フィロソフィー・ビフォー・アウェイクン 〜幸太とレミィの話
眠るという行為は合理的に見れば非常に効率が悪いものだ。何故我々は一日の3分の1を犠牲にしこんなことをするのだろうか?
答えは簡単だ。疲弊した体を癒し、心身の健康を保つためである。
そのために夜は暗い。何も見ることの出来ない暗闇ではありとあらゆる行為が無為となる。
故に次の光が差すまで眠るのである。
朝という新しい世界を待ち、意識を闇に預けるのだ。
白み行く空、最も身近な始まり。
目覚めとはすなわち、希望である。
―――
部屋に差し込む柔らかな光で目を覚ます。なにやら大切なことを理解したような気がするが、まあ気のせいだろう。
寝ぼけた頭で夢と現実をごっちゃにすることはよくあることだ。
まだ少しだるい体を持ち上げて立ち上がり伸びをする。固まった筋肉がほぐれ、体に軽さが戻ってくる。そのまま洗面所で顔を洗えば眠気が完全に消えて、新しい一日への準備が整った。
「うみゅう……」
洗面所から戻ってくると布団から漏れる声が聴こえた。つられて目を落とせば、布団はもそもそと緩慢にうごめいて、端の方が捲り上がった。
そこから寝起きのぼやけた表情をした女性が顔を出す。
「……おはよう、こーた」
「ああ、おはようレミィ」
彼女はレミィ。同棲して二年になる僕の恋人だ。
「これから朝ごはんにしようと思うんだけど」
「……んー、じゃあ作るねー」
「了解。じゃあ、支度して待ってるよ」
「はぁい」
レミィがゆるゆると身体を起こすと、ふわふわとした体毛に包まれた体が布団から出てきた。
ワーシープと呼ばれる魔物である彼女は、その柔らかそうな見た目通り穏やかでのんびり屋だ。
仕事の準備をしながらキッチンから聞こえる音に耳を傾ける。僕はこの時間が何よりも好きだ。水道の水の音、食器の擦れる音、フライパンが立てる調理の音、一つ一つに一日が始まる音が凝縮されている。
それを聞きながら仕事のことを考えていると、新しい一日を強く実感できるのだ。
「できたよー、こーたー?」
そして何よりレミィの朝ごはんを食べることが出来る。
今日のメニューはこんがり焼いたトーストにふわふわのオムレツ、彼女お手製のドレッシングがかかったサラダにコンソメスープ。
恋人の、それも美味しい料理をご馳走になれるなら、何を差し置いても楽しみになるというものだろう。
「「いただきます」」
向かい合って食卓に座り、朝ごはんを味わう。
時々レミィに目を向けると満面の笑みで応えてくれる。それに釣られて笑いかけると、今度ははっとして視線を落としてもじもじと頬を染める。
同棲して二年。その可愛らしさは褪せることなく、むしろ付き合い始めた頃よりも増している気さえする。
やはり朝はいい。この身に溢れんばかりの幸せを改めて実感させてくれる。
「こーた、今日は早く帰ってこれる?」
「うん?いつも通りかな。どうしたの?」
「そろそろ伸びてきたし、毛を刈りたいんだけど……」
……口角が一瞬引き吊るのが自分でも分かる。別に毛を刈るのは問題じゃない。そろそろ暑くなってきたし、レミィにとってみれば自然なことだろう。……とはいえ。
「ええと、出来れば週末にして欲しいんだけど……」
「……ダメ?」
ねだるような上目遣い。僕は彼女のこの顔に逆らえない。
分かってやってるわけではないにせよ、いやむしろ分かってないからこそ、甘えてくるレミィに逆らうことが出来ない。
「やった〜」
こうやって嬉しそうな彼女を見ることが出来るのも、逆らえない理由の一つだったりする。レミィが喜んでくれるなら言うことはないんだけど……
「うふふ〜」
……週末まで体力持つのかな。それだけが不安だ。
―――
昼は淑女、夜は娼婦。多くの男たちの願望だ。
ただ一人、自分だけを求める、そんな女性を男は望むのである。それは何故か?
自らの血を残すためである。自らの子との血の繋がりを確かめたいからである。
自分とその愛する人の面影を持つ子を為せれば、男としてこれに勝る幸福はないのだ。
自己保存の欲求、伴侶への情愛。
情欲とはすなわち、本能である。
―――
ぼんやりとした意識のなか瞳にはレミィだけが写る。
ふわふわと夢をみているような感覚に混じって、腰回りから快楽の波が寄せては返してを繰り返す。
数日前に毛を刈り取られたレミィの身体を覆い隠すものは何も無く、白い肌が惜しげもなく晒されていた。
不意にレミィが僕の顔に手を伸ばすと次第に意識がはっきりしてくる。
「くうっ!?」
同時に腰からもたらされる快楽が膨れ上がり体が跳ねた。
「あんっ」
それに反応するようにレミィが身体を震わせる。
「おはよう、幸太」
唇を吊り上げて笑うレミィの表情は、いつもの穏やかなそれと違う乱暴なものだ。
「どっちの方が気持ちいい? わたし、それともこっちの『レミィ』?」
さっきまで僕の口元に当てられていた彼女の体毛を手に尋ねるレミィ。
ワーシープの体毛を使っての昏睡プレイ。毛を刈り取ったレミィが好むそのスタイルで、僕は弄ばれている。
「自分に嫉妬なんて変な話だけど、ちょっと悔しいな。こんなに私が腰を振ってるのに、こんな毛玉の方が気持ちよさそうなんだもん」
レミィが腰を上下に動かすと、蜜壷がまるで肉棒を咀嚼するみたいに締め付けを繰り返す。
「そうやってわたしで感じてくれてる幸太が好きなのに、これを使うと……」
口元に再び体毛を当てるレミィ。甘い香りと柔らかい肌触りで頭に靄がかかり、快楽も緩やかなものへと変化する。
瞼が重くなり、レミィの姿がぼやけた。
「これだけで『レミィ』に負けちゃうんだもんな〜。」
軽いため息をついて無造作に毛玉を投げ捨てるレミィ。再び意識が戻って来る。
「ねえ、幸太」
僕を組み敷いたままレミィは顔を近づける。ふわりと立ち昇るレミィの甘い香りは、毛を刈り取ったところで消える物ではない。
そして、本質である甘えたがりなところも、今のレミィに色濃く残っている。
……ああ、なんて愛しいんだろう。もし運命というものがあるのだとしたら、レミィに出会えたのは間違いなく運命なんだと思う。
うっとりと目を細めて彼女の頭を抱き止める。
「どっちの君も、僕の可愛いレミィだよ。僕は君を愛している。どんな風な君でもね」
幸せな気持ちに包まれながら、レミィの耳元で正直な自分の気持ちを伝える。……さすがにクサいかなと内心赤面していると、レミィの身体がぐんと仰け反り、蜜壺が肉棒を深く吸い込む。
「……っ!!」
「うわっ!?」
上体を起こして顎を突き出して体を震わすレミィ。しばらく痙攣を繰り返した後に僕の腕を押さえ付ける。
「……が」
向けられた目は愛欲に染められて、妖しく輝いていた。
「……幸太が、悪いんだからね……」
僕を見詰めたまま腰だけを器用に上下させて快楽をむさぼるレミィ。豊満な胸がぶるんぶるん激しく揺れている。
「あんなこと、言われたら、もう我慢なんて、くうっ……! 私だって、幸太のことぉっ、あんっ、好き、好きぃぃっ! 大好きなのぉっ!」
「ちょっ、レミィ、落ち着いて」
「無理っ! 私が、満足するまで、……あはぁ、つき合って、もらうんだからぁっ!」
膣肉が僕から精を搾り取る為に動きを特化させて、強烈な快楽を送り込んでくる。
「くぅっ!」
ぐねぐねと肉棒をねぶりまわすようなその動きに、たまらず精液を吐き出した。
けれどレミィは止まらない。萎えそうになる肉棒を膣の動きで刺激しながら、大きさを維持させる。
「ちょっと、レミィ、本当に」
「えいっ」
いつの間に手にしていたのか、放り投げたはずの毛玉が僕の口元に再び被せられた。
ぼやけていく意識にもはっきりと快楽は送られて来る。
「やっぱりもう一人の『レミィ』にも手伝ってもらうわね。……んっ、この形が、一番すてきぃっ!」
手足の力が抜けきり、抵抗する気がおこらない。身体と心の両方を犯す二人分のワーシープの魔力の前には、僕はとても無力だ。
だけど、そんな情けない状況が堪らなく心地好い。
「はあっ! ……こうたの、その顔、いいわぁっ! もっと、もっと、気持ち良くして、あげるんだからぁっ!」
ぽんぽんと弾むように動くレミィの腰にあっと言う間に肉棒は力を取り戻し、射精へと向かう。
瞼が落ちきり、夢見心地のまま腰からの快楽に身を委ね……
「ダメよ幸太」
「っ?!」
不意に引き戻された意識に驚き顔を上げる。レミィが僕の口元から体毛を離し、いやらしく笑っていた。
「まだまだ私に犯されてもらうわ。精が出なくなるまで絞り出してあげる。……いつまで持つかしらねぇ」
「レミィ、……もうやめ……むぐっ!?」
「はい、静かにしてね」
体毛を口にねじ込まれる。睡魔の詰まったその毛にろ過された呼気に再度意思を奪われた。
「おっと」
「ぷはっ!?」
「寝ちゃダメよ。夢うつつの中でで私に狂ってもらうんだから」
「……ううん」
体毛を口に押し込まれるのと同時に腰が離れて。
「くはっ!」
膣肉が肉棒を呑み込むのと同時に口から体毛が離れて。
「あははっ、幸太おもしろーい」
交互に送られて来る快楽と眠気のシグナルに頭の芯が痺れ、思考が消え去っていく。
今の僕はレミィに弄ばれる玩具だ。まどろみの中で絶頂に昇りつめて体を仰け反らすレミィを見つめながら、僕の意識は眠りへと落ちていった。
―――
何故人は恋をするのか。これに対する明確な答えを出すことは難しい。
ただ恋と言うものは往々にして人を変えるだけの不思議な何かを持っている。
古来より多くの人が恋の歌を、詩を、物語を、喜びを、悲しみを形にしている。
それは心を持つ我々にとって、決して切り離すことの出来ない物なのかもしれない。
惹かれ合う事象、心動かす慕情。
恋とはすなわち、力である。
―――
眠い。ひたすらに眠い……
レミィの毛を刈って二日。予想通りというか、こってりと搾り取られた。性的な意味で。
ワーシープがおっとりとした性格なのは、自身の体毛のせいなのだそうだ。
体毛にこもった魔力が眠けを誘い、その魔力に本人がもっとも強くあてられているため、常時のんびり屋となってしまっているらしい。
しかし、その体毛が取り払われた本質は、他の魔物娘と同じくらいに好色で、しかも攻撃的だ。
結果として僕は、レミィの体毛を刈り落として数日の間、激しく一方的に搾取されるような性行為を強要されてしまう。
「先生ってば!」
その煽りを受けた寝不足で、うつらうつらとしていた僕を誰かが揺り起こす。
目を開けて隣を見ればワーラビットの少女がこちらを見ていた。
「日誌持ってきましたよ先生。……お疲れみたいですね」
からかうように言いながら学級日誌を机に置く彼女、橘 香織さんは僕が受け持つクラスの生徒だ。
教師になって初めてクラス担当になった僕にとって、こうして積極的に話し掛けてくれる生徒はありがたい。
……たとえその内容が恋人のことで僕をからかうものだとしてもだ。
「いいないいな〜。わたしもお兄さんとラブラブでちゅっちゅっな生活したいな〜」
彼女は随分と僕とレミィのことに興味津々で、暇があればこうして僕たちの話を聞き出すためにやって来る。
ご近所の『お兄さん』にご執心だそうで、「恋人さんから、お兄さんゲットのヒントをもらえるかもしれないじゃないですか」と言うのが彼女の弁。
「あんまり『お兄さん』を困らせないようにね。遊んでばかりで成績下げたら、一緒にお出掛けしてもらえなくなるよ」
「分かってます〜。お兄さんに恥ずかしくないくらいにはお勉強してますよ〜だ」
べっと舌を出す彼女の仕草は実際の年齢よりもさらに幼く見える。
悪戯好きな妹のようなそれは、『お兄さん』と並んだらさぞ仲のよい兄弟に見えるだろう。
「……先生今失礼なこと考えた」
おっと、彼女に『幼い』は禁句だった。こういうことには勘が働くから侮れない。『お兄さん』も苦労してるんだろうな。
「……ねえ先生」
僕の『失礼』な思考に顔をうつ向ける橘さん。頬を冷や汗が伝うが後悔しても遅い。
「やっぱり男の人っておっぱいが大きい方が好きなんですか?」
「……悪かったから僕にそういう話を振らないでよ」
「だって、お兄さんと行く喫茶店のお姉さんもおっぱい大きいし」
「……あのねえ、橘さん」
確かにレミィの胸は大きい。体型もいわゆるグラマーと言うやつだ。
ふわふわの体毛に包まれたその肢体は、僕意外の男にとっても魅力的に映るに違いない。
……だけど
「僕は別に胸が大きいからレミィと恋人になったわけじゃないよ」
もちろんそれが彼女に惹きつけられる要因だったかもしれない。けれどそれだけの理由でレミィと一緒に暮らしているわけでは決してない。
例えばそれは心を和ませる笑顔だったり、疲れを癒してくれる柔らかく澄んだ声だったり、いつも穏やかで優しい彼女の性格だったり、それから毛を刈り取った彼女が見せる嗜虐性だったり、そういったレミィの全部をひっくるめて、僕はレミィを愛している。
「本当ですか?」
「もちろん。そうじゃなきゃ学生時代からずっと付き合うなんて出来ないさ」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ」
腕組みをして考え込む橘さん。
「少なくとも顔や胸だけで恋人を選ぶわけじゃないさ」
「……説得力ないです」
「あ、やっぱり? まあ、レミィは可愛いからね」
「はいはい。先生に聞いたわたしがバカでしたよ〜だ」
拗ねたようにぷいと顔をそむける橘さん。そのまま踵を返して職員室から出ようとする後ろ姿に声をかける。
「どちらにしても僕はレミィがいるから、辛いことがあっても頑張れる。橘さんもそんな風になれればきっと『お兄さん』も君を見てくれるよ」
橘さんは扉の前で立ち止まるとくるりと振り替えって満面の笑みを浮かべる。
「は〜い。頑張ります!」
『お兄さん』に恋している彼女の笑顔はとても眩しかった。
―――
天国は死の向こう側にあるものではない。
……いや、ある意味では死の向こう側にあるのかもしれない。
朝の目覚めとともに、生が始まるのだとしたら、眠りという名の死の向こう側に、僕の幸せがあるのだから。
愛する人との生活、愛する人の温もり。
天国とはすなわち、ここである。
「……ちょっと格好つけすぎ、かな?」
綺麗に包装された包みを見ながらひとりごちる。中身は給料3ヶ月、一般に婚約指輪と呼ばれるそれだ。
少しずつお金を貯めてようやく手にすることが出来たそれは、僕とレミィが一つになるための約束の証。
レミィとずっと、生きていく。それは以前から決めていたし、もうすでに夫婦のようなものではあるが、その辺はきちんと決めておきたい。そんな決心が芽生えたのは、生徒たちの両親を見てからだ。
いずれは僕もレミィとの子を育てることになる。そんな未来が彼らを見るうちに思い起こされた。
それならきちんとプロポーズはしないといけないと、婚約指輪の購入を決意したのが今から半年前。
正直なところ宝石の値段を軽く見てた。見栄を張った結果、こんなに時間がかかってしまうとは。
とはいえ後悔はしていない。高価であることが全てではないけど、誓いの証なら自分がどれだけ本気なのかを見せるべきだろう。
レミィはどんな顔をするだろう。応えてくれるだろうか。断られやしないだろうか。今までこうして暮らしてきたし、今のままで充分と言われるかもしれない。
……今さらながら不安になってきた。もしレミィがそんなことを望んでないとしたら。
でも、それでも僕はレミィと結婚したいと思う。だからこの指輪を買ったんだ。きちんとレミィに伝えよう。
「……緊張するな」
アパートの玄関の前で深呼吸を一つ。おそるおそるドアノブに手をかけてドアを開く。
「ただいま……?」
部屋に電気は付いていなかった。留守かと思ったが、レミィの靴は玄関に置かれている。
「レミィ?」
部屋に向かって声をかけるが、反応がない。不思議に思いながら部屋に入り電気を付けるが、部屋にはやはり誰もいなかった。
首を傾げながら周りを見渡せば、たたみかけの洗濯物が目に入る。
……仕事をやり残したままなんてレミィらしくない。何か嫌な予感に胸がざわめく。
……と、ふいに呼び鈴が鳴った。
「……この部屋の住人、春告幸太の帰宅を確認」
ドアを開けると、このアパートの管理人さんがいた。
ゴーレムである彼女は、旦那さんと一緒にこのアパートを管理している、無表情で落ち着いた女性だ。
「若干の疲労状態と推測するが、貴方は速やかに病院に行くことを推奨する」
「なにかあったんですか?」
管理人さんは表情を少しだけ歪めて、親しい人なら心配していると分かる顔で口を開く。
「……貴方の恋人、レミィが病院に搬送された」
―――
管理人さんの話によると、レミィが部屋にいるにもかかわらず、暗くなっても電気が付かないのを不審に思い部屋を訪ねてみた。
インターホンを鳴らしても反応がなかったので、管理人権限で鍵を開けて中を見るとレミィが倒れていたので救急車を呼び、レミィは病院に運ばれた。ということらしい。
さすがに夜のこの時間は人は少なく、何人かの看護婦さんが歩いているくらいだ。
すれ違う看護婦さんには耳や尻尾が付いていたり、翼があったり、角が生えていたり、魔物娘がちゃくちゃくとこの町に浸透しているのが分かる。
そんな病院の中を看護婦さんに連れられてレミィの病室の前へ付いた。部屋の前には医師の方が立っている。
「レミィは、大丈夫でしょうか?」
不安にかられて、目の前の医師に尋ねる。
「……つかぬことを伺いますが、患者さんとはどのような関係でしょうか?」
「はい?」
「いえ、下世話な話で申し訳ありませんが、貴方の今後に関わるお話ですので。……その、患者さんとは夫婦ではないんですよね?」
「ええと、一応まだ恋人として……」
「……そうですか」
先生は僕を真っ直ぐ見詰めるとこう続けた。
「では、貴方は何があっても、患者さんのお世話をする覚悟はおありですか?」
「そんなに悪いんですか!?」
思わず掴みかかると、先生は慌てて答える。
「落ち着いてください! 命に関わることではありませんよ!」
言われて我に返り掴んでいた手を離すと、先生は表情を緩める。
「少々意地が悪すぎました。申し訳ありません。……ですがこれなら安心ですね」
「どういうことですか」
先生はにっこりと笑ってこう続けた。
「……3ヶ月です」
「え?」
「貴方のお子さんが、患者さんのお腹の中にいます」
お医者さんの答えに少しだけ驚いて思い直す。……むしろ今まで出来なかったのが不思議なくらいなんだ。
子供が出来る。僕とレミィの子供が。改めて考えると喜びがいっぺんに押し寄せてきた。
どんな子だろう。レミィに似て可愛い子なんだろうか。名前はどうしようか。素敵な名前を考えてあげなきゃいけない。
レミィと三人で色んなところに行ったり、色んな物を見たり。それから、それから……
そうだ、まずはレミィと話をしないと。とても大事な話を。
「患者さんに声をかけてあげ……」
「レミィ!」
「……ますよね、そりゃ」
先生の言葉を待たず病室のドアを開けると、ベッドにレミィが座っていた。
「……こーた」
レミィがうっとりとした瞳でお腹を撫でる。
「赤ちゃんがね、お腹の中にいるんだって。私と、こーたの赤ちゃん」
「レミィ」
「これからはこの子も一緒に私たちと暮らすんだね」
幸せな笑みを浮かべるレミィを見ていると、本当に父親となるんだという実感が沸いてくる。
「うん。そうだねレミィ。ありがとう……かな?」
「うふふ、私の方こそ、沢山くれてありがとう。……かもね」
「……あ」
今までの営みを思い返して赤面する僕をからかうように見詰めるレミィ。……まあ、たしかに散々……その、あげたけどさ……
「ごめんごめん。でもねぇ、本当に嬉しいの。大好きなこーたとの子供だもん。どんな子かな? 可愛い子だといいな。男の子が生まれたりしないかな」
「レミィ」
懐から包みを取り出す。中味はもちろん指輪。着替えもせずにここまで来たせいで、懐に入ったままになっていた。
まさか、こんな形で渡すことになるとは、ぴったりのタイミングだ。
「なぁにそれ?」
「順序が逆になっちゃったけど……」
包みを解き箱の蓋を開けてレミィに見せる。
「レミィ、僕はこの先の人生をずっと君と歩いていきたい。ずっと僕の隣にいて欲しい。ずっと君と一緒にいたい。君のいない生活なんて考えられない。……君も、お腹の子もきっと幸せにしてみせる。だから、……だから、……僕と結婚してください」
しばらくぽかんとして指輪を見詰めていたレミィだが、意味を理解したのか、ぱっと顔を輝かせて僕を見た。
「……こーた!」
その時の顔をきっと僕は一生忘れることは出来ないと思う。喜びに満ちあふれたレミィの笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも美しかった。
「ねえ、こーたのお嫁さんの印、私に付けて」
差し出された左手の薬指に指輪を通す。指輪は光に照らされてきらきらと輝いた。しばらく嬉しそうに指輪をかざして見ていたレミィの目がふと細まる。
「……ねえ、……こーた。ちょっと隣に座って」
「いいけど……うわっ!?」
ベッドに座ると同時に僕を押し倒すレミィ。その顔は欲情していることをありありと示している。
「ちょっと、レミィ」
「……赤ちゃんがね、欲しいって言うの。こーたの……パパのせいえきほしいって言うの」
「だめだよレミィ、赤ちゃんがいるのに」
「ううん……この子、欲しがってるの……パパの精液飲みたいって。……赤ちゃんのもと、いっぱい浴びたいって」
何かに憑かれたような目で僕を組み敷くレミィ。患者用の服の紐を自ら解くと、その下には何も着けていなかった。
「んふぅっ……大丈夫よぉ。あっ……そんなに慌てなくても、いっぱいあげるから」
いとおしそうにお腹を撫でながら僕の肉棒を取りだし、一気に蜜壺へと沈める。ぬちゃりと音がするほどに中は蜜液であふれていた。
「くうっ!?」
肉棒が入った瞬間に膣壁が満遍なく吸い付き、子宮口はすぐさま降りてきて先端を甘噛みする。
今まで味わったことのない強烈な締め付けにあっと言う間に精を吸い上げられる。
「あはぁ〜……パパのミルク美味しい? もっと出してあげるから……たくさん……のんで」
どんどん蕩けていくレミィとは裏腹に、蜜壺の吸い付きは次第に強くなって、肉棒が萎えることを許さない。射精した瞬間に強制的に勃たされている。
「くふぅっ……嬉しいのぉ……赤ちゃん、せいえきよろこんでくれてる。パパのせいえき、おいしいってのんでる。……ああぁっ、……わたし、しあわせぇ!……ママになれてしあわせぇ〜」
異常なテンションで腰を上下させるレミィの動きに合わせて肉棒が胎内をかき回す。ぐしゅぐしゅと愛液がいやらしい音をたてる。
「あっ、……ああっ!いっぱいきてる。あかちゃんのへや……あかちゃんのもとで、いっぱい……ふみゅう〜」
大量の精液にレミィが満足するころには、僕は五回ほどレミィの膣中に精液を放っていた。レミィは僕と繋がったまま胸に顔を預けて眠っている。
幸い体毛の魔力に抗えるくらい顔は離れているが、油断するとそのまま意識を持っていかれそうだ。
だけど、この状況は何とかしないとまずい。妊娠した女性の胎内に異物が入ってしまっているんだ。よくわからないけど下手をしたら流産してしまうんじゃないだろうか……
「大丈夫ですよ」
と、先ほどのお医者さんが病室に入って来た。隣には車イスに乗ったアルラウネ。
「魔物の方たちはことセックスに関しては丈夫ですからね。流産の心配はありません」
言いながら蔦を使って器用にレミィの体を撫で回す。白衣に看護帽という格好を見るに看護婦さんらしい。
「ちょっと失礼します」
レミィに蔦を絡ませてゆっくりと持ち上げるとグポォと音を立てながらレミィと僕の体が離れていく。
「うん。大丈夫そうですね。むしろさっきよりもいきいきとしてますよ」
離れた下腹部を優しく押しながらアルラウネの看護婦さんは続けた。
「精は魔物の食事ですから胎児ももらえると喜ぶんです」
「私としては病院であまりそういうことをして欲しくはないんですけどね。……個室にしてよかった」
お医者さんの方は頭を抱えている。確かに病院でこんなことをするのはよくないか。
「すいません」
「……いえ、いいんですよもう。大体そんなことする患者さんは予想つきますし、このくらいは大したことありませんよ。フリーダムなのには慣れました。盲腸で入院した恋人さんといたしたあげく、破瓜の血で興奮して患者さんの入院を延ばしたミノタウロスさんとか、一家総出で見舞いにきたあげく、患者さんをお持ち帰りしようとするブラックハーピーさんなんかに比べればこの程度、ええ、この程度……」
「……あの」
「おかげさまでこちらは胃に関しては医者の不摂生なんてありがたくない評価を頂きましたよ、ええ。笑ってますけど一体誰のせいだとおもってるんですか? ここは病気を治すところであって恋人の無事を祝って体を重ねるところではないんですよ。というかそんなこともあろうかと造った専用室があるんですからせめてそこ使って下さいよ。なんですかおまんこからおちんちん抜けなくなりましたテヘペロって。なんなんですかダークエンジェルさん?」
「はい先生、お薬の時間ですよ〜」
「んむっ?」
アルラウネの蜜を飲まされてようやく大人しくなった先生。……なんというか苦労してるんだなぁ。
「お騒がせ致しました。そんなわけで先生の胃その他諸々のお世話をさせていただいている看護婦です。何かありましたらそちらのナースコールをお願いします。それでは」
虚ろな目をした先生を蔦で絡め取ったまま器用に車イスをあやつり部屋を出ていく看護婦さん。……深く突っ込んだら駄目なんだろう。
ともかく明日も仕事はあるし、一度帰って……って、あれ? なんでレミィの中に入ったままなの? さっきの看護婦さん最後まで抜かずに出てっちゃった……って抜けない!?
あっ!? ちょっ、締め付けて来て、待ってレミィ、起きてよ、ねえ。
「だめぇ、抜いちゃやだぁ」
んむっ? あっ、やめ、今抱きつかれたら、……眠くな……レミ……やわ……
結局次の日、僕は仕事に行くことはできなかった。
―――
太陽とともに眠り、太陽とともに起きる。眠りは死、目覚めは生。
我々は一日ごとに生まれ変わる。新しい生を日々生きている。
心と体を新しい希望へと向けて眠りにつく。
故に眠るという行為は尊く、欠かすことのできないものなのである。
いつか目を覚ますことが出来なくなるまで、朝という希望は続いていくのだ。
希望への活路、新しい旅路。
眠りとはすなわち始まりである。
―――
柔らかいものが頬に当たるような感覚で目が覚めた。
「おはよう、こーた」
上からかけられた声に顔を上げるとレミィの笑顔と目が合う。
レミィはお腹に近づけるように僕の頭を抱えている。お腹の赤ちゃんはすっかり大きくなって、時折その存在を主張するようになった。
「パパの近くにいたいんだって。撫でてあげて」
ぽっこりと膨らんだレミィのお腹を撫でると弾むようにお腹が揺れる。
「うふふ、とても嬉しそう」
幸せそうに微笑むレミィから、ふわりと乳の匂いがする。たっぷりと乳を蓄えているのかレミィの胸は一回り大きくなっていた。もう母親になる準備を終えているみたいだ。
「早く出ておいで。三人でお散歩に行ったり、お昼寝したり、幸せなことたくさんあるから」
レミィと一緒にお腹を撫でる。返ってくる反応に幸福感が溢れた。
「こーた、ずっと一緒だよ」
レミィの言葉に頷くと、レミィの手が頬に触れた。ふわりとした甘い香りに眠たくなる。
「レミィ、愛してるよ」
そのまままどろみに身を任せる。暖かさが身体と心を満たした。
言葉は必要ない。理屈は必要ない
ただ一つになる。それだけで満たされる。
愛とはすなわち幸福である。
答えは簡単だ。疲弊した体を癒し、心身の健康を保つためである。
そのために夜は暗い。何も見ることの出来ない暗闇ではありとあらゆる行為が無為となる。
故に次の光が差すまで眠るのである。
朝という新しい世界を待ち、意識を闇に預けるのだ。
白み行く空、最も身近な始まり。
目覚めとはすなわち、希望である。
―――
部屋に差し込む柔らかな光で目を覚ます。なにやら大切なことを理解したような気がするが、まあ気のせいだろう。
寝ぼけた頭で夢と現実をごっちゃにすることはよくあることだ。
まだ少しだるい体を持ち上げて立ち上がり伸びをする。固まった筋肉がほぐれ、体に軽さが戻ってくる。そのまま洗面所で顔を洗えば眠気が完全に消えて、新しい一日への準備が整った。
「うみゅう……」
洗面所から戻ってくると布団から漏れる声が聴こえた。つられて目を落とせば、布団はもそもそと緩慢にうごめいて、端の方が捲り上がった。
そこから寝起きのぼやけた表情をした女性が顔を出す。
「……おはよう、こーた」
「ああ、おはようレミィ」
彼女はレミィ。同棲して二年になる僕の恋人だ。
「これから朝ごはんにしようと思うんだけど」
「……んー、じゃあ作るねー」
「了解。じゃあ、支度して待ってるよ」
「はぁい」
レミィがゆるゆると身体を起こすと、ふわふわとした体毛に包まれた体が布団から出てきた。
ワーシープと呼ばれる魔物である彼女は、その柔らかそうな見た目通り穏やかでのんびり屋だ。
仕事の準備をしながらキッチンから聞こえる音に耳を傾ける。僕はこの時間が何よりも好きだ。水道の水の音、食器の擦れる音、フライパンが立てる調理の音、一つ一つに一日が始まる音が凝縮されている。
それを聞きながら仕事のことを考えていると、新しい一日を強く実感できるのだ。
「できたよー、こーたー?」
そして何よりレミィの朝ごはんを食べることが出来る。
今日のメニューはこんがり焼いたトーストにふわふわのオムレツ、彼女お手製のドレッシングがかかったサラダにコンソメスープ。
恋人の、それも美味しい料理をご馳走になれるなら、何を差し置いても楽しみになるというものだろう。
「「いただきます」」
向かい合って食卓に座り、朝ごはんを味わう。
時々レミィに目を向けると満面の笑みで応えてくれる。それに釣られて笑いかけると、今度ははっとして視線を落としてもじもじと頬を染める。
同棲して二年。その可愛らしさは褪せることなく、むしろ付き合い始めた頃よりも増している気さえする。
やはり朝はいい。この身に溢れんばかりの幸せを改めて実感させてくれる。
「こーた、今日は早く帰ってこれる?」
「うん?いつも通りかな。どうしたの?」
「そろそろ伸びてきたし、毛を刈りたいんだけど……」
……口角が一瞬引き吊るのが自分でも分かる。別に毛を刈るのは問題じゃない。そろそろ暑くなってきたし、レミィにとってみれば自然なことだろう。……とはいえ。
「ええと、出来れば週末にして欲しいんだけど……」
「……ダメ?」
ねだるような上目遣い。僕は彼女のこの顔に逆らえない。
分かってやってるわけではないにせよ、いやむしろ分かってないからこそ、甘えてくるレミィに逆らうことが出来ない。
「やった〜」
こうやって嬉しそうな彼女を見ることが出来るのも、逆らえない理由の一つだったりする。レミィが喜んでくれるなら言うことはないんだけど……
「うふふ〜」
……週末まで体力持つのかな。それだけが不安だ。
―――
昼は淑女、夜は娼婦。多くの男たちの願望だ。
ただ一人、自分だけを求める、そんな女性を男は望むのである。それは何故か?
自らの血を残すためである。自らの子との血の繋がりを確かめたいからである。
自分とその愛する人の面影を持つ子を為せれば、男としてこれに勝る幸福はないのだ。
自己保存の欲求、伴侶への情愛。
情欲とはすなわち、本能である。
―――
ぼんやりとした意識のなか瞳にはレミィだけが写る。
ふわふわと夢をみているような感覚に混じって、腰回りから快楽の波が寄せては返してを繰り返す。
数日前に毛を刈り取られたレミィの身体を覆い隠すものは何も無く、白い肌が惜しげもなく晒されていた。
不意にレミィが僕の顔に手を伸ばすと次第に意識がはっきりしてくる。
「くうっ!?」
同時に腰からもたらされる快楽が膨れ上がり体が跳ねた。
「あんっ」
それに反応するようにレミィが身体を震わせる。
「おはよう、幸太」
唇を吊り上げて笑うレミィの表情は、いつもの穏やかなそれと違う乱暴なものだ。
「どっちの方が気持ちいい? わたし、それともこっちの『レミィ』?」
さっきまで僕の口元に当てられていた彼女の体毛を手に尋ねるレミィ。
ワーシープの体毛を使っての昏睡プレイ。毛を刈り取ったレミィが好むそのスタイルで、僕は弄ばれている。
「自分に嫉妬なんて変な話だけど、ちょっと悔しいな。こんなに私が腰を振ってるのに、こんな毛玉の方が気持ちよさそうなんだもん」
レミィが腰を上下に動かすと、蜜壷がまるで肉棒を咀嚼するみたいに締め付けを繰り返す。
「そうやってわたしで感じてくれてる幸太が好きなのに、これを使うと……」
口元に再び体毛を当てるレミィ。甘い香りと柔らかい肌触りで頭に靄がかかり、快楽も緩やかなものへと変化する。
瞼が重くなり、レミィの姿がぼやけた。
「これだけで『レミィ』に負けちゃうんだもんな〜。」
軽いため息をついて無造作に毛玉を投げ捨てるレミィ。再び意識が戻って来る。
「ねえ、幸太」
僕を組み敷いたままレミィは顔を近づける。ふわりと立ち昇るレミィの甘い香りは、毛を刈り取ったところで消える物ではない。
そして、本質である甘えたがりなところも、今のレミィに色濃く残っている。
……ああ、なんて愛しいんだろう。もし運命というものがあるのだとしたら、レミィに出会えたのは間違いなく運命なんだと思う。
うっとりと目を細めて彼女の頭を抱き止める。
「どっちの君も、僕の可愛いレミィだよ。僕は君を愛している。どんな風な君でもね」
幸せな気持ちに包まれながら、レミィの耳元で正直な自分の気持ちを伝える。……さすがにクサいかなと内心赤面していると、レミィの身体がぐんと仰け反り、蜜壺が肉棒を深く吸い込む。
「……っ!!」
「うわっ!?」
上体を起こして顎を突き出して体を震わすレミィ。しばらく痙攣を繰り返した後に僕の腕を押さえ付ける。
「……が」
向けられた目は愛欲に染められて、妖しく輝いていた。
「……幸太が、悪いんだからね……」
僕を見詰めたまま腰だけを器用に上下させて快楽をむさぼるレミィ。豊満な胸がぶるんぶるん激しく揺れている。
「あんなこと、言われたら、もう我慢なんて、くうっ……! 私だって、幸太のことぉっ、あんっ、好き、好きぃぃっ! 大好きなのぉっ!」
「ちょっ、レミィ、落ち着いて」
「無理っ! 私が、満足するまで、……あはぁ、つき合って、もらうんだからぁっ!」
膣肉が僕から精を搾り取る為に動きを特化させて、強烈な快楽を送り込んでくる。
「くぅっ!」
ぐねぐねと肉棒をねぶりまわすようなその動きに、たまらず精液を吐き出した。
けれどレミィは止まらない。萎えそうになる肉棒を膣の動きで刺激しながら、大きさを維持させる。
「ちょっと、レミィ、本当に」
「えいっ」
いつの間に手にしていたのか、放り投げたはずの毛玉が僕の口元に再び被せられた。
ぼやけていく意識にもはっきりと快楽は送られて来る。
「やっぱりもう一人の『レミィ』にも手伝ってもらうわね。……んっ、この形が、一番すてきぃっ!」
手足の力が抜けきり、抵抗する気がおこらない。身体と心の両方を犯す二人分のワーシープの魔力の前には、僕はとても無力だ。
だけど、そんな情けない状況が堪らなく心地好い。
「はあっ! ……こうたの、その顔、いいわぁっ! もっと、もっと、気持ち良くして、あげるんだからぁっ!」
ぽんぽんと弾むように動くレミィの腰にあっと言う間に肉棒は力を取り戻し、射精へと向かう。
瞼が落ちきり、夢見心地のまま腰からの快楽に身を委ね……
「ダメよ幸太」
「っ?!」
不意に引き戻された意識に驚き顔を上げる。レミィが僕の口元から体毛を離し、いやらしく笑っていた。
「まだまだ私に犯されてもらうわ。精が出なくなるまで絞り出してあげる。……いつまで持つかしらねぇ」
「レミィ、……もうやめ……むぐっ!?」
「はい、静かにしてね」
体毛を口にねじ込まれる。睡魔の詰まったその毛にろ過された呼気に再度意思を奪われた。
「おっと」
「ぷはっ!?」
「寝ちゃダメよ。夢うつつの中でで私に狂ってもらうんだから」
「……ううん」
体毛を口に押し込まれるのと同時に腰が離れて。
「くはっ!」
膣肉が肉棒を呑み込むのと同時に口から体毛が離れて。
「あははっ、幸太おもしろーい」
交互に送られて来る快楽と眠気のシグナルに頭の芯が痺れ、思考が消え去っていく。
今の僕はレミィに弄ばれる玩具だ。まどろみの中で絶頂に昇りつめて体を仰け反らすレミィを見つめながら、僕の意識は眠りへと落ちていった。
―――
何故人は恋をするのか。これに対する明確な答えを出すことは難しい。
ただ恋と言うものは往々にして人を変えるだけの不思議な何かを持っている。
古来より多くの人が恋の歌を、詩を、物語を、喜びを、悲しみを形にしている。
それは心を持つ我々にとって、決して切り離すことの出来ない物なのかもしれない。
惹かれ合う事象、心動かす慕情。
恋とはすなわち、力である。
―――
眠い。ひたすらに眠い……
レミィの毛を刈って二日。予想通りというか、こってりと搾り取られた。性的な意味で。
ワーシープがおっとりとした性格なのは、自身の体毛のせいなのだそうだ。
体毛にこもった魔力が眠けを誘い、その魔力に本人がもっとも強くあてられているため、常時のんびり屋となってしまっているらしい。
しかし、その体毛が取り払われた本質は、他の魔物娘と同じくらいに好色で、しかも攻撃的だ。
結果として僕は、レミィの体毛を刈り落として数日の間、激しく一方的に搾取されるような性行為を強要されてしまう。
「先生ってば!」
その煽りを受けた寝不足で、うつらうつらとしていた僕を誰かが揺り起こす。
目を開けて隣を見ればワーラビットの少女がこちらを見ていた。
「日誌持ってきましたよ先生。……お疲れみたいですね」
からかうように言いながら学級日誌を机に置く彼女、橘 香織さんは僕が受け持つクラスの生徒だ。
教師になって初めてクラス担当になった僕にとって、こうして積極的に話し掛けてくれる生徒はありがたい。
……たとえその内容が恋人のことで僕をからかうものだとしてもだ。
「いいないいな〜。わたしもお兄さんとラブラブでちゅっちゅっな生活したいな〜」
彼女は随分と僕とレミィのことに興味津々で、暇があればこうして僕たちの話を聞き出すためにやって来る。
ご近所の『お兄さん』にご執心だそうで、「恋人さんから、お兄さんゲットのヒントをもらえるかもしれないじゃないですか」と言うのが彼女の弁。
「あんまり『お兄さん』を困らせないようにね。遊んでばかりで成績下げたら、一緒にお出掛けしてもらえなくなるよ」
「分かってます〜。お兄さんに恥ずかしくないくらいにはお勉強してますよ〜だ」
べっと舌を出す彼女の仕草は実際の年齢よりもさらに幼く見える。
悪戯好きな妹のようなそれは、『お兄さん』と並んだらさぞ仲のよい兄弟に見えるだろう。
「……先生今失礼なこと考えた」
おっと、彼女に『幼い』は禁句だった。こういうことには勘が働くから侮れない。『お兄さん』も苦労してるんだろうな。
「……ねえ先生」
僕の『失礼』な思考に顔をうつ向ける橘さん。頬を冷や汗が伝うが後悔しても遅い。
「やっぱり男の人っておっぱいが大きい方が好きなんですか?」
「……悪かったから僕にそういう話を振らないでよ」
「だって、お兄さんと行く喫茶店のお姉さんもおっぱい大きいし」
「……あのねえ、橘さん」
確かにレミィの胸は大きい。体型もいわゆるグラマーと言うやつだ。
ふわふわの体毛に包まれたその肢体は、僕意外の男にとっても魅力的に映るに違いない。
……だけど
「僕は別に胸が大きいからレミィと恋人になったわけじゃないよ」
もちろんそれが彼女に惹きつけられる要因だったかもしれない。けれどそれだけの理由でレミィと一緒に暮らしているわけでは決してない。
例えばそれは心を和ませる笑顔だったり、疲れを癒してくれる柔らかく澄んだ声だったり、いつも穏やかで優しい彼女の性格だったり、それから毛を刈り取った彼女が見せる嗜虐性だったり、そういったレミィの全部をひっくるめて、僕はレミィを愛している。
「本当ですか?」
「もちろん。そうじゃなきゃ学生時代からずっと付き合うなんて出来ないさ」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ」
腕組みをして考え込む橘さん。
「少なくとも顔や胸だけで恋人を選ぶわけじゃないさ」
「……説得力ないです」
「あ、やっぱり? まあ、レミィは可愛いからね」
「はいはい。先生に聞いたわたしがバカでしたよ〜だ」
拗ねたようにぷいと顔をそむける橘さん。そのまま踵を返して職員室から出ようとする後ろ姿に声をかける。
「どちらにしても僕はレミィがいるから、辛いことがあっても頑張れる。橘さんもそんな風になれればきっと『お兄さん』も君を見てくれるよ」
橘さんは扉の前で立ち止まるとくるりと振り替えって満面の笑みを浮かべる。
「は〜い。頑張ります!」
『お兄さん』に恋している彼女の笑顔はとても眩しかった。
―――
天国は死の向こう側にあるものではない。
……いや、ある意味では死の向こう側にあるのかもしれない。
朝の目覚めとともに、生が始まるのだとしたら、眠りという名の死の向こう側に、僕の幸せがあるのだから。
愛する人との生活、愛する人の温もり。
天国とはすなわち、ここである。
「……ちょっと格好つけすぎ、かな?」
綺麗に包装された包みを見ながらひとりごちる。中身は給料3ヶ月、一般に婚約指輪と呼ばれるそれだ。
少しずつお金を貯めてようやく手にすることが出来たそれは、僕とレミィが一つになるための約束の証。
レミィとずっと、生きていく。それは以前から決めていたし、もうすでに夫婦のようなものではあるが、その辺はきちんと決めておきたい。そんな決心が芽生えたのは、生徒たちの両親を見てからだ。
いずれは僕もレミィとの子を育てることになる。そんな未来が彼らを見るうちに思い起こされた。
それならきちんとプロポーズはしないといけないと、婚約指輪の購入を決意したのが今から半年前。
正直なところ宝石の値段を軽く見てた。見栄を張った結果、こんなに時間がかかってしまうとは。
とはいえ後悔はしていない。高価であることが全てではないけど、誓いの証なら自分がどれだけ本気なのかを見せるべきだろう。
レミィはどんな顔をするだろう。応えてくれるだろうか。断られやしないだろうか。今までこうして暮らしてきたし、今のままで充分と言われるかもしれない。
……今さらながら不安になってきた。もしレミィがそんなことを望んでないとしたら。
でも、それでも僕はレミィと結婚したいと思う。だからこの指輪を買ったんだ。きちんとレミィに伝えよう。
「……緊張するな」
アパートの玄関の前で深呼吸を一つ。おそるおそるドアノブに手をかけてドアを開く。
「ただいま……?」
部屋に電気は付いていなかった。留守かと思ったが、レミィの靴は玄関に置かれている。
「レミィ?」
部屋に向かって声をかけるが、反応がない。不思議に思いながら部屋に入り電気を付けるが、部屋にはやはり誰もいなかった。
首を傾げながら周りを見渡せば、たたみかけの洗濯物が目に入る。
……仕事をやり残したままなんてレミィらしくない。何か嫌な予感に胸がざわめく。
……と、ふいに呼び鈴が鳴った。
「……この部屋の住人、春告幸太の帰宅を確認」
ドアを開けると、このアパートの管理人さんがいた。
ゴーレムである彼女は、旦那さんと一緒にこのアパートを管理している、無表情で落ち着いた女性だ。
「若干の疲労状態と推測するが、貴方は速やかに病院に行くことを推奨する」
「なにかあったんですか?」
管理人さんは表情を少しだけ歪めて、親しい人なら心配していると分かる顔で口を開く。
「……貴方の恋人、レミィが病院に搬送された」
―――
管理人さんの話によると、レミィが部屋にいるにもかかわらず、暗くなっても電気が付かないのを不審に思い部屋を訪ねてみた。
インターホンを鳴らしても反応がなかったので、管理人権限で鍵を開けて中を見るとレミィが倒れていたので救急車を呼び、レミィは病院に運ばれた。ということらしい。
さすがに夜のこの時間は人は少なく、何人かの看護婦さんが歩いているくらいだ。
すれ違う看護婦さんには耳や尻尾が付いていたり、翼があったり、角が生えていたり、魔物娘がちゃくちゃくとこの町に浸透しているのが分かる。
そんな病院の中を看護婦さんに連れられてレミィの病室の前へ付いた。部屋の前には医師の方が立っている。
「レミィは、大丈夫でしょうか?」
不安にかられて、目の前の医師に尋ねる。
「……つかぬことを伺いますが、患者さんとはどのような関係でしょうか?」
「はい?」
「いえ、下世話な話で申し訳ありませんが、貴方の今後に関わるお話ですので。……その、患者さんとは夫婦ではないんですよね?」
「ええと、一応まだ恋人として……」
「……そうですか」
先生は僕を真っ直ぐ見詰めるとこう続けた。
「では、貴方は何があっても、患者さんのお世話をする覚悟はおありですか?」
「そんなに悪いんですか!?」
思わず掴みかかると、先生は慌てて答える。
「落ち着いてください! 命に関わることではありませんよ!」
言われて我に返り掴んでいた手を離すと、先生は表情を緩める。
「少々意地が悪すぎました。申し訳ありません。……ですがこれなら安心ですね」
「どういうことですか」
先生はにっこりと笑ってこう続けた。
「……3ヶ月です」
「え?」
「貴方のお子さんが、患者さんのお腹の中にいます」
お医者さんの答えに少しだけ驚いて思い直す。……むしろ今まで出来なかったのが不思議なくらいなんだ。
子供が出来る。僕とレミィの子供が。改めて考えると喜びがいっぺんに押し寄せてきた。
どんな子だろう。レミィに似て可愛い子なんだろうか。名前はどうしようか。素敵な名前を考えてあげなきゃいけない。
レミィと三人で色んなところに行ったり、色んな物を見たり。それから、それから……
そうだ、まずはレミィと話をしないと。とても大事な話を。
「患者さんに声をかけてあげ……」
「レミィ!」
「……ますよね、そりゃ」
先生の言葉を待たず病室のドアを開けると、ベッドにレミィが座っていた。
「……こーた」
レミィがうっとりとした瞳でお腹を撫でる。
「赤ちゃんがね、お腹の中にいるんだって。私と、こーたの赤ちゃん」
「レミィ」
「これからはこの子も一緒に私たちと暮らすんだね」
幸せな笑みを浮かべるレミィを見ていると、本当に父親となるんだという実感が沸いてくる。
「うん。そうだねレミィ。ありがとう……かな?」
「うふふ、私の方こそ、沢山くれてありがとう。……かもね」
「……あ」
今までの営みを思い返して赤面する僕をからかうように見詰めるレミィ。……まあ、たしかに散々……その、あげたけどさ……
「ごめんごめん。でもねぇ、本当に嬉しいの。大好きなこーたとの子供だもん。どんな子かな? 可愛い子だといいな。男の子が生まれたりしないかな」
「レミィ」
懐から包みを取り出す。中味はもちろん指輪。着替えもせずにここまで来たせいで、懐に入ったままになっていた。
まさか、こんな形で渡すことになるとは、ぴったりのタイミングだ。
「なぁにそれ?」
「順序が逆になっちゃったけど……」
包みを解き箱の蓋を開けてレミィに見せる。
「レミィ、僕はこの先の人生をずっと君と歩いていきたい。ずっと僕の隣にいて欲しい。ずっと君と一緒にいたい。君のいない生活なんて考えられない。……君も、お腹の子もきっと幸せにしてみせる。だから、……だから、……僕と結婚してください」
しばらくぽかんとして指輪を見詰めていたレミィだが、意味を理解したのか、ぱっと顔を輝かせて僕を見た。
「……こーた!」
その時の顔をきっと僕は一生忘れることは出来ないと思う。喜びに満ちあふれたレミィの笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも美しかった。
「ねえ、こーたのお嫁さんの印、私に付けて」
差し出された左手の薬指に指輪を通す。指輪は光に照らされてきらきらと輝いた。しばらく嬉しそうに指輪をかざして見ていたレミィの目がふと細まる。
「……ねえ、……こーた。ちょっと隣に座って」
「いいけど……うわっ!?」
ベッドに座ると同時に僕を押し倒すレミィ。その顔は欲情していることをありありと示している。
「ちょっと、レミィ」
「……赤ちゃんがね、欲しいって言うの。こーたの……パパのせいえきほしいって言うの」
「だめだよレミィ、赤ちゃんがいるのに」
「ううん……この子、欲しがってるの……パパの精液飲みたいって。……赤ちゃんのもと、いっぱい浴びたいって」
何かに憑かれたような目で僕を組み敷くレミィ。患者用の服の紐を自ら解くと、その下には何も着けていなかった。
「んふぅっ……大丈夫よぉ。あっ……そんなに慌てなくても、いっぱいあげるから」
いとおしそうにお腹を撫でながら僕の肉棒を取りだし、一気に蜜壺へと沈める。ぬちゃりと音がするほどに中は蜜液であふれていた。
「くうっ!?」
肉棒が入った瞬間に膣壁が満遍なく吸い付き、子宮口はすぐさま降りてきて先端を甘噛みする。
今まで味わったことのない強烈な締め付けにあっと言う間に精を吸い上げられる。
「あはぁ〜……パパのミルク美味しい? もっと出してあげるから……たくさん……のんで」
どんどん蕩けていくレミィとは裏腹に、蜜壺の吸い付きは次第に強くなって、肉棒が萎えることを許さない。射精した瞬間に強制的に勃たされている。
「くふぅっ……嬉しいのぉ……赤ちゃん、せいえきよろこんでくれてる。パパのせいえき、おいしいってのんでる。……ああぁっ、……わたし、しあわせぇ!……ママになれてしあわせぇ〜」
異常なテンションで腰を上下させるレミィの動きに合わせて肉棒が胎内をかき回す。ぐしゅぐしゅと愛液がいやらしい音をたてる。
「あっ、……ああっ!いっぱいきてる。あかちゃんのへや……あかちゃんのもとで、いっぱい……ふみゅう〜」
大量の精液にレミィが満足するころには、僕は五回ほどレミィの膣中に精液を放っていた。レミィは僕と繋がったまま胸に顔を預けて眠っている。
幸い体毛の魔力に抗えるくらい顔は離れているが、油断するとそのまま意識を持っていかれそうだ。
だけど、この状況は何とかしないとまずい。妊娠した女性の胎内に異物が入ってしまっているんだ。よくわからないけど下手をしたら流産してしまうんじゃないだろうか……
「大丈夫ですよ」
と、先ほどのお医者さんが病室に入って来た。隣には車イスに乗ったアルラウネ。
「魔物の方たちはことセックスに関しては丈夫ですからね。流産の心配はありません」
言いながら蔦を使って器用にレミィの体を撫で回す。白衣に看護帽という格好を見るに看護婦さんらしい。
「ちょっと失礼します」
レミィに蔦を絡ませてゆっくりと持ち上げるとグポォと音を立てながらレミィと僕の体が離れていく。
「うん。大丈夫そうですね。むしろさっきよりもいきいきとしてますよ」
離れた下腹部を優しく押しながらアルラウネの看護婦さんは続けた。
「精は魔物の食事ですから胎児ももらえると喜ぶんです」
「私としては病院であまりそういうことをして欲しくはないんですけどね。……個室にしてよかった」
お医者さんの方は頭を抱えている。確かに病院でこんなことをするのはよくないか。
「すいません」
「……いえ、いいんですよもう。大体そんなことする患者さんは予想つきますし、このくらいは大したことありませんよ。フリーダムなのには慣れました。盲腸で入院した恋人さんといたしたあげく、破瓜の血で興奮して患者さんの入院を延ばしたミノタウロスさんとか、一家総出で見舞いにきたあげく、患者さんをお持ち帰りしようとするブラックハーピーさんなんかに比べればこの程度、ええ、この程度……」
「……あの」
「おかげさまでこちらは胃に関しては医者の不摂生なんてありがたくない評価を頂きましたよ、ええ。笑ってますけど一体誰のせいだとおもってるんですか? ここは病気を治すところであって恋人の無事を祝って体を重ねるところではないんですよ。というかそんなこともあろうかと造った専用室があるんですからせめてそこ使って下さいよ。なんですかおまんこからおちんちん抜けなくなりましたテヘペロって。なんなんですかダークエンジェルさん?」
「はい先生、お薬の時間ですよ〜」
「んむっ?」
アルラウネの蜜を飲まされてようやく大人しくなった先生。……なんというか苦労してるんだなぁ。
「お騒がせ致しました。そんなわけで先生の胃その他諸々のお世話をさせていただいている看護婦です。何かありましたらそちらのナースコールをお願いします。それでは」
虚ろな目をした先生を蔦で絡め取ったまま器用に車イスをあやつり部屋を出ていく看護婦さん。……深く突っ込んだら駄目なんだろう。
ともかく明日も仕事はあるし、一度帰って……って、あれ? なんでレミィの中に入ったままなの? さっきの看護婦さん最後まで抜かずに出てっちゃった……って抜けない!?
あっ!? ちょっ、締め付けて来て、待ってレミィ、起きてよ、ねえ。
「だめぇ、抜いちゃやだぁ」
んむっ? あっ、やめ、今抱きつかれたら、……眠くな……レミ……やわ……
結局次の日、僕は仕事に行くことはできなかった。
―――
太陽とともに眠り、太陽とともに起きる。眠りは死、目覚めは生。
我々は一日ごとに生まれ変わる。新しい生を日々生きている。
心と体を新しい希望へと向けて眠りにつく。
故に眠るという行為は尊く、欠かすことのできないものなのである。
いつか目を覚ますことが出来なくなるまで、朝という希望は続いていくのだ。
希望への活路、新しい旅路。
眠りとはすなわち始まりである。
―――
柔らかいものが頬に当たるような感覚で目が覚めた。
「おはよう、こーた」
上からかけられた声に顔を上げるとレミィの笑顔と目が合う。
レミィはお腹に近づけるように僕の頭を抱えている。お腹の赤ちゃんはすっかり大きくなって、時折その存在を主張するようになった。
「パパの近くにいたいんだって。撫でてあげて」
ぽっこりと膨らんだレミィのお腹を撫でると弾むようにお腹が揺れる。
「うふふ、とても嬉しそう」
幸せそうに微笑むレミィから、ふわりと乳の匂いがする。たっぷりと乳を蓄えているのかレミィの胸は一回り大きくなっていた。もう母親になる準備を終えているみたいだ。
「早く出ておいで。三人でお散歩に行ったり、お昼寝したり、幸せなことたくさんあるから」
レミィと一緒にお腹を撫でる。返ってくる反応に幸福感が溢れた。
「こーた、ずっと一緒だよ」
レミィの言葉に頷くと、レミィの手が頬に触れた。ふわりとした甘い香りに眠たくなる。
「レミィ、愛してるよ」
そのまままどろみに身を任せる。暖かさが身体と心を満たした。
言葉は必要ない。理屈は必要ない
ただ一つになる。それだけで満たされる。
愛とはすなわち幸福である。
11/10/01 19:14更新 / タッチストーン
戻る
次へ