イザナギ一号_05:脅威!怪人ジキリタス
○月к日
拡張接続。簡単に言えば、改造人間の機能を追加、強化する為の装備や部品との高速適合と接続に関するコンバート機能のようなものである。
改造人間同士の装備共有や、同時使用を可能とする。二人分の処理能力を使用したり、武器の交換や受け渡しを瞬時に行う事もできる。
何故、こんな話をしているのかというと、説明しなければならないからだ。
怪人。
そういうった単語で呼称するしかない相手が居た。改造人間どころか人や魔物というカテゴライズすら外れた存在が。
しかも僕等を襲ってくるという最悪の形で。
話は数十分前に遡る。
研究施設内、処分や廃棄の憂き目にあった資料の調査を行っていた。彼女達が呪いと呼んでいた代物の資料が一切見つかっていなかった事に疑問がもったことが発端である。
思えば、この施設で主に研究されていた実験の中に、魔術式を用いたものは皆無に等しかった。むしろ、その存在を知ったのは施設の襲撃後、集会と呼ばれる魔物達の組織を通してだ。
もともと、僕は魔物という存在について懐疑的だったほどだ。そんな存在がいるはずもないとさえ思っていた。
それが覆されたのがあの襲撃である。
蜘蛛に似た肢を持つ美女や、蛇体を備えた美女、果ては、その、一般的にアブラムシと呼ばれる特徴を備えた美女。まるでミスユニバースの本選会場に、特殊メイクの項目があったようだと思った。
それが魔物との初めての接触である。
多少の陳腐な表現になるが、見事なサイズの胸やら尻やらに見蕩れている間に自分は孤立していた。気付けば爬虫類的、トカゲに近い特徴を備えた美女に、首筋へ剣を突きつけられていたほどである。
一生の不覚である。
記憶喪失の憂き目にあって、男という存在についての認識が鈍っていたようだ。こう、僕の内部にある一部分が反応する事態が、これほど無防備だとは思わなかった。
一生の不覚である。
さて、そういった事情から初めて魔物を知り、まぁ、彼女達がごく一部の行動についてオープンなのも知った。酔っ払った彼女達へ、多少揉んだり揉んだり揉みしだいたり程度のことはあったものの、記憶にある範囲では自分は未だ小奇麗な身体のままである。多分。
最後まで書いて正気に戻った。上の一文消そうと思って使っているペンが万年筆である事を思い出す。ページを破るのも最初に書き始めた頃から禁止している。
だって、そうしないとまた記憶を失った時に困る。日記とは本来、その日起きた事を回顧したり、確認したりする為のものだ。
嘘はいけない。
けれど、あの二人に対して見せられないものになってしまった。
話を戻そう。
やはり彼女達の方が魔術式に詳しいのは確かだ、そう思って『集会』へ連絡をとったのが昨日の夜。呪いという現象について、多少のことは解った。
呪いとは、魔術式の中でも特殊であり、多くの場合において、媒体と宣誓が必要となるらしい。媒体は呪いを維持するもので、宣誓は発動の際に必要となる術者自身の代価だ。
対象は基本的に一人であるが、術式の発動時に対象が揃っていれば複数設定することも可能であるという。見合うだけの代価と魔力が用意できれば、であるが。
つまり複数回はありえない、彼女達は一度の術式で同じ呪いをかけられたのだろう。
だったら他にも術の対象者が居た可能性が高い。二人というのは、なんとも中途半端な数に感じた。
そして呪いが継続している以上、媒体はまだ存在している。
その媒体探し、もしくは糸口の発見が今回の目的である。いや、あった。
途中、よくわからないケースが損壊していたのが戦闘の始まりである。
どう見ても棺桶にしか見えないケースの刻印には『ジキタリス』の文字。
背後に気配。
慌てて探索していた二人を抱え込み、走り出した時に見たもの。
そう、それが怪人ジキタリス。
箱に封印されていた何かであった。
怪人ジキタリス。よくわからないので怪人。
一応は人型をしている。フジツボの張り付いた岩壁そっくりの様相に加え、上半身を花で覆われた彼は、全身から腐った花のような異臭を放ち、時折咆哮を上げる。
花の奥から覗く眼球は血走り、咆哮のたびに巨大な牙の並ぶトカゲじみた口が大きく開閉するのだ。
タイツを思わす滑らかな青の皮膜が下半身と両腕を包み、両手の先は巨大な蟹の爪の形で、いかにも鋭い。
「それでどうするのよこの状況!」
怒鳴られた事で正気に戻った。身体の説明からしばらく、考え込んでいた。
「あの花が脅威なんだ。うかつに近づくとあぁなる」
自分達が隠れているのは大型倉庫の中。ジキタリスから逃げるうち、資材の減ったここへ飛び込んでいたというわけだ。
そのうち、半分以上が奇妙な色に染まり、溶けかけている。全身の花がら飛び散る白い霧が、周囲の空気ごと全てを溶解しているのだ。
「触れない、どころか、瓦礫をぶつけたら空中で溶けた。あんなもの、何か飛び道具でなければ無理だ」
「なんであんな危険生物が!? 人間どころか生き物の気配じゃないわよ!」
「そういう研究所だからだと思う」
珍しく狼狽したクユ。シャンヤトは既に臭気で気絶していた。あの悪臭もまた武器であるらしい。
探せばカヌクイ用装備はどこかにあるはず。通常の武器類は回収されたといえ、仕様用途の解らないカヌクイ計画の装備が放置されているのは昨日の一件でも判明している。
検索。短波を飛ばし、物資の中に反応がないか探る。脳内に短い効果音が響いた。
「検索にHIT」
本来は比較的に機能しない発刊機能、冷や汗を拭い、大きく一呼吸した。あの怪人の足は意外と速い。足止めする必要がある。
「クユ。お願いがある」
「何!? 最後に一発やらせてくれとかなら無理よ!? このサイズだし!」
思わず膝から崩れ落ちそうになる。途中で持ち応え、外殻を皮膚から出現させた。全身が青く覆われ、堅く冷たい外皮の感触に包まれていく。不完全、造詣の歪な姿に。
「あの化け物を足止めする。そのうちにIZANAGIと記されているパッケージを開いてくれ。それだけでいい」
「開くって、どうやって?」
「触った瞬間にロックを解除する。音にあの生き物が反応しないとも限らない。その時に光ったところの傍にボタンがあるはずだ」
「私このサイズよ!?」
「魔物だろう。人間よりよっぽど力持ちだ」
「あぁもう! 今日はデザート増やしてね!」
「なんとかする」
コンテナの壁面を指先で切り取る。盾代わりに構えるには貧弱だが、無いよりはマシだろう。
だが。
「こっちだ!ジキタリスゥゥゥゥゥゥ!」
突進する。ジキタリスが反応した瞬間に鋏が振り抜かれる。一瞬で両断された盾越し、吹き付けられる酸性の噴霧に外殻が爛れる。ずるずると表面が溶ける痛みに悲鳴すら喉に詰まった。
跳ぶ。コンテナ再利用の盾ごと放つ回し蹴り。吹き飛んだ鋼鉄がジキタリスに叩きつけられも、片腕で弾き飛ばされた。
膂力は改造人間と同等、もしくは上だ。そして盾という防壁を失った瞬間、外殻の再生力が追いつかなくなり、一部が一気に溶ける。
「ぐっ!」
麻痺しかねないほどの激痛と嫌悪に離れる。近場にあった資材を投げつけるも、濃密な酸の霧が防壁として全てを溶かし、たとえ残骸が残っても命中した瞬間に砕けてしまう。強度を保てていないのだ。
「いちごう!」
叫びに応える。装備を格納したパッケージ、角柱型のコンテナはアンロックに反応して音を鳴らし、クユが押し込んだボタンと共に装備が飛び出していた。
「お、まけ!」
細く白い糸が飛翔。端と端が自分の胴体と飛び出した機械を繋ぐ。
「ありがたい!」
糸の弾力で引き寄せられる装備。そちらへ右腕を差し出した瞬間、磁力と相対位置の計算、動かした腕によってジョイントが成立した。
二つの円と一つの渦によって描かれたイザナギ計画を示す刻印を刻まれた籠手。薄い装甲板で形成された内に仕込み銃を備えている。
ただし、その銃は。
「痛いぞ。かなり」
手首の隙間、継ぎ目から覗く小さな銃口が火花を吐く。発射された弾丸は音速超過、大気を貫きジキタリスへ突き刺す。
弾ける。命中した瞬間に放出された電撃により、その花は焦げ、肉が吹き飛ぶ。
巨大な穴が胴体に開いた瞬間、ジキタリスは爆散していた。
汎用射出機構『アメハネ』。多種多様な射撃行動が可能な拡張接続ユニット。
今回は鋭い鏃を飛ばすその力は電磁力であり、改造人間を動かすエネルギーを流用した電磁加速砲、つまりはレールガンである。
弾頭は外殻を削りだして使用する為、主に超硬キチン質。命中どころか発射を察知した瞬間はもう遅い。回避する暇もなかったであろう。
代わりに、燃費が非常に悪い。使用回数によって再生能力の低下などの問題も発生する。
「吐きそう………」
その影響をまともに受け、床に倒れこむ。昼前だったのが災いした。身体中の細胞から蛋白質が失われた錯覚すらする。
原因は、表層における酸の除去などを含む皮膚の再生と射出時のエネルギー消費によるものである。
体内に残っていたエネルギーが枯渇しかねない状態であった。
「壱剛!?」
軽い足音と共に駆け寄る。気絶したシャンヤトは起きないが、寝息は聞こえるので無事だろう。むしろ、この状況で眠っていられる神経を尊敬すらする。
「壱剛! 無事なの!?」
「なんとか」
溶けた外殻を分離。全身から切り離す。日焼けした皮膚を剥がす時に似た僅かな痛痒と共に、外殻が破片として散っていく。
現在、身体と適合化されていないアメハネだけが腕から落ちた。
「じゃあデザートはチョコ系でいいから!」
「………ハイ、ワカリマシタ」
こんな状況でも変わらない立場にうなだれる。床の感触がひんやりと気持ちいいこととか考えて現実逃避していたい。
それはともかく。
あの怪人、一体なんだったのだろうか?
それに、呪いの媒体は未だ見つかっていない。
問題ばかり積み重なっていく。
「早く起きて。もうすぐお昼になるし」
「あと五分だけ。五分だけ休ませて」
理不尽なクユの要請に涙しつつ、その日、自分はチョコレートケーキを業務用冷凍庫から発掘させられた。研究員の元私物だろう。
この二人、食事以外の執着がないのかと物陰で悪態をつきながら、頭の中からは、あの怪人のことが離れなかった。
拡張接続。簡単に言えば、改造人間の機能を追加、強化する為の装備や部品との高速適合と接続に関するコンバート機能のようなものである。
改造人間同士の装備共有や、同時使用を可能とする。二人分の処理能力を使用したり、武器の交換や受け渡しを瞬時に行う事もできる。
何故、こんな話をしているのかというと、説明しなければならないからだ。
怪人。
そういうった単語で呼称するしかない相手が居た。改造人間どころか人や魔物というカテゴライズすら外れた存在が。
しかも僕等を襲ってくるという最悪の形で。
話は数十分前に遡る。
研究施設内、処分や廃棄の憂き目にあった資料の調査を行っていた。彼女達が呪いと呼んでいた代物の資料が一切見つかっていなかった事に疑問がもったことが発端である。
思えば、この施設で主に研究されていた実験の中に、魔術式を用いたものは皆無に等しかった。むしろ、その存在を知ったのは施設の襲撃後、集会と呼ばれる魔物達の組織を通してだ。
もともと、僕は魔物という存在について懐疑的だったほどだ。そんな存在がいるはずもないとさえ思っていた。
それが覆されたのがあの襲撃である。
蜘蛛に似た肢を持つ美女や、蛇体を備えた美女、果ては、その、一般的にアブラムシと呼ばれる特徴を備えた美女。まるでミスユニバースの本選会場に、特殊メイクの項目があったようだと思った。
それが魔物との初めての接触である。
多少の陳腐な表現になるが、見事なサイズの胸やら尻やらに見蕩れている間に自分は孤立していた。気付けば爬虫類的、トカゲに近い特徴を備えた美女に、首筋へ剣を突きつけられていたほどである。
一生の不覚である。
記憶喪失の憂き目にあって、男という存在についての認識が鈍っていたようだ。こう、僕の内部にある一部分が反応する事態が、これほど無防備だとは思わなかった。
一生の不覚である。
さて、そういった事情から初めて魔物を知り、まぁ、彼女達がごく一部の行動についてオープンなのも知った。酔っ払った彼女達へ、多少揉んだり揉んだり揉みしだいたり程度のことはあったものの、記憶にある範囲では自分は未だ小奇麗な身体のままである。多分。
最後まで書いて正気に戻った。上の一文消そうと思って使っているペンが万年筆である事を思い出す。ページを破るのも最初に書き始めた頃から禁止している。
だって、そうしないとまた記憶を失った時に困る。日記とは本来、その日起きた事を回顧したり、確認したりする為のものだ。
嘘はいけない。
けれど、あの二人に対して見せられないものになってしまった。
話を戻そう。
やはり彼女達の方が魔術式に詳しいのは確かだ、そう思って『集会』へ連絡をとったのが昨日の夜。呪いという現象について、多少のことは解った。
呪いとは、魔術式の中でも特殊であり、多くの場合において、媒体と宣誓が必要となるらしい。媒体は呪いを維持するもので、宣誓は発動の際に必要となる術者自身の代価だ。
対象は基本的に一人であるが、術式の発動時に対象が揃っていれば複数設定することも可能であるという。見合うだけの代価と魔力が用意できれば、であるが。
つまり複数回はありえない、彼女達は一度の術式で同じ呪いをかけられたのだろう。
だったら他にも術の対象者が居た可能性が高い。二人というのは、なんとも中途半端な数に感じた。
そして呪いが継続している以上、媒体はまだ存在している。
その媒体探し、もしくは糸口の発見が今回の目的である。いや、あった。
途中、よくわからないケースが損壊していたのが戦闘の始まりである。
どう見ても棺桶にしか見えないケースの刻印には『ジキタリス』の文字。
背後に気配。
慌てて探索していた二人を抱え込み、走り出した時に見たもの。
そう、それが怪人ジキタリス。
箱に封印されていた何かであった。
怪人ジキタリス。よくわからないので怪人。
一応は人型をしている。フジツボの張り付いた岩壁そっくりの様相に加え、上半身を花で覆われた彼は、全身から腐った花のような異臭を放ち、時折咆哮を上げる。
花の奥から覗く眼球は血走り、咆哮のたびに巨大な牙の並ぶトカゲじみた口が大きく開閉するのだ。
タイツを思わす滑らかな青の皮膜が下半身と両腕を包み、両手の先は巨大な蟹の爪の形で、いかにも鋭い。
「それでどうするのよこの状況!」
怒鳴られた事で正気に戻った。身体の説明からしばらく、考え込んでいた。
「あの花が脅威なんだ。うかつに近づくとあぁなる」
自分達が隠れているのは大型倉庫の中。ジキタリスから逃げるうち、資材の減ったここへ飛び込んでいたというわけだ。
そのうち、半分以上が奇妙な色に染まり、溶けかけている。全身の花がら飛び散る白い霧が、周囲の空気ごと全てを溶解しているのだ。
「触れない、どころか、瓦礫をぶつけたら空中で溶けた。あんなもの、何か飛び道具でなければ無理だ」
「なんであんな危険生物が!? 人間どころか生き物の気配じゃないわよ!」
「そういう研究所だからだと思う」
珍しく狼狽したクユ。シャンヤトは既に臭気で気絶していた。あの悪臭もまた武器であるらしい。
探せばカヌクイ用装備はどこかにあるはず。通常の武器類は回収されたといえ、仕様用途の解らないカヌクイ計画の装備が放置されているのは昨日の一件でも判明している。
検索。短波を飛ばし、物資の中に反応がないか探る。脳内に短い効果音が響いた。
「検索にHIT」
本来は比較的に機能しない発刊機能、冷や汗を拭い、大きく一呼吸した。あの怪人の足は意外と速い。足止めする必要がある。
「クユ。お願いがある」
「何!? 最後に一発やらせてくれとかなら無理よ!? このサイズだし!」
思わず膝から崩れ落ちそうになる。途中で持ち応え、外殻を皮膚から出現させた。全身が青く覆われ、堅く冷たい外皮の感触に包まれていく。不完全、造詣の歪な姿に。
「あの化け物を足止めする。そのうちにIZANAGIと記されているパッケージを開いてくれ。それだけでいい」
「開くって、どうやって?」
「触った瞬間にロックを解除する。音にあの生き物が反応しないとも限らない。その時に光ったところの傍にボタンがあるはずだ」
「私このサイズよ!?」
「魔物だろう。人間よりよっぽど力持ちだ」
「あぁもう! 今日はデザート増やしてね!」
「なんとかする」
コンテナの壁面を指先で切り取る。盾代わりに構えるには貧弱だが、無いよりはマシだろう。
だが。
「こっちだ!ジキタリスゥゥゥゥゥゥ!」
突進する。ジキタリスが反応した瞬間に鋏が振り抜かれる。一瞬で両断された盾越し、吹き付けられる酸性の噴霧に外殻が爛れる。ずるずると表面が溶ける痛みに悲鳴すら喉に詰まった。
跳ぶ。コンテナ再利用の盾ごと放つ回し蹴り。吹き飛んだ鋼鉄がジキタリスに叩きつけられも、片腕で弾き飛ばされた。
膂力は改造人間と同等、もしくは上だ。そして盾という防壁を失った瞬間、外殻の再生力が追いつかなくなり、一部が一気に溶ける。
「ぐっ!」
麻痺しかねないほどの激痛と嫌悪に離れる。近場にあった資材を投げつけるも、濃密な酸の霧が防壁として全てを溶かし、たとえ残骸が残っても命中した瞬間に砕けてしまう。強度を保てていないのだ。
「いちごう!」
叫びに応える。装備を格納したパッケージ、角柱型のコンテナはアンロックに反応して音を鳴らし、クユが押し込んだボタンと共に装備が飛び出していた。
「お、まけ!」
細く白い糸が飛翔。端と端が自分の胴体と飛び出した機械を繋ぐ。
「ありがたい!」
糸の弾力で引き寄せられる装備。そちらへ右腕を差し出した瞬間、磁力と相対位置の計算、動かした腕によってジョイントが成立した。
二つの円と一つの渦によって描かれたイザナギ計画を示す刻印を刻まれた籠手。薄い装甲板で形成された内に仕込み銃を備えている。
ただし、その銃は。
「痛いぞ。かなり」
手首の隙間、継ぎ目から覗く小さな銃口が火花を吐く。発射された弾丸は音速超過、大気を貫きジキタリスへ突き刺す。
弾ける。命中した瞬間に放出された電撃により、その花は焦げ、肉が吹き飛ぶ。
巨大な穴が胴体に開いた瞬間、ジキタリスは爆散していた。
汎用射出機構『アメハネ』。多種多様な射撃行動が可能な拡張接続ユニット。
今回は鋭い鏃を飛ばすその力は電磁力であり、改造人間を動かすエネルギーを流用した電磁加速砲、つまりはレールガンである。
弾頭は外殻を削りだして使用する為、主に超硬キチン質。命中どころか発射を察知した瞬間はもう遅い。回避する暇もなかったであろう。
代わりに、燃費が非常に悪い。使用回数によって再生能力の低下などの問題も発生する。
「吐きそう………」
その影響をまともに受け、床に倒れこむ。昼前だったのが災いした。身体中の細胞から蛋白質が失われた錯覚すらする。
原因は、表層における酸の除去などを含む皮膚の再生と射出時のエネルギー消費によるものである。
体内に残っていたエネルギーが枯渇しかねない状態であった。
「壱剛!?」
軽い足音と共に駆け寄る。気絶したシャンヤトは起きないが、寝息は聞こえるので無事だろう。むしろ、この状況で眠っていられる神経を尊敬すらする。
「壱剛! 無事なの!?」
「なんとか」
溶けた外殻を分離。全身から切り離す。日焼けした皮膚を剥がす時に似た僅かな痛痒と共に、外殻が破片として散っていく。
現在、身体と適合化されていないアメハネだけが腕から落ちた。
「じゃあデザートはチョコ系でいいから!」
「………ハイ、ワカリマシタ」
こんな状況でも変わらない立場にうなだれる。床の感触がひんやりと気持ちいいこととか考えて現実逃避していたい。
それはともかく。
あの怪人、一体なんだったのだろうか?
それに、呪いの媒体は未だ見つかっていない。
問題ばかり積み重なっていく。
「早く起きて。もうすぐお昼になるし」
「あと五分だけ。五分だけ休ませて」
理不尽なクユの要請に涙しつつ、その日、自分はチョコレートケーキを業務用冷凍庫から発掘させられた。研究員の元私物だろう。
この二人、食事以外の執着がないのかと物陰で悪態をつきながら、頭の中からは、あの怪人のことが離れなかった。
11/07/28 14:50更新 / ザイトウ
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