連載小説
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永遠に来ないリザアド作戦2号・前編
「うわああああああ!!!!!!」


ボガァァァァァァン!!!!



この日、豊後水道上空で図鑑警備隊のジェットベートルが爆発した。
図鑑警備隊とは、別に図鑑世界の平和を守るために結成された組織ではなく、名前がうまく決まらなかったからという理由で適当に名前が付けられた地球の平和を守る組織である。
豊後水道上空で怪しい発光体が飛んでいるという通報を受けた図鑑警備隊のリザコ隊員こと江里崎陽子隊員は、ジェットベートルに乗って一人、夜空の調査に向かっていたのだが、その途中で消息を断ってしまったのである。
「リザコ隊員!リザコ隊員!!応答を…、応答をしてください!!!」
同じ図鑑警備隊の藤隊員が通信機で呼びかけるが応答は帰ってこない。
ちなみ隊長のムラヤマも呼びかけているのだが、藤隊員も気にかけていないのでセリフは割愛。
「隊長!今すぐ玄界灘へ救助隊と調査隊を!!」
「いや、さっきから命令していたんだけど誰も聞いてくれないんだよな…。」
ムラヤマの呟きも虚しく、隊員たちは慌てて基地を後にするのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


『リザコ隊員……。

 目を覚ませ、リザコ隊員…。』

赤い光の中で私は、私を呼びかける何かの声に目を覚ました。
私は宙に浮いている。
私は………、一体……。

『目が覚めたようだね、リザコ隊員。』

目を開くと、そこにいたのは巨人。
いや巨人というより巨大なリザードマン。
巨大な銀色のリザードマンが私を見下ろしていた。
お前は……、誰だ…。

『私はM69性雲の宇宙トカゲだ。』

M69性雲の宇宙トカゲ?
宇宙人じゃないんだ。

『宇宙人というには私の美意識が許さない。』

はぁ…、左様でございますか…。
ところで何で私の嫌な仇名を?
私は江里崎陽子って立派な名前が…。

『記憶を読み取るなど、我々M69性雲の宇宙トカゲには朝飯前だ。
 君の記憶を読み取り、私がもっとも呼びやすい発音の名前をチョイスした。
 むしろ君だって、この星ではリザードマンという種族なんだから
 その方が都合が良いのでは?』

……私は確かにリザードマンなんだけど、いくらなんでもリザコ、リザコとリザードマンの通称のリザ子で呼ばれ続ける没個性的な呼び名は正直な話、嫌なんですよね。
出来たら名前で呼んでください。

『だが断る。』

…………ところで、ここはどこなんですか?
確か私は豊後水道上空を飛んでいて………?
そうだ!
確か赤い発光体にぶつかって……。
私は死んだの…?

『申し訳ないことをした、リザコ隊員。
 悪魔、リズリーを追いかけている途中で誤って君に衝突してしまった。』

リズリー?

『この宇宙の悪魔だ。
 私はリズリーを宇宙の怪獣墓場に廃棄しようと護送をしていたのだが、
 突然地球のアイスクリームが食べたくなってコンビニに寄ろうとしたら
 気が緩んだ隙にリズリーに逃げられてしまった。
 いやぁ、うっかりしてた。』

仕事中に何してんの!!
え、何!?
私、うっかりで殺されたの!!

『この不祥事が上に知れると私は減給だ…。
 来月にはボーナス一括払いのローンが残っているので
 今減給処分を受けると引き落とし日から水と砂糖だけで過ごさねばならない。
 そこでだ。
 君の肉体はすでに生命がなく、魂だけの存在になってしまった。
 君の死んでしまった肉体の代わりに、私の肉体をあげよう。』

今一つ納得出来ないですが……。
でも私に肉体をあげようって、そうなるとあなたはどうなるんです?

『君と一心同体になり、君と共に生き続ける。』

(かちゃっ)
……これは?

『アルファカプセルだ。
 君に危機が訪れた時に、スイッチを押せ。』

押すとどうなる?

『はぁっはぁっはぁっ……。
 何も心配することはない。
 この世に不思議なことなど何もないのだよ、リザコ隊員。』

待て!
それ原作のセリフじゃないから!!
最後の一文は京極夏ひk……ぐわああああああああああ…………。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「ぎゃお〜〜〜ん!!」

O分県B府市にあるシダカ湖に、突如怪獣が現れたという近隣住民の通報を受け、豊後水道上空で行方不明になったリザコ隊員の捜索を行っていた図鑑警備隊の面々だったのだが、急遽豊後水道からジェットベートルを飛ばしてB府市へと向かったのである。
そこで彼らが見たものは、バチャバチャとシダカ湖で水遊びをするように暴れ回る巨大なグリズリーに似た3頭身の宇宙怪獣だったのである。
この怪獣こそM69性雲の宇宙トカゲが護送するはずだったリズリーである。
リズリーはシダカ湖で雄叫びを上げて一通り暴れると、岸を目指して進み始めた。
「隊長、攻撃しましょう!!」
ジェットベートルを操縦するイデハタ隊員、通称イデは隊長のムラヤマが命令する前にミサイルの発射スイッチに手を伸ばしていた。
慌ててムラヤマ隊長が発射スイッチを押させまいとイデ隊員の腕を掴んだのだが、イデ隊員はそんなムラヤマ隊長に物凄く爽やかな笑顔を向けると、彼はとんでもないことを言い放った。
「大丈夫です、隊長。こんなこともあろうかと核ミサイルを積んできました。特撮らしくバカバカ撃ちまくれるように100発程度図鑑警備隊パリ本部からちょろまかしてきました。あんな怪獣もイチコロですよ。」
「怪獣どころか地球がイチコロだ!!!」
イデ隊員の言葉によれば、通常ミサイルは1発も積んでいないということなので、イデ隊員とムラヤマ隊長の二人は止む無くジェットベートルをシダカ湖の駐車場に無理矢理着陸させると、地上戦の準備を始めた。
「他の隊員も連れてくれば良かったですねー。」
「しょうがあるまい。藤君は射撃が下手だし、操縦は出来ないし、いても役に立たないからいない方が気を使わなくて良い。それに他の隊員は、コンビニのバイトに出ているんだ。」
「うちの警備隊って給料安いですからねー。私もマクド(わん♪)ドでバイトしないと生活出来ませんからねぇ。確か隊長も給料が安いせいで奥さんに逃げられたんでしたっけ?」
図鑑警備隊極東支部のムラヤマ以下隊員たちの基本給は18時間勤務でおよそ10万円。
これに保険や何やらが引かれてしまうと、手取りは悲しくなる金額である。
「地上戦準備、出来ました!!」
イデ隊員とムラヤマ隊長の手には、リボルバーの拳銃。
何の変哲もないニューナンブである。
「………こんなんで怪獣退治できるんですか?」
「無理だな。でもやることやらないと、近隣住民から苦情が来る。苦情が来るということは我々の給料の査定がどんどん低くなる。それだけは避けねばならない。」
まさにゴム鉄砲で象に立ち向かうようなもの。
しかし、図鑑警備隊は戦う。
例え無謀であろうと、地球の平和のために、自分たちの生活のために人々を脅かす大怪獣に向かっていくのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


凄まじい咆哮で我に返ると、私は木々の茂る林の中にいた。
何が起こったのかわからない。
いつからいたのか。
それとも最初からいたのか…。
でも間違いなく豊後水道上空で私は一度死んだのだろう。
私の中に、もう一つ別の意識が存在していて、私の目を通してこの世界を見ている。
胸に何か硬いものが触れた。
それは短い棒のようなもので、取り出してみると夢の中で出会った巨大リザードマンの身体の色によく似た銀色に輝いていた。
「アルファカプセル…。」
その名を呟くと、アルファカプセルが『ドクン』と脈打つような錯覚を覚えた。
まるで私という主を認識したかのように、
まるで魂という血が通ったかのように、アルファカプセルは起動した。
視線を上げる。
そこにはあの巨大リザードマンと同じくらいの大きさのやけに頭身の低いグリズリーのような大怪獣が、湖で暴れていた。
私の中の何かが言っている。
アレが………、宇宙トカゲが言っていたリズリーなんだと。
「ぎゃお〜〜〜ん!!」

パンッ

パンッ

やけに小さな破裂音とグリズリーの咆哮。
この音は、間違いなく警備隊のニューナンブの発砲音。
だが、あの程度の武器ではやつは倒せない。
なら………、私はどうするべきなのか…。

『君に危機が訪れた時に、スイッチを押せ。』

宇宙トカゲの声がすぐ傍で聞こえたような気がした。
私の危機……。
いや、地球の危機だ。
私はアルファカプセルを天高く掲げる。
何が起こるのだろう。
未知への恐怖で心臓が高鳴っている。
未知への憧れで心臓が高鳴っていく。
私は、リザードマンだ。
剣を取ることのなくなった現代でもその誇りを忘れてはいない。
私の誇りは……。
私の誇りは……!!
「私の誇りは、この手が届くすべての人々を守ることだ!!!」

カチッ

アルファカプセルのスイッチを押す。
目も眩むばかりの光が溢れ、身体に力が満ち溢れていく。
「宇宙トカゲ!あんたに……名はあるか!!」

『名前……?
 個体を識別するものか?
 それなら恥丘警備隊072という番号がある。』

それは名前ではない。
「宇宙トカゲ!名前がないなら、私が付ける!!」
そう、それは正義の使者。
例え、アイスクリームに心を奪われて余所見してうっかり私を殺したとしても。
彼女も私も、共に地球を守る力となる。
「行くぞ、宇宙トカゲ!!!あんたは……、あんたは今日から……!!」

リザアドマンだぁぁぁぁぁ!!!!!




11/07/05 02:05更新 / 宿利京祐
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