレはまあまあと宥めながら、後ろをチラッと見遣る。そこでは、ドラゴンが大きな口を器用に使って馬車に積んであった荷物を選り分けていた。

 オアシスから出発して五日。二頭の馬に牽かれた馬車は街道を進んでゆく。途中の乗り合い場にて一人の商人に三人の冒険者たち、一人の少年を拾い馬車は街道を進んでいった。
「そうか、あんたらはオアシスからか」
「何かウマい儲け話はなかったか?」
「近くで新しい遺跡が見つかったってくらいかな」
 オレの話に商人と冒険者たちが食いつく。
「規模はどんななんだ?」
「もう誰か入ったのか?何か見つかったのか?」
 その質問にオレは笑いながら答える。
「サバトが調査隊を出すっていってたな」
「か〜〜!それじゃ、宝は望み薄だな」
「ふ〜む。何か新商品に成りそうなものが在ると良いのですが・・・」
「でもよ、もしかしたら何か残ってるかもしれないぜ」
「いや、それはたぶん無理だろ。サバトの調査隊だぞ」
「けどさ見つかったばかりの遺跡だろ。何かしら残ってるかもしれないだろ」
「・・・まずはサバトに話を持ちかけて・・・いや、様子を見て・・・それとも直接、その遺跡に・・・」
 独り思案顔で呟きだす商人、仲間同士で議論を始める冒険者たち。彼らが向かい側の席で話し始めたため、オレは隣りに目をやる。そちらではアンテが一人の少年と話していた。
「それではルタは故郷に帰るためにこの馬車に」
「はい。働きに出て六年、漸く独り立ちを許されたのです。両親にこのことを伝えて、そのまま店を出そうと思いまして」
 胸に付けたブローチを眺めながらルタは嬉しそうに語る。
「中央部に緑の石、両脇に伸びたこの銀の棒は木の枝ですね。ではルタは細工職人ですね」
「まだ店も無い新人ですけどね」
 楽しそうな二人の語らいを邪魔するのも悪いと思ったオレは寝ることにすると、座席に座り直してそのまま目を瞑った。
 
 それから三日後・・・事件は起こった。

 山裾に広がる平原を馬車は進んでいた。周りには背の低い草が青々と茂っている。砂漠から変わった光景にアンテは興奮して窓から身を乗り出す。
「凄いですよ、ベルツ!砂が無くなって今度は植物だらけですよ!これが噂に聞く草原なんですね!」
 上半身を出しているアンテに御者が危ないですからと注意をするが、聞こえていないらしくそのままでいる。窓の枠を掴み、両足をバタバタさせてはしゃいでいる姿に商人と冒険者たちが笑い出す。
「おいおい、こんな草原でここまで騒げるなんて」
「ゴーレムの嬢ちゃんは、オツムが足りないらしいな」
「お連れさんよ。落ちないように気を付けるんだぞ」
「良かったらいい病院紹介しますよ」
 笑い合う彼らに対してオレは、笑いながらアンテの腰当てのベルトを掴んで落ちない様に支える。するとオレを気遣うようにルタが話しかけてくる。
「でもアンテさんの気持ち、僕も解りますね。初めて砂漠を見た時、僕も興奮しましたから」
「ここまではしゃいだのかい?」
「・・・いえ、ここまでは」
 オレの意地悪な質問にルタは苦笑いする。それからアンテを馬車に引きずり込むと、身を乗り出さない様に注意したうえで観察を許可する。
「あ、あそこにウサギがいますよ!あちらには小鳥ですね。二羽ですからたぶん夫婦・・・それとも兄妹、親子?色々考えてしまいます」
 窓枠に手を乗せて外を見ているアンテに倣うようにオレとルタも観察に加わる。アンテが指さす方向に目を凝らしてみるが、見つけることが出来ない。隣りのルタも見えないなと呟く。そうしてオレたち三人が話し合いながら馬車は草原を進んでゆく。
 草原を進んでゆくこと四時間。休憩のため馬車を停めると御者が恐怖に震える声で話し始める。
「これからドラゴンのテリトリーに入ります」
 ドラゴンのテリトリー・・・ほんの二週間程前に草原の先にある山にドラゴンが住み着き、山と草原を自分の縄張り=テリトリーとしてしまい街道を通過する馬車を襲っているのだという。
「本当に大丈夫なんですね」
 不安がる商人に冒険者の一人が腰に下げた剣を見せながら笑い飛ばす。
「心配しなさんな。オレはこの剣でサラマンダーを一気に十人打ち負かしたんだぜ。しかもこの剣はな、伝説の名剣『スレイヤー』なんだぜ」
 その言葉に御者と商人が驚く。
「この世界に措いて斬れぬものはないと云われたあの名剣ですか!」
「噂では最早存在していないと」
「だが、ここにこうして在るんだぜ」
 不敵に笑うと鞘から引き抜いた剣を翳して見せる。太陽の光を受けて輝く刀身が現れるのを見て、おお〜〜と声が上がる。
「アンタらは大船に乗った積もりでいるといい。そのドラゴンもコイツの錆にしてやるからよ」
「アニキに掛かればドラゴンなんてただのトカゲですよ」
「ついでにドラゴンの財宝も手に入れちまいましょうぜ」
 財宝の話に二人とも色めき立つ。
「ドラゴンの財宝・・・・」
「それがあれば会社を作ることが出来ますね。しがない旅商人をしなくて済みます・・・ぜひ、私にも乗らせてください」
 ドラゴンを倒した後のことを話し合う五人を眺めていると、ルタが不思議そうな顔をしているのに気が付く。オレが近寄り訊ねると声を潜めながら質問してくる。
「・・・ベルツさん。あの人の剣、本当に『スレイヤー』なんですか?」
「ルタはあの剣を見て如何思う?」
 オレの問い掛けにルタは目を瞑ると自信の無さそうな声で答える。
「僕が言うのもなんですけど・・・如何も違うように思えて」
「つまり、あの方は嘘を吐いていると」
 歩き出そうとするアンテを引き留めると、案の定オレを睨みつけてくる。
「何故止めるのですか?確認するだけですよ」
「黙って見ていた方が面白い」
 オレの提案にアンテは反論しようとするが、ルタがやんわりと断る。
「いえ、たぶん僕の気のせいですよ。ドラゴンのテリトリーに入るので緊張していたから、変な勘違いをしたんですよ。済みません、可笑しなことを言いまして」
「ま、本人もこう言っていることだし。このことはオレたちだけの秘密ということにして、出発の手伝いをして来なさい」
「・・・・解りました」
 オレの指示を受けたアンテは馬車に向かって歩き出し、ルタもそれに続く。そんな二人を見送るとオレも馬車に向かって歩き出した。
(少なくとも実力は中の中くらいかな)

 御者台に新たにアンテが座ると再び馬車は草原を進み出した。
 アンテの能力で周囲を警戒しながら進みドラゴンに見つからない様にする。もし見つかったらオレとアンテ、冒険者たちで迎え撃つ。事前の打ち合わせでこの様に決めていたのだが、この作戦は意味を成さなかった。ドラゴンの持つ秘密兵器に依って。

「・・・今のところ馬車の周囲に動くものはありませんね」
 アンテの報告に恐怖と不安を抱きながら馬車は草原を進む。
 それから進むこと暫し。
 ソレは突然降ってきた。轟音が辺り一面に響き渡る。そしてオレたちが目にしたのは・・・・
「な、なんだこれは?」
「・・・・・鉄格子ですね」
 オレの質問にアンテが答える。アンテの答え通り、馬を含めた馬車の周り全てが鉄格子で囲まれているのだ。
「この鉄格子が空から降ってきたのです」
 アンテの説明に全員が上を見上げると、黒い巨体が降りてきた。太陽の光を受けた鱗は緑に輝き、巨大な足で天井部分の鉄格子を掴むと翼を羽ばたかせ、鉄格子を突き刺した地面ごと持ち上げ、尻尾を振り巨大な身体を山に向けると悠々と飛んでゆく。
 誰もが呆然としているなか、アンテが呟いた。
「ドラゴンとはこの様にして狩りをするのですね。何とも大胆かつ豪快で、素晴らしいです。ぜひ私もチャレンジしてみたいですので、教えてくださいませんか?」


 山頂の一部分にある、城二件分の広さがある空地に獲ってきた獲物=馬車を降ろす。そのまま両足で跨ぐ様に自らも降り立つと両手を使い、鉄格子を突き刺した地面から引き抜く。引き抜いた鉄格子を馬車の向こう側に置くと小山程ある巨体を反対側、ほぼ直角の崖が麓まで続いている場所を背にして座り込むと正面にある馬車を見つめる。
「出てくるがいい。その様なものに籠城しても意味はないぞ」
 低い威厳あるドラゴンの声が響き渡る。その声に二頭の馬は、地面に座り込んでしまう。更に伸ばした首まで地面につけ固まってしまう。
 この危機的状況に対して馬車の中では話し合いが行われていた。
 飛んでいる内にアンテと御者も馬車の中に入り込んでおり、今はオレの隣りに座っている。そのアンテと御者に商人が騒ぎ立てる。
「どういう事だ、ちゃんと見張っていたのか!」
「もちろん見張っていましたよ!」
「私のレーダーにも反応はありませんでした。つまり索敵範囲外から鉄格子を落としてきたのです」
「そんなんは如何でもいい!この状況、どう責任を取るのか聞いているんだ!何かあったら、全部あんたらのせいだからな!」
「待ってください、わた」
 反論しようとするアンテの口を塞ぐと、扉を指さしながらオレが提案する。
「まずは、外に出ようじゃないか」
「そうだな。ここでこのままと言うわけにもいかないしな」
「兎に角一度出ましょう。ドラゴンとはいえ行き成り襲うことはないでしょう」
 ルタの言葉に促されると、オレを先頭にアンテ、ルタ、冒険者たちと続き最後に商人が出てくる。
 出てきたオレたちを一通り眺めると、ドラゴンは馬車に積まれている荷物を目の前に降ろすように命令する。言われるままに少ない荷物を並べるとドラゴンは臭いを嗅ぎ始める。
 その光景を見たアンテは首を傾げる。
「あのドラゴンは何をしているのですか?」
「さあ、何か探しているんだろ」
「でも何を探しているのでしょうか?」
「それは解からないけど」
 フンフンと鼻を鳴らして一つ一つ嗅ぎまわっているドラゴンの姿にアンテがため息を吐く。
「ドラゴンとは最強の魔物ですよね?これではドラゴンとは言えませんよ」
 箱の中に鼻先を突っ込んで熱心に嗅ぎまわっているためアンテの発言は聞こえていないらしい。尻尾を振りながら行っているこの姿は確かに何かの愛玩動物を思わせる。が、何かの執念を感じる。
(こうまでして探すものって)
「あの・・・これは一体?」
「ドラゴンさんは探し物をしているそうです」
「そ、そうですか・・・」
 振り向くとルタがアンテに質問していた。困惑しているルタにアンテは気にしない方がいいと伝えている。そのまま奥に目を向けると残りのメンバーたち五人が地面に這いつくばって動き回っている。こちらも探し物をしているらしい。たぶんドラゴンの宝とか鱗だろう。
「彼らも探し物ですか?」
「そうらしいな」
 ドラゴンさんと同じものを探しているのでしょうかと呟くアンテの側を通り抜け、ドラゴンの傍に歩いてゆくとオレはドラゴンに話しかける。
「なあドラゴン。お前、何を探しているんだ?」
 アンテが慌てて止めに入るが、それを制すると再度訊ねる。
「話してくれないか。もしかしたら手助けできるかもしれないだろ」
「・・・お願いします、教えてください」
 オレに倣ってルタも訊ねる。
 黙ってドラゴンを見つめ続けると、暫くしてドラゴンが振り返りオレとルタを睨みつける。
「人間。お前が我を助けるというのか?空を飛ぶこと叶わず、地に這いずり回るだけの矮小なお前が?この我を手伝うと言うのか?」
 低い声に殺気と魔力を込めてドラゴンが脅しを掛けてくる。それだけで周りの空気が重くなり、倒れ込みそうになる。後ろにいるルタにも重圧が襲い掛かる。その異常事態にアンテが息をのむ。
「そんな、ベルツとルタだけ重力異常が・・・・」
 重圧を受けながらオレは、立ち続けようと全身に力を入れて踏ん張る。ルタも歯を食いしばり耐えようとする。声を上げることも出来ず、意識だけ保つことに集中する。
 不意に身体が軽くなると思わず目を見開いて激しい呼吸をする。隣りではルタも同じ様に両手と両膝を付いて激しい呼吸をしている。
「二人とも、大丈夫ですか?」
 アンテに少しだけ笑いかけると、顔を上げてドラゴンを見つめる。ルタも苦しい表情をしながらも見上げていると、ドラゴンの目が細められる。
「・・・我が探しているものは石だ」
「え、石ですか?」
 アンテの質問にドラゴンは語り始める。
「我がまだ幼いころ、住処を持たず放浪していたころだ。我が初めて自らの意思で美しいと思い手にしたものだ。住処を求め彷徨う時も、肌身離さず持ち続けていたのだ。それがあの時、同族との争いで落としてしまい」
「無くしてしまったんですね」
 ドラゴンは三人に向き直ると疲れた声で話す。
「以来探し続けているのだ。他に素晴らしい宝を見付けようとしても、あの石が思い浮かぶのだ。あの石は我に初めて美しさを教えてくれたのだ。我にドラゴンとしての生き方を教えてくれたのだ。だからせめて欠片だけでもと思い、こうして浅ましく探し続けているのだ」
 アンテは立ち上がるとドラゴンに笑いかける。
「ドラゴンさんが羨ましいです」
「我が羨ましい?」
 頷くとアンテは自分のことを話し始める。
「私は数週間程前、ベルツの手で目覚めめました。目覚めたばかりの私にはドラゴンさんみたいに生き方を見付けられてません。だからドラゴンさんが羨ましいです」
 アンテの話にそうかと頷く。
「だが、そなたにはマスターがいるのだろ。ならば見つかるだろう、必ずな」
「それならドラゴンさんも見つかりますよ、必ず」
「こやつめ」
 そうして暫く笑い合うとオレは石について聞いてみる。
「それで色とか大きさとか解らないか?」
「緑色をしている、大きさは我が手にしていたころは今の我が姿で丁度持てる位のものだ。日の光に翳すと右側に黄色の光を左側に蒼色の光を放つのが特徴だ」
「珍しい特徴ですね、二色の光を放つなんて」
「何処かの街の宝飾店にあるかな?」
 二人で話しているとルタが手を上げる。
「その宝、僕知っています」
 突然の言葉に二人と一匹が驚くなか、ルタはブローチを外すと太陽に翳す。ブローチの緑の石はドラゴンの言う特徴通り右側に黄色、左側に蒼色を映し出す。
「少年よ、何処で手に入れたのだ?」
「ここから南の国にある国営ギルドで検定試験の合格として受け取りました」
 ドラゴンの問い掛けにルタは答えるとブローチを差し出す。
「差し出がましいお願いで申し訳ありませんが、この欠片を渡す代わりに国に向かい石を取り返すことを諦めてはもらえませんでしょうか?」
「ちょっと待ってください。ルタ、本気ですか?そのブローチを手に入れるために六年の修行に耐えたと貴男は」
 アンテの制止にルタは笑顔で答える。
「石を取りに国に行けば、争いが起こる。僕の六年で誰も傷付かないならその方がいいんだよ」
「ベルツ!貴男からも止めるように言ってください!」
 それに対してオレはこう答える。
「ルタの人生だ、ルタの好きにするのが当然だろ。止める権利は無いさ」
「それでいいのですか!ご両親に報告するのでしょう!」
「また頑張ればいいんだよ」
 その態度にアンテは勝手にして下さいと横を向いてしまう。
 怒って横を向いているアンテにルタはありがとうと伝えるとドラゴンの前にブローチを差し出す。
「・・・・良いのか?六年の時を無駄にするのだぞ」
「構いません」
 その言葉を確かめる様にドラゴンはルタをじっと見つめる。ルタも自分の気持ちを込める様に見つめ返す。それから暫くしてドラゴンが頷く。
「いいだろう。お前の心意気に免じて国に向かうことは止めよう。欠片だけでも見つかれば十分だからな」
「ありがとうございます」
 深々と頭を下げるルタを見て、アンテは信じられませんと文句を言う。そのアンテをオレが宥めていると、ドラゴンがまた命令をしてくる。
「結界を解くゆえ、愚か者共を連れてくるといい。麓まで送ろう」
「何時の間にそんなものを用意していたのですか?」
「お主のマスターの人間が我に話しかけてきたときからだ。あまり聞かせるものではないからな」
「確かにそうですね。ことに依っては喧嘩を売っている様にも見えますからね」
 そんな話を聞きながらオレは、麓に帰るために馬車に乗るよう彼らに伝えた。オレの話を聞くと我さきにと馬車に乗り込んでゆく。全員が乗り込み扉を閉めるとドラゴンの声が響き渡る。
「大人しくしているがよい」
 両脇に馬を抱えると片足で馬車の屋根を鷲掴みしにして崖に向かって飛び出す。落ちていく最中に翼を広げ上昇気流に乗ると、空高く飛び上がる。こうして馬車は平原の一番端、麓の街の傍まで送リ届けられたのだった。


 街の入り口でオレとアンテとルタの三人が降りると馬車は夕闇に沈む街道を走って行く。その馬車を手を振り見送ると、ルタが付いてきてくださいと歩き出す。
「しかし、宜しいのですか?部外者である私たちがおじゃましても」
「何言ってるんですか。一緒に旅をしたんですから僕たちは友達ですよ。友達を持て成すのは当然です」
 それにこの街は魔物にも寛容ですからと説明しながら歩いてゆく。言われるままに周りを見るとワーウルフやホルスタウルス、グリズリー、アルラウネ、ワーラビット等、人々に混ざって魔物たちも沢山見かける。
 やがて一軒の家の前に案内される。家の扉の前に立ったルタはオレとアンテに振り向くとここが僕の実家と紹介する。
「ただの古臭い家だけど入ってよ」
 そう言うとただいま、友達も連れてきたよ!と扉を開けて中に入り、
「おかえりなさい、アナタ」
 笑顔で出迎えた美女にルタは固まってしまった。
「へ〜ルタって奥さんいたんだ」
「私に自己紹介したとき独身と言ってましたが、これ位のことでは驚きませんよ」
 オレとアンテの指摘にルタは激しく首を横に振って否定するが、奥から現れた男女ルタの両親が笑いながら息子を歓迎する。
「よく帰ってきた!一人前の細工職人に成っただけでなく、こんな嫁さんも連れてくるなんてよ!」
「本当ね、これで家も安泰だわ。ところで其方の方たちは?」
「旅先で知り合った方たちでベルツさんとゴーレムのアンテさんよね」
 ここにきてオレとアンテも目の前の女性に警戒を始める。
「確かにオレたちはルタと旅先で知り合った。今回の旅でね」
「そして貴女はこの旅で見かけてません!」
 オレとアンテの話にルタの両親も何かを感じたのかその女性から離れる。そうしてルタが質問する。
「君はだれなんだい?」
「・・・・うふふふ。あははは、あはははははは!!!」
 突然女性が笑い出す。まるでイタズラが成功した子供の様に。そのまま暫く笑い続けると右の掌にあるものを乗せる。
「これを見れば解るわよね」
 それを見た瞬間、オレ、アンテ、ルタの三人が息をのむ。そこにあったものは銀の枝を左右に伸ばし、中央に緑の石を付けているブローチ。
「太陽は沈んじゃったから光の確認は明日だね、それでも信じられないのなら、う〜〜〜ん、エィッ!!!」
 叫び声と共に髪の毛の間から角が生え、背中に翼、腰の辺りに尻尾が現れ、手足が鱗で覆われる。その変身を見て理解した。いや、理解させられた。彼女は、紛れもなくあの・・・・
「ルタさんの妻に成るためにまいりましたドラゴンのミューリシア=フェルトと申します。どうぞ、ミューと呼んでください」
 ドラゴンの女性ミューはそう宣言すると恭しく頭を下げる。
 

   ・・・・・・・彼女はあの山のドラゴンだと
12/01/08 14:33更新 / 名無しの旅人
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■作者メッセージ
おお、ミューか。如何したんじゃ?
何、もう魔力の増強薬はいらんのか、代わりに細工用の金属じゃな。
任せておけ、直ぐにおくるからの。
旦那さんを見つけたお祝いに割引価格にしといてやるから、今後ともサバト宅配便を宜しくじゃ。

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