連載小説
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(63)マミー
砂漠と町の境に、小さな遺跡があった。観光名所、と言うほどではないがそれなりに観光客が来る小さな遺跡だ。
文化的価値もあるらしく、町では管理人として人を雇い、観光客の案内をさせている。まあ、つまりは僕のことだ。
日が沈み、遺跡の見回りをすませて入り口に施錠してから。僕は家に戻った。
家といっても、遺跡の傍らに立てられた小さな小屋で、昼間は遺跡の入場料を取ったり、お土産を並べている売店のようなものだ。
小屋の表側の窓にはカーテンが下ろされている。
僕は小屋の裏に回ると、扉を開いた。
「ただいま」
「おかえり・・・なさい」
台所と食堂を兼ねた裏口入ってすぐの部屋に上がると、女の声が僕を迎えた。
台所に向かい、鍋をかき回しているのはエプロンと薄く色の付いた包帯で全身を覆った女だった。
「いい匂いだね」
「もうすぐ・・・できる・・・」
エプロン姿のマミーはスープを少しだけ小皿に移すと、包帯の間からのぞく薄い唇に小皿を運び、味見をした。
「・・・ん・・・ちょうどいい・・・」
彼女は一つ頷くと、鍋の前を離れて、食器棚へと向かった。
「ちょっと上、着替えてくるね」
「うん・・・」
観光客を相手にするための制服めいた上着を脱ぐため、僕は台所に続く寝室へ入っていった。



もともと、僕は遺跡発掘の手伝いをしていた。
遺跡発掘といっても、魔物が住み膨大な罠が仕掛けられたご立派な遺跡の探索などではなく、大昔の民家の跡や道路の痕跡を掘り返す仕事だった。
あの日、町と砂漠の境に埋もれた、小さな石組をみたときも、せいぜい町の城壁の名残程度だろうと思っていた。
しかし、石組は僕の予想よりも遙かに大きく、壁と言うよりも建物の一部が露出しているような構造だった。
遺跡発掘隊のリーダーも、砂の中から現れる建物に徐々に興奮していった。
そして、漆喰で塗り固められた扉がでてきたとき、僕たちは大いに喜んだ。民家の土台や舗装された道路ではなく、墓が出てきたからだ。
僕たちは町の許可を得て漆喰の扉を開くと、墓の中に入った。
墓の中はごく狭く、石棺といくらかの副葬品が並べられているだけの、小さなものだった。
しかし並ぶ副葬品はいずれも保存状態が良好で、墓荒らしの手がついていない貴重なものばかりだった。だが、何よりも一番重要だったのは、石棺の中身だった。当時の姿そのままに砂の中に埋もれ、墓荒らしの被害に遭うこともなかった墓。つまり、この墓の主が石棺の中にいるということだった。
僕達は石棺に黙祷を捧げ、静かに蓋を開いた。
石棺の中に納められていたのは、色づいた古い包帯で全身を覆い、布の間から亜麻色の髪を覗かせた、女のミイラだった。
僕は、リーダーの指示に従い、布の表面に身分を示すものがないかどうか確認するため、彼女の顔に自分の顔を近づけ、ランタンの光を当てた。
すると、光が彼女の目を目蓋越しに照らした瞬間、ミイラが口を開いて声を上げたのだ。
乾ききった、悲鳴のような掠れた声に、発掘隊の面々は肝をつぶして墓を飛び出していった。
もちろん、僕自身も相当に肝をつぶしていたが、逃げ出すことはなかった。ランタンの光に照らされた彼女の顔が美しかったのと、腰が抜けてしまっていたからだ。
それからは、いろいろとごたごたがあった。僕がマミーとなった彼女の世話係を任せられ、生きていた頃の彼女の話を聞き出そうとしたが、彼女が全く覚えておらず、とりあえず遺跡の管理人も兼ねて彼女を遺跡の側に住ませることになったぐらいだろうか。
その中で、僕と彼女が幾度となく言葉を交わし、互いに気に入り、ともに遺跡の管理人として同居することになったが、それはまあ別の話だ。


食事を終え、僕が食器を片づけていると、彼女は食卓から僕の背中をじっと見ていた。
そして、皿を拭く頃に彼女は席を立ち、寝室へと消えていった。
今夜はお願い、のサインだ。
といっても、このサインが出なかった夜がないことに、僕は内心苦笑しながら食器を収納し、寝室へと入った。
寝室は、ベッド脇のサイドテーブルの上のろうそくの他、照明が全くなかった。
どこからか吹き込む肌を撫でても気づかぬほどの風が、ろうそくの炎を小さく揺らし、寝室の壁に投じられた影を踊らせた。
そして、ろうそくの傍ら、ベッドの上に彼女が足をそろえて座っていた。
「きて・・・」
揺れる炎に照らされながら、彼女が僕に向けて手を差し出す。
僕は、無言でベッドに歩み寄ると彼女の手を取り、そっとベッドの縁に腰掛けた。
そして、彼女の手を覆う包帯のすべすべとした感触を指先に覚えながら、しばし僕は彼女の手を撫でた。
さらり、さらりと、乾ききった布が手のひらを撫でる。彼女の髪の毛を編んだら、こんな手触りになるのだろうか。
そんな想像が、脳裏に浮かぶ。
「ん・・・そろそろ・・・ほどく・・・」
しばし手を撫でていると、彼女が小さくそう呟いた。
すると、彼女の腕や指を覆っていた包帯が、ふいにするするとほどけていった。辛みつく布がベッドの上に滑り落ち、彼女の褐色の肌が露わになっていく。
僕は包帯がほどけていくのを待つと、むき出しになった彼女の腕に指を触れた。
「ん・・・」
さらさらと乾いた包帯と裏腹に、指に吸い付くような潤いを含んだすべすべとした肌を撫でると、彼女が声を漏らした。
無理もない。魔力で保護された包帯で全身を覆い、風さえもふれることのないよう肌を守っていたのだ。多少敏感になっても仕方のないことだ。
「ああ・・・すべすべしてて、気持ちいいよ・・・」
「ん・・・あり、がと・・・」
彼女の手を握り、もう片方の手で腕を撫でながら、そう言葉を交わした。
そして、僕が肌の質感を楽しみ、数度彼女が体を震わせたところで、彼女が口を開いた。
「こんどは・・・あなた、の・・・番・・・」
「うん、お願い」
僕は彼女の手から指を離すと、身にまとっていた服を脱ぎ始めた。上も下も、下着さえも脱ぎ捨て、一死まとわぬ姿でベッドに上る。
そして、ベッドに横座りする彼女の傍らに腰を下ろす。
「準備・・・できてる・・・」
これから彼女がしてくれることへの期待に、ぱんぱんに膨れた股間の分身を目にし、彼女が頷き、指を伸ばした。
包帯に覆われていない、むき出しの指が、僕の屹立に絡みつく。
「うう・・・!」
「・・・」
少しだけひんやりとしていながらも、柔らかくしっとりと潤いを含んだすべすべの手のひらが僕を包み込む感触に、思わず声を漏らした。
指の感触に屹立が小さく跳ね、彼女の指を押し返すと同時に、彼女が小さく身じろぎする。
しかし、彼女は屹立を握り直すと、気を取り直したかのようにゆっくりと上下に腕を動かし始めた。
すべすべの手のひらが肉棒の表面を擦り、甘い刺激を僕にもたらした。
皮膚がこすれる感触は決して痛いものではなく、彼女のしっとりとした肌のおかげで快感の内にアクセントが添えられるようであった。
「う、うぅ・・・!」
腹の奥で早くも渦巻き始めた射精の気配に、僕はそっと彼女の方に腕を回した。
すると、彼女の肩が包帯越しでもそれとわかるほど、熱を帯びているのが感じられた。
「・・・ふ・・・ん・・・ん・・・」
彼女の肩を抱くいて耳が近づいたためか、彼女の呼吸に小さな声が混じっているのがわかる。
まるで、快感に耐えきれず、声が漏れ出てしまっているかのようだった。
いや、実際そうなのだろう。彼女にとって、包帯の保護を離れたむき出しの肌など、口腔や女陰のように敏感なのだ。その敏感な肌に、熱を帯び脈打つ僕の屹立が触れているのだ。ただそう考えるだけでも僕は十分興奮できるが、実際に触れている彼女の興奮はどれほどだろうか。
「・・・ん・・・ぅ・・・っ・・・ん・・・」
声を漏らしつつも、手を上下に動かす彼女の瞳には、確かに情欲と興奮のもたらす潤みが宿っていた。
本来ならば、自分の敏感な場所に触れたいのだろうが、その衝動を抑えて僕を愛してくれているのだ。ならば、僕もお返しをしなければ。
僕は彼女の横顔に口を近づけると、頬を覆う包帯に舌先を触れさせた。
「んぁっ・・・!?」
突然頬に触れた塗れた感触に、彼女が声を漏らして身震いする。
僕は、構うことなく彼女の包帯の縁を軽く撫でると、興奮のためか少しだけ緩んだそれに舌先を潜り込ませ、彼女の肌を直接撫でた。
唇のごとき柔らかさと、かすかな汗の味。その二つが、僕の舌先を伝わった。
「ふ、ゃ・・・あぁ・・・」
頬を直接舐められた刺激に、彼女は意識が溶け崩れたような声をもらし、上下させていた腕の動きを止めてしまった。
そして、肩に触れる僕の腕に導かれるように、僕に体を預けてきた。
かすかな心地よい重みが僕の肩に加わる。
僕は彼女の脱力具合に、彼女がどれほどの快感を覚えているのかを察した。この調子ならば、もう数度舐めつつ肌を撫でれば・・・
「んん・・・」
「ひぅ、や・・・ぁ・・・!」
彼女の包帯の下で下を大きく動かし、頬の広い範囲を舐めてやると、彼女はびくびくと体を震わせた。彼女の痙攣は指先まで伝わり、屹立に添えた指が震えて、くすぐったい心地よさをもたらす。
僕はとどめとばかりに彼女の頬を舐めると、肩を抱き寄せていない方の手で、肉棒を握る腕を撫でた。
瞬間、彼女の全身が小さく強ばり、一瞬激しい痙攣が生じる。
「ぅ・・・・・・!」
彼女は小さく声を漏らしてから、くたり、と全身から力を抜いた。
直後、彼女の全身からふわりと甘い香りが立ち上った。絶頂に達し、肉体が精を求めているのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ちょっとほっぺた舐めただけなのに、そんなに?」
うつむいて、荒く呼吸を重ねる彼女に向けてそう言うと、僕は彼女の顎に指を添え、軽く上を向かせた。
ろうそくの明かりに照らされたのは、力なく口を開き、瞳をとろんと情欲の炎に溶かした、甘い顔だった。
ただその表情だけで、唇にむしゃぶりつき、全身を抱きしめ、腹の奥に枯れ果てるまで精液を注ぎ込みたくなるような、男を誘う顔だった。
「ぐ・・・!」
僕は沸き起こってきた衝動に、唇をかみしめて堪えた。欲望に身を任せ、彼女を滅茶苦茶に犯すのはたやすい。しかし、明日も仕事はあるのだ。
ほどほどに、セーブしなければ。
僕が内心でそう理性と欲望の戦いを繰り広げていると、彼女の全身を覆う包帯が、はらりと解けた。
薄く色付いた白い布が、はらはらとベッドの上に落ち、亜麻色の髪から褐色の肌、そして貝のような小さなつま先の爪までが露わになる。
「ねえ・・・もっと・・・」
淡い桃色の彼女の唇から紡がれた言葉で、僕は悟った。
彼女も同じ気持ちだったのだ。ならば、遠慮する必要はない。
瞬間、僕の視界は彼女の他のすべてがぼやけ、彼女を押し倒して覆い被さる以外の考えが消え去った。
褐色の肌に刻まれた、淡い桃色の唇に僕のそれを重ね、一息に吸う。
すると僕の体の下で、彼女の体が小さく震え、重なった唇の間から声が漏れた。
構わず唇を重ねたまま、彼女の肩をつかみ、二の腕を撫で、比較的小降りの乳房を軽くつかみ、指先で浮かび上がる鎖骨を擽る。
彼女の肌は、手のひらはもちろん、ふれあう部分すべてに吸い付くようで、軽く身を動かして肌を擦らせると、かすかな引っかかりを感じるほどだった。
彼女の全身が、僕とのふれあいを求めているのだ。
「うむ・・・ん・・・んぅ・・・!」
肌を直接刺激する僕の体に声を漏らし、身悶えしつつも、彼女はかろうじて屹立に絡めていた指に力を込めようとした。
しかし、しっかりと握ろうとしただけで、彼女は体を震わせ、再び脱力してしまった。
無理もない。ただでさえ敏感な彼女の手のひらは、全身の包帯を解いたことでもはや性器レベルにまで感度が高まっているのだ。肉棒をつかむというのは、屹立を股間で咥え込むのも同じだ。
手のひらからの甘い快感と、肉棒を求める下腹からの疼きの二つが、彼女を軽く達せさせたのだ。
「んん・・・!」
彼女の指の刺激に、僕は肉棒の存在を思い出し、腰全体を揺すって彼女の手のひらごと、下腹に屹立を擦りつけた。
「んむ!?んぅ!」
肌越しに子宮と膣を刺激する肉棒の熱に、彼女が声を漏らして身悶えした。
肉棒から指が離れ、強すぎる刺激から逃れようとするかのように、体を震わせる。
僕は、彼女の両手をつかむと。彼女の指に自分の指をしっかり絡め、彼女の頭の左右に押しつけた。
恋人同士が手を取り合うような繋ぎ方をした両手。指と指が触れ合い。指の股や側面がこすれあう。そして、手のひら同士が押し当てられ、互いの温もりが入れ替わっていく。
「・・・・・・!」
手のひらから上湾、上湾から二の腕、肩、胸、腹、太腿、そして唇と、僕と彼女の肌の触れ合っている部分が、彼女に甘い快感をもたらした。
そして、僕が軽く腰を浮かし、彼女の締まった腹に売らす時を擦りつけた瞬間、屹立が限界を迎えた。
僕と彼女の腹に挟み込まれたまま、肉棒がびくびくと痙攣し、白濁を放つ。
熱とぬめりを帯びた精液は、彼女のへその上から胸の下までをぬらしていった。
「っ!!」
肌を汚す精液の感触に、彼女が目を見開いて、僕の体を押し返さんばかりに仰け反った。
そして、僕の射精が終わり、彼女がもうしばらく体を痙攣させてから、二人分の絶頂が収まった。
唇を離し、喘ぎながら呼吸を重ねる。
「おなか・・・とても・・・あつい・・・」
途切れ途切れに、彼女が僕に向けてそう口を開いた。
「こんどは・・・なかに・・・もっと・・・」
先ほどのような溶けた表情ではないものの、そう求める彼女の顔立ちは、十分扇情的だった。
「わかった」
彼女の頬を撫でながら頷くと、彼女はほほえみながら続けた。
「じゃあ・・・一緒に・・・」
直後、ベッドの上に落ちていた包帯が浮かび上がり、僕と彼女の体に巻き付いていった。
これは、明日は休みだな。
彼女とともに包帯に包み込まれながら、僕はどう言い訳しようか、意識のどこかで考えていた。
だが、その思考が褐色と薄く色の付いた白に塗りつぶされるまで、そう時間はかからなかった。
12/10/26 23:45更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
「マミー!マミー!」
「どうしたの、マイリトルスィートパンプキン(かわいい息子の意)?」
「兄ちゃんが言ってたんだ・・・マミーは・・・マミー(ミイラの意)なの・・・?」
「そうよ。マミーはマイスィートポテトボーイ(かわいい息子の意)のマミーよ」
「アァァァァアアアアアアアアッ!!!」

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