連載小説
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(64)スケルトン
ぎしぎしと、ベッドの軋む音が響いていた。
部屋にはベッドと机がおいてあり、机には三角帽子をかぶった少女が腰掛けていた。
ベッドの上には、若い男と少女の二人がおり、肌を重ねている。
しかし、男の方が五体満足な健康的な体をしているのに対し、少女の肌は青ざめていた。それどころか、両手両足は骨がむき出しになっており、顔の半分も頭蓋骨が露出して眼穿には眼球の代わりとばかりに鬼火が燃えていた。
そして、男が顔を快感に歪めながら体を揺する一方で、少女は口から喘ぎ声の代わりに言葉を紡いでいた。
「未来には二種類ある。決して逃れ得ぬ大局的な流れが作り出す未来と、個人の動きや運などの不確定要素によっていかようにでも変化する未来である」
少女の大腿骨の根本、左右に広げられた股間では、男の肉棒が普段は慎ましやかに閉じているであろう女陰に入り込み、粘液を泡立てながら出入りを繰り返していた。
「二つの未来の関係は、ラフラタ河の水面を滑る一枚の落ち葉にたとえられる」
時折男が声を漏らすが、スケルトンの少女は途絶えることなく何事かを紡ぎ続け、机に向かう少女はその文言を紙に書き写していた。
「ラフラタの流れはアリョーシャ海に注ぎ込まれる。しかし、落ち葉がアリョーシャに必ずしも達するとは限らない。ラフラタの流れに存在する淀みや渦に囚われる可能性があるからだ」
ぎしぎしと、ベッドの軋みの音が早くなった。男の限界が近くなり、彼が腰の動きを早めたためだ。
「しかし、落ち葉が先の流れを見通し、淀みや渦を避けて水面を滑ることは可能だ。だが、いくらラフラタの流れの内で動こうとも、流れ着く先はアリョーシャであり、北海ではないのだ」
「ぐ・・・!」
男が小さく呻き、ベッドのシーツを握りしめた。直後、左右に広げられた少女の足の骨の間で、彼の尻が細かく震えた。
限界を迎え、スケルトンの胎内に精を放っているのだ。
「・・・・・・ぶれ幅を持つ未来は、見通すことができれば変更は可能である。しかし大局的な流れは、決して変えられない。故に、私は変えられもしない未来を見ないために、未来視の魔術の開発を断念したのだった」
「はい、そこまで」
男が射精を終え、しばし脱力してから再び腰を動かそうとしたところで、机に向かっていた少女が口を開いた。
「今日の聞き取り調査はここまでだ。これ以上は危険だ」
「いや・・・俺はまだ大丈夫だ・・・」
「君の精力は、ベッドの上で幾度も味わったから知ってる。私が言っているのは、そのスケルトンの方だ」
魔女は机の上にあった、棒のついたレンズを手に取ると、イスを立ってベッドの方へと歩み寄った。
「ちょっと失礼」
男がスケルトンから体をはなすと、魔女はスケルトンの顎をつかみ、レンズ越しに彼女の瞳をのぞき込んだ。
「うむ・・・意志力40程度・・・かな」
スケルトンの瞳の輝き具合から、何かの数字を推測すると、彼女はレンズをおろした。
「スケルトンは、精を得ることで骨格に纏った仮初めの肉体を維持している。知っているね?」
「ああ。だから仮初めの肉体を維持するために、男を求めてさまよう・・だったな」
男は魔女の言葉に、そうスケルトンの生態について続けた。
「その通り。しかし、精と魔力の流れを多少調整してやることで、仮初めの肉体ではなく精神の方を復元することができる・・・というより、今まさにこの大賢者サマを使って、そうしているわけだ」
魔女がベッドに横たわるスケルトンに目を向けた。うつろな瞳には、微弱ではあるものの意志の光が宿っており、その眼球の裏に物を考える何かがいることを示していた。
「もっとも、記憶の復元ばかりが進み、人格の復元には至らないわけだが・・・まあ、そちらの方が都合がいい」
「何でだ?人格も戻った方がいいじゃないか?」
「人格まで戻ったら、他人に聞かれたくない情報を話してくれなくなるじゃないか。それに、自由を求めて暴れ出したら、スケルトンの体はなかなか厄介だ」
彼女は、じっとベッドに横たわるスケルトンを見下ろしながら、続けた。
「もっとも、大量の精を与えぬ限り人格まで復元されることはないだろうが・・・可能性は否定できないから、危険は犯したくない」
だから、今日の精を与えながらの聞き取り調査は中止なのか。
男はようやく理解した。
「まあ、結構重要な情報も聞き出すことができたから、今日のところはそのとりまとめをやっておこう」
「俺は何を?」
「そうだな。大賢者サマの体を拭いて、部屋に閉じこめておいてやれ」
「わかった」
そう男が頷き、立ち上がろうとする。しかし、ベッドについた彼の手首を、白い骨がつかんだ。
「おなかすいた」
ベッドに横たわるスケルトンが、男を捕まえたままそう平坦な口調で紡ぐ。
「ははは、三度も精を注いでもらったのに、まだ空腹か・・・精神の方に精が回るよう調整していたとはいえ、大賢者サマは食いしん坊だ」
魔女はくすくすと笑うと、手をのばしてスケルトンの額を軽くつついた。
すると、彼女の額に一瞬複雑な模様が浮かび上がり、ジワリと滲むように消えた。
「これでよし。じゃあ、大賢者サマに精をごちそうしてやれ」
「え?また?」
「なに、肉体の方に精が回るよう調整したから大丈夫だ。タオルなどは私が用意してやるから、精をやってくれ。その代わり・・・」
魔女は一度言葉を切ると、男の耳元に唇を寄せて、続けた。
「今夜、私にも・・・な・・・?」
「わかった」
艶めかしく、唇を舐めながらの彼女の言葉に、男は頷いた。
「それでは、少し失礼する。見張りがいないからといって、あまり乱暴にするなよ?」
「分かっている」
「では、後は任せた」
彼女はそう言い残してから、部屋をそっと出ていった。
「・・・・・・」
男は、部屋の扉からベッドの上に視線を移し、横たわるスケルトンの体を見た。
手足と顔の半分の骨がむき出しではあるものの、全体的に細身の体つきは男の主を連想させる、美しく均整のとれたものだった。
緩く広げられた両腿の骨の間には、桃色の亀裂が口を開いており、泡だった愛液と白濁の混ざったものを垂れ流し、シーツを濡らしていた。
だが、彼女はまだ物足りないらしく、白い骨格むき出しの両腕を男に向けて掲げ、口を開いた。
「ちょうだい・・・」
「分かった」
男は短くため息を挟んでから、広げられた彼女の両足の間に入り込み、再び屹立を女陰に沈めていった。
二種類の粘液がぬるぬると屹立を包み込み、柔らかな肉の亀裂に屹立が入り込んでいく。
「うぅ・・・」
魔女の狭くてきつい屹立と異なり、柔らかく肉棒を包み込む肉の感触は、男に堪えがたい快感を与えた。
魔女の同意を得た上での交わりだというのに、男の胸中にはなにか後ろめたいことをしているかのような背徳感があった。
そして、その背徳感は否応なしに男の心臓を高鳴らせ、彼を興奮させていく。
粘液でぬるつく肉の筒が、屹立に絡みつき、じゅぶじゅぶと湿った音を立てた。
「・・・精神は、肉体に記録される・・・」
不意に、男の下で天井を無表情に見つめていたスケルトンが、口を開いた。
「一時の感情が皮膚に現れ、持ち主の性格傾向が髪に宿るなどという段階ではない。肉体にこそ精神が宿るのだ」
その口調は平坦であったが、スケルトン特有のたどたどしさはなかった。どうやら、つい先ほど精神方向に投与した精の残滓が、効果を発揮して大賢者の記憶を呼び起こしているのかもしれない。
「感情はすべて臓物に蓄積され、記憶は骨格に刻まれる。たとえいっさいを忘却しようとも、肉体に刻まれた精神が意識体に作用し、記憶と思考の回復を行うのだ」
男が腰を前後に動かす度、彼女は上下に小さく揺れながら、とうとうと言葉を紡いだ。
「よって、骨格に魔力を宿し、十分思考可能な意識体を生じさせれば、自然と人格は復元されるのだ」
「・・・え・・・?」
スケルトンの言葉に、男は不安を覚えた。胸中に芽生えた不安は、たちどころに彼の意識を冷やし、下半身から意識を逸らさせた。
そして、彼がスケルトンの目を見た瞬間、男の目が見開いた。彼女の瞳に、確かに物を考える者特有の、意識の光が宿っていたからだ。
「お前、まさか・・・」
「さて、どうかな?」
独り言や、記憶を口から再生しているのではない、本物の返答を彼女は返した。
そして、広げていた両足の骨を、男の腰に絡みつかせた。
「いずれ精神は磨耗し、スケルトンとしての自我が台頭して私は消え去る。ならば、多少今を楽しんだところで、罰は当たらないはずだ」
瞬間、彼女の膣壁がにゅるり、と波打った。
挿入された屹立の、根本から先端に向けて、緩やかな膣壁の締め付けが撫でていったのだ。
柔らかく包み込むだけの膣壁の不意の蠢きに、男の醒めた興奮に再び火がついた。
「うぉ・・・!」
「私のことをあの魔女に告げても構わない。どうせ彼女には、私を見つけだすことなど不可能だ。スケルトンとしての振る舞いは、この体が記憶している。それにすべてを任せるだけでいいのだから」
男の腰に足を絡めたまま、膣壁をうごめかせ、腰をねじって男を刺激する。
「むしろ、魔女には感謝している。このように復活の機会を与え、食事も提供してくれるのだから。おかげで思索に耽る時間はいくらでもあった」
「うぁ・・・あ・・・!」
根本から先端へと肉棒を撫でていく膣壁の感触は、男の腹の奥から何かを引き抜いていくようであった。
男は体内からこみ上げてくる感覚に、体を強ばらせながら、声を漏らした。
「おやおや、そんなに声をあげては、魔女に聞こえるのでは?ただのスケルトン相手に無駄に興奮し、精を捧げてしまったとあっては、彼女も嫉妬に駆られるだろう。今夜が楽しみだ」
「ぐ、うぅ・・・!」
スケルトンの紡いだ言葉に、男は歯を食いしばって快感を堪えようとした。
「耐えるか・・・」
幾度となく繰り返した、膣壁を蠢かせての愛撫を堪える男に、スケルトンの言葉に感心が宿る。
「ならば、これは?」
直後、男の屹立の先端に何かがふれ、屹立を吸った。
子宮口が亀頭の先端、先走りを滲ませる鈴口に吸いついたと気がついたのは、彼が不意の刺激に精を漏らしてからだった。
「あぁぁぁぁっ!?」
暴発にほぼ近い、屈辱を感じる精の迸りに、男は声を上げながら腰を震わせた。
そして、精を勢いよく放つ肉棒から、遅れて快感がこみ上げてくる。
「うむ・・・肉体が満たされていくのが分かる・・・」
妙な感慨を覚えているような口調で、スケルトンがそう呟いた。
そして、しばしの間をおいて男の射精が止まった。
「精の提供、感謝する。おかげで、もうしばらく体が維持できそ・・・」
荒く息をつく男に降り注いでいた言葉が、不意に途切れた。
「・・・?」
違和感に男が彼女の顔を見てみると、すでにスケルトンの瞳は妙に虚ろになっており、その裏から思考する存在が消え去っていることを物語っていた。
「まだ・・・もっと・・・」
先ほどまでと同じ声ではあるものの、平坦な口調でスケルトンが求める。
しかし、あれほど吸いつき波打っていた膣壁はぴくりとも動かず、二人分の体液ごしに屹立をくるんでいるだけだった。
すると、不意に部屋の扉が開いた。
「入るぞ」
遅れてそう言いながら、魔女が室内に足を踏み入れる。
「精は与えたな?」
「・・・あ、あぁ・・・」
彼女の確認に、男は頷いて応えた。
「ならばよし。今日はここまでだ。ほら、スケルトンから離れろ」
素っ気なく、しかしどこかせかすような調子で、魔女は男にベッドを立つよう求めた。
「あぁ・・・しかし・・・」
「何だ?何か言いたいことでも?」
「いや、その・・・」
意識を取り戻したスケルトンに責められ、情けなく声を上げながら精を漏らした。
その人ことを口にすべきかどうか迷っていると、魔女は何かを察したかのように目を開き、男を睨むように細めた。
「なるほど・・・分かったぞ・・・さてはスケルトンの相手をしたから、今夜は勘弁してほしいとでも言いたいのか?」
「い、いや、そんな訳じゃ・・・」
「ならば予定通り、今夜はがんばってもらおうか。まずはブリッジ暴れ馬騎乗位だ!ほら、こっちに来い!」
魔女は、男の手をつかむと、部屋の扉に向けてグイグイ引っ張った。
彼女に引っ張られながらも、男はほっと胸をなで下ろした。
どうやら、彼女に自分の声は聞かれなかったようだ。
そして、男が部屋を出て、扉が閉まる瞬間、ふと彼は室内に視線を向けた。
彼の目の先、扉の隙間から一瞬見えたのは、妖艶な笑みを浮かべ、唇に一本立てた人差し指を当てる、スケルトンの姿だった。
12/10/27 22:50更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
心臓移植したら、心臓の前の持ち主の精神が取り付いたって言う漫画を前に読みました。
実際の臓器移植の現場でも、手術の前後で嗜好が変わったりする場合があるそうです。
考えてみれば、臓器は脳味噌と神経でつながっているのですから、意識の影響を受けないわけがないのです。
むしろ、神経もつながっていない髪の毛より遙かに、魂なんかが宿りやすいのではないのでしょうか。
ですから、人間の髪を植えられた人形より、人間の内臓を詰め込まれた人形の方が魂が宿りやすいのです。
みなさんも人形を買うときは、人間の内蔵が入っていないかどうか確認しましょう

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