連載小説
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ぬ蜘蛛り
「アハハッ、なーに言っての〜。そんな器用なことできるわけないじゃん。渡部って面白いこと言うね〜」

「まぁ、そう言うんならそうなんやろな。」

もうコイツとは話すことはなくなったから立ち上がった。

「あれ、どこか行くのか?」
弁当がなくなって一段落ついたのか健司が美羽の頭を撫でながら言ってきた。

「便所や」
と扉の方に歩きながら言った。


〜〜〜〜〜



「作れてなかったかな…」

アタシはそう呟いた。

「え?何が?」
と彼が去っていったからこちらに気が向いていたんだろうか、沙耶が聞いてきた。

「いや、何でもないよ〜」
アタシはちゃんと笑顔を作って、お弁当の酢豚を口に運びながら答えた。

だからだろうか、ぽとっと酢豚を手の上に落としてしまった。
その原因が動揺であるのか不注意であるのかはわからない

とりあえずお弁当を片付けて、皆に一言ことわってから手袋を洗いに行き、自分の椅子に手袋を掛けて屋上へと向かった。

午後の授業を受ける気にはなれなかったから…


〜〜〜〜〜




「『作れてなかったかな』か…」

去りぎわに聞こえてきた言葉の意味を考えていた。

何故飯田は笑っていないのか

何故笑顔を「作っている」のか


「くっそ〜、わからんなぁ」


「コラっ!今は授業中だぞ!ここで何している!?」
「やべっ!?…ってちゃうやんけ」

「はぁーい、びっくりした〜?」
と笑いながら飯田が近づいてきて、横に座った。

「授業はどないしてん?」

「正直、それどころじゃないんだよね〜、

……なんでわかったの?」

急に今までの笑顔が消え失せて、平坦な口調で言った。

「…まぁ、他人より少し笑顔に敏感なだけや」

「なんで?」

「そこまで聞く?…せやな、なんで飯田は笑ってないのか教えてくれたら話したるわ」

「……」



「…しゃあない、先教えたるわ。早い話、昔お袋が病気でしんどいのに無理して笑顔を「作ってた」からや」

「ごめんなさい…、余り聞いちゃいけない話だよね?」

「アホ、まだお袋は生きとるわ。元気とは言われへんけどな」

「そうなんだ、お大事に」

「で、ワイは話したで」

「……」


「…まぁ、無理やりしたようなもんやから話さんでもいいけどな」

「……」

「んじゃ、保健室行って寝てくるわ」
とズボンを叩きながら立ち上がって、扉の方へ振り向いた。


「……笑顔でいれば…」

「なんやて?」
飯田の方へ向き直った。

「笑顔でいれば恐がられないから…」

「恐がられる?」

「アタシはアラクネだから…」

「いや、魔物は他にもおるやんけ」

「言ってなかった?ここには入学と同時に引っ越してきたの。前に住んでたとこの魔物はアタシと母さんだけっていう田舎だったからね…」

「そんなとこあってんな…」

「それでね、アタシの下半身って蜘蛛じゃない?だからか皆に恐がられて離れてった…一人を除いてね」

「ええやつおるやん」

「ええ、とても優しい子だった。でも…」

「でも?」

「その子も離れていったんだよね」
そこで飯田は笑顔になった。

「さあ!アタシの話はこれでお仕舞い!
そろそろ授業終わるし、行こうか〜」



「…まだや、まだ終わってへん」

「何言ってんの〜。もうオチついたじゃん」

「前のところでお前が恐がられたんはわかった。
やけど、ここで笑顔を作らんでええやんけ。」

「…あなたに何がわかるの?」
再び無表情に戻った。

「今までずっと笑顔で皆に恐がられないよう関わってきた!!
笑顔をやめても関係は続くかもしれない…
けど、怖いの!!
もしも皆があの子みたいに離れるのが!!」


「んなわけあるかい…」

「…あなたはそういう経験がないもんね。
言ったアタシが間違いだった」


「ほれ」
と右手を差し出す。

「?」

「早よ掴めや。立ち上がらせたる」

「…別にいらない」



「…ワイは離れへん」

「え?」

「たとえ皆がお前から離れても、ワイは側にいたる。
だから安心せえや」

〜〜〜〜〜




「早よ掴めや。立ち上がらせたる」

「…別にいらない」

いらない。
もう、差し伸べられた手は信じることができない。
これ以上あの子みたく離れていくのが耐えられない。


「…ワイは離れへん」

「え?」

「たとえ皆がお前から離れても、ワイは側にいたる。
だから安心せえや」


嘘よ

『あなたの…

ウソ

『あなたのせいで…

あなたもあの子みたいに離れていくんでしょ…?

『あなたのせいでこうなったのよ…



「ほら」
と彼がアタシの手を握る。

「ワイは離れない」
優しいぬくもりが伝わってくる。
今まで味わったことない暖かさ



だからアタシは…、
その手を強く握りしめてしまった…

化け物を隠す手袋もなしに

当然彼は
「ッ…!」

痛がった。


『あなたのせいでこうなったのよ!?この化け物!!』


その姿があの子に重なる。


「イ、イヤ、ちがう…、
イヤッ…、イヤァァぁぁぁっ!!」バッ!!

手を払い、アタシは彼から「離れた」。
10/09/13 22:36更新 / 迷える子執事
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■作者メッセージ



う〜ん、すごく重たいです…

ほのぼのタグを外すべきでしょうか…?



そして感想有り難うございます!
これからの展開を見直すきっかけにもなり、とてもモチベーションが上がりますね!



とりあえず健司はもげと?

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