連載小説
[TOP][目次]
パニック・ゴー・ハッピー 〜アキラとミコトの話
 『エル・カミーノ』、通称『エルカミ』。葉桜の学生御用達のピザ屋である。
 平日の昼下がりは学生で賑わうこの店は、学生証を提示すれば割引をするサービス、世に言う学割を実施しており、学生達の人気店となっている。
 成長期の学生にとって、分け合えば丁度いいおやつになるサイズの美味しいピザを、一人辺り百円玉二、三枚で楽しめるというのが学生達を魅了してやまない理由だ。
 そんな放課後の一コマに混じり、私達は店の一角に座っていた。
「……で、どうだった?」
 分かりきった質問を作業的にぶつける。結果は聞くまでもないだろう。アキラは次に「上手く行った」と返す。想像してちくりと胸が痛んだ。
 ……とっくに分かっていた。アキラには好きな人がいることに。私は所詮幼馴染みにすぎないことに。
 そう、私ミコトは幼馴染みのアキラに恋をしていた。
 きっかけは些細なこと。ただ漠然とずっと一緒にいたいという想いがいつの間にか、アキラへの恋心へと代わっていた。
 気が付くとアキラのことばかり考えていたり、アキラのことを目で追っていたり、そのせいで予定を狂わせてしまったことも一度や二度ではなかった。……皮肉なことにその恋心がアキラの恋に気付くきっかけとなってしまったのだが。
 悩んだ末にアキラの恋を応援することにしたのは未練もあったのかもしれない。
 時に励まし時に叱咤し、アキラを勇気付けて、その結果が先程実ったと言うわけだ。
後はただ一言、祝福の言葉をかければいい。もう十分泣いた。覚悟も出来た。
 この恋を諦めなくてはいけないのはこの関係が壊れることを恐れて、何もしなかった私の落ち度だ。
 さあ、彼の喜びの言葉がこの関係を終える合図だ。大丈夫、アキラが幸せなら私も笑っていられるから。
「……駄目だった」
「……そうか」
 続けておめでとうと言おうとした唇が止まる。ぽかんと開いた唇が心理状態を物語っていた。
「正直なところ、お前に言うことで自分を奮い起たせてたってのはあったからな。虚勢も多少入ってたし」
 追い討ちのアキラの言葉にますます混乱する。……何と言ったんだこいつは? こんなの予定にはないぞ!?
「でも、お前には感謝してる。お前のおかげでああして告白も出来た。あのままだったらずっと後悔しただろうし」
 ……どうすれば、どうすればいい!?
 ぐるぐると目まぐるしく思考が入り交じり、完全にパニックになる。
「そんな顔するなよ。確かにフラれたけどさ、俺はもう大丈夫だから」
 ああ、そんな寂しそうな顔を……そうだ、慰めてやらないと。私がアキラを慰めてやらないと……

―――
「どうした?」
 幼馴染みのアヌビスはふいにうつ向いたまま動きを止めた。
 やっぱりこいつは優しい。俺のために悲しんでくれているんだろう。
 思えばいつもそうだ。言い方はきつく、自分にも他人にも厳しいが、それは相手を思う故の裏返し。
 本当は誰よりも優しく真っ直ぐなアヌビスの少女、それがミコトの本質だ。お陰で胸のつかえを取り除くことが出来た。
 ……気付いてた。あの娘が俺に振り向いてくれる望みは薄いことに。
 最初から諦めて未練がましくあの娘を見ていた俺を、ミコトはたしなめてくれた。こうして想いを告白出来たのはミコトの後押しがあったからだ。
 これで新しい一歩を踏み出せる。ミコトには本当に感謝しなくちゃいけないな。
「……ミコト?」
 ふと気配を感じて隣を見ると、いつの間にかミコトが立ち上がり、目の前に立っていた。
「うわっ!?」
 次の瞬間視界が上に流れていく。ミコトに押し倒されのだと気付いたのは、うろたえた表情のミコトが見えてからだ。
「うひゃあ!?」
 犬がじゃれつくような舌使いでミコトが肩口を舐め回す。生暖かさが肩口に拡がりくすぐったさに総毛立つ。
「止めろ、舐めるな! ……くすぐったい」
 身を捩ろうにも体はがっちりと抑え込まれて動けない。ぷにぷにした肉球が妙に心地よく身体を撫でる。
「おい、ミコト!?」
 今度は肩の周りに吸い付き始めるミコト。鎖骨から肩を通って首筋まで、まんべんなくミコトの唇が這い回る。……これ絶対痕残ったな。……どうしよう。
「お客様、申し訳ありませんが当店でそのような行為は控えていただきたいのですが……」
 たまりかねたのかカラステングの店員がやって来る。
「……そんなこと言われても」
 肉球は依然がっちりと身体を押さえ付けている。見た目は華奢な女の子なのに、どこにそんな力があるんだろう。
「……仕方ないですね」
 店員はため息を一つ、羽根を振るうとミコトを引き剥がしにかかった。
「……やあぁ〜、いやぁ」
「ちょっと!?神通力使ってるのになんでそんなに抵抗できるの!?」
「やら……、いゃあぁぁ!……あきら!あきらぁぁぁ!」
 駄々を捏ねる子供のように両手をばたつかせ泣き叫ぶミコト。それは十数年間一緒にいて初めて見た姿だった。
 どうにかミコトを取り押さえた店員がこちらを見る。
「早く立って!抑えるのしんどいんだから!」
「え?」
「いいから立つ!立って両腕を出して!」
「あ、はい」
 言われるままに立ち上がり両手を前に出す。
「はい」
「ぬおっ!?」
 伸ばした両腕にミコトが載せられる。ミコトがその勢いのまま首に腕を回して抱き着いてくる。結果、いわゆる『お姫さま抱っこ』の形で俺はミコトを抱き上げていた。
「ああ……、あきらぁ。……んちゅ、……ちゅぷっ」
「ちょっ……よせって、落とす落とす落とす!」
「しっかり持ってなさいよ!男でしょ!?はい、こっち来て」
 すっかりお怒りの店員さんに店の奥へと連れていかれる。連れていかれた先は倉庫のような場所。……怒られるのかな、やっぱり。
「ヤるならここ使って。見たところアヌビスが盛っちゃっただけみたいだから今回は見逃すけど、あんまり続くようなら出禁にするからね。終わったらそこのボタン押して。それじゃ」
 それだけ言うとすたすたと部屋を出ていくカラステングの店員。ドアを閉めた後鍵まで掛ける徹底ぶり。
 ちょっと待て。なんでそんなに用意がいいんだよ!?
「……アキラ」
 混乱する俺をよそに、とろんと潤んだ目で俺を見るミコト。
「ミコト、大丈夫か!?どうしたんだよお前らしくない」
「慰めるの、私がアキラを慰めるのぉ」
「何言って……んむっ!?」
 ミコトの顔がぐっと近付いたと同時に、唇が瑞々しくて柔らかいものに包まれる。
「……ぷぁっ、……んぷっ」
 それがミコトの唇だと分かったのと同時にバランスを崩してミコトに再び押し倒される形になる。
「……れろっ、……ぴちゃっ、……くーん……あきらぁ」
 頬を舐めながら鼻を鳴らすミコトは甘えん坊の仔犬のように可愛らしい。いつも凛とした態度なだけにその破壊力はとてつもなかった。
 誘惑に負けてさらさらした髪に手を伸ばすと、ミコトはその頭を手に押し付けて擦り付けた。
 ミコトが頭を振る度に腰も一緒に揺れて、下半身を刺激する。下腹部が服越しに擦れ合い、自己主張を始めた。
「ちょっ、よせミコト、離れろ」
 悟られる前に腰を離そうとするが、相変わらず押さえ付ける力は強く身を捩ることすら出来ない。
 そうこうしているうちに、はたと動きを止めて体を起こすミコト。視線が自己主張している下半身へと向けられる。
 コクリと喉を鳴らしながら熱い目でテントの張った股間を見るミコトの顔は、ひどく淫らで色っぽくて、目を離すことが出来なかった。
 吸い寄せられるようにミコトの顔がテントに向かう。歯でズボンのファスナーを下げ、さらに口だけで器用に俺の一物を取り出す。
 ガチガチに固くなったそれを目にしたミコトは、鼻を近付けて匂いを吸い込むと熱っぽい溜め息をついた。だらしなく弛みきった顔から垂らした舌を肉棒にくっ付けて、下から上へと舐め上げる。
 想像もつかなかった幼馴染みの痴態に、もはや理性なんてものは無くなっていた。
 煩悩に導かれるままにミコトの頭を掴み、肉棒に押し付ける。
「んぐっ!」
 えずきながらも動かされるままに大きく口を開けて肉棒を呑み込むミコト。抵抗するどころか舌を絡め頭を前後に揺すり、積極的に俺の肉棒に奉仕する。
 ぐぽぐぽと空気が唾液と一緒に漏れる卑猥な音を響かせながら、ミコトの口内を出入りしている様に、肉棒はさらに猛って白いマグマを吹き出した。
「んんっ!?」
 ミコトの頬が膨らみ、目を白黒させる。が、すぐに射精に気付いて喉を鳴らしながら精液を飲み下していく。
「……んっ、……ぷはぁ」
 肉棒から離れたミコトの口からは白濁した液体がこぼれ、赤い舌が唇を染めたそれをさらうように動き回る。
 恍惚とした表情のミコトの流し目が俺を捉えた瞬間、ぷつりと俺の中の何かが切れた音がした。


―――
「きゃうんっ!?」
 アキラは乱暴に私を投げ倒すとうつ伏せにひっくり返した。ちらりと見えた目は爛々と輝いていて、ぞくりと恐怖に似た、しかし甘い戦慄が背中を走る。
 依然としてパニックは続いていたが、頭の一部が少し離れて自分を客観視していた。
「ひうっ!?」
 背中にアキラの指が這う。それだけで可笑しいくらいに身体が震える。
「……ひゃあ!……ひいん!」
 背中からわき腹を通って腰回り、そしてお尻。アキラの手によって愛撫される度に声が漏れる。
「ひっ!?……ひゃああああああ!?」
 指が秘部にたどり着き、クリトリスを転がした瞬間、脳みそに火花が走った。身体の力が抜け、あちこちが痙攣を繰り返す。
「ひゅぅ……」
 情けない声をあげて床にうつ伏せになる。どうしようもなく秘蜜が溢れているのが自分でも分かった。
「……あっ、ああああああああっ!?」
 不意に腰が浮き上がり、何かが私の膣を満たす。同時に再び脳内に弾ける火花。
「……ふあっ! くひぃっ! あはぁっ!」
 断続的に襲い来る快楽に翻弄されながら股間に目を向ければ、秘部に肉棒が出入りしているのが見えた。
「あうんっ! あおぉっ! あひぃっ!」
 喘ぎ声が止まらない。肉棒が奥にぶつかるたびに脳に電流が浴びせられ、声が勝手に喉から溢れる。
「……はっ、……はっ、……はっ」
 アキラも短い喘ぎを漏らしながら一心不乱に肉棒を突き込む。
 ……私は今アキラの慰みものとして使われている。そう考えると被虐心に背中がぞくぞくと震えた。
 にちゃにちゃと音をたて捏ね回された膣肉は、次第に柔らかくアキラの肉棒を包むようにうねる。
「ひあああぁっ! ああぁっ! くひいぃんっ!」
 膣がアキラの肉棒に馴染んでいくにつれて、流れる電流は大きく膨れ上がり、声を大きくさせていく。
「きゃあああぁぁ!?」
 千切れんばかりに振り回されていた尻尾がアキラの手に掴まれる。
 同時に脳がショートするような電撃が走った。
 口は開きっぱなしになり唾液が吹き零れ、目はこれ以上ないくらい広がって、視界は半分が目蓋の裏に隠れてしまっている。
「あおっ! あおおぉぉっ! あおおぉぉん!」
 喘ぎ声はもはや遠吠えのそれとなって、自分が浅ましい雌犬になってしまったことを自覚させられる。
「あおぉん! あおっ……?」
 不意にアキラの腰の動きが止まる。
 どうしたのかと振り向こうとしたところに、今までで一番深くに楔が打ち込まれた。
「……………っ!!!!?」
 声にならない悲鳴があがる。膣内で暴れる肉棒は、さらに大きく膨らむと、熱いたぎりを胎内へと流し込む。
「………っ!?…………っ!!?」
 ……なに、これ……あたまぜんぶ……まっしろ…………おなか…………あついのが……いっぱい……あふれて…………
 ……だめ…………もう…………………なにも…………考えられな………


―――
「……やりすぎた」
 ぐったりと身体を床に預けたミコトを見ながら呟く。
 思いの丈をぶつけた後ぴくりとも動かないミコトを見た時は相当に焦ったが、呼吸も脈も異常なく命に別状はないらしく、ただ気を失っただけのようだ
 ……まさかこんなにも自分にアブノーマルな性癖があったとは。正直なところミコトが乱れているのを見て、すごく興奮した。
 凛とした隙のない犬耳少女が、自分の手で淫らな雌犬に堕ちていく様に、えもいわれぬ快感が背中を駆け抜けた。
 ……まったくおいらってばサディストね。
 しかしこれは目を覚ましてから何を言われるやら。こいつから誘ってきたとはいえ、最後は明確にこちらが襲った形になってしまったわけで……
「責任……とらなきゃいけないよな、やっぱ」
 そもそもあんなに親身になっていた娘にこんな仕打ちはあんまりだ。まずは謝ってこいつの言うとおりにしよう。誘ってきたのはそっちだ。悪いようにはならないだろう。……たぶん。
 ……それよりも今は。
 回りを見渡せばあつらえたようにタオルケットが積んである。隣の籠を見る限り使っても大丈夫だろう。
 相変わらず腰を上げた丸出しのまま突っ伏してるミコトの姿は目に毒だ。蜘蛛の糸のように精液が床に向かって細く伸びているのが見える今の状態はなおのこと。
 ミコトの身体を出来るだけ見ないようにしながら、身体を仰向けにしてタオルケットを被せる。
 とりあえずはミコトが目を覚ますのを待とう。
 幸せそうな寝顔を見ながら、俺はミコトの枕元に座った。


―――
 ……やりすぎだ。
 桃源郷をさ迷っている意識の片隅で呟く。
 確かにあんなことをしたからには犯されても文句は言えないが、まさかあんな目に遭うとは思わなかった。
 結果、さらにパニックになって泥沼のようにめちゃくちゃにされたわけだが、困ったことに悪い気が全然していない。
 まるで性玩具のような扱いを受けたというのに、そのことを思い起こすと子宮が疼いてしまう。
 まさかわたしはマゾヒストだったのかしらん?
 ……それにしても一体どうしてくれよう。せっかくの覚悟完了を無駄にしてくれたからには、相応の罰が必要だ。
 アキラはフラれたわけだし、もう遠慮することもないだろう。手始めにしばらくわたしに服従なんてどうだろうか。
 そういえば以前から観たいと思っていた映画があったな。試しにアキラを連れ出して観に……まてよ、演劇部が近々芝居を演ると言っていたな。知り合いのよしみでそれを見に行くのもいいかもしれない。
 アキラのことは下僕として紹介してやろう。果たしてどんな顔をするのやら……
 他にも買い物やら散歩やらあちこちに連れ回してやるか。こいつはわたしが目を付けているという宣伝活動だ。
 そうだ。あれだけ子種をご馳走になったんだ、上手くいけば妊娠の可能性もある。そうなればアキラはわたしの旦那様……ああ、なんて素敵な響きだろう。
 今から妊娠した場合の計画を練っておこう。パニックにならないように、してない場合のシュミレートも必要だな。
 いや待てよ、あえてパニックになってまたアキラに犯されるのも…………
 ……いやいやいや。何を考えているんだわたしは。そんなアヌビスにあるまじき行為。
 わたしはアヌビスだ。旦那をしっかりと管理する義務がある。管理出来ない駄ヌビスは、みっともない姿をさらして雌犬に成り下がって…………
 ……やめよう。その辺りは保留だ。
 ともかく、これから先はアキラ、お前をわたしの下僕兼恋人としてやる。覚悟していろ。
 幸せな未来予想図を描きながら、わたしは目を開ける。困ったように笑うアキラの姿がそこにあった。
11/05/22 19:59更新 / タッチストーン
戻る 次へ

■作者メッセージ
こんにちは。犬は大自然が生み出した傑作。タッチストーンです。
エロは難しいし今回は軽めにしよう→アヌビスたんがぺろぺろするお話を描こう→あれ?なんか本番始めやがったんですが?←いまここ
煩悩恐るべし。そしてボキャブラリーの少なさに泣く羽目に……
はやくもエロ文章にマンネリの予感がひしひしと。
それでも構わないという方はまた見にいらしてくれると嬉しいです。
それでは

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33