連載小説
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勝利とは?
さて、只今グリーたちを乗せた馬車は、本拠地に向かって移動中。
不安が大きいのか、戦いでは勇敢に前に出る者も、体を強ばらせていた。

「いつもどおり戦えば大丈夫です。」

そう言ってグリーが隣で緊張している仲間の肩を叩いた。
そのおかげが、緊張が心持ち和らいだように思う。

いつものように・・・軍に所属していた時のように、余裕のある笑みを浮かべ、静かに到着を待っていた。
まるで皮肉か、将軍としてではなく、奴隷として、この国の本拠地に来るとは思ってもいなかった。
しかし、気落ちなどしていない。
逆に勝ち進んでやろうという気持ちが大きかった。

「ついたぞ。」

馬車の柵が開、奴隷たちが続々降りていく。
以前にいた街の比ではない。
まるで巨人が作ったかのような巨大な建造物。
そして、一際目立った建造物が目の前にそびえ立っていた。

「こんなものが人に作れるのか・・・?」

様々な国を旅したキースでも、目の前の建物、コロシアムと言われるドーム型の建造物には度肝を抜かれたのだろう。
口が開きっぱなしだ。

実は、ここに来るのは初めてではないグリー。
何度かこの地に訪れた事はあったが、今でも、この建造物の迫力に慣れることはない。

歩いてコロシアムまで向かい、待機室とは名ばかりの檻の中に入れられる。
そこは往来の人たちの視線にさらされており、まるで見世物のような扱いだ。
これでは、休もうにも休まらない。

聞いた話では、貴婦人は剣闘士を抱きたくて大金を払うのだとか。
キースはそれを知って、片時もグリーから離れなかったが。


ところ変わって客間。
そこでは、プロキシマと豪華な衣装に身を包んだ太った男と話していた。

「最高の剣闘士たちです!無駄に死なせたくはない!」

「しかし、もう決まったことだ。それに、今回は領主様もお越しになる。今更、出場者を変えるわけにはいかないだろう。」

「それなら犯罪者や盗賊を出してしまえばいい!」

「もう出した。もし、この決定に不満があるなら、奴隷とともに肥溜めに戻るがいい。」

ふふん、と変な笑みを浮かべ、コロシアムの壇上に上がっていった。

カン!カン!カン!

金属を叩く音が響くここは、コロシアムの武器庫。
ここで、自分にあった兜や鎧を着て、戦いに出るのだ。

領主が・・・シーカーがここに来るらしい。
正体をばらす訳には行かないグリーはフルフェイスの兜をかぶり、出撃を待った。

待っている間、衛兵が舞台上での注意を大声で説明していた。

「領主様がお越しになったら、敬礼し一同で挨拶をしろ。決して領主様に背を向けてはならんぞ!いけ!名誉の死を遂げて来い!!」

『『『『オォ!!』』』』

階段を上がった先にある扉が開かれる。
グリーとキースを含む25名の剣闘士が、舞台の上に上がっていく。

以前の街で共に戦ったものの他に、もう何人か新しい剣闘士が増えていたが、戦力が上がることに越したことはない。
相手がどのような手を使って戦ってきたとしても、戦力が増えれば、その分、選択肢が増える。

『『『『ワァァァァァァァアア!!!』』』』

舞台は地面が砂の以前の街の戦いの場のような感じではあったが、前の比では無かった。
歓声が、まるで雷のように響き渡り、声の振動で地震が起きているかのように震えた。
恐らく、観客は前の何十倍という人数だろう。

皆、呆気に取られていると、ラッパと太鼓を交えた演奏が始まり、観客席の一番前、しっかりとした作りの大きな席にグリーのよく知る人物が現れた。

「シーカー・・・・・!!」

あの嫌な笑みを思い出すだけで、怒りがこみ上げてきたが、それをグッと抑え、冷静さを取り戻す。

「「「我ら死にゆく者。領主に敬礼!!」」」

周りの剣闘士たちは、領主が出てきたと同時に挨拶を放った。
グリーは挨拶をせずに、静かに領主を見据える。

そして、そのあとにプロキシマと話していた太った男が、領主のすぐ近くに上がってきて、声を張り上げ、口上を述べ始めた。
今回の戦いは、ある戦争の再現らしい。

グリーたちは蛮族役で、相手が正規軍。
それを聞いた限りでは、蛮族側が死ぬ・・・グリーたちが死ぬ運命にあるのだろうが、黙って殺されるほど、甘くはない。

「皆、聞こえるか?」

先頭に立つグリーが周りに聞こえるように言った。
剣闘士たちの視線が、グリーに集まる。

「どんな戦いでも、1人で戦うより大勢で戦う方が遥かに勝算はある・・・分かるな?」

あぁ、その通りだ。

周りから賛同の声。

「力を貸してほしい。離れないように戦おう。」

振り向き、剣闘士ひとりひとりに視線を向け、余裕のある笑みで言う。

「心配しないで、必ず勝つ。」

その一言で、幾分か緊張が和らいだのか、笑顔を見せながら頷く者が多かった。
まぁ、どのリザードマンとは言わないが、一人、鼻を押さえて鼻血を止めようとした奴がいたのはあえて触れないでおこう。

『そして、蛮族に対するは、最強の力を誇った戦車の大軍団だぁ!』

太った男の口上が終わったと同時に、コロシアムの扉が一斉に開き、戦車が現れた。
全部で6台。
馬2頭に引かせて、頑丈に作っているのであろう荷台には、一人が馬車の操縦、もう一人は弓矢や槍を持って現れた。

一気に現れたせいか、対応が遅れてしまい、戦車の弓矢に何人かやられてしまう。

「グリー!このままじゃマズイ!」

「分かってる!密集隊形!!集まって盾を持って周りを固めろ!」
その指示に従って、周りに集まってくる剣闘士。
しかし、やはりというべきか、その指示に従わないものもいた。

その中には、魔物娘もいた。
蜘蛛の足に、緑色の肌をした上半身。
ウシオニと呼ばれる魔物娘だったかに思う。

初めて見たのだが、飛んできた弓矢を盾で防いでいるところを見ると、戦闘能力は申し分ないだろう。

とりあえずは、グリーたちを囲み始めた戦車をどうにかしなければならない。
見たところ、それほどバランス能力はないだろう。
しかも、頑丈に作られているせいか、重量感がある。
一度倒れれば、起き上がらせることは早々できないだろう。
だったら・・・・。

「キース。お願いしたいことがあるですが・・・。」

「グリーの頼みならば何でも!しかし、もうそろそろ敬語はやめてくれた方が嬉しいのだが。」

「すいません(汗)それで、前の剣闘士の方と交代して合図と同時に盾を前に突き出して欲しい。」

「それだけでいいのか?お安い御用だ。」

「キースの隣の方たちも同じようにお願いします。」

早速交代して、合図を待つキースと剣闘士たち。
走って近づいてくる戦車に対して剣闘士たちは槍を突き出し、牽制をかける。
それを2、3順行ってから、グリーは合図を出した。

ちょうどキースの持つ盾をスレスレで戦車が通り過ぎようとした時だ。

「ひし形!!ひし形!!」

その合図は陣形を変えろという合図だった。
合図が出たと同時に、陣形をひし形に変える。

結果、どうなるか。
戦車の車輪はギリギリ陣形の前を通っていたところに急に盾を使った傾斜ができたのだ。
その傾斜に乗り上げてしまったため、戦車がバランスを崩し始めた。

特殊な作りの戦車なら持ち直せたであろうが、頑丈な丈夫さを優先して作られた戦車ならば持ち直す余裕もなく、そのまま横転した。

キースと交代させたのは彼女の足腰の強さが必要だったからだ。
交代した場所は、グリーの予想では一番重心が掛かり、重さや衝撃が強い場所でもあった。
作戦の成功率を上げるための人選だったのだ。
それも、盾が身長の半分以上を隠すことのできる大きな縦であったことが大きい。

周りの観客も予想外の展開に歓声が上がる。
しかし、戦車を倒れた時の大きな音に気を取られたウシオニが集中力を切らしたせいか、肩に弓矢を受けてしまう。

「ぐぅ!不覚!!」

「まずい!!」

とっさに盾と剣を捨てたグリーは一目散にウシオニに近づく。
彼女を突き飛ばそうと走ってきた戦車がいたのだ。
いくら頑丈と言われるウシオニでも、あの速度の戦車に体当りされれば無事じゃすまない。

どん!

グリーがウシオニを向こう側に弾き飛ばし、二人の横を戦車が走り抜けた。
しかし、その場で留まることをせず、また走り出すグリー。

そのグリーの背中を見つめるウシオニは、少し考えてから急いで肩に刺さっている矢を引き抜き、グリーの後を追った。

倒れた戦車を、皆で動かし、障害物のようにして戦車の動きを制限させた。
その際、率先してウシオニが動いてくれたことは有難かった。
障害物の効果で、動きが鈍くなった戦車に乗り込んだ剣闘士たちは、敵をひきずり下ろし、止めを差していく。

オォォォォオオ!!

剣闘士たちは声を上げて勝利に分かち合い、その熱さが伝染したのか、観客もそれに合わせて一気にヒートアップした。

グリーも周りの仲間たちと勝利をたたえ合い、感極まったキースの包容を優しく返す。

「さっきはすまなかった。おかげで助かったよ。」

そうグリーに声をかけてきたのは、ウシオニの魔物娘だった。

「いや、この勝利もあなたのお陰でもある。こちらこそありがとう。」

正面から言われ慣れていないのか、顔を背けながら頭を掻いているウシオニ。
その姿を微笑ましく思いながら、舞台を後にしようとしたが・・・。

ザッザッザッザ

統率された動きで現れた黒い甲冑を着込んだ兵士たち。
彼らは領主直属の近衛兵であり、領主の身辺警護を行う兵士たちだ。

そんな兵士たちに囲まれたグリーたちは周りを見回し、どよめく。
あとに出てきた人物が恐らく隊長だろう。

「武器を捨てろ。」

そう言われ、いや、命令され、どうするか迷っている剣闘士たちに視線を向けて頷くグリー。
グリーが最初に武器を捨て、そのあとに続くように仲間たちも武器を捨て始めた。

「今から領主様がお目見えになる。無礼無きように。」

「光栄の極みです。」

舞台に上がった時のように、ラッパと太鼓が鳴り響き、領主・・・シーカーが奥から現れた。
どうしたらいいか分からないのか、どよめく剣闘士たち。
先ほどでは、歴戦の兵士に勝るとも劣らない戦いを見せていただけに、慌てる姿に、グリーは苦笑いを浮かべた。

グリーが膝を地面に付け、かしずくように座ると、それに習って周りも同じように座った。

「よいよい。立て。」

そう言われ、ゆっくり立ち上がる。

「お主が剣闘士たちのリーダーなのであろう?兜を脱いで名を名乗るがよい。名はあるのであろう?」

「・・・・・・名はグラディエーター(剣闘士)。」

そう言って振り返り、背を向けた。

「余に背を向けるとは無礼者!!兜を脱ぎ、名を名乗るのだ。」

語気を荒げて再度言うシーカー。
ここで、正体を現したくなかった。

ハァ、とため息を静かにつき、兜を脱いで振り返った。

その時のシーカーの顔は言葉を忘れたかのように口を開いたり閉じたりしていた。
それはそうだ。
死んだと思われていた人間が目の前に立っているのだから。

「名はグリー・オールドマン。この国の軍団の将軍。『若き老将』。焼かれた故郷の住人。殺された両親の息子。今生でなければ来世で・・・復讐を果たす!!」

周りは騒然となった。
特に、キースとウシオニの魔物娘の顔は驚きで目を見開いていた。

焦りながら、シーカーは近衛兵の隊長に耳打ちをする。
終わると、隊長は持っている剣を抜き、命令を下した。

「構え!!」

近衛兵は剣を抜き、それを剣闘士たちに向ける。
近衛兵の普通じゃない雰囲気に剣闘士たちは捨てた剣や槍を構えて、グリーの周りに集まった。
キースとウシオニもグリーを守るため、守りを固める。

この数では抵抗しても皆、殺されるだろう。
しかし、味方は違うところからも現れた。

『『『『殺すな!殺すな!殺すな!殺すな!』』』』

この戦いを見ていた観客が、一斉に声を上げたのだ。

『観客の心を掴め。観客に好かれる戦いをしろ。』

プロキシマのアドバイス。
まさか、ここで役立つとは思わなかった。

シーカーもこれには焦って観客を鎮めようとしたが、あまりにも人数が多いため、止まらない。

領民の恨みを買いたくないシーカーは隊長に剣を収めるように指示。
悔しそうな表情を浮かべて、奥に入っていった。
それに続いて、近衛兵も入っていく。

ブーイングから歓声へと変わる。
それに、グリーは持っている兜を掲げ、観客に答えた。
その時の歓声が、今日一番の歓声だったことも貴重の収入の一つだった。
13/10/24 22:20更新 / 心結
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■作者メッセージ
もっと、魔物娘を活躍させたいなぁ・・・。

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