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蠍火

戦火が全てを焼いていく。
長年住み慣れた町が、山が、家が、人が。
私は成す術無くそれを見捨てる事しか出来なかった。
私が馬に乗ろうと鐙を踏む。
しかし、どんなに地を蹴ろうとも右足が上がらない。
まるで何かに縛り付けられでもしたかのように。

「言ってしまわれるのですか?兄様」
「なっ!?」

私は声のする方を見下ろす。
妹はコケに埋もれるかのように横たわり、頭から黒い血を流して黒い瞳で私を見つめる。
見れば妹が私の脚を掴んでいたのだ。

「生きていたのか!」
「兄様、私を置いていかないでくださいまし」
「ああ、置いていきはしない。もう大丈夫だ、さぁ、今すぐに安全な場所へ」

私は鐙から足を下ろして妹の身体を抱きかかえる。

「もう大丈夫だ」
「どこにも行かないでくださいまし」
「大丈夫だ。私はお前と共にいる」
「ずっと、ずっと一緒にいてくださいまし」
「ああ」
「ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと………」

次の瞬間妹の身体が腐り落ちる様に崩れ落ちていく。
真白い美しい顔は酷く爛れ、皮膚が流れ落ちる様に溶けだし、同じように全身が爛れ落ちる。

「ひっ!」

私は思わずその手を放してしまう。

「どこにもいかないでくださいまし」

――どこにもいかないでくださいまし…

妹の身体が燃え上がる。
炎に包まれ骨だけとなった妹が私にすがりつこうと動き出す。

「どこにも…」

その瞳には大火の如き赤を湛え、それは涙を流すように流れ落ちた。
(12/07/03 23:47)
(09/11/23 22:27)
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