連載小説
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後編

「ねえ、もう起きてるんでしょ?」

 そう言われて、今起きたばかりだという感想が頭に浮かんだ。

 気づけば目を閉じていたようだ。
 違う、目を閉じていたことにようやく気づいた。
 眠っていたのだろうか?

 何が起きたのか、いや、俺は放課後になってからは自分の家に白蛇さんを呼んで、一緒にメシでも食って、それから…………。

 それから、告白、こくはく、を。

「ここは…………おれ、はっ」

 自分のかすれた声が、もやがかかった自身の頭に響いた。
 少しホコリっぽい空気に喉がつかえ、言葉の端まで言い終わる前に咳き込んでしまう。

 なんだか自分の腕の位置が不自然だ。
 どうやら両腕は紐のようなものでがんじ搦めにされ、上に向かってくくり付けられているらしい。
 身体は床にあお向けの体勢で倒れており、上には薄暗い天井が見えた。

 そうして身じろぎしていると、腹にかかっていたブレザーがバサリと落ちた。
 俺のものではない。自分のは今も着ている。

「そんなキョロキョロしなくても、ここにいるよ」
「ここ、って……」

 暗い。が、差し込む夕日で周りが確認できた。

 教室だ。
 普段のホームルームの教室とは違ってかなり狭い。

 そうだ、俺は放課後になってから誰も使っていなさそうな教室を探して……そして、この少人数用の狭い教室を見つけたんだった。

 そうなると、腕がくくられているこの支柱のようなものは、ここからは見えないが教室の机の脚だろうか?

「ここって、ここだよここ。ほらこっち」

 天井に固定されていた視界の下のほうから、ひょいっと人影が映りこんだ。

「…………おいっ」
「どうしたのさ、そんな人を初めて見るみたいな顔して。ちょっと変な顔になってるよ?」

 その気安い風な物言いは、間違いない。
 幼馴染みのものだ。

 しかし、ブラインドの降りた窓からわずかに入り込む夕日に照らされたヤツの姿は。

 なぜ。

 どうして。

「お、おいっ、いや…………どうしたんだよお前、何があったんだよそのカッコ」
「気づいてくれた? ぼくだよ、ぼく」

 答えになってない答えを返される。
 だが、それを聞き直す余裕はなかった。
 いきなり起こされて、目の前の状況に自分の頭の理解が追いつかない。

 そこに居たのは、幼馴染みだった。

 幼馴染み、だったはずだ。

 見れば確かに、そいつにヤツの面影はある。
 柔らかい印象を与える顔立ち、どちらかと言えば華奢よりの身体つき。

 しかし、醸す雰囲気が普段と全く異なっていた。

「お前……なんだよな?」
「うん、もちろん。というか2人でここに来たのに、他の人と入れ替わってたりすると思う?」

 実は、他の人と入れ替わっているんだ。
 そう言われていればどんなに良かっただろうか。

 ヤツの顔。
 温和な印象はそのままだが、こんなにアゴの線は細かったか? 言葉を発している口は、以前からあんなに柔らかな造形だっただろうか?

 ヤツの身体。
 元から線の細かった身体は、しかしこうも細身だっただろうか? シャツだけになった姿が、腰に向かうにつれくびれているのはどういう理屈だ?

 いつの間にか、見知ったはずの友人は別人のような雰囲気に変化してしまっていた。
 これでは、まるで……。

「お前…………お前っ……!?」
「もう、起きてからそればっかりだね?」

 どうしたの、と言って幼馴染みが顔を寄せてくると、ふわりと良い匂いがした。
 ハーブや薬品とは違う、ただ『良い匂い』としか表現できない甘い香り。

 同時に、男にしてはやけに赤く色づいて、透き通った唇が近づいてくる。
 口元に浮かべた蠱惑的な笑顔に、思わず意識が引き込まれそうになった。

 これでは、まるで。


 こいつ、まるで――――――女じゃないか。


「そうか、アルプ…………!」
「ありゃ? もう分かっちゃったんだ。きみってたまーに鋭くなるよねぇ」

 アルプ。

 男が女の身体になり、サキュバス化する現象。
 いや、現象だっけか?
 詳しいことは知らないが、この学園には人とともに、たくさんの人でないヤツも通っている。オトヒメさんだってクラスの一部の女子だって、あの女子たちはみんな魔物娘だ。
 だから、アルプという魔物についても聞いたことはあった。

 去年だったか、当時のバスケ部の主将であった男子が、ある日登校してみればまるっきり女子の体つきになっていたらしい。
 俺もウワサが気になって遠目から覗いてみれば、元は男だったという事実のほうがウソだと思うほどに普通の女子になっていた。

 ……いや、普通じゃないな。
 すげぇ美人だったのを覚えている。

 そして、目の前のこいつも。

「……いつからだ? 小学校は違うし、中学校も水泳の時は普通だったよな」
「うん、変わり始めたのは高校からだね。もうアソコも完全に変わってるし、実は結構胸もあったりするんだよ? 今はサラシ巻いてるけど」

 今日まで気づかれなかったのが不思議なくらいだよね、やっぱりきみって鈍感なのかな、と話してからヤツはまた笑みを深めた。

 そうなのか。

 そうなのか?

 いや、体育の時はこいつはいつもシャツを着たまま体操着に着替えていたし、この学校にはそもそも水泳の授業がなかった。

 家で遊んでた時はどうだ?
 中学から高校に移って、何かヤツに変化は……元から中性的な顔ではあったけど……あー、ダメだ、分からない。
 分からないということは、意識していなかったということなのだろう。

「実は、妹がいて入れ替わってたとか……?」
「あはは、ぼくは一人っ子だよ?」

 だよな。俺もそんなこと知ってる。

 言われてみれば、目の前のヤツの言動はどうみてもよく知った幼馴染みのものだ。
 ただ、教室でダベっている時も、家で遊んでた時も、顔や姿をこうもマジマジと見てこなかったというだけで、その結果としてこいつの変化に気づけなかったのだろう。

 途端に恥ずかしくなってきた。
 おれはこいつのことを一顧だにせず、告白の相談などと自分の話ばかりをしてきてしまっていたのか。

「その、悪かった。気づいてやれなくて」
「ううん、ぼくも隠してたフシがあったからね。…………特に、きみには」
「あれだ、その身体になってから不便なこととか、何かツラいことはないか?」

 自分が突然女の身体になるなんてのは想像を絶する事態だが、それでもいろいろと不便なことがあるだろうというのくらいは俺でも察せられる。
 それなのにこいつは俺の勝手な相談ばかりを聞いて、そして手伝ってくれていたのだ。大変なのは自分のほうだろうに。
 まったく、どこまでお人好しなのか。

 案の定、ヤツは俺の言葉に顔をうつむかせた。
 長い髪に表情が隠されてしまう。

「確かに…………少しツラかったよ、うん」
「だ、だよな? 何か困ったことがあれば、俺で良けりゃ力になるぞ。これまでの相談のお礼みたいな感じでさ」
「困ったこと、ね」
「あ、ああ」
「ちなみに、きみの方こそ大丈夫なの? 時間とか」
「あっ、やべっ」

 言われて思い出した。
 白蛇さん。待ち合わせ。

 マズい、今の時間は…………と慌てて時計を見ようとするが、腕は縛られていて動かなかった。

「おいっ、そういやこの紐! なんでっ……!」
「ねえ、白蛇さんとはもうキスとか、した?」

 唐突な質問だった。

「は?」
「告白はまだなんだよね? それ以外は?」
「い、いや…………」

 なぜこのタイミングで、そんな質問を?
 というか、なんだその質問は?

 あ、あれか?
 ここに来た目的って俺の相談が最初だったし、そのアドバイスとか?

「……いや、何もしてないぞ」
「ウソだよね、それ」

 え?

「白蛇さんに屋上に呼び出された時、してたでしょ?」
「え、いや」
「他には? その後は?」

 シャツの胸のあたりをヤツに掴まれていた。
 顔は伏せられたままだ。

 怒鳴っているわけではない。
 が、有無を言わせないその剣幕に、思わず言い訳のように答えてしまう。

「お、屋上の時はあれは、勢いみたいなもんだ。白蛇さんのほうがグイグイ来て、そのはずみでっていうかさ。他は……」
「他、は?」
「いやホント、そういうのはちょっと恥ずいっていうか? あんま、りッ…………!?」

 影が覆いかぶさってきた。
 鼻が、頬が、いや、なによりも口が触れている。
 キスしている。

 触れた部分はすぐに離れた。

「ぷは。……ねえ、何回したか教えてよ」
「お、おまっ、いや、教えてって!?」
「ねえ、何回したの? 白蛇さんと何回キスしたの?」

 また顔が近づいてくる。

 答えなければまた、されてしまう。
 そう思ったら勝手に口が答えていた。

「一回! 一回だ! 付き合ってもないんだから、そんなするワケないだろ!!」
「そっか」

 接近が止まった。
 間近に見えるヤツは、とても嬉しそうな表情で。
 その無邪気な笑顔を見て、心臓がドクリと跳ねた。

 だが、次の瞬間。

「……じゃあ、これで回数も時間もぼくの勝ちだよね」

 再び柔らかい唇が触れる。
 触れたかと思うと、温かいものが自分の咥内にぐちゅりと入り込んできた。

 何か声を出そうとして、出せなかった。
 代わりに口が開いた分だけ温かいものが、舌が、深く深く侵入してくる。

「ん…………んふっ♥ ず、ずずっ♥」

 舌が絡まり、吸われている。
 吸われたかと思うと解放されて…………今度は、どろりとした液が流れ込んできた。
 溺れるような錯覚に思わず喉が動く。唾液を飲んでしまった。
 ゴクリと大きな音がして、喉から腹部へと熱が移っていく。

「んん♥ んふふっ♥ え、れぇ……♥」

 唇が離れてくれない。
 どころか、ヤツの手が俺の喉を撫であげる。
 そうすると喉が反射的に動く。
 また、飲んでしまう。ぬろりとした舌から垂れる液体を何度も、何度も。

 熱い、身体が熱い。
 息ができない。苦しい。

「ん…………? んん♥」

 目の前のヤツが、自分の鼻を指差した。
 そこでようやく、鼻で息を吸えばいいことを思い出した。
 慌てて大きく息を吸うと、ヤツがうっすら笑う。
 慣れていないことがバレたようで、場違いな恥ずかしさを覚えてしまった。

 そして次の瞬間、それどころではなくなった。
 息を吸った途端に甘い香りが頭まで突き刺さり、身体の芯が灼けるように熱を持ったのだ。
 唾の比ではなかった。

 なんの香りだ、これは。
 まさか、こいつの?

 ダメだ、もっと吸いたい。
 こいつに顔を思いきり押し付けて、深く匂いを吸い込みたい。
 長い髪ごと肌が貼りつくほどに抱き寄せたい。

 しかし腕は拘束されて動かず、ヤツも身体を離してしまった。

「なん、で」

 ようやく言葉が出る。
 離れた唇と自分の口との間に唾液の糸がひかれており、話すとそれがふるふると揺れた。

「ヤバイね、これ。すごく」
「おいっ」
「……えへへ、今のって『何回分』になるんだろうね?」
「だからっ、おい!」
「あ、どうしてそんなことしてるのかって? だって、相談に乗ってくれるんでしょ?」

 相談?

 相談ってのは、いや、もっとこう、悩みとか……。
 動転していた俺は、そんなことを矢継ぎ早に言ったように思う。

「うん、相談だよ。すごく困ってるんだ、ぼく」
「そ、そうなの、か?」
「……最初は隣に居れるだけでも良かったんだけどさ。でも、君は他の人が気になってるみたいで。だからぼくも髪を伸ばして、それからなるべく明るい性格になって、あとは料理も練習して」

 目線を下に向けるとヤツのはだけたシャツが、そして、シャツの下からすらりとした脚の肌色が伸びているのが見えた。

「オトヒメさんとは知り合いだったから、ぼくの『作戦』も上手くいったんだけどね。あのワーウルフの子は結構マズかったかな。バイト先の話なんてきみに相談されてなければ気づけなかったし、ギリギリだったね」
「え……?」
「きみは意外と、性格のわりには最後の最後で押しが弱いところがあるよね、それが良いところなんだけど。でも、もう少し強引な性格だったら今もどうなってたかわからなくて、想像するだけですごく怖い」
「い、え? 何を言って」
「だから嬉しかったんだ。秋頃に『こうして話してるだけでもなんだかんだで楽しいし、ムリして彼女を作ろうとは思わなくなった』って聞いた時は。すごく嬉しかったし、興奮した。うん、ぼく、興奮したんだと思う。それを聞いた日の夜だって……♥」

 顔に当たる息が熱い。

 ヤツと目が合う。いつもの穏やかなまなざしは影を潜め、ギラギラとした獰猛な笑みに変わっていた。
 それでいてそいつの目の奥は、底なし沼のように昏く濁っている。

 バサッと音がして、見れば、ヤツの身体の横から暗闇の中でも目立つ黒い翼が出ているのが分かった。
 コウモリのような、黒い皮膜の付いた翼。
 気づかないうちに、ヤツの頭には角も生えていた。

「でも、白蛇さんの時は失敗だった。もう少し強くきみを留めておけば良かったんだろうけど、たぶんあの勢いじゃ止めるのはやっぱりムリだったかな。そしたら屋上でしちゃうんだもん、キス。しかも白蛇さん、きみのバイト先まで踏み込んじゃうし。ぼくが、ぼくも行きたくて行けなかったのに」

 頭がグラグラしてきた。
 この状況に呑まれているのか、ヤツの言葉にキャパオーバーを起こしているのか、たぶん両方だろう。そんなことをぼんやりと考えていた。

「それできみの初めてのキスは奪われちゃった。やっぱりきみと同じでぼくも押しが弱いのかな。でも、だからこそ、それ以上のものは全部ぼくが欲しくなっちゃった」

 そして、あくまで軽い調子で続ける。

「……ねえ、ちょうだい?」

 ちょっと困ってるから相談なんだけど、といった気軽さでヤツは言った。











「ん、れぇ♥ れろ……♥ んちゅ♥」
「あっ、ぐ…………!」
 
 あれから時間はどれくらい経った?
 5分? 15分? いや、30分?
 全然経ってないようにも、もうかなりここで拘束され続けているようにも感じる。
 
 その間ずっと、俺はヤツに愛撫されていた。
 全身を、あますところなく。

「ん……♥」

 シャツを脱がされ、肩の辺りを舌が這っていく。
 手はズボン越しに下腹部をやわやわと撫で、さすり、徐々に中心に近づいているのが分かった。
 頬ずりをするように顔が動くと長い髪が波のように揺れ、ヤツ自身の甘い匂いがはっきりと感じられる。

「ねえ、ねえ、気持ちいい……?」

 のしかかってきている全身は……ひどく柔らかい。

 こんな身体が、毎日俺の隣でバカ話をして、そして無邪気に笑っていたのか。
 めちゃくちゃにしてやりたい。
 背骨がきしるほどに抱きしめてやったら、どんなに気持ちいいのだろうか。
 そうなったらこの幼馴染みは、普段はのほほんと笑っているその顔をどんな風に歪めるのだろうか。

「あっ、またビクッてなったね♥ そっか、ここが気持ち良いんだね……?」

 こちらの反応で弱い部分を見つけると、執拗にそこを刺激してくる。
 鎖骨と胸の間辺りを舌が這い回っている。

 マズい。
 俺、頭おかしくなってる。

 ついさっきまで、それこそこの少人数教室に入ってくるまでは、ただの気の置けない幼馴染みだと思っていたのに。
 なんで。どうして。

 そんな気持ちが、全部快楽で塗り替えられていく。
 こいつの柔らかい身体に、甘い匂いに、自分の獣性のようなものがぐつぐつと煮え滾ってくる。

 めちゃくちゃにしてやりたい。
 こいつが泣き叫んで許しを乞うまで、その細い肢体をぐちゃぐちゃに犯してやりたい。

 アルプになった幼馴染みと目が合うと、ヤツはドロドロに蕩けた表情でこちらに迫ってきた。

「あは♥ ねえきみ、すごい顔してるよ? 今すぐにでもぼくのアソコにおちんちんを挿れて、腰を掴んで、好き勝手にズボズボしたいって顔♥」
「そんな、ことはっ」
「そんなことは? シたい? シたいんだよね?」

 でも、させてあげない。

 意識しているのか、わざと残酷にそう言ってみせた幼馴染みは、上体を起こすと下に身体をずらしていった。

 ズボンの中央に手が掛けられる。
 それで、痺れていた頭が少しだけ冷静になった。

 ダメだとか、それはやめろとか、そんな風なことをわめいた気がする。
 自分では大声で叫んだつもりだったが、実際には力なく、弱々しい懇願のようになっていただろう。

「うわ、うわぁ、きみのそんな顔初めて見た……♥ でも、ダメって言われてもさ? ここはほら、こんなに大きくなってるんだよ?」

 逆効果だった。
 ヤツは嗜虐的な笑みを深めると、容赦なくファスナーを下げてしまう。
 そして、探るように中に手を入れた。

「ほら…………ね? よしよし、さっきからずぅっとズボンの中で膨らませてびくびくして、ツラかったんだよね?」

 下着から自分のペニスが露出され、それを握られている。
 よく見知ったはずの幼馴染みが、自分のそれを優しく握っている。
 悲鳴のような声が勝手に喉から漏れた。

「おお……こんなにきみのをじっくり見たのは初めてかも」
「や、やめ」
「やめ…………ないっ♥ ほら、きっとこうして撫でて欲しいんでしょ? ね?」

 緩く輪っかの形に握られ、上下に指が動く。
 ペニスの根元から亀頭に指が動くたび、自分の腰が跳ね上がりそうになった。

「ん、もっと大きくなってきたね……♥ 昔の自分じゃあんまりシたことなかったんだけど、なんとなくきみの気持ちいいトコロは分かるんだよ?」

 スジ立った部分をぎゅっぎゅっと押し込むように刺激される。
 すると、はち切れそうになるほどにモノが膨れ、ヤツの手の中でビクビクと震えた。

「ぼくが魔物になったからかなぁ? きみのどこをいじめてあげれば良いのか、感覚で分かっちゃうんだ♥」

 手の全体でペニスの先を包まれる。
 かと思うと、今度は先端を指でほじるようにしてつつかれる。

「ねぇ、ほら、もっと気持ちよくなって♥」

 耐えきれず、ペニスの先からジワリと漏らしてしまった。

「わっ♥ これアレでしょ、ガマン汁だよね? こんなにとろぉっと出ちゃうものなんだぁ……♥」

 興味しんしんといった感じで、顔を赤らめた幼馴染みがその様子を観察している。
 羞恥心で顔を覆いたくなった。
 だが身体には力が入らず、腕も縛りつけられている。

「ダメだよ暴れちゃ、もっとヒドいことしちゃうよ? ………………ほらっ! んむっ♥」

 言うがいなや、ヤツは口を広げて肉棒を咥えこむ。
 咥えこむというよりは、吸いついたようにすら感じた。

「なっ……!?」
「んふふ♥ んっ、んちゅっ♥」

 小ぶりな口に比べてサイズオーバーなソレを咥えたそいつは、何も言わずに舐めしゃぶりはじめた。
 うねうねとペニスに舌がまとわりつき、ガマン汁とヤツの唾液が混ざってピチャピチャと音を立てる。

 気持ちいい。
 めちゃくちゃ気持ちいい。

 そう思った時には、もう出そうになっていた。

 このままだと、こいつの口の中に出してしまう。
 何がマズいのかは分からないが、それだけはダメだという忌避感があった。

 だって、こいつら昔から知ってる馴染みで。
 いつもバカやってた友達で。
 そんな、ダメだろ。
 それだけを考えて、必死に堪えようとした。

「んぷっ……。もしかして、ガマンしてる?」

 だがそれをヤツが見逃すはずもなかった。
 こちらの変化なんて、全部手に取るようにバレていたのだ。

 言葉を返せずにいると、幼馴染みはまたニマッと笑ってみせた。
 次の瞬間、頬がへこむほどの勢いでペニスを吸い上げる。

「んじゅ〜〜〜〜っ♥♥♥」
「ああ、ああぁぁッ!」
「んじゅ♥ ぐぼっぐぼっ♥ じゅ〜っ♥」

 上下に顔を動かし、吸う動きまで織り交ぜて責めを加えてくる。

「じゅうっ♥ んぶっんぶっんぶっ♥ んっ……♥」

 口の端からダラダラと液体がこぼれ落ちるが、それもまた舐めとるように口の中に戻している。
 その度にピンク色の舌がヤツの口の隙間からうねるように姿を覗かせ、こちらの肉棒を舐め上げた。

「んぐんぐ……ん、ぐぼっぐぼっ♥」

 そうしてたっぷりと口に蓄えたどちらのものとも言えない体液がペニスを包み、咥内でかき混ぜられて快感を与える。

 マズい! 出る!

 よせ、もう出るから、口を、早く!

「おい……っ、ダメだ、もう離せっ!」
「んぷっ……やらよっ♥ へーえひ、らしれっ♥」

 離すどころかペースを上げられ、遂に限界を迎えた。

 口の浅いところで、何度も何度も精を放つ。

「ん!? ん〜〜〜〜〜〜っ♥」

 自分でも今までにないほどの射精だと思ったが、それをじかに受けた幼馴染みも目を白黒させていた。
 射精の勢いは止まらず、口が離れる。
 そのため、最後の方はヤツの顔にかかってしまった。

「だ、大丈夫か」
「ん…………ぷ、すごかったぁ♥」

 顔を上げたヤツはかなりヒドい状態になっていた。
 整った顔立ちは今や目の下にまで白い粘液がまとわりつき、口の中は体液が混ざってドロドロに濁った泉のような有り様だ。

 それをヤツは、口を閉じて…………。

「んぐ…………ごきゅっ、んぐっ! ……はい、あーん♥」

 次に口を開いた時には、何も残っていなかった。

 飲んでしまった。

 俺の出した精液が、飲まれてしまった。

 イヤがるどころか上気した表情でザーメンを飲み干した幼馴染みは、さらに目を潤ませて身体を震わせた。

「ん、んう……っ♥ すごい、なんていうか、きみの……すっごく、おいしいねぇ♥」
「お、おいし、い?」

 まだ硬さを保った肉棒のパクリと咥え、残ったものを吸い上げる。
 俺が情けない声を上げるのにも構わず、奥に残った最後の精液までをジュルジュル吸うと、ごくんと飲んだ。

 わずかに放心してから、自身を抱きしめるようにしてギュッと身をこわばらせる。

「……うん、うん、おいしいっ! あぁぁ、なんでもっと早くこうしなかったんだろ♥ ん、おなか、あついぃっ♥」

 いきなりヤツは自分の下半身に手をやり、もどかしくてたまらないといった様子で下着を脱いでしまった。
 そして下半身を覆うものを全て取り払うと、俺の上に跨る。

 カッターシャツ一枚を着ているだけの幼馴染みが、腰をくねらせてこちらの顔の前に見せつけてきた。

「ねぇっ、見てくれる? ぼくの、あつくて、じゅくじゅくってしてるのっ♥」

 アルプになったという言葉の通り、幼馴染みの下半身には男のソレは姿を完全に消していた。
 代わりにあったのは、股の真ん中にはタテの切れ目……というよりは、何層かの谷のようなモノ。

 これが幼馴染みの、膣か。
 女の身体なのか。

 一度射精したことで落ち着きかけた心臓が、またバクバクと拍動しはじめた。

「見て、見てよっ♥ ぼくのコレ、もうこんなにびちゃびちゃになってるでしょっ? たまに一人でシてる時でもここまでなったことないんだよっ♥」

 ヤツの言う通り、生まれて初めてまじまじと見たそこは、きれいなピンク色の肉に囲まれた中央の穴から幾筋も愛液が流れ出ているのが分かった。

「分かるよね、このおまんこにきみのが入っちゃうんだよっ♥」

 幼馴染みが二本の指で穴の上の方を撫でると、身体をガクガクと揺れさせる。

「普段はこうして、クリのほうをイジってたんだっ♥ だからアソコのほうはしっかり新品だよっ♥」
 
 膣口からとめどなく流れる愛液をすくってはクリトリスの周りにまぶし、その豆のような突起の上から皮ごとぐりぐり刺激している幼馴染み。
 見ているだけでゾクゾクする淫らな光景だった。

「あっ、また物欲しそうな顔してるね♥ でももうちょっと待ってて、慣らしておきたいんだ♥」

 ヴァギナの央部に指が押し込まれると、ヒクヒクと穴の周りが収縮する。その動きに合わせ、愛液がまたトロリと奥から流れ出てきた。

「えへへ、今の見た? 実はぼくの方こそきみよりもっと欲しくなってたりするかもね? こんな風に、おちんちんが欲しい欲しいってヨダレもたらしちゃってるんだからね♥」

 マッサージのように膣を揉み、こねまわす。
 陰核をつつき、アナルの近くまでを指でなぞり、徐々に徐々に幼馴染みの性器が柔らかくほぐれていく。
 柔らかくなった膣からは、洪水のように愛液が溢れていた。

「んぅっ♥ はぁ、はぁ……♥」

 一際大きく身体が揺れた。
 わずかの間動きが硬直したかと思うと、こちらに顔を向けて照れてみせる。

「ダメだなぁ、ぼく。少しイっちゃった♥ でも、準備できたよ♥」
「じゅん、び」
「そ。きみのおちんちんをぼくのお腹に突き刺して、ズコズコって突いてもらう準備♥」

 ヤツが浮かせていた腰を下げると、下腹部をこすり合わせる形になった。
 ペニスが尻の肉の谷間に挟み込まれ、沈み込むような柔らかさと溶けるような体温にめまいがする。

「やっぱりはじめてって痛いのかな? 魔物化してから少しずつネットで調べたんだけどさ、個体差があるとしか書かれてなかったんだよねえ。もうちょっと濡らしたほうがいいかな?」

 アナルを沿わせるように尻で肉棒がしごかれる。
 挟まれて上下され、ガマン汁が先からまた流れ出すのを感じる。そして代わりに、ヤツの下半身から粘度の高い透明な液が糸を引いて落ちた。
 密着したお互いの下半身が、互いの体液でぐしょぐしょになっていく。

「うー、ガマンできないや。もうシたいなぁ♥ きみもシたいでしょ? シたいよね?」

 分かった、これは焦らされているのか。
 こちらの反応をニヤニヤしながら試している。

 普段のあいつからは考えられないような言動だが、それが少しでも魅力的に見えてしまった俺はバカなのか、雰囲気に呑まれているのか。

「した、くっ……」
「シたく、てたまらない? シたく、てガマンできない? うん、仕方ないなぁ♥」

 腰が少し持ち上げられ、膣口と亀頭が触れた。
 ヌメッたペニスは根元から優しく握られ、先端が固定されている。

 逃げ場は、なかった。

「じゃあ、ぼくのはじめて、あげる、ねっ……!」

 ズチュッ…………と。

 入ってしまった。

 重力に従ってそのまま腰が下ろされ、ペニスがあっさり膣に呑み込まれる。
 途中わずかに引っかかる部分を感じたが、それもあまり抵抗なく奥まで侵入を許してしまった。

「あ、は、あぁぁぁぁ♥♥♥」

 ヤツが体勢をのけぞらせ、スラリと伸びた喉のスジがびくびくっと震える。
 喉仏も何もなく、華奢な女性の喉そのものだった。

 絞り出すように声を出していたのが、力尽きるとこちらに倒れてきた。

「…………すっ」

 顔だけ上げると、至近距離で目が合う。

「す、すっごくすっごくキモチいいよぉぉ♥ ヤバいって、コレ♥ 頭おかしくなるっ♥」

 その目は、ドロドロに蕩けていた。
 表情はうっとりとしていて、叫んだためか口からはヨダレが端からこぼれている。
 女だ。女の顔だ。

「見ないでぇ♥ 感じてる顔、そんなに見ないでぇっ♥」

 だが、こちらも快感でいえば変わらなかった。

 入れられた瞬間から膣が侵入物を確かめるようにギュッギュッと断続的に圧をかけ、そして奥へ入るのに抵抗してくる。それをヤツがむりやり腰を落としたものだから、締まる肉の中を一気に掻き分けて奥へと引き込まれたのだ。

「ああぁぁ♥ きみの、ぼくのナカでぴったりだよっ♥ はじめてなのにぃっ♥ 奥まで入ってる、子宮まで届いちゃってるっ♥」

 奥のほうで、自分のモノの先端にコリコリと弾力のあるものが当たる感触がした。
 これが、そうなのか。

「う、動かなきゃっ♥ 動かないときみもキモチよくなれないよねっ♥」

 いや、そんな、もう既にヤバいのに。
 動くって、これ以上に良くなるって、それは。

 背中がゾワリとした。
 問いかけに俺の頭が勝手にがくがくと頷き、それを見た幼馴染みが余裕を見せようと笑みを浮かべようとし、しかし失敗する。
 もうお互いに取り繕えなくなっていた。

「動く、よっ! ほらっ♥ ほら、ぁっ♥」

 腰が上がり、落ちる。
 その度にぱちゅっ、ぱちゅっと湿った音がして、ヤツの軽い身体が俺の腰に打ちつけられた。

「ほ、らぁっ♥ あ、ああぁっ♥ ああぁっ♥」

 最初は規則的に動こうとしたのだろうが、それがすぐにリズムが崩れてめちゃくちゃな動きに変わっていった。

「ああぁっ、っぅ! ああぁっ♥」

 腰と腰の間の粘液が糸を引き、一回の抽送ごとに泡立つように白みを増している。
 ところどころ赤いものが混じっており、それが生々しく親友の初めてを奪ったことを頭に理解させた。

「もっときみもぉ、キモチよくなってえっ♥ ぼくでキモチよくなってよぉっ♥ お願いだよぉっ♥」

 幼馴染みの息が荒くなるが、それでも腰の動きは止まらないどころか激しさを増していく。

「ぼくがきみのことっ! 一番よく知ってるんだからねっ♥ もうきみのアソコの形だってぇっ、覚えちゃったんだよっ♥」

 膣の中が生き物のようにうねり、ペニスの全体をキツいほどの締めつけでこき上げる。
 亀頭の先端やカリ裏の周りなど、的確に弱点を責められていた。

「きみの専用のおまんこだよっ♥ もっともっと、もっともっともっとズポズポしてあげるからぁっ♥」

 冬なのにお互いぐっしょりと汗をかき、幼馴染みの顔は快感や興奮から、汗がしたたり、涙やヨダレでヒドいことになっている。
 けれども、それを可愛いと、いやいっそ淫靡で美しいとすら、もやがかかった頭は捉えてしまう。

「あっ、今またピュッてしたねっ♥ 先走りってやつだよねっ? キモチいいんだね、嬉しいっ♥ 嬉しいよぉっ!」

 甘い匂いが一層増した。
 幼馴染み自身の体臭なのか、汗なのか、それとも淫魔としての性質なのか。
 これを吸うとダメだ、さらに意識がぼやけてくる。
 目の前のメスを犯すことしか考えられなくなる。

 気づくと、自分も下半身を動かして何度も腰を打ち付けていた。

「あ、くぅぅぅん!? ヤダっ、それヤダっ! ぼくが動かなきゃいけないのにぃっ♥」

 懇願されたが、もう止めることはできなかった。
 腕が動かない代わりに、脚にぐっと力を入れて身体を持ち上げる。
 上に乗っていたそいつが下から腰を叩きつけられるたび、悲鳴をあげて身を揺らした。

「うぅぅっ! うぅぅっ! あぅぅっ♥」

 もはや粘液だまりのようになった膣内に肉棒を突き立て、かき混ぜ、奥へと触れさせる。
 幼馴染みの膣内は軽い抵抗こそするものの、今や奥へ奥へと引き込む動きのほうが大きくなってきていた。

「やぁっ♥ 奥グリグリしてぇっ♥ ぜんぶひらいちゃうっ♥ 赤ちゃんの部屋ひらいちゃうよぉっ♥」

 赤ちゃん、とヤツは言った。
 その言葉を聞いた途端に、ピストンが自然と速くなっていった。

「な、なんでぇっ!? なんで速くなるのぉっ♥ ダメだよっ♥ それ、赤ちゃんできちゃうズポズポなんだよっ♥」

 幼馴染みが赤ちゃんと言うたび、頭がチカチカするほど快感が跳ね上がるのを感じた。
 それをもっと求めて肉棒はさらに硬度を増し、奥へ奥へとヤツを犯すために膣内を突き刺す。

「あ、あぅっ、あぅっ! ズポズポだめぇっ♥ ねえ、赤ちゃんほんとにつくる気なのっ? ぼくときみの赤ちゃん、つくる気なのぉっ?」

 それに答える余裕もなく、ひたすらに腰を叩きつけ続ける。膣内に肉棒を擦りつける。

 そのうち、膣の奥で動きに変化があった。
 奥の硬いコリコリとした部分が、ペニスを引き抜こうとするとそれをイヤがるように吸いついてくるようになったのだ。

 すると亀頭に絶えず刺激が与えられ、一気に射精感が高まってきた。

 出る! もう、出る!

「う、動くの激しいよぉっ♥ もう出るんだねっ? 出して、ぼくのナカにいっぱい出してぇっ!」

 ヤツが最後に腰を落とすと、膣内の一番奥でペニスから精液が溢れだした。
 爆発するような勢いで流れ出ていく。

「あっ、くっ、くぅぅぅぅぅぅんっ♥♥♥」

 幼馴染みがこちらに抱きつき、全身が力んで硬直し、快感に耐えようとしている。
 そんな状態のヤツに、自分のペニスは容赦なくザーメンを流し込んでいった。

 抱きつかれた弾みで偶然に拘束がほどけたらしく、腕が自由になった。
 こちらもヤツを力の限り抱き返す。

「あぁぁぁっ! あひっ♥ あぁぁぁぁぁぁ♥」

 長い髪を振り乱して、嬌声をあげ続ける幼馴染み。

 射精が止まらない。
 これが魔物娘に搾られるってことなのか。

「ぅぅぅう! んぅぅぅ!! まらぁ、きれるよぉっ! せーえきぃ、ドピュドピュっれきれるよぉっ!! ん、んぅっ♥」

 そうしてたっぷり数十秒は出し続けただろうか。
 それからようやく射精は収まった。

 お互いをきつく抱きしめた状態で、相手の肩にあごを置いて荒く息を吐く。
 柔らかい身体の感触に、このメスに自分の分身を植えつけてやったという奇妙な充足感があった。













「か、はぁっ……♥ はぁっ……♥ んっ」

 しばらく抱き合ったまま過ごし、時間が経って動悸が収まると、自然と腕が離れた。

 2人とも無言のまま身体が離れ、膣からペニスが抜き出てくる。

「出しちゃっ、たね……」
「あ、ああ」

 消耗が激しかったのか力なく微笑んでみせたヤツは、腰を上げるとぶるりと身を震わせた。
 脚の付け根から白いねばっとした液が垂れてきて、細い太ももをつたい落ちていく。

「あの…………さ」
「お、おう」
「ありがとう、ね」

 ヤツはいつものへにゃっとした表情に戻っていた。

「悔しかったんだ、ぼく。ずっときみを見てたのに、他の人についに取られちゃったか、ってさ」
「そう、なのか」
「そうなんだよ? きみのことに関しては、誰にも負けたくなかったんだ。たぶんそこは、ぼくが男の子の時から変わってないと思うよ。まあ、その時は今とは少し違って、友情だとかそんな感じだった気がするけど」

 それならば。

 昔が友情だったなら、今は。

「でも、これで良いんだよ。もうこれで大丈夫」
「…………え?」
「ぼく、満足しちゃったからさ。白蛇さんには何度謝っても足りないかもしれないけど、もうぼくは」


 ――――1人で、やっていけるから。


 幼馴染みは、そんなことを言った。

 いつものへにゃっとした表情で笑いながら。

「だから、ありがとう。こんなぼくに付き合ってくれて。今日はごめん、本当にごめん。魔物娘になってから衝動を抑えられなくなる時があるんだ……ってのは、言い訳だけどさ」

 笑いながら、泣いていた。

 笑うために細めた目じりから、ポタポタと雫がこぼれ落ちていく。

「あとのきみのことは、うん、悔しいけど白蛇さんに全部譲ってあげる、よ。あの子のほうが行動力が、あって、ぼくなんかよりもずっと、きみとお似合いだから、さ」

 最後に一つだけ、と。

 そんな風にそいつは前置きをしてから。


「好きでした。きみのことがずっと、ずっと」


 幼馴染みは最後に、そんな告白をした。

 ただ言いたかったから言っただけのような言葉。
 タイミングも最悪なら、時間も、そしてムードもへったくれもない。

 これまで俺たちが2人して作戦会議で考えてきたような、上手い言い回しも演出も何もない、失敗が前提の告白だった。

 それも当たり前だ。
 なにしろ、こいつには成功させる気が全くなかったんだから。

 だから、俺も。

 だから、俺もあっさりと…………。

「じゃあほら、帰ろうか。白蛇さんには」
「おい、待てよ。その告白、受けるぞ」

 断るわけねぇだろうが。

「…………へ?」
「受けるね、全力で受け取ったね。もう言質とったかんな、ぜってー忘れねえぞ」
「え、いや、だって」

 立ち上がりかけていたヤツの腕を掴み、その軽い身体を引きずり下ろす。
 勢いのままに抱き寄せる。
 背中の翼が所在なげにわさわさと動いていたが、それも上から腕で固めるようにして包み込む。

「まさかおまえが俺のこと好きだったなんて夢にも思わなかったけど、そしたら高校になってからちょいちょいおまえのこと見てドキッとかしてた俺がバカみてーじゃん! 言えよ、早くアルプになったって言えよ!」
「えっ、えっ」
「告白の仕方で相談してる相手がこんな奥手というか、引っ込み思案なヤツだとは思わなかったわ! ってか、オトヒメさんの連絡先とかの時のはアレか、女同士だから聞きやすかったとかそんな感じか!?」
「あ、う、うん。オトヒメさんは海系の魔物の引率みたいなところがあるから、アルプになった時もあの子に相談してたし……」

 ずい、と顔を寄せて問い詰めると、おっかなびっくりの様子のそいつはそんなネタバレをしてくれた。

 マジか。
 君ら最初から仲良かったんかい。

「ワーウルフ後輩の時は?」
「……2人で話した時に、『アルプの幼馴染みなんです』って言ったら、『ああ、なるほどぉ〜』って」
「うおぉい!! なんかそれ、完全に向こうお前のこと彼女だって誤解しただろ!」
「そ、そうでもしないときみ、付き合っちゃうじゃん! あの子とかオトヒメさんと!! そんなのやだもん!!」
「あ、開き直りやがった!」

 そうか、だから白蛇さんの時も後ろから付いて来たがったんだな?
 そうして影で暗躍(?)していたと。

「開き直りもするよ、もう! こっそり後をつけてみれば、屋上で白蛇さんとむちゅー、とかしてるしさ!? そのせいでぼくの部屋のきみの形に縫った人形、今はぼろぼろだよ!?」
「知らねえよ、なにそれ!! 人形!?」
「キモがられるかと思ってぼくが控えた『一緒のバイト先でイチャイチャ』だって、あの子は平気でやっちゃうしさ! きっとあの子、面倒見は良いけどヤンデレ気質って感じのタイプだよ! ヤバいよ!!」

 聞けば聞くだけボロが出てくるぞ、おい。
 俺の幼馴染み、こんなやつだったのか。

 というか、最後の言葉は超巨大なブーメランだろ。

「あああ、やっぱりヤダ! あの子にきみをあげるとか、そんなのヤダ!」
「分かった! 俺がどうにかする!」
「……ど、どうやって……?」
「謝る。ひたすら謝る。なんなら指だって詰める」

 どうやったら誠意を見せられるだろうか。白蛇さんへの言葉を今から考えなければ。
 しかし、それを聞いた幼馴染みはぶんぶん首を振って力強く抱きついてきた。

「だ、ダメだよそんな! 指とか! それならぼくのを切っちゃえば良いだろぉ!」
「おい泣くな! じゃあもうちょい平和なやり方を考えて白蛇さん向けの謝罪会見をするから!」
「わ、分かった! 作戦会議だね!!」
「そうだ! また2人でやるぞ!」

 そこまでしてようやく、ヤツはいつものように笑ってくれた。
 うん。やっぱりな。
 ずっとその顔が見たかったんだな、俺は。

 男女間の友情は微粒子レベルでも存在しない、というのはクラスメイトの騒がしいグループの女子から聞いた話だが、確かにそうかもしれない。
 男同士ならば、俺が白蛇さんと付き合ったりしてもこいつとの関係性は変わらなかっただろう。
 しかし、この幼馴染みはどうやら、バカが服を着て歩いてるようなこんな俺を好きになってしまったらしい。

 ならば、覚悟を決めるしかあるまい。

「おい、幼馴染みさんよ」

 抱きしめたまま、涙以下いろんな体液でちょっと見られないような状態になったヤツの顔をぬぐう。
 自分のシャツがびちゃっとなったが、まあそれは今さらの話だ。

 出しっぱなしの股間が非常に心細いが、それもまあ今は置いておこう。
 目の前のこいつも半裸だしな。

 そうしてちょっとマシになったへにゃ顔美少女のそいつに、鼻をすすりながら笑ってる幼馴染みに、俺は言うことにした。

 悩む時間もためらいも全く必要なかった。

「おい、聞いてくれ」
「えへへ、なあに?」
「俺、お前に告白することにした」
「お前って…………ぼくの、こと?」

 ヤツは少し困った顔で、そう答えた。

「おう、お前以外に誰がいるんだよ!」
「……あんまり、オススメしないよ?」

 ちくしょう、そこは賛成しろよ。
 こいつは自分自身の評価が低すぎる。少なくとも男女ともにモテるカテゴリにいることを自覚しやがれ。

「んなワケあるか。お前以上に一緒に過ごしてたやつなんて居ないし、これからも居ないんだよ。意味分からんぐらい美人だし、家事万能だし、若干ふにゃってるところもすげぇ可愛い」
「う、うん、そうなんだ。……そうなんだぁ」
「だからもっと近くに居てくれ。これまで通り、これまで以上にずっとそばに居てくれ」

 こんなもんだろう。

 結局、作戦なんて一つも役に立たなかったな。そもそも全部成功させる気なんて無かったというネタバレすらされている。

 そして最後のこの一回なんて、一番アホらしい。
 作戦すら無く、ただ頭に浮かんだことをそのまま口にしてるだけだ。

 でも、なんとなく俺たちらしい気がした。

 ヤツの笑顔に負けないように精一杯笑ってみせて、言う。


「好きだ。今日から幼馴染みじゃなくて、恋人兼幼馴染みになってくれないか?」


 告白の結果は、言うまでもない。





 ――幼馴染みが告白に成功する、たった一つの冴えたやり方 完――
















 ここからは余談だ。

 教室のあれやこれやを必死こいて片付けた俺たちを待っていたのは、ケータイのバイブレーションだった。


【『ヘビちゃん』さんから着信:150件】

【『ヘビちゃん』さんからメール受信:400件】


「ヒャアアアアアア!!」
「なに!? どうしたの!?」
「どうしたのって、本当にどうすんだコレ!!」
「えっ、ケータイ? ……………………ぅえ!?」

 糸目が見開かれるほどの衝撃だったらしい。
 まあ、至極当然の反応だった。

「どうする? 指か! いや、指で足りるか!?」
「ひ、ひとまず!! 今日はきみの家に帰ってさ、作戦会議とかを……」
「その家であの子が待機してるんだよぉぉ!」
「あ、そうだったっ…………ん?」

 今度はヤツのケータイが鳴った。
 もう既に嫌な予感しかしない。

「あ、はい、オトヒメさん? ああうん、教室の鍵はありがとうね、おかげで……え? あ、うん。そうなん……えっ!? はい、はい、どうもっ」
「………………なんて?」
「あ、あははは」

 くそ、なんでそんな半笑いな顔なんだ。
 何があってそんな一周回った感じになっちまったんだ。

「あの、ね」
「おう」
「オトヒメさんがさっき部活終わったんだけど、帰りがけにすごい早さで学校に行く白蛇さんとすれ違ったけど何かあったのか、って」
「………………そうか」

 GPSとかはまだあの子に登録されてなかったはずだ。
 そうなると……。

「なあ、魔物ってさ、人探しとかめっちゃ上手かったりする?」
「…………どうだろう。でも、シちゃったからかだと思うけど、きみの場所は把握できるようになった気がするよ。あと、魔物同士でもなんとなく分かる」
「そっかぁー」

 思い出せば白蛇さん、普段の学校の中で偶然すれ違うにしてはやたらと頻度が高かった気がする。

 そしてそこの恋人兼幼馴染みいわく、この近くに一体魔物娘が近づいてきているらしい。

 ケータイの『通話』をポチッとした。

 ガチャっと音がして、一瞬で繋がった。

『ねえ貴方は今ドコに居るんですかなんで私と会ってくれないのですか置いていってしまわれたのですかそんなことないですよねまさか私以外の他のメスと逢瀬をしてるなどということはありませんよね許せません私そんなの認められませんすぐ貴方のトコロに行きますからそこで待っていて下さいませ』
「………………はい」

 その夜、俺は無事に捕縛され。

 後日、無事に白蛇さんとも付き合う運びとなった。


 幼馴染みに加え後輩とも付き合うことになったその後の話は、敢えて今ここで語ることもないだろう。


17/04/20 00:11更新 / しっぽ屋
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■作者メッセージ

\(^o^)/


後編のあとで前編を読むことで、また色々と判ることがある……やも知れませぬ。

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