連載小説
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前編
周囲に囲まれて、孤独を感じるのだ。
なんて事を誰かが言ってた様な気がしたが、俺は今、正しくその通りだと感じてる。

「ほら、純。口を開けてくれ」
「いや純、こっちの方がうまいぞ。食べてくれ。」
「……。いや、一人で食べれます…。」
「遠慮なんかするな、水臭い。」
「そうだぞ。せっかくこうして結ばれたんだ。おまけもついているが。
恋人がする事は、我々もするべきだろう。」
「誰がおまけだ!」
「お前に決まっているだろう?私は正妻。おまえはおまけだ。」
「何だと!?昨日アタシが嫁で、お前も正妻と決まっただろうが!
 また蒸し返す気か貴様は!?」
「正妻は一人、この私だ!」
「アタシの決め台詞!!」

主にこいつらのおかげだ、チクショウ。
居辛そうに、もそもそと弁当を食ってるのは俺のダチ、松葉純。
そして、その両隣で騒ぎまくってるのが、純の彼女。
ドラゴンの上野マコと、同じくレモン・トスネオだ。
そう、所謂ハーレム状態なわけだ。両手に美人の魔物娘を侍らせてやがるってのに、もっと嬉しそうな顔しやがれ。

「今日もにぎやかでいいね。」
「こいつらがにぎやかでも、俺の心の中は荒みまくってるよ。
 ちっ、なんで毎日こんなのを拝まなきゃなんねぇんだよ。」
「まぁまぁ、仲が良いことは良いものだよ。」
「はいはい、誰かさんとそのお姉さんみたいにな。ったくこの裏切り者が。」
「えへへ、」
「褒めてねぇよ」

この照れくさそうに笑ってるのは、天城晴人。
長年一緒に過ごした義姉と、恋人関係になり、充実した毎日を送ってる。
この前は誕生日プレゼントに、自分と義姉の人形を渡したい。とかなんとか言われて、
渋々手伝う事になった。まぁ、お陰でますます愛が深まったみたいだが。
しかも、こいつの義姉も魔物娘。しかもドラゴンだ。
偶然なんだかわらねぇけど、どうしてこう、美人系の彼女ばっかりなんだ、おい。

「はぁ、俺も彼女が欲しいよ、全く。」
「俺が思うに、士郎は理想が高すぎるんだよ。」
「理想が高くて何が悪い?むしろ、こういう娘が好きだ。って、ハッキリしてる分
 まだいい方だと思ってるんだけどな。」
「まぁ、そうだけど。でも、完璧な理想なんてそうそういないよ?
 ちょっとは妥協しないと。」
「けっ、良いよなぁお前らは、自分の彼女が理想でよぉ。どうせ俺なんか。」
「うっ、ぼ、僕は姉さんが理想だった訳で、姉さん以外あり得ないというか、なんていうか。」
「俺も似たようなもんかな。好きになってくれた娘が、たまたまそうだっただけで。」
「運命ってヤツかよ。ますます嫌になるぜ。あぁ、良いですねぇ。運命の赤い糸ってのは
 俺のはどこに繋がってるのかねぇ。」

自分でも、大分卑屈になってるとは思うが、こればっかりはしょうがねぇよ。
なんて、自分で自分を慰めてもなんもならねぇが。
理想の女の子か。

「はぁ、誰か「「淑やかで、高貴で、優しいだけじゃなくて偶に叱ってくれる女の子を紹介してくんねぇかなぁ」」……。なぁ、そんなに言ってたか?」
「言ってるよ。」
「すぐ言える位に。」
「………。」

随分言ってたみたいですねぇ。恥ずかしいし、悔しいですねぇ…。

バーニング・ヘル・フレア!  ダークネス・ギガ・フレイム!

純!そろそろ止めないとまずいんじゃねぇか!?

――――

「よっしゃ、ホームルームも終わったし、デュエルでもどうだ?」
「あー…、悪い。今日は駄目だ。」
「へぇ、デートかよ」
「何でわかるんだ…、てかデートか?昼終わってからも、二人共まだケンカしててさ、これから仲直りの印にまぁ、どこかぷらぷらっとね。」
「それを人はデートと呼ぶんだ。」
「そうなの?」
「ったく、お前はそういうとこ抜けてるよな。女の子と出かける時はデートだ。
 いいか?男が女の子をリードする。当たり前の様で、難しい事をやれるのが、大人の男よ。そういう細かいところで、愛情や思いやりってのが現れるって事なんだよ。」
「お、おう。ってか意外だな。士郎がそういうアドバイスしてくるなんて、」
「今までしてなかっただけだ。」
「サンキューな。口は悪いけど。」
「一言余計だ。」

人の好意は素直に受け取りやがれ。

「じゃあな。上手くやれよ」
「おう、またな。」

純はデートだし、晴人と一緒にゲーセンでもいくかな。

「なぁ晴人、今日ヒマか?ヒマなら、どっか行こうぜ。」
「ご、ごめん。今日は姉さんが早く帰ってくるから、あの、えと。」
「…解ったよ。男より好きな人を優先させるのは、悪いことじゃねぇよ。
 早く行ってやれよ。な。」
「うん、ごめんね士郎。また今度誘ってよ。次は絶対遊ぼうね!」
「おう。」

ま、仕方ねぇよな。逆に恋人より、男友達を優先しやがったら説教だったけどな。
さぁ、今日は一人寂しく帰りますかねぇ。

――――

ただいまっと。

「士郎か、お帰り」
「ん?兄貴、今日はやけに早いじゃねぇか、大学は?」
「あぁ。偶々、半日で終わってな。」
「そうか、なら。早く帰ってきた分部屋の掃除とかしたんだろうな?」
「…。」
「してないんだな。」
「今は私が動く時ではない。」
「いい加減動け!動け!そのセリフ何回聞いたと思ってるんだ!」
「たまの休み位、ゆっくりしたいではないか」
「しすぎだ!やることはやれよ!あと、その髪!長すぎなんだよ!早く終わったなら美容院行けよ!」
「長いのが気に入ってるのだ。誰にも迷惑かけてるわけでもない、お前にとやかく
 言われる筋合いもない。」
「ああ言えばこう言う…!」

ウチの長男の大悟。大学で研究とかやってるらしいがよくは知らん。なんせ、俺には難しすぎるし、興味もない。
けど、兄貴が優秀だってのはわかる。昔から、兄貴にはよく勉強を教えてもらってる。
頭のいい奴は、教えるのが上手いってよく言うけど、正しくその通りだしな。
ただ、私生活はズボラで、家事全般が大の苦手だ。勉強ができてもこれじゃあな。

「まぁ、いいや。美晴が帰って来たら飯にするからな。それまでにある程度
 片づけておけよ。」
「今は、「ほう、兄貴は飯いらないのか、へぇ」…っく!」

あまり使いたくない手だが、家で飯を作れるのは俺だけだからな。
これを盾に使えば何とでもなる。

「じゃあ俺、部屋行くわ。しっかりやっとけよ。」
「…わかった。」

はぁ、ようやく部屋に行けるのか。
学校ではリア充共に精神という名のライフを削られ、家では問題児に手を焼かされ。
はぁ、癒しが欲しいぜ…。

「はぁ、ただいま。今日も疲れたぜ八重子…。」

部屋に入り一言。返事は無い。
まぁ、そうだろうな。今話しかけた相手、俺の部屋の小さな同居人。ドール。人形だからな。
だが、ただのドールじゃない。
俺が作った世界で一人だけの自慢の子だ。
昔から、手先は器用な方で特に手芸には自信がある。それでドール作りに挑戦し八重子が出来たって感じだ。
作ったって言っても、市販のパーツを組み上げただけで完璧な自作じゃないが。

「八重子。留守番ありがとうな。」

そう言いながら、八重子の頭を優しくなでる。
はぁ、至福の時間だぜ。

「あぁ、八重子だけが俺の癒しだぜ。全く、何で他の奴ばかり彼女できるんだよ。
 くそ、納得いかねぇ。……彼女ほしい」

八重子の頭を撫でながら愚痴る。
愚痴を聞かされる八重子には悪いとは思が、今日位愚痴っても良い気がする。

「はぁ、八重子が彼女ならいいのにな。そうすれば人生バラ色なのに…」

何だか変な事を言った気がする…。
まぁ、八重子は俺の理想の女の子そのものだけどさ。

「はは、何言ってんだかな。相当羨ましく思ってんだなぁ。」

改めて、自分がどんなに彼女が欲しいか実感した気がする。
しかも動機が子供っぽい。周りがいるから俺もって。
全く、自分が嫌になる。

「でも、理由なんてそんなものだと思いますよ?」
「!?美晴!オマエまた窓から、っておぉう!?」

目の前には弟の声をした得体のしれない何かが喋っていた

「えへへ、良いでしょう兄様。古代の魔除けの仮面!」
「またそんな無駄使いを…」

自慢気に話すのは俺の弟の美晴。
小さいころ、考古学者の映画を見てすっかり古代文明の魅力に惹かれ、以来、正体不明の置物やら、呪いの道具やらを集めまくっている。コイツの部屋は異界の地、カオスだ。

「まぁ?オマエの収集癖にとやかく言う気はないが、壁伝って窓から入るのやめろって何回も言ってんだろ!」
「えぇー?」

こいつには、考古学者になって冒険の旅に出たいという輝かしい夢があるんだが、その訓練
のためとか言って家の壁をよじ登って、部屋に入るっていうのをよくやる。
マジで危ないし、何よりそんな考古学者いねーから!

「でも、崖から落ちそうになった時とか絶対役に立つと思います!」
「そもそも落ちそうな所行こうとするな!」

目、キラキラさせながら何言ってんだコイツ

「次やったら部屋掃除するからな」
「ええ!?兄様それだけは待ってください!」
「嫌だったらすんなよな。飯作るから手洗って手伝いな。」
「はーい」



ふぅ、洗い物もこれで終わり、後は乾燥機にかけるだけか。
ならさっさと終わらせて部屋に戻ってゆっくりしますか。
うし、片付いたか。

ようやく、一息つけたな。
しばらく休んでそれから、
「あ、お帰りなさい士郎さん」
「うぃ、ただい…ま?」

は?今誰に話かけられたんだ?
部屋には俺しかいないはず、

「どこを見ておられるのですか?私です八重子ですわ」

……。え?八重子?こ、こいつ、動くぞ…!
16/04/11 03:01更新 / 空我
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■作者メッセージ
いやぁ、帰ってきました。
フォトンから大分経ちましたが、遂に士郎の出番です!

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