読切小説
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竜騎士
竜騎士、と名を聞けば、大概が空を自由に駆り敵を刈る人魔一体の空中戦の覇者を思い浮かべるだろう。大概はワイバーンをペアとし、極たまにドラゴンと人をペアとする。
常に互いを危険に晒すその職は、それ故に互いの力量と、それ以上の相性、そして前者二つが霞むほどの心の交流が必要となる。身も心も一心同体となった竜騎士は、味方にとっての英雄となり、敵にとっての天災となるだろう。

親魔物領バリス。鉱産資源が豊富なこの領にも、竜騎士部隊なる物が存在する。常勝不敗の竜騎士部隊として評判が高いそれは……だがしかし、実物を見た者の顎を外すことにかけては右に出る者がいないことでも有名であったという。

――――――

【或る森のアルラウネの夫】

「あぁ、俺はあの時、バリス制圧のために集められた軍の第四部隊に居たんだ。教会を信じる身だ。魔物の居る領など滅ぼしてしまえ……あぁ、もう今となっちゃそんなことは微塵も考えてねぇよ。この通り、奥さんと繋がったまんまだしな。
この領には竜騎士部隊が居るって話がお偉方の耳に入って、上空迎撃用の兵器や魔導師部隊を取り揃え……てくれりゃ良かったんだが、金を出せば集まる破落戸や外法魔導師ばかりがぞろぞろと……まぁ逆にそれが良かったのかもしれねぇけどな。

初めに異変に気付いたのはコーヒー狂いのマシーヨだった。あいつは戦いの前に気分を高めるために特上のコーヒーを飲むんだが、その最中に話しかけた奴を殴り倒すほどに気性が荒い。それは飲み終わるまで続くんだが、その間に一度としてコップから口を離さねぇ、そんな奴なんだ。
そんなマシーヨが……コーヒーを飲み終わらねぇうちにコップを置いて俺らに聞いてきたんだ。なぁ、今なんか揺れなかったか?ってな。
おいおい臆病風に吹かれてんのかよってそんときゃ周りでは笑ってたんだが、次に料理番エシオが辺りをきょろきょろ見回し始めたんだ。何か聞こえなかったか、ってな。だが、こいつは耳で料理する癖があってな、焼き加減も全て音で捉えんのさ。テメェが聞き取れるもんを俺らがそうそう聞き取れるもんでもねぇ。
何が聞こえたんだって?女の声だとさ。こいつ盛ってんじゃねぇか?流石にそりゃ幻聴だろ。この部隊にゃ女はいねぇ。そうかこいつもついに女を知りたくなったか、いいぜ?この戦いの後で教えてやらぁ。たっぷりとな……今思えば完全にフラグおっ立ててたな、俺ら。
だがまぁ、念は念を入れて、簡易式の迎撃銛を空に向けておっ立てたわけなんだが、それが倒れ始めたんだよ――地面の揺れと一緒にな。
そん時にゃ俺らも確かに聞こえたさ。上じゃねぇ。地面の下から女の、妙に甲高い声がな。
指揮官は取り乱してやがったな。まさか地面の下から強襲が来るとは思っちゃ居なかっただろうし、空と違って地面は深く潜り込まれりゃ対応出来ねぇ。それでも最低限の指示はしてくれたさ。足下に気をつけろ、予兆が見えたら攻撃だ、ってな。
たりめーだろーが。
地面の奇妙な揺れ、そして響く女の甲高い声と息遣い。何の冗談かと思いつつ、俺らは揺れに翻弄されながら地面を注視し続けた。
幽かな地面の隆起――それが目視で確認できた次の瞬間、硬い土は跳ね上がって……。

――"それ"、は姿を現した。

「――んっきゃああああああああああああん♪♪♪♪♪♪♪」
……なぁ、現実は小説より奇なり、って言葉知ってるか?この世の空想で描かれる世界は可能性の現実、って言葉、分かるか。
俺は知ってたさ。だから目の前の秀逸すぎる光景に思わず口から漏らしちまったさ。

誰が考えんだこんな冗談。

「んやっ♪やぁぁぁっ♪んやぁぁぁんんんんっ♪♪」

そいつは見る限り体のあちらこちらを鱗で覆われた巨大な蛇のような外観を持っていた。少なくとも背中側はな。だが蛇の頭から胴にかけての部分は……明らかに人間だ。だらしねぇ顔を晒してやがるが本来は男ならば生唾を呑み込まなきゃおかしいほどの美人だって一目見ただけでも分かる顔のつくりはしている。
で、下に少し視点を移して――俺の顎は完全に外れる羽目になった。

馬鹿でかいおっぱいに顔を埋めつつ、下半身丸出しで不乱に腰を振る男と、それに翻弄されつつも合わせるように腰を打ち合わせ抱きしめる女があったからな。
……女房に教えてもらったが、男を抱き締めているあの魔物、ワームっていうらしいな。習性がアホの子なんだが、まぁこの際それはいい。問題はそいつらが、明らかに戦場でまぐわい合いながら地面から飛び出してきた、って事なんだが。あれか、聞こえてきた声ってのもあれか。まぐわいの声か。畜生何だこの戦意を萎えさせる光景は……。
……こっから先は察して欲しい。さっき俺は、地面から飛び出した、っつったよな。で、飛び出したままで居るはずもねぇ。上昇の次には……当然、落下がある。
唖然としていた俺達に向けて落下してきたのは……俺達の胴よりも太いワームの尻尾部分だった!
俺みたいに避けられた奴はまだいい。辛うじて避けられた奴は風圧で吹き飛ばされて気絶寸前、避けられなかった奴は尻尾と地面のサンドイッチだ。
俺は避けた後で何とか反撃しようとしたよ。手に持っていた……今は娘が蔦を絡ませる練習用に使っている槍でな。まぐわっている奴らを貫くつもりで突き出したんだが、その瞬間男が『槍』でワームを深く貫きやがって!とんでもねぇ勢いで体をワームは反らせ、堅い鱗に当たって槍が一発お陀仏だよ!
「んぁあああん♪♪もっと♪もっとおおおおおお♪♪♪♪」
どこまでもフリーダムに体をくねらせ俺らを巻き込みながら愛しいダーリンとの性交に夢中なワームを、そのダーリンは突くタイミングと体の傾け方によって調整してやがる……なんて口にしていて冗談にもならねぇ光景を目の当たりにした、武器も使えなくなった俺は……戦場から逃げ出し、後はご覧の通りさ。
あの件で部隊は壊滅的打撃だとよ。練度の低い兵を出したバカ共にはざまぁの一言しかねぇが……なぁ、聞きたいんだが。

……アレは、竜騎士として、アリなのか?」

――――――

親魔物領バリス。
そこは、ワーム(竜)が人(士)に乗(騎)る騎士団がある場所。彼女らは戦いの場でも構わず、いや、戦いの場という意識もなく、ただ夫を犯しながら、地上でびたんびったん暴れ回るのだ。

fin.
13/03/06 20:23更新 / 初ヶ瀬マキナ

■作者メッセージ
犯しながら敵を巻き込む様は紛う事なき変態。

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