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030.空が光に包まれた日







戦いの音が聞こえる。
誰が闘っているのか。
それは知ってる。
強い人間がいる。


「やぁああ!」
「たぁああ!」
二人は魔物に囲まれていた。
一人はドラゴンを相手に大立ち回り。
一人はアマゾネスやリザードマンたち相手に大立ち回り。
二人とも強い人間。
強い人間。
二人は、勇者。

「まったく! 竜王の城に飛び込むなんて想像もしませんでしたよ!」
「私もだよ! でも案外何とかなるもんだね!」
「無理です! 無茶です! まだ続々と援軍が来ているんですよ!」
リナリアと小さな勇者。
何しに来たんだろう。
「む!? 新手ですか?」
「ドラゴンとデュラハン、かな。あとは……わぁ、かっこいい鎧だねぇ」
「悪趣味ですよ! あのごてごてとしたのは」
竜王ファッションは不評みたい。

「竜王様が来た!」
「ここは我らだけで十分です!」
「この程度の相手、すぐにでも終わらせます!」
ドラゴンも他のみんなも頑張ってる。
でも、どいて?
「し、しかし」
どいて。
尻尾で地面を叩くと、みんなどいた。
「懸命ね。今のこの子、普段より10割増しで手荒いから」
「く、な、なんですかいまの」
「尻尾で地面を揺らしたみたいだね」

「それで、竜王様が何しに来たの? お話?」
リナリアが緊張してる。
やっぱり王様の前に出ると緊張するのかな。
私はしなかったけど。
「どうなの?」
ちびっ子勇者は震えてる。
やっぱりドラゴンは怖いのかな。
それとも、私が怖いのかな。
「何とか言ったらどうなのかな」
「何とか言いなさいよ」
なぜかディリアにも言われた。
げせぬ。
「貴女が言いださないなら、何も始まらないわよ」
むー。


「竜王様が出ないのでしたら、私が参ります」
隊長さん?
「事情は存じませんが、排除すべきなのでしょう。では、私が往きます」
隊長さんが剣を光らせて走り出した。
ちょっとだけちびっ子勇者に向かうと見せかけて、リナリアへ。
「くっ!」
「はぁ!」
隊長さんは強い。
でも、リナリアはもっと強い。
リナリア、強くなった。

でも、だいじょうぶみたい?
ずっと前に気にしてたけど、洗礼は無いみたい。
よかった。
ほんとによかった。

「このぉおお!」
「はぁあああ!」
リナリアは勇者。
素の力も強いけど、魔力を込めて戦ったらもっと強い。
隊長さんは強いけど、勇者ほどの強さじゃない。
なのに。
隊長さんはリナリアと互角。
「あら。結構やるみたいね、あの人」
たぶん魔力で体も強くしてる。
「それは凄いわね。でも、『もつ』の?」
たぶん無理。
もう息切れしてる。
「下手なドラゴンは一撃で終わりそうなのに。あの勇者、強いわね」
リナリアの装備は強い。
それにまだリナリアは切り札がある。

「すぅ、はぁ」
リナリアが距離を取って、集中してる。
あ、危ない。
「え? ちょっと、貴女」
「はぁああああ!」
隊長さんがリナリアに突撃する。
その二人の間に入る。
「て、りゃぁああああ!」
リナリアが振り下ろした剣から光が飛び出る。
翼で隊長さんを隠して、手で防ぐ。


「勇者って、みんなこんなのなのかしら」
出来る勇者は少ないみたいだけど。
「少ないってことは、他にできる勇者を知っているのね」
父様。
「……ああ、そうなの」
父様の切り札が、あれ。
勇者の力。
「何それ?」


リナリアの光が巻き起こした土煙が晴れていく。
生まれた時からの勇者は神様に才能を与えられる。
たまに、才能以外にも貰えるときがある。
天使たちが持つような、強い光の力。
父様は使えた。
「その力を使って貴女の母様に勝ったのかしら」
使ってなかったみたい。
でも、使ったのは見たことがある。
「あらそうなの」
「無傷? そんな馬鹿な……え?」
リナリアが驚いてる。
うん、切り札防がれたらみんなそうなる。
「君は……やっぱり」
やっぱり?
「君、だったんだね。あの時、洞窟の奥にいたドラゴンは」
首をかしげる。
「貴女。兜、無くなってるわよ」
あ、ほんとだ。
どおりで顔が涼しいと思った。

「おまえ、人間じゃなかったのか」
うなずく。
「色々と不思議だったけど、納得はしたよ。勇者にしては、君の戦い方、奇妙だったしね」
そうなんだ。
「それでどうするのかな。私たちのこと」
んー。
どうしよう?
「私に聞かれても困るわよ」
「竜王様の言葉に従います」
むー。
二人が私を見てる。
リナリアとちびっ子勇者も見てる。
とりあえず。
「とりあえず?」
ご飯食べよう。
みんなで。

振り向いた先には少年たちがいた。
みんな揃ってた。




何だか色々話し合った。
少年たちは私と別れた後も何度か会ってたみたい。
少年とちびっこ勇者が喧嘩をしたり。
リナリアとラージマウスたちが大食い競争したり。
なんか色々やってたみたい。
魔物だってわかったのは今が初めてみたいだけど、リナリアは何となく気づいてたみたい。

「魔物と仲良くなんて、なれない」
「そうじゃないってことは、もう分かってるでしょ」
「分かるわけがない。分かっちゃ、いけなんだ。僕は勇者なんだから」
ちびっ子勇者は悩んでる。
んー。
えい。
「ちょ、なにするんだ?!」
持ちあげてる。
たかいたかい。
「ちょ、ゆらすな!」
「君は一体何をしているのだ」
眼鏡ラージマウスが近づいて来た。
えっと、あやしてる?
「赤子のあやし方か」
「ぼ、僕を赤ん坊扱いするんじゃない!」
残念。

「あはははは! 本当、君は変わんないなぁ」
リナリアはすごくいつも通り。
魔物相手でも変わんない。
「だって、旅の中で知り合った仲間だもん。今更だよ」
リナリアは楽しそうに笑ってる。
でも、教会の教えと違うよ?
「そうだけどね。教会の人たちだって間違えることぐらいあるよ。人間だもん」
軽い。
すっごく、軽い。
「柔軟だね〜。勇者で教会の手先なのに」
ラージマウスは何だか尖ってる。
教会には嫌な思い出が無いからかな。
「柔軟というより、やんちゃなだけだよ。まだまだ大人じゃないからね」
リナリアは笑う。
何だか複雑な何かをちょっとだけ込めて。

みんな仲良し。
リナリアも笑って、少年も笑って、ラージマウスもリザードマンもみんな笑ってる。
カナシャは金槌リザードマンとお酒を飲んでるし。
ゴーストは何だかちびっこ勇者に近づいてる。
で、隊長さんに裾?を引っ張られている。
みんな仲良し。




「僕と君って、仲が良かったのかな?」
首をかしげる。
良かったかもしれないし、よくなかったかもしれない。
「えっと、どっちなんだろ」
わかんない。
「どういうこと?」

「え? あれ、人間になれるの?」
うなずく。
父様が人間だから、出来ると思った。
やってみたら出来た。
「そうなんだ。あ、でも、マリーたちも人の姿に化けていることがあったっけ」
あれとは違う。
「どういうこと?」
あれは見た目を変えてるだけで、触ったらわかる。
「あー。そう言えばそんなこと言ってたっけ」
ぎゅ。
「握手? わ、手もちっちゃいんだね」
握手握手。
「うん。握手握手」
質感も人間の手。
「え? あ、そう言えば」
翼も尻尾もない。
「わわ、分かったから脱がないで〜!」

少年は、旅をしてる?
「うん。みんなと仲良くするためにね」
ドラゴンと話をするのも?
「うん。だって友達になりたいから」
……ん?
ドラゴンと友達?
「そうだよ」
何で?
「え? だって、かっこいいじゃないか。ドラゴンって」

んー。
かっこいい?
むー?
なんで?
「え? なんでって言われても、上手くいけないけど」
それで友達になる?
「うん」
よりどりみどり?
「え? どういうこと?」
ここ、ドラゴンの巣。
ドラゴンはいっぱい。
「そういえばそうなんだよね。いきなり囲まれて驚いちゃった」
怖かった?
「びっくりしたけど。怖がる様なことはなかったよ」
そうなんだ。
そーなんだ。

でも、最初にこことは違う場所でドラゴンに会った時。
怯えてた。
「そりゃそうだよ」
うん。
「怒ってたからね。あのドラゴン」
うん。
怒ってた。
うん。
……ん?
「どうかしたの?」
何で怒ってるってわかったの?
ドラゴンの表情って人間には分かりづらいって聞いた。
「だって唸ってたもん。すっごく」
うん。
唸ってた。
「怒ってたらドラゴンだって人間だって犬だって、みんな怖いよ」
そういうもの?
「そういうもんだよ」




宴が始まった。
インキュバスや魔物になった勇者と、リナリア&ちびっこ勇者が並んで話をしてる。
ラージマウスたちはアマゾネスやらオーガやらに囲まれてる。
私の隣には少年。
みんなお酒を飲んでる。

「勇者になりたいかって?」
うなずく。
「なってみたいと思ったことはあるけど」
けど?
「今はちょっとだけ違うかな。勇者も大変そうだから」
リナリアたち勇者組は何だか苦労話をしてる。
眼鏡ラージマウスが興味深そうに話を聞いてる。

「君はどう?」
首をかしげる。
「勇者になれたら、なってみたい?」
首をかしげる。
「えっと。例えばの話なんだけどね」
よくわかんないけど。
私は魔物で勇者だから。
「どういうこと?」
父様が勇者だから、私も勇者。
「そ、そういうものなんだ」
そういうもの。
だから私は強い。

「それは合ってるようで間違っているんじゃないかしら」
ディリアが来た。
首をかしげる。
「貴女は何だか、勇者だとかそういう話じゃない気がするのよね」
「そうなんだ」
「私も小さな頃に良く遊んでいたけれど。最初からこうだったわ」
私にはもっと小さい頃はあったけど。
「そりゃそうでしょ」


ディリアと私と少年とリナリアと隊長さん。
いつの間にか5人でいろいろ話してた。
私の小さかった頃の話。
隊長さんの魔界話。
ディリアの旅の話。
リナリアのドジ話。
少年の小さかった頃の話。
隊長さんの失敗談。
私の旅の話。
ディリアの小さかった頃の話。
少年の旅の話。

いっぱいいろんな話をした。
リナリアたちをインキュバスとか魔物にしない事を条件にして泊まってもらって。
いろいろ話をした。
元勇者たちはリナリアたちにも「こっち側」に来てほしいみたいだったけど。
それは何時でも出来るし、そもそも誰も魔物と敵対しようとしてない。
ちびっ子勇者も戸惑っているけど、色んな魔物と話をしていたらちょっとずつ打ち解けて来ている。
みんな仲良し。
それが一番。


だから。
私は思い出す。

2度目の勇者が私たちの巣にやって来たこと。
私が父様たちから離れて旅に出かけるあの日。
父様が勇者の力を使った日。
あの日も、これからの日々が楽しいものだって思ってた。
そう希望を抱いてた。












空を光が埋め尽くしていた。
屋上にいた私はそれを見上げている。
光の一つ一つは、天使。
力の強い天使も弱い天使もいる。
弱い天使でもドラゴンくらいの力はある。
あの日は、もっと少なかったけど。
主神はどうも、我慢が出来なかったみたい。
空を光が埋め尽くしていた。
魔物なんて要らない。
魔物と仲良くする勇者なんていらない。
そう宣言するみたいに。
空を明るくしていた。




天使たちは強い。
封印を解いても天使たち強い。
けど、勝てない相手じゃない。
だから私が暴れた。
空を炎で明るく染めた。
天使の光と私の雷がぶつかる。
天使は空を飛んで、私も空を飛ぶ。
天使の数は多い。
天使の武器はドラゴンの鱗もなんだか通じにくい。
反則だと思う。
防御無視ってひどい。
いたい。
いたい。
でも、勝てる。









ずっと天使たちと戦ってる。
天使は数が多い。
ほんとーに多い。
なんかたまにディリアたちがやって来るけど、怪我をしたら危ないからすぐ帰ってもらってる。
隊長さんもたまに来る。
リナリアもたまに来てた。
怪我をしたら危ないのに。










天使たちは飽きない。
ずっとやって来る。
例え話に「星の数ほど」ってよくいうけど、本当に星の数だけ天使はいるのかな。
ご飯もあまり食べてない。
お風呂は全然入ってない。
疲れてくる。










段々怪我が増えてきた。
巣のあちこちも壊れてる。
天使たちはまだまだやって来る。
本当に天使たちは飽きない。
ガラスみたいな目をして天使たちがやって来る。
透き通っていて、綺麗で。
まるで中身が無いような透明な瞳。
主神って何がしたいんだろう。
わかんない。











……。










飛ぶのも疲れた。
ずっと戦ってる。
他の魔物たちは避難したかな。
巣はもうボロボロ。
私もボロボロ。
なんかもう疲れた。
主神は暇神。
こんなにずっと相手にするなんて疲れる。


お腹は空いたし。
お風呂は入りたい。
甘いものも食べたいし。
少年もいない。
うん。
何でこんなことしてるんだろ。
主神は暇神。




私を天使たちが囲んでる。
剣や槍を手にしてる。
私はお腹が空いた。
それに、疲れた。
ご飯をくれる魔物はもういない。
みんな避難した。
天使たちはたくさんたくさん、空にいる。
地上にもいる。
巣は、もうダメかな。


お腹空いたなぁ。
甘いのたくさん食べたいなぁ。
少年、どうしてるかな。
会いたいなぁ。
早く会いたいなぁ。




もう会えないかなぁ。




天使たちが武器を振り下ろす。
当たったらたぶん、痛いじゃ済まないかな。
泣いちゃうくらい痛いかな。




……。




目、閉じてよ。
どうせすぐ終わるし。





……。




……。



……。











































「うん。間に合ったかな」
たぶん間に合ったかな。


武器が弾かれる音が響いた。
そして、聞き慣れたようで、ちょっと違う声。


「ただいま」
おかえり。

目を開く。
私の隣には少年。
ちょっと大きくなって、青年?
「あはは。君は本当に変わってないね」
ぼろぼろ。
「でも変わってないよ。君は」


少年は青年になっていた。
腰の後ろにはなんだか見覚えのあるショートソード。
私が持っていた、少年から貰ったショートソード。
「ああ、これ? はい、どうぞ」
引き抜いてみる。
なんか折れてなかった。
折れてたはずだけど。
「直してもらったんだよ。誰に直してもらったかわかる?」
金槌リザードマン?
「正解。他の人も手伝ってくれたけどね」
少年は楽しそうにウィンクしてる。


「あと、お腹が空いていたと思うから、これも」
少年が持ってきた袋を開ける。
中が暗い。
「亜空間袋だって。簡単に言えば、沢山物が入っているよ」
もぐもぐ。
おいしい。
懐かしい?
「君のお母さんに作ってもらった物があるからね」
そうなんだ。
会ったんだ。

それに強くなった。
「そうだね。勇者にはなれなかったけど」
少年はちょっとだけ震えてる。
でも笑ってる。
その笑顔は。
その強さは。
「でも、僕は君の隣に立てるよ。ずっと頑張ってきたからね」
私にとっては。
勇者そのものだった。




だから。
私も決めた。




大きく息を吸う。
吐く。
少年。
「もう少年って年じゃないんだけどね。何?」
私の名前、知ってる?
「あー、リィーバって言うんだっけ?」
そう。
でも真名は?
「真名? あ、そういえば知らないや」
ドラゴンには真名がある。
本当の姿にふさわしい本当の名前。
自分の中で生まれる、自分に一番ふさわしい名前。
「そうなんだ」
でも私にはない。
「どうして?」
だって。
私はドラゴンで勇者だけど。




まだ一度も。
『本気』になったことがないから。




もう一度大きく息を吸う。
そして、鍵を開けるように、吐く。


イメージは父様。
もっと近いのは、勇者。
体の内側にある小さな宝箱を開ける。




本当の姿がどうなるかは知ってた。
私はずっと、『本気』を怖がっていた。
だから私はずっとこのままでいたかった。
父様が嫌がっていて、沢山の魔物を殺してきた力だったから。
神の力の欠片。
光の核。
それが『勇者の力』。
これを使うと、魔物相手に加減が出来なくなる。
だから父様は意地でも母様に使わなかったし。
母様は父様の意地に惚れこんだ。


「え? 君、姿が」
姿が?
「大きくなった。というか、大人になった?」
さっき見上げていた少年と目線が合った。
「口調は変わらないんだね」
うなずく。
だって私は私だから。

恋心も何もかも。
欲しいものを全部欲しいだけ手に入れる。
強くて我が儘なドラゴンだから。

私が吼えると、ボロボロだった巣が大きく崩れて、天使たちが遠ざかった。














それから。
天使たちがみんな諦めて引き揚げた後。
私は竜の聖域を貸し切った。

「まさか君とこうして一緒になるなんて思わなかった」
そう?
ここにいるのは私と少年だけ。
他には誰もいない。
竜の王様の特権を実行した。
「一緒に旅をしていたころは、気恥ずかしい思いばっかりだったしね」
妄想しなかったんだ。
「う……えっと、記憶を失ってからはね。みんなちょっとずつ遠慮しなくなってきたから、その」
妄想はしたんだ。
誰の?
「名前の知らない女の子、だったよ。最初はよくわからなかったんだけどね」
そうなんだ。

少年は話してくれた。
夢の中に出てきた女の子の話。
少しずつ取り戻してきた記憶のことと、一人だけ残った私がずっと気がかりだったこと。
他の強い人たちと訓練して、父様と訓練して。
強くなったんだって。
まるで勇者みたいに。
「あはは。勇者にはなれないよ、僕は」
首をかしげる。
どうして?
「だって勇者って、魔物を倒すじゃないか」
納得した。
魔物を守って天使に剣を向けるのは、勇者じゃない。
「僕は勇者になりたかったんだ。小さい頃は。でも今は違うかな」
少年は私を見ている。
「今は君を守りたいよ」
私のほうが強い。
「うん。でも、守りたいんだ」
少年は私を見ている。
透き通った眼。
邪気が無い、でも強い思いを込めた瞳。


「けどさ。変な感じだね」
少年は自分の体を触っている。
「サバトの薬って、体を小さくするんだね」
少年は少年に戻っていた。
いや、今は一時的だけど。
サバトが本気を出せばずっと効くかも。
「えー。それは、複雑だね」
でも大丈夫。
「どうして?」
私がいるから。
薬なんて要らない。
青年も少年も自由自在。
「凄い自信だね」
別に。
唯の事実。

私は君のために、これから生きる。
父様も母様もディリアもリナリアも大事だけど。
みんなも守るし仲良くするけど。
君のために生きる。
「うん。僕も、君のために生きるよ」
少年が頷く。


ドラゴンと人が番になる話。
それは、昔の魔王の時代でもたまに在ったみたい。
その時に交わされた約束を、今ここで交わしている。


ということで。
「わわ。いきなり押し倒すのは、どうかと思うよ」
私は魔物。
君は人間。
「う、うん」
魔物は食べる。
君が大好きだから。
愛してるから。

もう離さない。
天使たちと戦った時間よりもずっと長く。
一緒にえっちをしよう。










こうして、ドラゴンとドラゴンに会うことを目指した少年の物語は、一つの幕を閉じた。
星の数ほどの天使たちでさえ下せなかった竜王は、たった一人の人間の前に屈した。
どこでその話が広まり出したかは定かではないが。
その人間は、『竜狩り』として吟遊詩人に語られるようになった。




さて。
その狩られたというドラゴンだが。




はぁ。
もう一回。
「ま、まだ? そろそろご飯にしようよ」
やだ。




部下たちから呆れとも称賛ともつかない笑顔と共に、語られている。
あの最強の竜王が、たった一人の人間を下せていないと。
見下ろすはずのドラゴンが組み敷かれているのだろうと。
で、あれば。
まさにあれこそが『竜を狩るもの』だ。

当の竜王本人からすればどうでもいい話。
愛するものを愛し、愛するものから愛される。
それだけで良いのだから。




柔らかなベッド。
その枕元には2振りのショートソード。
少年と少女の絆は、今もなお二人により添うように輝いている。

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これにて彼女と彼の物語は、ひとまず幕引き(。。

続き?

しばらくは、少年と過ごすからやだ

とか言われたんで、しばらくは無いかなぁと(−・−

16/03/08 23:11 るーじ

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