1.5 Kiss me
「あら、また会ったわね」
カウンターにいる女性は先ほどであったサキュバスのエリだ。
ローブに白いエプロンをつけて、愛想よく笑っている。
「さっきぶりだよ。金づるじゃないからな」
「なんとでもいいなさいな。野宿はお勧めできないけど?」
けらけらと笑いながら手を振っている。
カインと会話をしながらでも、記帳に記入をしており、慣れた雰囲気を出している。
「ここは君の宿かい?」
カウンターに肘をついて尋ねる。
受け付け用の羽ペンを弄りながら、さも当たり前のように。
「そうよ、私の宿。この街じゃ一番大きいんだから」
カインが弄っている羽ペンを取り上げ、ホルダーに戻す。
後ろでは給仕係のゴブリンやインプと思われる少女たちがせわしなく行き来している。
「へぇ、とりあえず一泊頼もうかな」
「どうも。一晩金貨3枚よ」
へいへい、とカインは呟きながら金貨を取りだし、3枚をカウンターへと置く。
「……えっ」
「部屋はどこだい?」
「え、えぇ、空いてる所なら好きな所を使っていいわ」
カインはどうも、と言うと階段へと向かい始める。
「ちょ、ちょっと!待って!」
エリの声は虚しく、カインは意気揚々と階段を上がっていった。
近くにいたゴブリンは驚いたように目を見開いている。
「姉さんがぼったくるところ初めて見たっす……」
「ち、違うわよ!」
顔を真っ赤にしたエリは置かれた金貨を恨めしげに見つめていた。
*
――退屈とは何にも勝る浪費である。
そう言ったのは誰だったろうか。世界の果てを探し、途中で力尽き、あわれ墜落死した古代の哲学家か何かだったろうか。考えて、手元に目を落とし、そこに書かれる内容がありえないように思えたので、ぱたんとこれみよがしに音を立てて本を閉じていた。
「はぁ、退屈最高」
外套を羽織ったままベッドに寝転んだカインは言った。
持っていた荷物は床へと散乱し、ランプやナイフ、携帯用の鍋などが散乱している。
「後で水を貰っとくかなー……」
まどろみながら思ったことを口にし、うとうとしている。
草原での野宿よりも、屋根があると言うだけで安心感が違う。
雨風をしのげ、囲われた部屋にふかふかのベッド、野宿をしていた身からしたら天国のような錯覚さえ覚えていた。
*
「アル。来なさい」
呼び出し用のベルを鳴らし、エリはあると呼ばれる少女を呼び出した。
ベルがなって数分もせずに小さな少女が歩いてきた。
「なーに?」
「このお金を上のお客の所に戻してきてちょうだい。気に行ったら好きにしていいわ」
エリが小さくウインクをすると、アルと言われた少女は顔を真っ赤にして俯いた。
花も恥じらう乙女、というようなこの少女は小さくうなずいて、渡された硬貨を握り締めて階段を上がっていった。
「さて、どうなるかしら?」
そう呟いたエリの表情は小さく笑い、意地の悪いサキュバスの顔をしていた。
*
カウンターにいる女性は先ほどであったサキュバスのエリだ。
ローブに白いエプロンをつけて、愛想よく笑っている。
「さっきぶりだよ。金づるじゃないからな」
「なんとでもいいなさいな。野宿はお勧めできないけど?」
けらけらと笑いながら手を振っている。
カインと会話をしながらでも、記帳に記入をしており、慣れた雰囲気を出している。
「ここは君の宿かい?」
カウンターに肘をついて尋ねる。
受け付け用の羽ペンを弄りながら、さも当たり前のように。
「そうよ、私の宿。この街じゃ一番大きいんだから」
カインが弄っている羽ペンを取り上げ、ホルダーに戻す。
後ろでは給仕係のゴブリンやインプと思われる少女たちがせわしなく行き来している。
「へぇ、とりあえず一泊頼もうかな」
「どうも。一晩金貨3枚よ」
へいへい、とカインは呟きながら金貨を取りだし、3枚をカウンターへと置く。
「……えっ」
「部屋はどこだい?」
「え、えぇ、空いてる所なら好きな所を使っていいわ」
カインはどうも、と言うと階段へと向かい始める。
「ちょ、ちょっと!待って!」
エリの声は虚しく、カインは意気揚々と階段を上がっていった。
近くにいたゴブリンは驚いたように目を見開いている。
「姉さんがぼったくるところ初めて見たっす……」
「ち、違うわよ!」
顔を真っ赤にしたエリは置かれた金貨を恨めしげに見つめていた。
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――退屈とは何にも勝る浪費である。
そう言ったのは誰だったろうか。世界の果てを探し、途中で力尽き、あわれ墜落死した古代の哲学家か何かだったろうか。考えて、手元に目を落とし、そこに書かれる内容がありえないように思えたので、ぱたんとこれみよがしに音を立てて本を閉じていた。
「はぁ、退屈最高」
外套を羽織ったままベッドに寝転んだカインは言った。
持っていた荷物は床へと散乱し、ランプやナイフ、携帯用の鍋などが散乱している。
「後で水を貰っとくかなー……」
まどろみながら思ったことを口にし、うとうとしている。
草原での野宿よりも、屋根があると言うだけで安心感が違う。
雨風をしのげ、囲われた部屋にふかふかのベッド、野宿をしていた身からしたら天国のような錯覚さえ覚えていた。
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「アル。来なさい」
呼び出し用のベルを鳴らし、エリはあると呼ばれる少女を呼び出した。
ベルがなって数分もせずに小さな少女が歩いてきた。
「なーに?」
「このお金を上のお客の所に戻してきてちょうだい。気に行ったら好きにしていいわ」
エリが小さくウインクをすると、アルと言われた少女は顔を真っ赤にして俯いた。
花も恥じらう乙女、というようなこの少女は小さくうなずいて、渡された硬貨を握り締めて階段を上がっていった。
「さて、どうなるかしら?」
そう呟いたエリの表情は小さく笑い、意地の悪いサキュバスの顔をしていた。
*
13/05/01 00:25更新 / つくね
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