連載小説
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TAKE4 真希奈、失恋?
「それじゃ、始めるわよ」

 清潔感溢れる会議室。その話し合いは『呪卍』プロデューサーの鰻女郎、渡辺満の一言によって幕を開ける。
 今日は月に二度か三度のペースで行われる『呪卍』製作陣による会議の日。
 集まる面子は一定でないが、プロデューサーの満と監督の武田、脚本家の氷室といった主要なメンバーは毎回必ず参加していた。
「まずは定期報告ね。モート、頼めるかしら?」
「はい、プロデューサー。
 視聴率は先週から0.38ポイント上昇して8.17%。映像ソフト売上はここ一週間で上昇傾向にあり――」
 会議で満の助手を勤めるオートマタのモートは淡々と資料を読み上げていく。その内容から『呪卍』は安定して結果を残せていると分かる。会議室に集う面々はその事実を喜ばしく思いこそすれ、誰一人として安心などしない。平穏や安寧はある意味でどんな苦境や危機より恐ろしいと理解しているからである。
「ありがとう。――さて、聞いての通り『呪卍』は未だ成功した状態にあるわ。これも全部、製作に携わってくれているみんなのお陰よ。改めてこの場でお礼を言わせて頂戴。
 けれどこんな状況だからこそ油断は禁物、常によりよいコンテンツを求め続ける視聴者の期待を裏切らない仕事に勤めなければならない……なんて具合に現場で話してたら『それなら名案があるから次の会議で発表させて欲しい』と言ってきた人が居てね。
 武田監督、話してくれるかしら?」
「任せなプロューサー」
 席をすっと立ち上がった武田は、堂々とした歩みでホワイトボードの傍らに立つ。
「監督として、今『呪卍』っつーコンテンツに何が必要か……
 熟考の末、俺はある結論に至った。それはっ――」
 武田は大胆かつ精巧な動きでホワイトボードへペンを走らせる。そこに書かれた文字とは……

「――『スピンオフ』だっ!
『呪卍』のキャラどもが、本編じゃできねぇような動きを見せる映像作品を作るんだっ!」



「はふあー……」
「お疲れー。今回は一段と身体張ってたわね、マッキー」
 テレビ局の楽屋。バラエティ番組の収録を終えて疲れきった様子の真希奈を、克己は優しく出迎える。
「あうぅぅ……覚悟はしてましたけどあの展開は予想外過ぎて……後々燃えてたらどうしよう、って……」
「よしよし、頑張ったわねー。大変だったでしょ? 見てるだけで伝わってきたもの。今日の仕事はもう終わりだからもう休みなさいな」
「あっ、いえ、そういうわけには。明日の準備とか、コラムの締め切りも迫ってますし」
「ちょっと、大丈夫? あんまり無理しないでよ?」
「大丈夫ですよー、ホルスタウロスは頑丈なのでっ」
「……心労で倒れて死にかけたの覚えてる?」
「あ、あの頃とは違いますもんっ。ほら、女優として色々やってて鍛えられたっていうか、最近では『呪卍』でアクションとかもやらせて貰ってますし?」
「……はぁ。ほんと無理だけはしないでよ?
 何かあったら私を呼ぶこと。いいわね?」
「大丈夫ですってー。スーさんこそ私の世話焼きすぎて倒れないで下さいね?」
「大丈夫よ、サソリは生命力強いから。
 ああ、そういえば」
「どうしました?」
「『呪卍』で思い出したんだけど、渡部Pから新しい仕事の依頼が来てたのよ」
「仕事ですか? 『呪卍』で、新しく?」
「ええ、何でもこの前の製作会議で『呪卍』のスピンオフ短編を撮ることになったらしいのよ。要するに番外編ね。
 それで渡部Pと武田監督、メインライターの氷室先生の三人で幾つかストーリーを考えてるらしくって」
「その内のどれを採用するか決めるのに、出演者のスケジュールを参考にしたいって感じですか?」
「察しが良くて助かるわ。スケジュールは元々余裕を持たせるように組んでたから問題ないけど、どうする? やる?」
「はい、勿論です! 『呪卍』は私にとって大切な作品ですし、貢献できるのは嬉しいことですよ」
「そう、わかったわ。じゃあ渡部Pにはそう伝えておくわね。因みに得刃くんとのダブル主演になるらしいわよ」
「う、得刃さん、ですか……」
 得刃リン。
 その名を聞いた途端、真希奈の顔が目に見えて赤く染まる。
「あら、どうしたの? まさか嫌なんてことは当然ないでしょう? 憧れの先輩で、頼れる共演者で、加えてあなたの――
「も、もちろんですっ! 嫌なんてことあり得ません!
……ただ、緊張しちゃってまして……」
「……ま、そうよねぇ。何せ彼、マッキーの初恋の相手だもんねぇ〜?」
「か、からかわないで下さいっ! 本当に緊張してるんですから……」

 共に仕事をこなす内、真希奈はリンを異性として意識し、好意を抱くようになっていた。今に至る迄の間恋愛についてさほど真剣に取り組んだ経験のなかった真希奈にとってはかなり遅めの初恋であった。

「ごめんごめん。でも得刃くんって実際イケメンだし優しいし、正直好物件よね」
「あー……じゃあ、もし仮にゴールインとかできたら将来安泰、なのかな……へへっ」
「ゴールイン"できたら"じゃなくてゴールイン"する"んでしょ? そのくらいじゃないと上手く行かないわよ?」
「……そうです、ね。ゴールイン、します……。

 ところでスーさんっ、その『呪卍』のスピンオフってどういう内容なんですか?」
「あぁ、それはねぇ……まあ、自分の目で確かめてみた方がいいわ」
 そうして克己から差し出されたのは、ホチキスで綴じられたB5サイズの紙束であった。表紙には『呪卍 魔境盤死闘伝 スピンオフ概要』とある。
「渡部Pから貰ったの」
「へぇ〜、色々あるんですねー」
 内容は、例えば『正統派の主人公といった風な男が会社員であったなら』とか『非道な悪役が改心してヒーローになったら』など様々であったが、何れも最低限の登場人物から成る短編という点は共通していた。
 そして最後のページには、プレアデス(真希奈)とグラハイドラ(リン)が主役となる話について書かれていたのだが……

「〜〜〜ッッッ!!!???」

 記されていた題名を見た真希奈は、紙束を力一杯床に叩きつける。見ればその顔は、湯気でも出そうなほどに赤く染まっていた。
(よ、予想外の過剰反応だわ……そんなに恥ずかしかったの?)
 克己は床に叩きつけられた紙束を拾い上げ、改めて内容を確認する。
(……ま、あの流れからのこんな内容ってんなら仕方ないかもだけど……)

 問題のページに記されていた短編の仮題とは……


『もしもプレアデスとグラハイドラが夫婦だったら』


「……〜〜!」
(撮影大丈夫かしら……)
 心配になったので『辞退するか』と問うてみれば、消え入りそうな声で『やります』の一言。本当にやれるのかと不安になりはしたが、一先ず彼女の意思を尊重することにした。




「っしゃー、カット!」

 武田考案の『呪卍』スピンオフ製作は順調に進んでいた。短期間かつ低予算で仕上げるという基本方針はキャストにもスタッフにもさほど負担をかけなかったし、加えて製作陣各位は撮影を通して確かな信頼関係を築いており、彼らの連携にはほぼ一切の無駄がなかったからである。
 そして製作は進み、真希奈演じるプレアデスとリン演じるグラハイドラが主役の短編の撮影開始時刻が迫っていた、のだが……

「あの、武田監督? お話というのは一体……」
 その日、真希奈は監督の武田から個別に呼び出されていた。
「オウ、小田井……来たか。すまねえな、いきなり呼び出しちまってよ」
「いえそんな、武田監督にはお世話になってますし。それでその……」
「ん、まあその、なんだ。単刀直入に言うわ……小田井、すまねえっ!」
「……え?」
 環発入れず、武田は勢いよく土下座してきた。ともすれば、何かしら叱られるものとばかり思っていた真希奈が面食らったのも無理はない。
「今回の件、責任は十割がた俺にある! まさに不徳の致すところって奴だ!」
「あの、監督」
「仮にも現場を仕切るべき立場にありながら身内の暴走を止められず、罪のねえ女優を苦しめちまう結果を招くなんて監督失格だ!
 俺のことは恨んでくれて構わねぇ! だがどうか、この件が切っ掛けで『呪卍』を降りるなんてなぁ無しにしてくれっ! この通りだっ!」
「……いや、えっと……降りる? 何の話ですか?」
 まるで話が噛み合っていない。一体どういうことかと説明を求めれば……
「えっ、あー……ま、なんつーか、な? ほれ、この後撮る短編の台本、よぉ」
「はい、勿論読み込んでますよ。台詞もばっちりですが、どうしました?」
「えっ、読み込んでんのぉ? アレをぉ?」
「はい。それはもう。当たり前じゃないですか」
「えっ、えっ、マジで? アレ読んだの? 読んで……読み込んでさ、その……気分悪くなったりとかは?」
「してないですけど」
「してねーの!? いや俺が言うのも何だけど、アレ結構エグめのシーンとか台詞とかゴロゴロしてたべ?」
 武田の言う通り、プレアデスとグラハイドラが主役を務める短編は他と比べ物にならないほど性的な場面や下ネタを含む台詞回しが多かった。それはもう、武田が思わず撮るのを躊躇うほどに。
「確かに多いですよね、エッチなシーンとか台詞とか。私も最初読んだ時は恥ずかしくて仕方なくて。
 でもここで躊躇ってたらプロじゃないっ。寧ろこの状況も楽しまなきゃ! って思ってたら段々楽しくなってきたんですよ。それでもう、終いには撮影が楽しみ過ぎて他の仕事に差し支えるくらいになってましたねー」
「だよなぁ!? いや実は氷室と渡部Pがなんでか調子乗っちまってさー。『テーマ夫婦愛だし片方魔物だしこんくらいでなきゃ〜』とか抜かしてよー。そんで俺も止めに入ったんだがまぁこれが押し切られちま――ってぇえええぇぇぇえええ!? 」
「監督? どうしました?」
「いやどうしましたじゃねぇじゃん!? え!? 何!? お前あの筋書き気に入ったってこと!?」
「はい。好きですけど。なんかこう、憧れちゃうっていうか〜」
「えぇー?……エロいのとか、抵抗ねーの? 演じるんだよ? 自分でっ」
「そうですね……あんまりにも過激なのとかは嫌ですけど、少なくとも抵抗とかはないですし、寧ろそういうことには結構興味ある方ですね。魔物ですし」
「……ああ、そう……なんか、ごめんな……? 幾ら魔物とは言え年頃の女だし、そういうとこ配慮しとくのが倫理的に正しいんじゃねーかと……」
「うーん……そういう考え方自体は正しいと思いますけど、配慮のし過ぎもそれはそれで……って感じですかね。若いのに悟ったような事を言うのも気が引けますけど」
「……そう謙遜するこたぁねぇべ。それ言い出したら俺なんて三十路中盤で何一人バカやってんだって話んなるし……」
「か、監督……」
「さあ、そろそろ準備に戻るとしようぜ……引き留めて悪かったな、小田井。お互い頑張ろうぜぇ」
「はいっ、宜しくお願いしますね」

 かくして製作陣は適格に準備を進めていき『呪卍』スピンオフ短編『メオトなケモノ』の撮影は予定通り順調に開始される。



「ただいまぁー」
「あっ、おかえりなさーい。今日もお疲れ様っ。疲れたでしょ?
 ご飯にする? お風呂にする? それとも、ワ・タ・シ?」

 短編『メオトなケモノ』は、真希奈演じる女戦士プレアデスとリン演じる怪物グラハイドラの二人――本編で仲がいいことから二次創作では専ら恋仲として扱われる――が現代社会で暮らす夫婦であったなら、というシチュエーションを描くコメディタッチの映像作品である。
 特色は何と言っても監督の武田が撮るのを躊躇ったほどに――一応深夜帯なら地上波で放送可能な――際どい性的描写の数々であろう。

 まず本作でのプレアデスはタンクトップにホットパンツ、そしてエプロンという服装である。
 字面だけならラフな専業主婦然と言えなくもない身なりだが、着たのがホルスタウロスとなれば聊か話が違ってくる。エプロンまで薄手の素材なため、真正面から見ると裸エプロンと見間違えてしまうのである。
 そして劇中、プレアデス――を演じる真希奈――はこの服装で、またはエプロンを脱いだ状態でやたらと動く。
 例えば……

「ぎゅーっ♥」
「動き辛え……が、悪くねえな」
 夫に真正面から抱き着いたり

「ひゃんっ♥」
「……悪い。暫くこのままでいいか?」
 或いは夫に背後から抱きしめられたり、

「ひっ!?」
「アシダカグモか……心配ねえ。悪い奴じゃねえよ」
 虫に驚いて夫に飛びついたり、

「――い゛っ゛っ゛!?」
「大丈夫か?」
 不注意から身体を家具にぶつけたり、

「よっ、ほっ、はぁっ――」
 汗だくでトレーニングに励み
「――あうっ!」
「……怪我すんなよ?」
 バランスを崩し盛大に転げ落ちたり……という具合に。

 そうして、乳牛の人妻は怪物めいた夫(と視聴者)に夫婦生活を通して様々な表情を見せ、同時に彼女の両胸も……たわわにご立派なるおっぱいも当然、形を変え揺れたりするわけである。
 加えてこの『メオトなケモノ』では当然の如く夫婦の入浴シーンも描かれている。
 惜しげもなく曝される夫婦の裸体。存分に触れ合う肌と肌、或いは毛皮と鱗。泡に塗れて互いの身体を洗い合い、湯船の中で愛しさのまま密着する……愛おしさと尊さと幸福感に溢れ、尚且つそれ以上に淫らな場面であるのは言うまでもない。
 かくして製作陣は一丸となって撮影に取り組んだ。視聴者によりより作品を提供すべく、極力妥協もしない。
 取り分け真希奈の意欲は凄まじく、やる気が空回ってのミスもあったが演技はほぼ完璧で、武田、氷室、満の三人がオーケーを出しても『個人的に納得できる演技ではなかった』として可能な限り何度もリテイクを要求するほどであった。


 然し、真希奈が何度もリテイクを要求したのは単に『納得できる演技をするため』というだけではなかった。
 というのも……



「ねぇマッキー、本当に大丈夫なの?」
 短編『メオトなケモノ』の台本に目を通しつつ、克己は心配そうに問いかける。
「大丈夫って、何がですか?」
「何がって、『呪卍』のスピンオフよ。得刃くんと夫婦役で共演って、冷静に考えたらなんかとんでもない役だし……しかもこの台本、結構エッチなシーン多いし」
「確かに最初仮題見た時はびっくりしましたけど、いずれは本当の夫婦になる相手なんですし寧ろ願ったり叶ったりっていうか、女優をやるんなら人妻役とかエッチな役も頂くことになるだろうから、こういう経験はしておいて損はないかなーって。
 まあ所謂予行演習みたいなものですよ、夫婦生活のね」
「予行演習ねぇ……まあ、マッキーがそう言うなら私は応援するわよ。『呪卍』のスタッフさんたちはみんないい方だからそんなひどいことにはならないだろうし」
「ですよー。そもそも酷いことしそうな仕事場はスーさんが見極めて追い払ってくれるじゃないですか」
「……勿論努力はするけど、あんまり私のこと過信しないようにね? ……それにしても、割に合わない仕事って感じしかしないわねー。忘れがちだけど得刃くんて精が凄いじゃない。あれだけの子と密着しながら襲っちゃダメって控え目に言って地獄でしょ」
「うーん、確かに地獄ですけど……長い目で見れば割には合ってますよ?」
「あら、そうなの?」
「ええ。だってほら、これなら仕事を口実に得刃さんを誘惑し放題じゃないですかぁ。抱き着いておっぱい押し当てたり、ここなんておっぱい見せつけられますしぃ? あと他にも……ぅっへへへへへへ……」
「な、なるほど……そこは盲点だったわ……」



 そういうわけで、真希奈は台本に書かれてあるのをいいことにリンへの過剰なスキンシップを続けた。
 普通なら他の面々から問題視されても仕方ない所であるが『呪卍』の製作陣はスタッフ、キャストともに魔物やインキュバスの比率が妙に高く、そもそも社会そのものが人魔共存の影響で性に大らかなので特に気に留める者は居なかった。



 そして『メオトなケモノ』の撮影は無事に終わったのであるが……

「ちょっとマッキー!? それってどういうこと!?」
 控室に響く、克己の怒鳴り声。その声には単純な怒り以上に、嘆きや失望も含まれていた。
「や、ですからねスーさん……もう私、得刃さん諦めようかなって思うんですよ……」
 対する真希奈の返答は、いかにもか細く弱々しい。
 まるでこの世全てに絶望し、死を待つばかりといった様子である。
 そして何より、出てきた言葉が衝撃的であった。果たして彼女があれだけ執着を見せていたリンを諦めようとは一体どういうことなのか?
 天地引っ繰り返ってもあり得なさそうな言葉は何故出たのかというと……
「……だってほらぁ、得刃さん私に全然興味なさそうなんですもん……あれ多分絶対他に好きな人いますよ……それでその人一筋なんですよ……だから私なんて眼中にないんですよ……なら叶わぬ恋じゃないですか……諦めた方がマシじゃないですか……」
 そう、これである。
 撮影期間中、真希奈はリンを誘惑しようとあの手この手で彼に接触を試みた。何なら刑事告訴すら覚悟していた。だがリンは真希奈の如何なる行為にも微塵も反応を示さず、ただ労いや賞賛といった同業者としての言葉をかけてくるばかり。
 初日は何とか耐え、以後連日『翌日こそは』と意気込んでいたものの、結局撮影期間中に真希奈が確かな手応えを感じることはなく、撮影を終え控室に戻った途端絶望しきった彼女は『私もう得刃さん諦めます』という衝撃の一言を口にするに至ったわけである。
「……全力だったんですよ。……これ以上ないぐらい、これ確実に犯罪だなってぐらい……いやでも、流石に立場ってあるからそんな限界ギリギリまでやってたかと言うと怪しいですけど……」
(……どうしましょうかねぇ)
 克己は悩んでいた。マネージャーたる者、このような時にはいっそ嫌われる覚悟でタレントを怒鳴りつけ喝を入れてやるのが正しいのかもしれないし、実際克己は真希奈に対して厳しい言葉を投げかけることもあった。だがそれは彼女に精神的な余裕があるなど"叱っても大丈夫な時"に限られる。叱るという行為は力加減を誤ればそのまま相手を再起不能にしかねない諸刃の剣である……というのが、克己の認識であった。
(勿論、マッキーはそんな弱い子じゃない。この状況下で散々叱り飛ばしてもそう追い詰められることはないでしょう、けど……)
 問題は真希奈ではなく、克己自身にあった。何せ彼女は元々他人を一方的に糾弾したりといったことが苦手な人物である。家族や周囲からは度々『ギルタブリルらしくない』と言われたことがあるほどに。
 無論、マネージャーとして経験を積む内に仕事の上で必要な厳しさを身に着けるには至っており、だからこそ真希奈とここまで長くやってこれたのではあるが……
(そうだとしてもこの状況でマッキー叱るのはどうもねぇ……)
 悩みに悩んだ末、克己は一つの結論に辿り着く。甘やかすわけではない。だが苛烈に叱り飛ばすのでもない。その中間を行けばいい。
 とはいえ、これでうまく行くかどうかはわからないが、失敗したら次の手を考えよう。

 意を決して、克己は口を開いた。

「ねぇ、マッキー? 私思うんだけど……」
21/07/29 22:06更新 / 蠱毒成長中
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