読切小説
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牝に堕ちる王
 むず、と股間が切なく疼くのを覚えたのが何よりも最初だった。
 次に目が開き、光と影が視界を埋め尽くした。ぼやけた輪郭が徐々に定かになっていくと、心底驚いた面持ちでじっとこちらを見下ろす男に気づく。年の頃は成人したばかりか、もしくはそれよりもう少し幼い程度か。百点満点の美形ではないが、悪くはない外見だ。
 我は寝ていたのか。石質のごつごつとした触感が背中と後頭部に主張してきているのを察し、不承不承ながら上体を起こす。

「う、わ」

 こちらを覗き込んでいた男は我が動くと同時に飛び退ったようで、寝ぼけ頭をかきむしりながら彼の方を見やると剣を鞘走っていた。しっかり全身を観察するに、仕立ての良い服の上に補助として鋳鉄を接ぎ当てている。腕部と胴、股間、膝を守る鋳鉄の配置からして、必要最低限に毛が生えた程度の軽装であろうか。
 暗殺者にしては面構えが柔らかいが、こんな顔の臣下も兵も見たことがない。謀反、というよりは護身のための構えだ。むずり。またも股間に何かが疼く。
 違和感でしかないそれを確認するために下を向くと、見慣れぬ身体になっていた。

「……女の胸だと?」

 むき出しで美しいピンク色の先端が見えている大きな乳房に、滑らかで瑞々しく肉の乗った肌。発声してわかったが、声も高くなっている。牝の身体だ。
 戸惑う。しっかり周囲を見回してみると、どうも寝床という雰囲気でもない。まるで霊廟だ。そして自分が寝ていた場所は外装だけやたらと華々しい棺桶であるし、自分が身に着けている装飾には強い保存魔術が掛かっている。まるで死者への手向けではないか。

「ああ……死んでいたのか、我は」

 導き出せる結論はこれしかない。何かがどうにかして、女になり……生き返った。そういうことなのだろうか。髪の色、肌の色は慣れ親しんだ砂漠の民の色だ。黒く艶やかな指触りのいい髪と、太陽に祝福された褐色の肌。
 はて死ぬ前は何がどうだったか、立ち上がりながら室内に描かれたいくつもの絵を見回しながら記憶を掘り起こそうとして、

「ここは、どこだ……?」

 何も思い出せないことに気づいた。自分が元男だったとか、一目で宝石に魔術が施されているのがわかるとか、そういうどうでもいいことは断片的に察することができた。しかし肝心要である、自らが治めていた国も地域も歴史も何もかもが記憶からすっぱりと消え失せている。
 再度、狼狽する。自分は王だった。それは当然のように身体に染み付いている。けれど、その地盤を思い起こすことができない。国は土地に根ざす民がいるからこそ国と形成し、それを率い纏め民をより良い道へと指し進めるのが王である。だのに、王という存在だけが宙ぶらりんとなっているのはどういうことだ。
 かちゃり、とどこからか音がする。そちらの方を向くと、先ほどの男がまだ剣を手にしていた。見慣れぬ構えだ。異邦の者か。剣一本を両手で持ち、盾を廃した戦闘態勢などは見たことがない。我のよく知る剣は盾とともにあった。

「おい」
「なんだ」
「っ、――」

 まただ。股間がきゅうと何かを訴えてきている。股間、というよりはもう少し頭の方に行った場所のようだ。膣の奥か?なんだ、我は目覚めて早速子作りというわけか。意味がわからん。
 男は二馬身の距離を維持したまま、ぴくりとも動かない。魔術の行使を視認すると同時に回避のために動ける距離だ。覚えている。

「我の名前を――ああ、いい。思い出した。そうだ、我はネフェリルカ。偉大なる祖父ウセルカと敬愛なる父サフルの息子であり、……」
「……続きを忘れちゃったかよ、美人さん」
「うむ……思い出せぬ。国も、地も、民も。この丁重な葬り方といい、死者を祀る場としてはこれ以上ない状態といい、我は民に愛されていたのだろう。その王が民を思い出せないなんてことが、あっていいのか……」
「は。魔物となったんじゃ、人間を統べる王としては役不足だってことじゃねーのか」

 ぐ、と一瞬のうちに時が圧縮する感覚。空間が固着し、脳裏が描いたように世界が変貌すると確信した。ばきり、と小気味いい音を立てて男が握っていた剣が割れ砕け、塵となって小さな砂山を男の足元に作り出す。

「口を慎めよ異邦の民。お前の住む世界は泥にあり、我の立つ世界は太陽にある」
「……かもな」

 なるほど確かにこの者の言う言葉にも一理ある。空間に満ちた魔力が自分の身体の一部のように感じられ、あるがまま思うがままに世の理を動かすことができるようだ。こんな芸当ができるのは魔物の他には神でしかない。そして、神の子は神になれない。故に我は魔物というわけだ。
 少し脅かしてやれば、もう減らず口を叩く余裕はなくなったようだった。獅子に睨まれた馬の子のように、逃げられないと悟りながらも逃げる算段を熟慮している様子。膣奥がむずつく。

「一つわかったことがある」
「……それは?」
「我は男であったが、今は女だ。その女はどうやらお前を気に入ったらしくてな」
「そいつ、は……嬉しいと言いたいけど」

 言った途端、彼は目に見えて動揺し始めた。
 愛い。悪い育ちで礼節の一つも習ったことがなさそうだが、それも少しずつ愛おしく感じてくる。獅子に睨まれても尚諦めることのない意思は吟遊詩人に謡われる勇者のそれであるし、勇ある者は嫌いになろうはずもない。首を差し出さずにこうして撤退を目論むのは腰抜けではない。その時に獅子を殺せずとも、次の機会があれば可能性も出てくるのだ。
 ただ、その獅子は牙の射程が全世界に及ぶ魔物であることが彼を哀れにさせている。頬が緩み、口内で唾液が分泌されていく。

「まったく悪くない気持ちだ……お前、名を名乗るといい」
「クソ……王様に名乗るほどの者じゃありませんで」
「よいよい、些事は流そう。気に入った者の名を知りたいと思うのは王も民も同じだ」
「……エーリアス」
「偽名だな。隠し事が通じる愚劣な王はすぐに死ぬのでな、それくらいは見破れる。ふふ、まあ言いたくなければそれでいい。許してやろう」

 棺桶の縁を跨ぎ、男へと近づくために足を進める。足取り一つ一つが牝であり、王の威厳ある歩調などはとうに忘れてしまった。悪くない。
 とにかく胸の奥がざわついて胃の根底が沸き立って、素晴らしく楽しい。恋する乙女とはこういったことなのか、彼と一言でも会話するだけで心にがっちりと縄が巻き付かれていくよう。これも悪くない。
 もっと彼と話したい。彼のことを知り、彼に我を教えたい。親密になって、一組の恋仲としてこの世を歩みたい。恋い焦がれる気持ちが身体を突き動かす。

「ふふ、ふふふ……運命とはかくも好ましいものだったとはな。生前を思い出せることは少ないが……死後の今とこれから先を、生前よりも厚く長く積み重ねていけばいいだけという神の思し召しなのだろうな」
「俺のとこの神様は、きっとそんなことは言ってないと思うんだけど」
「それもまた信仰よ。我の崇拝する神と貴様の崇拝する神、道は違えどもどちらがいいということなどはない。一人一人の心はその者にしかない、何よりも貴重なものなのだ。どんな神であろうと、崇拝する気持ちを蔑ろにはできんよ」
「なるほどな。俺は唯一神って教えられたがな」

 彼は一歩も動けないまま、こちらが近づくのを見ている。一目見ただけで並大抵の男は惚れさせられると本能で自負できるこの牝の身体に対して、こうまで精神抵抗できる男だ。幼いながらにかなりの強者だろう。一馬身にまで距離を縮めても、瞳に諦めの色は見られない。ああ、彼のへこたれない姿勢を観察するだけで背がざわつく。
 しかし。足を止め、腕を組んで考える。しかし、我は男であったという自覚がある。身体が女なだけで、精神構造は未だに男である。これは同性愛となるのであろうか。それとも性別の自認が肉体と相違している場合肉体の欲求が優先されるのか?

「一つ尋ねよう、異邦の民」
「逃がしてくれるならどうぞ」
「逃しはしないが、これは大事な問題だ。我は男か?それとも女か?」
「は?女だろ」

 何を当たり前のことを、と言った様相。女だろ、と断言してくれた。なぜかはわからないが、頬がヒリつく。口唇が笑みに歪んでしまう。

「……お前の考えを訊いてもいいか?」
「考えっつーほどじゃねーけど、王様は元々男だったんだろ。でも今は女になってる。本人がどう思ってようが、他人から見られるものが全てだ。それが嫌なら男の格好すりゃいい」
「興味深いな。性自認が肉体と違うなら、自分の思い描く性別に装うべき……。それも一つの考え方か。そうだな」
「王様が”心はそいつにしかない貴重なもの”って言ってたじゃねえか」
「ふ、くく。くくく……。一本取られたようだな。ああ、ああ。確かにその通りだ。他人から見られるものが全て、これもその通りだ。男が口にした言葉なのだ……忘れるなよ、君♥」
「うお!?」

――ああ、これが生理的な欲求であって本心からのものでないとしても、我は構わない。いつだって恋心が芽生えるのは、揺れる吊橋の上で縋ることのできる相手だからこそなのだ。
 男の身体が持ち上がり、宙に浮かぶ。それと同時に霊廟の構成がひしゃげていき、組成が変質していく。土で形作られた室内が、見る見るうちに柔らかい材質のものへと変わる。
 数秒後には、かなり熟練した大工が建てたのかと思ってしまうほどがっしりした木組みの建材が室内を囲っていた。元々霊廟の壁に描かれていた絵は紙の上に起こされ縁取られて壁に掛けられ、床には最上級の仕立ての絨毯。棺桶は金とシルクのキングサイズベッドへと姿を変え、天蓋さえ付いている。
 それらが終わると、男をその場へゆっくり下ろす。我はベッドへと歩き、触るまでもなく天蓋を開けてシーツへと倒れ込む。うつぶせに寝転がり、尻を彼へ見えるようにしながら股も魅せつけて。
 そうして男へと目を向けて、動じない彼を見て首をかしげる。性欲を刺激された顔ではなく、えらいものを見て放心した表情。

「どうした? 傍へ♥」
「……何者だよ……」
「耄碌したか?我の名はネフェリルカ。太陽の神に祝福され、民を導く王であった者よ。そして今は、君を愛する一匹の牝だ♥」
「完璧に思い出した。あんたが男だってことも」
「言ったろう?牝なのだよ、我は。元が男など関係ない、今の我は貴様に惚れたただの牝だ。恋するということに対して、性別などの些末な壁は障害に成り得ると思うか?」
「思う。めちゃくちゃ思ってる」
「青いな、君は。だが、それはそれでもいい。我は君に惚れ、君は我の身体を貪るだけでよい。我の精神性別などは考えずにただ子作りする、というのはダメか……?」
「ッ、あー、悪いけどここから帰ったら結婚するんだ」
「くふふふふ……♥ 女の匂いなど感じぬ童貞がよくもまあそんなことを言える♥」

 言葉とは裏腹に、彼はますますその気になってきているのをこっちは察知している。ただの男子が強がりを言うことが、これほど愛おしいとは思わなかった。股ぐらからどんどんと滑りのある液体が分泌されているのを実感できる。いやらしい笑みが抑えられない。
 ああ、犬に手を噛まれるということはこういうことなのか。逆らうものなど存在せず、故に民のためにしてやれることをしてきた我が、こうして……初めて、何もかもに反逆しようとされている。こんなに嬉しいことはない。
 では、王たる我はどうすればよいだろう?

「くふ……当然のことだが。聞き分けのない者には、力によって服従させねばなるまいなぁ?」
「ちくしょう……」
「王が命ずる。寄れ♥」

 命令する言葉であるのにどうにも男に媚びる声になってしまうのは情けなくもあるが、身体が牝の疼きを覚えている以上は仕方のないことだ。
 彼に向けて巨大に熟れた桃と形容できる形の尻を突き出し、少しばかり左右に揺らす。切羽詰まった表情の彼は、我の尻を凝視しながら喉を鳴らして一歩ずつ近づき始めた。あの服の下ではきっと、彼の肉欲が熱く硬く屹立しているに違いない。期待に満ちた心がうずうずと震える。
 そうだ。あの軽鎧が邪魔なのだ。男と女が交合することに、衣服などは邪魔でしかない。

「そのまま近づいて来い……♥ 服は我が脱がしてやる♥」
「――な、くそっ」
「くふぅ……♥ なかなか良いモノではないか♥ 女を殺す一物だ……♥」

 ちょいと空間の魔力を弄って、彼の着用しているものを全て消す。そうして現れたのは、強く滾った男の象徴。太く逞しく、見ているだけで悩殺させられるほどに雄々しい。
 ごろんと寝返りを打って仰向けになり、真正面から彼を見据える。肉棒だけではない、身体だって十分に鍛えられている。そうだ、これが男だ。女を孕ませ、女を守るための男。彼だって、もう瞳の色が女に種付けする獣に成りつつある。
 重力に負けず、つんと上向いた両の乳房を両手で緩く握り、彼に更なる誘惑を仕向ける。円錐の形を保つ柔らかい双丘をぷるぷると揺らし、扇情的に主張させる。一番美しく形取るように胸を魔力で保護する、というのを魔物の身体は本能的に行っているようだ。今の魔物は暴力と略奪の気質ではないらしい。大方淫魔が魔王となったのだろう、魔力から色欲の気質しか感じられない。
 決して悪くない。生前知り得なかった女の心というのが、今この身を持って実感できているのだ。現代の魔王に感謝しなければ。
 ようやく彼はベッドの傍に辿り着き、ベッドに膝をかけてそろそろと近づいてくる。むせかえる男の匂いがどんどん濃くなってくる。もう幾ばくかの距離もない。近づけば近づくほど、彼が魅力的に見えてくる。彼からは我をどう見ているのだろう。きっと彼は自発的に言ってはくれまい。

「なあ、君……♥ 我はワガママである故、君の意思に関係なく命令したことを許してほしい♥」
「っ、……」
「喋る余裕もないか、可愛い奴め♥ なあ、もう一度だけ、命令することを許してくれ……♥ 君から見た我を、君はどう思うか……教えて?」
「――すげぇエロくて綺麗で、めちゃくちゃにしてやりたい」
「あ……♥♥ 嬉しい、この上なく嬉しいぞ……♥♥」

 懇願すると、彼は赤裸々に思いを語ってくれた。羞恥に顔を赤らめ、けれど身体は素直に反応していて。愛おしいという気持ちが蜜として溢れていく。彼が欲しくて欲しくてたまらない。
 両手を彼の頬に添え、やんわりと引き寄せる。もはや彼に抵抗する意思は見られず、二人の顔が近づいていく。数多の試練を乗り越えてきた勇者の顔立ち。じっくり見れば見るほど、彼の深層に臓腑が浸っていくような錯覚。

「くふ……♥ 我の身体を蹂躙することを、君だけに許そう……♥ 蘇ったばかりの女を、お前だけの牝にしてくれ……♥♥」
「……勝てねえ、こんなの」

 彼はそれだけ呟いて、唇を強く重ねてきた。

「ん、あむぅ♥ ちゅ……んぁ♥」

 キスと同時に胸に両手を当て、乱暴に揉みしだいてくる。唇も乳首も、待望していた彼からの刺激にちりちりとこそばゆい快楽が走る。数瞬で脳がどろりと濁るのを実感し、快楽によって発散した桃色の魔力が彼にじわじわと染みこんでいくのを視認する。
 舌が我の唇を通って口内に侵入してきて、にゅるにゅると舌同士を絡ませてくる。彼の唾液の残滓だけでも酷く甘露に感じ、陵辱を加えてくる彼の舌に粘膜が擦れる度に我の細い肩が恍惚に震える。気持ちいい、という言葉が脳を支配していく。
 でも、もっと、もっと。足りない。引き絞るように指が乳房にめり込んでも、彼の獰猛な舌が我の口内を隅々まで征服しても、まだまだ足りない。もっともっとと身体が貪欲に彼を求める。前戯なんかもういいとさえ思う。ただ子作りだけがしたい。

「くちゅ、はむ♥ じゅ、んぅ♥」
「ぷ、はぁ……」
「は、ふ♥ んふ、ほら、早く♥ 早く♥♥」
「――ッ! わかったから、擦るなっ……」

 覆いかぶさってきている彼の股間に手を這わせ、触れてるだけで火傷しそうな熱を放つ剛鉄の一物を逆手に撫でる。たったそれだけでびくびくと著しい反応を見せる。えげつない形状なのに、反応は可愛らしいちぐはぐな感じに子宮が疼く。恐らくは彼が何をしても今の我は好意的に見てしまう。ベタ惚れではないか。
 両足を彼の腿の上に投げ出し、股間同士を近づけていく。愛熱を放つソレとの接触が間近になるという事実だけで、どんどん息が荒くなっていく。欲しい、欲しい。褐色の肌を白濁の種で汚してほしい。
 じゅくじゅくと愛液が流れ出ている膣口に彼の亀頭を誘導させ、手を離す。ぎちぎちに勃起したおちんちんが割れ目を沿うと、膣の中がひくひく物欲しがる。待ちきれない。交尾。セックス。

「さ、さ♥ 一思いに貫いてくれ♥」
「く、そ……癪だ」
「何を踏みとどまってる、それでも男か?♥ 我の初めてを、奪ってよいのだぞ……♥ さあ、我に君の子を産ませてくれ……♥♥」
「――あー!!どうにでもなれッ!」
「は、ぎィひっ!♥♥」

 鈴口が既に侵入しているというのに、あと一歩で躊躇いを見せる彼の耳元で淫らに囁いてやれば、理性を消し飛ばした暴力的な挿入を持って最奥部に一息で突き込んできた。ぷつりと破れる感覚を膣内で一瞬知覚するが、何より男を知らない初物を無理やり押し広げてられる感触に全神経が歓喜でのたうち回る。視界でパチパチと火花が弾け、きゅうきゅうと膣を引き締めてしまう。
 ああ、この正常位という体位は女を征服するためにある。それを身を持って体験した。膣内を全て掌握された恍惚さで、呼吸もままならずに喘ぎ声だけが漏れる。

「き、っつ……!」
「うぁ、はぁぁぁぁあ♥♥ ぁく、はっ、はぁ♥♥」

 初めて味わう男根の味に対して淫壺の食いつく勢いは、さながら好物を与えられた子どものよう。こうして征服してくれる人をこそ求めていた。誰にも奪われたくない、離れたくない、もっと犯し尽くしてほしい。
 そこまで気を回してようやく、彼が抽送していないことに気づく。まさか性知識がまったくないおぼこでもないだろうに、何を留まっているんだ。愛欲が更なる陵辱を求めていても、快楽の痺れで舌がうまく回らない。よだれをこぼしながら、みっともなくだらしなく懇願する。

「ふぁ、はやくぅ、動いてぇ……♥♥」
「無理っ……したら、出そうなんだよ……!」
「……ぁ♥♥」

 そうだ。彼も初めてだった。言われてようやく、彼が歯を食いしばって震えてることに気づいた。
 愛おしい。この上なく愛おしい。下等で、下賤で、礼節も弁えもなく、まるきり王には不釣り合いであるはずの、比類なく恋した彼。
 両足で彼の腰を挟んで動けなくし、両手で彼の後頭部をそっと包み込んでこちらへ近づけ、射精すまいと堪えることに全力を尽くしている彼にそっと優しい口づけをする。
 ただ、キスしたかった。そう思ったから、そうした。

「ちゅぅ♥♥」
「んぐっ!? く、ぉッ」
「ん、〜〜〜〜〜〜♥♥♥♥♥」

 唇が重ねあうと同時に敏感に反応した彼は、ごりゅごりゅと本能的に腰を前へ押し付けて子宮に鈴口を突き当てながら射精を開始した。
 鉄砲雨も斯くやと言わんばかりの若さに満ちた射精の勢いで、蠕動する膣内からごぷごぷと卑猥な音が奏でられ。
 当然のように、初めて味わう精液の味に子宮が幸福絶頂する。
 彼は我を抱きすくむのみで声も上げずに子宮を精液陵辱する。
 気持ちいい。肉棒が膣内で鼓動する度に子宮に満たされる精。
 何も考えられない。ただひたすらに、媚子宮は精液を求め狂う。

「ちゅ、じゅりゅ♥♥ んちゅ、ふ♥♥」

 本能のみに支配された愛交で、強力な絶頂に襲われて忘我状態に陥ってもキスをせがむことだけはやめない。好きという思いが桃色の魔力渦と化して身体中から拡散放射され、彼を覆っていく。
 どくり、どくり、と特濃の孕ませ子種の放出がだんだん波を引いていき、完全に射精が終わっても未だに抱きしめ抱き合い口付けを求め合うのをやめられない。

「ちゅむ、ふぅ♥♥ ちゅる、ん、くちゅふ♥♥」

 膣内の彼もまた、これだけの射精を経ても尚硬度を失っていない。否、キスを交わす度に更に逞しくなっている。これはダメだ。こんな凶悪なおちんちんで突き崩されたら頭がばかになる。そう確信して、彼の剛物を抜かせないために蜜路をきつく締める。
 そんなことをやり合って、自然と双方の口が離れていく。彼の牝になれた喜びで笑みを崩すことができない。

「くふぅん……♥♥ 愛しているぞ、君……♥♥」
「クッソ……尊大そうな男言葉なのによ……」
「そんなことを気にするタマでもなかろうになぁ……♥♥ ほぅら、好きって返してください、あなたぁ……♥♥」
「この野郎……」
「くふふっ♥♥ は、ぐひゅっ?!♥♥♥ いきな、うぁん♥♥♥」

 一方的な膣擦りの開始によって、二回戦が突如として始まる。
 一度最奥まで一息に突き入れられたのだから彼の肉棒が往復する程度なんてことない、と思っていたのが間違いだった。天井を軒並みこそぎ取るかのように、ネズミ返しの付いた雁首が膣襞を攻め立てたかと思えば、今度は突き入れられてくる亀頭に媚肉が引き摺られていく。

「ぁひ♥♥ こっ、きゃぅ♥♥ これぇっ、イクの止まんな、ぁあぎぃ♥♥」
「ふッ、オラッ、クソ」
「ぁぅ、んく♥♥ はっ、はぁあ♥♥」

 抽送を一度繰り返す度に、断続的に絶頂感が襲ってくる。所詮童貞の荒っぽく自己中心的な腰使いだが、むしろそれがより被虐感を増幅して快感へと昇華していく。
 度重なる小絶頂によって手足の末端がびりびりと麻痺していき、嬉し泣きの涙が溢れる。ああ、キスだ。キスがしたい。さっきまでねっとりとしていたのに、もう唇が寂しくなっている。
 けれど彼はこちらの背中に腕を回して抱きしめ、顔を肩口に押し付けながら腰を振ってきている。ああ、これもいい。遮二無二求められているのがたまらない。キスをお預けされていると思えば悪くない。ならば今はこの焼けつくような淫膣快楽に身を委ねよう。彼の首を両腕で囲い、瞼を閉じてただ喘ぐ。

「は、ひぃ♥♥ ぎひっ、んあああ♥♥ うううう♥♥」
「はっ、はぁッ」

 射精した後だからなのか、それとも自前の精神力で少しでも長く肉襞を擦る快楽を味わっていたいのか、はたまた男のプライドか。肉と肉のぶつかり合う音はペースを衰えさせず、彼の肉欲が絶え間なく攻め立ててくる。
 もう、ほとんど自分がどんな喘ぎ声を漏らしてるかもわからない。性感の高まりで耳鳴りまでし始める。こんな状態で射精されたらたぶん、さっきよりももっと大きな絶頂の高波が押し寄せてくるだろう。楽しみすぎる。早く射精して確実に子どもを孕ませに来てほしい。でも、このピストンも気持ちいい。非常に困る。
 とはいえ童貞の耐久力などたかが知れてるもので、すぐに二回目の射精準備に亀頭が張り詰めだし、突き入れるペースが急激に加速する。おちんちんの変化に敏感に察知するのは何より狭窄な淫襞だ。

「くお、クソッ、出すぞ……!」
「きぃひ♥♥ ひ、来て来てぇ♥♥ 出して、膣内ぁ♥♥ 子どもっ、産むぅ♥♥♥」

 がくがくと振るわれる彼の腰で双方がぎりぎりまで昂ぶり、最後の一撃として肉槍が受精のために下がってきた子宮を無理やり押し上げ。

「うおぉっ、ッ!」
「うあ゛あ゛あ゛っ♥♥♥ かひ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!♥♥♥♥♥」

 子宮口と鈴口が濃密なキスを交わした後、土石流じみた射精が子宮に叩きつけられる。
 先ほどの射精でもはや子宮は満員状態だというのに、卵管から膣口に至るまでを精液で埋め尽くさんばかりの大量射精。
 その理不尽さに、全身が痙攣として喜びを表し超絶頂する。自分という器に彼が満たされていく法悦。
 孕む。絶対孕む。幸せすぎて、もう死んだって構わない。多幸感に気が遠のいていく。

「――かはっ、ひゅうぅ……♥♥♥」

 ……ああ、一瞬気絶していた。脳が理解を拒むほどのあらゆる物事が彼によってもたらされたんだ。おちんちんだけで殺されるところだったんだ。
 もう彼の射精は終わっていて、疲労困憊によって彼はこちらに力なく覆いかぶさっている。肩で荒く息しているから、きっと我と似たような状態だと察することが出来た。たまらず愛おしさが溢れて、彼の頭を優しく撫でてやる。

「はぁ、はぁ……、三回目は、さすがに勘弁してくれ」
「んふ……よい♥ 無理は言わんさ……♥」
「は、ありがてぇ……はぁ、ふぅ」
「なぁ、君よ……もう一個だけ、頼みを訊いてくれるか」
「……聞くだけな」
「その、……リルカ、と……呼んでくれ」
「っ――……ああもう、とことん情けねえな俺。リルカ。これでいいか」
「あ、う、うむっ♥♥ 愛しているぞ、君……♥♥」

 これより我は栄華を誇ったネフェリルカ王の名を捨て、彼の妻であるリルカとなろう。
 もう、王になどならなくていい。他人がどう思おうが、これからの我は彼の妻になり、彼の妻として振る舞おう。
 自らの立つ位置を定めるのは他者であり、他者からそう見られたいと思う以上はそう振る舞うしかないのだ。
15/11/07 00:50更新 / 鍵山白煙

■作者メッセージ
このSSのコンセプトはガチエロの練習ってだけです。タイトルからレイプものとかそういうの想像した人には申し訳ない。
これ、ファラオっぽさは出てるかな。エロの方向性が少しは見えてきたかと思いつつ、魔物娘らしさを出すのがまた難しい……。

彼がリルカとご対面してから逃げる方法はありません。起きたのを見てから全力で逃げたとしても、ピラミッドから逃げられたはいいけどその次の朝に目覚めた時にはリルカの膝枕でしょうね。彼女の立つ場所は太陽なのです。逃げるんだったら太陽系外に行かなきゃ。

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