読切小説
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自殺志願者の僕とぬれおなごのお姉さん
男、大学二年生、一人暮らしで趣味は無し、勉強は中の中の上ほどだが、毎日勉強しかしていない。
高校時代にキャピキャピした女生徒から、余りにも普通すぎる顔という評価を受けた。
自分について、これくらいしか語ることがない僕は今、雨の夜道を歩いている。傘もささずに。
僕は家の近くにある広い川にかかっている橋の中で、特に小さい橋を目指している。理由はただ、一番近かったから。
橋に行く目的は自殺だ。雨で勢いの強くなっている川に飛び込めば、確実に死ねるだろう。
家族とはとっくの昔に縁を切っている。というか、お金だけ置いていなくなった。僕が死んで寂しがるような友人もいない。それどころか、今までに親しくなった人間がいない。
生きている理由がなかった。何もないという事実が辛い。
勉強して、自分に価値を付けようと今まで勉強ばかりしてきたが、そうして行き着いた先は二流大学。そんな大学でも延々と勉強を続けていたが、そんな生活にも疲れた。所詮、努力は報われない。
生きている理由がなかったことに、今更ながら気づいたのだ。
だから自殺する。
死ぬのは怖い、とても怖い。だが、その怖さを超えれば、自分を忘れて、新しく何かに生まれ変わることができるだろう。叶うならば、鳥に生まれ変わりたい。何もかもを忘れて、自由に空に飛んでみたい。
そんなことを考えているうちに、目的地の橋についた。そして僕は奇妙なものを見つけた。いや、ものじゃない。人、女性だ。今時珍しい和服を着ていて、僕と同じように傘を持たず、ずぶ濡れになって流れの速い川を見ている。
綺麗だ。その女性に対し、まずそう思った。僕はさっきまで考えていたことを忘れて、その女性を見つめていた。
雨が地面を打つ音すらも聞こえない。僕はその女性のことしか見えていなかった。
女性がこちらに気づいたのか、こちらを向く。ずっと見ていたことに対し、失礼だったと思ったが、目を離すことができない。そして女性は優しく、こちらに微笑んだ。
僕は、叫んだ。

「あ……あなたの名前を教えてくださいっ!!」

声は届いたようだ。女性がこちらに歩いて、手を伸ばせば届く距離まで来た。が、そこで立ち止まらずにまだ近づいて来る。僕は思わず後ずさってしまう。彼女は後ずさった僕の右手を取り、引っ張った。

「こんな日に傘をささないで出歩いてはいけませんよ。公園で雨宿りでもしましょうか」

僕は右手を引かれ、近くの公園まで連れて行かれた。







「私は、雨実(あまみ)と申します。貴方は?」

その女性は雨実さんというそうだ。
公園にある、屋根付きのベンチの下に来てから、雨実さんの来ている和服がとても薄いことに気づいた。ずぶ濡れになった和服がかなり透けていて、目のやり場に困る。それでも目をそらすのは失礼だと思って、雨実さんの顔を見ながら僕は名前を伝えた。

「三本進太(みもと しんた)です」
「それでは進太さん。質問です」
「えっ、な、なんですか?」
「どうして、傘もささないであんなところにいたんですか?」

その質問を聞いて、やっと自分が何をしようとしていたのかを思い出した。
自殺。
だが、そのことを雨実さんに教えてもいいのだろうか。そんなことを聞いても、嫌な気持ちになるだけではないのか。

「……」

答えることができない僕は、俯くしかなかった。
それなのに、

「ごめんなさい……言いづらいことならば、無理に言う必要はないのです。だから顔を上げてください」

雨実さんは優しい言葉をかけてくれる。
僕はおもわず、言われるがままに顔を上げてしまった。

「う、うわ……」

顔を上げた僕が見たものは、美しく、魅惑的な光景だった。
薄い和服は着崩れ、さっきよりも薄くなったのではないかと思うほどに肌が透けていた。それなのに帯はしっかりとしていて、その上に彼女の大きな胸が乗っている。帯で引き締められた体に薄い和服がぴっちりと張り付いて、体のラインが強調されている。女性経験皆無な僕には刺激的すぎた。
僕は、あの大きな胸を好きにしたいとか、透けて見えている綺麗なお腹に頬ずりしたりとか、そんなことを妄想しながら雨実さんの体を視姦してしまっていた。

「ふふふ、どこを見ているんですか?」

どんな鈍感な女性でもわかるだろう露骨な視線を、どこか甘い口調で指摘する。

「え、えっと、その……」

ここは、ごめんなさいと謝るところだとわかっているのに、言葉が出ない。緊張しすぎてか、雨に濡れてそのままだったからか、僕の体は震えていた。

「震えているじゃありませんか。早く家に帰ってお風呂でも入って体を温めてください」
「はい……。でも……もう少しお話を……」

ここで雨実さんと別れたくない僕は、話をしたいという口実でこの場に留まろうとした。
しかし、雨実さんの口から出た次の言葉は、僕の人生で最大の驚愕と幸福をもたらしたのだ。

「実は私はスライムの一種で、ぬれおなごというのです。人間ではありません。それでもいいのなら、私は貴方の家までついていきます。暖かいところで、もっとゆっくりお話しましょう?」

人間ではないという雨実さんの言葉を信じて、それと同時に驚いた。雨実さんがそんな冗談を今言うとは思わなかったからだ。普段の僕だったら、目の前の人外の存在に恐怖したかも知れない。
だが僕は即答で、

「そんなの関係ありません!! お願いです。僕の家まできて、お話してください!!」

そう答えた。
彼女とまだ関係を持つことができるという喜びからか、僕は人間ではないという彼女の言葉を全く気にせずに、その人外の存在を自分の家に招き入れたのだった。
……後で思い返したことだが、やはりこの時は雨実さんとまだ話すことができるという喜びが大きかったのだと思う。







僕の家にたどり着いた瞬間、僕は倒れてしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

雨実さんは急いで僕のおでこに手を当てた。
ひんやりと冷たい手が気持ちいい。
でもすぐに手を離して、次は口の近くに指を近づけて口に当てた。

「私の指を口に入れてください」
「ん……ぁあむ」

言われるがまま、彼女の手を口に含む。
ただ口に入れているだけでいいはずなのに、僕はまるで母親の乳を吸う赤子のようにその指をちゅうちゅうと吸ってしまった。
指を吸う度、少し弾力のある水のような液体が口に流れてきた。
でも、指はすぐに取り上げられてしまう。

「あっ……」
「ふふふ、名残惜しいですか? でも熱があります、とりあえず服を着替えましょう。早く脱いでください」
「え……? いっ、いや……それはダメです……」

女性の前で脱ぐなんて、そんな恥ずかしいことをできるわけがない。
床が濡れることも気にせずに、雨実さんから逃げるように床を這い、奥の部屋に向かう。
雨実さんは追いかけて腕を掴むと、僕を起き上がらせた。
そのまま雨実さんに支えられながらベッドの近くまで歩いて、無理やり服を剥がされてしまった。

「見ないで……ください……」

まるで女の子が言うようなセリフを、小さい声で言った。

「恥ずかしがらないで。ほら、体についている水滴を拭かないといけません」

濡れたままベッドに押して押され、雨実さんがのしかかる。
いつの間に脱いだのだろうか。彼女も全裸だった。

「進太さんの体についている雨を、全部拭き取ってあげます」

ぷにぷにとした彼女の体が、僕に押し付けられる。
押し付けられるとともに、ヌメヌメした液体が僕の体を這いながら背中に向かっていった。その液体は雨実さんの手の届かない場所を拭いている。
謎の液体と、雨実さんの手と、大きな胸と、綺麗なお腹、そして脚。雨実さんと全身を密着させている事に、女性経験皆無な童貞が興奮しないわけがない。
さらに雨実さんは舌を伸ばして首元を舐める。

「ひゃぁっ……」

全身を愛撫され、情けない声を上げながら震える。ダメだとわかっているのに、親切で体を拭いてくれている雨実さんのお腹あたりに、既にガチガチになっていた恥ずかしい所を押し当ててしまった。
そんなことをされているのにもかかわらず、彼女は嬉しそうに微笑んで言った。

「せっかちさんですね。体拭き終わったら、ビクビクしてるここ。弄ってあげてもいいですよ? それまで我慢してくださいね」

我慢したら、触ってもらえる。僕はその言葉を理解し、僕はお腹に押し付けるのを我慢した。震える体を抑えて、雨実さんが拭きやすいようになすがままにされた。
我慢している最中の時間の流れは特に遅く感じた。雨実さんは手で頭をなでなでしながら、首の次に耳を舐めてきた。
突然耳を舐められ、やはりビクビクと体を震わせてしまう。

「んぁ……ぅぁあ……」

男の気持ち悪い喘ぎ声を雨実さんに聞かれるのが嫌で、声が出そうになるのを我慢している。しているが、我慢しきれずに声を漏らしてしまう。
僕が声を我慢していることを知ってか知らずか、雨実さんは耳に息を吹きかけたり、ボソボソと囁いたりするようになった。

「ふふふ、気持ちいいですか? もうすぐ体の水分を全部拭き取れますからね」

耳元で甘く囁いた雨実さんの言葉に悦んだ僕の体がまた震える。
その雨実さんは手を足に伸ばし、撫でるように水分を拭き取っていく。
股間の近くにも焦らされるように触られ、待ちきれなくなってしまった僕は、雨実さんにおねだりしてしった。

「雨実さん……も、もう我慢できません……」

我慢できないという僕の言葉に、雨実さんは微笑みながら意地悪な言葉で答える。

「何が我慢できないんですか? きちんと言ってもらわないとわかりません」

僕が何を言いたいか、絶対に知っている。それでも、雨実さんに逆らったらここで止められてしまうかもしれない。雨実さんは体を拭くのをやめ、僕の言葉を待っている。

「だから……その……ここを弄って……ください……」

最後の方はほとんどかすれ声だった。そんなおねだりもまともに言えない僕の頭を雨実さんは撫でてくれる。

「よく言えました。それでは……」

頭を撫でている手とは違う方で、僕の股間を弄る。そうして、ガチガチになった肉棒を掴み、動きを止めた。

「貴方の鼓動を感じますよ……。ドクン、ドクンって……」
「ぼ、僕も雨実さんの……っうぁぁあああ」

少し臭い言葉を言おうとした僕は、突然激しく動かされた雨実さんの手の感触に、叫び声のような大きな声を上げてしまった。

「ふふふ、そんな声を出してしまうほど気持ちいいですか? なら、もっともっと気持ちよくして差し上げます」

頭を撫でていた方の手も、僕の股間に向かう。竿を激しく上下されながら、亀頭をゴシゴシこすられる。
自分では、無意識にセーブしてしまって絶対に味わうことができない、余りにも大きな刺激と快楽。
雨実さんの奉仕、いや、責めに僕は早くも耐えられなくなってしまった。

「あっ、あぁぁ。もっ、もうダメです!! いっ、イク……」
「いいですよ、出してください。出して、出して、出して、出して!!」

雨実さんの言葉の終わりとともに、僕は欲望の塊を吐き出した。その瞬間、ぐちゅっ、といった音が聞こえて亀頭にゼリーのようなものが押し当てられたのを感じた。

「ぁ……ぁぅ……」

激しい責めによる絶頂直後の僕は、言葉を出すことができない。
雨実さんは、まるで彼女も絶頂しているかのように体をビクビクと震わせてこちらを見ている。
その妖艶な笑みを浮かべている雨実さんを見ながら、僕はだんだんと意識を失っていった。







手から進太さんの精を吸い上げ、体内に吸収する。
彼の精を感じ、私の体中が悦びに震える。

「手コキだけで、寝てしまう程疲れていたなんて……無理をさせてしまったのでしょうか……」

久しぶりに人間の精を味わった私は、一度深呼吸をして冷静な思考を取り戻した。
いや、セックスしたいという衝動は抑えたのだから、ここは自分を褒めるところかも知れない。最後、先っぽだけ入れてしまったが、あれは手だったしノーカンだと自分に言い聞かせる。
とりあえず、全裸で寝ている彼に服を着せなくてはならない。せっかく体を拭いたのに、このままでは冷えてしまう。
家に上がったばかりで、着替えがどこにあるかわからない。応急措置として、さっき貰った精を使って作った私の体の一部を、彼の体に這わした。そして彼がさっき来ていた服を作り、私はいつもの和服に着替える。最後に落ちていた布団をかけた。今はこれでいいだろう。

「これから、進太さんの妻になるのですから、家のことを把握しなくては」

まずは明日、彼が起きた時に必要になる着替えの場所を見つけないと。それに、ゴミやなんやらが散らかっている部屋も片付けないといけません……。
明日旦那様が起きたらどんな言葉で朝の挨拶をするか、朝食は何にしようかを考えながら、彼女は進太の家の中を物色していった。







窓から入ってくる朝日を目にうけ、僕は目を覚ました。
まだはっきりとしない頭を起こすため、左右に頭を振ったが逆効果だったようだ。

「痛い……」

頭が痛い、それにいつもより熱い気がする。
昨日会ったことを思い出す。
自殺しようとして、優しい女性にあって、家に帰って僕が倒れて……。
そのあとのことを思い出すと気恥ずかしくなり、誰もいないのに顔を真っ赤にして俯いた。
すると、ガチャ、とドアを開ける音が聞こえた。ドアの方に顔を向けると、フリフリのメイド服を着た綺麗な女性が立っていた。
よく見ると、頭から水をかぶったように濡れている。しかも服の白い所が、ところどころ透けているのだ。目のやり場に困る。

「おはようございます。ご主人様」
「お、おはよう。雨実さん」

おはようの挨拶を交わしたのはいつぶりだろうか。何か、つっかえが取れたように体から力が抜けて、ベッドに倒れる。僕は目から溢れる雫を服の裾で拭いた。
突然倒れた僕を見て驚いたのか、駆け足でベッドまで来てくれた。

「だ、大丈夫ですか!? まだ無理をしない方が……」
「ごめんなさい、違うんです。その、おはようって挨拶できて……嬉しくて……」

しばらくの沈黙。雨実さんは何も言わない。僕は、ありがとうと、お礼を言うことにした。

「もう家に帰るんですよね? 昨日はありがとうございました。僕、雨実さんに救われたんです」

その言葉を聞いた雨実さんは、優しく微笑んで言った。

「それは良かったです。でも、安心してください、今日から貴方は私の旦那様です。これから毎日、挨拶しましょう?」
「……え?」

そう、今この瞬間、僕は思い出した。
彼女が人外の存在で、ぬれおなごという魔物、または妖怪であることを。

「私が人間じゃなくても、気にしないんですよね?」

僕はあの時と同じように即答で、

「もちろんです!!」

と、答えた。
彼女は笑顔で続けた。

「それでは、これから宜しくお願いします。旦那様。それではとりあえず、着替えましょうか」

そう言って、雨実さんが僕の肩に触れると、僕の服が溶け出した。

「えっ!? ちょっ、何ですかこれ!?」
「私の服を返してもらっているだけですよ〜」

すぐさま全裸にされ謎の液体、いや、雨実さんの体の一部はあるべき場所に戻っていく。
雨実さんはどこからか取り出した本物の僕の服を渡してくれた。
着替えながら、雨実さんに気になっていたことを聞くことにした。

「そういえば、なんでメイド服なんですか?」
「部屋を掃除しているときに、見つけた本にとても可愛い服が載っていて、それを真似してみました。似合っています?」
「はい、すごく似合ってますよ。でも……その……なんで透けてるんですか? 目のやり場にこまってしまって……あの……」
「私、見た服ならどんな服でも作れるのですが、種族的に全部濡れてしまうんです。そ・れ・に。見たかったらいくらでも見てくださってもいいんですよ?」

透けた胸や、ミニスカートから出ている脚を見せつけるようなポーズをとった雨実さんから、無理やり目をそらし、布団に潜り込む。そう、僕はまだ熱があって、頭が痛いのだ。

「ごめんなさい、熱があるのに朝から興奮してしまっては大変ですものね」

僕はさっきまでのように、枕に頭をあずけて寝る。その様子を見た雨実さんは、朝食を持ってきますと言って雨実さんが部屋から出ていこうとする。その彼女の背中に、僕は最後に声をかけた。

「頼ってばかりでごめんなさい……ありがとうございます」
「遠慮はしないでください、貴方は私の旦那様なんですから。それに、これから私も遠慮はしませんよ」

私も遠慮はしない、その言葉の意味を、僕は熱が治ったと雨実さんが診断した瞬間に思い知ることになる。


END
14/02/14 23:07更新 / YUKAnya

■作者メッセージ
初投稿です
誤字はない、ないと思いたい

さっき書き終わり読み直して、無駄な描写多かったかなぁと思いました
感想を貰えたら、喜んで今後の参考にさせていただきます


ぬれおなごさんとコスプレプレイとか、いいと思いません?

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