1.7 kiss me
「愛は、たがいを見つめ合うことにではなく、同じ行く手をともに見据えることにある」
「わぁっ」
カインの膝の上に乗ったアルが、両手で赤くなった顔を隠しながら呟いた。
足をぱたぱたと動かし、尻尾はカインの胸を叩きながら左右に振られている。
「いや、愛について教えてっていったよね」
「だって、歯が浮くような言葉なんだもん」
大昔の詩人が唱えた言葉。
愛という言葉抜きにしても、考えさせられる言葉だとカインは感じている。
同じ行く手を共に見据えることのできる仲間はいた。
あくまでいた、ということになる。
共に力を競い合い、研鑽しあった友がいた。
ずっと一緒だと思っていた。
時間がたつにつれて皆変わり、思想、観念、教義の全てが変わっていった。
次第に先に見据えるものが変わり、結果的に裏切り、裏切られた。
そして……。
「−ちゃん、おにーちゃん!」
「あ、どうした?」
「ぼーっとしてたけどどうしたの?」
「考え事だよ」
そういってアルの頭を優しく撫でる。
アルは猫のように頭をこすりつけると、嬉しそうな顔をしている。
「そういえばエリが呼んでたよ?」
「そっか、さっさと行ってこようか」
*
「やっと来たわね、このロリコン」
「いや、ひどすぎでしょう、その呼び方」
カインの外套の端を握ったまま、アルが隣についている。
エリはしかめっ面のまま、テーブルにもたれかかっている。
テーブルには一枚の羊皮紙があった。
内容はギルドへの紹介状。
推薦人はエリ・アデール。
紹介人は空欄となっている。
「これ、ギルドへの紹介状」
「それは分かるけど」
「いま人材不足でね、人を探してるの」
「それは大変ですなー」
我関せず、と言わんばかりにそっぽを向いて返事をしている。
アルの頭を撫でたり、頬を突いたりして遊んでいる。
「そう、大変なの。ここで知り合ったのも何かの縁。どうかしら?」
紹介状を更に近付け、満面の笑みで尋ねるエリ。
アルもカインも言い得ぬ何かを感じ、沈黙を貫いている。
「そうね……。受けないならしかたないわ。でもとってもつらいかも」
そういってエリがアルに目配せをすると、宿にいる男の方へと歩いて行った。
「あのね、あそこのお兄ちゃんが……」
「ん?どしたんだいお嬢ちゃん」
「パンツは何━━」
「ごめんなさい!受けます!受けますから!」
ぱぁっと笑顔を浮かべたアルがエリの横へといくと、二人でハイタッチをしている。
良い子ね、とアルの頭を撫でながら。
「嵌められた……」
「あら?魔物をなめてもらっちゃこまるわ」
「ねー」
*
所変わってギルド西方支部。
同じ街の中にあるギルドではあるが、今まで見てきた中では一番規模が大きい。
中に入ってみると様々な部署に分かれており、種族も入り乱れた活気があふれている。
「受け付けはどこかなー」
紹介状を見ながらギルド内をうろうろとする。
時折ぶつかりながら、上を見れば飛行能力をもった魔物娘が飛び交っている。
ギルド西方支部はその名の通り、西方に位置するための支部である。
東西南北の大きな四つの支部に分かれ、そこから各町へと更に小別れしている。ギルドの役割は主に親魔物領にする全ての物への支援であり、教会側と対立するときもある。
教会が掲げる理念はいわずもがなであり、人として正しく生きる、禁欲的であり、魔と交わることなかれとされており、ギルド側では魔物と人間の調和、愛のある生活、とされている。
各個人で掲げる理念は変わってくるが大筋は同じである。
「サ……バト、サバト支部?」
カインが息ついた先には、黒い表札でサバト支部と書かれていた。
「あら、お客さん、いらっしゃいませー♪」
小さなダンボールを机代わりとした受付の魔女が言った。
「本日はどのようなご用件でしょうかー?」
「いや、ただ通りかかっただけで……」
「あら、冷やかしお断りですー」
にこにことした笑顔で辛辣な言葉を投げかけてくる。
あくまで笑顔で、表情を崩さずに。
「し、しつれいしました……」
「またどうぞー♪」
そそくさとその場をさるカイン。
サバト支部から見えなくなってくると、サバト支部の中から角を生やした少女が出てきた。
「なんじゃ騒がしい」
「いえ、冷やかしでしたー」
「冷やかしとな!」
アルと変わらないくらいの体躯をした、角を生やした少女は声を荒げていた。
身長よりも大きな鎌を片手で振い、持ちやすいように位置を変えている。
「それで、そやつはどのような奴じゃった?」
「えぇ、真っ黒黒すけで、背の高い男の人でしたー」
「真っ黒、のう」
頭からはヤギの様な角を生やし、蹄の少女は不敵に笑っていた。
「わぁっ」
カインの膝の上に乗ったアルが、両手で赤くなった顔を隠しながら呟いた。
足をぱたぱたと動かし、尻尾はカインの胸を叩きながら左右に振られている。
「いや、愛について教えてっていったよね」
「だって、歯が浮くような言葉なんだもん」
大昔の詩人が唱えた言葉。
愛という言葉抜きにしても、考えさせられる言葉だとカインは感じている。
同じ行く手を共に見据えることのできる仲間はいた。
あくまでいた、ということになる。
共に力を競い合い、研鑽しあった友がいた。
ずっと一緒だと思っていた。
時間がたつにつれて皆変わり、思想、観念、教義の全てが変わっていった。
次第に先に見据えるものが変わり、結果的に裏切り、裏切られた。
そして……。
「−ちゃん、おにーちゃん!」
「あ、どうした?」
「ぼーっとしてたけどどうしたの?」
「考え事だよ」
そういってアルの頭を優しく撫でる。
アルは猫のように頭をこすりつけると、嬉しそうな顔をしている。
「そういえばエリが呼んでたよ?」
「そっか、さっさと行ってこようか」
*
「やっと来たわね、このロリコン」
「いや、ひどすぎでしょう、その呼び方」
カインの外套の端を握ったまま、アルが隣についている。
エリはしかめっ面のまま、テーブルにもたれかかっている。
テーブルには一枚の羊皮紙があった。
内容はギルドへの紹介状。
推薦人はエリ・アデール。
紹介人は空欄となっている。
「これ、ギルドへの紹介状」
「それは分かるけど」
「いま人材不足でね、人を探してるの」
「それは大変ですなー」
我関せず、と言わんばかりにそっぽを向いて返事をしている。
アルの頭を撫でたり、頬を突いたりして遊んでいる。
「そう、大変なの。ここで知り合ったのも何かの縁。どうかしら?」
紹介状を更に近付け、満面の笑みで尋ねるエリ。
アルもカインも言い得ぬ何かを感じ、沈黙を貫いている。
「そうね……。受けないならしかたないわ。でもとってもつらいかも」
そういってエリがアルに目配せをすると、宿にいる男の方へと歩いて行った。
「あのね、あそこのお兄ちゃんが……」
「ん?どしたんだいお嬢ちゃん」
「パンツは何━━」
「ごめんなさい!受けます!受けますから!」
ぱぁっと笑顔を浮かべたアルがエリの横へといくと、二人でハイタッチをしている。
良い子ね、とアルの頭を撫でながら。
「嵌められた……」
「あら?魔物をなめてもらっちゃこまるわ」
「ねー」
*
所変わってギルド西方支部。
同じ街の中にあるギルドではあるが、今まで見てきた中では一番規模が大きい。
中に入ってみると様々な部署に分かれており、種族も入り乱れた活気があふれている。
「受け付けはどこかなー」
紹介状を見ながらギルド内をうろうろとする。
時折ぶつかりながら、上を見れば飛行能力をもった魔物娘が飛び交っている。
ギルド西方支部はその名の通り、西方に位置するための支部である。
東西南北の大きな四つの支部に分かれ、そこから各町へと更に小別れしている。ギルドの役割は主に親魔物領にする全ての物への支援であり、教会側と対立するときもある。
教会が掲げる理念はいわずもがなであり、人として正しく生きる、禁欲的であり、魔と交わることなかれとされており、ギルド側では魔物と人間の調和、愛のある生活、とされている。
各個人で掲げる理念は変わってくるが大筋は同じである。
「サ……バト、サバト支部?」
カインが息ついた先には、黒い表札でサバト支部と書かれていた。
「あら、お客さん、いらっしゃいませー♪」
小さなダンボールを机代わりとした受付の魔女が言った。
「本日はどのようなご用件でしょうかー?」
「いや、ただ通りかかっただけで……」
「あら、冷やかしお断りですー」
にこにことした笑顔で辛辣な言葉を投げかけてくる。
あくまで笑顔で、表情を崩さずに。
「し、しつれいしました……」
「またどうぞー♪」
そそくさとその場をさるカイン。
サバト支部から見えなくなってくると、サバト支部の中から角を生やした少女が出てきた。
「なんじゃ騒がしい」
「いえ、冷やかしでしたー」
「冷やかしとな!」
アルと変わらないくらいの体躯をした、角を生やした少女は声を荒げていた。
身長よりも大きな鎌を片手で振い、持ちやすいように位置を変えている。
「それで、そやつはどのような奴じゃった?」
「えぇ、真っ黒黒すけで、背の高い男の人でしたー」
「真っ黒、のう」
頭からはヤギの様な角を生やし、蹄の少女は不敵に笑っていた。
13/05/05 22:11更新 / つくね
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