読切小説
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先輩と私と私。

Q.ハロー私。今の状況を説明しなさい。
A.グッドイブニング私。今現在、体育ホールの倉庫に呼び出されて部活のセンパイに押し倒されています。

「さあほら!これが欲しかったんだろう!?」
言うが早いか、男がカチャカチャと音を立ててまろびだそうとしたソレを、私は視界に認めることもなく、爪先でぺちゃんこにしてやったのだった。

絶叫をバックに薄暗い倉庫の天井を仰ぎ、私は思考する。
今のこの世界は間違っている。
世に曰く、昔々その昔…魔王代替わりしたそのときに、あまねく全ての異形(モンスター)は淫靡なる女の仮生、魔物娘に成り果てたと聞く。
その全てが男の精なくして我在らず、これと決めた男は基本的に裏切らず浮気も寝取られもノーセンキュー。おいおいマジかよ、しかも逆に男が幾人も女を娶るハーレム展開は場合によってはアリっちゃアリだと言うのだから、もう片腹痛いにも程がある。
あらゆるニーズにお応えするが如く、多種多様な異形の美女が”図鑑世界”と呼ばれる異世界から来訪する時代。貧乏不細工何のその、人間女性に見向きもされないあなた様のため、夜毎おまたをしとどに濡らしておりまする、だなんてね。
お前それ、それはどんな都合のいい…お前妄想も大概にしないと現実に置いてきぼりを食らって将来泣きを見るのはお前だぞお前。
と、ジパングは有名どころの超高いマウンテン(多分向こうにも富士山的な山があるんだと思う)の山頂から魔王城まで届かんばかりに声を大にして言ってやりたいのだ私は。
だ と い う の に だ。
何の悪夢か幻術か、その野郎様共に大変ご都合の良くていらっしゃる妄想は、紛れもなく私の現実なのだ。
朝起きれば母と姉が父の朝立ち白チョコバナナ(隠語)を賭けて二人ジャンケン大会、通学路を行けばそこらの路地裏からアンアンと嬌声が響き、教室に入れば公然と舌を絡め合うクラスメイトの姿。
右も左も地獄天国桃色花畑、こんな世の中に誰がした。
ノーモアファック、ノーモアセックス!
一体全体誰に責任を求めればいいというのか、悪者は誰だと聞かれれば…そりゃあもう、取り敢えずは目の前で股間を押さえて悶え苦しむこの男。
全く、たちが悪いったらありゃしない。
「おうふ…久留美ちゃん…これ……これマジでヤバイって…僕のアソコ、いくらハイジに叱咤されても二度と立ち上がれなくなっちゃうってマジで…」
クララに謝れドサンピン。私が必殺シュートを決めたゴール(隠語)を両手で庇いながら、男はマットの上でくねくねと身を捩らせる。
その妙に余裕のある苦しみ方から見るに、どうやら必ず殺すと書いて必殺シュートの看板は仕舞わないといけないらしい。
それにしてもまだ生きてやがりましたか、たくましいですねセンパイのその、陰部は。
「何気に、手加減、してくれた…お陰でな…ぐふっ……あ、久留美ちゃん、今の恥ずかしそうに発音した『センパイのその、陰部は』ってところワンモアちょちょちょ怖い怖い!笑顔可愛いけど怖い!殺さないで下さい何でもしますから!!」
リッチをベースに出来ている私にちょっと仲間意識を芽生えさせるほど青ざめて命乞いをする男。ふん、情けない。まあその危機感はごもっともだ。こちとら半分は肉食昆虫、実行には移せずとも殺気だけは本物である。
そう、部活のセンパイだからといって手加減をする私ではない。遺憾なことに私だって一応曲がりなりにも魔物娘のはしくれ、命に関わる怪我を負わせるのは本能が拒絶する。
そうでもなければこんな男…私は、センパイなんかを指先ひとつでダウンさせるのに欠片ほどの罪悪も感じないし、命乞いだって歯牙にもかけない。冷酷!残忍!そんな揺るぎない意思が私にはある。あるのだ、意思だけなら!
なのに魔物娘の本能がこの男に然るべき制裁を下すのを邪魔する、そんな私が現実の私だ。神は死んだ!
だいたい人を体育館倉庫に呼び出しておいて開口一番
『ぼ、ぼ、僕の娘を産んでくれ!』
などとおっしゃいますセンパイが居たら普通の女子ならどうします?私としてはその不埒な息子さん(隠語)を、右腕に備わった自慢の鎌で打ち首の刑に処して即座に墓に放り込み経など読みながらお香まで炊いてやりたいところ。センパイの事はそう悪からず思っていただけに裏切られた思いだ。幻滅ですよ幻滅。
普通の女子に産まれなかったこの身の不幸を嘆くばかりである。
「でも久留美ちゃん、あのとき顔真っ赤にして嬉しそうに見えたんだけどなんでもございませんごめんなさい!ゆるして怖い!」
しゃらんと鎌を鳴らせば震え上がるくせに、これだから本当にたちが悪い。
『嬉しそう』か…確かにその瞬間、私は少しばかり笑っていたかもしれない。笑顔とは本来攻撃的な表情であり、『僕の娘を産んでくれ』だなんてセクハラどころじゃない発言に対して、怒りで口角が歪み、羞恥のあまり頬が染まったというわけだ。
だが悲しいかな、それを「魔物娘はエロいことが好き」という常識いやさ偏見が、健全なお年頃の男子から正常な想像力を奪って勘違いを生んでしまう。
丁度この哀れなセクハラセンパイ、略して…略して…略……センパイが、あろうことか私と両想いだなどと勘違いをしたようにだ。
「うまい省略の仕方を思いつかなかったんだね。せっかくだからダーリンって呼んでみてはどうだろうか、脈絡は無いけど僕が喜ぶよ!」
う る さ い だ ま れ。
さもなくばセンパイの先程までの恥ずかしい言動を丁寧かつ事細かに解説しますよ。
「え、ちょ、は、恥ずかしくねーし!ちょっとノリに身を任せたっていうか暴走しちゃた感あったのは認めるけど、健全なお年頃の男子としては優等生的アクションの数々だった…よね?」
あーあ可哀想に、素直に己の愚行を省みればいいものを。覆水盆に帰らずという言葉の教訓が文字通り盆ではなく水泡に帰すがごとき軽挙妄動。言ってしまったよこの男は。
良いでしょう、では処刑開始だ。
「えっ」

はい発表します、センパイの「相手が魔物娘と思ってやっちゃった」その一。
”告白した相手の返事も聞かずにマットに押し倒して鼻息も荒く『もう我慢出来ないんだ…僕の気持ち、受け止めて欲しい』とのたまう。”
「い、いやああああ!?やめて許して久留美ちゃん!声色まで真似しないで冷静に聞くとすげー恥ずかしいからそれ!」
端から見れば「勘違い野郎のレイプ現行犯」以外の何物でもなく、魔物娘でも良識がある種族なら通報待ったなしの状況下なのは火を見るより明らか。ソレに気づくこともなく自然に次の行動に移れるのだから、良識のある身としてこの男の厚顔さにはほとほと呆れるばかりである。
「あ、でもその蔑みの目線も悪くないかも…やっぱり君は僕の一番星だ、久留美ちゃん。」
ほ と ほ と 呆 れ る ば か り である!!
何をこ、この、この男は本当に、何を訳のわからないことを言っているのだこの変態!変態!!
「ストレートな好意に弱いので照れちゃって言葉が乱れる久留美ちゃん、ポンコツ可愛いぜ。」
おおお女の子がちょっと動揺するとすぐつけあがるのは童貞の共通事項なのであろうか。無視無視!

はい、続けてセンパイの「相手が魔物娘と思ってやっちゃった」その二。
”人が親切にも『ダメですセンパイ』と合意もなくおっぱじめる気のアホを制止してあげたにも関わらず『大丈夫、この時間なら誰も見てやしないさ、声も我慢しなくて良いと思うよ』などと頓珍漢なことを言って、さもそれが当然のごとく試合続行。”
「うわ!ウワアアア恥ずかしい!でもあれだよ?久留美ちゃんが恥ずかしがってると思ったゆえの心遣いのつもりだったんですよ?」
と、大真面目にセンパイは言う。恥ずかしいのはお前の存在そのものだよ。
最近多いのだ、「セックスを嫌がる魔物娘が居るわけがない!」なんて歪んだ先入観を後ろ楯に、脳内で”魔物娘=押し倒しせばモノに出来る都合のいい女”という図式を組み上げてしまうおめでたい精神の持ち主が。

…そんなんだから「魔物娘の存在は性犯罪を助長している」といった世論がまかり通ったり、私のような良識あるレアな魔物娘が『ムッツリスケベ』だの『ビッチ』だの『ファザーファッカー』だのと陰口を叩かれ、肩身の狭い思いを強いられる羽目になるのである。
小学生の頃からですよ小学生の頃から!そりゃそんなイジメられ方したら、嫌でも人間界のオールドファッションな倫理観が身につくってもんです。
あ、いや、古くない古くない!むしろ魔物の常識の方が斬新すぎてついていけないんです。性欲なんて飾りです!エロい人にはそれがわからんのです!!
「ハイハイはーい!意義あり!!意義ありです議長殿様!」
「殿」と「様」でなんか江戸時代みたくなってません?更にどちらかと言えばこの場合私は議長じゃなくて裁判長だこのレイプ未遂男!
ですが、被告人の正座で手を上げて発言するお行儀の良さに免じて、反論があるなら聞くだけ聞いてやるにやぶさかでもありませんよ?
ご自分の性欲&勘違いであわや犯してしまうところだった過ちを、正当化出来るものなら…
「久留美ちゃんて僕のことすっごい好きだよね?」
………。
「………目をそらした。」
き……………嫌い、です。センパイなんて、大嫌い。
「久留美ちゃーんはー?嘘をつくときにー?み、ぎ、う、で、の、か、ま、が」
…っ!
「ほら隠した!カマをかけてみました鎌だけに!」
ッセンパイのアホバカ卑怯もの変態セクハラ魔神えぐれキントン!!!!そういうたちの悪いところ本当に大嫌いです!嫌い嫌い大っ嫌い!!スライムの乳首にちんこぶつけて死んじゃえバーーーーカ!
「うおっ!危ないから振り回すなよソレ!?図星を指されたからってあ痛っ!」
…あ、血…
「いてて…でもかすり傷だ。唾つけとけば治るかな。」
ご、ごめんなさい、センパイ…その、わたし、違うんです!死んじゃえなんて、言葉のあやで、私そんなつもりじゃなくて…~っ失礼します!!
「まあ逃さないわけだけど。僕だって都合が悪いと逃げに回る君の癖は嫌いだぞ。」
きら、い…?
あ、い、イヤです、嫌いなんだったら放してください。いいじゃないですか嫌い同士なんだから!センパイとは、も…もう口もききたくありません!
「君が嫌いだなんて言ってないよ、それに僕からはまだ言いたいことが山ほどある!」
聞きたくありませんって!
「僕は君が好きだ!だから押し倒した!」
……。
「久留美ちゃんが魔物娘だとか関係、は、なくはない。むしろある。けどもだ!僕は、君と両想いだって確信があったから、あんな暴走しちゃったんだよ。」
思わず縋りつきたくなるような見え透いた弁明に、だが私はチクリと刺すような痛みを覚える。

センパイの言うことは半分正しい。かも知れない。
いつからなのだろう、私の心臓は生まれたときから停止していて、痛みなんて感じないはず。なのにいつからか、センパイの声を聞くたび、センパイの顔を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚に襲われるようになっていた。
痛くて、苦しくて、自分の鼓動がうるさくて、そのたびに私はひどく怯えてしまう。いつかこの鼓動がセンパイにまで聴こえてしまったら、この胸の苦しみを悟られてしまうのではないかと。
私は多分、センパイの事が好きだったのだ。
そして案の定、センパイにはとっくの昔にバレていたようで。

けれど、センパイの言うことは半分間違っている。
いくら能書きを並べたところで、男という哀しい生き物が魔物娘に求めるのは、詰まるところがエロである。
この男の論調から察するに、私を好きになったのはエロいことが一義的な要因ではないとそう主張をするつもりらしいが、『僕の娘を産んでくれ』発言とそのまま押し倒したという既成事実が揺るがない以上、その嘘は根本的に破綻せざるを得ないのだ。
私は生まれつき独占欲が強く、自らが魔物娘でありながら魔物娘という存在の在り方には懐疑的だった。
だから、母と姉のように親子で夫を共有するなんてのは受け入れ難いし、体目的とか子作りとか、そういう肉体的な要素抜きで私を見てくれる人と恋がしたかったのだ。
しかし先ほど、そんなささやかな願いを叶えてくれるかも知れないと思った相手が、それがどんなに淡く脆い願いなのかをこうしてイヤというほど思い知らせてくれた。
押し倒された瞬間、心が凍りつくような感覚に襲われた。
この人ならもしかしてと、そう思っていたのに。
好きだと言われて嬉しくないわけがない。その後の愚行に対する悲しみの深さは、そのまま私のセンパイへの思いの深さだったのだ。

私の想いとセンパイの望みはすれ違い、もう二度と逢うことはない。
この恋はそもそもが噛み合うことのない歯車で構成されていて、その真実が現実に追い付いてしまった今、ただ崩れ去る瞬間を待つばかりなのである。
私の恋は絵に描いた餅。
彼の愛は欲望の勘違い。
それが答えだ。
「久留美ちゃん…実は僕、魔物娘が嫌いだったんだ。憎んでいたと言ってもいい」
そう、いくらセンパイが魔物娘嫌いだから、と、言って……!?
え……………え、なに?なんて、言ったの、今。
嫌い?センパイが、魔物娘を憎んでいた?
うそ、だってさっき好きって、やっぱりそれが嘘?
つまりえーと、センパイは魔物娘を憎んでて、私がセンパイに好意をもっている事を知っていて、告白されて、嬉しくて、押し倒されて、裏切られた気持ちになって、それはつまり、センパイは最初から…私を傷つけるつもりで?
そんな…やだ!それは、そんなのはあんまりだ!!
どうしたんだろう、視界が暗い。
魂が千々にちぎれてしまったのか、まるで考えがまとまらない。
お笑い草だ、私はこれだけセンパイのことを拒絶しておいて、馬鹿みたいに鎌を振り回して怪我までさせて、なんて無様な!
…今更になって、聞き違いであって欲しいと祈らずにはいられないなんて。
私の中で私が暴れまわる。
イヤだイヤだと、まるでだだをこねる子供だ。
助けて、痛いのが止まらない。
目眩がする。
もうよせば良いのに、諦めてしまえば楽になれるのに…この期に及んで私はまだセンパイをこんなに好きで、好きで!大好きだったんだ!!
そのセンパイにとって私は、憎しみのはけ口でしか…酷いですよ、そんなの。
最初からセンパイが私なんかを好きになるはずなかったんだって、必死に目を背けていたその事実が、こんなにも深く私の心臓を貫いて…
「落ち着け馬鹿者。」
衝撃、暗転、密着。
でこぴんされて目の前が暗くなったと思ったら、振り払う間もなく抱き締められていた。
「言っただろう久留美ちゃん、僕は、君が、好きなんだ。」
魔物娘の身体は不便だ。こんな単純な手で力が抜ける。
センパイの手は私を決して離すまいと、両肩をしっかりと掴んで引き寄せて、こんな近くでセンパイの臭いを嗅いだのは初めてで…なにこれ、どうすればいいの?くらくらして、顔が焼けるように熱い。さっきまでの湿った思考は、焼き払われて空っぽになってしまった。
魔物娘の私が振りほどけないとか、どんだけ離したくないんですか。もう身体に力が入らないのかそれともセンパイの包容力がインキュバス並みなのか分からなくなってきた。
「僕は魔物娘全般が嫌いだった。妻子持ちの兄貴をレイプしやがったヘルハウンドをブタ箱にぶちこんでやるために、魔法技術科のあるこの大学を受験したくらいさ。でも、君に恋をした。してしまったんだ。」
抱き締める力を強めて、むちゃくちゃなことを言い出した。前振りと結論を繋げる行間が読めそうもない。
あと痛い。そっち方面に目覚めたらどう責任とってくれるのか。
なんでそんな、私なんかに。
「ばか、なんかって言うな、なんかって。そりゃあ、部活に入部してきた君に最初はイラついたさ。どうせモテない男でも漁りに来たんだろうってね。」
無理もありません、エロゲ研究会でしたし。
「しかもゲームの趣味がまるで合わないでやんの。即抜き系のSM調教凌辱痴漢レイプ近親姦が好みとか、ケッさすが魔物娘ド変態だなって思ったよ。」
せ、性欲と恋愛は切り離して考える主義なんで、ほっといて下さい。
そういうセンパイはシナリオ重視の異種姦純愛モノにご執心でしたね、沙耶○唄でマジ泣きするような人、初めて見ましたよ。
「いやあれは泣くだろ普通。そのくせ、僕のことをいつもチラチラと見てくるのに、一向に積極的なアプローチをしてこない。どういう悪巧みをしてるのかって気が気じゃなかった。」
だってセンパイ、あんな部活してるのに私に対しては警戒心丸出しで、下心のしの字も見えないんですもん。今までにないタイプだから、もしかしたらって…
「でも、全てが変わったよ。あの日、一緒に廊下を歩いててさ、クラスの女子が君の陰口を言ってるのを聞いた時の、君の顔。」
ああ、あのときですか。自分ではどんな顔してたかよくわかりませんけど、そんなに変な顔してましたか?
「今にも泣きそうな、迷子になったネコみたいな顔でさ、今でも目に焼き付いてる。ズルいぜ久留美ちゃん、おかげさまで君の印象が180度変わっちゃったじゃないか。男はそういうところ見ちゃうと、僕が守ってあげたいって思うもんなんだぞ。」
ちょ、やめてセンパイ!捏造です妄想です、そんな顔してません。決めつけないで下さい恥ずかしい!
「もっと久留美ちゃんのこと知りたいと思った。適当に話題を振ってみたら、これが楽しくってさ。どこからあんなヘンテコな罵倒が生まれるんだって、もう夢中さ。」
せ、センパイの趣味が理解不能です。やっぱり変態じゃないか…
「で、知れば知るほど好きになった。いつも右腕にだけついてる鎌で誰か傷つけてしまわないように気をつけてる臆病なところ。そのくせすぐテンパって部室をズタズタにしちゃうドジなところ。僕以外の学生とはほとんど口を利かない偏屈なところ。あんな趣味してるのに、下ネタ振るとセクハラ認定してくるムッツリスケベなところ。」
いい加減にして下さい、全部欠点じゃないですか。喧嘩売ってるなら二割引で買いますよ。
「君は魔物娘で見た目はすっごい美少女なのに、性格とか考え方は本当に普通の女の子で、皆はそれを知らない。そして、周りと壁をつくってる君が僕と居るときだけはすごく隙だらけで、特別に想われてるんだなってビシビシ伝わってくるんだぜ。正直、堪らないよ。」
せせせセンパイは自意識過剰な勘違い野郎ですね!?やっぱりタダで買ってやりますよその喧嘩!1秒でノックアウトして差し上げますよいつでもかかってきなさいなほら!
「本当に嫌なら振りほどけよ。僕は抵抗しない、けど何度だって言ってやる。」

「君に夢中なんだ、久留美ちゃん。」

あ、く。
ひ、卑怯ものぉ…。
「いや、どちらかというと卑怯ものは久留美ちゃんの方だよ。僕は思いの丈をぶちまけたのに、まだ君の返事をちゃんと聞いてないぞ。」
ふぇ!?えええええ!?
え?つまりこれは攻守逆転…センパイの気持ちは本物で、私はそれに応えなければいけない場面になったというあれでいいんだろうか!?
成功率100%の告白チャンス。神の悪戯か悪魔の罠か…いや罠だろこれ!
どうしよう、どうすればいい?誤算だ、落とし穴だ、闇討ちだ!だって仕方ないじゃないか!私は今の今まで片想いのつもりで、センパイがそこまで誠実に想ってくれていたなんて知らなかったのだ。
私は今だかつてない喜悦と混乱の中にあって、元凶はこうして私を抱き締めながら耳元に愛を囁いて誘惑してくる。
悪魔だ。センパイの姿をした悪魔だ。
どうしてこの人はこんなにも私の心臓を鷲掴みにして、どうしてこんなにも力強くて暖かい胸板が視界を独占していて、頭がクラクラする中毒性のいいにおいがするのだろうか。
いや、もう罠でもいい、勇気を出して答えよう。
でなければこの世界で一番のイケメン(私視点)は私を見捨てこそしないものの、他の誰かにとられてしまうことは想像に難くない。人生最初で最後の大一番、私の本当の気持ちを伝えるのだ。
それから…貴方の気持ちを疑ってごめんなさいと謝ろう。
「うは、嬉し恥ずかし葛藤に悶える様が全部顔に出ちゃってる純情な久留美ちゃん最高ぅ!」
何勝手に覗き込んでるんですかしばき倒しますよたわけ!!ああもうなんかこの人にごめんなさいするの凄く釈然としないんですけど!
「え、別にいいよそういうの。」
えっ…でも、私!
「いいよ。久留美ちゃんが人の好意に臆病で素直になれない困ったちゃんなのは、僕が一番知ってる。」
飴と鞭か!人の泣き所を指摘することに微塵の躊躇いもないくせに、こういう肝心な場面で甘やかしてくるところは本当にたちが悪い。
「それに、僕が聞きたいのはそんな言葉じゃない。わかるだろう?久留美ちゃん。」
……。
深呼吸をしたら、身体の震えは止まり、躊躇いは一瞬だけ。
センパイは悪魔です。私の魂でよければ差し上げるので、ひとつだけお願いを聞いて…わ、私と付き合って、下さい!

私、センパイのことが…すみれふ!!
「…うん?」

よくわからなかった人のために簡潔に解説しよう。
人生19年、私は生まれて初めての愛の告白で「噛んだ」のだ。
これは重大な過失であり、被告人に情状酌量の余地がないことは疑いようもなく、満場一致で有罪ギルティー即刻死刑。兎に角一刻でも早く墓穴に入らなければ処刑を待たずして恥ずか死んでしまう。私に似合いの断頭台はどこだ!
「く、久留美ちゃん…うわっ!暴れるなよ危ない。」
イヤー!!そんな目で私を見ないで!殺して!早く私を殺してー!!
「ちょ、待って、何処に行くんだ!久留美ちゃーん!?」
……。
「…?」
…出来れば、その、死ぬならセンパイの腕の中で。
「あ、ハイ。お帰りなさい。」
帰巣本能のように刻み込まれた、ぎゅっとされて密着するこの中毒性。もう、あらゆる意味で私の敗けだ。生きるも死ぬも、センパイ無しでは不可能の身となってしまった。
「ねえ、久留美ちゃん。」
なんでしょうか。未来の旦那様。
「セックスしたい。」
………この人ときたら。
もう、私の敗けですから。本当はこんな場所じゃイヤですけど、その…好きに、すればいいじゃないですか。


結局、センパイには悪いのだけど、放課後私の部屋まで我慢してもらったのであった。
いくらセンパイのためとはいえ、人目に触れる危険性や昼間から情事に及ぶことへの羞恥に耐えられる自信はまだ無い。大学に入ってから独り暮らしを始めて本当によかったと思う瞬間である。
「ねえ久留美ちゃん、『私を好きにして下さい』ってやつ、もう一度色っぽく言って貰ってもいいかな。」
鬼か!「俺の○を越えていけ」の朱天童子か!ちんちんへし折りますよ。
「ははは、こやつめ、ははは。それにしても、久留美ちゃんの青白い肌に大百足の毒線って組み合わせ、黒魔術のタトゥーみたいでさ。なんていうか、すごく、エッチだ…あ、乳首舐めるよ」
いきなり人の身体的特徴をあげつらったと思えば唐突に乳首舐める発言。了承得る気なしで決定事項かよソレ、とツッコミを入れつつ、そんな先制攻撃は断固拒否しまっ!?
あ!
やっ!?
あ!ああ!
~~~~~~っ♥!!!
「ん、ちゅ…あれ、イっちゃった?」
ふぁ、らら、らまへぇっ♥(だだだ黙れ黙れうるさい黙れと言う筈だったのに!?)こにょ、こ、この隠れドS変態ドテカボチャ!どこの国の言葉だと頭撫でながら歯で挟んで口で吸って舌先でこねくり回すのを『舐める』って言うんですか!!
「こんなこともあろうかと、口に溜めた唾液を刷り込むテクニックまで練習してました。久留美ちゃんは可愛いなあもう、マジ鼻血もの、飼いたい。次は寄せてまとめて両乳首ね。」
や、やだやだやだやだぁ!これ以上乳首でイっちゃうなんて恥ずかしくて耐えられない!一体センパイは私をどうするつもりなんですかぁうああああはぁう♥
「まず、毎日僕の唾液を飲まないと手が震えてくる位には、毒線開発したいかな。お尻叩かれただけでイっちゃうように調教もしたい。久留美ちゃんは持ってないみたいだから、経箱を作って最中に壊しちゃう即落ちプレイもいつかやろう。」
へ、変態!ドS!エロゲ主人公!私は絶対センパイのことをご主人様とか呼んだりしませんからね!!
「じゃあ取り敢えず、もう我慢の限界だから犯すよ。…君がアへ顔になるまで、中出しを止めない。」
恐っ!?何でそこで真顔になるんですか!
「それに…僕のことしか見れなくなれば、もう君は魔物娘をバカにする人達の目線に怯えなくてすむんだろう?だから犯す。徹底的に犯す。」
あっ…あ、ああ♥
私も魔物の末席を汚す者、所詮は淫乱娘だったらしい。長年の鬱屈とした矮小な悩みを指摘された羞恥より、この人が守ってくれるという安堵より、『犯す』という言葉に反応してしまった。
制御できない、なんの涙だこれは。上から下から、絶望と歓喜の入り雑じった液体がこんこんと涌き出てシーツを汚していく。
強がってみたものの、これはだめだ、長くは続かない強がりだ。
私はこれから、身体中に精液の味を覚えさせられて、センパイの言うことには絶対服従するように調教され、おまんこや喉やお尻の穴にセンパイのお、おちんちんの形を刻み込まれ、口ではいくら嫌がっていても、キスされただけで人目を憚らず下着をだめにしてしまうようになるだろう。
人間の恋人同士のような関係を築くという夢よりも、私はセンパイ、いや夫専用の変態雌奴隷にされてしまう道を選んだのだ。
あ、でもやっぱりアへ顔はやだなぁ…

初めて会った時から、センパイは怪人百面相だった。
あるときは私の初恋の人で、あるときはたちの悪い変態セクハラ魔神で、またあるときは世界で一番のイケメンで、今日なんかは私を「初エッチで乳首責められただけでイきまくった淫乱女子大生♥」にしてくれやがった憎いあんちくしょうである。
見ていて飽きがこない。その多面性から察するに、きっとキマイラの私なんかよりも、センパイの方が複雑で、万華鏡のごとき精神構造をしているに違いない。
そんなことをぼんやりと考えながら、私の意識はじっくりねっとりと、ピンセットでメッキを剥がすように解体されてゆき…



「そしてこちらが調理済みの久留美ちゃんでございます。いやあ、アへ顔の瞬間をTVの前の皆さんにお見せできなくて残念だ(笑)」
大成功。私起床。朝チュンだるい。
「…やあお早う。二ヶ月ぶりかな?胡桃ちゃん。」
二日ぶり。実は毎週こっそり出ていた。先輩が気付いてないだけ。
「はは、まいったな。で、どうかな、ご感想は?」
お腹一杯で大変満足。久留美も嬉しそう。先輩大好き。
「あら大胆。胡桃ちゃんは無表情でもえらい素直だなぁ、そのギャップに萌えるっ!」
浮気?
「う、せめて重婚って言ってくれよ。君も含めて久留美ちゃんだろ?」
久留美はバカじゃない。そろそろ私達の存在に気付く。…きっと、浮気だって怒る。
「それは、胡桃ちゃんの方が先に何度もエッチしてることにかい?それとも、おかげで僕がもうインキュバスになってること?」
エ、エッチってストレートに言わないで。ある意味、私は久留美の夢を壊してしまった。久留美は、まだ受け止めきれない。
「問題ないよ。…これから僕達、普通の恋人みたいにデートしたりケンカしたりするうちにさ、君のことも含めて、久留美ちゃんはきっと自分のことが好きになるよ。約束する。」
不真面、目…あっ。お尻、撫でながらの、ん♥約束なんて、信用、あん♥出来ないぃ♥
「いやほら、さすって下さいと言わんばかりの位置にあったし、いい匂いだし。」
ばか♥すけべ♥先輩、先輩、先輩っ♥
「スイッチ入ったね。じゃあ、始めようか、二回戦。」
はあい♥

昨日、久留美ちゃんに告白した。気持ちは自前だけど、場所と最初の台詞は胡桃ちゃんプロデュース(完全に裏目だったよ胡桃ちゃん)だ。
久留美ちゃんは、リッチをベースにマンティスと大百足が融合した、いわゆるキマイラという魔物娘だ。
幼少時、あけっぴろげに過ぎる家族の爛れまくりエロ生活にうんざりしていた彼女は、わざわざ魔界から性欲に奥手な(と思われている)種族の遺体を取り寄せた。
そして、経箱などという壊して下さいと言わんばかりのウィークポイント無しで、人間のように心と心で通じあうピュアな恋愛(本当にそんなものあるのだろうか)が出来るようにと、その因子を取り込んだのだという。
だが、儀式の際に遺体を蘇生したおかげで久留美ちゃん自身も気付かない第二第三の人格が発生してしまった。
第二の人格、マンティスの人格である”胡桃ちゃん”は一方的に久留美ちゃんを認識しつつ、誰にも気付かれないようにときどき主導権を奪っては繁殖の相手を探していたらしい。
その事を僕が初めて知ったのは、久留美ちゃんに恋しちゃってから僅か一週間後のこと。両想いの癖になかなか僕を繁殖相手として確保しないことに焦れた胡桃ちゃんに部室で襲われ、初夜のマンティスが必ず陥る事態の例に漏れることなく、逆に胡桃ちゃんをにゃんにゃん鳴かせまくりんぐ九回戦してしまった後だった。
今「人間の頃から絶倫お猿さん野郎じゃねーかファッキン」とか思った奴、お前ギルタブリルと大百足の毒カクテルで飲まされても同じこと言えんの?自分で出せない分の毒は魔界からわざわざ取り寄せてくるレベルの、妥協なき媚薬への情熱。そこに痺れるいきり立つぅ!いやほんとにそうなったんだ。
そうして胡桃ちゃんと僕の共同戦線が始まった。こっそり聞き出した久留美ちゃんの趣味嗜好に触れる話題作りから始まって、今の関係を構築するに至ったのは、全て胡桃ちゃんの協力あってのことである。
おかげさまで僕自身のメンタルもだいぶご主人様気質に鍛えられてしまったが、今でも「これって実は胡桃ちゃんの趣味なんじゃなかろうか」と、手のひらで踊らされている感覚に襲われることがある。
しかも、僕達の「久留美ちゃん攻略作戦」は、今回のことがまだ全ての決着ではないのだ。
そう、久留美ちゃんの潜在的に自分を虐めたがるドMな性癖と、ときどき垣間見える卑屈な自嘲癖の元凶、大百足の人格である”繰魅ちゃん”に自信を持たせるため、引きこもり性な彼女を表に引きずり出す必要があるのだ。
そのためにもまず、主人格の久留美ちゃんに協力を取り付ける必要がある。3対1とは卑怯だろうと、自分でも思うが今更だ。
生涯をかけた長い戦いになるだろう。やることは山ほどあるが、時間だって海ほどある。
不思議なことに、久留美ちゃんの嫌な部分を司る人格相手だというのに、僕に不安は無い。可愛らしい後輩の久留美ちゃんと、師匠兼相棒の胡桃ちゃん、二人の女性を同じくらい愛してしまったからだろう。なかなか姿を表さない繰魅ちゃんのことも、好きになれる気がしているのだ。
恐らくこれこそがキマイラの魅力なのだ。
どんどん深みに嵌まっていく。もっともっと、君達のことが知りたいと想わされていく。そう考えるとやっぱり、攻略調教されているのは、実は僕の方なのかもしれない。
おっと、目を塞がれたぞ、こんなことをするのは…

「ふふ、せ、ん、ぱ、い♥私はいったい、だーれだ?」
18/02/03 05:24更新 / 蛇草

■作者メッセージ
文章書きでもないので、むちゃくちゃな作品になっていることかとおもいます。最期まで読んでくれた人、本当にありがとう。

図鑑でのキマイラは記憶や知識を共有しているのが基本ですが、実際多重人格者の人格がお互いを認識できるケースは稀であるとのこと。
ほんの少しリアリティーを追求する目的でこうした改変が行われていることには、賛否両論やむなしかと存じます。でもこういう不完全なキマイラが書きたかった。お目こぼし願えればと思います。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33