連載小説
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第六十話〜神戸シティ攻防戦〜

男であれば誰しも巨大ヒーローというものに憧れを持つことがあるだろう。
巨大な怪獣が暴れだすと颯爽と変身、登場し、怪獣を蹴散らして街を守る。テンプレだがそれ故に王道。子供の頃に何になりたいかと聞かれて『ウルト○マン』と答えた奴も少なくはない筈だ。……俺は小さい頃の事を覚えていないからなんとも言えないんだけどな。
じゃあ……巨大化して戦う手段がない場合、ヒーローはいかにして怪獣を打ち倒すのだろうか。ヒントという物は目に見えているが故に気づきにくい物だったりする。

〜エルファの実験室〜

本日の俺はエルファに呼ばれて彼女の実験室へ来ていた。
何でも以前作った精神世界没入陣(要するに俺の脳チップへ一般人が没入するためのもの)の改良版が出来た、という事らしい。
彼女にはなにかとお世話になっているし、そのぐらいの実験台ぐらいにはなってやろう、という事で赴いていたのだが……

「何故お主達まで付いて来るのじゃ……」
「完全にだれもいない所に二人きりなんてうらや……危険な事させる訳にはいくか」
「本音がだだ漏れじゃな」
「それに楽しそうだしな。私達も混ぜてもらうぞ。」

それにフィーやミストまでくっついてきてしまったのだ。二人共それなりに長身なのでエルファの小さめの研究室が割と窮屈な事になっている。

「しかしこんなに大勢が頭の中に入り込んで大丈夫なのか?」
『脳チップのコアシステムを傷つけない限りは理論上いくら人数が入った所で問題ありません。』

一応ラプラスからもお墨付きを貰ったから大丈夫とはいえ……密室とも言える中にこいつら三人と閉じ込められるのか。

「どうか気絶するような事態にはなりませんように……」
『無駄なあがきですね。』
「いや、もう祈るしかないじゃないか。」
「そろそろ始めるからの、皆魔方陣の所定の位置に座るのじゃ。」

俺が魔方陣の中心に置かれている椅子に座り、ミストやフィー、エルファがその円周あたりに置かれている椅子に座る。
エルファが術を唱え始めると陣に光が灯っていく。

『プログラム受信。演習モードを起動します。』
「え、ちょ」

唐突に何かが脳チップに送られてきて自動実行される。
普通はセキュリティに阻まれてこんな事は起こらないのだが……こんな事ができるのは知っている限りでは一人ぐらいしかいない。

「エスターーーーーー!」

呆れとも怒りともつかない感情で叫びながらも一度起動した没入プロセスは止めることができず、意識が情報の海へと飲まれていった……。

<DIVE>



受け取ったデータにより周囲の情景が構成されていく。
辺りは薄暗く、光源は窓から差し込む僅かな光しかない。
薄明かりの中目を凝らすと、周囲には弾薬箱やゴチャゴチャとした機械が積まれている。
床には埃が積もっていて掃除もせずに放置された年月は1年や2年じゃ済まされないことを物語っていた。
動く気配に目線を向けると見知ったシルエットが3つ。エルファ達だ。

「むぅ……何故兄様のでんのーせかいはこうも殺風景な場所ばかりなのかのぉ。」
「済まない、また割り込みがあって演習プログラムが起動したらしい。」
「演習……というのは軍事演習とかそういう類の物か?」

3人とも見慣れぬ景色にきょろきょろと辺りを見回している。
暗がりに目が慣れてくると、うっすらとだがどういう部屋なのかがわかってきた。

「ここは……ホテルか?しかも結構高級な……」
「ホテルを選ぶにしてももう少し情緒のある場所は選べなかったのか?」
「いや、俺が選んだわけじゃねぇし……」

とはいえあいつの仕組んだ事なのだから何かしらの戦闘行為は控えているだろう。
今はまだ始まっていない……という事は準備時間中なのだろうか。

「お、いたいた。お〜い、こっちだこっち!」

扉が壊れて外が丸見えになっている入り口に誰かがいて、外に向かって手招きをしている、
なんだか見たことがあるような……

「いよう、アルテア!元気にしてたか?」
「あ……あぁ、ラキか!久しぶりだなオイ!」

なんとそいつは以前戦闘シミュレーターで一緒に戦ったラキだった。
無論面識のない他の3人は面食らっている。

「・・・ここか」
「ようやく合流できましたね」

さらに廊下から二人ほど男が入ってくる。どちらも面識はない。

「彼らは?」
「あぁ、レックスやイーグルはともかくブレードはこの姿じゃ初めてだったよな。」

ラキが一歩引いて彼らの横に並ぶ。片方は金髪の男性。見るからに人間なのだが……勘と言うか感覚で人間ではないとわかる。ここいら辺は電脳空間のNPCと似ているかも知れない。
もう片方は日本人のような男。ペンのようなものをベルトにいくつか下げている寡黙そうな男だ。

「・・・連合軍実験強襲部隊<ドラグーン>所属、ブレード。階級は中尉だ」
「ん、ブレードってことは……こないだジェイソンになって俺らを追い掛け回したやつか?」

正体がわかった途端短く息を飲んでエルファが俺の陰に隠れた。まぁあれは俺も怖かったな。

「・・・心配するな。今はお前をどうこうするつもりは無い。」
「だそうだ。エルファ、大丈夫だから俺の陰から出てこいって。人見知りの子供じゃないんだから。」
「うぅ……そう簡単に忘れられる物なら忘れているのじゃ……」

あの出来事の後、1週間ぐらいは同じベッドで寝泊まりしていた物だ。
無論、『夜中に襲ったりしない』という制限付きではあるが。

「私とは初対面でしたね。私はレックス。エスタ様によって復元されたアンドロイドです。」
「あぁ、やっぱりか。」
「ん?レックスが人間じゃないって分かってたのか?」
「なんとなく、な。」

それにしても精巧にできているアンドロイドだ。見た感じは全く人間と見分けがつかない。

「で、俺がラキ。ブレードと同じく<ドラグーン>所属だ。よろしくな!」
「うむ、よろしく頼む。」
「兄様は意外と顔が広いのぉ……」

今度は長髪の黄色系の男。目付きが妙に鋭い……狙撃兵の類だろうか。

「同じく<ドラグーン>所属、イーグルだ。階級は少佐。以前プレゼントしたアーチェリーは気に入っていただけたかな?」
「あぁ……あれを送ってくれたのはあんただったのか。弓というのも中々いいな。っと……敬語は使ったほうが?」
「必要ない。規律は大事だが円滑なコミュニケーションが取れなくなるようでは本末転倒だからな。」
「そっか、よろしく。」

差し出された彼の手を握るとスナイパー特有のタコができていた。

「狙撃手を?」
「わかるか。とは言えお前も似たようなものか。」
「まぁね。機械の助け込みだから純粋なスナイパーとは言えないかもしれないけど。」

あまり専門的な事を言っても彼女たちはサッパリだろうからこのへんで切り上げる。
えらく個性的な連中が集まっているらしいな、ドラグーンというのは。



その後、エルファとミスト、フィーの紹介が終わり(ブレードには何故か同情の目で見られた)、事態の確認へと移る。

「で、今回は一体どういう事なんだ?」
「・・・今回は異形者の群れとの戦闘訓練だ。武器、補給物資などはこの部屋に集められている。」
「うへぇ……またあいつらか。まぁ小さいのが2,30体ならフィーもいるしなんとかなるかn「ところがどっこい、金冠サイズのリッパーも出てくるみたいだぜ。空からクアトルも襲ってきやがる」おい今すぐログアウトさせろマジふざけんな」
「どうどう、落ち着けアルテア。私もいるのだからなんとかなるだろう。」

応答するはずもないログアウトプロセスを何度も呼び出して離脱を試みる。
あぁ、わかってるさ。エスタが俺を逃がすつもりなんて無いことは百も承知だ。あんにゃろ、リアルで会ったら尻を百叩きしてやる。

「とにかくまずは行動を起こしましょう。早急に準備をしなければ襲撃に間に合いません。」
『ですね。まずは補給物資の確認から入りましょうか。』

機械組二人が音頭を取り、武器弾薬類の確認に入る。
自分としても……たとえ死なないとしても痛い目を見るのはゴメンだ。ドラグーンの連中と手分けして補給物資の解体に当たる。

………………
…………
……

「っと、こんなもんかな。」
「結構潤沢だな。これだけあればそこそこいい所まで行けるんじゃねぇか?」
「・・・油断するな。今回G.A.Wは使えない・・・戦い方を工夫しなければ押し負けるぞ・・・。」

武器の内訳は大体こんな感じだ。

セントリーガン 10基
赤外線感応式クレイモア 50個
C4爆弾 10個
バレットM82 1丁
レーザー照準器
それに小型通信機が人数分
その他には……

「おい、これ見てみろよ。」

浮いている補給物資のリストに目を通しながら興奮したようにラキが言う。

「外には対空機関砲とミニガンまであるみたいだ。各階のテラスには昇降機もあるからいちいち階段を登ったり降りたりしなくて済むってよ!」
「あぁ、そいつぁ有難いな。できればこれに航空支援も付けてくれりゃ言う事無いんだがな。」
「そちらも問題無さそうです。」

別のウィンドウを見ながらレックスが感心したように頷いている。
どうやら使えそうなものが見つかったらしい。

「10階の部屋の中にAC-130の砲撃コンソールがあるようです。仕様の兼ね合いからアルテア様しか動かせないので貴方はここからの支援砲撃を主として動いてもらうことになりそうです。」
「りょーかい。近接戦闘組はどうする?まさか襲撃時の群れの中に飛び込む訳にもいかないだろうし。」

ブレードとフィー、ミストは既に準備体操を始めている。そもそもここは電脳空間なのだから準備運動など必要無いのだが言うべきだろうか。

「我々は下層で侵入してきた異形者の迎撃に当たろう。背中は任せてくれ。」
「あぁ、期待してる。」

「あ、お待ちください。」

昇降機で下の方へ降りようとしている3人にレックスが弾薬箱を手渡す。中身は……あぁ、クレイモアか。

「入り口付近に設置してきて下さい。多少なりとも足止めにはなるでしょうから。」
「・・・了解。」
「これは……どう使うのだ?」
「・・・うかつに触れるな。爆発するぞ・・・」

フィーがぎょっとして箱を取り落としそうになったのを慌てて支えてやる。危ない危ない……

「気を付けてくれよ?一応危険物なんだからさ。」
「す、済まない……お前達の世界の戦いというのは危険なものなのだな……」
「俺から言わせてみりゃ魔法のほうがもっとえげつないと思うがね……」

「兄様、わしは何をすればいいのじゃ?」
「エルファか……」

そう言えば魔法は使えるのだろうか。使えるのであれば戦力に加えてもいいんだが……

「使える魔法はあるか?」
「先ほどから色々試してはいるのじゃが……照明魔法すら使えないのじゃ。つまるところ身体強化も使えないというわけじゃが……」
「マスコット決定。」
「!?」

魔法が使えないバフォメットはただの幼女です。

「お〜い、アルテア!タレット設置するの手伝ってくれ!」
「あぁ、今行く。」
「マスコット……マスコットォ……!」

血涙を流しながら悔しがっているエルファを場に残し、ラキやレックスと共に抱えられるだけセントリーガンを抱えて外へ設置しに行く。
襲撃まであと1時間……それまでに可能な限り準備をしないとな。



「悔しいか?」
「イーグル……じゃったかの。こんなちんちくりんなマスコットに何か用かの……?」

部屋に残されたのはイーグルとエルファ。彼はバレットの整備に余念がない。
とは言え電脳空間で整備というのも変な話ではあるが。

「人は何故銃を創り上げたと思う?」
「銃……兄様が使っているような武器かの?」
「あぁ、そうだ。遠く離れた敵を倒すための武器……そんな物を創り上げる必要があった理由は何だと思う?」
「むぅ……わしは人間じゃないからのぉ。離れた所にいる相手を倒すだけであれば弓で十分じゃろう?」

取り付けられたスコープを調整しながらイーグルは会話を続ける。

「そうだろうな。しかし弓というものはあれでいて引く力が多量に必要なのだ。誰でも扱えるような代物ではない。そこで、銃だ。」

窓の外に見えるタワーに向けて照準を定め、倍率の確認を行う。無人になってしまった展望台がくっきりと見えた。

「こいつは……持ち運びをするだけの力があれば誰でも扱える。構えて、狙って、引き金を引くだけだ。下手をすれば女子供でも扱える。」

今度は地面に落ちていた空き缶に狙いを定めるイーグル。
予め耳に付けておいた相互通信用の装置で発砲テストを告げると、引き金を引いて狙い撃つ。
すると、大口径の弾に貫かれた空き缶は下の石畳ごと木っ端微塵に砕け散った。

「銃というのは……脆弱な人類がそれでも強くなろうとあがいた結果出来た物だ。」
「……何が言いたいのじゃ、お主は。」

重々しい金属音を立ててイーグルが重狙撃銃をエルファへと差し出す。

「たかが魔法が使えないぐらいが何だ。人間はいつもそうやって戦ってきたのだから。」
「本当に……逞しいのぉ、おぬしら人間は。」

殆ど銃に抱きつくようにしてそれを受け取るエルファ。彼女は、アルテアを通じて戦う力の大半を失ったからといって諦めるような性格ではなくなっていた。



「でさぁ。」
「ん〜?」

ラキと一緒にタレットの設置をしていると、何気なしに彼が話を切り出してきた。
そう言えばこいつとはゆっくり話したことが無かったな。

「あの3人の中の誰が本命なのよ。」
「ぶふぅ!?」

あまりにも唐突過ぎる質問に思わず吹く。まさか彼からこういった質問を受けるとは思わなんだ。

「何なんだよいきなり……」
「いや、どうもあの三人ともお前に気があるっぽいしさ。となるとやっぱり気になるじゃん?」

まぁ……完全に当たりな訳だが。逆に俺はあの3人の事をどう思っているのだろうか。
いや、元から返答なんて決まっているか。

「仕事仲間だよ、あいつらは。確かに言い寄られてはいるけれどあまり深入りはしないようにしている。」
「ふ〜ん……。何だかブレードみたいだな、あんた。」
「へぇ……あのムッツリ君がねぇ。」
「そうそう、サラマンダーとアマゾネスとデュラハンに言い寄られているんだ。内二人からは既に夫認定受けてるしな。」
「まぁ3人程度ならまだマシだろ。」
「……おい待て。その言い方だと3人以上から言い寄られているように聞こえるぞ。」
「……さぁ、さっさと設置しちまおう。タレットはまだまだあるんだからな。」
「おい!?お前一体何人から言い寄られてんだよ!?」
「こちらは設置が完了しました」
「よし、もう一つ下の階にも設置しとくか」
「無視すんなコラー!」

しらーんしらーん。



一方こちらは地上階近くのフロア。
ブレードがクレイモアを入り口に設置し、他の侵入経路はフィーとミストが机やロッカーなどを使ってバリケードを張った。
後は侵入してきた異形者を迎撃するだけだ。

「裏口は固めてきたぞ。」
「・・・了解。作戦開始時刻まで待機だ。」

戻ってきたミストへブレードが待機指示を出す。対異形者戦はブレードの方が慣れているため、この場はブレードが仕切るという事で落ち着いた。

「結局……異形者とは何なのだ?こちらではマガイモノとして認識はされているが……」
「・・・それが分かるのであれば苦労はしない。今出来る事は一つだけだ。」
「斬って捨てることだけ、か。実にシンプルで分かりやすいではないか。なぁ、フェルシア。」
「そんな事だから私達は脳筋などと呼ばれるのだがな……。」

呆れながらも剣を鞘から抜き放ち、臨戦態勢を整えるフェルシア。
戦闘の時は近い。



ある程度の準備が終わり、それぞれが配置に付く。
俺は10階でミニガンによる面制圧とAC-130の砲撃操作だ。

『アルテア様、レーザー照準器でターゲットを指定していただければプラズマキャノンの支援砲撃が可能です。連発しすぎると冷却時間が必要になりますのでご注意を。』
「了解。有効活用させてもらおう。」

鵺にはテーピングを使ってレーザー照準器が固定されている。こいつを使うとレックスが信号を拾い、プラズマキャノンを撃ってくれるという寸法だ。

『対空機関砲スタンバイOK!いつでも行けるぜ!』
「頼んだ。空は任せたぜ。」
『了解!』

対空機関砲にはレックスとラキが付いている。レックスには対空火砲と対地砲撃を同時にこなして貰うことになるが……相手の数が数だ。やってもらわねばなるまい。

『こちら屋上。狙撃体勢は整っている。』
「了解。っと……そういえばエルファが見当たらないんだが知らないか?」
『わしも屋上なのじゃ!』
「うえぇ!?おま、何してんだ!?」

心なしか得意げな声が通信機を通して聞こえてくる。あいつには安全な場所で待機と言ってあった筈なのだが……。

『イーグルは自前の狙撃銃があるらしいのでの。わしはこっちのゴツいのを使わせてもらう事になったのじゃ。』
「なったって……扱えんのか?」
『問題ない。俺が教えた。』
「大丈夫……なのか?」
『実用の範囲内だ。狙って撃つぐらいはできるだろう。幸い的の数には事欠かないだろうからな。』

相手の数が数だけに銃を扱える奴が増えるのは歓迎なのだが……
浮かんでくるのはジェイソンに涙目になりながら追いかけられるエルファの姿。

「頼むから危なくなったら逃げてくれよ。電脳世界とはいえ痛いものは痛いんだ。」
『何の心配をしておるかはわからんが、問題ないのじゃ。』
その自信がどこから来るのか問いたいが……イーグルが一緒であるならば問題ないだろう。

『・・・こちらブレード。いつでも行ける。』
「行くっつっても侵入してくる異形者の排除だけどな。フィーとミストも頼んだぜ。」
『任せろ。一匹も通すつもりはない。』
『フェルシア、賭けをしないか?倒した数が多い方が次の休息日にアルテアをデートに誘うということで。』
『ほう……ならば負ける訳には行かないな。ブレード殿、あまり邪魔にならないようにしていただこう。』
『・・・』
『ほ、ほらブレード、落ち着いて落ち着いて!』
『・・・別にどうとも思ってはいない。目の前に来た敵は斬り伏せるのみだ・・・』
「平和だなぁ、お前ら。」
『マスター、争点になっているのは貴方なのですから他人事のように振舞わないで下さい。』
「たまには対岸の火事でいさせろ。羨ましがられるかもしれないが疲れるんだよこれ」

全く、賑やかな事だ。これから戦争もどきが始まるというのに緊張感が欠片もない。

「(ま、ガチガチに固まるよりは遥かにマシか。)」

そして、今まで規則的に寄せて返すだけだった海面が細かく泡立ち、異形者がその姿を表していく。
さらに、遠くの空から飛来してくる無数の点。あれは……クアトルとかいう飛行型の異形者だったか。

『来たぞ。2時方向に団体さんだ。』
「目視した。そんじゃ、攻撃開始と行きますか!」
『Open fire』

俺の合図と共にそこかしこのタレットやラキ達の対空火砲が火を吹き始める。
さらに俺もミニガンをばら撒いて牽制と制圧を同時に行う。
バリバリと連続した音が鳴り響き、発射時の細かいリコイルが腕を震わせる。
空薬莢が落ちて甲高い金属音が鳴り響き、硝煙の匂いが鼻腔を擽る。

「まったく……戦場は地獄だぜぇ!フゥハハハーハァー!」
『貴方はどこぞのドアガンナーですか。』



一方こちらは屋上。エルファはM82を、イーグルはC.Rと呼ばれるレーザーライフルで迫り来る敵を狙撃していた。

「むぅ……思ったように当たらんのぉ」
「素人の付け焼刃ではその程度だ。流れ弾で相手の動きが鈍れば儲けのものだろう。」

エルファが撃った弾はさほど正確には命中しない。しかし運良く異形者の足や腕に命中すれば吹き飛ばせる程度の威力はあるため、動きが鈍った敵をイーグルが追撃で撃ち倒すという方法を取っていた。
無論、エルファが1体掠らせる前に5体は倒している辺りに腕の差は明確に出てはいるのだが。

「こうして見ると……っ!本当に人間と言う物は器用じゃ……のっ!」
「狙撃時に喋ると照準がズレる。あまり喋らないほうがいい。」

悪戦苦闘して狙いをつけるエルファの横で淡々と敵を打ち倒していくイーグル。
この奇妙な師弟関係は戦闘が終わるまで続くのだが……それはまた別の話。



「だ〜畜生!数が多すぎるぞ!」

所変わってこちらはラキ&レックス。空から迫り来るクアトルを迎撃しているのだが、何しろ数が数だ。いくら倒しても倒してもキリがない。

「今は殲滅に集中しましょう。少なくとも出現最大数は定められている筈ですから。」

レックスは機関砲を発射しつつ、時折届くレーザー照準器による指示に向けてリッパーの群れをプラズマキャノンで吹き飛ばしている。
冷や汗こそ流れないものの、彼の表情には明確に焦りが見て取れた。

「全く、こんだけの数をG.A.W無しで乗り切れってか!?狂ってやがる!」
「それでもまだ状況は逼迫していないかと。何しろ……」

下の階から小型の太陽のような光の塊が打ち出され、空高く打ち上がると無数の光弾に分裂して地上へと降り注ぐ。アルテアのE-Weapon、クラスターランチャーだ。

「火力だけで見るのであれば彼はG.A.Wにも匹敵しますから。正直言うとあれは個人レベルで運用できる代物ではありません。」
「向こうも化物ならこっちにも化物ってか!いつも以上に狂ってやがる!」

狂気と狂気がぶつかり合う戦場で、彼らは敵を撃ち倒し続ける。それこそ、戦いが終わるまで。



『AC-130の旋回行動が完了しました。支援砲撃使用可能。』
「了解!さ〜て……ボーナスゲームだ!」

一旦バルコニーから離れ、部屋の中のコンソールの前に移動する。
タッチパネル式のモニターには地上を見下ろすような視点に四角いレティクルが表示されている。

「まずは……105mmをぶち込んどくか。」

左上のメニューでM102 105mm榴弾砲を選択。
固まって移動している所へ照準を合わせる。

「ラピュタの雷槌じゃないが……あたりゃあいてぇぞ!」

射撃アイコンに触れると数秒のタイムラグのちに外から耳をつんざく程の爆音が聞こえてくる。
四方八方に吹き飛ばされた異形者が散り散りになって逃げ惑い始める。

「追加だ。こいつももってけ……!」

兵装選択をL60 40mm機関砲へ変更。先ほどの単発とは別に断続的に砲弾が吐き出され、散らばった異形者に追い打ちをかける。
着弾するたびに雷か何かが落ちるような音が外から鳴り響いてくる。

『兄様!空からの攻撃がうるさいのじゃ!』
「しょうがねぇだろ!こういう兵器なんだから!」

一番外に近いエルファから文句を言われるも、止める訳にはいかない。何しろ航空支援は戦術の要だ。

「まだまだ残っている……ならこいつで!」

兵装をM61 20mmバルカン砲に変更しようとしたその時、画面が砂嵐に包まれて通信が途絶する。一体何が……

『おい、アルテア!ACが落とされたぞ!』
「はいぃ!?」

慌ててバルコニーへ駆け戻り、空を見上げると、そこには空高くから墜落してくるAC-130の姿が。周囲にはクアトルがまとわりつき、翼の爪で装甲を引き剥がしているのが見て取れた。

「嘘だろおい!?」

墜落したAC-130は多量のリッパーを巻き込んで爆発したものの、奴らはまだまだ山ほど残っている。この量を航空支援無しで片付けなきゃならない。

「ちっくしょ……ラプラス!ミニガンじゃ追いつかん!ミハエルブラスターだ!」
『了解。E-Weapon<ミハエルブラスター>展開。』

ビーム狙撃砲をバルコニーの手すりに固定し、やたらめったらに撃って迫り来るリッパー共を蹴散らしていく。
しかし、数が多すぎるために20体ほど建物への侵入を許してしまった。

「ブレード、フィー、ミスト!そっち行ったぞ!」
『・・・了解。迎撃する』
『丁度退屈していた所だ。任せろ。』



入り口に仕掛けてあったクレイモアが功を奏し、リッパーがホテル内に入ってきた頃には既に満身創痍。苦もなくブレードとフェルシア達は異形者を撃退していく。

「ミスト、そっちはいくつだ!」
「これで3体だな。」
「こっちは5体だ。この勝負は貰ったぞ!」
「まだまだぁ!こいつらで……5体!」

大剣をなぎ払い、2体同時に切り飛ばすミスト。負けじとフィーも追加で打ち倒していく。



しかし、ブレードがこの時点で10数体は打ち倒しているのを彼女達は知らなかった。



「・・・くだらん」

最後の力を振り絞り、その手の刃を振り下ろそうとするリッパーを両断するブレード。
彼にとってこの程度は造作も無い事らしい。



「これで……少しは減ってきたか?」
『敵残存数10%。間もなく殲滅完了です。』

残った敵をミハエルブラスターで根こそぎ殲滅していく。
残りは後わずか……空を覆わんばかりだったクアトルもその数を大分減らしていた。

「これで……ラストだ!」

数分の後に最後の1体を蒸発させる。
周囲には戦闘前の静けさが戻ってきた。

「やれやれ……ようやく落ち着ける……」
『アルテア、油断するな!あのエスタがこの程度で終わらせるわけがないだろ!』
『どうやらそのようだ。3時方向の海中から巨大な影が接近中……手持ちの火器では撃退できそうもないな。撤退する。』
『やっぱり来やがったか……!』

確かに3時方向の海中に何か巨大な影が見える。そいつは徐々にだがこちらへと近づいている。
そして、その影が姿を……

「うげ……何だよあれ。」
『リッパーキング!さっき言った金冠サイズだ!逃げるぞ!』

海を割って現れたのは巨大な異形。リッパーをそのまま大きくし、刃状の腕を4本に増やしたような形だ。
体長は15……いや、20はあるか?ゆっくりと海面から陸へ上がり、ホテルを目指して進んできている。

「撃ってみるか……?」
『やめたほうが良いでしょうね。一撃で消し飛ばすことができなければ気づかれて逆に潰されます。』

とはいえいつまでも逃げまわる訳にはいくまい。
何か使えそうな武器は……

「(ACは落とされた……E-Weaponじゃ一撃で倒しきる自信がない。どうする……?)」

一度部屋の中に戻り、目に飛び込んできたのは一つの弾薬箱。中身にはC4がぎっしりと入っている。

「こいつじゃぁ……ふっ飛ばしきれないよな。」
『無理でしょう。建物の柱を吹き飛ばすのがせいぜいかと。』

上の階からラキ達が降りてきた。エルファはイーグルに小脇に抱えられている。

「おいアルテア!さっさとずらかるぞ!あいつ、ここをまるごとぶっ壊す気だ!」
「待て、ちょっと待て……もう少しで何かが浮かんできそうなんだ……」

手元で使えそうな兵器は鵺かこのC4のみ。どちらもあれを倒すには若干威力が不足している。

『ラキー!聞こえるー!?』
『応答してー!ラキー!』
「あん……?この声……双子か!?」

どこかからスピーカーか何かのような響きで声が二人分聞こえてくる。
恐らくはラキの仲間か何かだろう。

『でっかいモンスターはスタンさせて動きを止めればいいと思うよ!』
『ハンマー使ってー!』
「そんなでっかいハンマーあるか馬鹿!もっと現実的な助言をよこせ!」
「ハンマー……ハンマーか……」
「お前も何真面目に考えてるんだよ!」

あのでっかい怪物だって生き物だ。中枢神経に大きな衝撃を与えれば動きを封じるぐらいは出来る筈。問題は、その衝撃の与え方だ。

「…………!」



そして、見つけた。リッパーキングへ打ち下ろせる程の巨大なハンマーを。



「ラキ、こいつをバルコニーまで運ぶのを手伝え!」
「手伝えって……C4か?いくら何でもこれじゃあ……」
「いいから!あまり時間がない!」

二人で片方ずつを持ち上げ、バルコニーまで運びこむ。
さらにシュミクラムへの移行プロセスを起動させた。

<SHIFT>

「のぉ!?兄様がでっかいゴーレムに!?」
『お前は一度見てるだろうが!いいから乗れ!急ぐぞ!』

この場にいる全員を片手の上に乗せ、もう片方の手でC4入りの弾薬箱を掴みとる。
さらにバーニアを噴かせてホテルを離脱する。
遥か下の方には建物内から脱出するブレード達の姿も見えた。
さて……吉と出るか凶と出るか……。

ホテル前の広い駐車場へと着陸する。
手の上に乗せていたエルファ達を下ろす。

『あ、ラキはちょっと待ってくれ。手伝って欲しい事がある。』
「この場を切り抜ける秘策でも思いついたのか?」
『そんな所だ。他の連中はあいつの気を引きつけておいてくれ。多少時間がかかる。』

ラキを手の上に乗せて再び立ち上がり、とある場所を目指す。
目の前に高くそびえる……そう、神戸タワーだ。



「さて……どうやって足止めをする?」
「悔しいのぉ……せめて魔法が使えればいくらでもお見舞いしてやれるというのに。」

この電脳世界ではファンタジー一般に出てくる魔法という概念は使えない。
電子体はリアルの体とほぼ同じ強度、練度を持っているため、フィーやミストの身体能力はそのまま使える。
さらにドラグーン所属の者は異形者との戦いにも慣れていた。しかし、エルファだけ何もない。

「・・・下がっていろ。足手まといだ」
「ブレード殿。いくら何でもその言い方は……」

掴みかかろうとしたフィーの手をミストが押さえる。彼女は無言で首を振った。

「何、わかっているんじゃよ。この世界ではわしは無力のままじゃと。なら皆の邪魔にならない所で無事を祈らせてもらうわい。」
「エルファ……」

少し残念そうに顔を歪めつつも、彼女はその場を離れて物陰に隠れた。

「どうやら奴さんがこちらに気づいたようだ。ラキ達の秘策とやらが何かは気になるが……今はそれの時間稼ぎに集中させてもらおう。」
「心得た。何、時間稼ぎならアルテアと行動している時に慣れているからな。精々上手くやらせてもらおう。」
「・・・来るぞ」


<BUOOOOOOOAAAAAAAAAAA!>


リッパーキングが大ぶりに片腕二本を振り上げ、彼らめがけて振り下ろす。
フィー以外の者は大きく距離を開けて回避し、彼女は……

「ふん……この程度なら目を瞑っても避けられる。」

わずかに後ろに引いて衝撃範囲から逃れ、振り下ろされた爪を駆け登っていく。
そして腕の付け根まで駆け上がると、その場で身を捻りながら跳躍。勢いをつけて刃の付け根あたりへ向けて手にしたショートソードを振り下ろす。



一閃



両断こそ出来なかったものの、爪の付け根が大きく切り裂かれる。
さらに追撃でミストが爪へと駆け寄る。

「こいつは……おまけだ!」

地面に突き刺さり、未だに抜けなくなっている爪に渾身の力で拳を打ち付ける。
すると強烈な衝撃によって爪が根本からメリメリという音を立てながら引きちぎれた。
最近の彼女は騎士であるにも関わらずあまり剣を使わない。

「デュラハンとはあそこまで強力な魔物だったか?」
「・・・知るか」

爪を折られて不利を悟ったのか、次は口から次々とリッパーを吐き出し始めるリッパーキング。

「質の次は数か。芸の無い事だ。」

イーグルがその場でC.Rを構え、生まれ落ちたリッパーを次々撃ち抜いていく。

「済まないな、ブレード。出番は来そうもないぞ。」
「・・・構わない。安定して任務を遂行できるのであればそれでいい。」

この二人は平常運行である。
彼らは徐々にだがキングリッパーを追い詰めていく。
しかし、本体の生命力自体が非常に高いため、決定打には欠けるようだ。

「私がいるのを忘れて貰っては困りますね。」

フィーとミストの迎撃に手一杯になっている所へレックスが散発的にプラズマキャノンを発射する。
硬い外殻の上からでは大したダメージを与えられないが、気をそらす分には十分過ぎる能力を発揮しているようだ。

イーグルに接近しようとするとフィーとミストが足止めをし、数で圧倒しようとリッパーを生み出せば即座にイーグルが生まれ落ちたリッパーを撃ち倒す。
無理矢理に押しこもうとすればレックスによる手痛いプラズマキャノンの一撃が待っている。
さらに、地面のアスファルトが大きくめくれてイーグルの方へと飛んできたが、それはブレードが一刀両断にして防いでいた。

『(準備が完了した!神戸タワーの方へそいつを誘導してくれ!)』

そして、戦いはクライマックスを迎える。



少し時を巻き戻し、こちらはアルテアとラキ。
神戸タワーの下に着いたアルテアはラキと弾薬箱を下ろし、兵装の呼び出しを行う。

『ラキ、C4の設置準備をしてくれ。俺は下ごしらえをする。』
「一体こいつでどうしようってんだ?建物の爆破解体でもしようってのか?」
『概ねそんな所だ。』

兵装リストからガトリング砲を選択。タワーの根元へ砲身を向け、発射準備を整える。

『いっくぜぇぇぇえええ!』

砲筒が高速で回転を始め、無数の鉛玉が基部に直撃していく。
弾丸の大きさはそれこそ機動兵器サイズ……1発が先ほどの対空火砲ほどもある。
それを連続で打ち込まれてはいかに日本の設計技術で作られていようが紙くず同然だ。
あっという間にタワーを支える支柱はボロボロになっていく。

『よし、C4を仕掛けるぞ。』

シュミクラムを除装し、ラキと一緒にタワーの基部へと爆薬を仕掛けていく。

「なぁ、アルテア。一体こいつを壊してどうしようっていうんだ?」
「……お前は本当に気づいてないのか?」
「何を……あ”!」

彼の方を向き、ニヤリと笑ってやる。



─このタワー、メイスみたいな形をしてるだろ?─



「よし、設置完了だ!ラキ、爆破タイミングは任せた。」
「俺か!?何で!?」
「俺は囮になってこっちへ逃げてくる奴を回収しなきゃならん。今現在素の速度で最高速を叩き出せるのは俺のシュミクラムだけだ。」
「……あぁ、もう!分かったよ!スイッチ寄越せ!」

ラキの方へと放物線を描いて起爆スイッチを放ってやる。
さらに再びシュミクラムへの移行プロセスを起動。体全体が電磁パルスに覆われ、鋼鉄の体へと置き換えられていく。

『準備が完了した!神戸タワーの方へそいつを誘導してくれ!』

俺の合図と共にラキは安全な場所へと走っていく。
囮を担うのは……フィーか。たしかにスタミナ的にも速度的にも適任だろう。

『気をつけて下さい。回収しそこねるとフェルシア様もタワーの下敷きです。』
『わかってる!行くぞ!』

タイムラグと走行軌道を計算し、ブースターに火を入れる。
爆発的な加速力と共に足元のローラーが地を掻いて走りだした。

『っくそ……バランスが!』
『堪えてください。こちらでも何とか制御してみます。』

身を屈めて手のひらを地面すれすれへと持っていき、そのままの姿勢で地を滑っていく。

『フィー!乗れぇ!』
「全く……お前はいつも無茶を言う!」

全速力で追いかけてくるリッパーキングを背に彼女はこちらへと走りこんでくる。
そしてすれ違いざまにフィーを……回収!

『ラキ、今だ!やれぇ!』
『了解!潰れろゴキ野郎!』

そのままの体勢でその場を離脱する。
背後からは閃光とともに巨大な爆発音。さらに衝撃波が背中の装甲を叩く。
何かに気づいたのかリッパーキングが土煙を上げながら停止するが、もう遅い。

『地上108メートル分の運動エネルギー付き巨大メイスだ。ぶっ潰れな。』

─ズゥゥゥゥウウウウン……─

倒壊した神戸タワーが轟音と共に崩れ落ち、巨大な土煙を上げる。
その下にはリッパーキング。下敷きになった瞬間、破裂するように大量の体液を確認した。
あの状態では……まず助からないだろう。

『ミッションコンプリートだ。集合するぞ。』
「ゲホッゲホッ……全く……建物を倒壊させて武器にするなんて聞いたこともないぞ。」

呆れているのか感心しているのか、俺の手の中で咳き込みながら崩れたタワーの残骸を眺めるフェルシア。
俺自身こんな手を使うとは最初は思わなかったものだ。

『あの双子って奴らには感謝しなきゃな。あいつらのアドバイスがなければ思い浮かばなかった。』

立ち上がって集合地点まで脚部のローラーを使って戻る。
特に急ぐわけではないのでブースターは使わないが、それでも乗用車の徐行程度の速度は出ている。手の上のフィーのポニーテールが風になびいて揺れていた。

「できれば危険な囮役を買って出た私にも感謝してもらいたいのだがな。」
『あぁ、もちろん。礼は何がいい?』
「れ、礼か。そ、そうだな……ぁ〜……え〜と……」

何か真剣に考え込んでいるようだ。ここは紳士的に助け舟でも出してやるか。

「美味いレストランを知ってるんだ。そこで飯でも食いに行こう。」
「あ、あぁ、そうだな。それはいい。」

多少ぎこちなさは残るものの、概ね了承してくれた。さて、今から夕食が楽しみだ。

『マスターは時折わざとではないかと思えるほど鈍感ですね。』
『なにおぅ?』
「(その意見には概ね同意だ……)」



「よし、皆おつかれさん。割とヒヤヒヤした所は多かったけど大体上手く行ったな。」

シュミクラムを除装し、元の電子体へと戻る。やはり此方のほうが動かしやすい。

「今日は改めて魔物達のスペックの高さを再確認したぜ……」
「有意義な訓練だった。協力を感謝する。」
「・・・及第点だな。実戦で上手くいくかはわからないがこの程度であれば十分だろう。」
「すみません、アルテア様。いつもドクターの実験に付き合っていただいて。」

ドラグーンの連中はあれだけ激しい戦闘の後にもかかわらず涼しい顔をしていた。流石に異形者との戦いを数多くこなしてきただけはある。
それに比べてこちらは……

「疲れたのじゃぁ……」
「余裕には余裕だったが……如何せん気疲れするな。」
「実際の体ではないからか……?いつもより動きがぎこちない気がする。」

先ほどまで活発に動いていたとは考えられないぐらい疲弊していた。
どちらかと言うと肉体的なものより精神的な物のようだが。

「バーチャルとはいえお前らは本気の命のやり取りをあまり経験していないからだろうな。魔物が強すぎるが故のデメリット……といった所か。」

人間は肉食動物に捕食されるという恐怖を忘れている。
それは彼女達が戦いによって命を失うかもしれないという恐怖を忘れる事に似ているのかも知れない。

「・・・忘れるな。人も魔物も死ぬ。万が一にも自身より強大な力を持った相手がお前達の命を狙った時、恐怖で動けなくなっては無駄に命を落とす。」

ブレードが神妙な面持ちで語る……というよりは会ってからずっとこんな感じの顔だった気もするが。

「・・・恐怖を忘れてはならないが、恐怖には縛られるな。厄介なものだが、上手く引き出せば生き残る力にもなる。」
「そうだな……肝に命じておこう。」

彼女達も色々と得るものがあった所で、今回の訓練はお開きとなった。

「あ、ラキ。ちょっと待て。」
「ん、何だ?」

俺はラキに近寄って肩をはたいてやる。
向こうもその行動で大体合点がいったようだ。

「ゴミが付いてた。」
「お、サンキューな!そんじゃ、俺らはもどるわ。」
「おぅ。またな!」
「あぁ!どこかで会ったらよろしくな!」

ラキ達の姿が光の文字の束になって消えて行く。ログアウトが完了し、そこには誰もいなくなった。

「のぉ、兄様?電脳世界ではそういった体についたゴミまで再現される物なのかの?」
「いんや、基本的にはそういう物は再現されないな。誰も関心を持たないものはここでは再現されない。」
「……では何をしたのじゃ?」

俺はニヤリと口元をゆがめる。
毎回俺の頭の中を模擬戦の部隊とするエスタへのちょっと意趣返しといった所だ。

「ちょろっと、ウィルスをな。」



「ドクター、只今戻りました。」
「ん、お疲れさん。早速だけど戦闘データの出力をお願いしてもいいかな?」

こちらは戦艦クリプト。ドラグーンの母艦だ。
ラキ達がアルテアとの訓練を終えて次々と戻ってきている。

「あ〜……長い間同じ姿勢だったから肩凝ったぜ。」
「ラキー、おかえりー!」
「おかえりー!」
「おう、ただいま。アルテアがお前らにアドバイスありがとうだってさ。」

「たまにはこういった訓練も良いものだな。ドクター、こちらでもバーチャルトレーニングを使った機材を作ってみないか?」
「ん〜……それはいいんだけど結局はイメージトレーニング以上の効果は得られないだろうね。ブレードあたりは身につかないって文句を言いそうだし。」

電脳世界からの帰還で沸くコンソールルーム。しかし、数十秒後にはエスタの血を凍らせるような出来事が待っているという事は誰も知らない。


─ブブ……ブゥン……─


「あれ……モニターが真っ白になっちゃった。」
「故障……でしょうか。」

しかし、機材そのものには何ら影響を及ぼしていない。
立ち上げてあるタスクが応答しないということも無かった。

「兄上ー!遊びに来たのじゃー!」
「うわっと……レシィか……。悪いけどこれから戦闘データの整理を……」

─ブゥン……─

タイミングよく真っ白だったモニターに無数の文字が表示される。そこに書かれていたのは……

『レシィ!レシィ!レシィ!レシィぃぃいいいわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!レシィレシィレシィぃいいぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!たんの亜麻色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
レシィたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはレシィちゃんがいる!!やったよ!!レシィちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
僕の想いよレシィへ届け!!アイビスのレシィへ届け! Byエスタ』

無数の……それも強烈に気持ち悪いかの有名なコピペの改造バージョンであった。

「な……ぁ……」
「ふむ……なんて書いてあるのじゃ?」

書いてあるテキストは全て日本語……当然ながらレシィには読めないが……

「エスタからのメッセージだな。読んでやろうか?」
「ふむ、頼もうかの。」
「ちょ、ラキ!待って!待ってよ!」



一字一句違わず大げさな身振り手振りを交えながらそのテキストを音読するラキと、悲痛な声で部屋の中を逃げ惑うエスタと、彼を追い掛け回すレシィとでコンソールルーム内は十数分間混沌としたとさ。

12/03/09 20:33更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
結構難産でした。なにせ同時に動かすキャラが過去最多……書いていて頭がこんがらが(ry
タワーを武器にするのはグーグルアースであの形状を見た時から浮かんでいました。どうみても鈍器です本当にありがとうございました。

>>マイクロミーさん
彼の場合どちらかと言うと食欲の方が強め。貧相な食生活の反動ですね。
アルターに心が生まれればいいなぁ……と思うけど難しそうだ。

>>名無しさん
本当に何故ロリばかり増えていくのか理解に苦しむ……省スペースだから?
彼の変化は何もなかった所から突如何かが芽吹いた、という所。これがどう転ぶかは先のお楽しみ。

>>流れの双剣士さん
人にとって何が傷つくことかというのは違うもの。彼女にとって食欲(性欲)が大きな割合を占めていたという事でもあります。

『止めないんですか?』
「やだ、あんな物騒な連中に関わりたくない」
『もはやノータッチですか』

>>『エックス』さん
1回2回の批評ならば甘んじて受け止める。これは大事。
でも上げ連ねて揚げ足取って何度も何度も批判してくる輩は無視する。そういう連中はただ少しでも気に入らないところがあるとそれをネタに延々噛み付いてくるので。

『飲まないのですか?』
「だってよぉ……」

「きゃはははははは!」
「もう行き遅れはいやだー!」
「最近兄様にべったりできないのじゃ……うえぇぇぇえ……」
「色気が足りないのだ色気がぁ!あっははっはっは!」

「……この状況じゃ誰かしらシラフがいないと後片付けできないだろ?」
『ごもっともで……』



>>Wさん
フラグ=アルテアの所持戦力?でも何でロリなんだろう……絡ませやすいからだろうか。
珠はそもそも江戸崎編のみのキャラなので持ってくるのはちと難しい……
イヴも町外れ&休みでもないと遊びに行けないという条件もあるのでなかなか出せないんですよねぇ……。流石に循環式のプールをモイライに作るわけにもいきませんし。

「もうロリしか目に入らないという領域に突っ込んでなきゃ大丈夫だ。うん」
『自信の程は?』
「そう信じたい程度」

明日辺りおまけ挟むかも。それではまた明日〜ノシ

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