連載小説
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3.港町に潜む闇
「エトナさん・・・ちょっと・・・」
「ん、休憩か?」

ラシッドを発って早2日。二人は海沿いの道を歩いていた。
ここまでの移動手段は全て徒歩。自給自足が基本の生活であった為、同年代と比べれば
遥に体力のあるシロだが、流石に子供には辛い。

「ごめんなさい、僕のせいで」
「いやいや、むしろ頑張り過ぎだ。あと5分位何も言わなかったら
 こっちから声かけるつもりだったし。んじゃ、ほら」

そう言いながらリュックを身体の前面、胸に移動させ、しゃがむエトナ。
シロが疲れて歩けなくなった場合、こうして背負う事によって二人は歩を進めていた。

「エトナさんの背中って、何だか安心します」
「そんなの初めて言われたな。いや、こういう事そのものが初めてだが」
「広くてあったかくて、すごく落ち着くんです」
「・・・嬉しくはあるが、ひょっとしてアタシ、オヤジ臭いか?」
「え、いやいや、そういうのじゃないです! 
 でも、僕はお父さんにもお母さんにもこういう事してもらってませんから」
「あ、悪い。余計な事思い出させちまって・・・」
「気にしてませんよ。でも、エトナさんにばかり迷惑かける訳にも行きませんし、
 次の街を出るときは馬車でも買った方がいいかもしれませんね」

二人の歩く道の数キロ先。
そこには、最初の目的地である港町があった。



「ほい到着」
「うわー・・・これが外の街なんですね・・・」

港町タリアナ。ここは漁業と貿易が盛んな港町で、人・物・金の3つが
最も集まる地だとされている。
それだけに非常に発展しており、王都に次ぐ大都市として、その名を王国全土に馳せている。

「んじゃとりあえず腹ごしらえと、宿の確保だな」
「ですね。・・・ワクワクします」

二人がこの町を訪れた理由は大きく分けて二つ。
一つは、単純に大きい街であり、世界中を旅するに当たって必要な物を
揃える事ができるから。
ラシッドだと物は多いが、粗悪品があったり、相場の倍額をふっかける者がいたりと、
色々と問題がある為、食料の類を基本とした最低限のものしか購入していなかったのである。
そして二つ目は、エトナの強い勧め。
漁業が盛んなタリアナは、エトナ好みの逞しい漁師と、うまい魚が食える街として、
シロと旅をするに当たって、最初に連れて行こうと決めていた所なのである。

「アタシに任せとけ。腹いっぱいうまい魚食わせてやるよ!」
「山にいたころは川魚しか食べてませんでしたから、海の魚をお願いしますね」



「・・・おい、もう一回言ってみろ」
「ですから、最も安い物でも金貨30枚から・・・」

港の近くの酒場。
比較的安価に酒と魚料理を楽しめるこの店は、仕事帰りの漁師と町の庶民がよく来る店である。
と言う事で、エトナは早速そこにシロを連れて来たのだが、どうも様子がおかしい。

「ざけんな! 白魚の刺身3切れで金貨30枚だ!? ここはいつから
 こんな阿漕な商売始めるようになったんだよ!」
「お、お客様! 落ち着いて下さ痛い痛いもげるもげる首がもげる!」
「エトナさんストップ! 暴力に訴えないで、まずは話を聞きましょう!」
「・・・シロが言うなら仕方ねぇか」

シロの制止の願いに渋々、ヘッドロックを外すエトナ。
店員はそのまま床に倒れたが、何とか意識は保っているようである。

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「んじゃ、説明してもらおうか。どういう訳なんだ」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・そ、それは・・・ぜぇ・・・」
「一旦呼吸を整えて下さい。それからで構いませんから」

そうシロに言われてから一分ほど、呼吸を整える店員。
何とか顔に血色を取り戻し、語り始める。

「つい先月、領主様が病に倒れ、完治するまでは、ご子息が代行を務める事になったのですが、
 領主様の息子は何といいますか・・・その、所謂ドラ息子でして。
 税金は上げるわ、上質な魚は独り占めするわ、密漁や乱獲を推し進めるわ・・・
 おかげで、街は衰退する一方でして・・・」
「なるほど。確かに、乱獲により供給が減少すれば、必然的に価格を上げざるを得ませんからね」
「キョウキュウ? 重量級みたいなやつか?」
「でも流石に金貨30枚というのはどうでしょうか? 均衡価格から外れてると思うのですが」
「キンコウカカク? 有名人か何か?」
「・・・エトナさん。用語は後で説明するんで、申し訳ないですが少し黙って頂けますか?」
「ん、そうか。なら黙る」
「ごめんなさい。・・・えっと、店員さん。その辺りいかがなのでしょうか」

シロが価格に対する質問を投げかけた途端、店員の顔が曇った。
同時に、目が泳ぎだす。

「そ、それはですね・・・あ、私はまだ仕事があるのでこれで!」
「え、ちょっと店員さん!?」

答えを返さず、逃げる店員。
後には、呆然としているシロと、依然として頑なに口を閉じてるエトナが残った。



「つまり、供給が減って需要が高くなれば均衡価格は上がるのか」
「そういう事ですね。・・・だけど、気になりますね。あの店員さんの反応」

とりあえず店を出て、エトナに軽く需要と供給の原理を教えながら歩くシロ。
自分の素朴な疑問に対して動揺した店員に懐疑の念を抱いているようである。

「乱獲や独占で供給量が減ったとしても、あそこまで極端には上がらないはずです」
「前行った時は銅貨が5枚もありゃ酒と小鉢が出てきたっつーのに・・・
 全く、ドラ息子にも困ったもんだな」
「そこなんです、エトナさん」

シロが立ち止まり、エトナの方を向く。

「店員さんの話ですけど、色々とおかしい所がありますよね?」
「・・・へ?」
「まず一つ、領主は何故、病床に就いた自分の代理をドラ息子に任せたのか。
 二つ目に、供給が減ったからと言って、何故あそこまでに極端に価格を上げたのか。
 三つ目に、どうしてその理由を暈したのか」

人差し指、中指、薬指と順に指を立てながら話すシロ。
エトナは今ひとつ、話が飲み込めていないようである。

「何かおかしいか?」
「これだけの街を治める領主です。人望に厚く、有能な方でなければ務まらないでしょう。
 そのような人物が何故、自らの息子とはいえ、無能な者を代理にあてがったのでしょうか」
「・・・ふむ」
「そして、金貨30枚からのメニューしか用意していない酒場なんて、
 余程の高級店か、貴族からの寵愛を受けでもしない限り潰れます。
 しかし、あの酒場にそんな気配はありませんでした。加えて、
 僕の質問に対してのあの店員の反応・・・間違いなく、何かを隠しています」
「確かに、そうだろうな」
「ここからは、僕の仮説になりますが・・・」

シロが話し続けようとした途端、大きな音が鳴った。
発生源は、すく側の腹である。

「・・・こればっかりは生理現象だ」
「いえ、大丈夫です。とりあえず、宿を先にとりましょう」



「・・・今日は耳の調子が悪い日だな。もう一度言ってくれ」
「二人部屋は一泊、金貨400枚に・・・」
「お・ま・え・も・かー!!!」
「エトナさんストップ! ストーップ!!!」

郊外に立ち並ぶ宿屋へと足を運んだ二人だが、そこに待ち受けていたのは
またしても法外な金額を要求する店だった。

「どういう訳だ!? 金貨400枚って家が建つ金だぞ!?」
「そう仰られましても、これが当店の価格でして・・・」
「・・・受付さん、ちょっといいですか」

背伸びをして、受付のカウンターに顔を出すシロ。
それを見たエトナは、咄嗟にシロを抱え上げた。

「大丈夫か?」
「あ、エトナさんすいません。・・・それでですね、受付さん」
「はい、何でしょうか?」
「一つ聞きたい事があるんです。
 ・・・仮に、『僕だけが』泊まるとしたら、いくらになりますか?」

受付員の顔が、曇った。

「18歳未満の方のみでの宿泊は、ご遠慮させて頂いて・・・」
「僕が泊まれる年齢だと仮定して下さい。その場合、同じ部屋だといくらですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

沈黙する、受付員。
3分後、漸く口を開け、小さく声を出した。

「・・・一泊、銀貨2枚です」
「・・・は?」
「やはり、ですか」

ただ一人、納得した様子のシロ。

「分かりました。それでは失礼します。エトナさん、降ろして下さい」
「え? あぁ、・・・ほら」
「・・・またのお越しをお待ちしております」
「はい、それでは。エトナさん、ほら」
「え、ちょ、シロ!?」

エトナの手を引き、宿の玄関へと駆けるシロ。
それにつられ、エトナも同じ方向へ走った。



「分かりましたよエトナさん。今、この街がどうなっているのか」

宿屋を出た後、唐突にシロは言い放った。

「・・・どういう事だ?」
「今から説明しますね。・・・まず、先程の事から分かった事。
 この街は、魔物に対して大きく圧力をかけています。
 僕だけなら銀貨2枚で泊まれる部屋が、エトナさんと一緒だと金貨400枚に跳ね上がったのが
 その証拠です。多分、さっきの酒場も僕一人なら適正価格で飲食が出来るはずです」
「ほー・・・あれ、それじゃどうして何処の奴もそれ言わなかったんだ?」
「恐らくは・・・良心の呵責といった所でしょうか。
 エトナさんは、前にここに来た事があるんですよね?」
「(両親の仮借・・・?)あぁ、そん時はふっかけてくる奴なんかいなかったな」
「という事は、この街は親魔物派か、少なくとも中立。
 これといった理由も無いのに、魔物を差別したりしないはずです。
 つまり、この街は最近大きく変化し、反魔物へと傾きつつある。
 そして、僕たちが知ってる中で、この街の変化と言えば・・・」
「・・・領主が変わった事」
「その通り。恐らくはその際に、魔物に対して圧力をかける政策を進めたのでしょう。
 しかし、この街は貿易で栄えた港町です。それだとおかしいんですよ」
「・・・何がだ?」
「交易相手には少なからず、魔物もいるはずです。
 サイクロプス作成の武器、ホルスタウロスのミルク、マーメイドの血・・・
 魔物からしか得られない物は星の数ほどありますし、商人として訪れる魔物もいるでしょう。
 だというのに、どうして魔物に圧力をかける必要があるのでしょうか?」
「領主代理のドラ息子が魔物嫌いなんじゃねーのか?」
「・・・そこで、です」

シロは一旦話を区切り、右手の人差し指を立てた。

「一つ目。『領主は何故、病床に就いた自分の代理をドラ息子に任せたのか』。
 これなんですが・・・もしかして、領主は病に倒れたのではなく、
 誰かの陰謀によって、政から退かざるを得なくなってしまったのではないでしょうか?」
「・・・祭りごと? 何の祭りだ?」
「・・・政とは要するに政治の事です。つまり、薬を盛られたり、
 弱みを握られ脅迫されたり、・・・最悪の場合、暗殺されたり。
 いずれにせよ、自分が倒れた時の後継者は決めていたはずです。
 まさか、一国の領主ともあろう者が、ドラ息子に大役を任せるほどの親バカでもあるまいし、
 少なくとも、自分の息子に代理を任せるということはありえない。
 つまり、領主は誰かの策略によってその地位から追いやられ、なおかつ、
 代役をドラ息子にされてしまった。
 ・・・全て、僕の推測ですが、もしこれが真実なら、一つ目の疑問が解決します。
 例えば、街を乗っとるつもりなら、権力者は無能である方が何かと都合がいいですからね」

神妙な面持ちで自身の推理を語るシロに、エトナは引き込まれ、押し黙っていた。
人差し指に加えて中指を立て、さらにシロは語り続ける。

「二つ目。『供給が減ったからと言って、何故あそこまでに極端に価格を上げたのか』。
 結論から言うなら、魔物に圧力をかける為だとは思いますが、
 領主代理がそうしたとは些か考えにくいです。」
「そりゃまたどうして?」
「税金を上げ、上質な魚を独占し、後先考えず乱獲を勧める。
 モロに欲望のままに動いているじゃないですか。
 食欲、金銭欲と、非常に分かりやすい欲望の下に行動しています。
 ・・・ところでエトナさん、人間の三大欲求ってご存知ですか?」
「メシ、寝る、女?」
「・・・呼称が違いますけど意味は合ってますね。仰るとおり、食欲、睡眠欲、そして性欲です。
 多分、領主代理は魔物娘が大好きですよ。己の性欲を解消する玩具として、ね」

吐き捨てるように語るシロ。
その姿に年相応の幼さは無く、人生を悟った老人の様な雰囲気を醸し出している。

「・・・ませガキが何を言うか。つっても、悔しいがしっくり来る」
「ごめんなさい。口が過ぎました」
「いや、気にすんな。お前はそこらの男より濃い経験してるし、言ってる事は間違っちゃいねぇ」
「・・・では、続けさせて頂きます。
 よって、魔物を弾圧するような政策を進めようとしているのは別の誰か・・・
 目的の達成の為、力で圧倒的な利を持つ魔物を街から断絶し、
 いくらかの金を掴ませたりして領主代理を操り、実質的な権力を握る黒幕・・・
 恐らく、この謀を企てた方だと思います。仮に『X』とでも言いましょうか。
 もしもXが存在するとしたら、狙っているのは街の乗っ取り辺り。
 これだけの大都市を手中に出来れば、王国全土の人と物と金の半分を手に入れたと同義ですからね」
「汚ぇ野郎だな・・・」

エトナの拳が怒りで震える。
シロはそれを左手で押さえつつ、右手の薬指を立てた。

「三つ目。『どうしてその理由を暈したのか』。
 多分、この街の人々の殆どは政策に納得出来ていません。
 それも当然。商売相手となっていた魔物がいなくなれば交易の収入は減る、
 物の流通が悪くなると、何一つ特をする事がありません。
 となると、恐らく皆さんの大部分は多分親魔物家か、それ寄りの中立か。
 弾圧する為に法外な料金を請求する、というのも本意ではないはずです。
 しかし、命令に背けば胴体と頭が離れる事になる。
 きっと、自分の為に弾圧しているという事を魔物の皆さんに知られたくなかったのでしょう。
 だから、値段の説明をしたがらなかった・・・の、かもしれません」

そう言うとシロは右手の立てていた指三本をゆっくりと折り、
軽く息をついた後、さらに続けた。

「仮に僕の推測が全て合っているとして、これら三つをまとめて言える事。
 この街は・・・転覆の危機に瀕しています。
 僕の妄想ではなく、本当にXなる人物が暗躍しているとしたら、
 領主の失脚、自身の実質最高権力者化と、すでにステップ1、2はクリア済。
 ステップ3『領主代理を失脚させ、名実共に最高権力者となる』の達成も時間の問題です。
 このやり方の上手いところは、決して事を拙速に進めていないこと。
 この街の規模を考えると、無理に征服しようと大きな動きをしたら、
 民衆のクーデター辺りでボコボコにされるのがオチです。
 その点、これは民衆に気付かれぬ用に事を運ぶことができ、
 民衆が気付いた頃には既に手遅れ、どう足掻いても覆らない所まで行ってしまった・・・
 という事にできます」

残酷に、かつ的確に想定される事態を語るシロ。
その目に光は無い。

「・・・・・・嘘、だろ・・・?」

呆然とシロの話を聞いていたエトナが搾り出すように出した言葉。
その声は、シロがゆっくりと首を左右に振る音でかき消された。

「勿論、これらは全て僕の推測。穴だらけの仮説です。
 領主が親バカなだけかもしれませんし、息子が魔物嫌いだっただけという事もありえます。」

辺りを静寂が包む。
長い沈黙を先に破ったのはエトナだった。

「・・・正直、まだ何が何だかよく分かんねぇが、シロの推理に妙な説得力がある事も確かだ。
 なぁシロ、もしもそのXとかがいたとしたら、どんな奴だ?」
「そうですね・・・この国を手に入れる事によって大きな利を得る事ができ、
 策略を的確に行える頭脳と手腕、人脈を持ち、暗殺すらも辞さない残忍な性格で、
 なおかつ魔物に敵愾心を持っている人物・・・となると・・・」

そう言ってから十数秒。
シロの出した答えは。

「教団と密接な関わりのある、この街の大臣クラスの人物・・・といった所でしょうか」
「ほー・・・確かに、トップに立とうとする野心を持ってる奴がいれば、
 そんな事をしでかそうとするかもしれねぇな」
「・・・あの、エトナさん!」

急に力強く、エトナの名を呼ぶシロ。
表情からは自身の推理を話していた時の厳しさは抜けているが、
その語調は、強い意志を感じさせる。

「お願いがあります」
「・・・何だ?」
「僕に考えがあります。でも、その為にはエトナさんの力が必要なんです。
 ・・・どうか、力を貸して下さい! お願いします!」

シロは勢いよく頭を下げた。
それとほぼ同時に。

「当然! うまい魚も食えずに、この街出てたまるかっての!」

二つ返事で、エトナは応じた。
12/01/01 23:36更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
皆さん、あけましておめでとうございます。今年も宜しく御願い致します。
年内に更新しようと思っていましたが、
年を跨いでしまいました。
一先ず、最初の山場です。果たして二人は街を救うことが出来るのか。

ちなみに、この山場を越えた後、ようやっとイチャラブシーンに突入します。
過度な期待はせず、ほどよい感じでご期待下さい。

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