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第九話「夜鷹の夢」



逢間佐久耶の家、なんとか探し当てると緯度はまず玄関先に意識を向けた。


「妹喜、何か感じるか?」


「うむ、微かにおかしな波動を感じるが、あまりに弱く読み取ることは出来ぬ」


無理もない、縁の言葉通りならば誘拐されたのは何時間も前、痕跡そのものが失せていたとしてもおかしくはない。


「そうか、しかし急がなければ・・・」


二人の学生の失踪、妹喜が感知していない出来事である以上、ほぼ間違いなく破壊師団の仕業であろう。


ならば目的は佐久耶を消して物語の進行を止めてしまうことだろう。


一刻も早く佐久耶を助け出さねば、物語を進めることが出来なくなる。



「緯度、上を」


妹喜に言われて空を見上げると、街道にある並木の枝に、何か羽のようなものが引っかかっていた。


「・・・なんだ?」


「うむ、なんとか取れぬか?」


並木の下にある花壇によじ登り、なんとか枝に手を伸ばすと、それは褐色の鳥のような羽だった。


「・・・これは?、鳶か鷹のもののようだが」


「緯度、どうやら見つけたぞ」


妹喜は緯度の手にした羽を見て微笑んだ。


「これは、下手人の残したもののようじゃ」







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「?・・・んんっ!?」


逢間佐久耶が目を覚ますと、何故か目隠しをされ、闇の中にいた。



動こうにも身体を縛り上げられているのか、全く動くことが出来ず、さらには猿轡を咬まされているのか、声も出せない。


「はっ、ようやく気づいたな?」


すぐ近くから聞いたことのある声がした、確信はないが、おそらく隣のクラスの高原だろう。



「どうして自分がこんな目に遭うのかわかんねーって面だな?」


まさしくその通りなのだが、佐久耶は首肯すら出来ず、呆然としている。


「あたしの楽しみを邪魔しやがったあの野郎をぶちのめすために、あんたには人質になってもらう」


そうだ、確か自分は朝学校に行こうとして、高速で飛来する何者かに肩を掴まれ、そして・・・。




「さて、と、それじゃあまあ、あいつが来るまでお前で楽しむかな?」



ぱしりと音がして、すぐ近くで鞭のような音がした。


どうやら高原は手の中で鞭をしならせているのか、複数回音が聞こえてくる。



「覚悟はいいかっ」


来る、佐久耶が覚悟を決めたその刹那。


「そこまでだっ!」








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「来やがったな?、偽善者・・・」


緯度が羽に残されていた波動を頼りに町外れの廃墟に来たのは、かなりギリギリだった。


柱に縛り付けられた佐久耶、その前で鞭を持つ高原、もし駆けつけるのが遅ければ、あの鞭が少女を打ち据えていただろう。



「逢間を離せ、貴様の狙いは私だろう?」


「ふんっ!、なら、まずは土下座だな、こいつの身を綺麗なままにしておきたいならな?」

鞭が容赦なく佐久耶のすぐ前に降りおろされ、埃が舞い上がる。


「くっ!、貴様は・・・」


人質、というわけか、しかし下手に逆らえば佐久耶にも危害が及ぶ、ここは従順なフリをして隙をつくしかない。



「どうした?、ほら、土下座だよっ!」


やむを得ない、緯度はその場に正座すると頭を下げた。



「そうそう、それで良いんだよっ!、おらあっ!」


瞬間振り下ろされる鞭、緯度の背中を鋭い痛みが走った。


「っ!」



「はんっ!、少しは懲りたか?、まだまだ・・・」


今度は頭を足蹴にして緯度を転がすと、太腿めがけて鞭をしならせた。


「くあっ!」


「はっはあっ!、そうだよ、貴様はそうやってるのがお似合いだよ、おらおらっ!」


素早く振り下ろされる鞭、容赦なく緯度の身体を鞭が襲い、時間とともに傷が増えていく。



「・・・(まずいな、このままではダメージが増える一方だ)」


なんとか佐久耶を助けださねばならないが、このままではそれもすることができない。

彼女が縛られている柱まで走ろうにも、その前には高原が立っている、救出は難しいだろう。


「夜麻里っ!」


だが、その刹那、何者かが廃墟に駆け込んできた。


「あなたはっ!」


なんとか声がした方向を確認すると、そこには佐久耶を助けようとする縁の姿があった。


「射裟御先輩っ!、何故ここに・・・」



おののく緯度だが、微かに縁は申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまんが、あまりに様子がおかしかったからな、後をつけさせてもらった」


素早く佐久耶の拘束を解くと、縁は高原を睨み据えた。


「射裟御先輩は佐久耶を、後は・・・」


ゆらりと立ち上がると、緯度は左手を腰に、右手を突き出して、独特な構えをとる。


「私の役目です」


「・・・わかった、無茶はするなよ?」


縁は佐久耶をかかえると、そのまま廃墟を後にした。



「・・・これで勝ったつもりか?」


瞬間、高原の背中から鷹の翼が生え、その全身も猛禽を思わせる怪人の姿へと変貌を遂げてしまった。



「っ!」



「貴様を殺す方法など、いくらでもある、この鷹ロイドにはなあっ!」


なるほど、高原は何らかの手段でもって人間以上の力を得ていたのか。


「人間は支配することが最高の価値、強者が弱者を支配して、何が悪いっ!」





「それは違うぞ、高原



強者の本当の使命は自分以外の弱き者を保護すること。


支配することは保護することと同義のこと。


だからこそ強者は弱者を支配することが許され、同時に弱者を保護することが求められる・・・」




鋭い瞳で緯度は高原を睨み続ける、その言葉に秘められた力は強く、言葉のみで高原は圧倒された。



「貴様、一体何者っ!」



「通りすがりの一読者だ、覚えておけっ!」


瞬間、緯度の武装が召喚され、その身体に力がみなぎる。


「行くぞっ!」


太刀菊水を引き抜くと、緯度は素早く踏み込み、鷹ロイドに斬りかかる。


「はんっ!」


しかし、直後に鷹ロイドは空へと飛び上がり、天井を突き破り攻撃をかわした。


「なるほど、なかなかやるな・・・」


一旦菊水を腰に戻すと、今度は紅桜と針槐を引き抜く。


「おらっ!、今度はこっちの番だ」


空中から急降下し、緯度めがけて突撃する鷹ロイド、手にした鞭がしなり、地上にいる緯度に襲いかかる。


「・・・ふっ!」


しかし鞭さばきそのものは先ほどの攻撃ですでに見切っている。


地面を飛び回り、鞭による攻撃をかわすと、隙をついて鞭を掴み、鷹ロイドを引き込む。



「っ!」



「喰らえっ!」



続けざまに、右手に持っていた紅桜から弾丸を発射して鷹ロイドを吹き飛ばす。


「ぐあっ!、おのれ・・・」


弾丸をかわすことも出来ず、鷹ロイドは壁に吹き飛ばされ、そのまま地面に転がった。


「さて、終わりだな鷹ロイド」


ニ丁拳銃を構え、とどめを刺そうとする緯度だが、その前に妹喜が首を振った。



「ダメじゃ緯度、この娘はもともとこの世界の人間、命を奪えば物語にいらぬ波紋を起こすことになるかもしれん」


「むっ!、ならばどうすれば良い?」



放置しておけば確実にこの世界に影響が出る、しかしとどめを刺すことも出来ない、ならば打つ手なしではないか。



「否そうではない、妾の見た限り、こやつは体内に埋め込まれた寄生虫の影響で変異しておる、それさえなんとか出来れば元の姿に戻れるはずじゃ」



「何をごちゃごちゃと言っているっ!」


鷹ロイドは立ち上がると、鞭をしならせて緯度に攻撃を仕掛けた。



どうやら、あの程度ではまだ鷹ロイドを無力化することは出来ないようだ。


「全力(マキシマムドライブ)じゃ緯度、紅桜と針槐の力を極限にまで高めて放てば、寄生虫をとりのぞけるはずじゃ」



妹喜の言葉に軽く頷くと、緯度は自身の力を高めて、ニ丁拳銃の出力を向上させる。



「吠えろ、紅桜っ!、針槐っ!」


放たれた二つの力は狙いをあやまたずに鷹ロイドに命中する。



「ぐわあああああああああああっ!」



絶叫とともに鷹ロイドの形は崩れてゆき、その内にあった人間としての姿を晒す。


「緯度っ!」



妹喜の言葉に目を細めると、高原の耳から小さな蜘蛛のような寄生虫が飛び出し、空中で霧散するのが見てとれた。



「な、なんだあれは・・・」


白い身体に、まるで髑髏のような斑紋、明らかにただの虫ではない、不気味な虫である。



「あれがどうやら高原を操り、鷹ロイドへと変容させていた虫の正体のようじゃな」


今はもう寄生虫は霧散しており、その欠片も存在せず、後には人間に戻った高原が気絶しているだけだ。



「自在に操るばかりか、肉体すらも一時的に変質させる、悍ましい虫じゃな」



やはり流星のブレードの仕業だろう、いずれ決着をつけねばならないかもしれない。
16/12/02 00:02更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

今回はサタン虫、ではなく変な虫に寄生された黒ギャルを元に戻し、佐久耶を助け出す九話でありました。

しかしこれでは主人公完全にどこかの通りすがりの仮面ライダーですね、あれもあちこちさすらうお話しでしたが・・・。

今回はあまり魔物魔物しい話しが書けなかったので、次はもっと魔物なお話しにしたいものです。

では、今回はこの辺りで。

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