連載小説
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水に濡れ崩れる誇り
「それでは、失礼します……」
「ふん……」
召使いの少年が一礼した。
それに対して私は鼻をならし、早く出ていくように命じる。
おずおずと少年が出たところで私は湯の中にさらに身体を沈めた。
ヴァンパイアだって湯浴みをする。
水に弱いと言われるヴァンパイアだが、真水でなければいいのだ。
今、私がやっているようにハーブ湯に、あるいは海水風呂などにでもすれば問題ない。
『さて……』
湯にゆったりとつかりながら私は考える。
考えているのは召使いの少年のことだ。
ひと月ほど前、私はあの少年を貧民街から私の屋敷へと連れてきた。
人間など名誉、金、権力……あらゆる欲にまみれ、そのためには同族を殺すことも厭わない下等生物である。
だが、あの少年は見どころがあった。
自分も飢えているというのに、猫の親子(これは魔物ではなく、普通の猫だ)に自分の持っている食べ物を分けるあたり、そこらへんの人間と違う。
だから、私は彼を食料兼、召使いとしてこの屋敷に連れてきた。
そして毎晩、食後に彼の血を吸っている。
「……っ!」
思い出しただけで身体に、特に下腹部に甘い衝撃が走った。
ヴァンパイアは吸血をすると、その血と吸血行為自体に性的快感を覚える。
私も彼の血を吸っている間はいつも身体が疼き、下着はいやらしい汁で濡れていた。
だがヴァンパイアにとって人間と交わることは汚らわしい行為なのだ。
もっとも性的衝動に抑えきれず人間を襲ってしまうヴァンパイアも少なくないし、吸血の際に魔力を流し込んでインキュバスになったのであれば話は別なのだが……
ともかく、そのような理由で私は少年を襲っていない。
「うぅ……」
私は唸る。
襲わないのは結構だ。
私のヴァンパイアとしての意思とプライドがそうしているのだから。
だが、淫魔としての身体はそれでは納得しない。
彼を押し倒せ、彼の象徴を銜えこめ、精をその身に受けろ、としつこくささやきかけてくる。
そして彼との交わりの準備として私の淫孔はだらしなく淫汁を垂らすのだ。
今も、湯に浸かっているから分かりにくいが、私の蜜壷は湯よりも熱く火照り、蜜を垂れ流している。
「くっ、はふ……っ!」
意識してしまうともう止まらない。
性器だけでなく全身が男を、正確にいえばあの少年を求めて疼きだす。
『くっ、落ち着け……鎮まらんか!』
火照った身体を抑えようと私は身体をさする。
だが、その程度では身体は納まらない。
それどころか身体をさする手がいつの間にかいやらしい動きになっていた。
手が脚や脇腹、肩を這い、そして胸を撫でる。
「んっ、くうん!」
思わず私は声を上げてしまった。
直後に襲ってくる耐え難いほどの羞恥心と屈辱感、そしてさらなる快感の要求……
こうなってしまってはもう自分の身体を気持ちでは抑えられない。
『くっ、忌々しい!』
魔力を使って少年が浴場の近くにいないことを確認する。
彼は洗濯場にいるようで、私が呼ぶまではそこで仕事をしているだろう。
それが確認できた途端、ヴァンパイアのプライドが淫魔の欲によって潰された。
自分の乳房をガシっと掴む。
そしてパン生地をコネ回すかのように荒々しく揉みしだいた。
「あんっ! ああああっ!」
私の身体が湯の中で伸び上がって仰け反る。
伸び上がった拍子にもう一方の手が下腹部に触れた。
そのままその手を股間に伸ばし周囲を撫でたり圧迫したりして刺激する。
愛液は湯で流されてしまっているから直接触ると痛いのだ。
なぜ知っているか……浴場で自分を慰めるのは初めてではないからだ。
それも一回や二回という程度の物ではない。
今日のように、湯浴みの時にその日の吸血を思い出してしまったら必ずこうしてしまう。
「うあ、うあああっ!」
浴槽の湯を波打つほど私は快感で身体をよじる。
湯浴みの際、彼は私の背中を流し、髪を洗う。
そのため、彼のことも思い出してしまいやすいのだ。
さらに、自慰の際の想像に彼が出てくることも……
『もし……もしこの手が彼の手だったら……』
私は想像する。
あろうことか、私は自分より低俗である人間の彼に犯されることを妄想した。
自分が犯すことを妄想することもあるのだが、今はそのような気分だった。
私の背中を流している時に獣性に目覚め、息を荒くしながら私の胸を乱暴に揉みしだき、囁くのだ。
『どうですか、マスター? 気持ちいいですか?』
『くっ! き、気持ちよくなどない……馬鹿者……っ!』
『いえ、こんなに乳首をイヤらしく勃たせておきながら、嘘はいけませんよ』
キューッと、彼が私の乳首を抓り上げる……それを想像して私は同じように自分の乳首を抓り上げる。
『そ、それはお、おまえが……ひゃあっ!?』
『なんですか、マスター? うまく聞き取れませんでした。もう一度お願いします』
妄想の中では、生意気にも彼は私の耳元でそんな風に命じるのだ。
そして私はそれに喜んでいる。
「んんっ、あ、あんっ!」
下腹部の疼きが強くなる。
早く触って欲しい、彼の象徴を挿れて欲しい……そうアピールする。
だが、それは出来ない。
高貴なヴァンパイアの最後のプライドとして、そこまで淫魔として落ちぶれたくない。
ならばどうするか?
「……」
私は一度、浴槽から出た。
火照ってふらふらとする身体を洗い場まで運ぶ。
本来なら私はそこにはいかない。
背中や髪などは浴槽の近くで召使いに洗ってもらい、浴槽の湯で流す。
だから、本来ならこれも使わないのだ。
……シャワーは。
無言で私はコックを捻った。
何も混ぜられていない、真水を温めただけの湯がシャワーから吹き出す。
「うっ!? ふわああああっ!?」
ヴァンパイアは真水に触れると、そこから全身に強烈な快感が走る。
私も例外ではない。
肩口に湯が浴びせられ、私は絶叫に近い嬌声を上げた。
シャワーを持つ手を動かし、湯が背中にかかるようにする。
「んんんんっ!」
背中からも電撃のような快感が走り、私は身体を仰け反らす。
だが、それだけでは終わらない。
水は重力に従って落ちる。
ゆえに私の背中に浴びせられた湯は私の背中を伝って尻の方に進んでゆく。
ゾクゾクするような快感が尻からも沸き起こり、私は真水に濡れた身体をガクガクと震わせた。
再び、シャワーを前に持ってくる。
そして湯を胸に浴びせた。
甘くしびれるような快感が胸から広がる。
それだけではない。
シャワーノズルからの水圧で私の敏感な乳首が刺激される。
「あっ、あっ、あああああ!」
もう立ってなどいられない。
がくりと洗い場に膝をつく。
だが床にはシャワーの湯が溜まっている。
当然、床についた膝からも快感が走った。
「いやっ、あっ、くうう……ふわああああっ!」
まるで全身が性器にでもなったかのようだ
もはや私は誇り高きヴァンパイアではなく、真水による性的快楽に翻弄された、一匹のメスだった。
だが、これでも最高の状態ではない。
まだ真水は、大事なところに浴びせられていない。
「んっ……」
のろのろと私は膝だけを上げ、さらに脚を大きく広げていった。
ちょうど用を足すような、ヴァンパイアにあるまじきはしたない格好になる。
そしてついに……シャワーの湯が私の秘部に浴びせられた。
「くっ!? くあああああっ!!」
女性の身体の中で一番敏感と言われるクリトリスが、シャワーの湯によってつつかれる刺激とともに水による快感に晒される。
性器からのぼる強烈な快感に私は絶叫した。
びくんびくんと腰が跳ね上がり、男に跨って腰を叩きつけているかのような動きをする。
だが私はつま先立ちの状態、すぐにバランスを崩してしまい、後ろに尻から倒れた。
尻餅をついて脚を大きく広げているという、男を受け入れるような破廉恥な格好になる。
だがその姿勢も長く続かない。
床には水が溜まっているので、それによる快感で私の腰がまた跳ね上がる。
その間も私の手はシャワーをしっかり握り締め、湯が秘裂に当たるように調節していた。
カクカクと私の腰が男と交わっているかのようにいやらしく動く。
「あああっ! いやああっ! こんなの……こんなのはしたないのにぃい!」
だが、行為を止める気になれない。
身体の中でぐいぐいと淫魔の気が膨らみ、ヴァンパイアと言う身体の殻を破ろうとしている……絶頂が近い感覚だ。
襲い来るであろう快感にに私は身体を固くする。
「イク、イクッ……くっ、あああああああ!!」
身体の中の勢いに突き動かされたかのように、ガクンと私の身体が弓なりに反る。
私の足元に誰かがいたら絶頂に達して、男から精を搾ろうと蠢いている蜜壷がはっきりと見えるだろう。
そんなはしたない格好をしたまま私は身体を硬直させ、そして崩れ落ちた。




シャーー……
あらぬ方向を向いて湯を出しているシャワーの音を耳にしながら、私は洗い場の床にぐったりと横たわっていた。
「んっ、んんんん!」
時折、絶頂直後の身体がビクビクと跳ねる。
洗い場の床も濡れているから当然のことだ。
桃色の霞がかかってボーッとした頭で私は考える。
ヴァンパイアの真水での自慰は、快感だけは確かに凄まじいものだ。
だが
『足りない……こんなのでは、全然……足りない……』
終わった後の虚しさもまた相当なものだ。
この身も心も満たすには……
『早くあの者……インキュバスにならないかな……』
知らず知らずのうちに、くちびるを舐めている私だった……
12/08/06 19:00更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
最後から三番目を張るのは夜の貴族ことヴァンパイア!
現実世界でもシャワーオナニーをする女性は少なくないそうです。
とすると、水に弱いヴァンパイアは絶対シャワーオナマスだと思うんだ!(殴)

実を言いますと、この自慰は出演種族を7種決めたとき、どの順番で出すか結構迷いました。
このヴァンパイアに関しては、デュラハンと順番を入れ替えようとも思ったのですが……まぁ、前で勢いを付けるためにも人間ではできないオナニーをするデュラハンには三番手を張ってもらい、比較的オーソドックスだけど種族の要素も入れたヴァンパイアにはここに来てもらいました。


さてさて、この『自慰』も残すところあと二回!
次回もオナニー自体はアルプと同様オーソドックスかもしれませんが……心理面の描写を頑張ってみようと思います。

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