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第四話 戦士の誇り 後編
リザをヴェンの所に送り、俺は先程の広場へと来ていた。
辺りには門前で避難していた住人達や商人達が各自、自分の家や店へと戻っていく。
その中で一人、こちらに走ってくる者がいた。

「アレスさん!…探しましたよ?」
「ムンドか、どうした?」

ムンドは息を切らしながら俺を呼んだ。
彼の手には大きな袋が握られている、中身が相当詰まっているのか、かなり重そうだ。

「どうしたじゃありませんよまったく…。いきなり街に入っていくんですから驚きましたよ、で、魔物はどうなったんです?」
「あー…逃げられてしまったよ、でももう街には攻め込んで来ないだろう。」
「そうですか…でも薄々感じていましたが、やはりアレスさんは只者では無かったのですね?魔物に勇敢にも立ち向かうなんて、まるで勇者様を見ているようです。」
「勇者…ねぇ。」

そんな名前を付けられる位ならいっそ極悪人とでも言われたほうがマシだ。
俺はそう心で悪態つきながらもムンドの話を聞いた。

「そうでした!例の装備、高く売れましたよ?これが代金です。」

そう言って彼は持っていた袋を俺に手渡した。
ザクっと音を鳴らして渡された袋はかなり重かった。

「こ、こんなに、そんなにいい装備だったのか?」
「ええ、向こうの店主も驚いてましたよ、こんな装備見た事無いって。」

ムンドは自分の事のように嬉しそうに話した。
彼のおかげでこうして旅の準備も進められる、礼をしなくてはな。

「じゃあ、これがお前の取り分だ、ご苦労だったな。」

俺は袋を取り出すと適当に金を詰め込みムンドに手渡した。
ムンドは手渡された袋の大きさに驚き俺を見た。

「え、こんなにですか?!」
「ああ、お前のおかげで助かったよ。これはそのお礼だ。」
「アレスさんには命まで助けていただいたのに…感謝しきれません。」
「別に構わないよ。そうだ…これを返さないとな。」

俺は荷物から預かっていた指輪を取り出し、彼に返そうとしたがムンドは手でそれを押し返した。

「いや、それは…アレスさんに差し上げます。」
「なんだって?」

ムンドは落ち込んだ様子で指輪を受け取るのを拒否した。
俺は慌てながらもムンドに問いただす。

「これはお前の妻の形見なのだろう?だったらお前が持つべきだ。」
「いえ、アレスさんに預けてから踏ん切りがついたのです、それを持ってても彼女は“返ってこない”のだから」
「だったらせめて、墓にでも供えてやるとか…。」
「その…墓にいないんです。」
「…どういう意味だ?」

彼がさっきからおかしな表現をしていることに気が付いた。
返ってこない?墓にいない?
…まさか。
俺の出した最悪な予想をムンドは肯定するようにいった。

「彼女の遺体が…盗まれたのです。」
「な、なんだって…。」

ムンドは声を押し殺すようにして話し始めた。

妻の葬儀の翌日、ムンドは妻が大好きだった花を持って墓へと向かったときだった。
墓場に着くと何故だか人だかりが出来ていた。何事かと見ると妻の墓の前に大きな穴が開いており、棺ごと無くなっていたのだという。
後から聞くとその町では墓荒らしが頻発しており、棺に遺された金目の物を狙って大胆にも棺ごと持って行ってしまうのだという。
唯一残ったのが、墓の前にお供えしようとした指輪だけだった。

「ひどい事をする、死者への冒涜だ。」

その話を聞いて俺は怒りが抑えられずにいた。
安らかに眠る事も、愛する夫をも見守る事も出来ず、ただ永遠に悲しむしかない。
それを知らず盗んだ奴は営利目的で墓を荒らす。
そんな奴を俺は絶対に許さない。

そう一人で憤慨していると、ムンドは吹っ切れたように顔を上げた。

「だからもういいのです、こうやって旅商人を続けていればいつか手掛かりが掴めるかもと思っていたのですが…アレスさんがいた村が最後の希望だったのです。」

そういったムンドの目には涙が流れていた。

俺はもう一度返された指輪を見つめた。
古くなっているものの鏡面の様に綺麗に磨かれており、そこから俺の顔が映し出される。
その中に彼の妻、ローラの顔が浮かんだ気がした。
…とても悲しそうな顔だ。

俺はその指輪を握り締めある事を決意した。

「わかった、この指輪を預かろう。ただし、これはその妻を探し出すために使わせてもらう。」
「え…?」

ムンドは伏せていた顔を俺に向け、驚いたように目を見開いた。
俺はそのまま話を続けた。

「俺は今からいろんな所を回りながら旅をする、その上でお前の妻の遺体も捜そう。」

ムンドは俺の言葉にまだ実感が湧いてないようだったが、ハッと気づき慌てて言った。

「そ、そんなこといいですよ、アレスさんにそんな事頼めません…。」
「頼まれてするんじゃない、俺は自分でそうすると決めたんだ、人の妻を攫うような奴は懲らしめないとな。」
「で、ですが、私はお礼も何も…。」
「いらない、それより見つかったらちゃんと供養し直せ、わかったな?」
「…本当に、ありがとうございます…。」

ムンドは泣きながらその想いを俺に託した。
託されたからには俺も全力で探そう。
これも、妻のための旅だからな。


そうしてムンドと別れ、必要なものを揃えた俺は街の出口へと出た。
来た所からとは反対の出口で、出た途端林のような景色が広がる。
魔物についての情報もいくつか仕入れたので次の場所は簡単に決まった。
ここから東に魔物が良く出るといわれる森があるらしい。
俺はそこへ向かおうと足を伸ばそうとした。

「…。」

道の真ん中で不意に止まる。
辺りは茂みやら木が道を作るかのようにして並んでいた。
俺はそのまま微動だにせず、じっと待つ。

ヒュッ!!

突然、目の前を何かが横切った。
ストンッと音を立てて近くにある木へと何かは当たる。
見てみると、一本の矢が深々と木に刺さっていた。

「動くな、ゆっくりとこちらを向け。」

聞いた事のある声がその場に響いた。
促されるままに俺はゆっくりと向く。
そこには俺が予想してた通り、彼女がいた。

「無事だったんだな。」
「ああ、おかげさまでな。」

そこには先程兵士から逃げ延びたケンタウロスのレイがいた。
彼女は俺に弓を構え、いつでも撃てるという体勢で立っている。

構えを崩さないままレイが口を開く。

「とりあえず感謝だけはしておこう、お前のおかげで私はここまで逃げる事が出来た、礼を言うぞ。」
「そりゃどうも、だがお前たちの種族は助けた相手を脅すのが慣わしなのか?」
「普通であればしない、だが今は普通ではないからな。」
「普通ではない?それは?」

彼女は鋭い眼光で俺を捕らえたまま問いかけた。

「貴様、リザをどこへやったのだ?」
「あぁ、そういうことか。」

俺は彼女が何を考えているのかがやっと分かった。
あの騒ぎの中、俺はリザを抱え街の中へと消えた、勿論それはレイも見ていたはずだ。
普通ならリザと俺は一緒にこの街を出て待ち伏せていたレイと合流、二人とも無事で万々歳、となるはずだった。…助けるつもりならな。
だが俺が一人で街から出てきた事を不審に思い彼女は威嚇したのだろう、なるほど確かに“普通”ではないな。

「答えろ、リザをどこへやった!?返答次第では貴様の心臓を貫くぞ!!」

俺がそう思案しているとレイは言葉を荒げた、共に弓を引く力がより強くなりギリギリッと音を立てた。
今の彼女は本気だ、俺が持ってるどんな答えにも躊躇い無く矢を放ってくるだろう。
俺は慎重に言葉を選んだ、しかし…

「生きてはいる、だが場所は言っても信じない。」
「…この期に及んで隠し立てする気か、どうせ奴隷商人にでも明け渡したのだろう?卑劣な人間め!!」
「そんなことするか、第一お前を逃がしただろう?」
「リザと二人きりになる為の陽動だったのだろう!?」
「こりゃ、駄目だ…。」

こうなってしまった。
今の彼女は疑心暗鬼になっている、もう何言っても無駄だ。
リザと違ってこいつは話を聞かない性格らしい。
彼女とどうやって釣り合ったんだ?

「これ以上貴様の戯言など聞きたくない!」
「自分から聞いておいてそれはないだろ…。」
「黙れ、リザを助けに行く前に貴様の息の根を止めてやる!!」
「やれやれ…。」

俺は深々とため息をついた。
リザ、友人はもっと選んだほうが良いぞ。
今にも矢を放つという所で俺はレイに語りかけた。

「お前…腕に自信があるようだが、今までに獲物を逃がしたことは?」
「ふん、あるわけがないだろ、それにこの距離なら間違っても外す事は無い。」
「なら、今回が初体験だな。」

俺はそう言うとレイに向かって突進した。
距離が縮まる中、レイは向かってくる俺に矢を向けた。

「!!」

レイは無言で矢を引いた、彼女の放った矢は確実という程に正確だった。
音速の速さで俺の左胸に矢が飛んでくる、それを、

「な、なに?!」

事も無く掴んで見せた。


レイは驚いたように目を開ける。

音速を超える速さの矢を掴むのは容易ではないが、どこに飛んでくるのかさえ分かれば別に難しい事ではない。
彼女もリザと同じで“馬鹿正直”だ、必ず仕留めようと狙ってくる。
一本の矢で確実に相手を倒すと考えているなら、どこに飛んで来るのかを予想するのは簡単だ。

俺はレイの放った矢を捨て、一気に距離を詰める。

「ちっ!」

レイは苦虫を噛み潰したような顔で咄嗟に腰に挿してあった短剣を抜き、切りかかった。
その瞬間、彼女の前からアレスの姿が消える。
剣が当たる瞬間、彼は上に飛び上がったのだ。

「!…上か?!」

レイは反射的に上を見上げた。
日の光がまぶしい中、そこに人影が向かってくる。
それは彼女の肩に手を掛け、倒立するかのように彼女の頭上で逆立ちになる、そしてそのまま…。

「よっと!」
「な、なんだと?!」

彼はレイの背中へと跨った。

「ふーん、乗り心地は馬とそんなに変わらないんだな。」

俺が暢気に感心していると彼女は身体を震わせ俺を睨み付けた。

「貴様ぁ…降りろっ!!」
「うおぉ!」

レイは暴れ馬の如く俺を振り落とそうと大暴れした。
急に暴れだしたので俺は必死になって落とされまいともがく。

「馬鹿やめろ、なんでお前手綱が付いてないんだ!?」
「そんなものあるかっ、さっさと降りろ馬鹿者!!」
「危ないって、…あぁ!」

彼女が振り落とそうと後ろ足で立ち大きく反り返ったとき、俺は体勢を崩してしまい転落しそうになった。
俺は無我夢中になり、目を瞑りレイにしがみついた。
…それがいけなかったようだ。

「ひゃうっ!!」

俺がしがみついた瞬間、レイは奇妙な声を上げた。
それと同時に彼女の動きが止まる。

「収まったのか…?」

俺は恐る恐る目を開けた。
レイは微動だにせず…いや、微かだが身体を震わせている。
先程とは違い、怒りで震わせている訳ではなさそうだ。

「一体何が…ん?」


ぷにぷに。


手になにか柔らかい感触があった。
すべすべとしていて触るたびに手に吸い付くような弾力がある。
それに妙に暖かい、これは確か…。
視線を前へと移す。
すると俺の手が彼女の…。

「あ…。」
「…っ!」

そこでようやくレイが震えている理由が分かった。
俺は無我夢中でしがみついた結果、勢いあまって彼女の服の中にへと手を入れてしまっていたようだ。
レイの服は脇が露出している形をしているため、そのまま手が入り込みふくよかな胸を鷲掴みにしていた。
彼女は火が出るほど顔を真っ赤にし、口を開けたままあたふたとしている。

…前々から思っていたのだが彼女達の殆どは胸が大きい。
これは男を誘うために特化されているのだろうか、それとも単なる個人差で俺が出会った者だけが運良く(?)大きかったのだろうか?…やはり彼女達にはまだまだ分からない事が多い。

「なあ、そこをどう思う?」
「何を訳の分からない事を…は、はやく手を抜け!」
「あぁ、悪い。」

考えが口に出てしまいレイに怒鳴られてしまった。
とりあえず俺は彼女の胸から手を引き抜こうとした、しかし。

「あ、あれ?」

抜けない。
胸と服にすっぽりと挟まれて俺の手は抜けなくなっていた。
なんとか手を抜こうと動かすが…。

「ひっ、やめ、そんなに風に揉んだら、あぅ!」
「くそ、服が小さすぎるんだ…っと右手が出た。」

動かすたびに彼女が喘ぐのでかなり苦労してしまったが、やっとの思いで右手は出す事が出来た。
手の内で小さな突起物が固くなっていたのは言わないでおこう。
続けて左手を出そうとした時。

「ひゃ、駄目、背中に固いのが当たって…。」
「え?あ、しまった。」

レイの声のせいか密着していたせいかは分からないが、俺の股間の膨らみが彼女の背中に当たってしまっていたようだ。
俺も男だ、美人とこんな事になれば反応もする。
でも今更離れようも手が抜けないのだから仕方ない、ここは少し我慢して貰おう。

「よし抜けた、っておい!」
「ふわぁ…。」

左手を抜いた途端、レイは耐え切れなくなりその場に座り込んでしまった。
俺は降りて彼女の前へと立ち、顔色を確かめる。
顔はまだ赤いが苦しんでいる様子は無かった、少しほっとする。

「おいしっかりしろ、立てるか?」
「…。」

レイはじっと俺の方を見た。
その目はとろんとしていてわずかに微笑む姿は妖艶に映った。
そしてそのまま視線は下に行き、俺の膨らんだ股間へと注がれる。

「ほんとに大丈夫…うっ!」

急に彼女は俺の股間を弄った。
俺は驚いて彼女を引き剥がそうとしたが彼女は目もくれず、そのままズボンを下ろす。
情けなくもそこには肉棒が元気良く盛り立っていた。
それをレイは愛しいものを見るかのようにうっとりとする。

「お前何して−」
「はぁ…逞しい、すごく立派…。」

そう言いながらレイは俺の肉棒を舌で舐め始めた。
手でしごきながら、時には咥えながら、俺の肉棒を舐めまわしていく。
先程の戦士の姿とは思いもつかないほどの彼女は乱れていった。

俺は快楽に顔を歪ませながらも考える。
どうやらレイもリザと同じで、理性が無くなると豹変するようだ。
となると…これはまずいかもしれんな。
そう苦笑いすると彼女はおもむろに前掛けを捲り上げる。
そこには今までの彼女達と同様に淫らに誘う秘部があった。

今までが人型に近いものだったせいもあってか俺はレイと交尾する際少し戸惑ったが杞憂だったようだ。
それどころか逆に興味が湧き、そこに入れればどれだけ快楽を得られるのだろうと興奮が募った。
魔物娘の独特の身体、これから俺はそれに夢中になり、普通の女性では満足出来無くなっていくのだろう。

そう考えていると俺はいつの間にか自分から彼女の中へと入っていった。




「あぁっ、いいの、すき!、交尾、好きなのっ!!」

レイは俺の肉棒を身体で咥え、嬉しそうに腰を振り続ける。
彼女に抱きつかれた状態のため身動きがとれない、おまけに彼女の柔らかな胸が俺の身体に当たり、より快楽に溺れてしまう。
彼女の腰の勢いは激しさを増し、それと同時に蜜壷の締りがきつくなる。
俺は耐え切れず身体を捩るが彼女は強く抱きしめそれを阻止する。

「だめ、いっしょに、イクんだからっ!」
「うわ、これ以上…無理…。」
「じゃあ、私に、精を、中に出して!!」

レイがそういうと蜜壷を深くまでくわえ込み、肉棒を根元から絞り上げるようにして膣を動かした。
俺は軽く呻き、彼女の一番奥で射精した。

「んぁ!…あぁ、すごい…満たされてる…。」

奥の子宮に精を流し込まれ、レイは絶頂した。
俺は彼女に解放され、肩で息をしながら呼吸を整える。
彼女達の性に対しての力は半端じゃない、これから先何か対策を考えないと身体が持たなくなりそうだ。
俺はそう思いながらレイを見ていると彼女は最初、至福ともいえる余韻に浸っていたが俺と目が合うと徐々に顔が赤くなっていく。

「な、なななな?!」
「?」

彼女は胸などを手で隠し後ず去った。
俺は何事かと見ていると彼女は悲鳴に近い叫びをあげた。

「何をしてくれたんだ貴様ぁーーっ!!!!!!」




「本当に、そうなのか?」

俺は暴れ出した彼女を(痣や手形を顔に付けられながら)なんとか取り押さえ、これまでの経緯を話した。
彼女はまだ警戒しているのか近くにあった棒を構えながら話を聞いていた。
俺の記憶が正しければ俺が襲われたはずなんだが…。
いや、それよりもまずレイの豹変振りに正直驚かされている。
先程までとは顔も口調も変わり過ぎだ、今の彼女が本当なのだろうがさっきの姿を見た俺としては今冷静に話している彼女は別人にしか思えない。
二重人格だろうか?
俺が考えているのを余所に、レイは話を続けた。

「魔王様が生きておられる…同志に話す事が出来ればどれだけ心強いか…自分の無力さが情けない。」
「…お前のせいじゃないさ、その同志達も必ず助ける、そのために俺は旅をしているんだ。」

彼女は話を聞き、悔しそうに唇を噛んだ。
確かに彼女達に話せば皆は活気が戻り、体制を立て直す事が出来ただろう。
だが今はその時ではない、今伝えた所でまた勇者が現れ、同じ事を繰り返してしまう。
彼女達には悪いが、今は耐えてもらうしかない。
ふとレイは顔をあげ不安そうに俺に聞いた。

「本当に我らと人間は共存できるのであろうか?」

できるのであろうか?…彼女はそう聞いた。
答えは誰にも分かるはずが無い、たとえ世界が彼女達を認めたとしても一人一人の心を見る事は出来ない。
教会といった神に仕える組織は彼女達を悪だと信じ、疎外し続けている、これもまた大きな障害となるだろう。
だが逆に彼女達を迎えてる組織や村も存在している。
どっちが正しいのかなんて俺にはわからない。
だが俺は確信を持って答えられる。

「出来るさ…信じればな。」

彼女達や人間が生まれた意味があるとすれば。
皆に心があれば出来る。
と、俺はそう信じてる。

「…、この人となら。」
「?…なんか言ったか?」
「な、何も言ってない!」

彼女は消え入るような声で何か言ったが俺には聞こえなかった。
彼女は慌てながらも話を続ける。

「それより…私はどうすれば良いのだ?」
「お前が俺の妻になってくれればヴェンの所に送るだけだが…。」
「魔王様の命ならば仕方あるまい、わ、私はそれに従うだけだ。」
「…そうか。」

やはり、俺では嫌だろうな…。
俺は少し沈んだ顔をするとレイは慌てて訂正するかのようにいった。

「ち、違う!別に嫌々でするわけではないっ、ただ責任を取らせて欲しいだけだ!」
「せ、責任?」

オウム返しに聞き返すと彼女はそのままの勢いで話し出した。

「私は…その、お前としてしまったわけだし、子種も残してしまった。…だから。」
「だから?」
「と、とにかくっ、私の意志でお前との子供が欲しいのだ!わかったか?!」
「…あ、ああ。」

彼女の言葉に押されながらも俺は返事をする。
…さっきとは意味の違う事をいっているような気がするが。
それでも俺との子供が欲しいと言ってくれる彼女に俺はとても嬉しかった。
だから俺は…レイを選んで良かったと思えた。

「レイ、ありがとう。」
「?!…れ、礼を言われるほどでもない…は、早く送れ!!」
「わかったわかった。」

俺は彼女に怒鳴られながらもヴェンとイヤリングを通して交信した。
程なくしてヴェンと通じる。

「おおアレスか、どうしたのだ?」
「いつものやつさ、用意してくれ。」
「おお!流石だな。だが少し時間がかかる、待っててくれないか?」
「ん?どうして−」

俺がそう言いかけると向こうで違う声がした。

「はぅ〜おなかすいたの〜、まんま!」
「こら、危ないからお母さんの所にいってなさい!」
「ぶぅ〜。」

向こうがなにやら騒がしくヴェンも忙しそうだ。
だが会話の中で一部気になった点があったので聞いてみる。

「もしかして、今の声は…。」
「ああ、君とスラミーの子供だ、無事生まれたよ。」
「スラミーか、名前は?」
「それは君が決めるといい、ここに来るときにつけてあげてくれ。」
「はは、そうしよう。」

俺はそれを聞いて微笑ましくなり顔が自然とにやけてしまう。
子供が出来るというのはこんなにも嬉しい事なのか…。
俺は少し夫としての実感が湧いた気がした。

「だが、数が増えていくにして大変だよ。…食事や家事やらが大変で、ロイス君にも手伝ってもらっているが身が持たんよ。」
「そ、そうなのか?」

家事やらで忙しそうにしているヴェンを想像して俺は吹き出しそうになった。
魔王らしくは無いと思っていたが…本当に世界を支配しようとしてたのかが疑問に思えてきた。
しばらくしてヴェンが応答する。

「…よし、なんとか用意できた、いつでもいいぞ?」
「わかった、ありがとう。」

礼を言いヴェンと交信を切る。
その後、ケースを取り出し札を一枚出し強く念じた。

「それは…転送魔法か。」

しばらくしてレイから光が出始めた。
彼女は驚きもせず、光る自分を見ながら冷静に推察している。

「向こうでリザも待っているから、彼女によろしく言っておいてくれ。」
「わかった、…私は、待っているからな。」

そう言うとレイを包んでいた光が弾けた。

目を開けると、彼女はいなかった。
これで五人…いや性格には四人目の妻か、まだまだ先は長そうだ。

そうして俺は東にへと向かっていった。






11/08/10 17:47更新 / ひげ親父
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■作者メッセージ
なんとか書き終えることが出来ました。
次は多分読みきりの作品を出そうと考えております。

また次回も見ていただけるとありがたいです!
見た頂いてありがとうございます!!

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