連載小説
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中編
「で、もう一回聞くが、本当に俺の夢でも無ければ、2036年から来たフィギュアロボ
 でも無く、本当に俺の八重子がリビングドールになったのか?」
「そう申しておりますのに、そんなに動く私が信じられませんの?」

…マジか。
いやいやいや、…マジか。

「ん、いきなり頭を撫でないで下さい。びっくりするじゃないですか。い、いえ、嫌では
 ありませんが…」

この感触、間違いなく八重子の髪。毎日触ってるからな、間違いない。

「ちょ、ちょっと、恥ずかしいですわ…。その、顔に触れるなんて。
 ……、あの、触り過ぎじゃありませんか?何だかその、」

柔らかく、しっとりとした肌。いつまでも触っていてぇ。
何でこんなに柔くて、温かいんだ?
…、え?温かい?

「きゃっ!何を!?あっ、どこを触ってるんですの!?ちょっ、んんっ!」

マジだ…!抱きしめたこの感覚、温いわ。あぁ、夢のようじゃねえか…!
この温もり、あぁ癒される。うへへ、夢だったら覚めないでほしいぜ。

「も、もう!いい加減にして下さい!!」

ぐおっ!!

「士郎さん!いくら私のマスターといえど、礼儀というものがあるでしょう!?
 いきなり、頭を撫でたり、頬を触ったり、挙句の果てには、急に抱きしめ私の、そ、その、お、お尻を、その…。と、兎に角!今の行動には紳士さを欠片も感じられません!」

「す、すまん。」
「ふんっ、暫く外へ行って目を覚ましてきてはいかが?」
「あ、あぁ、そうする…。」

痛ぇ、これ現実なのか。現実。
…。マジか。
うぉおおおおっ、超嬉しい!!こんな嬉しい事、今までの人生感じた事なかったぜ!
あぁ、超騒ぎてぇ…!!だが、ここで騒いだらまた八重子に怒られる。
ここは耐えるんだ士郎!冷静になれ!
とりあえず、風呂掃除しながら落ち着こう。
そうしよう。ああ、やべぇ。顔超にやけてるわぁ。


――――


「…、お帰りなさい。」
「お、おう。ただいま。」

まだ怒ってんのか、クッションで顔を隠してるが、それでも分かる位顔が赤い。
じっとこっちを睨んでくるのはちょっと怖いな。

「な、なぁ、まだ怒ってるのか?」
「………、いえ、怒ってなんかいませんわ。」

何だよその間は、余計に怖ぇ。

「そうか、隣りいいか?」
「い、いや…!」

…、マジか。
結構きついなぁ、これ。

「いえ!あの、えぇっと、ちょっと今、汗臭いものですから、その。
 あっ、お風呂って入れますの?」
「あぁ、掃除の方はもう終わってるが、まだ湯船にお湯が溜まっては、」
「いえ、構いませんわ。お風呂頂きますね。」

お、おい。溜まるまで待てば良いじゃねぇか。
そんなに慌てなくても。
…。もしかして俺って嫌われてる?
………、まじか。
まさか、八重子がリビングドールになったのって俺のせいか?
ずっと嫌いだったのに、毎日しつこく触ったり、勝手に髪を梳かしたり。
そして我慢の限界に達して…。
ぉぉぉおお、罪悪感で潰されそうだ。
もう駄目だ。寝よう、寝逃げしよう。
きっと夢だったんだ。短い時間だったが良い夢見たぜ…。


――――


「…さん、士郎さん、起きて下さい。朝ですよ。
 ほら、お休みの日だからっていつまでも寝てないで下さいな。」

んだよ、たまには良いじゃねぇか。
まだ眠ぃよ。

「もう!起きて下さい!」

おぅ、布団剝ぐのはやめてくれぇ…。
…?

「どうなさったのですか?私の顔に何かついておりますか?」

…夢じゃなかったのか。夢じゃなかった!

「うわっほい!」
「きゃっ!?」
「八重子だぁ、あぁ昨日のは夢じゃ無ぇのか…!」
「し、士郎さん!?また急に抱きしめて、もう!
寝ぼけてらっしゃいますの!?いい加減にしなさい!!」

うごっ!
は、腹パン…!

「全く、眼は覚めましたか?」
「お、おう。すまん…。」
「ほら、起きたならシャワーでも浴びてきなさいな。
昨日はお風呂に入らないまま、お休みなさったのですから。」

あぁ、そういやそうだったな。

「ふふ、可愛らしい寝癖が出来ておりますよ。
 ほら後ろの方。」

か、からかうなよ。

「ふふ、すみません。ほら、早く行ってらっしゃいな。」

おう。

…。嫌われてるわけじゃなさそうだな。
いや、まだそうと決まったわけじゃない。
油断しない。決闘者は油断しない。よし。
シャワー浴びたら聞いてみるか。


――――


ふぃ、さっぱりした。
あぁ、そういや八重子って飯食うのか?
ついでに聞くか。

「おーい、八重子、っ!?」
「し、士郎さん!?」

やっべぇ!着替え中だったのか!

「は、早く出って下さいまし!!」
「悪い!」

うっわぁ、無いわ俺。
今まで嫌われて無かったとしても、今ので台無しだわ。
…、肌綺麗だったなぁ。気のせいなのか?下着に映えてなんか、やばかった。
あと、あの恥ずかしそうな顔。いやぁ、可愛かったな。

最低じゃねえかおい!いくら何でも!

「もういいですよ。大丈夫です。」
「あ、あぁ。さっきはすまなかったな。
 急に入ったりして。」
「いいえ、私も配慮が至りませんでしたわ。
 士郎さんは、私が動くのにまだ慣れていないというのに
 勝手に着替えたりなんて。」
「いや、今回も俺が全面的に悪いって。
 そんな八重子が気に病むことなんか無ぇよ」
「いえいえ、私が。」
「いや、俺が。」
「私。」
「俺。」
「私!」
「俺!」
「「……。」」
「ふふふ。」
「っへへ」
「なら、今回は二人で反省ですね。」

そう言う八重子の表情はとても晴れやかで、俺以外誰にも見せたくない位
愛らしいもので、暫く見惚れてしまった。

「士郎さん?」
「あ、いや、何でも無ぇ。」
「そうですか。」

やっばいわ、あの笑顔。
何だ?まだ心臓がバクバク言ってんだけど。
顔あっついわぁ。
あ、そうだ忘れるとこだった。
これだけは聞いておかなきゃな。

「なぁ、八重子。」
「何ですか士郎さん?」
「お前って俺の事嫌い?」
「…はい?」
「いや、だって昨日、俺の事避けてるみたいだったし。
 俺に仕返しするために、」
「私が!士郎さんの事嫌いになんかなるわけない!!
 そんな事!する訳無いじゃないですか!!
 貴方は私の、世界でたった一人の、私のマスターなのですよ!!
 その人を嫌うなんて、私には!私は絶対…!!」
「もういい、悪かった。ごめんな、八重子。」

涙をぽろぽろ流す彼女を、優しく抱きしめ、頭を撫でる。
すまない、俺はてっきり、嫌われてると。

「もう!もう…!ホントに士郎さんは…!」
「ごめんな、本当にごめん。」
「もっと、もっとぎゅって抱きしめないと許しません、」
「おう、わかった。」
「もっと撫でて下さい。」
「あぁ、ごめんなぁ。ほんっとにごめん。」
「ふふ、仕方ない人。昨日からずっと、謝る事ばっかりして。」
「うっ、ご、ごめんな。」
「大丈夫ですよ。もう怒ってませんから。」

八重子は許してくれたみたいだが、俺は俺が許せない。

「話していないのですから、気になさらないで下さい。
 私は、士郎さん。貴方の。」
「兄様?どうしたの?そんな騒いで…。」

…。
……。
………。

「あー!兄様が女の子を連れ込んでる!?」
「ば、バカ!!んな訳無ぇよ!!」
「…。美晴さん、おはようございます。」
「あっ、はい。おはようございます。って、この子兄様のドール!?
え!?動いてる!!」
「なんだ、知らなかったのか?」
「はい!兄様も意地悪ですね、紹介してくれてもいいのに。」
「ん?じゃあ、昨日どうやって風呂に?」
「えっと、まだ恥ずかしくて、物陰に隠れながらその、お風呂に。
何が恥ずかしかったのかは、上手く説明できませんが。」

そういうもんかね。

「何だ、騒がしいぞ、一体何が…。
 んん!?士郎お前!いつの間に女の子を連れ込んだ!?」

兄貴お前もかよ!
16/05/03 10:58更新 / 空我
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■作者メッセージ
中編です。
関係ありませんが、ラーの翼神竜組みました。

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