無垢なる精に誘われて
夕方――長い時を経て全ての授業から解放され、ホームルームが始まるまでの隙間の時間。
少年少女たちは思い思いの過ごし方で、モラトリアムを楽しんでいる。
その中で、数名の女子たちが輪になって話し込んでいた。
年齢に関係なく、女子が盛り上がる話題の定番は恋の話である。
ましてや彼女たちは小学5年生。恋を知り、恋をしたがる、そんなお年ごろだった。
―――曰く、誰々がかっこよくて誰々は……。
―――誰は誰のことを好きで……。
―――誰と誰がくっついたとか……。
……エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。
彼女達は好奇心の赴くままに、誰かの噂をし続けている。
年ごろの女子とはどうにも他人の事情に首を突っ込みたがる生き物らしい。
それが誰の耳に入ろうとも知らず、明るく無邪気に大人ぶるのだ。
ところが、皆が笑顔で話し合っている輪の外、浮かない顔をする少女が一人。席に座った俯いていた。
「それで――くんが、気になる人いるって噂聞いちゃったんだよね」
誰かがその名前を口にすると、周り、主に女子たちがやいのやいのと騒ぎ出す。
相反するように、少女の苦い顔はさらに重苦しくなる。
すると丁度、少女グループの話題はそこで打ち切られた。
担任の教師が教室へ入ってきたのだ。
今日の振り返り、明日の予定、その他諸々、帰りの挨拶。
それらを手早く終えると、彼女は足早に教室を去っていった。
黒淵のメガネに、2本のおさげ。半ば目を隠している前髪。
服装に他の女子のようなオシャレをしようといった気概は皆無。
彼女――マナは見た目通り、和気あいあいとした雰囲気を苦手としていた。
いつでも本ばかり読んでいて、空気に溶け込むように目立たない少女、それがマナだった。
恥ずかしがり屋で臆病だった彼女は友だちを作ることができず、さらに読書という趣味は思いの他理解されなかった。周りから見れば自分の世界に閉じこもっているようにしか見えなかったのだ。気遣いからか、はたまた興味を失われたか、いつしか彼女に関わろうとする者は居なくなっていた。
誰かに話しかけることも無ければ、誰かに話しかけられることも無い。
そういう訳で彼女はごく自然とクラスの輪からあぶれた。
邪険に扱われている訳でもないが、居ても居なくても変わらない。そういう存在だった。
彼女自身もまた、特段気にしてはいなかったのだが。
学校を後にした彼女はいつも、真っすぐ家へは帰らない。
行先は町はずれの森だ。そこには誰にも言えない秘密の場所がある。
マナは慣れた足取りで森へ入っていく。
まるで鬱蒼としたの森の中、ありもしないはずの道が見えているかのようだ。
そうして歩き続け、少しすると開けた場所に出た。
瞬間、少女の視界を埋め尽くす、赤、青、黄、オレンジ、ピンク、紫、白―――
豊かな色彩に溢れた花畑がそこに広がっていた。
ひたすら木々の続く森からいきなりこの光景なので、まるでいきなり別世界に飛び出てきてしまったかのような錯覚に陥る。
いや、もしかしたら本当に別世界なのかもしれないと、少女は思っていた。
何故ならこの場所は、一年中花が咲いているのだ。
春はもちろん秋や冬でもけして枯れることなく、その美しさを保ち続けている。
おかしいと言えばおかしいのだろうが、不思議に思う気持ちこそあれど、否定したくはなかった。この夢のような光景を否定する理由が、少女のどこにあろうか。
――それに、彼女はもっとおかしなものを知っていたのだから。
少女は虚空へと、両手でメガホンを作り、声を張って呼びかける。
「みんな、私だよ。出てきてぇ」
声は高らかに、夕暮れの空に響く。
するとまもなく、どこからかキラキラとした光の粒が舞い散り始めた。
光粒はみるみるうちにその大きさと数を増し、大きな輪を描き、広がっていく。
そして輪の中から、何体もの小さな影が現れた。
それは紛れもなく人型の影であり、あろうことか甲高い少女の声を発していた。
「マナだ！」
「マナおねーちゃん！」
「マナー！」
陽に照らされ、その姿が露わになる。
身長は20数センチほど。透き通った羽を持ち、髪と服の色は赤、青、黄色と様々。その姿はお伽噺やファンタジーに出てくる「妖精」そのものだ。十人十色、千差万別、多種多様。一人として同じ声音、色、容姿は見当たらない。個性に溢れた小さな生き物たち。
「わ、わ、ちょっとまって」
少なくとも二十人ほどはいるだろう。
妖精たちは次々に体当たりしたり抱き着いたりして、すっかり妖精塗れになったマナは花畑に大の字に倒れる。呆れたように笑うマナの顔には隠しきれない喜びの色が浮かんでいた。
何を隠そうこの不思議な生き物たちこそ、マナの一番の友達だったのだ。
初めて妖精たちに遭ったのがいつだったかはもう覚えていない。
ただ、何かつらいことがあって、それで学校を抜け出したのだと彼女は覚えていた。
行く当てもなく歩いていていると虹色の光が現れ、それについていくと例の森に着いていた。さらに奥へと進む光を追いかけ、草木をかき分けながら必死についていくと、見えたのが妖精たちの踊る光景だった。
もちろん最初は驚いた。しかしやはり、恐怖や嫌悪を感じることは無かった。
マナと妖精たちはすぐに仲良くなり、友達になった。
そして一緒に遊ぶうちに絆を深め合い、いつしか悩みを打ち明ける唯一の存在(たくさんいるのだが)になっていたのだ。
この日もマナは自分が抱えている想いについて打ち明けた。
一人の男子生徒に恋をしたのだ。
きっかけはマナが階段から転んだこと。
大丈夫？と天から降ってきた声と差し伸べられた手、その主が彼だった。
彼からしたらごく普通の行動だったのだろうが、マナにとっては事件だった。
ただ自分に話しかけてきたというだけで大いに興味を引かれたし、その上自分を助けようとしたなんて考えられなかった。
その時は適当に礼を言って逃げ出してしまったが、後でそのことを思い返すと顔は火照り、胸の動悸が止まらない。
その気持ちを恋であると確信するのには4日を要した。
今までこれっぽっちも興味なかった恋愛トークに耳を傾け、情報収集。
それがさらにマナの心を揺るがした。
何せ彼は勉学、スポーツ共に万能な有名人だったのだ。当然多くの女子から狙われており、しかし凄すぎて誰も手が出せない均衡状態にあるということだった。
それがいつ崩れるかも分からない。誰かが先にくっついてしまうかもしれない。
ましてや自分が告白しにいったところで相手にしてもらえるはずがない……。
そう言った苦悩が彼女を支配していた。
「―――そっかー。それでそんなに落ち込んだ顔をしてるのね。」
大人びた桃色の妖精。いつも心を落ちつかせてくれる優しげな口調。憧れは女王様らしい。
「どれだけ敵がいても関係ないもん！ きっとマナを受け入れてくれるんだから！」
元気な青色の娘。根拠のない自身に溢れた言葉、でも不思議と元気にしてくれる。
「わたしはマナおねーちゃんのこと、好きだもん。断る人なんてどうかしてるもん……」
妖精の中でも最も幼い黄色の娘。極度の甘えん坊。妹ができたようで嬉しくなる。
彼女達は多種多様だ。
おっとりした緑の妖精、少々意地悪な黒の妖精、天使のような白の妖精……
彼女たちは次々と励ましの言葉をかけていく。
みんな、一緒に過ごすうちにマナと絆を結んだ者たちだ。
「でも……」
それでも、マナの顔はいまいち釈然としない。
恋の悩みはそう簡単には解決しないのだった。
それを見かねた桃色の娘がマナの目の前で浮遊する。顔を突き出し、その鼻先がちょんとマナの鼻先に触れた。
「マナ、あなたはすーぐ『自分なんか〜』とか言い出すけど、それは単なる思い込み。あなたは魅力的な人よ。周りがそれに気づいてないだけ。気付かせさえすれば誰だって虜にできる。あなたはそんな素質を持っていると思うの」
「そ、そうかな……」
苦笑いを浮かべるマナ。思わず照れて顔を伏せてしまう。
桃色の妖精はさらに鼻先押し付け言葉を続ける。
「とにかく、自分を嫌わないこと。それを続けていたら何もかもダメになっちゃう。あと、ゼッタイ後悔するような道を選んじゃダメよ。他を蹴落とす覚悟でいきなさい！」
「けおとせ！」
「けおとせー！」
「……ふふっ……あははっ」
妖精たちの無邪気なコールに、マナの口元から自然と笑みがこぼれた。
ああ、自分にはこんなにもたくさん、応援してくれる友達がいるんだ。
そう思うと、本当に強くなれた気がした。
「ありがとね。みんな大好き」
喜んだ妖精たちが、わっとマナに群がる。
マイナスに考えても気分が重くなるだけだ。とりあえず今くらいは考えることを忘れようと思った。次に彼を想う時には気を取り直して、もっと前向きになれるように。
「それで、今日も遊んでくれるの？」
「うん、もちろん」
「やったー！」
妖精にとって一番好きなものは遊ぶことである。
どんな物を上げるより、遊ぶことが一番のお礼になるのだ。
彼女とあった日はほぼ必ず、一緒に遊んでから帰るのが決まりだった。
妖精の遊びと言うとどんな奇想天外なことするのかと思うだろうが、そんなことは無くかくれんぼや鬼ごっこやままごと等である。基本的には人間と変わらない。
しかしこの日の妖精たちはいつも以上にソワソワしていた。
妖精の中の一人が悪戯を思いついた子供のように怪しい笑みを浮かべてマナに囁く。
「……こないだね、新しいお友達が出来て、すっごい遊びを教えてもらったの！」
「すっごいあそび……？」
「うん！ちょっと場所を変えるから、そこに着くまで内緒ね！」
どうやら妖精たちはいつもと違うものを企画しているらしい。
普段どんな遊びをしても心から楽しむのが妖精である。その妖精が「すっごい」と言うのだから、普通の遊びよりもよほどすっごいのであろう。そう思うと、なかなかに好奇心が湧いてくる。
「よーし、それじゃあかこめー！！」
「え？」
唐突に妖精の中の誰かが大声で号令。
それが響いた瞬間、マナの周りに飛んでいた妖精たちが円を書くように動き始めた。
「な、なにするの……？」
かごめかごめ……ではないだろう。
今まで一緒に遊んできたが、こんなことをされるのは初めてだった。
マナを中心として、どんどん妖精たちの回転が速くなる。
そのせいで酔ってきたのか、視界がぐにゃぐにゃと歪み始めた。
……いや違う。歪んでいるのは景色の方だ。
何が起こっておるのかはさっぱり分からないが、間違いなく大変なことが起ころうとしている―――そうマナは直感した。
そう言えばかつて、妖精の国へ案内するとかなんとか、言われたのを思い出す。
どうも永住する流れだったので、学校があるからと断ったが。
「楽しいところにごあんなーい！」
「ええっちょ、ちょっと待って―――！」
咄嗟に妖精の円から出ようとするが、時すでに遅し。
だんだんと視界がホワイトアウトし、すぐに黒と紫の色が出現、それらがだんだんと形を持ってくる――。
抵抗むなしく、ズドン、という音と共に地面へ投げ出された。
最初に感じたのは頭がクラクラするほどに甘ったるい空気。
揺れる視界を少しずつ慣れさせ、周りを見るとそこは薄暗い森の中のようだった。
空を見れば紅い月が昇っており、辺りには青や紫などの色をした見たことも無いような植物があった。時折それらが淡く光り、おどろおどろしいながらも幻想的な雰囲気を醸し出している。
ドキュメンタリーなどでも見たことのない、まるで何かのアニメや映画に出てくるような風景だった。
とても妖精の国という雰囲気でもない。
驚きに呆けているマナに妖精たちが呼びかけ、ある一方に向かっていく。
「ぼーっとしないで、ほら、あっちだよ」
そこからは妙な音が聞こえた。
粘り気を帯びたような水の音。
妖精たちの、悲鳴にも似た声。
「……？」
恐怖よりも好奇心が勝った。
マナはそれらの聞こえる方に歩を進める。
一歩一歩踏み出す度に音が大きくなる。
そして先を隠すように茂る草木を掻きわけると突然森が開け……「それ」を見てしまった。
「んっ……♪やっ、んん……♥」
「あっ、ああ♥もっともっとシて♥」
「はあ、んん♥ ちょっはげし、も、もうイっちゃ……あああああああ♥ 」
それはさながら嬌声の大合唱。
数十人の妖精たちが、何やらタコ脚のようなもの―――無数の触手に絡まれ体中を犯されていた。
言うなれば触手の花畑だ。およそ30センチはあろうかという巨大な花の中に細かい触手が幾本も生えており、一つの花につき一人か二人ほどの妖精が身を任せている。そんな異様な光景が、視界一面に広がっているのだ。
マナは顔を真っ青にして声の一つも出せずにいた。
それはごく普通の少女を恐怖に陥れるには十分な光景だった。大人だって腰を抜かすだろう。
すっかり固まっているマナに桃色の妖精が語り掛ける。今まで聞いたことのないような、艶やかな声音だった。
「ね、どう？みんな気持ちよさそうでしょ？」
「な、なにあれ……こわいよ……」
どうにか絞りだした声は自分でも驚くほど小さく、震えていた。
「最初はそうかもしれないけど、あの子たちとっても優しいの。だから大丈夫よ♪」
森から移動してきた妖精たちが次々と触手の中に飛び込んでいく。
愛しそうに触手を撫でる娘もいえば、早々に触手に身を任せ粘液塗れになる娘もいた。
「まさか、あそびって……」
「そうよ。マナも一緒にあそこに飛び込むの♪」
桃色の妖精は触手に見惚れるように蕩けた表情をしていた。
触手に犯される妖精たちも同様、いやそれ以上に恍惚とした表情をしている。
まるで理解できない。
触手は体を撫でるだけでなく穴と言う穴から体内に入り込んでいた。ましてや股の間に入ってるなんていうことは、幼いマナに理解できるはずもない。
「や、やだよ……あんなに気持ち悪いの……み、みんなどうしちゃったの……！？」
声を荒げて妖精たちに反論する。そうしないと自分が保てそうになかった。
自ら嬉々として体を弄ばれに行く妖精たちの行動は、マナに混乱しかもたらさなかった。
それでも妖精はマイペースな態度で話しを続ける。
「もー、そんなんじゃだめよ。どんなものも見かけで判断しちゃいけないって女王様が言ってたもん。あ、でも……」
桃色の彼女がおもむろに後ろを振り向いた。
恐怖で硬直して動かなかった体が、それに続くことで何とか動いた。
やっとこの光景から目を逸らせる……。
そう思った矢先、そこにあったのはさらなる恐怖だった。
「ぁ……」
あまりの事に悲鳴を上げることもできず、マナは今度こそ気を失いかけた。
視線の先には先程見た物の、3倍はあろうかという触手が鎮座していた。
その中の比較的短い一本には目玉がついており、こちらを見下ろしている。 それが核になっているようで、周りの大きな触手たちが今か今かと待ちわびるように蠢いていた。
「マナは私達より体がおっきいから、やっぱりこれくらいじゃなきゃよね♪」
妖精が飛び込んでいる触手は『フェアリー・ハグ』と呼ばれるものだ。妖精以外を襲うことは無く、サイズも妖精規格となっているため普通よりはるかに小さめ。逆に言えば、人間を襲う触手はそれだけ大きい。妖精たちは少女にもしっかりこの「遊び」を体験してもらうため、楽しんでもらいたい一心からこのような触手を用意したのだ。
もちろん、少女がどう思うかは別であるが。
「いや……いやあ！」
ついに耐えきれなくなった彼女は身を翻し、その場から駆けだそうとした。
しかしもう遅い。触手の内の一本が脚に巻き付き、続いて次々と体の至る所に触手が飛来する。
「ひ……」
彼女はあっという間に全身を捕らえられ、触手の海に引きずり込まれてしまった。
無数の触手が服の下に入り込み、体を撫でまわし、全身にぬめぬめとしたなんとも言い難い感触が伝わる。体中を這いずり回る触手の感覚に、少女の顔は嫌悪と恐怖に染まっていた。
「いや、はなして、はなして！」
マナは悲鳴を上げながら手足を動かし、身をよじらせ力いっぱい抵抗するが、その度余計に触手が絡みついてしまう。
そして絡みついた部分は火照ったように熱くなる。その熱くなったところに再び触手が触れると、少女の体に痺れるような甘い感覚が走った。
「やめて、やめ……ひゃっ！？」
最初は気持ち悪いと感じた感触が、明らかに変化していることに気付いた。
なんとも形容しがたい、しかし癖になるような感覚。
彼女の中の「女」が少しずつ芽吹き、この感覚がもっと欲しいと囁いていた。
しかしそれはまだ小さな声だ。今の少女には未知の感覚への恐怖の方が大きい。
色々な感情がまぜこぜになりながらも、少女は抵抗する。
「やだ、助けて、助け―――んうっ！」
涙目で喚き、尚もじたばたと手足を動かす彼女を見かねたか、突如ひときわ太い触手が少女の口に入り込んだ。
その触手はまるで本物の男性器のように筋が立っている。
口に栓をされたマナは必死に息を吸おう呻くが、それは触手を刺激することに他ならない。
マナの舌が当たると触手はビクンと痙攣、膨張し――そして脈打ちながら、彼女の口内に白く粘り気を帯びた液体を吐き出した。
「んんっ！」
恐ろしいほど大量の液体が彼女の口腔を満たし、頭の中は甘ったるい香りでいっぱいになる。
その香りのせいか意識がぼやけ、気が付くと夢中でその液体を飲み干していた。
瞬間、彼女の体の中から火が灯ったかのように熱くなる。
思考は熱に浮かされたようにはっきりとしない。
自分は何をされているんだっけ。
今まで何を怖がっていたんだっけ。
悩み事はなんだっけ。
難しいことは考えられない。
ああ、でも確かなことが一つあった。
―――もっと、この感覚が欲しい。
手足も太腿も腹も、全身を丹念に触手に嬲られる。
さらに体が敏感になり、「変な感覚」もひときわ強くなる。
それで、少女は初めてそれが「気持ちいい」のだと理解した。
少女は未だ触手の中で身体を動かし続けているが、それはもはや抵抗ではない。
自分から触手に身体を擦り付けているに違いなかった。
生まれて初めて感じた性感はたとえ相手が無垢な少女であっても、容易にその心を溶かしてしまう。恐怖は快楽に上塗りされ、蕩けた表情は先程の妖精たちと同じものになっていた。
少女が心が完全に堕ちたところで、ふと目の前に2本の変わった触手が現れた。先端が口のような形をしている。
マナは何をするのか疑問に思いながら、一方で新たな快楽を与えてくれるかもしれない期待に胸を膨らませていた。
そして触手はその期待に応えるように、服の下に入り込む。
「んんんん！！……はぅぅ♥」
触手たちは彼女の乳首に吸い付いた。
今までの責めによってすっかり硬く敏感になった乳首を、触手の口が舐め、赤子のように吸う。
今までとは違った快感に身を跳ねらせ、ひときわ甲高い喘ぎを上げる。
「あっ♥ や、むね、だめっ♥♥」、
どれだけ拒否の言葉を口にしても、触手の動きが止まる様子はない。
彼女の本心がさらなる快楽を求めていることを、触手は理解していた。
触手は粘液を分泌しながら、じゅるじゅると卑猥な音をたてながら少女の胸を吸っている。
そのまましばらく吸い続けて、やがて何も出ないことにいじけるかのように糸を引かせながら乳首を離れた。
「はぁ……はぁ……お、おわった……？」
これだけの責めを受けながら、マナは未だ物欲しそうな目を触手に向ける。
まだ、この先があるような、そんな予感がしていた。
それを察したかのように先程口腔を蹂躙した太い触手がマナの太腿を撫でる。
そしてその触手が股に入り込もうとしたとき、マナは本能的に危険を感じた。
その先に進めば今までとは比べものにならない快楽が手に入るだろう。でも、そこに入っていいのは別のものだ。それだけはいけないと脳内で危険信号が鳴り響いていた。
「だ、だめっ！」
反射的にそう叫ぶと、不意に触手の動きが止まった。
項垂れるように先の方が垂れていく様子は飼い主に怒られた犬のようでもあった。
「え……？」
戸惑いの視線にさらされながら、触手はおずおずとそれを引っ込める。
今までけしてその動きを止めなかった触手が止まったのは彼女の声が届いたからだろうか。
もしかしたら、そうだったかもしれない。
触手の知能はそう低くはない。時として人語を理解するものもある。
この触手はマナの悲痛な願いに心を動かされ、責めを止めたのかもしれない。
――しかし、触手はけして人間ではない。
拒否されたのなら別の手を使うまで、と言わんばかりに別の触手が少女の前に現れる。
片方の側面に、さらに細かい触手がびっしりと生えている。タコ足の吸盤がそのまま短い触手に置き換わったような形だ。それが太腿の内に入り込み―――少女の幼いワレメにピッタリとくっついた。
「へっ、な、あぁっ♥ああああぁぁぁぁぁっ♥」
今まで以上に苛烈な快楽。誰にも触られたことのないそこは、触手の蹂躙と白濁の媚薬効果によってすでにとろとろの蜜で溢れていた。
細かい触手の一部は秘所の中に入りこみ、その入り口を外と中からぐちゃぐちゃと撫で続ける。
さらに触手の一本が堪えきれなくなったようにマナの口に入り込み、白濁を飲ませようとする。さらに胸も同じく、再び触手が吸い付き容赦ない快感を与えた。
口内、胸、秘所。体中を同時に愛撫され、少女はもはや悦楽一色となった淫猥な声で鳴く。
それに応えるように、触手の動きはその激しさを増し、周りの触手は怒涛の白濁を吹きかけてゆく。少女は元の姿など見る影もないほどに犯されていた。
気が狂いそうになるほどの責めを受けるうちに、マナは体の中で何かが高まって行くのを感じた。加えて、何かが流れ込み頭、背中、そして腰を起点に自分が「変わる」感覚。
「あ♥あ♥きちゃう、なにか、き――――んんんッッ♥♥」
快楽の高まりが最高に達し―――そしてそれが破裂した。
「ふぁぁ、あああああああ♥♥♥」
少女は体を激しく痙攣させながら股間から潮を吹く。噴き出した淫水は股間を抑える触手に堰き止められ、触手を伝って根元まで流れてゆく。びくびくと何度か体を痙攣させたあと、眠りにつくように触手に倒れ込んだ。
絶頂の余韻で放心状態になっているマナを、触手はそっと地面に解放した。
黒髪は触手の粘液に塗れ、口元には飲みきれなかった白濁が零れ、激しく責められた全身は赤みが掛かり、性感帯のように敏感になってしまっていた。乳首は未だ硬く張っており、股からは愛液がとめどなく溢れている。
酷く乱暴されたような有様でありながら、少女の顔は悦びに満ちた蕩け顔だ。
そんな彼女に、桃色の妖精がふらついた飛び方でマナの傍に止まった。彼女も体中が粘液塗れになっていて、さっきまで触手に揉まれていたのだと見受けられる。
「どう？ ご感想は」
「はぁ……はぁ……えへへぇ……♪」
乱れた息を整えながら、マナは妖精に微笑みかける。言葉よりも確かに伝わるような歓喜の笑み。彼女は全身をもみくちゃにされたにも関わらず、その内心はすっきりと晴れ渡っていた。抱えていた悩みが全部洗い流されたかのように心が軽い。
マナの笑みを見て妖精は安心したように息をつく。
「うん、良かった。自信は持てそう？」
「……うん。ありがとね、いろいろと」
マナはそう呟きながら、触手の一本に手を伸ばした。嬉しそうにマナの手にすり寄ってくる。
最初は恐ろしかった触手たちが、今では可愛らしくて仕方がなかった。
触手たちは最後まで少女の膣内には手を出さなかった。まるでそこを埋めるのは別のものだと理解しているように。そして少女もまた、本能からそれを理解する。これだけの激しい責めを受けて、なお満たされないものを感じる。
―――この飢えを満たせるのは彼しかいない。そして今の自分なら、彼を私のモノにできる。
少女は先のことを想像し、口元を吊り上げる。
その心は、不思議な自信で満ちていた。
マナはこのような素敵な遊び、それと素敵な「友達」を紹介してくれた妖精たちに心から感謝して、愛する者への一歩を踏み出すのであった。
少年少女たちは思い思いの過ごし方で、モラトリアムを楽しんでいる。
その中で、数名の女子たちが輪になって話し込んでいた。
年齢に関係なく、女子が盛り上がる話題の定番は恋の話である。
ましてや彼女たちは小学5年生。恋を知り、恋をしたがる、そんなお年ごろだった。
―――曰く、誰々がかっこよくて誰々は……。
―――誰は誰のことを好きで……。
―――誰と誰がくっついたとか……。
……エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。
彼女達は好奇心の赴くままに、誰かの噂をし続けている。
年ごろの女子とはどうにも他人の事情に首を突っ込みたがる生き物らしい。
それが誰の耳に入ろうとも知らず、明るく無邪気に大人ぶるのだ。
ところが、皆が笑顔で話し合っている輪の外、浮かない顔をする少女が一人。席に座った俯いていた。
「それで――くんが、気になる人いるって噂聞いちゃったんだよね」
誰かがその名前を口にすると、周り、主に女子たちがやいのやいのと騒ぎ出す。
相反するように、少女の苦い顔はさらに重苦しくなる。
すると丁度、少女グループの話題はそこで打ち切られた。
担任の教師が教室へ入ってきたのだ。
今日の振り返り、明日の予定、その他諸々、帰りの挨拶。
それらを手早く終えると、彼女は足早に教室を去っていった。
黒淵のメガネに、2本のおさげ。半ば目を隠している前髪。
服装に他の女子のようなオシャレをしようといった気概は皆無。
彼女――マナは見た目通り、和気あいあいとした雰囲気を苦手としていた。
いつでも本ばかり読んでいて、空気に溶け込むように目立たない少女、それがマナだった。
恥ずかしがり屋で臆病だった彼女は友だちを作ることができず、さらに読書という趣味は思いの他理解されなかった。周りから見れば自分の世界に閉じこもっているようにしか見えなかったのだ。気遣いからか、はたまた興味を失われたか、いつしか彼女に関わろうとする者は居なくなっていた。
誰かに話しかけることも無ければ、誰かに話しかけられることも無い。
そういう訳で彼女はごく自然とクラスの輪からあぶれた。
邪険に扱われている訳でもないが、居ても居なくても変わらない。そういう存在だった。
彼女自身もまた、特段気にしてはいなかったのだが。
学校を後にした彼女はいつも、真っすぐ家へは帰らない。
行先は町はずれの森だ。そこには誰にも言えない秘密の場所がある。
マナは慣れた足取りで森へ入っていく。
まるで鬱蒼としたの森の中、ありもしないはずの道が見えているかのようだ。
そうして歩き続け、少しすると開けた場所に出た。
瞬間、少女の視界を埋め尽くす、赤、青、黄、オレンジ、ピンク、紫、白―――
豊かな色彩に溢れた花畑がそこに広がっていた。
ひたすら木々の続く森からいきなりこの光景なので、まるでいきなり別世界に飛び出てきてしまったかのような錯覚に陥る。
いや、もしかしたら本当に別世界なのかもしれないと、少女は思っていた。
何故ならこの場所は、一年中花が咲いているのだ。
春はもちろん秋や冬でもけして枯れることなく、その美しさを保ち続けている。
おかしいと言えばおかしいのだろうが、不思議に思う気持ちこそあれど、否定したくはなかった。この夢のような光景を否定する理由が、少女のどこにあろうか。
――それに、彼女はもっとおかしなものを知っていたのだから。
少女は虚空へと、両手でメガホンを作り、声を張って呼びかける。
「みんな、私だよ。出てきてぇ」
声は高らかに、夕暮れの空に響く。
するとまもなく、どこからかキラキラとした光の粒が舞い散り始めた。
光粒はみるみるうちにその大きさと数を増し、大きな輪を描き、広がっていく。
そして輪の中から、何体もの小さな影が現れた。
それは紛れもなく人型の影であり、あろうことか甲高い少女の声を発していた。
「マナだ！」
「マナおねーちゃん！」
「マナー！」
陽に照らされ、その姿が露わになる。
身長は20数センチほど。透き通った羽を持ち、髪と服の色は赤、青、黄色と様々。その姿はお伽噺やファンタジーに出てくる「妖精」そのものだ。十人十色、千差万別、多種多様。一人として同じ声音、色、容姿は見当たらない。個性に溢れた小さな生き物たち。
「わ、わ、ちょっとまって」
少なくとも二十人ほどはいるだろう。
妖精たちは次々に体当たりしたり抱き着いたりして、すっかり妖精塗れになったマナは花畑に大の字に倒れる。呆れたように笑うマナの顔には隠しきれない喜びの色が浮かんでいた。
何を隠そうこの不思議な生き物たちこそ、マナの一番の友達だったのだ。
初めて妖精たちに遭ったのがいつだったかはもう覚えていない。
ただ、何かつらいことがあって、それで学校を抜け出したのだと彼女は覚えていた。
行く当てもなく歩いていていると虹色の光が現れ、それについていくと例の森に着いていた。さらに奥へと進む光を追いかけ、草木をかき分けながら必死についていくと、見えたのが妖精たちの踊る光景だった。
もちろん最初は驚いた。しかしやはり、恐怖や嫌悪を感じることは無かった。
マナと妖精たちはすぐに仲良くなり、友達になった。
そして一緒に遊ぶうちに絆を深め合い、いつしか悩みを打ち明ける唯一の存在(たくさんいるのだが)になっていたのだ。
この日もマナは自分が抱えている想いについて打ち明けた。
一人の男子生徒に恋をしたのだ。
きっかけはマナが階段から転んだこと。
大丈夫？と天から降ってきた声と差し伸べられた手、その主が彼だった。
彼からしたらごく普通の行動だったのだろうが、マナにとっては事件だった。
ただ自分に話しかけてきたというだけで大いに興味を引かれたし、その上自分を助けようとしたなんて考えられなかった。
その時は適当に礼を言って逃げ出してしまったが、後でそのことを思い返すと顔は火照り、胸の動悸が止まらない。
その気持ちを恋であると確信するのには4日を要した。
今までこれっぽっちも興味なかった恋愛トークに耳を傾け、情報収集。
それがさらにマナの心を揺るがした。
何せ彼は勉学、スポーツ共に万能な有名人だったのだ。当然多くの女子から狙われており、しかし凄すぎて誰も手が出せない均衡状態にあるということだった。
それがいつ崩れるかも分からない。誰かが先にくっついてしまうかもしれない。
ましてや自分が告白しにいったところで相手にしてもらえるはずがない……。
そう言った苦悩が彼女を支配していた。
「―――そっかー。それでそんなに落ち込んだ顔をしてるのね。」
大人びた桃色の妖精。いつも心を落ちつかせてくれる優しげな口調。憧れは女王様らしい。
「どれだけ敵がいても関係ないもん！ きっとマナを受け入れてくれるんだから！」
元気な青色の娘。根拠のない自身に溢れた言葉、でも不思議と元気にしてくれる。
「わたしはマナおねーちゃんのこと、好きだもん。断る人なんてどうかしてるもん……」
妖精の中でも最も幼い黄色の娘。極度の甘えん坊。妹ができたようで嬉しくなる。
彼女達は多種多様だ。
おっとりした緑の妖精、少々意地悪な黒の妖精、天使のような白の妖精……
彼女たちは次々と励ましの言葉をかけていく。
みんな、一緒に過ごすうちにマナと絆を結んだ者たちだ。
「でも……」
それでも、マナの顔はいまいち釈然としない。
恋の悩みはそう簡単には解決しないのだった。
それを見かねた桃色の娘がマナの目の前で浮遊する。顔を突き出し、その鼻先がちょんとマナの鼻先に触れた。
「マナ、あなたはすーぐ『自分なんか〜』とか言い出すけど、それは単なる思い込み。あなたは魅力的な人よ。周りがそれに気づいてないだけ。気付かせさえすれば誰だって虜にできる。あなたはそんな素質を持っていると思うの」
「そ、そうかな……」
苦笑いを浮かべるマナ。思わず照れて顔を伏せてしまう。
桃色の妖精はさらに鼻先押し付け言葉を続ける。
「とにかく、自分を嫌わないこと。それを続けていたら何もかもダメになっちゃう。あと、ゼッタイ後悔するような道を選んじゃダメよ。他を蹴落とす覚悟でいきなさい！」
「けおとせ！」
「けおとせー！」
「……ふふっ……あははっ」
妖精たちの無邪気なコールに、マナの口元から自然と笑みがこぼれた。
ああ、自分にはこんなにもたくさん、応援してくれる友達がいるんだ。
そう思うと、本当に強くなれた気がした。
「ありがとね。みんな大好き」
喜んだ妖精たちが、わっとマナに群がる。
マイナスに考えても気分が重くなるだけだ。とりあえず今くらいは考えることを忘れようと思った。次に彼を想う時には気を取り直して、もっと前向きになれるように。
「それで、今日も遊んでくれるの？」
「うん、もちろん」
「やったー！」
妖精にとって一番好きなものは遊ぶことである。
どんな物を上げるより、遊ぶことが一番のお礼になるのだ。
彼女とあった日はほぼ必ず、一緒に遊んでから帰るのが決まりだった。
妖精の遊びと言うとどんな奇想天外なことするのかと思うだろうが、そんなことは無くかくれんぼや鬼ごっこやままごと等である。基本的には人間と変わらない。
しかしこの日の妖精たちはいつも以上にソワソワしていた。
妖精の中の一人が悪戯を思いついた子供のように怪しい笑みを浮かべてマナに囁く。
「……こないだね、新しいお友達が出来て、すっごい遊びを教えてもらったの！」
「すっごいあそび……？」
「うん！ちょっと場所を変えるから、そこに着くまで内緒ね！」
どうやら妖精たちはいつもと違うものを企画しているらしい。
普段どんな遊びをしても心から楽しむのが妖精である。その妖精が「すっごい」と言うのだから、普通の遊びよりもよほどすっごいのであろう。そう思うと、なかなかに好奇心が湧いてくる。
「よーし、それじゃあかこめー！！」
「え？」
唐突に妖精の中の誰かが大声で号令。
それが響いた瞬間、マナの周りに飛んでいた妖精たちが円を書くように動き始めた。
「な、なにするの……？」
かごめかごめ……ではないだろう。
今まで一緒に遊んできたが、こんなことをされるのは初めてだった。
マナを中心として、どんどん妖精たちの回転が速くなる。
そのせいで酔ってきたのか、視界がぐにゃぐにゃと歪み始めた。
……いや違う。歪んでいるのは景色の方だ。
何が起こっておるのかはさっぱり分からないが、間違いなく大変なことが起ころうとしている―――そうマナは直感した。
そう言えばかつて、妖精の国へ案内するとかなんとか、言われたのを思い出す。
どうも永住する流れだったので、学校があるからと断ったが。
「楽しいところにごあんなーい！」
「ええっちょ、ちょっと待って―――！」
咄嗟に妖精の円から出ようとするが、時すでに遅し。
だんだんと視界がホワイトアウトし、すぐに黒と紫の色が出現、それらがだんだんと形を持ってくる――。
抵抗むなしく、ズドン、という音と共に地面へ投げ出された。
最初に感じたのは頭がクラクラするほどに甘ったるい空気。
揺れる視界を少しずつ慣れさせ、周りを見るとそこは薄暗い森の中のようだった。
空を見れば紅い月が昇っており、辺りには青や紫などの色をした見たことも無いような植物があった。時折それらが淡く光り、おどろおどろしいながらも幻想的な雰囲気を醸し出している。
ドキュメンタリーなどでも見たことのない、まるで何かのアニメや映画に出てくるような風景だった。
とても妖精の国という雰囲気でもない。
驚きに呆けているマナに妖精たちが呼びかけ、ある一方に向かっていく。
「ぼーっとしないで、ほら、あっちだよ」
そこからは妙な音が聞こえた。
粘り気を帯びたような水の音。
妖精たちの、悲鳴にも似た声。
「……？」
恐怖よりも好奇心が勝った。
マナはそれらの聞こえる方に歩を進める。
一歩一歩踏み出す度に音が大きくなる。
そして先を隠すように茂る草木を掻きわけると突然森が開け……「それ」を見てしまった。
「んっ……♪やっ、んん……♥」
「あっ、ああ♥もっともっとシて♥」
「はあ、んん♥ ちょっはげし、も、もうイっちゃ……あああああああ♥ 」
それはさながら嬌声の大合唱。
数十人の妖精たちが、何やらタコ脚のようなもの―――無数の触手に絡まれ体中を犯されていた。
言うなれば触手の花畑だ。およそ30センチはあろうかという巨大な花の中に細かい触手が幾本も生えており、一つの花につき一人か二人ほどの妖精が身を任せている。そんな異様な光景が、視界一面に広がっているのだ。
マナは顔を真っ青にして声の一つも出せずにいた。
それはごく普通の少女を恐怖に陥れるには十分な光景だった。大人だって腰を抜かすだろう。
すっかり固まっているマナに桃色の妖精が語り掛ける。今まで聞いたことのないような、艶やかな声音だった。
「ね、どう？みんな気持ちよさそうでしょ？」
「な、なにあれ……こわいよ……」
どうにか絞りだした声は自分でも驚くほど小さく、震えていた。
「最初はそうかもしれないけど、あの子たちとっても優しいの。だから大丈夫よ♪」
森から移動してきた妖精たちが次々と触手の中に飛び込んでいく。
愛しそうに触手を撫でる娘もいえば、早々に触手に身を任せ粘液塗れになる娘もいた。
「まさか、あそびって……」
「そうよ。マナも一緒にあそこに飛び込むの♪」
桃色の妖精は触手に見惚れるように蕩けた表情をしていた。
触手に犯される妖精たちも同様、いやそれ以上に恍惚とした表情をしている。
まるで理解できない。
触手は体を撫でるだけでなく穴と言う穴から体内に入り込んでいた。ましてや股の間に入ってるなんていうことは、幼いマナに理解できるはずもない。
「や、やだよ……あんなに気持ち悪いの……み、みんなどうしちゃったの……！？」
声を荒げて妖精たちに反論する。そうしないと自分が保てそうになかった。
自ら嬉々として体を弄ばれに行く妖精たちの行動は、マナに混乱しかもたらさなかった。
それでも妖精はマイペースな態度で話しを続ける。
「もー、そんなんじゃだめよ。どんなものも見かけで判断しちゃいけないって女王様が言ってたもん。あ、でも……」
桃色の彼女がおもむろに後ろを振り向いた。
恐怖で硬直して動かなかった体が、それに続くことで何とか動いた。
やっとこの光景から目を逸らせる……。
そう思った矢先、そこにあったのはさらなる恐怖だった。
「ぁ……」
あまりの事に悲鳴を上げることもできず、マナは今度こそ気を失いかけた。
視線の先には先程見た物の、3倍はあろうかという触手が鎮座していた。
その中の比較的短い一本には目玉がついており、こちらを見下ろしている。 それが核になっているようで、周りの大きな触手たちが今か今かと待ちわびるように蠢いていた。
「マナは私達より体がおっきいから、やっぱりこれくらいじゃなきゃよね♪」
妖精が飛び込んでいる触手は『フェアリー・ハグ』と呼ばれるものだ。妖精以外を襲うことは無く、サイズも妖精規格となっているため普通よりはるかに小さめ。逆に言えば、人間を襲う触手はそれだけ大きい。妖精たちは少女にもしっかりこの「遊び」を体験してもらうため、楽しんでもらいたい一心からこのような触手を用意したのだ。
もちろん、少女がどう思うかは別であるが。
「いや……いやあ！」
ついに耐えきれなくなった彼女は身を翻し、その場から駆けだそうとした。
しかしもう遅い。触手の内の一本が脚に巻き付き、続いて次々と体の至る所に触手が飛来する。
「ひ……」
彼女はあっという間に全身を捕らえられ、触手の海に引きずり込まれてしまった。
無数の触手が服の下に入り込み、体を撫でまわし、全身にぬめぬめとしたなんとも言い難い感触が伝わる。体中を這いずり回る触手の感覚に、少女の顔は嫌悪と恐怖に染まっていた。
「いや、はなして、はなして！」
マナは悲鳴を上げながら手足を動かし、身をよじらせ力いっぱい抵抗するが、その度余計に触手が絡みついてしまう。
そして絡みついた部分は火照ったように熱くなる。その熱くなったところに再び触手が触れると、少女の体に痺れるような甘い感覚が走った。
「やめて、やめ……ひゃっ！？」
最初は気持ち悪いと感じた感触が、明らかに変化していることに気付いた。
なんとも形容しがたい、しかし癖になるような感覚。
彼女の中の「女」が少しずつ芽吹き、この感覚がもっと欲しいと囁いていた。
しかしそれはまだ小さな声だ。今の少女には未知の感覚への恐怖の方が大きい。
色々な感情がまぜこぜになりながらも、少女は抵抗する。
「やだ、助けて、助け―――んうっ！」
涙目で喚き、尚もじたばたと手足を動かす彼女を見かねたか、突如ひときわ太い触手が少女の口に入り込んだ。
その触手はまるで本物の男性器のように筋が立っている。
口に栓をされたマナは必死に息を吸おう呻くが、それは触手を刺激することに他ならない。
マナの舌が当たると触手はビクンと痙攣、膨張し――そして脈打ちながら、彼女の口内に白く粘り気を帯びた液体を吐き出した。
「んんっ！」
恐ろしいほど大量の液体が彼女の口腔を満たし、頭の中は甘ったるい香りでいっぱいになる。
その香りのせいか意識がぼやけ、気が付くと夢中でその液体を飲み干していた。
瞬間、彼女の体の中から火が灯ったかのように熱くなる。
思考は熱に浮かされたようにはっきりとしない。
自分は何をされているんだっけ。
今まで何を怖がっていたんだっけ。
悩み事はなんだっけ。
難しいことは考えられない。
ああ、でも確かなことが一つあった。
―――もっと、この感覚が欲しい。
手足も太腿も腹も、全身を丹念に触手に嬲られる。
さらに体が敏感になり、「変な感覚」もひときわ強くなる。
それで、少女は初めてそれが「気持ちいい」のだと理解した。
少女は未だ触手の中で身体を動かし続けているが、それはもはや抵抗ではない。
自分から触手に身体を擦り付けているに違いなかった。
生まれて初めて感じた性感はたとえ相手が無垢な少女であっても、容易にその心を溶かしてしまう。恐怖は快楽に上塗りされ、蕩けた表情は先程の妖精たちと同じものになっていた。
少女が心が完全に堕ちたところで、ふと目の前に2本の変わった触手が現れた。先端が口のような形をしている。
マナは何をするのか疑問に思いながら、一方で新たな快楽を与えてくれるかもしれない期待に胸を膨らませていた。
そして触手はその期待に応えるように、服の下に入り込む。
「んんんん！！……はぅぅ♥」
触手たちは彼女の乳首に吸い付いた。
今までの責めによってすっかり硬く敏感になった乳首を、触手の口が舐め、赤子のように吸う。
今までとは違った快感に身を跳ねらせ、ひときわ甲高い喘ぎを上げる。
「あっ♥ や、むね、だめっ♥♥」、
どれだけ拒否の言葉を口にしても、触手の動きが止まる様子はない。
彼女の本心がさらなる快楽を求めていることを、触手は理解していた。
触手は粘液を分泌しながら、じゅるじゅると卑猥な音をたてながら少女の胸を吸っている。
そのまましばらく吸い続けて、やがて何も出ないことにいじけるかのように糸を引かせながら乳首を離れた。
「はぁ……はぁ……お、おわった……？」
これだけの責めを受けながら、マナは未だ物欲しそうな目を触手に向ける。
まだ、この先があるような、そんな予感がしていた。
それを察したかのように先程口腔を蹂躙した太い触手がマナの太腿を撫でる。
そしてその触手が股に入り込もうとしたとき、マナは本能的に危険を感じた。
その先に進めば今までとは比べものにならない快楽が手に入るだろう。でも、そこに入っていいのは別のものだ。それだけはいけないと脳内で危険信号が鳴り響いていた。
「だ、だめっ！」
反射的にそう叫ぶと、不意に触手の動きが止まった。
項垂れるように先の方が垂れていく様子は飼い主に怒られた犬のようでもあった。
「え……？」
戸惑いの視線にさらされながら、触手はおずおずとそれを引っ込める。
今までけしてその動きを止めなかった触手が止まったのは彼女の声が届いたからだろうか。
もしかしたら、そうだったかもしれない。
触手の知能はそう低くはない。時として人語を理解するものもある。
この触手はマナの悲痛な願いに心を動かされ、責めを止めたのかもしれない。
――しかし、触手はけして人間ではない。
拒否されたのなら別の手を使うまで、と言わんばかりに別の触手が少女の前に現れる。
片方の側面に、さらに細かい触手がびっしりと生えている。タコ足の吸盤がそのまま短い触手に置き換わったような形だ。それが太腿の内に入り込み―――少女の幼いワレメにピッタリとくっついた。
「へっ、な、あぁっ♥ああああぁぁぁぁぁっ♥」
今まで以上に苛烈な快楽。誰にも触られたことのないそこは、触手の蹂躙と白濁の媚薬効果によってすでにとろとろの蜜で溢れていた。
細かい触手の一部は秘所の中に入りこみ、その入り口を外と中からぐちゃぐちゃと撫で続ける。
さらに触手の一本が堪えきれなくなったようにマナの口に入り込み、白濁を飲ませようとする。さらに胸も同じく、再び触手が吸い付き容赦ない快感を与えた。
口内、胸、秘所。体中を同時に愛撫され、少女はもはや悦楽一色となった淫猥な声で鳴く。
それに応えるように、触手の動きはその激しさを増し、周りの触手は怒涛の白濁を吹きかけてゆく。少女は元の姿など見る影もないほどに犯されていた。
気が狂いそうになるほどの責めを受けるうちに、マナは体の中で何かが高まって行くのを感じた。加えて、何かが流れ込み頭、背中、そして腰を起点に自分が「変わる」感覚。
「あ♥あ♥きちゃう、なにか、き――――んんんッッ♥♥」
快楽の高まりが最高に達し―――そしてそれが破裂した。
「ふぁぁ、あああああああ♥♥♥」
少女は体を激しく痙攣させながら股間から潮を吹く。噴き出した淫水は股間を抑える触手に堰き止められ、触手を伝って根元まで流れてゆく。びくびくと何度か体を痙攣させたあと、眠りにつくように触手に倒れ込んだ。
絶頂の余韻で放心状態になっているマナを、触手はそっと地面に解放した。
黒髪は触手の粘液に塗れ、口元には飲みきれなかった白濁が零れ、激しく責められた全身は赤みが掛かり、性感帯のように敏感になってしまっていた。乳首は未だ硬く張っており、股からは愛液がとめどなく溢れている。
酷く乱暴されたような有様でありながら、少女の顔は悦びに満ちた蕩け顔だ。
そんな彼女に、桃色の妖精がふらついた飛び方でマナの傍に止まった。彼女も体中が粘液塗れになっていて、さっきまで触手に揉まれていたのだと見受けられる。
「どう？ ご感想は」
「はぁ……はぁ……えへへぇ……♪」
乱れた息を整えながら、マナは妖精に微笑みかける。言葉よりも確かに伝わるような歓喜の笑み。彼女は全身をもみくちゃにされたにも関わらず、その内心はすっきりと晴れ渡っていた。抱えていた悩みが全部洗い流されたかのように心が軽い。
マナの笑みを見て妖精は安心したように息をつく。
「うん、良かった。自信は持てそう？」
「……うん。ありがとね、いろいろと」
マナはそう呟きながら、触手の一本に手を伸ばした。嬉しそうにマナの手にすり寄ってくる。
最初は恐ろしかった触手たちが、今では可愛らしくて仕方がなかった。
触手たちは最後まで少女の膣内には手を出さなかった。まるでそこを埋めるのは別のものだと理解しているように。そして少女もまた、本能からそれを理解する。これだけの激しい責めを受けて、なお満たされないものを感じる。
―――この飢えを満たせるのは彼しかいない。そして今の自分なら、彼を私のモノにできる。
少女は先のことを想像し、口元を吊り上げる。
その心は、不思議な自信で満ちていた。
マナはこのような素敵な遊び、それと素敵な「友達」を紹介してくれた妖精たちに心から感謝して、愛する者への一歩を踏み出すのであった。
18/09/25 13:01更新 / 青黄緑青