EXTREME AID
「あぁ、朝か......」
最近妙に体がだるい、何をやっても疲労感が抜けない。
少し激しい動きをすると、頭がクラッとくる。
過労だろうか。
しかし軽い風邪なんかで仕事を欠勤するのは自分のプライドが許さなかった。
朝食を食べ終わって立ち上がると、またも立ち眩み。
反射的にテーブルに手をついて先には、一枚のハガキがあった。
「そうか、もうちょっとで同窓会か......」
そう、高校時の同窓会のお知らせである。
「...多めに休みを取って、その間に病院にでもかかるか......」
この時、自分の体にナニが起きているか、私は考えが及んでいなかった......
「おーっ、刃取、久しぶりだなー、その抜身の刃物みたいな雰囲気がなまくらになったか」
「おーっ、戸塚、久しぶりだなー、その焼野原みたいな雰囲気は相変わらずだな」
「なにコイツ喧嘩売ってんの?」
「こっちのセリフだ」
目の前のこの女はカースドソードの刃取。
学生時代はよく魔剣片手に追いかけまわされたものだ。
「オイオイオイ、今にも殺されそうなやつがいるな」
「誰のことだ牛場! お前、またデカくなったな?」
「乳がか?」
「いや、身長が」
刃取と自分のテーブルに次にやってきたのは、牛場。
種族はウシオニ、高校時代は文化祭で力仕事を任されたっけ。
こいつが運搬で、自分が誘導係で。
「そんな場所に眼頭2:50分さんが座りますよッと」
「お前も相変わらず毒舌だなー」
「お前だって身内には毒舌じゃねえか」
こいつは眼頭、ゲイザーである。
なかなかの皮肉屋で、口が悪く、おまけに天邪鬼ときた。
よく教室でディスり合いしてたな、懐かしい。
「おひさーです...みんな...」
「ハロちゃんおひさー」
「ハジです...」
「イジられキャラも変わってないようで何より」
最後の席に座ったのは、波路。 バジリスクである。
こいつが文学で賞をもらったとき、ジュースを奢ってやったっけ。
「みんな変わんねぇなー、変わらないのが魔物娘ってか」
「そういうお前はすっかり変わったなー、なんていうか...」
牛場の言葉を、後の三人が引き継いだ。
「「「 血の気が無い 」」」
そんなに体悪そうに見えるのかな。
「......あー、実はここ最近体調が悪くてさ」
「おい、ちょっとくらいなら相談に乗れるぞ、アタシ医者だからな」
「眼頭、お前が?」
こいつの現在を聞いて唖然とする。
「こういうルックスだから、医者にでもならないと、男が捕まんないのよ」
「...で、男は捕まったんですか?」小声
「ぶっ殺されたいか。 ちなみに麻酔科医だよ」
まだらしい。
「ほかは?」
「.........」 睨
全員独り身のようだった、自分も人の事言えないけどさ...?
「そろそろお時間になりましたので第192期生3年E組、同窓会を始めたいと思います...」
助かったー!
なんとか剣呑な雰囲気から逃れられる! と思っていたけど、4人はまだ自分を睨んでいた。
「えー、お次は...戸塚 泰一さん!」
「えっ、俺か」
一人一人回ってくるスピーチの出番。
やっと自分の番が回ってきた。
「えー、出席番号13番、戸塚泰一です。 現在は独身で...」
独身だと言ったとき、ヒューッっと飛んでくる独身魔物娘勢からラブコール。
お約束かッ!!
この時異変が起きた。
「現在は......事務業......で...」
おかしい...いつものクラクラが...
『いつものクラクラが起きた』といい終わる前に、バターンッ!! と倒れてしまった...
――――――――――――――――――――――――――――――
「おいしっかりしろ!!」
真っ先に駆け寄ってきたのは眼頭。
「今は2:50じゃねえぞ、寝るには早えよ!」
医者らしく脈を取ったりと診察を開始する、しかし彼女は麻酔科医。
この場で出来ることといえばたかが知れていた。
「こうなったら......おい!! 刃取、波路、牛場は来い! 白澤先生は救急車呼んでくれ!!」
「おいどうする気だ」
慌てて駆け寄ってくる三人を待たせて、眼頭は戸塚の眼を瞳を開いて、ゲイザーの魔眼で干渉し始めた。
「<痛くなーい、苦しくなーい、お前は痛みを感じたり、苦しみを感じたりしなーい>......よし、麻酔は掛けた! 次、波路!」
「次ってわたし医者じゃないです!!」
手をわたわたさせる波路。
「今すぐ執刀しろなんざ誰も言わねえよ、その眼帯外してコイツの眼を見ろって言ってんだ!」
「...はっ?」
「早くしろコイツの命が惜しくないのか!!」
ケツをひっぱたかれて大慌てで眼帯を外して、眼頭が開いたままの戸塚の瞳を覗き込む。
すると戸塚の体はその魔眼の力で体に例の反応が起きる。
「お次は刃取! 右手の魔剣でぶっ刺せ! ありったけの魔力を注入しろ! 延命処置だ!」
「そっ、それが延命処置になんの...?」
「魔物の魔力は人体を保護する性質があるんだ、うちの病院はそういうのに詳しいんだよ、バジリスクの魔眼の力で今、コイツの体は魔物の魔力が浸透しやすくなってる! 今お前が力を注入すれば、あとあとコイツが助かる確率は跳ね上がるんだよ!」
「わっ、わかった...」
刃取も尻に火がつけられた。
その右手に出現した魔剣を床に、倒れている戸塚に狙いを定め、その腹に一気に魔剣を突き立てた!
「おっ、俺は? 俺はどうすればいい?」
おろおろしている牛場に、眼頭が怒鳴る。
「お前は、まずテキトーな刃物を持ってこい!」
「...持ってきた!」
牛場が持ってきたのは、ビュッフェのローストビーフを切り分けるための包丁。
「それで切って、お前さんの血を戸塚にぶっかけろ!」
「うぇぇ!?」
唖然とする牛場。
「今ゲイザーの魔眼で麻酔をかけて、バジリスクの魔眼で魔力が浸透しやすくなってるコイツに体に、ウシオニの魔力とカースドソードの魔力を注いだらどうなると思う!?」
「......インキュバス化が起きて、コイツの体は全快する......そうか!!」
それが分かった牛場に迷いなどなかった。
躊躇なく手首を着る、あふれ出した血液を戸塚に振りかけた。
ドクン
戸塚の弱っていた鼓動が息を吹き返し始めた!
同時に、本来の効力により、射精された戸塚の精液の臭いが、辺りを満たした。
外野で救急現場の周囲で声が漏れる。
「あぁ、精子が...もったいない...」
「バカヤロウ!! いつでも飲める精子と今しか助けられないコイツの命どっちが大事だ!!」
ブチ切れる眼頭。
「刃取は力を注ぐのを止めるなよー! 波路も目を見るのをやめるなよー! 定期的に麻酔をかけなおすときだけだ休んでいいのはー!」
その時、ピーポーピーポーと響くサイレン。
「救急車が来ました!」
ダークプリーストとキキーモラの救急隊員の駆るストレッチャーに乗せられ(魔剣は刺す箇所を変えた)、救急車へと運ばれていく戸塚。
――――――――――――――――――――――――――――――
説明しよう、多種多様な魔物娘と共存するようになった社会では、救急車もその姿を変えているのだ!
大まかなシルエットはそのままに、観光バスのように巨大な車種へと変えているのだ!
でないと、体の大きな種族を運べないからだ、是非もないネ!!
どんな場所でも走れるよう、ハリポタのアズカバンのバスのように、中の空間はそのままに外装は変幻自在に変形するのだ!
狭いところでは薄く小さく、柔軟に形状を変えることで、一刻も早く患者を病院まで届けることができるのだ!
――――――――――――――――――――――――――――――
「アタシと、このバジリスクとカースドソードが付き添いだ」
「俺は!?」
眼頭の言葉に、自分はどうなるのだと主張する牛場。
「お前は......走ってついてこい」
「そんな、俺だって乗れるだろ...!」
「今のところ波路とアタシは魔眼要因、刃取は魔力を注がないといかんのよ、お前は血液を掛けたところで役目を終えてるからだ! それに下半身蜘蛛と蛇が同時に乗ったら、救急隊員は動けなくなるし、車だって遅くなっちまうわ!」
「クソが!!」
閉まったドア。
動き出す救急車。
同級生が最後に見たのは、救急車を追って走り出した牛場の背中だった。
「ここは...」
「あぁ、戸塚さん、目を醒ましましたか!」
目を醒まして真っ先に視界に入ってきたのはヴァンパイアの看護師(夜勤専門)。
「お連れさんがかなり頑張っていたみたいですよー? お医者さんによると峠は越えたようです」
自分の体はそんなに悪い状態だったのか...。
病室の隅になんかあるなと思ったら、それは病室の床で雑魚寝している眼頭、牛場、刃取、波路だった。
牛場に抱き枕にされて首がホールドされているようで、刃取がうめき声をあげていた。
「んっ、おおっ、起きたか!」
気配を感じて真っ先に目を醒ましたのは眼頭。
「おい起きろボケナスども! 戸塚が目を醒ましたぞ!」
「うーん、あと五分...ハッ!? 助かったのか!!」ゴッ
「頭が痛い...あっ、大丈夫だったか!」
「眼がシパシパする...あぁっ、意識が戻ってる!!
刃取を放り投げて飛び起きる牛場。
放り投げられて壁に頭をぶつけて呻きながら目覚める刃取。
ドライアイになりかけているのか目を抑えながら起きる波路。
そこに看護師に呼ばれた医者のリッチがやってきた。
「戸塚さん、あなた実は肺・前立腺・心臓と脳に末期ガンがありましたよ」
なんということでしょう。
「......じゃあ私、死んじゃうんですか」
「とんでもない! 彼女たちがあなたに魔力を注ぎ続けたことで、あなたはインキュバスになって、末期がんから復活しました! しばらく...そうですね、半年ほどは常にセックスし続ければ、今後再発することはないでしょう」
魔物娘すげえな。
「半年ほど常にセックスって、セックスするアテがいないんですけど?」
「何言ってんだ、目の前に4人もいるだろ」
眼頭の声の方を向くと、いたく不満そうな4人がおりました。
「まぁ、セックス自体はしてないけどさー、せっかく私たちの魔力でインキュバスになったんだから、責任は取ってもらうよ!」
「治療費だと思って今後は俺たちに奉仕でもしてくれや!」
「まずは...戸塚がお仕事やめることから、だね...」
「そういうわけだ、今後末永くよろしくな!」
...自分は不摂生の代償に、とんでもないことになりました。
お父さんお母さん、次に帰った時の土産は、土産話と嫁4人になりそうです......。
「あと買うものなんだっけ?」ヌッチュヌッチュ
「あとは食卓じゃないですか、5人で座れるやつ」
本日は5人での同居に向けて家具を選びに来ていた。
同居するにあたって、一番広い邸宅を持ち、空き部屋もそれなりに多かった小説家の波路の自宅を改装してから、全員が集まることになった。
波路の自宅のテーブルなどは少人数用だったため、大人数でも使える家具を新調しようという方向になり、家具屋に来ていた。
「だからってこんな...」
医者に半年は常にセックスと言われたため、自分はいつも『頭が沸騰する』スタイルで出かけないといけなかった。
一番多いのは、小柄な自分よりはるかに巨体を誇るウシオニの牛場にくっついて出かけることだった。
まず牛場の体に全面から抱き着いて、男女が逆の駅弁のスタイルを取る。
そして、そこに医療セックス用コルセットと下着(アラクネ属ようのパンツと、ブラジャー)で、どれだけ動いても外れないように完全に固定。
さらに牛場は蜘蛛の鋏角で重ねてホールドしては、その上からさらに服を着るため、私はチョウチンアンコウの雄のごとく、牛場の服の中にすっぽりと納まっていた。
「オウ、どれだけ金があったって、命だけは買えねぇだろ」
「それをセックスしてるだけで...健康になれるんですから、安いものだと思いますが」
牛場と波路のセリフに、
「......違いない」
全面的に同意するしかなかった。
『生』というものは身近にありすぎて、普段は特別『生きている』ことなんで実感しない。
しかしである、人間というものは、『死』を身近に感じたときこそ『生』を強く意識する生き物である。
日常では少しの苦難にぶつかっては『死にたい』などと漏らす癖に、いざ命の危機に直面すると『死にたくない』と思ってしまう因果な生き物なのだ。
そんな目に遭ったからこそ、今の状況を許容できるのかもしれない。
同窓会は、自分の中で『生きる』ことについて、パラダイムシフトが起きた大事件なのでした。
おわり
最近妙に体がだるい、何をやっても疲労感が抜けない。
少し激しい動きをすると、頭がクラッとくる。
過労だろうか。
しかし軽い風邪なんかで仕事を欠勤するのは自分のプライドが許さなかった。
朝食を食べ終わって立ち上がると、またも立ち眩み。
反射的にテーブルに手をついて先には、一枚のハガキがあった。
「そうか、もうちょっとで同窓会か......」
そう、高校時の同窓会のお知らせである。
「...多めに休みを取って、その間に病院にでもかかるか......」
この時、自分の体にナニが起きているか、私は考えが及んでいなかった......
「おーっ、刃取、久しぶりだなー、その抜身の刃物みたいな雰囲気がなまくらになったか」
「おーっ、戸塚、久しぶりだなー、その焼野原みたいな雰囲気は相変わらずだな」
「なにコイツ喧嘩売ってんの?」
「こっちのセリフだ」
目の前のこの女はカースドソードの刃取。
学生時代はよく魔剣片手に追いかけまわされたものだ。
「オイオイオイ、今にも殺されそうなやつがいるな」
「誰のことだ牛場! お前、またデカくなったな?」
「乳がか?」
「いや、身長が」
刃取と自分のテーブルに次にやってきたのは、牛場。
種族はウシオニ、高校時代は文化祭で力仕事を任されたっけ。
こいつが運搬で、自分が誘導係で。
「そんな場所に眼頭2:50分さんが座りますよッと」
「お前も相変わらず毒舌だなー」
「お前だって身内には毒舌じゃねえか」
こいつは眼頭、ゲイザーである。
なかなかの皮肉屋で、口が悪く、おまけに天邪鬼ときた。
よく教室でディスり合いしてたな、懐かしい。
「おひさーです...みんな...」
「ハロちゃんおひさー」
「ハジです...」
「イジられキャラも変わってないようで何より」
最後の席に座ったのは、波路。 バジリスクである。
こいつが文学で賞をもらったとき、ジュースを奢ってやったっけ。
「みんな変わんねぇなー、変わらないのが魔物娘ってか」
「そういうお前はすっかり変わったなー、なんていうか...」
牛場の言葉を、後の三人が引き継いだ。
「「「 血の気が無い 」」」
そんなに体悪そうに見えるのかな。
「......あー、実はここ最近体調が悪くてさ」
「おい、ちょっとくらいなら相談に乗れるぞ、アタシ医者だからな」
「眼頭、お前が?」
こいつの現在を聞いて唖然とする。
「こういうルックスだから、医者にでもならないと、男が捕まんないのよ」
「...で、男は捕まったんですか?」小声
「ぶっ殺されたいか。 ちなみに麻酔科医だよ」
まだらしい。
「ほかは?」
「.........」 睨
全員独り身のようだった、自分も人の事言えないけどさ...?
「そろそろお時間になりましたので第192期生3年E組、同窓会を始めたいと思います...」
助かったー!
なんとか剣呑な雰囲気から逃れられる! と思っていたけど、4人はまだ自分を睨んでいた。
「えー、お次は...戸塚 泰一さん!」
「えっ、俺か」
一人一人回ってくるスピーチの出番。
やっと自分の番が回ってきた。
「えー、出席番号13番、戸塚泰一です。 現在は独身で...」
独身だと言ったとき、ヒューッっと飛んでくる独身魔物娘勢からラブコール。
お約束かッ!!
この時異変が起きた。
「現在は......事務業......で...」
おかしい...いつものクラクラが...
『いつものクラクラが起きた』といい終わる前に、バターンッ!! と倒れてしまった...
――――――――――――――――――――――――――――――
「おいしっかりしろ!!」
真っ先に駆け寄ってきたのは眼頭。
「今は2:50じゃねえぞ、寝るには早えよ!」
医者らしく脈を取ったりと診察を開始する、しかし彼女は麻酔科医。
この場で出来ることといえばたかが知れていた。
「こうなったら......おい!! 刃取、波路、牛場は来い! 白澤先生は救急車呼んでくれ!!」
「おいどうする気だ」
慌てて駆け寄ってくる三人を待たせて、眼頭は戸塚の眼を瞳を開いて、ゲイザーの魔眼で干渉し始めた。
「<痛くなーい、苦しくなーい、お前は痛みを感じたり、苦しみを感じたりしなーい>......よし、麻酔は掛けた! 次、波路!」
「次ってわたし医者じゃないです!!」
手をわたわたさせる波路。
「今すぐ執刀しろなんざ誰も言わねえよ、その眼帯外してコイツの眼を見ろって言ってんだ!」
「...はっ?」
「早くしろコイツの命が惜しくないのか!!」
ケツをひっぱたかれて大慌てで眼帯を外して、眼頭が開いたままの戸塚の瞳を覗き込む。
すると戸塚の体はその魔眼の力で体に例の反応が起きる。
「お次は刃取! 右手の魔剣でぶっ刺せ! ありったけの魔力を注入しろ! 延命処置だ!」
「そっ、それが延命処置になんの...?」
「魔物の魔力は人体を保護する性質があるんだ、うちの病院はそういうのに詳しいんだよ、バジリスクの魔眼の力で今、コイツの体は魔物の魔力が浸透しやすくなってる! 今お前が力を注入すれば、あとあとコイツが助かる確率は跳ね上がるんだよ!」
「わっ、わかった...」
刃取も尻に火がつけられた。
その右手に出現した魔剣を床に、倒れている戸塚に狙いを定め、その腹に一気に魔剣を突き立てた!
「おっ、俺は? 俺はどうすればいい?」
おろおろしている牛場に、眼頭が怒鳴る。
「お前は、まずテキトーな刃物を持ってこい!」
「...持ってきた!」
牛場が持ってきたのは、ビュッフェのローストビーフを切り分けるための包丁。
「それで切って、お前さんの血を戸塚にぶっかけろ!」
「うぇぇ!?」
唖然とする牛場。
「今ゲイザーの魔眼で麻酔をかけて、バジリスクの魔眼で魔力が浸透しやすくなってるコイツに体に、ウシオニの魔力とカースドソードの魔力を注いだらどうなると思う!?」
「......インキュバス化が起きて、コイツの体は全快する......そうか!!」
それが分かった牛場に迷いなどなかった。
躊躇なく手首を着る、あふれ出した血液を戸塚に振りかけた。
ドクン
戸塚の弱っていた鼓動が息を吹き返し始めた!
同時に、本来の効力により、射精された戸塚の精液の臭いが、辺りを満たした。
外野で救急現場の周囲で声が漏れる。
「あぁ、精子が...もったいない...」
「バカヤロウ!! いつでも飲める精子と今しか助けられないコイツの命どっちが大事だ!!」
ブチ切れる眼頭。
「刃取は力を注ぐのを止めるなよー! 波路も目を見るのをやめるなよー! 定期的に麻酔をかけなおすときだけだ休んでいいのはー!」
その時、ピーポーピーポーと響くサイレン。
「救急車が来ました!」
ダークプリーストとキキーモラの救急隊員の駆るストレッチャーに乗せられ(魔剣は刺す箇所を変えた)、救急車へと運ばれていく戸塚。
――――――――――――――――――――――――――――――
説明しよう、多種多様な魔物娘と共存するようになった社会では、救急車もその姿を変えているのだ!
大まかなシルエットはそのままに、観光バスのように巨大な車種へと変えているのだ!
でないと、体の大きな種族を運べないからだ、是非もないネ!!
どんな場所でも走れるよう、ハリポタのアズカバンのバスのように、中の空間はそのままに外装は変幻自在に変形するのだ!
狭いところでは薄く小さく、柔軟に形状を変えることで、一刻も早く患者を病院まで届けることができるのだ!
――――――――――――――――――――――――――――――
「アタシと、このバジリスクとカースドソードが付き添いだ」
「俺は!?」
眼頭の言葉に、自分はどうなるのだと主張する牛場。
「お前は......走ってついてこい」
「そんな、俺だって乗れるだろ...!」
「今のところ波路とアタシは魔眼要因、刃取は魔力を注がないといかんのよ、お前は血液を掛けたところで役目を終えてるからだ! それに下半身蜘蛛と蛇が同時に乗ったら、救急隊員は動けなくなるし、車だって遅くなっちまうわ!」
「クソが!!」
閉まったドア。
動き出す救急車。
同級生が最後に見たのは、救急車を追って走り出した牛場の背中だった。
「ここは...」
「あぁ、戸塚さん、目を醒ましましたか!」
目を醒まして真っ先に視界に入ってきたのはヴァンパイアの看護師(夜勤専門)。
「お連れさんがかなり頑張っていたみたいですよー? お医者さんによると峠は越えたようです」
自分の体はそんなに悪い状態だったのか...。
病室の隅になんかあるなと思ったら、それは病室の床で雑魚寝している眼頭、牛場、刃取、波路だった。
牛場に抱き枕にされて首がホールドされているようで、刃取がうめき声をあげていた。
「んっ、おおっ、起きたか!」
気配を感じて真っ先に目を醒ましたのは眼頭。
「おい起きろボケナスども! 戸塚が目を醒ましたぞ!」
「うーん、あと五分...ハッ!? 助かったのか!!」ゴッ
「頭が痛い...あっ、大丈夫だったか!」
「眼がシパシパする...あぁっ、意識が戻ってる!!
刃取を放り投げて飛び起きる牛場。
放り投げられて壁に頭をぶつけて呻きながら目覚める刃取。
ドライアイになりかけているのか目を抑えながら起きる波路。
そこに看護師に呼ばれた医者のリッチがやってきた。
「戸塚さん、あなた実は肺・前立腺・心臓と脳に末期ガンがありましたよ」
なんということでしょう。
「......じゃあ私、死んじゃうんですか」
「とんでもない! 彼女たちがあなたに魔力を注ぎ続けたことで、あなたはインキュバスになって、末期がんから復活しました! しばらく...そうですね、半年ほどは常にセックスし続ければ、今後再発することはないでしょう」
魔物娘すげえな。
「半年ほど常にセックスって、セックスするアテがいないんですけど?」
「何言ってんだ、目の前に4人もいるだろ」
眼頭の声の方を向くと、いたく不満そうな4人がおりました。
「まぁ、セックス自体はしてないけどさー、せっかく私たちの魔力でインキュバスになったんだから、責任は取ってもらうよ!」
「治療費だと思って今後は俺たちに奉仕でもしてくれや!」
「まずは...戸塚がお仕事やめることから、だね...」
「そういうわけだ、今後末永くよろしくな!」
...自分は不摂生の代償に、とんでもないことになりました。
お父さんお母さん、次に帰った時の土産は、土産話と嫁4人になりそうです......。
「あと買うものなんだっけ?」ヌッチュヌッチュ
「あとは食卓じゃないですか、5人で座れるやつ」
本日は5人での同居に向けて家具を選びに来ていた。
同居するにあたって、一番広い邸宅を持ち、空き部屋もそれなりに多かった小説家の波路の自宅を改装してから、全員が集まることになった。
波路の自宅のテーブルなどは少人数用だったため、大人数でも使える家具を新調しようという方向になり、家具屋に来ていた。
「だからってこんな...」
医者に半年は常にセックスと言われたため、自分はいつも『頭が沸騰する』スタイルで出かけないといけなかった。
一番多いのは、小柄な自分よりはるかに巨体を誇るウシオニの牛場にくっついて出かけることだった。
まず牛場の体に全面から抱き着いて、男女が逆の駅弁のスタイルを取る。
そして、そこに医療セックス用コルセットと下着(アラクネ属ようのパンツと、ブラジャー)で、どれだけ動いても外れないように完全に固定。
さらに牛場は蜘蛛の鋏角で重ねてホールドしては、その上からさらに服を着るため、私はチョウチンアンコウの雄のごとく、牛場の服の中にすっぽりと納まっていた。
「オウ、どれだけ金があったって、命だけは買えねぇだろ」
「それをセックスしてるだけで...健康になれるんですから、安いものだと思いますが」
牛場と波路のセリフに、
「......違いない」
全面的に同意するしかなかった。
『生』というものは身近にありすぎて、普段は特別『生きている』ことなんで実感しない。
しかしである、人間というものは、『死』を身近に感じたときこそ『生』を強く意識する生き物である。
日常では少しの苦難にぶつかっては『死にたい』などと漏らす癖に、いざ命の危機に直面すると『死にたくない』と思ってしまう因果な生き物なのだ。
そんな目に遭ったからこそ、今の状況を許容できるのかもしれない。
同窓会は、自分の中で『生きる』ことについて、パラダイムシフトが起きた大事件なのでした。
おわり
19/09/09 10:10更新 / 妖怪人間ボム